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(1)

総説グラム 陽 性細菌の糖輸 送系 とカタボライト制御

阿部敬悦 ・内田金治

グ ラム 陽 性 菌 で は, カ タボ ラ イ ト抑 制 が 現 象的 に は 観 察 さ れ る もの のcAMP-CRP系

が 存 在 しな い例 も 多 く, その 機 構 は い まだ 解 明 され て いな い。 しか し, 近 年 Bacillus 属

を 中 心 に遺 伝 子 レベル で そ の研 究 が 進 行 しつ つ あ る。 一 方, 糖 の取 り込 み 制 御 (カ タボ ラ

イ ト阻害) は Phosphoenolpyruvate : sugar phosphotransferase system (PTS) が

深 く関 与 し, 菌 の 代 謝 状 態 を より 直 接 的 に 反 映 す る, グ ラ ム陽 性菌 に 特 異 な制 御機 構 に よ リ行 な わ れ て い る こ と が 明 らか と な って き た 。 ま た, このPTSは 単 に 糖 取 り込 み 時 の リ ン酸 転 移 の み な らず, 転 写 制 御 因 子 や ケ モ タ キ シス 系 へ の リ ン酸 転 移 な ど, 多 面 的 な リ ン 酸 転 移 能 を もち, 蛋 白 質間 の ク ロス トー ク に よ る シ グ ナ ル 伝 達 と制 御 と い う精緻 な ネ ッ ト ワー ク を構 成 して い る こ と も, グ ラム 陽 性 菌 の 研 究 か ら明 らか に され つ つ あ る。 は じめ に 細 菌 を は じめ微 生物 は, 利 用 可 能 な 炭 素 源 が 多 種 存 在 す る環 境 で は, そ れ らを無 秩 序 に代 謝 す る の で は な く, 最 も利 用 しや す い も のか ら順 次 利 用 す る こ と が 知 られ て い る。 大 多 数 の微 生 物 に と って, グル コー ス は最 も利 用 しや, す い炭 素 源 で あ り, グル コー ス に よる他 の炭 素源 の代 謝 抑 制 (あ る い は 阻 害) 現 象 は, 約1世 紀 以上 も前 にす で に知 られ て い た 。 今 世 紀 の 中 ごろ, Epps と Gale^<1)>, お よび Monod^<2)>に 代表 され る人 々 が, この グル コー ス の もつ 作用 を 積 極 的 に研 究 し, “グル コ ー ス効 果” と して 報 告 した 。Monod は2種 の糖 を含 む 培 地 中 で の細 菌 の 生 育 と糖 の代 謝 お よ び糖 の異 化 酵 素 の生 合 成 につ い て解 析 した 。 た とえ ば大 腸 菌 Escherichia coli は, グル コ ー ス とキ シ ロー ス を 同 時 に 含 む培 地 で は グル コー ス を優 先 的 に代 謝 し, グル コー ス が 消 費 しつ くさ れ た の ち に, は じめ て キ シ ロー ス を 代 謝 す る。 この と き グル コー ス で の 生 育 の の ち, 短 い 定 常 期 (プ ラ トー) を は さ ん で, キ シ ロ ー ス に よる増 殖 が 起 こ り, い わ ゆ る二 段 増 殖 (ジ オ ー キ シ ー, diauxie) が観 察 さ れ る 。一 方, マ ル トース とキ シ ロー ス の混 合 系 に お い て は, ジ オ ーキ シ ーが 見 られ ず, マル トー ス とキ シ ロー ス は 同時 に代 謝 され て 一 段 の 増 殖 が 観 察 され る^<2)>。ジ オ ーキ シ ーは, グ ラ ム陽 性 細 菌 であ る Bacillus subtilis で も グル コー スーア ラ ビノ ー ス混 合 系 な どで観 察 され た^<2)>。 そ の後 Magasanik は ‘グル コー ス効 果’ を, グル コー ス 以 外 の基 質間 で の 代 謝優 先 関係 を も包 括 す る概 念 に ま で拡 張 し, “カ タ ボ ライ ト抑 制 (catabolite repression)” と して提 案 した^<3)>。す なわ ち, 構 成 酵 素 の働 き で迅 速 に 代 謝 され るあ る基 質 の 代 謝 中 間体 (カ タ ボ ライ ト) が, 誘 導 酵 素 系 の 生 合成 を 抑 制 す る現 象 と考 え た。 現 在 では, (1) 代 謝 優 先 基 質 に よ る代 謝下 位 基 質 異化 酵 素 の合 成 阻 害 を カ タ ボ ラ イ ト抑 制, (2) 代謝 優 先基 質 に よ る代 謝 下 位 基 質 異 化 酵 素 の活 性 阻 害 を カ クボ ライ ト阻 害 (catabolite inhibition) と定 義 し, 合 わ せ て カ タボ ライ ト制 御 (catabolite control) と よん で い る^<4,5)>。 現 象 と して は, 古 くか ら知 られ て い る カ タ ボ ラ イ ト制

御 で は あ るが, グ ラム陰 性 腸 内 細菌 (E. coli お よび Salmonellatyphimurium) に お い てそ の機 構 が 遺 伝 学 的 に

Keietsu Abe, Kinji Uchida, キ ッ コ ー マン (株) 研 究 本 部 (〒278野 田 市 野 田399)[Research & Development Division, Kik komanCorp., Noda, Chiba278, Japan]Sugar Transport and Catabolite Control in Gram-positive Bacteria

【カタボ ラ イ ト制 御 】 【グ ラ ム陽 性 】 【糖 輸 送 】 【ホ スホ トラ ン ス フ ェ ラー ゼ】

820

(2)

グラム陽性細菌の糖輪送系 とカタボライ ト制御 27 解 析 され た のは60年 代 か ら80年 代初 頭 にか け て で あ った^<4,5)>。そ の結 果, E. coli S. typhimurium に お い て は, 糖 の 取 り込 み 機 構 (phosphoenolpyruvate : sugar Phosphotransferase 系 ; PTS) お よび 菌 体 内cAMP濃 度 が カ タ ボ ラ イ ト抑 制 と密 接 に 関 連 して い る こ とが 明 ら か とな っ て きた^<4,5)>。しか し, B. subtilis に 代表 さ れ る グ ラム陽 性 菌 では, cAMPが 検 出 され な い に もか かわ ら ず カ タ ボ ラ イ ト抑 制 は 観 察 され てお り, そ の機 構 は い ま だ に不 明 の ま ま で あ る^<6,7)>。 60年 代 以 降, グ ラ ム陰 性 菌 では E. coli お よび S. typhimurium

にお いて, グ ラ ム陽 性菌 で は Staphylococcusaureus, B. subtilis, streptococci, lactococci

におい て, 糖 輸 送 系 の解 析 が 進 め られ, PTSの 存 在 証 明 と PTSを 中 心 とす る糖 の取 り込 み制 御 (カ タボ ライ ト阻 害) の解 明 が な さ れ た^<6)>。そ の結 果, グ ラム陰 性 菌 類 似 の機 構 に 加 え, グ ラム 陽 性菌 独 特 の カ タボ ライ ト阻 害 機 構 の存 在 が 明 らか に さ れ て きて い る^<6)>。本 稿 で は, グラ ム陽 性 菌に お け る カ タボ ライ ト制 御 に つ い て, 糖 の取 り 込 み 機 構 との 関 連 を, グ ラ ム陰性 菌 との比 較 を交 え て紹 介 した い 。

I. グ ラム 陰 性 菌 の 糖輸 送 系 と

カタボ ラ イ ト制 御

1. グ ラ ム 陰 性 菌 の グ ル コー ス 輸 送 系 とカ タ ボ ラ イ ト 抑 制

グ ラ ム陰性 腸 内細 菌 (E. coli お よ び S. typhimurium) に お い て は, と くに カ タ ボ ライ ト抑 制 に 関 して解 析 が 行

な わ れ て き た 。

A. phosphoenolpyruvate : sugar

phosphotrans-ferase system (PTS)

E. coli お よ び S. typhimurium の 主 要 な グル コ ー ス

取 り込 み 系 は, phosphoenolpyruvate (PEP) : glucose

phosphotransferase system (グ ル コ ー ス : PTS) で あ

る^<4,5)>。PTSは 図1に 示 した よ う に, 細 胞 質 に 存 在 し糖

特 異 性 を も た な い2種 の リ ン 酸 転 移 酵 素 Enzyme I (E

I) とHPr, お よ び 細 胞 膜 性 で 糖 特 異 性 を 有 し, 糖 リ ン

酸 化 お よ び 糖 輸 送 活 性 を も つ Enzyme II (E II) ま た は

Enzyme II/Enzyme IIIペ ア (E II/E III[た だ しE IIIは

細 胞 質 性]) よ り構 成 さ れ て い る 。 B. グ ラ ム 陰 性 菌 に お け るカ タ ボ ラ イ ト抑 制 PTS構 成 蛋 白質 の1つ で あ るE II^<Glc>は, グル コ ー ス 代 謝 時 に は, グ ル コ ー ス に リ ン 酸 を 転 移 す る た め に, 非 リ ン酸 化 型 が 多 く な る 。 そ の 非 リ ン酸 化 型E III^<Glc>は ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ 活 性 を ア ロ ス テ リ ッ ク に 阻 害 す る の で 菌 体 内 のcAMP濃 度 が 低 下 し, 結 果 と し てcAMP-cAMP受 容 体 蛋 白 質 (CRP) 要 求 性 遺 伝 子 群 (例 : マ ル ト ー ス レギ ュ ロ ン, ア ラ ビ ノ ー ス レ ギ ュ ロ ン) の 発 現 が 抑 制 さ れ る^<8)>。 ほ か に も, PTSが 関 与 し な い カ タ ボ ラ イ ト抑 制 機 構 の 存 在 が 示 唆 さ れ て い る が, 詳 細 は 不 明 で あ る^<9)>。 2. カ タ ボ ラ イ ト阻 害 A. カ タボ ラ イ ト阻 害 機 構 の 多様 性 グ ラ ム陰 性 菌 で 観 察 され る カ タ ボ ラ イ ト阻害 に つ い て は, (1) 輸 送 担 体 へ の 糖 の結 合 の競 合 阻 害, (2) 菌 体 内 糖 リ 図1. PTSに よ る糖 の取 り込 み 機 構

PEP : ホ ス ホ エ ノ ール ピル ビン酸, PYR : ピル ビン酸, EI : Enzyme I, EIII^<Glc>

お よびII^<Glc> : グル コ ース に 特 異 性 の あ る Enzyme IIIお よび Enzyme II, Nag :

N-アセ チ ル グル コサ ミン, EII^<Nag> : N-ア セ チ ル グル コサ ミン特 異 的 Enzyme IIでE II

とE IIが 融 合 した タ イ プ。-Pの 付 され た もの は リン酸 化 型 であ る。

(3)

28 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992)

ン 酸 化 物 に よ る 阻 害, (3) 膜 電 位 に よ る 阻 害, (4) PTS関 与

の 阻 害 (inducer exclusion), (5) HPrと の リ ン酸 授 受 に

お け る 各 種E II (ま た はE II/E III) 間 の 競 合 に よ る 阻

害, な ど が 報 告 さ れ て い る が, 詳 細 は 他 の 総 説^<4,,5)>を参 照 し て い た だ き, (4) の inducer exclusion が よ く解 析 さ れ て い る の で 紹 介 す る 。B . inducer exclusion 図2に 示 し た よ う に inducer exclusion は, 非 リ ン酸 化 型E III^<Glc>が 非PTS糖 輸 送 系 を ア ロ ス テ リ ッ ク に 阻 害 し て, 非PTS糖 の 取 り込 み を 阻 害 す る 機 構 で あ る^<4)>。 inducer exclusion を 受 け る 非PTS糖 取 り込 み お よ び 代 謝 系 と し て は, ラ ク トー ス パ ー ミア ー ゼ (プ ロ ト ン共 輸 送), グ リセ ロ ー ル パ ー ミア ー ゼ (促 進 拡 散) ∼ グ リセ ロ ー ル キ ナ ー ゼ, メ リ ビ オ ー ス パ ー ミア ー ゼ (ナ ト リ ウ ム 共 輸 送), マ ル ト ー ス パ ー ミア ー ゼ (ATP共 役) が 解 析 さ れ て い る 。E. coli の マ ル トー ス パ ー ミァ ー ゼ につ い て は, 結 合 蛋 白 質 と 内 膜 の 取 り込 み 系 (MalF, MalG,

MalK) に 対 す る E III^<Glc>によ る inducer exclusion が

膜 小 胞 を 用 い て 再 構 成 さ れ た^<10)>。さ ら に MalK の in ducerexclusion 非 感 受 性 変 異 体 が 得 ら れ, E III^<Glc>が作 用 す る 部 位 も 推 定 さ れ て い る^<10)>。ま た, ラ ク トー ス パ ー ミア ー ゼ^<11)>, メ リビ オ ー ス パ ー ミア ー ゼ^<12)>につ い て も inducer exclusion 非 感 受 性 変 異 体 が 得 ら れ て お り, E III^< Glc>と の 相 互 作 用 部 位 が 推 定 さ れ た 。 グ リセ ロ ー ル キ ナ ー ゼ に つ い て も そ のDNA配 列 に よ り推 定 さ れ る ア ミノ酸 配 列 上 で, E III^<Glc>との相 互作 用部 位 が 予測 さ れ てい る^<10>。

II. グ ラム 陽 性 菌 の カ タ ボ ラ イ ト制 御

グ ラ ム陽 性 細 菌 にお い て は, cAMPの 存 在 が 認 め ら れ な いか, 不 明 の もの が 多 く, カ タボ ライ ト抑 制 の機 構 は ほ とん どわ か って いな い 。 しか し, グ ラ ム 陰 性菌 のE. coli や S. typhimurium に お け る主 要 な 糖輸 送機 構 で あ るPTSを, お もな 糖 輸 送 系 と して 有 す る グ ラ ム陽 性 細 菌 は多 く認 め られ る。B. subtilis, S. aureus, お よび 多 くの乳 酸 菌 群 は, PTSを も っ てお り, I. 2. A項 で 述 べ た グラ ム陰 性 菌 と同 様 の カ タ ボ ラ イ ト阻 害 に加 え て, グ ラム陽 性 菌 に特 有 の カ タ ボ ラ イ ト阻 害 も 報 告 され て い る。 1. グ ラム 陽 性 菌 のカ タボ ラ イ ト抑 制 グラ ム陽 性 菌 の カ タ ボ ライ ト抑 制 に関 して は, お もに B. subtilis に お い て, カ タ ボ ライ ト抑 制 を 受 け る オペ ロ ン, た とえ ば ア ミラ ーゼ オ ペ ロ ン^<13)>ある いは グル コ ン酸 オ ペ ロ ンの解 析 が行 なわ れ て い る^<14)>。B. subtilis の胞 子 形 成 に関 与 す る遺 伝 子 群 の発 現 も カ タ ボ ラ イ ト抑 制 を 受 け る こ とが知 られ て い る が, 詳 細 は 他 の 総 説 に譲 り^<15)>, 本 稿 に お い て は糖 代 謝 を 中心 に, 異 化 代 謝 系 の遺 伝 子 発 現 に お け る カ タ ボ ライ ト抑 制 につ い て述べ て みた い。 表1に は グル コー ス に よ りカ タ ボ ライ ト抑 制 を受 け る と考 え られ る遺 伝 子 群 の例 を示 した 。 そ の な か で も ア ミ ラー ゼ オ ペ ロ ン^<13)>, グル コ ン酸 オ ペ ロ ン^<14)>, ヒス チ ジ ン オ ペ ロ ン^<16)>は分 子 遺 伝 学 的 に解 析 が 進 ん で い る。 図2. 非PTS糖 輸 送 のPTS糖 に よ る阻 害 (inducer exclusion) S : 糖, S-P : 糖 の リン酸 化 物, P1-P : PTSの Enzyme Hコ ンポ ーネ ン トが リン酸 化 され た 状 態, P2 : 非PTS糖 輸 送 担 体, HPr (His) P : N末 端 か ら15番 目の ヒス チ ジ ンが

リン酸 化 され たHPr, EIII^<Glc> : 非 リン酸 化 型 Enzyme III^<Glc>,

E III^<Glc>-P : リン 酸 化 型E III^<Glc>。PTS糖 存 在 時, E III^<Glc>が

P2に 結 合 して 取 り込 み を 阻 害 す る。

表1. グ ラ ム陽 性菌 に お い て, カタボライト抑制を

受 け る代 謝 系

a) 文 献6, 7を 参 照 。

822

(4)

グラム陽性細菌の糖 輸送系 とカタボ ライ ト制御 29 A. B. subtilis の ア ミラ ー ゼ オ ペ ロ ン

Weickert と Chambliss は, B. subtilis に お い て ア ミ

ラ ーゼ 遺 伝 子 の 発現 が グル コ ース に よ るカ タボ ライ ト抑 制 か ら解 除 さ れ た変 異株 を分 離 した 。 そ の 変 異 部 位 の解 析 を 行 な って, ア ミラー ゼ遺 伝 子 の プ ロモ ー ター領 域 近 傍 にそ の 変 異 部 位 を 特 定 した こ とか ら, カ タボ ライ ト抑 制 発 現 に 必 要 な 領域 を 見 い だ した^<13)>。さ ら に他 の Bacillus 属 菌 の ア ミラ ーゼ遺 伝 子, あ る い は胞 子 形 成 (spoOA ), レバ ン利 用能 (sacC), グル コン酸 利 用 能, ヒス チ ジ ン分 解 能 な どの カ タ ボ ライ ト抑 制 支 配 下 の オ ペ ロ ンの プ ロモ ー タ ー領 域 と も比較 を 行 な い, カ タボ ライ ト抑 制 に 必 須 な プ ロモ ー タ ー 近 傍 の コ ンセ ンサ ス 配列T-G-W-N-A-N-C-G-N-T-N-W-C-A (逆位 く り返 し配 列) を 推 定 した 。 こ の コ ンセ ンサ ス 配 列 は E. coli の ガ ラ ク ト ー スお よび ラ ク トー ス オ ペ ロ ンの オ ペ レー タ ー 配列 中 に 見 いだ され る, 典 型 的 な αヘ リッ クスーター ンーαヘ リ ッ クスDNA結 合 蛋 白質 の認 識 配列 と類 似 して いた こ と か ら, B. subtilis に お け るカ タボ ライ ト抑 制蛋 白質 は α ヘ リ ック スータ ー ン-α ヘ リッ クスDNA結 合 モ チ ー フ を 有 す る二 量体 蛋 白質 で あ る と推 定 され た 。 Chambliss の グル ー プ は, さ らに, ア ミラー ゼ の グル コ ー ス ・カ タボ ライ ト抑 制 解 除 変 異 で ア ミラー ゼ ・プ ロ モ ー タ ー 領 域 で は な い 部 位 の もの を 見 い だ し, ccpA (catabolite control protein) 変 異 と命 名 した^<17)>。そ の変 異 は アセ ト乳酸 合 成 酵 素 遺 伝 子 (alsA) 部 位 に 同定 され

た。ccpA DNA配 列 解 析 の結 果, E. coli のGalR, LacI

と の ア ミノ酸 配列 の類 似 性 が見 い だ され, さ らにGalR,

LacI, MalI, CytR, PurR各 種 リプ レ ッサ ー のN末 側 α

ヘ リッ クスータ ー ン-α ヘ リ ッ クスDNA結 合 モ チー フ と の高 い相 同性 が見 い だ され た 。ccpA変 異 で グル コー ス に よ るカ タ ボ ライ ト抑 制 は解 除 され て い たが, グ リセ ロ ール に よる カ タ ボ ライ ト抑 制 は解 除 され て い なか った こ とか ら, ア ミラー ゼ遺 伝 子 発 現 の カ タ ボ ライ ト制 御 に 関 与 す るCcpA以 外 の フ ァ クタ ー の存 在 も推 定 され た 。 B. B. subtilis の グル コ ン酸 オペ ロ ン B. subtilis に おい て カ タ ボ ライ ト抑 制 が分 子 遺 伝 学 的 に解 析 され て い る も う1つ の系 は, グル コ ン酸 オペ ロン で あ る。藤 田 らの グル ー プ は, グル コ ン酸 オペ ロ ンの構 造 を詳 細 に解 析 して きた 。 グル コ ン酸 オペ ロ ンは, gntR (リ プ レ ッサ ー)-gntK (グ ル コ ン酸 キ ナ ー ゼ)-gntP (グ ル コ ン酸 パ ー ミア ー ゼ)-gntZ (未知 蛋 白質) か ら構成 さ れ て お り, グル コ ン酸 また は グル コ ノ-δ-ラク トンが 誘 導 物 質 で あ る。 藤 田 らは グル コ ン酸 オペ ロ ン内 のカ タボ ライ ト抑 制 に関 与 す る コ ンセ ンサ ス ・シス 配 列 を推 定 し て お り, 欠 失 解 析 に よれ ば, そ れ はgntRの 内部 す なわ ち, gntR転 写 開 始 部 位 よ り下 流+137∼+148bpの 範 囲 に あ る と推 定 さ れ た 。 カ タ ボ ラ イ ト抑 制 を受 け るB. subtilis の他 の オ ペ ロ ン との 比較 を 行 な って, A-T-T-G-A-A-A-G配 列 が カ タボ ライ ト抑 制 に 関 与 す る コ ン セ ンサ ス 配 列 で あ る と推 定 した^<14)>。しか しグル コ ン酸 オ ペ ロ ンの カタ ボ ライ ト抑 制 の 発 現 に は こ の シ ス 配 列 の み で は 不 充 分 で, さ らに 下 流 の+238bpま で の 領 域 (CAR領 域) を 必 要 とす る。 藤 田 ら は, さ らに グル コ ン 酸 オ ペ ロ ン転写 産 物 の量 的 検討 を 行 な って, グル コ ー ス の存 在 下 で+1∼+127bpま で の 転写 産 物 の 集 積 を 認 め た こ とか ら, カ タボ ライ ト抑 制 は, 前 述 の コ ン セ ンサ ス ・シ ス配 列部 位 とCAR領 域 で の転 写 減 衰 (ア テ ニ ュ エ ー シ ョ ン) に よる もの と推 定 し, この 転 写 減 衰 を “カ タ ボ ライ ト ・ア テ ニ ュエ ー シ ョン” と命 名 して い る^<18)>。 グル コー ス 存在 下 で の グル コ ン酸 オ ペ ロ ン転 写 量 の概 算 に よれ ば, 転 写 開始 点 で 転 写合 成 の50%が 抑 制 され, さ らに 転写 減 衰 部 位 で転 写 量 が18%に ま で 減 衰 した こ とか ら, カ タ ボ ライ ト抑 制 は プ ロモ ー タ ー活 性 を 抑 え る 制 御 も 関与 す る が, お もに 転写 減 衰 に よ る と推 定 した 。 藤 田 らは ア ミラー ゼ オ ペ ロ ン, ヒス チ ジ ンオ ペ ロ ン^<16)>な どに お い て も転 写 開始 点 よ り下 流 に コ ンセ ンサ ス配 列 を 見 い だ して い る が, Chambliss らの推 定 して い る プ ロモ ー タ ー 領域 近 傍 の コ ンセ ンサ ス 配列 とは 異 な っ てお り, Chambliss らの結 果 もふ ま え て上 述 の2つ の カ タ ボ ライ ト抑 制 機 構 の存 在 を 仮定 して い る。 C. B. subtilis の レバ ナ ー ゼ オ ペ ロ ン Rapoport ら の グル ー プ はB. subtilis の誘 導 お よび カ タ ボ ライ ト抑 制 に よる遺 伝 子発 現制 御 の モ デ ル 系 と して レバ ナ ー ゼ オ ペ ロ ンを解 析 して き た^<19)>。レバ ン (levan) は β (2-6) 結 合 の フル ク トー ス ポ リマ ー で, β (2-1) 結 合 の分 枝 構 造 を有 して い る。 レバ ンの 代 謝 調 節 はIII. 2 項 に お い て詳 細 を述 べ る こ と と し (図6参 照), こ こ で はカ タ ボ ライ ト抑 制 につ い て のみ 述 べ る。 レバ ナ ーゼ 遺 伝 子 (sacC) と E. coli β-ガ ラ ク トシ ダ ーゼ 遺 伝 子 (lac Z) の融 合 遺 伝 子 を作 製 し, 染 色 体 中 の sacC遺 伝 子 と の 組 換 え に よ り, sacC'-lacZ^+株 を 作 製 した 。 レバ ナ ー ゼ プ ロモ ー タ ー で のlacZの 発 現 に対 す る グル コ ース ・カ タ ボ ラ イ ト抑 制 を野 生型 とsacL五 型 (レバナー ゼ 発 現 構 成 変 異) のバ ック グラ ウ ン ドで解 析 した と ころ, 両 型 に お い て グル コ ー ス ・カ タ ボ ラ イ ト抑 制 が観 察 さ れ た 。 さ ら に前 述 の Chambliss ら の単 離 した カ タ ボ ライ ト抑 制 耐 性 ア ミ ラー ゼ変 異ccA (gra-26) の バ ッ ク グ ラ ウ ン ドで の レバ ナ ー ゼ遺 伝 子 発 現 へ の グル コー ス の抑 制 効果

(5)

30 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992) を 解 析 した と ころ, 野 生 株 に 比 較 して グル コー ス ・カ タ ボ ライ ト抑 制 は 軽 減 され ては いた が, な お グル コ ース に よ る抑 制 は 観 察 され た^<20)>。 以上 の よ うに, レバ ナ ーゼ オ ペ ロ ンの カ タボ ライ ト抑 制 機 構 は α-ア ミラ ーゼ の カ タボ ライ ト性発 現 制 御 系 と 類 似 して い る よ うで あ るが, 分 子 レベル で の機 構 は い ま だ不 明 な点 が多 い。 D. S. aureus の ラ ク トー ス オペ ロ ン S. aureus の ラ ク トー ス オペ ロ ンはlacR-lacABCDEF Gと い うポ リシ ス トロ ン型 遺 伝 子 構成 を と って お り, 誘 導 酵 素 系 で あ る と同 時 に グル コー ス に よ りカ タ ボ ラ イ ト 抑 制 を 受 け る^<21)>。lacABCDに は タ ガ トー ス リ ン酸 経 路 の 酵 素 群 の遺 伝 子 が, lacEEGに は ラ ク トー ス : PTSの 遺 伝 子 が コ ー ドされ て い る と考 え られ て い る。lacRは リプ レ ッサ ーで あ る。S. aureus の ラ ク トー ス オペ ロ ン で は, lacABCDFEGの プ ロモ ー タ ー領 域 リプ レ ッサ ー 結 合 部 位 (オ ペ レー タ ー) に 重複 して, カ タ ボ ライ ト抑 制 蛋 白質 (転写 を 負に 調 節) の 結 合部 位 が推 定 さ れ て い る。 ラ ク トース オペ ロ ン の詳 細 につ い て はII. 2. A. a. 項 で述 べ る。 2. グ ラム 陽 性 菌 の 糖 輸 送 系 グ ラ ム陽 性 菌 も糖 の輸 送 系 と して, グ ラ ム陰 性 菌 で観 察 され るPTS系 と非PTS性 輸 送 系 ((1) ATPな ど高 エ ネ ル ギ ー リン酸 結 合 駆 動 性, (2) イ オ ン性 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャル 差駆 動性, (3) 促 進 拡 散) を有 して い る^<6)>。しか し, グ ラ ム陽 性 菌 にお い て は外 膜 が 存 在 しない こ とか ら, 一 般 に は E. coli の マル トース輸 送 系 に 代表 され る結 合 蛋 白質 型 の 取 り込 み機 構 は存 在 しな い^<6)>。ど の機 構 に よ っ て糖 を取 り込 む か は 菌 種 に よっ て異 な って い る。 グ ラ ム 陽 性菌 に お い て は, S. aureus, B. subtilis, 乳 酸 菌 群 ( Enterococcus faecalis, lactococci, oral streptococci)

な どで, 糖 の取 り込 み 制 御 の研 究 が行 なわ れ て き た。 PTSは グ ラム 陽性 菌 にお い て も糖 輸 送 系 の カ タ ボ ライ ト制 御 に 中心 的 役 割 を 担 って お り, 積 極 的 に 研 究 され て い る。 表2に は代 表 的 グ ラ ム陽 性 菌 にお け るPTS系 の 分 布 を示 した が, グ ラ ム陽 性 菌 で もPTSが 広 範 に分 布 して い る こ とが 理 解 で き る^<5,6)>。 グ ラ ム陽 性 菌 は, グ ラ ム陰 性菌 に お い て 見 い だ され る 糖 の 取 り込 み 制 御機 構 に加 え て, グ ラム 陽 性菌 に 特有 の PTS関 連 カ タボ ライ ト阻害 機 構 を有 して お り, そ の 関 係 か ら も以 下 に述 べ る よ うなPTSの 研 究 が さか ん に行 な わ れ て きた^<6)>。 1964年, Kundig ら^<22)>が E. coli におい て初 め てPTS を発 見 した の に少 し遅 れ て, 1960年 代 後 半 か ら1970年

代 に は, Morse, Roseman, Hengstenberg の 各 研 究 室

で S. aureus の ラ ク トー ス : PTSに つ い て 研 究 が 開 始 さ

れ た^<23)>。

Hengstenberg らは S. aureus に お い てEI, HPr,

E II^<Lac>, E III^<LaG>などPTS各 コ ンポ ー ネ ン トの欠 損株 を 作 製 し, そ れ らを 駆 使 して inducer exclusion の 研 究 を進 め た^<24)>。1980年代 に は い り, Reizer らに よ り 表2. グ ラ ム陽 性 菌 に お け るPTS系^<8)> + : PTSに よ る 取 り込 み 活 性 が 確 認 され て い る もの 。 a) 文 献5, 6を 参 照。

(6)

グ ラム陽性細菌 の糖輸送系 とカタボ ライ ト制 御 31

Streptococcus pyogenes に お い てPTS糖 間 で の カ タ ボ

ラ イ ト阻 害 機 構 の1つ と して 後 述 す る inducer expu

l sionが^<25)>, ま た Deutscher と Saier^<26)>お よ び Reizer

ら^<27)>によ り同 じ S. pyogenes に お い てHPr特 異 的 プ ロ

テ イ ン キ ナ ー ゼ に よ るPTS活 性 お よ び 非PTS糖 代 謝

系 活 性 調 節 機 構 が 見 い だ さ れ た 。 以 後 Reizer と Saier

ら, Deutscher と Hengstenberg ら の グ ル ー プ を 中 心 に

bacilli, staphylococci, enterococci, lactococci, oral

streptococci, lactobacilli な ど を 用 い て, グ ラ ム 陽 性 菌 に は 存 在 す る が グ ラ ム 陰 性 菌 に は 存 在 し な い カ タ ボ ラ イ ト制 御 機 構 と し て, “inducer expulsion” お よ び “HPr∼ HPrプ ロ テ イ ンキ ナ ー ゼ 制 御 系” の 一 般 化 が 行 な わ れ^<6)>, 1990年 代 に は い っ た 現 在 も 生 化 学 的, 分 子 遺 伝 学 酌 に さ か ん に 研 究 が 行 な わ れ て い る 。 PTSのHPr蛋 白 質 を コ ー ド し て い るptsH遺 伝 子 は B. subtilis に お い て1989年 に ク ロ ー ニ ン グ さ れ た^<28)>。さ ら に, そ のptsH遺 伝 子 の 部 位 特 異 的 変 異 に よ り変 異 蛋 白 質 述 作 製 さ れ, S. aureus HPr欠 損 株 中 で in vivo の 機 能 が 研 究 さ れ た^<29)>。一 方, ptsHと オ ペ ロ ン を 構 成 して

い るEIお よ びE II^<Glc> (/E III^<Glc>) に つ い て も, 1990年

末 に ク ロ ー ニ ン グ さ れ, 現 在 解 析 過 程 に あ る^<30)>。

A. グ ラ ム 陽 性 菌 のPTS系

グ ラ ム 陽 性 菌 のPTSも, 基 本 的 に は グ ラ ム陰 性 菌 と

同 様 基 質 特 異 性 の な いEIお よ びHPrと 基 質 特 異 性

の あ るE II (ま た はE II/E IIIペ ア) で 構 成 さ れ て い る 。

し か し グ ラ ム 陰 性 菌 のPTSコ ン ポ ー ネ ン トを グ ラ ム 陽

性 菌 の も の で 置 き 換 え る こ と は 一 般 に は 不 可 能 で あ る 。

E II/E III, EI, HPrの 各 コ ン ポ ー ネ ン トは, bacilli,

staphylococci, Iactococci, lactobacilli, oral streptococ

ci,streptococci, enterococci に お い て, 一 部 も し く は 全 種 が 精 製 さ れ て お り, 個 々 の 菌 に 関 す るPTSの 詳 細 に つ い て は 優 れ た 総 説 が 出 て い る の で 参 照 し て い た だ き た い^<5,6)>。こ こ で は, そ の な か で も遺 伝 学 的, 生 化 学 的, 分 子 遺 伝 学 的 に 解 析 が 進 ん で い るPTSに 絞 っ て 述 べ て み た い 。 な おHPrに つ い て は と くに カ タ ボ ラ イ ト阻 害 の 項  (II. 3項) で 述 べ る 。 a. S. aureus お よ び 乳 酸 菌 の ラ ク トー ス : PTS グ ラ ム 陽 性 菌 に お い て 最 初 に 見 い だ さ れ たPTSは,

S. aureus の ラ ク トー ス : PTSで, Morse, Roseman,

Hengstenberg ら の 研 究 室 に お い て 積 極 的 に 研 究 さ れ た 。

と く に Hengstenberg と そ の 共 同 研 究 者 ら は S. aureus

に お い てEI, HPr, E II^<Lac>, EIII^<Lac>のPTSの 各 コ ン

ポ ー ネ ン トの 欠 損 株 を 作 製 す る な ど遺 伝 学 的 な 解 析 を 行

な い, さ ら に そ れ ら各 コ シ ポ ー ネン トを 生 化 学 的, 分 子

遺 伝 学 的 に 解 析 した^<6)>。な お 上 記 のPTS各 コ ン ポ ー ネ

ン ト欠 損 株 は グ ラ ム陽 性菌 のPTS相 補 性試 験 に 広 く用

い られ て い る^<23)>。

S. aureus のE II^<Lac>, E III^<Lac>は精 製 され 生 化 学 的 に 解 析 され て い る。E II^<Lac>は 精 製 後, 不 活 性 で あ った が^<6)>, E III^<Lac>は活 性 の あ る 状 態 で 精製 さ れ, ア ミ ノ酸 一 次 構 造 と高 次 構 造 (三量 体) が 明 らか に さ れ た^<5,6)> 。S. aureus の ラ ク トー ス オ ペ ロ ンはlacR-lacABCDFEGの 遺 伝 子 構成 であ る^<21)>。lacABCDに は タ ガ トー ス リン酸 経 路 の酵 素群 の遺 伝 子 が コー ドされ て い る と考 え られ て

い る。lacF(EIII^<Lac>) -lacE (E II^<Lac>)-lacG (ホ ス ホ β-ガ ラ ク トシ ダ ー ゼ) 遺 伝 子 は ク ロー ニ ン グされ, 一 次構 造

が 解 読 され た 。E III^<Lac>では 部 位 特 異 的 変 異 に よ る解 析

か ら His 78が リン酸 化 部 位 で あ り^<31)>, E II^<Lac>では Cys

476が リン酸化 部 位 で あ る こ とが 明 らか とな った^<32)>

牛 乳 に 含 ま れ る主 要 な 糖 は ラ ク トー ス で あ るの で, 乳 業 用 乳 酸 菌 (Lactococcus lactis, Lactobacillus casei) の

ラ ク トー ス : PTSが よ く 研 究 され て い る。L. lactis, Lb. casei で は ラ ク トー ス : PTSを 含 む ラ ク トー ス 代 謝 系 が プ ラ ス ミ ドに コ ー ドされ て お り, こ の プ ラ ス ミ ドの 脱 落 が 乳 酸 発 酵 の不 安 定 性 と して産 業 上 問 題 に な る こ と か ら, これ ら乳 酸 菌 の ラ ク トー ス代 謝 系 が 解 析 され て き た。L lactis の ラ ク トー ス : PTSレ ギ ュ ロ ンは S. aureus とは 異 な っ て二 方 向 の転 写 ユ ニ ッ トか らな るlacR (←)-(→) lacABCDFEGXの 遺 伝 子 構 成 を とっ て お り, そ の直 後 に はiso-ISS1エ レメ ン ト (挿 入 配 列) が存 在 す る^<33)>。lacABCDは タ ガ トー ス リン酸 経 路 の酵 素 群 の 遺 伝 子 を, lacFEGは ラ ク トー ス : PTSの 遺 伝 子 をそ れ ぞ れ コー ド して い る^<34)>。mRNAを 解 析 した と ころ, lac AB CDEEGXは6∼8kbの ポ リシス トロ ンmRNAと して転 写 され て い る こ とが 明 らか とな り, ラ ク トース : PTSと タ ガ トー ス リ ン酸 経 路 が ラ ク トー ス代 謝 系 と し て 完 全 な レギ ュ ロ ンを構 成 して い る こ とが判 明 した^<33)>。S. aureus と L. lactis の間 で, lacABCD遺 伝 子 よ り推 定 さ れ た ア ミノ 酸 配 列 に は 高 い 相 同 性 が 認 め られ て い る^<34)>。

Lb. casei に お い て もlacE (E II^<Lac>) 遺 伝 子 が ク ロー ニ ング され, His お よび Cys 残 基 の部 位 特 異 的 変 異体 の 解 析 か ら, S. aureus と類 似 して Cys 483が リ ン酸 化 部 位 と して, リン酸 転 移 反 応 中 心 であ る こ とが 推 定 さ れ た^<35)>。 b. B. subtilis の グ ル コ ー ス : PTS (1) PTSオ ペ ロ ンと グ ル コー ス : PTS グ ラ ム陽 性 菌 に お い て カ タ ボ ライ ト制 御 が最 も深 く研

(7)

32 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992) 究 され て い る の は, B. subtilis で あ る。 本 菌 に お い て も グル コー ス輸 送 系 が カ タ ボ ライ ト制 御 にか か わ っ て い る こ とは, グラ ム陰 性 菌 で の知 見 か ら 容 易 に 類 推 され う る。 しか し, B. subtilis にお い て はcAMP-CRP系 が検 出 され な い こ とか ら, グル コー ス輸 送 系 とカ タ ボ ライ ト制 御 の関 係 も グ ラ ム陰 性 菌 の場 合 とは 異 な って い る と考 え ざ る を えな い。E. coli に お い て は グル コ ー ス : PTSの E III^<Glc>をコー ドして い るcrrア遺 伝 子 はPTSオ ペ ロ ン (ptsH ptsI crr) の末 端 シ ス トロ ンに位 置 し, 一 方, E II^< Glc>を コ ー ド して い るptsG遺 伝 子 は染 色 体 上PTS オ ペ ロ ン とは異 な る部 位 に位 置 す る^<4,5)>。 B. subtilis に お い て も グル コ ース はPTSに よ り取 り 込 まれ る の であ るが, そ の遺 伝 子 の存 在 が確 認 され 解 析 され た のは ご く最 近 で あ る。Gonzy-Treboul ら は B. subtilis のPTSオ ペ ロ ンを1987年 に初 め て 同定 し, 1989年 に そ の遺 伝 子 構 成 を[orfG ptsX ptsH ptsI]と 報 告 した^<28)>。しか し, そ の後 Reizer と Saier の グル ー プ

に よ る詳 細 な 解 析 の結果, 当 初 そ れ ぞ れE II^<Glc>, E III^<Glc>

を コ ー ド して い る と思 わ れ てい たorfGとptsX遺 伝 子

が, 実 はptsGと い う単 一 の遺 伝 子 で あ り, [ptsG ptsH

ptsI]と い う遺 伝 子 構 成 を とっ て い る こ とが 明 らか と な

った^<30)>。しか もptsGに コ ー ドされ てい るE II^<Glc>は,

ち ょう ど E. coli の E II^<Glc>とE II^<Glc>が融 合 した形 で

あ り, E III^<Glc>類似 ドメイ ンをC末 端 側 (細胞 質 側) に

有す る単 一 の ポ リペ プチ ドで あ り, グ ラ ム陽 性 菌 の 他 の

PTS輸 送 系 や E. coli お よび S. typhimurium の グル コ

ー ス : PTSと は 異 な る もの で あ る こ とが 明 らか とな っ

て き た。

E II^<Glc>ドメ イ ン とE III^<Glc>ドメイ ンの間 に は, 制 御 蛋 白質 や シ グナ ル伝 達 蛋 白質 に しば しば 見 い だ され る, 異 な る機 能 ドメイ ンを連 結 す る “Qリ ンカ ー” 構 造 が存 在 す る。Qリ ンカ ー は15∼25残 基 の長 さ で グル タ ミン, アル ギ ニ ン, グル タ ミン酸, セ リン, プ ロ リンに 比 較 的 富 む が, ア ミノ 酸 配 列 の 保 存 性 は それ ほ ど高 くは な い^<36)>。そ の高 次 構 造 は コイル 状 と推 定 され て い る が, αヘ リ ッ クス あ る い は β構 造 とは異 な る も の で あ る。Qリ ン カ ー は細 菌 か ら真 核 細 胞 ま で, 制 御 蛋 白質 お よび シ グ ナ ル 伝 達 蛋 白質 中 に広 範 に見 いだ され て い る。 と くに細 菌 の糖 の取 り込 み 系 に お い て, Qリ ンカ ー を介 してE III^<Glc> 類 似 ドメイ ンを有 す る もの と して, S. mutans のE II^<Scr>

(シ ョ糖 : PTS), S. thermophilus の ラ ク トー スパ ー ミア

ー ビ (非PTS), E . coli のEII^<Bgl (β-グル コ シ ド :

PTS) とE II^<Nag>が知 られ て い る^<30)>。後 述 す る B. subtilis の シ ョ糖 輸 送 系 とグル コー ス輸 送 系 の例 の よ うに, E III^<Glc>類 似 ドメイ ンは, フ レキ シ ブルQリ ンカ ー に よ り 疎 水 的 な 膜 内 在 性E II^<Glc>ドメイ ン とは独 立 した コ ンホ メ ー シ ョンを と りうる こ とか ら, E II分 子 内 ドメ イ ン 間 お よびE II分 子 間 の リン酸 転 移 に よ り, 多 様 な 制 御 を行 な っ て い る こ とが 明 らか に され つ つ あ る。 (2) B. subtilis に お け る グ ル コ ー ス の シ ョ糖 に 対 す る優 先 代 謝 B. subtilis は シ ョ糖 をPTSに よ り取 り込 ん で い るが, こ の シ ョ糖 : PTSに は, 細 胞 質 性 (可溶 性) のE III^<Scr>

も し くはE III類 似 ドメイ ンが 存在 しな い。E II^<Scr>は 精 製 した 可 溶 性E III^<Glc>。類 似 ポ リペ プ チ ド (EIII^<Glc>類

似 ドメイ ンを コー ドす るDNAをE II^<Glc>ド メイ ンを コ ー ドす るDNAか ら分 離 し, E. coli 中 で 単独 に発 現 さ せ 精 製 した も の ; 図3 (4)) あ る い は膜 内在 性E II^<Glc>ド メ イ ンに結 合 した 状 態 のE III^<Glc>類似 ドメ イ ンか ら (図 3(2)) で も リ ン酸 を 受 容 し うる。B. subtilis で は グル コ ー ス とシ ョ糖 が 共 存 した 場 合 に, グル コ ース の優 先 代謝 が 起 こ る。 シ ョ糖 で培 養 したB. subtilis 野 生株 の膜 画 分

をE II^<Scr>あ るい はE II^<Glc>源 と し, EIお よびHPr

の過 剰 存 在 下 に グル コ ース お よび シ ョ糖 のPEP依 存 性 同 時 リン酸 化 に お け る 精 製E II^<Glc>の 添 加 効 果 を 調 べ た 。E III^<Glc>非存 在下 で は グル コー ス の リ ン酸 化 速 度 は シ ョ糖 の それ よ りも高 く, E III^<Glc>を添 加 す る とシ ョ糖 の リン酸 化速 度 は グル コー ス の リン酸 化 速 度 なみ に回 復 した 。 この結 果 は, B. subtilis に お け るPTSに よ る グル コ ース の シ ョ糖 に対 す る 優 先 取 り込 み が, HPr (Ser) P へ の競 合 阻害^<28)>や糖 の結 合 レベ ル での 制 御 で は な く, E

II^<Glc>ド メイ ン とE II^<Scr>のE III^<Glc>ドメイ ン-Pへ の競 合 に よる こ とを示 して い る^<30)>。 3. グ ラ ム陽 性 菌 の 力 タ ボ ラ イ ト阻 害 基 本 的 に はI.2.A項 に述 べ た グ ラ ム陰 性 菌 に お け る 5種 類 の取 り込 み 阻 害 機 構 に加 え て, 以 下 に述 べ る グ ラ ム陽 性 菌 特 有 の取 り込 み 阻 害 機 構 が 存 在 す る こ とが 明 ら か とな っ て きた 。 そ れ ら のな か か ら, グ ラ ム陰 性菌 で観 察 され る も の も含 め て, 代 表 的 な もの を 紹 介 す る。 A. グ ラム 陽 性 菌 に お け る inducer exclusion グ ラ ム陽 性 菌 では B. subtilis に お い て, inducer ex clusion機 構 に よる糖 の取 り込 み 阻 害 が 研 究 され た 。B. subtilis に お い て は グ ラ ム陰 性 菌 とは 異 な って, E III^<Glc> は 可 溶 性 画 分 に独 立 して は 存 在 せ ず, E II^<Glc>のC末 端 側 に連 な る ドメイ ン と して 存在 して い る こ と, な らび に グル コ ー ス : PTSの 遺 伝 子構 成 も グ ラム陰 性 菌 とは異 な る こ とが 実 証 され た の は1990年 に 至 って で あ り, そ

(8)

グラム陽性細菌 の糖 輸送系 とカタボライ ト制御 33

れ 以 前 には, E III^<Glc>また はE III^<Glc>類似 ドメイ ンの存 在 とそ の機 能 は 現 象 と して の inducer exclusion の観 察 よ り間 接 的 に推 定 され て い た もの で あ る。 B. subtilis の グ リセ ロール 輸 送 系 は非PTS性 で あ る に もか か わ らず, ptsI変 異株 が グ リセ ロー ル を 資 化 で き なか った こ とか ら, inducer exclusion の 研 究 が 着 手 さ れ^<37)>, さ らに, 温 度 感 受 性ptsI変 異 株 を 用 い て 研 究 され た^<38)>。E IIが 誘 導 され て い る とき, そ の 基 質 とな る糖 を 与 え る と グ リセ ロール の取 り込 み は 阻 害 され, 熱 に よ る EI活 性 の部 分 的 失活 はPTS糖 に よ る グ リセ ロ ール 取 り込 み 阻 害 の感 受 性 を 増 加 させ た 。 これ らの結 果 はB.

subtilis に お い て も E. coli と同 様 な inducer exclusion

機 構 の存 在, す なわ ちE III^<Glc> (E III^<Glc>類似 ドメイ ン) に よる制 御 を支 持 した 。

B. PTSに よ るDHAキ ナ ー ゼ 活 性 の 制 御

先 に述 べ た よ うに B. subtilis に お い てPTSに よ りグ

リセ ロール の資 化 が 負 に 調 節 され て い るの と異 な り, E.

faecalis に お い て は, PEPに よ りEI, HPrを 介 して ジ

ヒ ド ロキ シ アセ トン (DHA) キ ナ ー ゼが リ ン酸 化 さ れ,

活 性 が 正 に 制 御 され る こ とが知 られ て い る^<39)>。DHAキ

ナ ーゼ はDHAお よび グ リセ ロール を リン酸 化 す る。E

IとHPrを 介 してPEPに よ り リ ン酸 化 され たDHA

キ ナ ーゼ は, DHAお よび グ リセ ロール の リ ン酸 化 活 性 が お よそ10倍 に な る。 こ の こ とはHPrのN末 端 か ら 15番 目の ヒ スチ ジ ンが リ ン酸 化 され たHPr (His) Pを 基 質 と してE IIIとDHAキ ナ ーゼ が 競 合 す る こ とを 意 味 して い る。 C. HPrの プ ロ テ イ ン キナ ー ゼ に よ る リ ン酸 化

各 種 のE III (ま た はE III類 似 ドメイ ン) 間 で の, そ

れ らへ の リン酸 供 与 体 で あ るHPr (His) Pへ の競 合 は, カ タボ ライ ト阻 害 の機 構 の1つ で は あ るが, グ ラム 陽 性

菌 にお い て は, グラ ム陰 性菌 に は 存在 しな い, HPrが 関

与 す るPTS活 性 の制 御 機 構 が 存 在 して い る (図4参

照)。HPrは 通 常EI-Pよ りリ ン酸 転 移 を受 け てHPr

(His) Pを 形 成 し, さ らにE IIま た はE IIIへ と リン酸

を転 移 す る。 とこ ろ が グル コ ース で 生育 した S. pyogenes

図3. B. subtilis の グル コ ー ス : PTSと シ ョ糖 : PTSに お け る ドメ イ ン間 お よ びPTS分 子 間 の リン酸 転 移

〓 : Qリ ンカー部位, リン酸 化 部 位1お よび リン酸 化 部位2 : EIIド イン とE IIIドメ イ ンがQリンカー で結合 した タ イ

プ のE IIに おけ る, E IIIド メ イ ン 側 の リ ン酸 化 部 位 を リ ン酸 化 部位1, En : ドメ イ ン 内 の リ ン酸 化 部 位 を リン酸 化 部 位2と

した 。〓 : 蛋 白質 上 を転 移 し てい る リン酸 。

(1) イ ン タ ク トの B. subtilis グル コー ス : PTSに よ る グル コー ス 取 り込 み に 伴 う リン酸 転 移 。(2)EIII^<Glc>類似 ドメ イ よ

りE II^<Scr>への リン酸 転 移 に よ る シ ョ糖 の取 り込 み (B. subtilis)。(3) 可 溶 性E III^<Glc>(E III^<Glc>類似 ドメイ ンを コ ー ドす るDNA

部 分 をE IIド メイ ン コー ド部 位 か ら分 離 して, 単 独 で発 現 させ た) に よ る分 離E II^<Glc>部位 へ の リ ン酸 転 移 に よ る グル コ ー

ス 取 り込 み (B. subtilis)。(4) 可 溶 性E III^<Glc>よりE II^<Scr>への リン酸 転 移 に よ る シ ョ糖 取 り込 み (B. subtilis)。(5) E. coli の

E II^<Bgl>のE IIIド メ イ ン 内 に あ る リ ン酸 化 部 位1を 部 位 特 異 的 変 異 で 不 活 化 した 場 合, B. subtilis の 可 溶 性E III^<Glc>は, E.

coli のE II^<Bgl>のE IIド メイ ン内 の リン酸 化 部 位2に リン酸 を転 移 して β-グ ル コ シ ドを 取 り込 め る (E. coli)。

(9)

34 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992)

菌 体 に, N末 端 よ り46番 目の セ リンが リン酸 化 さ

れ たHPr (Ser) Pが 見 い だ され た^<26)>。HPr (Ser) Pは

HPr (His) Pに 代 わ って, E IIま た はE IIIヘ リン酸 を

転 移 す る こ とは で き な い。HPr (Ser) PはATPを リン

酸 供 与 体 とす るHPrに 特 異 的 な プ ロテイ ンキ ナ ーゼ

(HSK) に よ っ て生 じる。HPr (Ser) Pま た はPEP依 存

性 のEIよ り リ ン酸 転 移 を受 け てHPr (Ser) P (His) Pを

生 ず るが, そ の 生成 速 度 はHPrか らHPr (His) Pが 生

ず る速 度 よ りは るか に遅 い。 しか し, E IIIの 種 類 に よ っ て も異 な るが, E IIIの 共 存 に よ りHPr (Ser)

PのEI-Pに よる リン酸 化 速 度 は, E IIIが 共 存 しな い場 合 の100 倍 以 上 に な る^<6)>。タ ガ トー ス リン酸 経 路 で ガ ラ ク トース, を代 謝 して い るS. pyogenes に お い て はHPr (Ser) Pの 生 成 が 促 進 され る こ とは な い^<40)>。これ ら の結果 は グル コ ー ス の存 在 に よ っ て増 加 したHPr (Ser) PがPTS糖 の リン酸 化 の特 異 性 を制 限 し, た とえ ば グル コ ース の ラ ク トー スに 対 す る優 先 取 り込 み を ひ き起 こ して い る もの と 予 想 され る (図4参 照)。 グル コ ー ス生 育 菌 株 にお い て のみSer46の リ ン酸 化 が認 め られ る の は以 下 の理 由 に よ る。HPr特 異 的プ ロ テ イ ンキ ナ ー ゼ (HSK) は 無機 リン酸 (Pi) に よ り阻 害 され, FDPな どの 解 糖 系 中 間体 に よ り活 性化 さ れ るア ロス テ リ ッ ク酵 素 であ る。 つ ま り, FDPな どHSK活 性 化 能 を もつ 解 糖 系 中 間体 の菌 体 内濃 度 を充 分 に高 くで き る グル コ ー スの よ うな 基 質 が与 え られ た 場 合 に の み

Ser46が リン酸 化 さ れ るた め で あ ろ う。HSKは S. pyogenes,E. faecalis, S. aureus, B. subtilis

に お い て そ の存 在 が 知 られ て い る。一 方, HPr (Ser) Pは, Piに よ り活 性 化 され るHPr (Ser) Pホ ス フ ァタ ー ゼ に よ って脱 リン 酸 化 され る。 ピル ビ ン酸 キ ナ ー ゼ (PK) もHSKと 同 様 な ア ロス テ リ ック制御 を受 け る こ とか ら, 両 酵 素 は共 同 してEIの2つ の基 質 で あ るPEPと 活 性 型HPrの 濃 度 を 調 節 す る こ とで, 糖 の 取 り込 み お よび 内 部 代謝 の PTSに よ る調 節 を よ り精 緻 な もの に して い るの で あ ろ う。 B. subtilis HPrのSer46の 部 位 特 異 的 変 異体 が 作 製 さ れ, Reizer らの グル ープ に よ り S. aureus に お い て, Hengstenberg らの グル ー プに よ って は B. subtilis に お 図4. グ ラ ム陽 性 菌 に お け る糖 の 取 り込 み 阻 害-HPrプ ロテ イ ン キ ナ ーゼ に よ る 活 性調 節 と inducer expulsion FDP : フ ル ク トー ス-1, 6-二 リン酸, Pi : 無 機 リン酸, 糖 ∼P : 糖 リン酸 化 物, (+) : 活 性 化, (-) : 阻 害 。 高 濃 度 菌 体 内FDPはHSKを 活 性 化 す る こ とでHPr (Ser) Pの 比 率 を 高 め, 同 時 にPK

を 活 性 化 す る こ と でPEPを 糖 取 り込 み か らATP生 成 へ 向け る。 菌 体 内 高 濃 度Piと 低 濃

度FDPはHSPを 活 性 化 す る と 同時 にHSKとPKを 阻 害 して, PTSに よ るPPPの 消

費 を 促 す 。

SHaseに よ る糖 リン酸 化 物 の 脱 リン酸 化 に はFDPとATPが 必 要 で あ り, 逆 にPiと

PEPに よ りSHaseは 阻 害 され る。

(10)

グラム陽性細菌の糖輸送系 とカタボライ ト制御 35

い て, in vitro で の リ ン 酸 転 移 反 応 お よ び in vivo で の

糖 取 り込 み が 解 析 さ れ た^<29)>。Ser46の リ ン 酸 化 と 同 じ 効

果 を 狙 っ たSer46のAspへ の 変 換 (S46D) は, in vitro

で, EIよ りHPrお よ びHPrよ りE IIIへ の 両 リ ン酸

転 移 に お け るK_m値 の 上 昇 とV_<max>の 低 下 を ひ き起 こ

し た 。S. aureus に お い て は, S46Dの 導 入 が in vivo

で のPTS糖 の 取 り込 み を 阻 害 した 。 しか し, Ser46の

Ala へ の 変 換 (S46A) に よ りSer46部 位 の リ ン 酸 化 能

を 喪 失 さ せ て も な お, in vivo で ラ ク トー ス : PTSの 基 質 ア ナ ロ グ で あ る チ オ メ チ ル ガ ラ ク ト シ ド (TMG) の 取 り込 み は, PTS糖 で あ る グ ル コ ー ス, マ ン ニ トー ル (マ ン ニ トー ル 培 養 時), フ ル ク トー ス (フ ル ク トー ス 培 養 時) に よ り取 り込 み 阻 害 を 受 け た こ とか ら, PTS糖 に よ る 他 のPTS糖 の 取 り込 み 阻 害 は, Ser46のATP依 存

性 リ ン 酸 化 に よ る よ り も, HPr (His) Pへ のE III (ま た

はE III類 似 ド メ イ ン) 間 の 競 合 に よ る も の と考 え ら れ

た^<29).。さ ら に は, B. subtilis の グ ル コ ー ス : PTSの 項 で

述 べ た in vitro で のE III^<Glc>ド メ イ ン-Pへ のE II^<Glc>。

とE II^<Scr>間 の 競 合 も知 ら れ て い る^<30)>。

な お, oral streptococci の 一 種 で あ る Streptococcus

salivarius に お い て は, 上 述 のHSKと は 異 な るATP 依 存 性HPrキ ナ ー ゼ に よ りHPr (3-His) Pを 生 成 す る 。 こ のHPrキ ナ ー ゼ はG-6-Pに よ り活 性 化 さ れ る が, FDPお よ び2-PGな ど の 解 糖 系 中 間 体 は 阻 害 的 で あ る^<41)>。HPr (3-His) PのPTS活 性 お よ び 糖 代 謝 調 節 に お け る機 能 に つ い て は, 解 析 過 程 に あ る 。 D. inducer expulsion PTSは 糖 を, そ の リ ン酸 エ ス テ ル と し て 菌 体 内 に 輸 送 す る が, そ の 糖 リ ン酸 化 物 が 代 謝 さ れ ず に 菌 体 内 に 著 量 蓄 積 す る こ と は, 菌 体 に 種 々 の 障 害 を も た ら す 。 グ ラ ム 陽 性 菌 で は, 過 剰 の 糖 リ ン酸 化 物 を 細 胞 外 へ 排 出 す る 3種 の 機 構, (1) inducer expulsion∼ 糖 リ ン 酸 の 脱 リ ン 酸 に つ づ く, 遊 離 糖 の 排 出^<40)>, (2) 菌 体 内 糖 リ ン 酸 と 菌 体 外 無 機 リ ン酸 の 交 換^<42)>, (3) PTSを 介 し た, 菌 体 内 糖 リ ン 酸 の 糖 分 子 部 分 と菌 体 外 の 糖 と の 交 換^<43)>, な ど が 知 られ て い る 。 本 稿 に お い て は inducer expulsion に つ い て 紹 介 す る (図4参 照)。 グ ラ ム 陽 性 菌 に お い て は, 代 謝 速 度 の 遅 いPTS糖 (例 : ラ ク トー ス, ガ ラ ク トー ス) の 取 り込 み が, 代 謝 速 度 の 速 いPTS糖 (例 : グル コ ー ス, マ ン ノ ー ス, フ ル ク ト ー ス) に よ り阻 害 さ れ る 現 象 が 観 察 さ れ, inducer

expulsion と よ ば れ て い る^<40)>。streptococci や lactococci

に お い て は, 非 代 謝 性 の ガ ラ ク トシ ド ア ナ ロ グTMGま た はIPTGを ラ ク トー ス : PTSで 取 り込 み, TMG-P また はIPTG-Pを 著 量 蓄 積 す る。 このTMG-Pま た は IPTG-Pを 蓄 積 した菌 体 に 代 謝 性 の 糖 を与 え る と, これ らの ガ ラ ク トシ ドア ナ ログ は遊 離 の形 で排 出 され る。 こ の 排 出 は, 交 換 反 応 や リン酸 転 移 に よ ら ない 。E II^<Lac> 遺 伝 子 の欠 損 に よ りグル コ ー ス添 加 時 に促 進 さ れ る遊 離 の ガ ラ ク トシ ドの 排 出 が 起 こら な くな る こ と, E II^<Lac>。 の 競 合 阻 害 基 質 の添 加 に よ りTMGの 排 出 が阻 害 され る こ と, お よびTMGの 排 出 が濃 度 勾 配 に抗 して は起 こ ら な い こ とな どか ら, 排 出 はE II^<Lac>を介 して促 進 拡 散 モ ー ドで起 こ る こ とが 推 定 さ れ た。 糖 リン酸 の脱 リン酸 に は 菌 体 内 のATPとFDPな どの解 糖 系 上 流 中 間体 の 存 在 が 必 要 で あ る。 糖 リ ン酸 特 異 的脱 リン酸 化 酵 素 が lac

ococciに お い て 精 製 さ れ て い る が, inducer expulsion

へ の 関 与 は 解 析 過 程 に あ る^<44)>。

III. PTSに

よ る シ グ ナ ル トラ ンス ダ ク

シ ョ ン と遺 伝 子 発 現 制 御

近 年, PTSが 有 す る リン酸 転 移 能 が, PTSコ ンポ ー ネ ン ト間 の リ ン酸 転 移 に と ど ま らず, 他 の蛋 白 質 へ の 転 移 に よ り種 々 の調 節 機 能 を 示 す こ とが 明 らか とな ってき た 。 異 化 代 謝 系 調 節 の例 と して は, DHAキ ナ ーゼ の リ ン酸 化 の例 をす で に 述 べ た が, そ のほ か に もE. coli に お い て はPTSの リン酸 転 移 カ ス ケ ー ドに よ る, ケ モ タ キ シ ス ・シ グナル 伝 達 系 リン酸 転 移 カス ケ ー ドの 調 節 機 構 が仮 定 され て い る^<45)>。本 項 に お い ては, 最 近 明 らか に な っ て きた, PTSリ ン酸 転 移 カ ス ケ ー ドに よる, 転 写 ア ク チベ ー タ ー蛋 白質, ま た は 転 写 ア ンチ タ ー ミネ ー タ ー 蛋 白質 へ の リ ン酸 転 移 とそ れ に 基 づ く負 の 転 写 活 性 調 節 機 構 につ い て述 べ る。 1. E. coli の β-グル コ シ ド ・オ ペ ロ ン E. coli のβ-グル コシ ド (bgl) オ ペ ロ ンは, bglG (正 の 転 写 制 御 因 子 : ア ンチ タ ー ミネ ー タ ー)-bglF (E II^<Bgl)-bglB (ホ ス ホ β-グル コ シ ダ ー ゼ) よ り構 成 され て い る^<46)>。 bgl オ ペ ロ ンは野 生株 に お い て は 発 現 して お らず, 自然 変 異 に よ り発 現 して β-グル コ シ ドを 利 用 で き る よ うに な る。 培 地 にβ-グル コ シ ドが 存 在 しな い 場 合, E II^<Bgl> (Q

リン カ ーを 介 したE II/E III融 合 型) は, 糖 に リン酸 を

転 移 で き な い の で, そ の リン酸 を ア ンチ タ ー ミネ ー タ ー

BglG蛋 白質 に 転 移 す る こ とで, ア ンチ タ ー ミネ ー シ ョ

ン能 を阻 害 して bgl オ ペ ロ ンの転 写 を負 に調 節 す る (図

5参 照)。 β-グル コ シ ドが 存在 しな い 間 は, BglG蛋 白質

は リン酸 化 され た 状 態 に あ る が, β-グル コ シ ドが 取 り込

(11)

36 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992) ま れ る とBglG蛋 白質 は た だ ち に 脱 リン酸 化 され る。E III^<Glc>は グル コー ス が 培 地 中 に 存 在 しな い場 合 にはE II^<Bgl>へ の リン酸 転 移 を行 な うこ とで β-グル コ シ ドの取 り込 み を 活 性 化 す る こ とが で き る。培 地 中 にβ-グル コ シ ドも グル コ ース も 存 在 しな い 場 合 に はE III^<Glc>はBglG を リン酸 化 す る こ とで負 の転 写 調 節 を 強 化 して い る。 グ ル コー ス が 存 在 す る とE III^<Glc>はE II^<Glc>ヘリン酸 を 転 移 す る の で β-グル コシ ドの取 り込 み は た だ ち に 減 速 さ

れ る。E III^<Glc>はE II^<Bgl>ととも に, β-グル コ シ ドの取 り

込 み とア ンチ タ ー ミネ ー タ ー蛋 白質 の リ ン酸 化 を制 御 し てい る も の と考 え られ る。E II^<Bgl>のE III類 似 ドメイ

ンは フ レキ シ ブルQリ ンカ ー を 介 して, リン転 移 に よる 転 写 制 御 シ グナル の伝 達 を行 な って い る。 2. B. subtilis の レ バ ナ ー ゼ ・オ ペ ロ ン B. subtilis の レ バ ナ ー ゼ・ オ ペ ロ ン が フ ル ク ト ー ス で 誘 導 さ れ, カ タ ボ ラ イ ト抑 制 を 受 け る こ と は す で に 述 べ た。levR (転 写 活 性 化 因 子)-levR遺 伝 子 の タ ー ミネ ー タ ー-プ ロ モ ー タ ー (フ ル ク トー ス 誘 導 性)-levD (E III^<Fru> の16Kフ ラ グ メ ン ト : P16)-levE (E III^<Fru>の18Kフ ラ グ メ ン ト : P18)-levF (E II^<Fru>の28Kフ ラ グ メ ン ト : P28)-levG (E II^<Fru>の30Kフ ラ グ メ ン ト : P30)-sacC (レ バ ナ ー ゼ) の 遺 伝 子 構 成 を と っ て い る (図6参 照)。

levDか らsacCま で の5個 の 遺 伝 子 はlevR下 流 の プ

ロ モ ー タ ー よ り転 写 さ れ る 。DNA配 列 よ り推 定 さ れ る

ア ミ ノ 酸 配 列 の 比 較 か ら, LevRのC末 端 側 半 分 の ド メ

イ ン は, 典 型 的 な ア ン チ タ ー ミ ネ ー タ ー蛋 白 質 と考 え ら

れ る E. coli のBglGや B. subtilis の SacT (sacP[EII^<Scr>

]-sacA[膜 内 在 型 シ ュ ク ラ ー ゼ] オ ペ ロ ン の 転 写

制 御 因 子) あ る い はSacYのC末 端 側 ド メ イ ン と類 似 し

て い た 。 しか し, プ ロ モ ー タ ー か らsacCの オ ペ ロ ン 末

端 ま で の 間 に タ ー ミ ネ ー タ ー 配 列 が 見 い だ さ れ な か っ た

こ と か ら, LevRは ア ン チ タ ー ミネ ー タ ー で は な く, E

II^<Fru/E III^<Fru>の リ ン酸 転 移 に よ り負 の 調 節 を 受 け る 転

写 活 性 化 蛋 白 質 (ア ク チ ベ ー タ ー) で あ る こ と が 推 定 さ れ て い る^<19,47)>。 sacT遺 伝 子 は, sacPAオ ペ ロ ン の 転 写 制 御 蛋 白 質 を コ ー ド し て お り, sacPAの プ ロ モ ー タ ー とsacPAコ ー デ ィ ン グ 領 域 の 間 に は, タ ー ミネ ー タ ー と 考 え ら れ る 配 図5. E. coli の β-グ ル コシ ド ・オ ペ ロン の発 現 制 御 モ デ ル PO : IS5変 異 に よ り機 能 す る よ うに な り, カ タボ ライ ト抑 制 を 受 け る プロ モ ー タ ー。T1, T2 : タ ー ミネ

ー タ ー。BglG : ア ンチ ター ミネ ー ター でT1とT2に 作 用 す るが, E II^<Bgl>また はE III^<Glc>より リン酸 を

転 移 さ れ る と アン チ タ ー ミネ ー タ ー能 を 失 な う。P∼EP : ホ ス ホ エ ノ ー ル ピ ル ビン酸 (文献47よ り改 変)。

(12)

グラム陽性細菌 の糖輸送系 とカタボ ライ ト制 御 37

列 が 存 在 す る 。SacTの ア ミ ノ酸 配 列 は, や は りE. coli

BglG蛋 白 質 と非 常 に 類 似 し て お り, SacT蛋 白 質 は,

E. coli bgl オ ペ ロ ン と 同 様 に, E II^<Scr>お よ びE II^<Glc>の

E III^<Glc>類似 ド メ イ ン と リ ン 酸 転 移 に よ る ク ロ ス トー ク で ア ン チ タ ー ミ ネ ー タ ー 制 御 系 を構 成 し て い る と 考 え ら れ て い る^<48)>。

IV. カ

タボ ラ イ ト制 御 の応 用 の 可 能 性

以 上, グ ラ ム陽 性菌 の カ タボ ライ ト制 御 に つ い て 述 べ て きた。 グ ラ ム陽 性菌 に は産 業 上 有 用 な菌 も多 い が, も し固 定 的 な カ タボ ライ ト制 御 を 自由 に操 作 で きれ ば, よ り多 様 な 利 用 の 可能 性 が 開 け る の で は な いだ ろ うか 。 以 下 にそ う した 応 用 の一 例 と して, 筆 者 らの 醤 油乳 酸 菌 Pediococcus halophilus で の研 究 を 紹 介 した い 。 醤 油 の発 酵 諸 味 は, 高 食 塩 で あ る と同 時 に高 濃 度 の糖 類 お よび ア ミノ酸 を 含 み, 醤 油 の 色 は両 者 の ア ミノカル ボ ニル 反 応 に よ り生成 され る。 諸 味 に は 最 高 時, 400mM に達 す る グル コ ー ス と20∼30mMの ガ ラ ク トー ス, ア ラ ビ ノ ー ス, キ シ ロー ス が 含 ま れ る。 この うち ペ ン トー ス (キ シ ロー ス, ア ラ ビ ノー ス) は量 は少 な い が, 褐 変 へ の寄 与 は 著 しく大 き く, も し発 酵 過 程 で これ を選 択 的 に 除 去 で きれ ば, 淡 色 で安 定 な 醤 油 の 製 造 が 期 待 で き る。 そ こ で発 酵 過 程 に お け るペ ン トー ス の 選択 除 去 を 可 能 とす るた め, 醤 油 乳 酸 菌 P. halophilus を用 い て ペ ン トー ス優 先 代 謝 性 菌 の育 種 を行 な った。P. halophilus に は ペ ン トー ス発 酵 能 を もつ 株 も存 在 す る が, や は リグル コー スを 他 の糖 よ りも優 先 して代 謝 す る (カ タ ボ ライ ト 制 御)。 した が って ペ ン トー ス の選 択 的 除 去 の た め に は, 高 濃 度 (∼400mM) の グル コー ス 存 在 下 に も, ペ ン トー スを 優 先 して代 謝 し うる株, す なわ ち カ タボ ライ ト制 御 の解 除 され た 株 を 育 種 す る必 要 が あ る。 本 菌 にお け る グル コ ー ス輸 送 系 お よび 内部 代 謝 系 の制 御機 構 の 解 析 の 結 果, 本 菌 に お い て は (1) マ ン ノー ス : PTS∼ 解 糖 系, (2) 非PTS性 グル コー ス パ ー ミア ー ゼ (GP) ∼ グル コ キ ナ ー ゼ (GK) ∼ 解 糖 系 の, 2種 の主 要 な グル コ ース輸 送 お よび 代 謝 系 が 存 在 す る こ と, さ ら に 変 異 に よ り導 入 され た マ ン ノ ー ス : PTSのE II^<Man>コ ンポ ーネ ン トの 欠 損 が, グル コ ー ス に よ る カ タ ボ ラ イ ト 抑 制 を解 除 す る こ とを 見 い だ した^<49,50)>。こ の知 見 に基 づ き, 上 記 の2経 路 を ブ ロ ック した 株, す な わ ちE II^<Man^-> PFK^-GK^-三 重 欠 損 株 を育 種 す る こ とに よ り, カ タ ボ ライ ト抑 制 が解 除 さ れ, 高 濃 度 グル コ ー ス の共 存 下 に も ペ ン トース を 選 択 発 酵 す る菌 が 得 られ た^<51)>。 さ らに 選 択 効 率 の よい 菌 を 求 め て研 究 を進 めた とこ ろ P. halophilus のEI欠 損株 に お い て は 非PTS糖 で あ る 図6. B. subtilis レバ ナ ー ゼ ・オ ペ ロン の 発現 制 御 モ デ ル → ← : ター ミネ ー タ ー, Pf : フル ク トー ス誘 導 性 プ ロモ ー タ ー, levDEFG : フル ク トー ス : PTSを コー ドして い る 。 levR : 正 の 転 写 制 御 因 子LevR (ア ク チ ベ ー タ ー) を コー ドして い る 。培 地 中 に レバ ンが な くな り, 結 果 と して フル ク ト

ース が 消 失 す る と, EIII^<Fru> (フ ル ク トー ス特 異 的EnzymeIII) よ りEII^<Fru> (フ ル ク トー ス 特 異 的Enzyme II) を 介 して

の フル ク トー スへ の リン酸 転 移 が 起 こ らず, リ ン酸 はE III^<Fru>よりLevR蛋 白 質 へ転 移 さ れ, リン酸 転 移 を 受 け たLevR

は ア クチ ベ ー タ ー 活 性 を 失 う。

(13)

38 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 37 No. 5 (1992) マ ル トー ス お よび グ リセ ロール の取 り込 み は グル コー ス に よ り阻害 さ れ るが, キ シ ロー ス お よび ア ラ ビ ノー ス の 取 り込 み は 非PTS性 で あ りな が らま った く阻 害 され な い こ とが 見 い だ され た 。 す な わ ち P. halophilus の ペ ン トー ス取 り込 み 系 は, B. subtilis の非PTS型 ソル ビ トー ル 取 り込 み 系 の 例 を 除 い て^<52)>, 今 ま で に知 られ た いか な る細 菌 の 非PTS糖 取 り込 み 系 と も異 な り, 非PTS取 り込 み 系 であ りな が ら inducer exclusion な どの カ タ ボ ライ ト阻 害 を 受 け ず, ペ ン トース 代謝 系 の遺 伝 子発 現 が PTS糖 に よ る カ タ ボ ライ ト抑 制 の み を受 け る特 異 な系 で あ る こ とが 判 明 した 。 筆 者 らは この 性 質 を利 用 して, ペ ン トー ス発 酵 性 P. halophilus にE II^<Man^>EI^-二 重 欠 損 を導 入 す る こ とで, グル コ ー スに よ る カ タボ ライ ト 抑 制 を解 除 す る と とも に, inducer exclusion 感 受 性 の 差 異 を利 用 した ペ ン トー ス の高 度 選 択 代 謝 に成 功 してい る^<53)>。 お わ りに 以上, グ ラム陽 性 菌 の カ タ ボ ライ ト制 御 に つ い て, 糖 の取 り込 み 機 構 との 関 係 も含 め て述 べ て き た 。 カ タ ボ ライ ト抑 制 に 関 して は, グ ラム 陰 性菌 の E. coli にお け る グル コー ス : PTS∼cAMP-CRP系 に よ る機 構 が あ ま りに も有 名 な た め に, す で に解 明 しつ くされ た か の よ うな錯 覚 に さ え陥 りが ち であ る。 しか し, グ ラ ム陽 性 菌 で は, cAMPが 存 在 しな いか, ほ と ん ど検 出 され て い な い場 合 が 多 く, グル コー ス : PTS∼cAMP-CRP系 に よ る機 構 とは 異 な る, 新 た な カ タ ボ ラ イ ト抑 制機 構 を 想 定 す る必 要 が あ る。 研究 の 潮 流 は Bacillus を 中 心 に カ タ ボ ラ イ ト抑 制 を受 け る オ ペ ロ ンの分 子 遺 伝 学 的 解 析 が 中 心 とな っ て い る。 先 に紹 介 した よ うに, グ ラ ム 陽 性 菌 にお い て も カ タ ボ ライ ト抑 制 に 必 要 な コ ンセ ンサ ス DNA配 列 が推 定 され, 今後, そ の配 列 に相 互 作 用 を な し うる蛋 白質 を求 め て研 究 が 進 め られ る であ ろ う。 カ タ ボ ライ ト抑 制 の解 析 に お い ては, 対 象 とな る異 化 代 謝 系 遺 伝 子 発 現 の イ ンデ ューサ ー とな る基 質 の取 り込 み が, グル コー ス な どの優 先 代 謝 基 質 に よ り阻 害 され る (カ タ ボ ラ イ ト阻害) こ とに よ り, 発 現 が 抑 制 され る現 象 と, カ タ ボ ライ ト抑 制 を区 別 して考 え な けれ ば な らな い。 カ タ ボ ライ ト阻害 機 構 につ い て は, す で に述 べ た よ う に グラ ム陰 性 菌 と共 通 の機 構 に加 え, グ ラ ム陽 性 菌 に特 有 の機 構 が存 在 して い る。 カ タ ボ ラ イ ト阻 害 では, 細 菌 の糖 の取 り込 み機 構 と して広 く分 布 して い るPTS系 が 中心 的 役 割 を果 た して い る。 グ ラム 陰 性 菌 お よび 陽性 菌 め 間 で, PTS系 は ほ ぼ 共通 の糖 取 り込 み機 構 で あ りな が ら, グラ ム陽 性 菌 ではPTSが, 代 謝 状 態 (エ ネル ギ ー レベル お よび 代 謝 中 間 体 レベ ル) を よ り直 接 的 に反 映 した糖 の取 り込 み 制 御 機 構 ((1) HPrの セ リ ン リ ン酸 化 に よる活 性 調 節, (2) inducer expulsion 機 構, (3) 異 化 代 謝 系 酵 素 へ の リン酸 化 に よ る活 性 調 節 な ど) を構 成 して い る こ とは, 特 筆 す べ き こ とで あ ろ う。 PTSの 各 コ ンポ ー ネ ン トは, PTS自 身 の リン酸 カス ケー ドへ の リン酸 転 移 能 のみ な らず, (1) 異 化 代 謝 系酵 素 へ の リン酸 転移 に よる活 性 調 節, (2) 転 写 ア クチベ ー タ ー や 転 写 タ ー ミネ ー タ ーへ の リ ン酸 転 移 に よ る転 写 調 節, (3) ケ モ タキ シス ・シ グナル 伝 達 系 へ の リ ン酸 転 移 に よ る 制 御 な ど, そ の 多面 的 な リン酸 転 移 能 に よ り, 蛋 白質 問 ク ロス トー クに よ る シ グナ ル伝 達 と制 御 の精 緻 な ネ ッ ト ワー クを 構 成 して い る こ とが, 明 らか とな って きた 。 今 後, グ ラム陽 性 菌 にお い て は, 未 知 の カタ ボ ライ ト抑 制 機 構 の分 子 レベル で の解 明な らび に, そ の機 構 とPTS シ グナル ネ ッ トワー クと の統 合 的 解 釈 が 研 究 の 焦 点 とな る で あ ろ う。 また 応 用 面 にお い て は, 上 述 した 多 面 的 な カ タ ボ ラ イ ト制 御機 構 を 巧 み に 利 用 した, 新 た な 代謝 制 御 発 酵 法 の開 発 が期 待 され る。 最新のデー タを ご提 供いただきま した福 山大学工 学部生物工 学科教授藤 田泰太郎先生に深謝 いた します 。

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