新型コロナウイルス感染症(第一波)の最前線に立つ
医療現場における職員メンタルヘルス支援について
菊岡藤香* 尾 茂*
前例がない中,COVID-19患者を受け入れている医療現場で働く職員のメンタルヘル ス支援にあたった。第一波における主な支援活動は,職員の安全と安心を満たすため の具体的サポートであった。また,職員と組織の間のつなぎ役になる支援も行った。 我々は,本支援を災害等の緊急時における支援として理解すべきであるということを 経験から学んだ。また,職員と組織の関係性への介入や組織をシステムとして捉えた アプローチなど,コミュニティ心理学的な視点による支援が有用だと考えられた。 キーワード:COVID-19,医療従事者,メンタルへルス支援,緊急支援,コミュニティ 心理学 I . はじめに 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19) の感染拡大の影響により,人類はかつてない感 染症の脅威を経験している。我が国では,史上 初の「緊急事態宣言」が発令され,休業要請や 外出自粛など,私達の生活や働き方は大きく変化 した。そして,こうした変化は「医療現場」の中 でも起こっていた。 COVID-19と診断された患者やその疑いがあ る患者(以下,患者)は,主に「感染症指定医 療機関」へ入院することになる。筆者の勤務す る医療機関は,第2種感染症指定医療機関とし て,令和2年2月,クルーズ船からの患者受け入 れが始まった。その後,感染者数は爆発的に増 加し,受け入れ患者数は,感染症指定医療機関 としての規定病床数をあっという間にオーバー した。しかし,更に感染拡大が続く中,多くの 感染症指定医療機関では,規定病床数を超え てもなお患者の受け入れを続けざるを得ない事 態にあった。当院も例外ではなく,規定病床数 を超えた後も患者の受け入れは続き,感染症内 科のみで対応することはもはや不可能な状態で あった。そこで,一般病棟をCOVID-19対応病 棟へと再編し,内科や救急科が中心になりなが ら,全職員が総力を挙げて対応にあたった。こ れに伴い,当院における従来の組織体制や機能 は一気に崩れ,職員の生活や働き方も急変した。 こうした状況の中,筆者は,COVID-19と対 峙する当院職員のメンタルヘルス支援に携わる こととなった。本稿では,急速拡大した感染が 減少に転じ始めた頃までの間(2020年1月末か ら5月末頃までの「第一波」と呼ばれる時期) に行った支援活動を振り返りながら,COVID-19 治療の最前線に立つ医療現場で働く職員へのメ ンタルヘルス支援の在り方について考察したい。 II . 当院の特徴 当院が有する機能や組織体制について説明し ておくことは,本稿を進める上で重要な要素で ある。そこでまず,当院の特徴について明記し ておく。 * 公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院 doi: 10.20748/jabp.29.2_90当院は,東京都と協働して事業等の執行や政 策実現に向けて連携する東京都政策連携団体の 一つ,東京都保健医療公社が運営する病院であ る。診療科は29,病床数は411床,令和元年度 の職員定数は551人となっている。 当院では,「救急医療」,「脳血管疾患医療」, 「がん医療」の3つを重点医療に掲げ,「緩和医 療」,「周産期医療」など特色ある医療に積極的 に取り組んでいる。また,都立病院と共に「感 染症医療」,「精神科救急」などの行政的医療の 提供を行っている。「感染症医療」に関しては, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に 関する法律による第2種感染症指定医療機関に 指定されており,感染症病床(20床)を平時 から有している。 III. 支援体制の変遷 1. 各専門職が個々に対応(2020年2月∼3月) 筆者ら常勤心理職者は,院内職員相談室の相 談員も担っており,平時から職員メンタルヘル ス相談に応じている。また,医療事故後の職 員の心理的ケアなどにも携わった経緯等もあ り,クルーズ船からの患者受け入れが開始した 直後,看護部からの要請を受け,上司の命によ り,COVID-19患者対応職員のメンタルヘルス 支援にも取り組むこととなった。具体的には, COVID-19対応病棟に勤務する職員(主に看護 師)の中で,心身不調を呈していたり,ストレ スを抱えた者を見つけたりした場合に,その個 別相談に応じて欲しいとの要望であった。筆者 らからは,個別相談の他にも,ストレスチェッ クを実施するなど,一次予防を積極的に図って いく方法があることについても提案した。看護 部と上司らの協議の末,まずは,個別相談窓口 案内を添えつつ,COVID-19対応下に起こりや すいストレス反応やその対処法に関する情報 提供や啓発を行うこととなった。また,後々 に必要性が高まる可能性も想定して,ストレス チェック実施に向けての準備も開始した。併せ て,受診を要するような精神不調をもつ職員を 発見した際に備え,院内精神科にも協力を依頼 した。 2. 支 援 チ ー ム 発 足: 組 織 的 支 援 が 開 始 (2020年4月∼6月) その後も患者受け入れは止まらず,一般病 棟がCOVID-19対応病棟へ再編されることとな り,にわかに職員の配置や担当業務の転換が行 われた。また,救急科医師からの「この危機的 状況においては,多職種によるチームを編成 し,病院をあげて職員のメンタルヘルス支援に 取り組むべきではないか」との提案が契機とな り,「COVID-19対応職員心理支援チーム(以 下,チーム)」が結成される運びとなった。 チームは,精神科医師(3名),救急科医師, 認定看護師,公認心理師で構成された。筆者ら は,過去にいくつかの院内緊急支援に携わって きていた。その中で,緊急支援においては,支 援に携わる者が迅速かつ柔軟に協働して支援を 実行できるよう,職種による配属先の違いを超 えた独立組織として存在できることの必要性を 強く実感していた。こうした経験を踏まえ,決 起会及び第一回ミーティングでは,「緊急事態 に対する支援」としてのチームの在り方,方針 や活動内容,組織的体制等について,チーム員 とCOVID-19担当副院長で協議を重ねた。その 結果,平時の指揮命令系統とは異なる独立組 織として,チームは担当副院長の直轄に置かれ た。そして,活動における迅速かつ果断な決断 力や実行力,管理部門に対する一定の要望や発 言権が担保されることとなった。週1回定期的 にチームミーティングを行い,ミーティング後 は議事録を作成し,担当副院長へ報告を行っ た。
IV. チームによる活動内容 緊急時における支援原則に基づき,チーム活 動は,まず,COVID-19対応病棟を中心に職員 から直接聞き取りをしながら,各現場でどのよ うな問題が生じており,どのような支援が求め られているのかを把握するところから開始し た。その結果,大きく二種類の課題があること が整理されてきた。一つは,病棟編成に十分な 準備期間を設けることができなかったことが要 因となり,資材や物資の置き場や動線,人手不 足など,「職場環境」「人員体制」上の課題が 職員のストレスに関与しているということだっ た。そこでチームは,収集された意見や情報 から共通する組織的課題を抽出し,管理部門 に対して,対応策案を添えて,改善に向けた 提言を行った。もう一つの課題は,感染リス クや知識・技術不足など,「未知の感染症であ るCOVID-19に対峙することに対する不安」で あった。また,この課題が未解消であることが 要因となって,職員の間に組織への不信感や苛 立ちが募るなど,職場内のコミュニケーション に不調和が生じている様子も捉えられた。こ れについては,正しい情報の提供や啓発を行 い,不要な不安を軽減することが急務と考えら れた。ちょうどその頃,当該病棟において,重 症患者対応の勉強会を行う計画があがってい た。そこで,その勉強会の前後の時間を情報提 供と啓発に充てることとした。当日は,日本 赤十字社による「新型コロナウイルス感染症に 対応する職員のためのサポートガイド」「スト レスチェック」を当院用に手を加えた資料を配 布し,COVID-19流行下に起こりやすい心身反 応などについて説明をした。また,リラクセー ションなど,セルフケアに関する啓発資料も配 布し,チームへの相談方法を共有した。 また,看護部の管理者側からチーム宛てに, 業務に支障をきたすほどの不調者はないもの の,強いストレスを抱えていそうな職員,気が かりな職員が見受けられるとの情報が届いた。 そこで,病棟管理者の協力を得て,チームから 能動的に職員へ声掛けして個別面談へ繋ぎ,何 か心配なことや気がかりなことはないか,確認 していくこととした。対象者は看護師であるこ と,また,できるだけ自然な会話の流れで個別 面談へ繋ぎたいという狙いから,初期対応は チームの認定看護師が行い,精神科医師や心理 師は,必要に応じてそのフォローに回ることと した。併せて,時間や場所などを問わず,いつ でも気軽に相談できる環境を整えるため,メー ル相談窓口も設置した。この個別面談を重ねる 中で,職員のストレスの多くは,「自分が感染 して,他患や家族にうつしてしまうのではない かという不安」「万一,自分が感染してしまっ た場合の補償や手当に関する不安や疑問」「今 後の人員体制に対する不安や疑問」にあること が分かってきた。またそこには,「情報が十分 に現場へ伝達されていない」という要因も加味 されていた。実際には,情報は適宜発信され ていたのだが,方法や手段(メール配信,口頭 説明など)が現場事情(メールを確認する時間 的ゆとりがない,交代勤務など)と一致してい ないことが明らかとなった。同時に,人事評価 者にあたる上司や管理部門の者に,こうした不 安や疑問を率直に吐露したり質問したりするこ とに躊躇いを感じる職員も少なくないという実 情も見えてきた。かつて経験したことのない未 知のウイルスによる感染拡大が世界的に加速す る中,ある日突然,その治療の最前線に立たさ れることになった職員が,自身の身の安全に不 安を抱くのは自然なことである。チームでは, COVID-19対応現場で働く全ての職員が,安全 保障感や安心感を持てることが何より優先され るべきことと考えた。そこで,万一,職員が感
染してしまった場合の補償や手当等について 明文化したものを早急に当該病棟の休憩室へ 掲示してもらうよう,管理部門へ要請した。ま た,職員が安心して働き続けられるようにする には,職位や立場にとらわれることなく,言い づらいことや聞きづらいこと,どんな不安や疑 問でも自由に発言や吐露できる環境を整える必 要もあると考えた。そこで,当該病棟に「意見 箱」を設置し,自分の健康に関すること,環境 や業務に関すること,困っていることや感じて いること,こうして欲しいと考えることなど, 記名を義務付けず,自由に発言できる環境を整 えた。加えて,定期的に意見箱の回収ラウンド をしながら現場の状況を確認したり,職員への 声掛けを行ったりした。 職場における職員の心の健康づくりは,支援 チームや特定の専門職によってのみ果たされる ものではなく,管理監督者(上司や施設管理者 などの管理部門)による「ラインケア」が欠か せない。そこで,日本赤十字社のサポートガイ ドを参考にしながら,院内各部門の管理者に対 する啓発も,適宜,行った。具体的には,病院 組織が一体となってCOVID-19対応に取り組む という姿勢を明確に示すこと,現場を定期巡回 したり,労いや温かなインフォーマルな声掛け をしたりを積極的にすることなど,管理部門者 だからこそできるサポートについて,助言した。 その後,現場では,言いっぱなし聞きっぱな しの,同僚間の何気ない愚痴のこぼし合いや茶 話会が互いの助けとなったようで,かつてスト レス反応を呈していた職員も,悪化することな く落ち着きを取り戻してきた様子であった。一 方で,重症患者対応をしていた職員の中には, 短期間に多くの患者を看取る体験が重なり, 「自分達の対応は本当にこれで良かったのだろ うか」と吐露する者も見られた。看取りに対す る未消化な感情は,日々の業務への影響だけで なく,バーンアウトにもつながりかねないもの である。個別相談の他に,こうした体験を振り 返り,今後の医療の質向上に役立てる方法(デ スカンファレンス)もあることを情報提供し, その実施にあたっても,チームが協力できる旨 をお伝えした。 そして,緊急事態宣言が解除され,第一波が 収束へと転じつつある頃,受け入れ患者数の減 少に伴い,現場では物理的なゆとりが見られる ようになってきた。精神の健康は肉体の健康の 上に成り立つものである。そこでチームは管理 部門に対して,この時期に職員が肉体的な休息 をしっかりと取得できるよう,シフト体制の見 直しや積極的な休暇取得などについての提言を 行った。 V . 考 察 1. 支援の第一歩は安全と安心:医療現場を 「災害地」と理解して支援すること 支援のねらいは,当初,COVID-19対応に伴 う心身不調のケアなど,職員個人へのアプロー チにあった。しかし,実際,職員のストレスの 多くは,「職場環境」や「人員体制」「感染リス クに対する補償」など,COVID-19と対峙する 現場で働くことに伴う「安全」や「安心」を十 分に得られていない点にあった。米国の心理学 者Maslow(1954)は,人間の生来的欲求には優 先性の階層があり,自己実現へと向かう成長動 機は,生命維持に必要な「生理的欲求」,身の 安全や身分の安定を求める「安全の欲求」など が満たされて初めて作動すると述べている。つ まり,「生理的欲求」「安全の欲求」は,人間の 根源的で欠かすことのできないものだと言える。 また,米国の心理学者Herzbergは,人間のモチ ベーションについて研究し,これを「衛生要因」 と「動機づけ要因」とに分けた。この2つの要 因のうち,仕事に対する満足感は,達成感,他
者評価,仕事内容,責任感など,個人的成長等 の「動機づけ要因」に,仕事に対する不満足は, 組織方針,職場環境,給与,地位,雇用保障と いった「衛生要因」によって左右されると述べ られている(DIAMOND, 2009)。本稿執筆に着 手しようとしていた頃,当院と同じくCOVID-19 対応に尽力されている病院で,看護師の集団退 職というニュースが流れた。COVID-19対応の 影響で経営に打撃を受けている病院が,職員の ボーナスをカットすると発表したことが契機だ という。これは仕事に対する不満と「衛生要因」 の関連を示す具体的な事例だろう。医療従事者 は援助者である前に一人の人間である。専門家 としてその能力を十分に発揮し,社会貢献に資 するためには,まずはその身の安全や安心が保 障されること,これがどのような支援よりも優 先されるべきではないだろうか。 COVID-19患者の受け入れが絶え間なく続く ことで,病院の従来の組織体制や機能は崩れ, 職員の生活や働き方,院内の環境は大きく,そ して急激に変化していた。災害の定義は,「巨 大な破壊的なできごとによって人や周囲の環 境に極めて重大かつ急激な変化が発生し,外 部からの大規模な援助が必須となるような非 常事態」とされている(石井,2010)。つまり, COVID-19対応の最前線に立たされた医療現場 を「災害地」として考えることができ,そうす ることで職員支援の在り方も理解しやすくな る。国連と国際的な人道支援組織で構成され たIASC(Inter-Agency Standing Committee:人 道 機関間常設委員会)が2007年に策定した「災 害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会 的支援の指針」に関するガイドラインでは,日 本で言うところの「心のケア」を「精神保健」 と「心理社会的支援」として捉えて整理してい る(小林・丹羽,2020)。「精神保健」は,精神 科医師や公認心理師などによる治療を中心とし た専門的支援を意味し,「心理社会的支援」は, 個の内面に対して行う心理的支援と,その人を 取り巻く環境や周囲の人間関係を支援する社会 的支援の両面を持ち,日常生活支援を意味す る。填島(2011)は,「精神保健」と「心理社 会的支援」とはまったく異なる概念であるが, 両者は競合するものではなく,その必要性に応 じて各層の支援者間の協力関係を構築するこ とが重要だと述べている。また,鈴木(2011) は,心理的支援をする場合でも,社会的支援の 存在が前提であると指摘し,衣食住などの確 保,環境の向上を図ることで,結果として心理 的安寧につながることが多いと述べている。図 1に示すように,支援はより基本的なものから 専門的なものへ至る層別構造となっている。精 神保健に携わる専門家として,個別支援を狙っ て開始した支援活動であっても,その活動の中 で,「社会的支援」や「一般的支援」へのニー ズをキャッチした場合には,自分達の役割を大 きな枠組みで理解し,支援に必要な部門との協 力や連携を図りながら,速やかにその解決に臨 むことが重要であろう。 「専門的支援」は精神保健に携わる専門家の本 務である。そのため,職員メンタルヘルス支援 を考える時,本務である精神障害の予防や治療 図1 多層的支援構造(IASCガイドラインをもとに改 変)
といった「専門的支援」に自ずと意識が向きや すい。しかし,少なくとも筆者が経験した支援 活動においては,「安心」「安全」といった「一 般的支援」や「社会的支援」の不足があり,そ の解消こそが職員のストレス軽減を図るための 優先課題だと考えられた。そこで,それらを解 消するための改善案を管理部門へ提言するとこ ろから支援は始まった。心理援助の基本は,対 象者のニーズを引き出し,要望に応えることで あり,これこそが心理援助者の仕事である(田 嶌,2009)。IASCガイドラインでも,ニーズを的 確に捉え,優先的に取るべき行動を特定し,適 切な対応を導き出すためには,状況分析を怠ら ないこと,と強調されている。心理支援を開始 するにあたっては,今,そこでどのようなこと が起き,どのようなことが求められているのか, 現場の状況をアセスメントし,ニーズを丁寧に み取り,地道かつ柔軟に適した支援につなぐ ことが必要だろう。医療従事者は社会的責務を 背負い尽力している。自分達は援助をする立場 の者であり,それを受けるに値する側にあると いう意識を持ちにくい。職員メンタルヘルス支 援にあたる者は,医療従事者の役割や思いを理 解し尊重しながら,必要な支援が必要な時に提 供されるように配慮していくことが重要だろう。 2. 職員と組織との「つなぎ役」になること 心理支援というと,個人へのアプローチのイ メージが強い。しかし,個人は周囲の人間や, 所属するコミュニティや組織などからの影響を 受けながら存在しており,課題は必ずしも個人 に回帰されるものばかりではない。組織からの サポートやそのあり様によっても,職員の心の 健康は左右される。つまり,職員メンタルヘル ス支援にあたっては,職員個々のセルフケア力 向上を求めるだけではなく,所属するコミュニ ティや組織からのサポート力も向上させていく ことが必要となる。 厚生労働省では,「労働者の心の健康の保持 増進のための指針」を定め,職場におけるメ ンタルヘルス対策を推進している。指針には, 「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内 産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場 外資源によるケア」の4つのケアの重要性が謳 われている。ラインケアは,管理部門の者が 部下の心のケアや職場環境の改善をする取り 組みのことであり,「組織からのサポート」を 意味する。労働安全衛生法に基づき,労働者 (職員)の心の健康保持増進を図ることは事業 者(組織責任者)の責務となっており,組織に おいてラインケアは平時から実践されているも のである。また,COVID-19に対応する職員支 援でも同様に,個人のセルフケア力には限界が あり,組織からのサポートが極めて重要となる (日本赤十字社,2020)。実際,東日本大震災や SARS流行下において,職員の心の健康保持に 組織からのサポートが有効だったと報告され ている(平野,2018; Wu, Fang, Guan, Fan, Kong, Yao, Liu, Fuller, Susser, Lu & Hoven, 2009)。
しかし,組織責任者をはじめとする管理部 門もまた,COVID-19対応の最前線の病院の中 で,職員の先頭に立って病院マネジメントに奔 走しており,職員と同じく混乱した現場に身を 置く当事者である。平時には実践できているケ アでも,危機的状況下においては,それが後手 に回ってしまったり,十分に機能していなかっ たりすることも考え得る。実際,当院において も,管理部門が対外的業務や管理業務(行政対 応や病院経営など)に追われ,通常のラインケ ア(職員個々への対応や職場環境の改善など) が十分に行き渡らないことが現場職員の不安 や不信感に影響していた。こうした機能不全に 陥っているラインケアが再び効果的に機能する よう,管理部門に対してアプローチしていくこ とは,平時の指揮命令系統から離れ,客観的に
組織を俯瞰することが可能な第三者的立場にあ るチームにだからこそ担える役割ではないだろ うか。 COVID-19対応の最前線に立つ医療現場にお ける職員メンタルヘルス支援では,個人へのア プローチと同時に,職員(現場)と組織(管理 部門)との間に生じる齟齬や不調和を修正した り,その関係性の橋渡しをしたり,職員と組織 との「つなぎ役」になることが重要だと考える。 3. コミュニティ心理学的な視点の有用性 田嶌(2009)は,現場の「ニーズを み取 り,引き出し,応える」ということを心がけて いるうちに,結果として,コミュニティ心理学 的アプローチをとることが多くなったと述べて いる。また,現場の「ニーズを み取り,引き 出し,応える」ためには,従来のように個人の 心の内面や深層に関わる姿勢だけでは不十分 で,多面的なアプローチが重要だと主張して いる。本支援でも,同様のことが言える。考 察1・2で述べた通り,本支援の対象は,当初, 職員個人にあった。しかし,COVID-19対応現 場のニーズを丁寧に み取り,それに応えてい く中で,結果として,個別相談よりも現場の声 から組織的課題を抽出して管理部門への改善に 向けた提言を行うなど,個人と組織との関係性 や組織システムへのアプローチが支援の軸と なっていた。 コミュニティ心理学の定義は,「複雑に相互 作用しあっている,社会システムと個人の行 動を結びつける心理学的過程全般について研 究を行う。この結び付けを概念的かつ実験的 に明らかにすることによって,個人,集団,お よび社会システムがよりよく機能するような活 動計画の基礎を提供する」というところから始 まっている(飯田,2014)。また,山本(2000) は,コミュニティの精神には,これまでの医療 や精神保健サービスの根本的な発想の転換を目 指し,現場のニーズに適合したサービス内容と サービス・システムづくりを目指し,システム そのものに問題があればそれを改善していこう とする姿勢が含まれると述べている。これらの 定義や主張は,前例がない中,筆者らが試行錯 誤しながら行ってきた支援活動の内容やその展 開プロセスと重なり合っている。このことか ら,COVID-19に対峙する職員メンタルヘルス 支援にあたっては,コミュニティ心理学的な視 点や援助の手立てが有用だということが理解で きるだろう。 4. 課題や困難さ 1) 組織のチームワークを維持することの難 しさ IIで述べた通り,当院には,感染症医療だけで なく,その他の行政的医療から地域医療支援病 院としての機能まで,多様な役割が期待されて いる。従来の病院機能を維持しながらCOVID-19 対応にも貢献するには,当該部門関係者だけで なく,他部門や他部署,他病棟,組織全体に影 響が及ぶ。組織体制や病床運営は一夜にして変 化し,今までにない業務が求められるようにな る。たとえCOVID-19に直接従事することはな かったとしても,職員は皆それぞれの持ち場に おいて担当業務(従来の病院機能維持)を果た すことによって,間接的にCOVID-19対応に従 事している。つまり,部門や部署,職種を問わ ず,病院が一つのチームとなって,チーム目標 (COVID-19対応の最前線に立つ医療現場として の使命を果たす)に向かって尽力しているので ある。しかし,どうしても注意の目はCOVID-19 に直接従事している部署や職種に向くことが多 い。また,立場や役割によって届く情報や体験 が大きく異なり,見える世界が違うため,意識 や考え方にも違いが生まれやすい。実際,当院 でも,COVID-19対応している病棟に対して他病 棟から「患者数が少なくて楽だろう」「手当がつ
いて羨ましい」といった声が挙がるなど,病棟 間の軋轢やコミュニケーション不和が生じる出 来事があった。こうした部署や立場の違いによ る温度差,組織内の軋轢や孤立感は,職員全員, 組織全体でCOVID-19対応をしているのだという 意識を薄めたり,育てにくくしたりする。 国分(1985)は,チームワークとは,集団の 目標に向かって各自の仕事がスムーズに機能し ていることであり,特に誰のおかげといいえ ない状況のことであると述べている。これは, チームワークは,持ち場が異なる各メンバー が,チームの共通目標に向かって互いに協力し ながら成果を生み出しているという認識の元に 成り立つものだということを意味する。また, 国分(1985)は,チームワークは集団の目標達 成のために必要というだけでなく,各個人の精 神衛生のためにも必要だとも述べており,チー ムワークの乱れは,職員の心の健康を阻害する だけでなく,バーンアウトや離職など,その後 の職業人生にも影響を及ぼしかねない,重要な テーマだと言える。 チームでは,チームワークの意味やその重要 性,チームワークの乱れがもたらす精神衛生上 の影響等について管理部門へ提言してきた。従 事する部署,職種や立場,与えられた役割は異 なっていても,同じ組織に属する者同士,共通目 標(COVID-19対応の最前線に立つ医療現場とし ての使命を果たす)に向かい支え合っている仲 間であるという意識,組織チームワークをどれだ け醸成し,維持することができるか。これが本 支援における一つの課題ではないかと考える。 ある現場職員が語った言葉がとても印象的 だった。「私達は医療現場に従事する人間です。 この情勢の中,ある程度の自己犠牲は皆覚悟の 上です。だけど,私達にも心があります。何気 ない一言で傷つくことだってあれば,頑張ろう と思えることもあります。別に,上司や他部署 の人達から感謝をしてほしいとか,そういうこ とではないんです。何かしてもらったら「あり がとう」とか頼む時には「よろしくね」とか, 同じ病院に勤めている仲間として,人としての 当たり前の思いやりとか気遣いとか,こういう 時だからこそ,そういうことが大事なんじゃな いかと思うのです。」本稿を執筆している今, 感染拡大は既に第三波の渦中にある。終わりが 見えないCOVID-19との闘い,努力や苦労が報 われない虚しさ,途方もない無力感が,私達職 員一人一人の相手を思いやる心のゆとりをじわ じわと奪い取り,平時には自然に成り立ってい た組織のチームワーク意識をも破壊しているの ではないだろうか。 2) 情報共有の難しさ 刻一刻と変化する情勢に,行政等からの情報 や指示も流動しやすい。曖昧な情報は混乱や不 安を引き起こす要因にもなりうるため,管理部門 の立場からは,情報管理や伝達に慎重にならざ るを得ないのは当然だろう。しかし,同時に現場 では,情報が届かない,共有されないことに起 因した不安や不満が生じやすいというのも事実 である。情報は,多すぎても少なすぎても心の 負担となる。立場の違いによる情報共有の難し さを,支援活動を通じて繰り返し痛感している。 チームでは,こうした課題に対して,管理部 門と現場,両者の苦労に共感し,情報管理に慎 重にならざるを得ない状況をノーマライズしな がら,情報が適切に共有されないことによるデ メリットについて心理学的な視点から理解を促 し,職員の心身の健康を保持するために,情報 共有をどこまでどのようにすべきかを共に考え る支援を続けている。情報共有の課題をクリア にすることは困難でも,情報共有を巡って組織 内で起こっている現象を包括的に捉え,現場と 管理部門との関係性に支援することは可能かも しれない。これもまた,平時の指揮命令系統を
離れ,組織を客観的に俯瞰することが可能な第 三者的立場にあるチームにできる一つの役割な のかもしれない,と考えている。 VI . おわりに 本稿は,前例がない中,筆者らが通常業務と 並行して活動しうる範囲の中で,考えて,動い て,試行錯誤しながら行ってきた支援経験をも とに論考したものである。COVID-19対応の最前 線に立つ他の医療機関の実情と照らし合わせる こともなく,支援の成果について客観的評価を得 たわけでもない。本稿を執筆している現在,感 染拡大の第二波の最中にあり,今も支援活動は 継続しているが,支援上の課題や支援の手立て も情勢と共に変化していく可能性もあるだろう。 ただ,そのような中でも,確かに得たと体感 する実践知もある。問題のアセスメントや現場 のニーズ拾いを丁寧に行い,それらに地道に実 直に応えていくこと。そして,個人へのアプ ローチだけでなく,個人が属する組織そのもの を一つのシステムと捉え,個人と組織の関係性 に介入することの大切さ。そこには,チーム構 成員の一人である筆頭筆者が日々の臨床で拠り 所としているブリーフセラピーの認識論や姿勢 なども,当支援における資源となって活かされ ていたのではないかと考えている。 本稿が,COVID-19対応に日々奮闘する医療現 場の職員メンタルヘルス支援を考える上で,一つ の手がかりとなることができれば幸いである。 引用文献 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集 部(2009)【新版】動機づける力:モチベーション の理論と実践.ダイヤモンド社. 平野美樹子(2018)大規模災害時における被災地外 救援者がおこなったストレス認知,ストレス対処 および組織的支援の特徴と精神的健康度との関 連.日本看護管理学会誌,22(1),30–41. 飯田香織(2014)コミュニティ心理学におけるコ ミュニティの定義とコミュニティ心理学の独自 性.立命館産業社会論集,49(4),79–99. 石井恵美子(2010)災害時の対応.山勢博彰編著. 救急・重症患者と家族のための心のケア.メディ カ出版,204–211. 小林深吾・丹羽郁夫(2020)仮設住宅入居者の視点 から災害ボランティアの関係性の意味づけが変化 するプロセスに関する質的研究:東日本大震災に おける長期的な心理社会的支援事例から.コミュ ニティ心理学研究,23(2),111–129. 国分康孝(1985)チームワークの心理学.講談社. 厚 生 労 働 省(2019) 職 場 に お け る 心 の 健 康 づ く り:労働者の心の健康の保持増進のための指針. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ 0000055195_00002.html,2020.8.23アクセス. 填島敏治(2011)災害支援において何を優先するの か.臨床心理学,11(4),478–482.
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Mental health support for health care professionals working on the frontlines
in the first wave of COVID-19
Fujika KIKUOKA*, Shigeru OZAKI*
Tokyo Metropolitan Health and Medical Treatment Corporation Toshima Hospital
Facing an unprecedented situation, we have provided mental health support for health care profes-sionals working in hospitals that tend to COVID-19 patients. During the first wave of COVID-19, our primary support was to help ensure their safety and security. We also acted as a liaison between staff members and their organizations. Through our experiences, we ascertained that we should conduct support activities corresponding to a crisis. Moreover, a perspective of community psychology, which considers organizations as systems, is valuable in developing effective interventions to preserve sound relationships between staff members and their organizations.
Key Words: COVID-19, health care professionals, mental health support, crisis interventions, community psychology