知的障害児の理解モニタリングに関する文献的考察
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第61巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.61,No.1. 平成22年8月 August,2010. 知的障害児の理解モニタリングに関する文献的考察. 北海道教育大学札幌枚特別支援教育方法研究室. AReviewofComprehensionMonitoringbyMentalRetardation MIURA Satoshi. DepartmentofEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 知的障害児の相互交渉の発達に関する検討課題を整理するため,理解モニタリングに関する先行研究を概 観した。その結果,研究の多くは健常児を対象としていること,そして評価場面によって対象児のモニタリ ング成績が大きく変動することが示された。そのため今後の課題として,自然な相互交渉場面における知的 障害児の理解モニタリングの発達的特徴を検討することと,理解モニタリングの個人差と関連する対象児の 要因について分析する必要性が指摘された。. Ⅰ はじめに 知的障害児は言語・コミュニケーションの発達. のダウン症児19名の言語プロフィールを,非言語 性知能の等しい健常児と比較したところ,理解語 彙には差がなかったが,文法理解はダウン症児の. に遅れがあることが報告されている。中でも出生. 方が有意に劣っていた。また文の想起成績や. 直後に診断が可能で,発達初期から研究を開始で. MLU,文法形態素(動詞の三人称単数と過去形. き,また対象児の原因疾患を特定できるダウン症. の語形変化)などの表出面でも有意に遅れていた。. 候群に関する研究が多い(西村・綿巻・水野・新. この様に知的障害児は言語表出だけでなく,言. 見,1984a;1984b;1984c;斉藤,2002)。例え. 語理解にも困難を示すため,他者とのコミュニ. ば岡崎・池田・長畑(1986)は,99名(延べ人数. ケーションにおいて相手の発話を理解できずに誤. 201名)のダウン症児に津守式乳幼児精神発達質. 解が生じたり,円滑な相互交渉が成立しない状態,. 問紙を半年ごとに実施し,15.6∼62.0ケ月時点で. すなわちコミュニケーション・ブレイクダウン. の発達特徴を分析している。その結果,発達年齢. 全般については,健常児に比べるとゆっくりでは あるが,加齢に伴って直線的に発達するが,「理解」 と「言語」だけは加齢に伴う遅滞が顕著であった。. またLaws&Bishop(2003)によると,10∼19歳. (Communication13reakdown)を頻繁に経験し ている可能性が考えられる。 その様な場合,リペアー・ストラテジー. (RepairStrategy)によって自らの理解困難な 状況を相手に伝え,相手も適切に応答することで,. 91.
(3) 三 浦. 哲. コミュニケーション・ブレイクダウンを回避する. ングは相手の発話そのものの聴取・理解は可能で. ことが可能である(三浦,1997;2000)。例えば. あるが,提示された課題遂行の観点から,相手の. 騒音などで相手の発話が聞き取れなかったり,未. 発話が十分であるか否かを判断する能力であり,. 知の単語が含まれていた場合,我々は「聞き返し」. 異なる概念である。ところが,上記の対象伝達課. によって自らの聴取・理解困難な状況を相手に伝. 題の様な設定された課題場面における理解モニタ. え,発話を反復してもらったり情報を追加しても. リング能力については,リペアー・ストラテジー. らうことで,コミュニケーション・ブレイクダウ. と明確に区別されることが多いが,自然な会話場. ンを回避しようとする。. 面で理解モニタリング能力を検討しようとする. しかしながら知的障害児は,上記のように言語 表出に困難がある上に,前言語期から言語発達初 期にかけて「要求」や「注意喚起」機能の表出に 遅れが認められる(Greenwald&Leonard,1979 ;Mundy,Sigman,Kasari,&Yirmiya,1988;長 崎,1995;長崎・池田,1982;斉藤,1989;. と,リペアー・ストラテジーとの明確な区別が困 難な場合が認められる。. そこで本稿では,理解モニタリングに関する先 行研究を概観・整理することで,知的障害児の相 互交渉能力に関わる発達的検討課題について考察 することとした。. Smith&vonTetzchner,1986)。また,年長の 子どもや成人についても,それらの遅れが持続す ることが報告されており(Brady,McLean,. Ⅱ 課題場面における理解モニタリンク. McLean,&Johnston,1995;Lobato,Barrera,&. (1)健常児について. Feldman,1981;McLean,Brady,McLean,&. これまで理解モニタリングは,対象伝達課題,. Behrens,1999),リペアー・ストラテジーの活用. 判断課題,そしてEVTD(ExpectancyViolation. にも困難がある可能性が推測される。. l)etectionTask)の3種類の方法で検討されてい. この点について,三浦(2001)はリペアー・ス トラテジーに関する先行研究を概観しているが,. る。 まず,対象伝達課題を用いた先行研究であるが,. 知的障害児を対象とした研究は見あたらないとさ. Cosgrove&Patterson(1977)は,4歳から10歳. れており,その後も知的障害児に関する研究結果. の健常児に対し,検者の言語指示に従って4枚の. は報告されていない。. 絵の中から1枚の絵を選択する対象伝達課題を実. 一方,リペアー・ストラテジーと類似した概念. 施した。その結果,8歳児であっても,2枚の絵. として「理解モニタリング(comprehension. に該当する曖昧な指示が提示された場合,2枚の. monitaring)」があり,それに関する報告がなさ. うちのいずれが正解なのかを質問せずに,任意の. れている。例えば検者の言語指示に従って4枚の. 1枚を選択した。また,10歳児でも,指示が全て. 絵の中から1枚を選択する対象伝達(referential. の選択肢に該当する場合には質問できるが,選択. communication)課題において,故意に複数の絵. 肢が二つある場合には質問せずに,任意の1枚を. に該当する指示を与え,被験児が検者の指示(メッ. 選択することが示された。. セージ)の不十分さに気づくことができるかどう. かを評価する方法等で検討されている。すなわち 「理解モニタリング」とは,相手の指示を自らが. Abbeduto,Davies,Solesby,&Furman(1991) は,お店屋さんごっこで検者が客の役,子どもが. 店員の役になり,客役の検者が複数の品物に該当. 理解できたかどうかを自己判断する能力のことを. するような曖昧な指示を提示した時の,店員役の. 示している。リペアー・ストラテジーが相互交渉. 子どもの明確化要求(requestforclarification). 中に生じた相手の発話そのものの「聴取・理解」. の自発状況を観察した。その結果,7歳児でも曖. 困難に対する表明であるのに対し,理解モニタリ. 昧な指示の28%にしか明確化要求を表出しなかっ. り2.
(4) 知的障害児の理解モニタリングに関する文献的考察. た。. これらの研究結果を参照すると,就学前の幼児. たが,10歳児(小学校4年生)は85%指摘できた。. つまり5歳児や小学校2年生は,相手からの質問. は理解モニタリング能力を有しないことが推測さ. の曖昧さを指摘することが困難であった。しかし. れる。そこで,Patterson,Cosgrove,&0’Brien. 明確な指示に比べて不明確な指示の時の方が反応. (1980)は,言語的な反応だけではなく非言語的. 時間が長かったため,年少児も指示の不明確性に. 反応も検討の対象とした。すなわち4歳から10歳. は気づいている可能性が示唆された。. の健常児に対し,Cosgrove&Patterson(1977). Patterson,0’Brien,Kister,Carter,&Kotsonis. と同様の対象伝達課題を実施し,検者による曖昧. (1981)は,年少児が理解モニタリング能力を表. な指示に対する子どもの言語的・非言語的な反応. 出できないのは,課題の認知的負荷が大きすぎる. を分析した。その結果,4歳児に対して複数の絵. ためではないかと考えた。そこで,幼稚園児(平. に該当する不明確な指示を提示したところ,言語. 均4歳7ケ月)と小学校1年生(平均6歳6ケ月). 的反応は観察されなかったが,話者への視線が有. の健常児を対象に,4枚の絵の中から1枚の絵を. 意に多く,反応時間や手の動きも多い傾向が示さ. 選択するための指示を提示した後で,「さらに手. れた。また6歳児と8歳児も反応時間が有意に長. がかりが必要かどうか」を質問することで,課題. く,体の動きや手の動きも有意に多かった。この. の認知的負荷を軽減させた。その結果,幼稚園児. ことから,理解困難を言語表出しない4∼8歳児. では全対象児の26%が,また小学校1年生では. であっても,非言語的には理解困難を表出してお. 64%の子どもが,8試行中7試行以上正答できた。. り,何らかの理解モニタリング能力を有すること. これにより,課題の難易度によって,モニタリン. が示唆された。. グ成績が変化することが示された。また,小学校. 上記の対象伝達課題では,被験児の自発的な反. 1年生であっても,課題の難易度を下げることで,. 応を観察しているため,検者からのメッセージの. 多くの子どもがモニタリング能力を表出できるこ. 曖昧さや不完全さに気づいていたとしても,それ. とが示された。. を行動レベルでは表出していない可能性が考えら. Bonitatibus&Flavell(1985)は,指示の碇示方. れる。そこで,相手からのメッセージが明確か不. 法の影響を検討した。/ト学校1年生30名の対象児. 明確かの判断を直接問う判断課題によって,子ど. を,従来の研究と同様に口答だけで提示する群と,. もの理解モニタリング能力を評価しようとした研. 口答と同時に文字も提示する群の2群に分けた. 究が報告されている。. Bearison&Levey(1977)は,5歳から10歳の. (ただし文字は口答指示が終了した時点で消去さ. れた)。そして,4枚の絵の中から1枚を選択す. 健常児に対して,短文を碇示後,短文に関する明. る課題を提示し,指示の適切性の判断を求めた。. 確な質問と不明確な質問を提示し,質問が適切か. その結果,口頭指示だけ提示された群の中でメッ. どうかの判断を求めた。例えば,最初に「Aは自. セージの適切性を正しく指摘できた対象児の割合. 転車をもらい,Bはコートをもらった」と言う短. が43%であったのに対し,口答指示に文字提示を. 文が碇示された場合,「Aがもらったのは自転車. 併用した群は77%であり,有意差が認められた。. ですか,コートですか」と言う質問は明確な質問. このことから,文字碇示することにより,指示自. であるが,「彼女がもらったのは自転車ですか,. 体を話者の意図から分離することができ,評価し. コートですか」と言う質問は,不明確な質問であ. やすくなった可能性が指摘されている。. る(なぜなら短文の登場人物であるAとBの性別. Sonnenschein(1986)は,小学校1年生と4年. が不明なためである)。その結果,5歳児は不明. 生を対象に,5つの積み木(色は4色)の中から,. 確な質問のうち,平均28%しか不適切性を指摘で. 指示に従って4つの積み木を正しい順序で1列に. きず,8歳児(小学校2年生)でも58%にとどまっ. つなげる課題を設定し,課題終了後に,対象児と. 93.
(5) 三 浦. 哲. は異なる並べ方を正解として示し,提示された指. (2)学習障害および言語障害について. 示が正しかったかどうかを訪ねた。その結果,小. Kotsonis&Patterson(1980)は,7歳と10歳. 学校1年生は,3つの積み木しか指示しない「不. の学習障害と健常児を対象に,判断課題を用いて. 完全な指示」の不適切性を94%指摘できたが,最. 理解モニタリング能力を検討している。まず最初. 後の積み木の時に二つの選択肢に該当する「曖昧. に,5項目からなるゲームのルールを教示し,1. な指示」が碇示された場合は65%,1列ではなく. 項目数示するたびに「遊び方が分かったか,もっ. 一つの積み木に二つの積み木がつながってしまう. と説明が必要か」を尋ねた。その結果,情報提供. 「矛盾した指示」が提示された場合は27%しか不. を求めた平均回数は健常児が4回,学習障害児が. 適切性を指摘できなかった。そして4年生でも「矛. 3回であり,健常児の方が情報提供を求める回数. 盾した指示」のうち59%しか指摘できなかった。. が有意に多かった。しかし,LD児も健常児も年. さらに「曖昧な指示」と「矛盾した指示」につい. 齢による発達的変化は認められなかった。. て,相手の話者が子どもの場合より大人の場合の. 言語障害児については,Skarakis−Doyle,Mac−. 方が不適切性の指摘が少なく,特に小学校1年生. Lellan,&Mullin(1990)が対象伝達課題を用い. でその傾向が強かった。. て検討している。対象は,表出と理解の両方に遅. 上記の対象伝達課題や判断課題に加えて,最近,. れのある5∼8歳の言語障害児(言語発達遅滞). EVTD(ExpectancyViolationDetectionTask). と,年齢の等しい統制群,言語理解の等しい統制. と呼ばれる方法を用いた研究結果が報告されてい. 群である。そして4枚の絵の中から指示に従って. る。これは,まず最初に物語の読み聞かせをし,. 1枚を選択する対象伝達課題における非言語行動. 次に同じ物語の一部を変更して読み聞かせをし. を観察した。その結果,いずれの群も,明確な指. て,最初の話と違っていることに気づくかどうか. 示が提示された時に比べて,2枚の絵に該当する. を観察することで,理解モニタリング能力を評価. 曖昧な指示の方が1.5∼2倍の非言語行動が観察. しようとする方法である。. され,また4枚の絵に該当する指示では2∼7倍. Skarakis−Doyle&Dempsey(2008)は,平均 年齢2歳10ケ月と4歳3ケ月の健常児に読み聞か せをした後,2回目の読み聞かせで内容を変更し. の非言語行動が観察された。非言語行動別の比較 では,年齢の等しい統制群は「視線」と「微笑み」, 「身体の動き」,言語理解力の等しい統制群は「視. て提示した時の反応を観察したところ,2歳10ケ. 線」と「微笑み」を表出することで理解モニタ能. 月児は37.5%に気づくことができたが,そのうち. 力を示していたが,言語障害児は「視線」だけで. の64%は非言語的な反応によるものであった。一. あった。また,言語で情報を要求したのは年齢の. 方,4歳3ケ月児は78%に気づき,その80%は言. 等しい統制群だけであった。そのため,言語障害. 語的に表出し,しかも68%は違いに気づくだけで. 児は,指示の曖昧さを言語で表出する前に検者を. はなく正解を指摘できた。そのため,2歳10ケ月. 見ることで表出しており,理解モニタリング能力. 児は初期の理解モニタリング能力を示し,4歳児. が獲得されていないのではなく,潜在しているが,. は明確なモニタリング能力を獲得していることが. それを表出できていない可能性が示唆された。. 示唆された。. この様に当初は,年少の幼児は理解モニタリン. 学習障害や言語障害を対象とした理解モニタリ. ング研究は,上記のKotsonis&Patterson(1980). グ能力を有しないと考えられていたが,課題を工. とSkarakis−T)oyle,MacLellan,&Mullin(1990). 夫することで,2歳後半の幼児であっても一定程. だけである。既に健常児を対象とした研究で示唆. 度の理解モニタリングを示し,4歳ではメッセー. されたように,課題によって理解モニタリング能. ジの矛盾点を正しく指摘できることが示された。. 力の表出状況が大きく異なるため,学習障害や言 語障害についても,子どもが理解モニタリング能. り4.
(6) 知的障害児の理解モニタリングに関する文献的考察. 力を表出しやすい方法で検討することが必要だと. 非言語性知能が有意に相関し,知的障害は言語理. 思われる。. 解年齢と有意に相関した。. Fujiki&Brinton(1993)は,成人の知的障害 (3)知的障害について. 者の理解モニタリングについて検討している。20. 知的障害を対象とした研究は,全て対象伝達課. ∼42歳の軽・中庭知的障害者を対象に,検者の指. 題によるものである。. まず,Abbeduto,Davies,Solesby,&Furman. 示に従って品物を検者に手渡す課題で表出された 理解モニタリング行動を検討した。検者の指示の. (1991)は,平均年齢9歳の軽・中庭知的障害児と,. 中には「無意味語による指示」や「実行困難な指. 非言語性知能を統制した健常児(平均年齢6.9歳). 示」,「(対象が複数ある)曖昧な指示」が含まれ. を対象に,お店屋さんごっこの場面を設定し,検. ていた。その結果,これらの指示の74%に対して,. 者が客役,対象児が店員の役となり,検者の指示. 即座に,もしくは対象物を探した後にリペアーを. に応じて品物を売る課題を設定した。その際,客. 要求したが,約25%の指示には理解モニタリング. 役の検者は,単一の対象を指す「明確な指示」と,. を示さず,推測で対象を検者に渡していた。特に. 複数の対象に該当する「曖昧な指示」を提示した。. 「無意味語による指示」や「実行困難な指示」に. その結果,7歳の健常児の中で,選択肢が複数あ. 比べて「(対象が複数ある)曖昧な指示」に対し. る「曖昧な指示」に対して明確化要求を表出でき. て理解モニタリングを示さない割合が高く,後述. た対象児は28%にとどまった。また知的障害児は. するRevelle,Wellman,&Karabenick(1985)の. 13%のみであった。さらに実験結果と,対象児の. 健常児の結果と一致していた。この結果から,軽・. 非言語性知能および受容言語レベルとの関係を検. 中庭の知的障害者であっても,曖昧な指示に対す. 討したが,有意な相関は認められなかった。. る理解モニタリング・スキルを学習することが重. Abbeduto,Short−Meyerson,t3enson,&l)01ish. (1997)は,精神年齢が5∼10歳の知的障害(9歳 ∼20歳1ケ月)と,非言語性の精神年齢を統制し. 要であり,特に雇用場面で注意が必要である,と 述べられている。. 以上,知的障害を対象とした三つの研究を紹介. た5∼9歳の健常児を対象に,別室のコンピュー. したが,上述の学習障害や言語障害に関する研究. タの指示に従って,地図上の車を走らせる課題を. と同様,対象伝達課題による研究に限定されてお. 提示した。変数は道の色4色と道の形2種類(直. り,他の方法を用いた検討が必要だと思われる。. 線とジグザグ)で,指示は「不可能な指示(該当 する道がない)」,「曖昧な指示(該当する道が二 つある)」,「有益な指示(該当する道が一つのみ)」 の3種類であった。その結果,2群間に差はなく,. Ⅱ 自然な会話場面における理角牢モニタリング これまで,健常児,学習障害児,言語障害児,. 両群ともに「不可能な指示」には70∼80%,「曖. 知的障害児の理解モニタリングに関する先行研究. 昧な指示」には40∼50%の割合で理解困難を表出. を概観してきたが,いずれも課題場面において提. した。しかし表出の内訳には差があり,健常児は. 示される不十分なメッセージに対する明確化要求. 「曖昧な指示」に対して「選択肢が二つあること」. や理解困難の表出が検討されてきた。しかしなが. を,または「不可能な指示」に対して「選択肢が. ら既に述べたとおり,課題の種類によって,子ど. ないこと」を指摘した割合が86%を占めたが,知. もの表出は大きく変化するため,課題場面で評価. 的障害では56%と少なかった。逆に,知的障害は. された理解モニタリング能力が日常生活場面を反. 特定情報の要求(「どっちの道路?」や「どっち. 映しているのかどうか疑問が残る。そこで,日常. か分からない」)が35%だったが,健常児は15%. 生活の自然な場面における観察が必要だと思われ. と少なかった。さらに健常児は理解困難の表出と. るが,健常児を対象とした以下の二つの研究しか. 95.
(7) 三 浦. 見あたらない。. まず,Gallagher(1981)の報告であるが,平均. 哲. 就学後数年たってからであることが推測された。 しかしながらEVTDや日常生活場面での自然な. 発話長(MLU)がブラウンのⅠ∼Ⅲ段階に該当. 観察においては,就学前の幼児期から理解モニタ. する1歳11ケ月∼3歳0ケ月の幼児各3名(計9. リング能力が表出されており,評価方法によって. 名)を対象に,検者が対象児の家で90分間相互交. 結果が大きく異なることが示された。. 渉を行った際に自発された明確化要求を観察し. 一方,障害児に関するデータは極めて少なく,. た。その結果,全ての子どもが90分間に3∼32回. しかもその全てが対象伝達課題または判断課題に. の明確化要求を行った。また9名中7名は「確認. よるものであった。. 要求」,2名は「中立的反復要求(間投詞と困難. 今後は,障害児に関するデータの蓄積が必要で. 表明)」を多用しており,「特定的反復要求(不明. あり,特に自然な相互交渉場面での検討が求めら. な部分にWh−を入れて質問する)」は3名にしか. れる。この点は,知的障害児を対象としたリペ. 認められなかった。. アー・ストラテジーに関する報告の少なさと共通. また,Reve11e,Wellman,&Karabenick(1985). している。そのため,知的障害児がコミュニケー. は,3歳児と4歳児各14名を対象に,検者と二人. ション・ブレイクダウンや課題遂行上の困難に遭. で砂遊びとままごとをしている場面で,検者が事. 遇した場合,いかにしてリペアー・ストラテジー. 物を持って来るように要求した時の子どもの言語. や理解モニタリングを表出し,課題を解決しよう. 反応を観察した(非言語行動は分析対象とされて. としているのかを縦断的に検討し,発達的特徴を. いない)。検者による要求は「曖昧(対象が2個. 記述する必要があると思われる。. または4個ある場合)」,「不明瞭(あくびで指示. また,モニタリング能力の個人差と関連する対. が聞き取れない)」,「記憶(5つの対象を一度に. 象児の特性について,言語理解力と有意な相関が. 要求)」,「不可能(重くて運べない冷蔵庫と,部. あるとする報告と(Abbeduto,Short−Meyerson,. 屋の中にはない母親の靴)」であった。その結果,. Benson,&Dolish,1997),関連がないとする報告. 3歳児では,「あくび」と「不可能(運べない物・. があり(Abbeduto,Davies,Solesby,&Furman,. 存在しない物)」を指示された時に理解モニタリ. 1991),一致した見解は得られていない。そのため,. ングを示す表出が観察されたが,「曖昧(対象が. モニタリング能力の個人差を説明する要因につい. 複数ある場合)」と「記憶(指示が多すぎて記憶. て検討することも今後の課題だと思われる。. できない場合)」には表出されなかった。一方,. なお,本箱では触れなかったが,理解モニタリ. 4歳児は6種類の要求の全てに対して理解モニタ. ングの表出に関する指導の有効性に関する報告が. リングを示す表出が観察された。. なされており(Cosgrove&Patterson,1978;. この二つの先行研究から,少なくとも健常児に. Ironsmith&Whitehurst,1978;Patterson,Mas−. ついては,対象伝達課題や判断課題よりも自然な. Sad,&Cosgrove,1978;Dollaghan&Kaston,. 場面の方が,幼児期の理解モニタリング能力を観. 1986;Ezell&Goldstein,1991),この点について. 察できる可能が高いと言えよう。. の検討も必要であるが,上述の通り,障害児の理. 解モニタリングに関する発達的特性を把握する必 Ⅳ まとめ 理解モニタリングに関する先行研究を概観した 結果,健常児を対象とした研究が多くを占めるが,. その大部分は対象伝達課題や判断課題によるもの であり,理解モニタリング能力が獲得されるのは,. り6. 要があり,それらの知見を参照しながら,どの様. な時期にどの様な指導目標を設定し,指導を行う ことが有効なのか,今後,検討する必要があると 思われる。.
(8) 知的障害児の理解モニタリングに関する文献的考察. VelopmentalPsychology,16,541−542. 引用文献. Abbeduto,L.Davies,B.Solesby,S.Furman,L.(1991):. Identifyingthereferentsofspokenmessages:Useof COnteXtandclarificationrequestsbychildrenwith andwithoutmentalretardation.AmericanJournalon MentalRetardation,95,551562.. Laws,G.Bishop,D.Ⅴ.M.(2003):Acomparisonoflan. guageabilitiesinadolescentswithDownsyndrome andchildrenwithspecificlanguageimpairment. JSLHR.,46,1324−1339. Lobato,D.Barrera,R.D.Feldman,R.S.(1981):Sensor−. imotorfunctioningandprelinguisticcommunicationof. Abbeduto,L.Short−Meyerson,K.Benson,G.Dolish,J. SeVerelyandprofoundlyretardedindividuals.Amer− (1997):Signalingofnoncomprehensionbychildren and adolescents with mentalretardation:Effectsof. problemtypeandspeakeridentity.JSLHR.,40,20−32. Bearison,D.J.Levey,L.M.(1977):Children’scompre−. icanJournalofMentalDeficiency,85(5),489−496.. McLean,L.K.Brady,N.C.McLean,J.E.Behrens,G.A. (1999):Communicationformsandfunctionsofchil− dren and adults with severe mental retardation in. hensionofreferentialcommunication:Decodingambi−. COmmunityandinstitutionalsettings.JSLHR.,42,. guousmessages.ChildDevelopment,48,716−720.. 231−240.. Bonitatibus,G.J.Flavell,J.H.(1985):Effectofpresenting amessageinwrittenformonyoungchildren’sability toevaluateitscommunicationadequacy.Developmen− talPsychology,21,455−461.. 三浦 哲(1997):聴覚障害幼児による訂正方略の活用。 聴能言語学研究,14(1),14−18. 三浦 哲(2000):聴覚障害幼児の訂正方略の活用に関す る縦断的検討。聴能言語学研究,17(1),1−7.. 三浦 哲(2001):訂正方略の活用と応答に関する文献的 Brady,N.C.McLean,J.E.McLean,L.K.Johnston,S.(1995). :Initiation andrepairofintentionalcommunication actsbyadultswithseveretoprofoundcognitive dis− abilities.JSHR.,38,1334−1348. Cosgrove,J.M.Patterson,C.J.(1977):Plansandthede− Velopmentoflistenerskills,DevelopmentalPsycholo− gy,13,557564. Cosgrove,J.M.Patterson,C.J.(1978):Generalizationof. 考察。北海道教育大学紀要(教育科学編),51(2), 63−73.. Mundy,P.Sigman,M.Kasari,C.Yirmiya,N.(1988):. NonverbalcommunicationskillsinDownsyndrome Children.ChildDevelopment,59,235−249. 長崎 勤(1995):[実験1]ダウン症乳幼児と健常乳幼 児における要求場面での伝達行為の横断的検討,ダウ. trainingforchildren’slistenersskills,ChildDevelop−. ン症乳幼児の言語発達と早期言語指導,39−77.風間書. ment,49,513−516.. 房。. Dollaghan,C.Kaston,N.(1986):Acomprehension. 長崎 勤・池田由紀江(1982):発達遅滞乳幼児における. monitoringprogramforlanguage−impairedchildren,. 前言語的活動−ダウン症乳幼児と正常乳幼児の要求場. JSHD.,51,264−271.. 面での伝達行為の分析−。発達障害研究,4(2),. Ezell,H.K.Goldstein,H.(1991):Observationallearning Ofcomprehensionmonitoringskillsinchildrenwhc・ exhibitmentalretardation,JSHR.,34,141−154. Fujiki,M.Brinton,B.(1993):Comprehensionmonitor−. ingskillsofadultswithmentalretardation.Research inDevelopmentalDisabilities,14,409−421. Gallagher,T.(1981):Contingentquerysequenceswith inadult−Child discourse.JournalofChildLanguage,8, 51−62.. Greenwald,C.A.Leonard,L.B.(1979):Communicative andsensorimotordevelopmentofDown’ssyndrome. 114−123.. 西村排作・綿巻 徹・水野真由美・新見明夫(1984a): ダウン症児の言語発達障害とその誘因素因−1−。発 達障害研究,5(4),295−301. 西村排作・綿巻 徹・水野真由美・新見明夫(1984b): ダウン症児の言語発達障害とその誘因素因−2−。発 達障害研究,6(1),65−71. 西村排作・綿巻 徹・水野真由美・新見明夫(1984c): ダウン症児の言語発達障害とその誘因素因−3−。発 達障害研究,6(2),140−149. 岡崎裕子・池田由紀江・長畑正道(1986):ダウン症幼児. Children.AmericanJournalofMentalDeficiency,84,. の発達特徴に関する分析的研究(続報)。心身障害学研. 296−303.. 究,10(2),59−71.. Ironsmith,M.Whitehurst,G.J.(1978):Howchildren Patterson,C.J.Massad,C.M.Cosgrove,J.M.(1978):Chil−. learntolisten:Theeffectsofmodelingfeedback. dren’sreferentialcommunication:Componentsof. Stylesonchildren’sperformanceinreferentialcom−. plansforeffectivelistening.DevelopmentalPsycholo−. munication,DevelopmentalPsychology,14,546−554. Kotsonis,M.E.Patterson,C.J.(1980):Comprehension− monitoringskillsinlearningdisabledchildren.De−. gy,14,401−406.. Patterson,C.J.Cosgrove,J.M.0’Brien,R.G.(1980):Non−. Verbalindicantsofcomprehensionandnoncom−. 97.
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