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アジ研ワールド・トレンド No.234(2015. 4)
●公立図書館のアクセシビリ
ティ
バングラデシュには、全国で六
八の公立図書館があり、障害者用
トイレとスロープはそのうちの三
九館に設置されている。しかし視
覚障害者のアクセシビリティに関
しては、点字ブロックや手すりな
どハード面だけでなく、点字図書
やアクセシブルな録音図書である
D
A
ISY
︵デジタル録音図書︶
などの蔵書、対面朗読サービスと
いったソフト面が整備されている
公立図書館はひとつもない。しか
し二〇一三年に障害者権利条約の
精神を反映した﹁障害者の権利と
保護法﹂が制定されたのを機に
、
首都ダッカにある中央図書館では、
現在倉庫として使用している一階
部分に障害者用のコーナーを新設
する計画がある。とはいえ、計画
の詳細は未定であり、視覚障害者
にもアクセス可能な図書の製作や
所蔵、再生機器の設置、対面朗読
サービスなどが実施されるかは不
明である。
●デジタル
・バングラデシュ
︱政府の取り組み︱
現政権は、建国五〇周年を迎え
る二〇二一年までに中所得国にな
るというビジョン二〇二一を掲げ、
ICT
︵情報通信技術︶による貧
困削減を目指す﹁デジタル・バン
グラデシュ﹂を進めている。その
取り組みのひとつに﹁情報へのア
クセス
︵
a2i
︶
プログラム﹂があ
る。これは、すべての国民が
IC
T
を利用した行政サービスを受け
られるようにするものである。教
育分野の取り組みとしては、全国
にインターネットを整備し、コン
ピューター、プロジェクター、ス
クリーンをすべての公立小中学校
に設置するという﹁マルチメディ
ア教室﹂を推進している。その他
に電子書籍の取り組みもある。今
までに一年生から一二年生までの
ほとんどの教科書が電子書籍化さ
れ、国家カリキュラム教科書委員
会により公開された。教科書以外
では、文化省が運営している公立
図書館部サイトで五三二タイトル
の詩や歴史書を読むことができる。
●デジタル
・バングラデシュ
の課題
政府の主導により全国民の日常
生活に関わる様々な事柄でのデジ
タル化が進んでいるが、視覚障害
者にとって課題は多い。障害者の
ウェブ・アクセシビリティについ
ての調査によれば、政府や省庁の
ほとんどの担当職員は
、ウェブ
・
アクセシビリティについて知識が
なく、ウェブページのアクセシビ
リティに関する国際標準ガイドラ
イン︵
W
C
A
G
︶の基準を満たさ
ないウェブページが多い
。また
、
前述した
﹁マルチメディア教室﹂
は、生徒一人に一台の端末が支給
されるのではなく、教室の前方に
スクリーンを置きそこに映写され
た画像や動画をクラス全体でみて
授業を進めるものである。インク
ルーシブ教育を進めているバング
ラデシュで、このような形で映し
出される映像が授業理解の鍵とな
るのであれば、弱視など視覚に障
害のある生徒が置き去りにされる
心配がある。今後、視覚障害をは
じめとした障害児に対して
、﹁
マ
ルチメディア教室﹂ではどのよう
な配慮が行われるのか注目してい
く必要がある。
●
DAISY
図書︱
NGO
の
取り組み︱
図書の
D
A
ISY
化の取組みは、
二〇〇五年から
Young
Power
in
Social
Action
︵
Y
PS
A
︶という
NGO
を拠点として開始された
。
YPS
A
は、ダスキン・アジア太
平洋障害者リーダー育成事業によ
り日本で研修を受けた全盲の職員
を中心に、障害者のための
ICT
情報センター︵
IRCD
︶を開設、
バングラデシュ
︱
政府と
N
G
O
の取り組み︱
金
澤
真
実
︻各国事情︼
図書館
と障害者サービス
―情報アクセシビリティの向上―
特 集
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アジ研ワールド・トレンド No.234(2015. 4)
障害者だけでなく非識字者を含め
印刷された文字を読むことに対し
て困難を覚える人々を対象として
D
A
ISY
を製作している。利用
者に非識字者を含めていることは、
国民の四割以上が非識字者という
バングラデシュならではの事情を
感じさせる。二〇〇五年から現在
まで、
D
A
ISY
八〇〇タイトル
と小学校一∼五年生までの教科書
の音声およびフルテキストからな
るマルチメディア
D
A
ISY
が製
作された。
●視覚障害者の情報アクセシ
ビリティへの課題
昨年バングラデシュを訪問した
際、首都ダッカを中心に活動する
視覚障害当事者団体のメンバー七
人に情報アクセシビリティに関し
て課題を聞く機会を得た。メンバ
ーは、一人が弱視、六人は全盲で、
うち五人はコンピューター・プロ
グラマーや
IT
マネージャー、障
害者団体の職員として働いており、
二人はこの団体でコンピュータ
ー・トレーニングを受講中である。
コンピューターを日常的に使用
している彼らが、課題として一番
に挙げたのは、読み上げソフトの
性能と価格である。バングラデシ
ュの公用語であるベンガル語の読
み上げソフトは無料でダウンロー
ドできる。しかし、音質や発音の
鮮明さといった面で問題があり
、
このようなソフトを使い慣れてい
る人でなければ利用することは難
しいという。英語の場合は、
J
A
W
S
や
Open-book
などの読み上
げソフトが入手可能であるが、一
〇〇〇ドル以上と大変高価である。
小学校校長の月給が約八〇ドル程
度であることを考えると個人で正
規品を購入することはかなり難し
い。
次に彼らが課題として挙げたの
は、再生機器の価格が高く普及が
遅れていることである。
D
A
IS
Y
を聞くためには、専用の再生機
か専用ソフトのパソコンへのイン
ストール、または
MP3
プレイヤ
ーや
D
V
D
プレイヤーなどの再生
機器が欠かせない。しかし、これ
らの機器は、いずれも高価で例え
ば
D
A
I
SY
再生機で三〇〇∼一
〇〇〇ドル、
MP3
プレーヤーで
さえ約一〇〇∼一一五ドルする
。
福祉機器として購入費用が助成さ
れるといった行政からの支援はな
く、購入に際しては個人で全額負
担するしかない。
三番目には、利用者の知識やス
キル不足である。障害があるため
に教育を受ける機会に恵まれなか
った多くの障害者は、コンピュー
ターや再生機の使い方を理解する
ための基本的な知識やスキルが不
足している。最後に、障害者の約
八割が住むという農村部では、
D
A
I
SY
や電子書籍にアクセスす
るための電力やインターネットな
どのインフラ整備が遅れている
。
また、インフラがあったとしても、
それを利用するための費用を捻出
することが難しい貧しい障害者も
数多い。
●点字で読みたい!
コンピューターを駆使して仕事
をしている彼らが、日々の実感と
して特に強調したことがある。そ
れは、電子書籍や
D
A
ISY
など
のデジタル録音図書が普及し、音
声で書籍を聞くことができても
、
やはり点字が必要だということで
ある。音声で様々な本を聞き新し
い言葉や単語を知ることができて
も、ベンガル語のスペルが解らず
コンピューターを使っての墨
字
文
書作成に困難が生じている。墨字
のベンガル語の綴りは点字で理解
できるので、点字で読むことが必
要なのだという。しかし、点字図
書の普及は、政府が国策として進
めている電子書籍以上に遅れてお
り、点字の教科書でさえ必要とす
る生徒全員に支給されていない
。
しかし、点字図書とデジタル録音
図書の普及は相反するものではな
く、デジタル化する際にユニコー
ドを使用すれば、データから点字
への変換ができ点字印刷が行える
という。また現在バングラデシュ
で入手することは出来ないが、点
字ピン・ディスプレイ︵点字情報
がピン状の凹凸によって表示され
るもの︶が普及すれば、テキスト
データから直接点字として読むこ
とができる。
国をあげてデジタル化を進めて
いるバングラデシュで、視覚障害
者の情報へのアクセスには課題が
山積している。特にベンガル語読
み上げソフトの改良、図書デジタ
ル化に際しユニコード使用の標準
化、福祉機器購入助成などは個人
レベルでは解決が難しく政府や
N
GO
などのイニシアティブが欠か
せない。そのためには、海外から
の資金および技術支援が大いに必
要とされている。
︵かなざわ
まみ/一橋大学大学院
経済学研究科博士後期課程︶