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Flugschrift: G. Buchner の 「ヘッセンの急使」 について : 作者の意図とテクスト構成

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Flugschrift: G. Buchner の 「ヘッセンの急使」

について : 作者の意図とテクスト構成

著者

小野 光代

雑誌名

研究論集

81

ページ

61-78

発行年

2005-02

URL

http://doi.org/10.18956/00006283

(2)

Flugschrift:G. 

BUchnerの

  「ヘ ッ セ ン の 急 使 」

に つ い て

作 者 の意 図 とテ クス ト構 成

小 野 光 代

0.は

じめ に

  19世 紀 の 早 世 した 作 家Georg  Bttchnerの 名 を 我 々 に 親 し く し て い る の はGeorg-Bttchner-Preis(・ ゲ オ ル ク ・ビ ュ ー ヒ ナ ー 賞)で あ ろ う。 ドイ ツ で も っ と も 権 威 あ る 文 学 賞 に こ の 作 家 の 名 が 冠 さ れ て い る の で あ る 。 ドイ ツ 文 学 史 を 一 瞥 した だ け で も 、 彼 よ り も 高 名 な 、 か つ 重 要 な 一 ドイ ツ 人 に と っ て も、  日 本 人 に と っ て も 一作 家 は い く ら で も見 受 け ら れ る 。 何 故 ドイ ツ 最 高 の 文 学 賞 が ビ ュ ー ヒ ナ ー 賞 な の か 。 しか し こ の 名 の 由 来 は き わ め て 簡 単 で あ る 。 ヘ ッ セ ン 出 身 の 作 家Georg  Bttchnerを 記 念 して1923年 に ヘ ッ セ ン州 で 創 設 され た 文 学 賞 だ か ら で あ る 。 1933-44年 は 賞 の 授 与 は 行 わ れ な か っ た 。1945年 に ・ゲ オ ル ク ・ ビ ュ ー ヒ ナ ー 記 念 賞 は 新 た に 再 出 発 し、 受 賞 者 に 詩 人 のGotfried  Bennを 選 ん だ 。1956年 機 構 改 編 が 行 わ れ 、 ヘ ッ セ ン 州 文 部 省 、 ダ ル ム シ ュ タ ッ ト市 お よ び ドイ ツ 語 学 ・文 学 学 術 院 共 催 と な っ た 。 受 賞 の 対 象 と な る の は 、 ドイ ツ 語 の 著 作 活 動 に よ る 特 に 優 れ た 貢 献 と 、 現 代 ドイ ツ 文 化 の 形 成 に 対 す る 本 質 的 な 寄 与 で あ る 。 こ の 規 定 か ら 、 一 つ の 作 品 が 受 賞 の 対 象 に な る 日本 の 芥 川 賞 の 場 合 と 違 っ て 、1951年 以 降 の 受 賞 者 を 一 覧 す る と 、 現 代 ドイ ツ 文 学 の 主 要 な 潮 流 を 概 観 す る こ と が 出 来 る 。   こ こ で はGeorg  BttchnerのFlugschrift「 ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の テ ク ス ト構 成 を 考 察 す る 。 そ の 導 入 と して ビ ュ ー ヒ ナ ー 賞 に つ い て 説 明 した の は 、 日本 で 必 ず し も よ く知 ら れ て い る と は 限 ら な いBttchnerを 簡 潔 に 紹 介 し 、 か つ こ の 作 家 に 関 わ る キ ー ワ ー ドに 目を 向 け る た め で あ る 。 そ れ は 彼 の 文 学 の 持 つ   「先 進 性 、 あ る い は 現 代 性 」 と、 「ヘ ッセ ン 」 で あ る 。 た と え こ こ で の 対 象 が 文 学 作 品 で は な い に せ よ 、 作 者 の 持 つ 現 代 文 学 へ 通 底 す る 文 学 的 感 性 や 手 法 は 、 他 の 作 品 に も 影 響 を 及 ぼ さ ざ る を え な い 。 ま た 現 代 ドイ ツ 文 学 賞 の 名 称 と して 少 し も 違 和 感 を 起 こ さ せ な い 、 彼 の 文 学 の 斬 新 さ が 、 研 究 者 を 引 き つ け 、 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 に も 目が 向 け ら れ る こ

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と に な る 。 そ の さ い 研 究 者 の 関 心 は 、 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の 分 析 に 当 た っ て も、 ロ マ ン 主 義 と リ ア リズ ム の 橋 渡 し を す る 、19世 紀 ドイ ツ文 学 史 上 の 孤 高 の 存 在 と評 さ れ るBttchnerの 文 学 的 資 質 に 向 か っ て し ま う。 と こ ろ が こ の 作 品 はLudwig  Weidig1)と の 共 著 な の で あ る 。 共 著 と い う と 共 同 作 業 に よ っ て 書 か れ た 、 と い う 印 象 を 与 え か ね な い が 、 こ の 作 品 の 場 合 は そ うで は な く、Bttchnerが 一 人 で 書 い た 原 稿 に 後 か らWeidigが 手 を 加 え た の で あ る 。 Weidigの 加 筆 に つ い てBttchnerが 全 面 的 に 受 け 入 れ た わ け で は な い に せ よ 、 こ の 加 筆 原 稿 を 、 彼 が さ ら に 校 正 す る 時 間 は な か っ た 。Bttchnerの 手 書 き の 原 稿 は 残 っ て い な い 。 そ の た め 、 ヘ ッ セ ン の 急 使 の 研 究 で は こ の 二 人 の か き 分 け を 突 き 止 め よ う と 、 き わ め て 緻 密 な 分 析 が 行 わ れ て き た 。 し か し絶 対 的 な 成 果 は あ が っ て い な い 。 こ の よ う な こ と も 、 も しBttchnerが19世 紀 ドイ ツ 文 学 史 上 独 特 の 位 置 を 占 め る現 代 性 を 示 す 作 家 で な か った ら 、事 情 が 違 っ て き た の で は な い だ ろ うか 。   ヘ ッ セ ン 大 公 国 は プ ロイ セ ン 主 導 に よ る ドイ ツ 統 一 が 成 立 す る 前 の 、 ドイ ツ に 存 在 した 多 数 の 領 邦 土 の 一 つ に しか す ぎ な い 、 ヘ ッ セ ン 大 公 国 と 同 じ よ う な 閉 鎖 的 な 社 会 状 況 は ドイ ツ に 多 数 存 在 して い た 。 しか し ビ ュ ー ヒ ナ ー は ヘ ッ セ ン で 生 ま れ 、 ヘ ッ セ ン の 政 治 的 、 社 会 的 状 況 を 激 し く批 判 して 、 亡 命 先 の チ ュ ー リ ッ ヒで 死 ん だ 。 彼 が ヘ ッ セ ン で 生 ま れ た こ と は 偶 然 か も し れ な い が 、 彼 の 行 動 の 舞 台 は ヘ ッ セ ン で あ っ た 。Bttchnerの キ ー ワ ー ド と し て ヘ ッセ ン を 挙 げ る こ と は 許 さ れ る で あ ろ う。

  以 下1.Georg  Bttchnerに つ い て 、2.時 代 背 景 に つ い て 、3.FlugschriftとTextsorte、 4.「 ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の テ ク ス トの 段 落 構 成 と概 要 、5.お わ りに 、 の 順 で 述 べ る 。 1.Georg  BUchnerに つ い て   Georg  Bttchnerは1813年10月17日 に ダ ル ム シ ュ タ ッ ト近 郊 の ゴ ッ デ ラ ウ で 町 で も 名 望 の あ る 医 師 の 長 男 と して 生 ま れ た 。 彼 よ りず っ と 長 生 き した 弟 も 医 師 に な り哲 学 的 な 著 作 も 刊 行 して い る 。 彼 は1831-33年 シ ュ トラ ー ス ブ ル ク、1833-34年 ギ ー セ ン で 医 学 、 自 然 科 学 、 哲 学 を 専 攻 した 。1934年 反 動 に 対 す る 断 固 た る 反 対 者 と して ヘ ッ セ ン に お け る 政 治 的 闘 争 に 参 加 し、3 月 中 旬 ギ ー セ ン に 「人 間 の 権 利 の た め の 協 会 」 を 設 立 、 こ こ で 彼 はFlugschrift  rヘ ッセ ン の 急 使 」 の 構 想 を 発 表 、3月 下 旬 に は 完 成 し た 。 こ のFlugschriftは 密 告 に よ り当 局 の 摘 発 に あ い 、 ほ と ん ど が 没 収 さ れ た 。 彼 は1835年 シ ュ トラ ー ス ブ ル クに 逃 れ 、1836年 チ ュ ー リ ッ ヒで 医 学 博 士 号 、 大 学 教 授 資 格 を 取 得 、 比 較 解 剖 学 の 私 講 師 に な っ た 。   彼 の 主 要 な 作 品 を も っ て 彼 は19世 紀 の ドイ ツ 文 学 史 上 、 自 然 主 義 と 表 現 主 義 の 先 駆 者 と して 孤 高 の 位 置 を 占 め て い る 。 短 い シ ー ン を 重 ね る 技 法 に お け る 、 鋭 い リ ア リ ズ ム と幻 視 的 な 表 現 力 を 駆 使 し て 一 シ ェ ー ク ス ピ ア と 疾 風 怒 濤 に 依 りな が ら 一 、 「ダ ン トン の 死 」 を 創 作 し た 。 こ の 革 命 悲 劇 は 、 革 命 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 う一 人 の 人 間 が 歴 史 の 残 酷 な 宿 命 に よ っ て 滅 ば

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さ れ る 様 を 描 い て い る 。   一 人 の 兵 士 の 貧 困 な 状 況 を 描 い た"ヴ ォ イ ツ ェ ッ ク"は 未 完 に 終 わ っ た 。(そ れ ぞ れ 異 な る 手 稿 で 、 連 続 す る 四 つ の 場 面 が 残 され て い る 。 初 版 は1879年 、 初 演 は1913年)。 一 人 の 小 市 民 の 悲 劇 が 、 抑 圧 さ れ た 創 造 物 の 存 在 と 、 存 在 に 関 す る 全 て の 恐 怖 に お い て 、 集 中 した 筆 使 い で 描 き 出 さ れ て お り、 最 初 の 重 要 な ドイ ツ の 社 会 的 ドラ マ と な っ て い る 。   断 片 で しか 残 さ れ て い な い の は 、 ドイ ツ と フ ラ ン ス の ロ マ ン 主 義 、 特 にC.Brentanoに 基 づ く喜 劇 〉 レオ ン ス と レ ー ナ く で あ る 。 短 編 小 説 の 断 片 〉 レ ン ツ く は 「疾 風 、 怒 濤 」 の 詩 人J.M.  R. Lenzの 精 神 分 裂 病 を 描 い て い る 。 Bttchnerに は ま た フ ラ ン ス の 作 家 ユ ー ゴ の 翻 訳 が あ る 。 彼 の 作 品 の 中 で 最 初 に 出 版 さ れ た の は 、 社 会 主 義 的 な 響 き を 持 つ 過 激 な 民 主 主 義 的 闘 争 の 書 、 F.L.  Weidigに よ っ て 加 筆 さ れ た 、 小 屋 に 平 和 を 、 宮 殿 に 戦 争 を!を モ ッ トー と す る 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 で あ る 。 生 存 中 に 出 版 さ れ た 文 学 作 品 は 「ダ ン ト ン の 死 」 だ け で あ っ た 。Bttchner は1837年2月19日 チ ュ ー リ ッ ヒで チ フ ス で 死 亡 した 。2)

2.時

代 背 景 に つ い て

  「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 に お け る ヘ ッ セ ン は ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ ト大 公 国 を 指 す 。 こ の ほ か に も 選 定 侯 領 ヘ ッ セ ン(ク ー ア ヘ ッ セ ン)ま た は ヘ ッ セ ン ・カ ッ セ ル が あ っ た 。 こ の 選 定 侯 の 称 号 は ヘ ッ セ ン ・カ ッ セ ル 家 が 、 帝 国 直 属 か ら 離 脱 した 聖 職 選 定 侯 か ら 、 引 き 継 ぎ 、1803年 の ドイ ツ 帝 国 代 表 者 会 議 主 要 決 議 で 授 与 が 決 定 さ れ た も の だ が 、1918年 ドイ ツ 帝 国(第 二 帝 政 1871-1918)が 解 体 す る ま で 保 持 さ れ た 。 即 ち ドイ ツ 領 邦 君 主 の 中 で こ の 称 号 を 最 後 ま で 有 し た 唯 一 の 君 主 で あ っ た 。 プ ロ イ セ ン 主 導 に よ る1871年 の ドイ ツ統 一 に い た る19世 紀 前 半 の ド イ ツ に は 大 小30有 余 の 領 邦 国 家 が あ っ た 。 こ れ ら が フ ラ ン ス 革 命 後 の ナ ポ レ オ ン の 侵 攻 へ の 対 応 を 迫 ら れ た ば か りで な く、 オ ー ス ト リ ア の 大 連 邦 主 義 、 プ ロイ セ ン の 小 連 邦 主 義 に 基 づ く統 一 ドイ ツ を 目指 す 動 き に ま き こ ま れ て い っ た 。1866年 の 普 懊 戦 争 で は プ ロイ セ ン が オ ー ス ト リ ア を 破 り、 そ の 結 果 プ ロイ セ ン 主 導 の ドイ ツ 統 一 に い た る の だ が 、 こ の 戦 争 が ドイ ツ 戦 争 と も 呼 ば れ る こ と か ら も 分 か る よ うに 、 ドイ ツ 国 内 の 各 領 邦 国 家 は 、 普 懊 い ず れ か の 側 に 立 つ こ と に な り、 こ こ に 領 邦 土 の 地 図 が 大 き く塗 り替 え ら れ る こ と に な っ た 。 ヘ ッ セ ン に 関 して い え ば オ ー ス ト リ ア と 同 盟 した ヘ ッ セ ン ・カ ッ セ ル は プ ロイ セ ン に 合 併 さ れ 、 ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ トは そ の 領 土 外 の 方 伯 領 ヘ ッ セ ン ・ホ ン ブ ル ク と ビ ー デ ン コ ッ プ を 割 譲 し な け れ ば な ら な か っ た 。 即 ち 、1830年 代 の ヘ ッセ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ トは1866年 以 降 の 領 土 よ り若 干 大 き か っ た と は い え 、 面 積 約8,000平 方 キ ロ、 人 口 約70万 人 の 小 国 で あ っ た 。 な お 現 在 の ドイ ツ連 邦 共 和 国 の ヘ ッ セ ン 州 は 、 第 二 次 大 戦 後 ワイ マ ー ル 共 和 国 の ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ ト州 と ヘ ッ

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セ ン ナ ッサ ウ の 大 部 分 が 合 併 さ れ て 創 設 さ れ た も の で あ る 。   多 数 の 中 小 領 邦 国 家 の 併 存 は 、 そ の 国 境 関 税 に よ っ て ス ム ー ズ な 経 済 活 動 の 大 き な 阻 害 要 因 に な っ て い た 。 ドイ ツ 統 一 の ま え に 、 ま ず 関 税 同 盟 が 成 立 した 所 以 で あ る 。 しか しは じめ か ら 全 国 規 模 の 単 一 の 関 税 同 盟 が 可 能 で あ っ た わ け で は な い 。1828年 に プ ロイ セ ン と ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ ト間 に 北 部 関 税 同 盟 が 締 結 さ れ た 。 そ れ と 前 後 して 、 南 ドイ ツ 関 税 同 盟(バ イ エ ル ン と ヴ ュ ル テ ン ブ ル ク)、 中 部 ドイ ツ通 商 同 盟(ザ ク セ ン 、 ハ ノ ー フ ァ ー 、 ク ー ア ヘ ッ セ ン 、 ナ ッサ ウ 、 テ ユ ー リ ン ゲ ン 諸 国)が 成 立 した 。 ドイ ツ に 三 つ の 関 税 同 盟 が 並 立 す る 状 態 は 、 か え っ て 経 済 状 態 の 混 乱 を 招 い た 。 こ こ で 経 済 的 に 優 位 に 立 つ 、 プ ロイ セ ン が イ ニ シ ャ テ ィ ブ を 発 揮 し、 他 の 二 つ の 関 税 同 盟 を 切 り崩 し、 つ い に1834年 ドイ ツ 関 税 同 盟 が 成 立 す る に 至 る の で あ る 。 プ ロイ セ ン と ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ ト間 に 協 定 が 結 ば れ た と き 、 こ の こ と は 後 者 に と っ て 決 して 経 済 状 態 の 改 善 に は 結 び つ か な か っ た 。 他 の 関 税 同 盟 の 圧 力 を 招 き か え っ て 苦 境 に 立 た さ れ た 。 上 記 の よ うに ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ トの 領 土 は1866年 以 降 に 比 べ れ ば 若 干 大 き か っ た と は い え 、 面 積8,000平 方 キ ロ メ ー トル 、 人 口700,000人 ほ ど の 小 国 で 、 ほ と ん ど 見 る べ き 産 業 の な い 、 ほ ぼ 完 全 な 農 業 国 で あ っ た 。1760年 代 よ り産 業 革 命 が 始 ま り、 着 実 に 進 行 して い た イ ギ リ ス に 比 べ る と 、 ドイ ツ は 完 全 に 立 ち 後 れ て い た 。 当 時 の ドイ ツ で は た と え 大 量 生 産 が 可 能 に な っ て も 、 関 税 障 壁 に よ っ て そ の 流 通 が 阻 ま れ 経 済 状 態 の 改 善 に は 役 立 た な か っ た で あ ろ う。 ヘ ッ セ ン ・ダ ル ム シ ュ タ ッ トは こ の ドイ ツ の 一 小 領 邦 土 と して 若 干 の 手 工 業 に よ る 織 物 業 が あ る だ け で あ っ た が 、 こ れ で さ え も 、 北 部 関 税 同 盟 締 結 後 、 中 部 ドイ ツ 通 商 同 盟 に 属 した 隣 接 の ク ー ア ヘ ッ セ ン の 反 発 を 招 き 、 か え っ て 苦 況 に 立 た さ れ た の で あ る 。   と こ ろ で19世 紀 に は い る と ドイ ツ に お い て 、 急 激 な 人 口 増 が 見 ら れ る 。 こ の 原 因 に つ い て は ま だ 完 全 に は 解 明 さ れ て い な い 、 と さ れ て い る が 、 こ の 時 代 に は い る と か な り信 頼 で き る 統 計 が 残 さ れ て い る の で 、 人 口 増 の 実 態 が 明 ら か に さ れ て い る 。 我 々 の 問 題 に と っ て 重 要 な の で 、 『ドイ ツ 史 』 の 記 述 を そ の ま ま 引 用 した い 。   「こ こ で も 注 目す べ き は 、 人 口 の 増 加 は 、 も っ ぱ ら 都 市 と 農 村 に お け る 下 層 民 の 増 加 を 意 味 した と い う こ と で あ る 。 農 村 に お い て は 、 農 民 層 以 下 の 農 業 労 働 者 で あ り、 都 市 に お い て は 、 零 落 した 職 人 や 日雇 い 労 働 者 な ど で あ る 。 あ る い は そ れ 以 下 の 失 業 者 や 乞 食 の 層 で あ る 。 そ れ は 、 生 命 を 維 持 す る に 最 低 の 、 あ る い は そ れ 以 下 の 収 入 で も 甘 ん じ な け れ ば な ら な い 大 衆 が 著 し く増 大 し た と い う こ と で あ る 。 こ の よ う な 「大 衆 的 窮 乏 化 」 の 危 機 は 、 ア ー ベ ル3)に よ れ ば 、 1830年 代 か ら50年 代 が ピ ー クで あ っ た 。」4) こ の 記 述 に は さ ら に 「人 口 の 増 大 と 大 衆 的 な 窮 乏 化 に た い して は 究 極 的 に は 経 済 の 発 展 、 と く に 工 業 化 の 発 展 に よ っ て しか 対 処 す る こ と が で き な い 」 と 続 く。 こ の ドイ ツ 全 体 に 対 す る 記 述 は 、 ヘ ッ セ ン 大 公 国 に 限 っ て も 、 そ っ く り当 て は ま る 。GroRは 次 の よ う に 述 べ て い る 。(ヘ ッ セ ン 大 公 国 の)_人 口 は1790年 か ら1850年 の 間 に2倍 に な っ た 。1835年 頃 に は1平 方 キ ロ メ ー

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トル の人 口密 度 は100に 達 して い た 。...都 市 に おけ る人 口増 加 が停 滞 す る中 で この増 加 した 人

口 のほ とん どは農 村 に住 ん で い た...農 業 生 産 は 依 然 と して前 近 代 的 な昔 な が らの 手 法 で 行 わ

れ て い た...5)生産 性 の 低 い 農 村 が過 剰 な 人 口を 抱 え て い た わ け で あ る。 しか も農 産 物 の価 格 は

極 め て 低 く、 幾 重 に も課 せ られ る金 納 の税 を 納 め る と、 農 民 達 は 自己 の最 低 の生 活 を 支 え る費

用 も残 ら なか った とい わ れ る。 農 奴 制 は1812年 に 廃 止 され て い た が 、 そ れ は 制 度 が 変 わ った だ

け で 、 農 民 の生 活 状 態 を 改 善 す る も ので は なか った 。 も し天 候 不 順 に よ る不 作 に で も なれ ば 、

農 民 達 の生 活 が 行 き詰 ま る のは 目に 見 え て い た 。 人 口増 に よ る家 賃 の高 騰 に よ り、 住 居 を 失 う

も のが 増 え 、 栄 養 不 良、 乞 食 、 人 口流 失 な ど の社 会 問 題 が 山積 す る中 で 、 フ ラ ン ス の7月 革 命

の 断 片 的 な 情 報 に 刺 激 され て 散 発 的 に 起 こ る反 乱 は 、 直 ち に 徹 底 的 に 鎮 圧 され た 。6)これ が

BUchnerが

「ヘ ッセ ンの 急 使 」 を 書 い た ころ の ヘ ッセ ン大 公 国 の社 会 状 況 で あ った 。

3.Flugschriftと テ ク ス ト ゾ ル テ

  Flugschriftは 社 会 的 メ デ ィ ア の 媒 体 で あ る 。 Johann  Schwitallaは 宗 教 改 革 前 期 の Flugschriftenを 詳 細 に 調 査 し分 析 した7)。 こ の 時 代 はFlugschriftが 社 会 的 メ デ ィ ア と して 最 も 重 要 な 手 段 で あ り、 他 の 時 代 と比 べ て 最 も 多 く用 い られ た 。Schwitallaは こ のFlugschrift と い う高 速 な 乗 り物8)で 運 ば れ た テ ク ス ト資 料 か ら"テ ク ス ト ゾル テ"を 抽 出 し 、 そ れ を 分 類 す る と い う方 法 で 研 究 した 。   こ こ で は 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の テ ク ス ト構 成 の 考 察 に 、Schwitallaの 分 析 結 果 を 参 考 に す る 。 そ の た め ま ずFlugschriftをSchwitallaが ど の よ うに 定 義 して い る か を 検 討 す る 。 彼 は は じめ か らFlugschriftの 一 般 的 な 定 義 を 与 え る こ とを 断 念 し、 彼 の 扱 う対 象 に 限 っ て 有 効 な 定 義 と 断 っ て い る 。 そ の 理 由 と し てFlugschriftと い う術 語 を 定 義 す る 試 み は す で に 多 数 あ る こ と 、 た と え ばK6hlerは170も 集 め て い る こ と9)、 さ ら に こ の 語 の 規 定 に は ・ゲル マ ニ ス トば か りで な く、 歴 史 学 者 、 神 学 者 の 同 意 も 必 要 に な る こ と を あ げ て い る 。 私 は 以 前Fehrlo)の 定 義 を 参 考 に した こ と が あ る 。Fehrは 法 制 史 学 者 で あ っ た 。 Schwitallaは 宗 教 改 革 前 期(1450-1550) のFlugschriftenを 対 象 と し た 。 従 っ て 以 下 に あ げ る 彼 の 規 定 は こ の 時 代 に 成 立 し た Flugschriftenよ り帰 納 的 に 導 か れ た も の で あ る 。 さ ら に 彼 はFlugschriftの 規 定 は 時 代 的 な 枠 が 必 須 条 件 に な る と して い る が 、 こ れ は た と え ば 印 刷 さ れ た も の と い う条 件 を 考 え た だ け で も 当 然 と い え よ う。   以 下Schwitallaの 定 義 を あ げ る 。 a)印 刷 され て い る こ と。 一 枚 の 用 紙 以 上 で 出 回 っ て い る こ と。 b)最 初 か ら綴 じ られ て い な い こ と、 か つ 表 紙 を 備 え て い な い こ と。 c)独 立 し た 印 刷 物 で あ っ て 、い くつ か の テ ク ス トが あ わ せ て 印 刷 さ れ た も の の 一 部 で な い こ と。

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d)た

とえ そ れ が 特 定 の サ ー クル に 向け られ た もの で あ っ て も、字 の 読 め る もの な ら誰 で も、

  そ のFlugschriftを 読 ん だ り、 そ の朗 読 を 聞 い た りす る こ とが 出来 る、 とい う意 図 の も とに

  配 布 され た もの。

e)目 的 と され る読 者 の意 図 と見 解 に よれ ば 、 公 共 の 福 祉 の最 新 の 、 か つ 議 論 され て い る問 題

  に 関わ り、 広 く関心 を 集 め て い る も の で あ り、社 会 に と って重 要 な 問 題 の解 決 に寄 与 しよ

  う とす る もの。

f)こ の社 会 的 な 問 題 に 対 す る読 者 あ る い は聴 衆 の態 度 を確 実 な も の にす る、 あ る い は変 え さ

  せ よ う と意 図す る、場 合 に よ って は具 体 的 な行 動 を 起 こ させ る、 あ るい は そ れ を 止 め させ

  よ う とす る意 図 を持 つ もの。11)

  こ の 定 義 に つ い て 、2,3説 明 を 加 え た い 。a)の 一 枚 以 上 と い う基 準 は 、 何 故 こ の よ う な こ と が 必 要 な の か と 思 わ れ る か も しれ な い 。 ドイ ツ 語 に はFlugschriftに よ く似 たFlugblattと い う語 が あ る 。 両 者 は 独 和 辞 書 な ど で は 前 者 は パ ン フ レ ッ ト、 後 者 は ビ ラ 、 ち ら し な ど と 異 な っ た 訳 が 与 え ら れ て い る 場 合 も あ る が 、 一 般 に は 区 別 な し に 使 わ れ て い る 。 そ の 例 と し て Volker  Klotzの"Agitationsvorgang  und Wirkprozedur  in Bttchners>Hessischem  Landboten <"12)あ げ た い 。 これ は 「ヘ ッセ ン の 急 使 」 の 修 辞 法 を 分 析 し た 先 駆 的 な 、 優 れ た 論 考 で 、 そ の 後 の 研 究 者 に よ っ て 度 々 引 用 さ れ て い る も の で あ る が 、 こ の 論 文 中 で は 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 を 指 し て 一 貫 し て"Flugblatt"が 用 い ら れ 、 Flugschriftは 一 度 も 使 わ れ て い な い 。 し か し Flugschriftの 研 究 で は 、 両 者 を 区 別 す る こ と は 必 要 で あ る ば か りで な く重 要 な こ と な の で あ る 。Fehrの 定 義 に お い て も 一 枚 物 のFlugblattは 庶 民 の 読 み 物 で あ り、 知 識 階 級 の 人 々 は Flugschriftを 読 む 。 書 物 を 読 む の は 学 者 で あ る と説 明 さ れ て い る 。 こ れ はFehrが16世 紀 に 成 立 し たFlugschriftとFlugblattの 大 コ レ ク シ ョ ン13)を 調 査 し た 際 に 述 べ た も の で あ る 。 Schwitallaは 一 枚 も の か 、 複 数 頁 か と い う こ と は 、 ど の よ うに テ ク ス トを 組 み 立 て る か に 、 本 質 的 に 影 響 す る 、 と い う点 を 重 視 して い る 。 同 じ時 事 的 な 問 題 を 取 りあ げ て も 、 一 枚 物 で は 、 人 目を 引 く セ ン セ ー シ ョ ナ ル な 扱 い に な り、 挿 絵(16世 紀 に お い て は 木 版 画)も 多 用 さ れ た 。 ス ペ ー ス が 確 保 さ れ るFlugschriftで は 論 証 的 に テ ク ス トを 組 み 立 て る こ と が 可 能 に な り、 人 目を 引 く と い う機 能 は 二 次 的 な も の に な る 。 宗 教 改 革 期 に あ っ て 対 立 す る 旧 教 側 と プ ロ テ ス タ ン ト側 の 間 で 激 烈 な 論 争 が 行 わ れ た 。 そ の 最 も 重 要 な 手 段 がFlugschriftで あ っ た 。 こ の 時 代 宗 教 論 争 は 決 して 宗 教 上 の 問 題 を め ぐ っ て の み 行 わ れ た の で は な い 。 宗 教 上 の 問 題 は 即 政 治 問 題 で あ り、 社 会 問 題 で あ っ た 。 従 っ て 重 要 な 問 題 を め ぐ っ て の 論 争 は 、 個 人 間 で の み 行 わ れ た の で は な か っ た 。 問 題 は 公 共 に 関 わ る も の で あ っ た か ら で あ る 。Flugschriftで あ る こ と の 要 件 に 印 刷 さ れ た も の と い う規 定 が 加 え ら れ る 理 由 で あ る 。16世 紀 社 会 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 重 要 な 手 段 と して 書 簡 が あ っ た 。 た と え ば 当 時 プ ロ テ ス タ ン トの 拠 点 の 一 つ で あ っ た チ ュ ー リ

(8)

ッ ヒ のUlrich  Zwingliと 彼 が カ ッペ ル の 戦 闘 で 戦 死 し た 後 、 跡 を 継 い だHeinrich  Bullingerの も と へ は ヨ ー ロ ッパ 中 か ら 様 々 な な 問 題 に つ い て 毎 日 の よ うに 手 紙 が 届 い た 。 こ れ ら は 何 通 も 書 き 写 さ れ 、 重 要 な 情 報 源 と して 、 き わ め て 速 や か に 他 の 地 域 の 関 係 者 へ 伝 え ら れ た14)。 情 報 伝 達 の 手 段 と して 近 世 の 書 簡 は 、 特 定 の 社 会 層 に 限 定 さ れ る と は い え 、 現 代 と は 全 く異 な る 機 能 を 持 っ て い た の で あ る 。 書 簡 は 、 コ ピ ー も 含 め て 手 書 き で あ っ た 。 こ こ で 手 紙 に ふ れ た の は 、 Flugschriftの 定 義 で 第 一 に あ げ ら れ て い た 条 件 が 、 印 刷 さ れ た も の で あ る こ と、 で あ っ た か ら で あ る 。 社 会 的 な 伝 達 の 機 能 と い う面 で は 共 通 性 を 持 つFlugschriftと 書 簡 は 、 印 刷 さ れ て い る か 、 手 書 き で あ る か で 、 明 確 に 異 な っ て い る 。 さ ら に 書 簡/手 紙 は 通 例 特 定 の 個 人 宛 に 書 か れ る 。 印 刷 物 の 場 合 受 領 者 は 不 特 定 多 数 が 前 提 と な る 。 テ ク ス ト構 造 に 根 本 的 な 相 違 が 生 じ る で あ ろ う。

  19世 紀 に 成 立 したFlugschriftの 考 察 にSchwitallaの 定 義 を 参 考 に す る の は 、 定 義d,  e, fが あ げ ら れ て い る か ら で あ る 。 定 義a,b,  cがFlugschriftの 外 的 な 条 件 を 規 定 して い る の に 対 し て 、d, e, fは 書 き 手 の 「意 図 」 を 問 題 に し て い る 。 こ こ に 抽 出 さ れ た16世 紀 のFlugschriftの 書 き 手 の 意 図 は19世 紀 のFlugschriftの 場 合 に お い て も 本 質 的 に 適 合 す る 、 と考 え ら れ る 。15) 初 期 新 高 ドイ ツ語 読 本 を 編 纂 し たReichmann/Wegeraも テ ク ス トの 分 類 に 「意 図 」 を 中 心 に す る こ と の 有 用 性 を 述 べ て い る 。16)   私 は 外 的 な 条 件 、 定 義b,cは 異 な る 時 代 に あ っ て は 変 更 さ れ る 余 地 が あ る と 考 え て い る 。 た だ こ こ で は そ の 変 更 を 具 体 的 に 示 す だ け の 資 料 を 扱 わ な い の で 、Bttchnerの 場 合 に 関 して はb を 除 外 す る 、 と い う こ と に して お き た い 。   上 述 の よ うにSchwitallaはFlugschriftの 定 義 に は 時 代 を 限 定 す る こ と が 必 要 だ と した 、 そ の 観 点 か ら は 、19世 紀 のFlugschriftに16世 紀 のFlugschriftenに 対 して 与 え ら れ た 定 義 が 応 用 で き る か と い う疑 問 が 生 じ る か も しれ な い 。 そ れ に 答 え る た め に はBttchnerの 時 代 の ドイ ツ 、 あ る い は ヘ ッセ ン の 社 会 状 況 に つ い て 考 察 す る こ と が 必 要 に な る 。 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の 研 究 に は 必 ず と い っ て 良 い ほ ど 時 代 背 景 が 説 明 され て い る所 以 で あ る 。17)前章 で 述 べ た よ うに19世 紀 前 半 の ヘ ッ セ ン 大 公 国 は 産 業 革 命 が 浸 透 せ ず 、 旧 態 依 然 た る 手 法 で 行 わ れ る 農 業 が 経 済 基 盤 の 、 ほ と ん ど 全 て の 税 を 負 担 す る 農 民 階 級 と 、 支 配 者 階 級 が は っ き り分 か れ て い る 社 会 で あ っ た 。19世紀 前 半 の ドイ ツ社 会 は16世 紀 の そ れ と 本 質 的 に 通 底 す る も の が あ る とい っ て 良 い だ ろ う。   Schwitallaは 宗 教 改 革 期 のFlugschriftenを 分 析 し て21の テ ク ス ト ゾル テ を 抽 出 した 。18)テ ク ス ト ゾ ル テ を 彼 は 「特 定 の 目的 の た め に 書 か れ た テ ク ス トの タ イ プ 」19)と規 定 す る 。 こ こ で テ ク ス ト ゾル テ は こ の 規 定 に 従 う。 な お テ ク ス ト ゾル テ の 定 義 は ま だ 一 義 的 に 定 め ら れ て い な い 。 す な わ ち テ ク ス ト言 語 学 の 領 域 で テ ク ス トの 分 類 は さ ま ざ ま に 試 み ら れ て い る が 、 最 終 的 な テ ク ス ト類 型 は ま だ 確 立 さ れ て い な い 。 テ ク ス ト分 類 の 過 程 で テ ク ス ト ゾル テ が 注 目 さ れ て き た が 、 こ の 語 の 日常 語 の 意 味 の"テ ク ス トの 種 類"か ら は 、 誤 解 が 生 じ や す い 。 例 え ば"手 紙"

(9)

は 一 つ の テ クス トゾル テ と考 え られ るか も しれ ない 。 しか し手 紙 を 一 つ の テ クス トゾル テ とす

る こ とは テ クス ト分 類 上 ほ とん ど役 に 立 た な い。 「

手 紙 」 とい う名 の も とに 実 に さ ま ざ ま な テ

クス トの タイ プが 考 え られ るか らで あ る。 事 務 的 な商 業 文 、 近 況 を 知 らせ る家 族 間 のや りと り、

愛 の告 白、 脅 迫 文 、 借 金 の取 り立 て 、 遺 言 状 等 々 まだ い くらで も挙 げ られ るで あ ろ う。 「

手 紙 」

は"テ

クス トゾル テ"で は な く"テ クス ト形 式"な

ので あ る。 ドイ ツ語 史 の上 で 初 期 新 高 ドイ

ツ語 時 代 は多 くの新 しい テ クス トゾル テ の 出現 で特 徴 づ け られ る。20)上

述 の よ うにSchwitalla

は 初 期 新 高 ドイ ツ語 期 に お い てFlugschriftと

い う媒 体 を 用 い た テ クス トの タイ プを 考 察 し、

21の テ クス トゾル テを 抽 出 した 。Flugschriftを

これ まで 訳 さず に使 って きた が 、 これ か らは

Schwitallaの 時 代 的制 約 に よ る定 義 を ふ まえ て(政 治 的/宗 教 的)パ

ン フ レ ッ トとい う表 現 も

用 い る こ とに す る。

  パ ン フ レ ッ トは 書 き手 が 自己 の意 図 を 読 者 に 伝 え るた め に 用 い られ た 。 パ ン フ レ ッ トを 用 い

た 宗 教 改 革 時 代 の 作 者 の意 図 をSchwitallaは

まず1)情

報 ・評 価 、2)要

求 ・促 し、3)論

拠 ・根 拠 ・推 論 、4)社

会 関 係 定 義 的 文 書 の4つ の領 域 に 大 別 し、 そ れ ぞ れ に4か

ら7の テ ク

ス トゾル テを 帰 属 させ て い る。 以 下 のそ の テ クス トゾル テ(TS)を

あげ る。

1.の

領 域:TS  1マ

イ ナ ス評 価 の過 去/現 在 の行 為 経 過 の報 告

       TS 2  プ ラ ス評 価 の過 去/現 在 の行 為 経 過 の報 告

       TS 3数

え 上 げ の表(評 価 され た テ ー ゼ ・焼 き討 ち され た 城 な ど)

       TS 4予

言(前 兆 、 ユ ー トピア)

       TS 5解

釈(異 常 な、 超 自然 的 な 出来 事 、 奇 形 児 、 天 の兆 候)

       TS 6情

報 の伝 達 、 教 授(学 問 的 に 見 い だ され た 知 識 の仲 介)

2.の

領 域:TS  7指

令(必 要 な論 拠 無 しに 、 命 令 者 の政 治 的 権 力 を 握 る地 位 か ら の)

       TS 8情

報 に 支 え られ た 嘆 願 書 、 請 願 書

       TS 9明

白 な根 拠 のあ る請 願 書(理 論 、 聖 書 、 神 学 的/法 的 専 門 知 識)

       TSIOグ

ル ー プを 支 え る プ ログ ラ ム(グ ル ー プが 目指 す 、 また そ の グル ー プを 支

       え る行 動 の 目的 、 農 民 の要 求 、 宗 教 上 の信 仰 告 白)

3.の

領 域:TSll論

拠 付 け の教 え

       TSI2政

治 的 な テ ー マ な ど の判 定(対 決 無 しの)

       TSI3防

御 、 防 衛 、 守 備 の文 書

       TSl4論

拠 を あ げ て の対 決

4.の

領 域   TSI5起

訴 、 告 訴 、

       TSl6評

価 的 な報 告 を 伴 う告 訴 、

       TSl7論

拠 を 伴 う論 争

       TSI8嘲

笑 的 な告 訴 状

(10)

       TSI9侮

辱 的 な告 訴 状

       TS20賛

辞 の書

       TS21契

約 の書

  16世 紀 の宗 教 的/政 治 的 パ ン フ レ ッ トに 見 られ る テ クス トゾル テ の大 部 分 は19世 紀 に も用 い

られ て い た とSchwitallaは

述 べ て い る。21)こ

れ らを 一 瞥 す るだ け で も16∼19世 紀 の宗 教 的/政

治 的 パ ン フ レ ッ トの性 格 を 窺 うこ とが で き るだ ろ う。

4.「 ヘ ッセ ンの 急 使 」 の テ ク ス トの 段 落 構 成 とそ の 概 要

  「

ヘ ッセ ン の急 使 」 の テ クス トの長 さはA4の

用 紙 で40文 字x30行

でll枚 ほ どで あ る。 さ ら

に 数 字 を 挙 げ る と文 字 数 で約2万5千

、 語 数 で4千3百

、 行 数 は319行 で あ る。 コ ン ピ ュー タ

で 数 え る のだ が 、 文 字 数 と語 数 は ソフ トご とに 違 う数 字 が で る ので概 数 しか 示 せ ない 。 こ の量

は 政 治 的 パ ン フ レ ッ トと して 標 準 的 な も ので あ ろ う。

  こ こで 用 い て い る テ クス トは ミ ュン ヒ ェン版Bttchner全

集 か ら の も の で あ る。22)テクス トは

こ の長 さで は 当 然 章 立 て は 行 わ れ て い ない 。 区 切 りは2文 字 下 げ る こ とに よ って のみ 示 され て

い る。 表 題 、 日付 、 序 文 、 ス ロ ー ガ ン、 本 文 の そ れ ぞ れ の間 だ け行 あ け が 行 わ れ て い るが 、

本 文 中 に は 全 く見 られ ない 。 これ か ら 内容 を 段 落 ご とに概 観 す る のだ が 、 段 落 は2文 字 下 げ て

始 ま る と こ ろを 一 つ と数 え る。 「ヘ ッセ ンの急 使 」 の優 れ た説 得 力 はBttchnerが

統 計 を 利 用 し

た こ とに そ の原 因 の一 つ が あ る と され て い る。 こ の統 計 は また 段 落 の開 始 に も利 用 され て い る。

Bttchnerの 利 用 した 統 計 は ヘ ッセ ン大 公 国 の国 家 財 政 で あ る。 まず 収 入 が あ げ られ 、 そ の後 そ

の支 出が 一 項 目ず つ 提 示 され 、 そ れ を 契 機 に 自 由に 論 が 展 開 され る。 支 出 の項 目の数 字 とは 直

接 関 係 の ない 論 旨 のば あ い もあ る。 支 出項 目の提 示 は2文 字 下 げ で 書 か れ 、 次 の行 も2文 字 下

げ て あ るが 、 こ の場 合 は 項 目の数 字 だ け を 一 段 落 とは 数 え ない 。 こ の よ うな数 え 方 で 、 本 文 は

23の 段 落 に 分 け られ る。

  こ の テ クス トの特 徴 と して3点 が あ げ られ る。 聖 書 の引 用 、 比 喩 、 統 計 の利 用 で あ る。 こ こ

で 聖 書 の引 用 ない しは 聖 書 を 下 敷 きに した 表 現 は 全 体 で80箇 所 に お よぶ 。

  作 者 は 農 民 に 語 りか け る。 作 者 は 進 歩 的 な、 裕 福 な 自 由主 義 者 が 観 念 的 な平 等 を 目指 した の

とは 違 って 、 困 窮 の極 み に あ る農 民 に 真 の 同情 を よせ て い る。 そ の困 難 な状 況 を 打 破 す るた め

に 、 農 民 の 自覚 を 促 し自 ら行 動 を 起 こ させ よ うとす る。 そ のた め に は 農 民 の こ とば で 語 りか け

なけ れ ば な ら ない 。 そ れ が 聖 書 の こ とば で あ った 。 また 農 民 が 抑 圧 され た 状 態 を 打 破 す る根 拠

も聖 書 で あ った 。 従 って 聖 書 か らは 引 用 のみ で な く聖 書 の語 り口を 学 び 取 る こ とが 必 要 で あ っ

た 。 そ れ が 農 民 の唯 一 の言 葉 で あ った か らで あ る。Bttchnerは 支 配 者 階 級 が 、 農 民 達 に は 理 解

で き な い、 彼 ら独 自の 言 葉 で 話 す とい う こ とを 鋭 く指 摘 して い る。23)聖

書 か らは直 接 の 引 用 ば

(11)

か りで な く聖 書 に 由 来 す る 表 現 が 多 用 さ れ て い る 。 そ れ が80ヵ 所 と い う数 字 に 表 れ て い る 。 以 下 段 落 ご と に 内 容 を 概 観 す る 。   テ ク ス トは ま ず 前 置 き か ら 始 ま る 。 こ れ はWeidigが 書 い た も の で あ る こ と が 、 確i認 さ れ て い る 。 こ の 前 置 き は 第2版 で は 削 除 さ れ た 。Schaubは こ の 前 置 き は 当 時 の 不 条 理 な 状 況 を 簡 潔 か つ 的 確 に 表 現 して お り優 れ た 導 入 だ と して い る 。 こ の よ う な 前 置 き が 必 要 に な る 社 会 の 矛 盾 を 浮 か び 上 が ら せ る か ら で あ る 。 テ ク ス ト構 成 に と っ て 重 要 な 段 落 の 取 り方 は 、 オ リ ジ ナ ル の パ ン フ レ ッ トを 見 る こ と が で き な い の で 、BUchner全 集 と して 現 在 最 も よ く利 用 さ れ て い る Mttnchen版 の 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の テ ク ス トを 用 い た 。 こ の 全 集 の 初 版 は1988年 、 現 在 で は 2002年 発 行 の 、 第9版 が 出 回 っ て い る 。 こ こ で は 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の テ ク ス トは 第1版 と 第 2版 が 対 比 さ れ て 、 す な わ ち 左 頁 と 右 頁 に そ れ ぞ れ の 版 の テ ク ス トが 行 ご と に 対 応 す る よ うに 印 刷 さ れ て い る 。 こ れ はSchaub以 来 の 伝 統 と 考 え ら れ る 。 細 部 に わ た る 異 同 が 明 示 さ れ て い る が 、 こ こ で は 二 つ の 版 の 比 較 を 目的 と して い な い の で 、 第 一 版 の み を 対 象 と して い る 。 テ ク ス トが 前 置 き か ら 始 ま っ て い る こ と は 先 に 述 べ た 。 そ れ か ら 一 行 あ け て ス ロ ー ガ ン が く る 。 こ れ は パ ン フ レ ッ トの ス ロ ー ガ ン と して は 最 も 有 名 な も の の 一 つ で あ ろ う。 こ こ に 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の 冒 頭 の 部 分 を 引 用 す る: 「ヘ ッ セ ン の 急 使24) 第 一 便 ダ ル ム シ ュ タ ッ ト、1834年7月

前置 き

  これ は ヘ ッセ ン領 邦 に 真 実 を 伝 え る も ので あ る。 しか し真 実 を 述 べ る も のは 死 刑 に 処 され る。

そ れ ど こ ろか 真 実 を 読 む だ け の者 も偽 誓 者 の裁 判 官 に よ って 罰 せ られ るか も しれ ない 。 そ れ 故

に こ の文 書 を 入 手 した 者 は 、 以 下 の こ とに 注 意 しなけ れ ば な ら ない 。

1.あ

なた は こ の ビラを 慎 重 に 家 の外 に お き、 警 察 の 目に 触 れ ない よ うに しなけ れ ば な ら ない 。

2.あ

なた は こ の ビラを 本 当 に 信 頼 で き る友 人 に だ け 渡 す こ と。

3.本

当 に 信 頼 で き るか ど うか 、 自信 の持 て ない 人 に 対 して は 、 密 か に 配 布 す る こ と。

4.万

一 こ の ビラが そ れ を 読 ん だ 者 の と こ ろで 発 見 され た な らば 、 そ の人 は ビラを 地 域 の治 安

    局 に 届 け よ うと して い る と こ ろだ と言 い な さい 。

5.ビ

ラが 、 読 ん で い ない 者 の と こ ろで 発 見 され た 場 合 、 も ち ろん そ の人 に は 何 の責 任 も ない 。

あ ば ら屋 に 平 和 を!宮 殿 に 戦 争 を!」25)

(12)

こ こか ら段 落 ご とに 簡 単 に 内容 を 要 約 して 行 く。(D段 落 の略 字)

D1

  本 文 は 聖 書 の創 世 記 を 下 敷 きに した 以 下 の文 で 始 ま って い る:

  rl834年 は あ た か も聖 書 の嘘 が 白 日の も とに 曝 され た か の よ うで あ る。 神 は(天 地 創 造 の)

5日 目に百 姓 と手 職 人 を 、

  6日 目に 君 主 や 上 流 人 士達 を 創 られ 、 そ して 後 者 に 「

地 を這 う全

て の生 き物 を 支 配 せ よ」 と命 じられ た か の よ うで あ る。 百 姓 や 手 職 人 は ま るで 地 を 這 う虫 と 同

等 に 数 え られ た のだ 。

」26)

  GroReは

聖 書 に つ い て 「

聖 書 は 話 しか け られ た 読 者 の書 物 で あ り、 彼 らに と って 権 威 あ る も

ので あ り、 そ の言 葉 は 彼 ら の親 しみ 深 い も ので あ る。 聖 書 は 彼 ら の世 界 、 社 会 、 人 間 の運 命 に

つ い て の考 え や態 度 に 決 定 的 な影 響 を 持 つ もの で あ る」 と述 べ て い る。27)この聖 書 を利 用 して

Bttchnerは 上 記 の よ うに 書 き始 め る。 非 現 実 話 法 の接 続 法]1式 で 書 か れ て い るが 、 聖 書 が 嘘 を

つ い た か の よ うで あ る、 とい う表 現 が 読 者 に 与 え る衝 撃 は 大 きい 。Bttchnerは"es  sieht 

aus"

を 短 い 間 隔 で 繰 り返 す こ とに よ って 聖 書 の記 述 と 自分 た ち の置 か れ て い る現 実 を つ きあ わ せ 、

検 証 す る こ とを 読 者 に 要 求 す る。1834年 とい う現 実 の年 代 が 読 者 に 、 否 応 な く自分 の置 か れ て

い る状 況 を 自分 で 判 断 させ る。 そ れ まで 聖 書 は 支 配 者 が 自分 た ち の権 威 を 維 持 す るた め の道 具

で あ った 。 これ を 作 者 は 農 民 に 返 し、 天 地 創 造 の記 述 に 反 して 、 人 間 の も とで の平 等 が 一 握 り

の人 間 が 支 配 者 に 成 り上 が る こ とに よ って 、 失 わ れ て い る こ とを 認 識 させ る。Bttchnerの 意 図

は 読 者 に 現 実 を 聖 書 の記 述 と比 べ て 、 批 判 的 な基 準 で は か る こ とを 要 求 す る こ とに あ る。

D2

  こ こで ヘ ッセ ン大 公 国 の国 家 財 政 の統 計28)が引 用 され 、 そ の総 額 が 示 され る。 数 字 が 明示 さ

れ る こ とに よ って そ の信 頼 性 が 高 ま って い る。 こ の額 は 国 民 の血 税 で あ る こ と、 そ れ は 国 家 の

名 に よ る搾 取 で あ る こ とが 教 示 され 、 こ こか ら国 家 とは 何 か が 、 説 明 され る。 国 家 の秩 序 を 保

つ とい う名 目で 政 府 が 全 国 民 を 搾 取 の対 象 に して い る とい うので あ る。 こ の政 府 とい う組 織 に

連 な る 支 配 者 階 級 の 人 々 を 数 え 上 げ る こ と に よ っ て 、 迫 力 の あ る文 体 が 生 ま れ て い る 。

Bttchnerは 国 民 に養 って も らい な が ら、 国 民 を 搾取 す る支 配 者 階 級 を厳 し く非 難 す る。

D3-D7

  内務 と法 制 の省 にllO.607グ ル デ ン

  こ の段 落 か ら支 出 の項 目が 提 示 され る。 こ こで は 法 とい うも のが 庶 民 に と って 何 で あ るか 語

られ る。 何 世 代 に もわ た って 雑 然 と積 み 重 ね られ た 、 理 不 尽 な代 物 。 殆 ど外 国 語 で 書 か れ て い

るた め に庶 民 に は 理 解 不 能 な 支 配 者 の搾 取 の道 具 、 とBttchnerは

極 め て激 し く法 制 を批 判 す

(13)

る。 法 は 君 主 の娼 婦 で あ り、 国 民 が 正 義 を 求 め て 法 に た よれ ば 、 膨 大 な費 用 が か か る こ と、 最

も不 正 を は た らい て い る国 を 訴 え れ ば 、 ど うな るか 、 国 家 に よ る弾 圧 を 招 くのみ 、 と糾 弾 す る。

D8

  財 務 省 へ の支 出は1551.502

  財 務 大 臣 を 頂 点 とす る税 務 官 か ら徴 税 取 り立 て 人 まで 一 連 の役 人 達 へ の給 与 が これ で 支 払 わ

れ る。 取 り立 て 側 は フ ロ ッ クコ ー ト姿 で 会 議 の席 に 着 き、 農 民 達 は 裸 で 彼 ら の前 で 身 を 屈 め て

い る。 役 人 ど もは 農 民 達 を ま るで 家 畜 を 値 踏 み す る よ うに 扱 う。 彼 ら の 目的 は た だ 一 つ 、 まだ

どれ くらい 取 り立 て られ るか とい うこ とだ 。

D9

  軍 隊 へ の支 出

  貧 乏 人 の息 子 達 に 派 手 な軍 服 を 支 給 し、 そ して 暴 君 に 忠 誠 を 誓 わ せ る。 彼 ら の棍 棒 は 、 自分

た ち と 同 じ階 級 の人 民 が 、 自分 た ち も また 自 由 な人 間 だ な ど と考 え 始 め よ うも の な ら、 そ の頭

を 打 ち砕 くのに 使 わ れ る。 軍 隊 が 抑 圧 の道 具 で あ る こ と、 兵 士 達 は 貧 乏 人 の子 供 達 で あ る こ と

か ら、 反 乱 を 鎮 圧 す る兵 士 は 兄 弟 殺 しや 父 親 殺 しに な る とい う矛 盾 が 示 され る。

DlO

  年 金48,000グ ル デ ン

  こ の段 落 は 極 め て 短 い 。 役 人 達 の老 後 は 年 金 に よ って 安 楽 な生 活 が 保 障 され て い る。 彼 らが

国 家 に 忠 実 に 仕 え た 、 とい うこ とは 秩 序 と法 と称 す る と こ ろ の規 則 的 な搾 取 を 熱 心 に 行 った と

い うこ とだ 。 被 抑 圧 者 か ら取 り立 て た 年 金 が 、 抑 圧 者 の も ので あ る こ とを 、Bttchnerは 繰 り返

し指 摘 す る。

Dll

  国 務 省 と枢 密 院 へ の支 出174,600グ ル デ ン

  こ の段 落 に お い てBttchnerは

こ の数 字 を 直 接 説 明 して い な い 。 宮 廷 の戯 画 的 な描 写 を 引 き

出す き っか け と して 用 い て い る。 「

一 番 た ち の 悪 い な らず 者 は 、 ドイ ツの 至 る所 で 、君 主 の最

も身 近 に い る連 中 で あ る」29)から始 ま って 宮 廷 人 の生 態 が 描写 され て い る。 彼 らの行 動 は 自 ら

の意 志 に 基 づ くも ので は な く、 他 人 に 操 られ て い る、 とい うので あ る。 操 り人 形 のた とえ に よ

ってBttchnerは

君 主 の 神 聖 不 可 侵 性 が 虚 偽 の もの で あ る こ とを 示 して い る。 ドイ ツに お け る

"お 上"に

従 順 に

、 権 威 に絶 対 服 従 す る とい う伝 統 は宗 教 改 革 期 に か え って強 化 され た が 、 こ

の権 威 の象 徴 で あ る君 主 が 主 体 の ない 操 り人 形 だ と指 摘 す る こ とに よ って 、 国 民 が お 上 に 服 従

(14)

しな けれ ば な ら ない 根 拠 を 打 ち 破 っ て い る 。 宮 廷 費828,827グ ル デ ンを 負 担 す る理 由 は な い こ

とに な る。 こ の段 落 で は こ の数 字 を あ げ る こ とが 主 な 目的 と な って い る。

Dl213   ,

  引 き続 き宮 廷 の腐 敗 が描 か れ る。Dl2で は 大 公 殿 下 とい え ど も人 の子 と して生 まれ 、 死 ぬ 点

で は ま った く普 通 の人 間 と変 わ ら な い こ とが 以 下 の よ うに描 写 され て い る:「_そ れ は腹 が 空

け ば 食 べ 、 まぶ た が 重 た くなれ ば 寝 る。 見 よ、 そ れ は 君 た ち と 同 じよ うに 、 裸 で ふ に ゃふ に ゃ

の体 で この世 に 生 まれ 、 君 た ち と同 じ よ うに 、 死 ね ば硬 直 した 体 を 、 担 が れ る_」30)そ の 人 間

が 大 公 とい うだ け で 、 頭 文 字 だ け のサ イ ンで 抑 圧 機 構 を 作 動 させ る。

  Dl3で は 君 主 を 崇 拝 す る こ とは偶 像 崇拝 と変 わ ら ない と、 ワニを 神 と して崇 め た あ げ く、 そ

の神 に 食 い ち ぎ られ る例 を 引 い て 警 告 す る。

Dl4

  貴 族 階 級(Landstande)に

対 す る支 出16.000グ ル デ ン

  こ の数 字 は前 の段 落 と同 様 こ こで は 何 も説 明 され て い な い 。Landstandeと

い う言 葉 か ら、

1789年 に フ ラ ン ス人 民 が 立 ち上 が り王 と王 制 に 寄 生 す る貴 族 階 級 を 倒 した フ ラ ン ス革 命 が 語 ら

れ る。 出生 や 財 産 の有 無 とは 関 係 な く全 て の人 は 平 等 で あ る、 とい う1789年 人 民 議 会 で 採 択 さ

れ 、1791年 の憲 法 に 取 り入 れ られ た 「

権 利 宣 言 」 の思 想 が 熱 意 を 持 って 語 られ て い る。

Dl5

  フ ラ ン ス革 命 のそ の後 の経 過 、 す なわ ち恐 怖 政 治 、 王 の処 刑 に 恐 れ を な した 諸 外 国 の干 渉 、

ナ ポ レオ ン の台 頭 、 王 政 復 古 の経 緯 が 説 明 され 、19世 紀 初 頭 の ヨ ー ロ ッパ 諸 国 に お け る革 命 的

な動 きが 語 られ る。 民 衆 の怒 りを お そ れ た 王 達 は 譲 歩 す る と見 せ か け て 、 憲 法 の制 定 を 約 束 し

た が 、 そ の中 身 は 偽 りで あ る こ とを 指 弾 して い る。

Dl6

  Bttchnerは

ドイ ツ各 領 邦 土 に お け る見 せ か け だ け の憲 法 を 激 し く非 難 す る。 選 挙 で 選 ば れ た

議 員 に よ る議 会 とい って も、 極 め て 厳 しい 経 済 上 の条 件 で 制 約 され た 選 挙 人 と被 選 挙 人 に よ る

選 挙 で は 不 平 等 は 全 く解 消 され ない 。

Dl7

  前 の段 落 で フ ラ ン ス革 命 後 ヨ ー ロ ッパ 中 に 広 が った 革 命 的 な動 きが 語 られ た が 、 ドイ ツは 依

然 と して 惨 め な状 態 に あ る こ とが 訴 え られ て い る。 暴 君 は 悪 魔 に た とえ られ る。 唯 一 の神 だ け

(15)

が 存 在 し、 自 らを 主 権 者 、 最 高 位 者 、 神 聖 に して 不 可 侵 と称 す る よ うな君 主 を 承 認 す る よ うな

神 は い ない こ と。 悪 魔 が 神 の も ので あ る とい う意 味 に お い て のみ 、 暴 君 は 神 の も ので あ る。 暴

君 の横 暴 を 許 す こ とは 、 悪 魔 に つ か え る こ とで あ って 、 神 に 背 くこ とで あ る。

Dl8

  こ の段 落 か ら極 め て 高 い 確i率で 、Weidigに

よる 加筆 の 部 分 と され て い る。 まず ドイ ツ の現

状 が 語 られ る。Weidigはi理

論 を 振 り回す よ うな進 歩 的 自 由主 義 者 と違 って、 農 民 に 真 の 同情

を よせ 、 彼 ら と の共 闘 を 真 剣 に 考 え て い た 、 本 当 の意 味 で の民 主 主 義 者 だ31)とされ て い るが 、

また 熱 烈 な皇 帝 主 義 の愛 国 者 で もあ った 。 領 邦 君 主 達 が 理 想 的 な皇 帝 を 没 落 させ た のだ と考 え

て い た 。 そ の結 果 ドイ ツ帝 国 は ぽ ろぽ ろに 朽 ち果 て て い る、 と と らえ る。 神 と 自 由に 離 反 して

い た ドイ ツ人 を 神 は しば ら く見 放 して い た が 、 そ れ も終 わ る と きが 来 た 。 人 々が 自覚 し神 に 立

ち戻 る な らば 、 神 は ドイ ツ人 に 自 由 な社 会 を 実 現 す る力 を 与 え るで あ ろ う。 こ の段 落 か ら、 最

後 に か け て 預 言 とい う新 しい テ クス トゾル テが 表 面 に 出て くる。 しか しこれ は 現 世 に お け る理

想 的 な社 会 の実 現 で 、 来 世 に お け るパ ラ ダイ スを 約 束 す る も ので は ない 。 こ の預 言 は 以 降 の段

落 で さ らに 具 体 的 に 語 られ る。

Dl9   バ イ エ ル ン 王 ル ー トヴ ィ ッ ヒが 暴 君 の 例 と して 、 戯 画 化 さ れ て 描 か れ て い る 。

D20

  エ ゼキ エ ル 書37章 の 白骨 の野 を 例 に 取 り、 そ れ が 再 生 す る様 子 が 語 られ る。

D21   ドイ ツ は 今 日30人 も の 領 邦 君 主 達 に よ っ て 搾 取 さ れ 、 ひ か ら び き っ て い る 。 語 っ て い る よ うに 必 ず や 再 生 の 時 は く る 。

しか し預 言 者 が

D22

  君 主 達 が 武 力 で 民 衆 を 脅 そ うと も、 そ の刀 は 自分 自身 を 滅 ぼ す だ ろ う。 ドイ ツは い まや 死 体

の荒 野 だ が そ れ は パ ラ ダイ スに な るだ ろ う。 民 衆 が 神 が 指 導 者 を 通 して 送 る合 図 を 受 け 止 め 、

立 ち上 が る な らば 。

D23

  独 裁 者 を倒 し、労働 の果 実 を 自分 た ち で享 受 しよ う。

最 後 は 神 へ の祈 りで締 め く くられ て い る。

(16)

5.お わ り に   23の 段 落 ご と に で き る だ け 簡 略 に 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」 の 内 容 を 概 観 した 。 そ の 結 果 こ の テ ク ス トはSchwitallaの 分 類 で い え ば 、 主 な 領 域 と し て は 情 報 ・評 価 に 該 当 す る 。 そ の 中 でTS  2 とTS  5以 外 の テ ク ス ト ゾル テ が 観 察 さ れ た 。   こ の 論 文 で はBttchnerの 修 辞 は 扱 わ な か っ た 。 多 くの 研 究 者 は こ の テ ク ス トの 言 語 上 の 魅 力 と 迫 力 を 認 め て い る 。 しか し政 治 的 パ ン フ レ ッ トの 重 要 な 機 能 が 人 々 を して 、 具 体 的 な 社 会 的 行 動 を 取 ら せ る こ と に あ る と す れ ば 、 こ の パ ン フ レ ッ トは 全 く無 力 で あ っ た 。 こ れ は も ち ろ ん 社 会 的 環 境 に も よ る と こ ろ が 大 き い 。 第 一 版 は 配 布 す る 前 に 大 部 分 が 没 収 さ れ て し ま い 、 実 際 に は ほ と ん ど 人 手 に わ た ら な か っ た と い わ れ る 。 ま た パ ン フ レ ッ トの 前 書 き に あ る よ うに 、 読 む 前 に 警 察 に 届 け ら れ た も の も 少 な く な か っ た で あ ろ う。 しか し こ の パ ン フ レ ッ トの 言 葉 の 力 か ら 見 れ ば 、 も っ と 人 を 動 か して も 良 か っ た の で は な い か と も 思 わ れ る 。 こ こ で 農 民 戦 争 時 代 のFlugschrift「 十 二 箇 状 」32)を想 い 出 さ ざ る を え な い 。 こ の パ ン フ レ ッ トに つ い てBlickle は 「も し十 二 箇 条 が な か っ た な ら ば1525年 の 農 民 戦 争 は 、 こ の よ うな 形 で は 起 こ りえ な か っ た で あ ろ う」33)と書 い て い る 。 こ の パ ン フ レ ッ トは ま さ し く農 民 を 大 量 に 動 か し た の で あ る 。 た と え そ れ が 農 民 の 虐 殺 と い う悲 惨 な 結 果 に 終 わ っ た と は 言 え 。 こ の パ ン フ レ ッ トは な ん と い っ て も 言 葉 の 率 直 さ と 簡 潔 な 文 体34)が 際 だ っ て い る ば か りで な く、 農 民 の 要 求 と 、 取 る べ き 行 動 が 明 確 に 示 さ れ て い る 。Flugschrift「 ヘ ッセ ン の 急 使 」 は そ の 点 が 欠 け て い た と 言 え る と 思 う。 しか し言 葉 の 力 は 永 続 す る 。Flugschrift「 ヘ ッセ ン の 急 使 」 は 現 代 も 、 しか も 多 く の 人 に 読 ま れ 続 け て い る 。

1)Friedrich  Ludwig  Weidig(1791-1837):Gie£enで 神 学 を 学 ぶ 。 ラ テ ン 語 学 校 の 副 校 長 、 校 長 を 務 め る

  傍 ら 、 牧 師 、 説 教 師 。 ヘ ッ セ ン に お け る 反 体 制 派 的 政 治 運 動 の 指 導 者 の 一 人 。 「ヘ ッ セ ン の 急 使 」  の

  第2版 を 出 版 。

2)文 献3,4,7お よ びBrockhaus  Enzyklopadieな ど か ら筆 者 が ま とめ た 。

3)Abel,  Wilhelm(1962):Geschichte  der deutschen  Landwirtschaft  vom  frtthen Mittelalter  bis zum  19.

  Jahrhundert.  Stuttgart.

4)文 献22.S.194,195.

5)文 献8.S.12.

6)文 献8.S.12.

(17)

8)FlugschriftはFlug(飛 ぶ こ と)とSchrift(文 書)の 合 成 名 詞 で 、16世 紀 に お い て も 迅 速 に 各 地 へ 出     回 っ た 。 ま た 論 争 の や り と り も 短 い 期 間 で 行 わ れ た 。 9)文 献17.S.13. 10)お よ び13)文 献23.S.53. ll)文 献17.  S.14. 12)文 献2.,12. 14)文 献23. 15)文 献17. 16)文 献15.S.  XI. 17)例 え ば 文 献3,7,8,12,13等 に 関 連 す る 記 述 が あ る 。 18)文 献17.S.367,368. 19)文 献17.S.52.

20)た と え ば"Die  Textsorten  des FrUhneuhochdeutschen"von  Kastner,  Schtttz und  Schwitalla.  ln:

    Sprachgeschichte.  HSK  2.Halbband.1985.S.1355  ff."Textsorte"の 術 語 と し て の 訳 語 と し て 「テ ク

    ス ト種 」 が 優 れ て い る 。 た だ し 現 在"Textsorte"の 使 用 例 を 検 討 し て い る の で 、 こ こ で は"テ ク ス ト     ゾ ル テ"を 一 貫 し て 用 い る こ と に した 。 21)文 献17. 22)文 献14. 23)文 献14.S.40. 24)Landboteと い う語 に つ い て 、 Boteは 便 りを 届 け る 人 に 当 時 最 も よ く使 わ れ た 語 で あ り、 こ れ と 読 者     で あ る 農 民 を 意 識 したLandleuteのLandを 結 合 し た も の 、 とGro£eは 説 明 し て い る 。 文 献8. 25)和 訳 は す べ て 筆 者 に よ る 。 26)文 献17.S.40. 27)文 献8.S.17.

28)Allgemeine  Statistik des Grotlherzogthums  Hessen.  von  G. W.  J. Wagner.  Darmstadt  l 829-31.4.Bd.

    S.295-313.か ら の 引 用 。 文 献16S.65. 29)文 献14.S.48. 30)文 献14.S.48. 31)文 献8.S.13. 32)文 献ll.S.9-14. 33)文 献24.S.25. 34)文 献18.S.64,65.

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