日本福祉大学社会福祉論集 第 117 号 2007 年 8 月 目 次 1 . はじめに 2 . 精神障害者の地域生活 社会的背景 地域生活に必要不可欠な 3 要素 3 . 障害者自立支援法と精神障害者小規模作業所 愛知県を中心とした精神障害者小規模作業所の沿革 障害者自立支援法に直面した精神障害者小規模作業所の行方 4 . 地域精神保健医療福祉対策研究会 5 . 精神障害者小規模作業所への実態調査 アンケート調査 1 ) 概要 2 ) アンケート調査結果 【運営面】 【職員の現状】 聞き取り調査 1 ) 概要 2 ) 聞き取り調査結果 【作業所利用者】 【作業所職員】 6 . 精神障害者小規模作業所の課題 7 . 精神障害者の暮らしに果たす精神障害者小規模作業所の機能と役割 地域生活を続ける上で大切となる内側から生成される動機付け 当事者間の相互作用によって芽生える視点の変更や価値観の再構築 8 . 精神障害者小規模作業所の今後の方向性 社会福祉実践としての作業所活動 職員の資質向上に向けたスーパービジョンの導入 重層的な支援システムの構築 支援内容の多様性 9 . おわりに
精神障害者小規模作業所の現状と魅力ある方向性への一考察
愛知県精神保健福祉センター 「地域精神保健医療福祉対策研究会」 での取り組みを通して
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久
1. はじめに
障害者自立支援法 (以下, 自立支援法) が施行され, 精神障害者小規模作業所 (以下, 作業所) は新しい法律体系の施設への移行 (以下, 新体系) を余儀なくされることになった. そして, 元 来, 運営の殆どの部分を行政機関からの補助金に頼ってきた作業所は, 日払い方式(1)の新体系へ の移行により, 存続が危ぶまれるようにさえなってきた. そのような中, 愛知県精神保健福祉センター (以下, センター) では, 作業所が未来へ向かっ て活力ある方向へ向かうようにと, 新体系への移行をはじめとするモデル提示を行い, 魅力ある 作業所運営を提案することにした. 加えて, モデル提示をする過程の中で得た作業所の実態等か ら考察したノウハウを市町村等へ政策提言する, という 2 点を目的に 「地域精神保健医療福祉対 策研究会」 (以下, 研究会) を 2006 年 10 月から 2007 年 3 月までの間, 作業所, 家族会, 市町村 等のメンバーにより活動することになった. また, センターでは研究会に先立ち, 1995 年と 2006 年の 2 度にわたって, 作業所へのアンケート調査(2)を行っており, さらに, 筆者からの提案 で, 4 箇所の作業所の利用者と職員に対し, 聞き取り調査(3)も実施した. 本稿では, 研究会で得た成果を通して, 作業所の現状と課題を明らかにし, その上で, 作業所 が発展的に継続されるためにはどのようなことをすべきか, ということについて具体的な方向性 を示すことに言及していきたい.2. 精神障害者の地域生活
社会的背景 厚生労働省は, 2003 年 10 月から 2004 年 7 月までの間, 「精神障害者の地域生活支援の在り方 に関する検討会」 (以下, 在り方検討会) を開催し, 2004 年 8 月に 「最終まとめ」 を公表した. また, この検討会は, 「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」 と 「精神病床等に 関する検討会」 と連携しながら進められたが, 再三にわたり課題とされたのが, 7 万 2 千人と推 定されている社会的入院者の退院促進であった. 精神障害者 (以下, 当事者) の社会的入院の背 景には, 疾患と障害が共存するという障害特性に加えて, 社会的障壁 (バリア) を見逃すわけに はいかない. 中でも, 「心のバリア」 という社会の差別と偏見が当事者の暮らしに大きく立ちは だかっているといえるが, 着目すべきはそれらの背景であり, 筆者はその要因として次の 4 点を 挙げたい. ① 精神障害は見た目にわかりづらい (視覚での捉えにくさ) ② 精神障害は経験則で図りにくい (自分の経験に基づいた理解のしづらさ) ③ 精神障害者に対し, 怖いという先入観がある (誤った固定観念) ④ 精神障害者に対するマイノリティな人たち, という捉え方がある (自分と切り離した見方)(4)そのような中, 在り方検討会の 「最終まとめ」 では, 今後の施策体系のあり方の重要な項目の 1 つとして, 「長期入院患者の社会復帰意欲を促す仕組み」 について検討がなされ, 相談支援の 内容, 治療システムの見直し等を視野に入れ, 退院促進を図るということになった. しかしながら, 筆者は当事者の地域生活を考えたとき, 例えば精神科病院から単身生活へと移 行する際に必要な要素としては, 先に挙げたような取り組みによる当事者のスキルアップや 「退 院して地域で暮らしたい」 と思えるようになる動機付けもさることながら, 社会へ向けた, ある いは社会生活を量的に支える社会資源への働きかけが重要だと考えるのである. 地域生活に必要不可欠な 3 要素 当事者の社会生活を支える社会資源としては, ①経済的基盤, ②居場所, ③地域生活支援体制, の 3 つが重要であると考える. 具体的には経済的基盤として, 一般的には就労による所得が考え られるが, 対人関係の苦手さ等の活動制限を伴いやすい当事者は, 障害年金, 生活保護に代表さ れる所得保障が求められることになる. 次に, 居場所であるが, 特に大切と考えるのは昼間の居 場所である. これについては, 就労をしている者の場合, 意識しているか否かは別にして, 「職 場が居場所」 になりうるといえるが, 先でも述べたように, 所得保障を活用する機会の多い当事 者にとっては, 何らかの別の居場所が必要となり, その代表的なものとして, 作業所やセルフヘ ルプ・グループ (以下, SHG) を挙げることができるのである. ただし, ①と②は当事者に限 らず, 誰しも地域生活をするにあたって必要な要素といえるが, 生活のしづらさを有する彼らは これらに加えて, ③の地域生活支援体制が求められることになり, 精神保健福祉士 (以下, PS W), 保健師, 訪問看護師, ホームヘルパーというようなフォーマルな人的社会資源と, 家族, ボランティア, 仲間というようなインフォーマルな人的社会資源が重要となる. しかし, 我が国において, 当事者はこれらの 3 要素に簡単にたどり着ける状況にないのが現状 と言わざるを得ない. スティグマ (stigma) が生じやすい当事者にとって, 障害年金の受給や ホームヘルパーの活用等をとってみても, 近隣との関係性から躊躇する場合も珍しくなく, 社会 資源が活用しきれていない現状がある(5). また, 中にはこれらの社会資源の存在そのものを知ら ない者も少なからずいる. そのような中, 身近な地域に, 「街のコンビニエンスストア」(6)のごと く敷居が低く存在し, 職員の支援や仲間との交流を通して, 当事者の主体的な地域生活の構築を 期待できる場として, 作業所を挙げることができるのである.
3. 障害者自立支援法と精神障害者小規模作業所
愛知県を中心とした精神障害者小規模作業所の沿革 作業所は法外事業であるものの, 2004 年現在, 全国で 1825 箇所, 1 日 2 万 7 千人あまりの当 事者が通所している(7). この作業所数は, 地域で暮らす当事者の実態からみたら決して多いとは いえないものの, ここまでの数が作られる過程において, 当事者の家族, 支援者, 及び関係者の並々ならぬ努力によるところが大きかったといえる. 次に, 我が国における精神保健福祉の経過についてみていくことにする. 1964 年, 日本精神 医学ソーシャルワーカー協会 (現, 日本精神保健福祉士協会) が結成され, PSW が社会福祉の 専門職として, 当事者や家族をはじめ社会から期待されることになった(8). また, その翌年, 精 神衛生法の一部改正(9)が行われると共に, 「ひとりぼっちをなくそう」 をスローガンに, 全国精 神障害者家族会連合会が結成されており, さらに, 愛知県においては 1966 年に, 愛知県精神障 害者家族会連合会が結成されている. そして, 名古屋市を除く家族会及び作業所の開設状況とし ては, 1972 年の 「三根会」 を皮切りに 「むつみ会」 「しらゆり会」 という地域家族会の誕生をみ た. このようにして, 会員同士の支えあい, 居場所, 情報交換等が求心力となって当初結成され た家族会はその後次第に, 地域へ向けた取り組みへと活動が変化していくことになった. また, 1970 年代までは, 当事者に対する社会復帰施設, 手帳をはじめとする福祉施策が皆無に等しかっ たことから, 精神科病院を退院して地域社会へ戻った当事者は, 通院以外に自宅から出るきっか けを見出しにくかったといえる. そのような中, 1974 年に精神科デイケアが診療報酬点数化され, さらに, 精神衛生センター (現, 精神保健福祉センター) のデイケアが利用できるようになっていった. ただし, これらの 施設を利用するにあたっては近隣に居住する者は別にして, 片道数千円もかけて通うことは決し て現実的とは言えなかった. そこで, 1980 年の 「しらゆり会作業所」, 1987 年の 「やすらぎの家」 を皮切りに, ほぼ毎年のように作業所が家族会によって設立されていったのである. さらに, こ こで注目すべきは, 表 1 に示すように, 作業所に対する行政からの補助金制度 が始まったのは 1986 年からであるが, 1991 年まで設置者たる家族会に毎年 運営費全体の 3 分の 1 の設置者負担が 必要とされていたにもかかわらず, 7 箇所の作業所が開始していた事実を挙 げることができる. 加えて, 「しらゆり会作業所」 については, 補助金制度が無い中, 7 年にわ たり運営されてきたという点が, 当時の社会資源の乏しさと, 家族会の強い思い入れを象徴して いるといえる. また, 1996 年, 大都市特例が施行されたことにより, 名古屋市の精神保健福祉行政が独自に 動いていくことになった. そして, 2000 年には, 社会福祉事業法が社会福祉法となり, 社会福 祉法人の設立要件が緩和されると共に作業所は, 小規模通所授産施設への移行の道が開かれたこ とから, 2002 年より移行するところが増え, 2007 年 3 月現在, 愛知県内では名古屋市を除き 28 箇所の作業所と 10 箇所の小規模通所授産施設が運営の殆どの部分を補助金によって運営してい るのである. 表 1 精神障害者小規模作業所に対する補助金の負担割合 1986 年 1991 年 整備費 県 1/2, 市町村 1/4, 設置者 1/4 県 1/2, 市町村 1/4, 設置者 1/4 運営費 県 1/3, 市町村 1/3, 設置者 1/3 県 1/2, 市町村 1/2, 設置者負担無し
障害者自立支援法に直面した精神障害者小規模作業所の行方 多くの作業所が従来の機能を維持しつつ, 自立支援法による新体系への移行先として最も多く 想定しているのが, 地域活動支援センターのⅢ型である. その他には, 訓練等給付として, 「就 労移行訓練事業」 や 「就労継続支援事業」 を挙げることができる. しかし, 後にも出てくるが, 作業所に対して当事者が求めている居場所としての機能を考えれば, 実際的には前者の方が従来 の機能と合致しているといえる. だが, 冒頭でも触れたように, 新体系では日払い方式がとられ ることに加え, 各々の自治体の考え方にもよるが, 利用料の 1 割負担が求められるところが多い という課題を抱えることになった. そのようになった場合, 状態の変化をきたしやすい当事者が 1 日でも作業所を休めば即運営費に影響すると共に, 加えて, 近年増加の一途を辿ってきている 精神科病院及び精神科診療所に付設されている精神科デイケアへ作業所の利用者(10)が流れてしま うのではないか, という不安の声が聞こえてくるのである. また, 関係者を不安視させているも う 1 つの理由が, 愛知県は名古屋市を除いて, 殆どの市町村が自立支援医療の自己負担分を独自 に補助しているため, 精神科の外来診療が無料となり, そのことが精神科デイケアの利用のしや すさへと拍車をかけ, ひいては作業所離れにつながるのではないかという見方である. さらに, 作業所が頭を抱えるもう 1 つの事柄として, 補助金交付を受けている市町村との関係 を挙げることができる. 新体系の試算表から, 利用者の今後の通所状況を考え, ある程度の試算 の目途がたったとしても, 次なる関門は行政機関との関係である. 具体的には, 自立支援法によっ て新体系に移行したとしても, 行政機関から運営費を受けることには変りがないことから, 作業 所が希望する地域活動支援センター等の事業を市町村から委託を受けて実施することができるか, という問題である. 以上のことから, 作業所は, ①利用者が今後どの程度日々通所するか, という運営補助金全体 の試算に加え, ②行政から希望する新体系の事業への移行に対して指定または委託を受けられる か, という 2 つの切実な課題を有しているといえる. しかしながら, これまで地域精神保健福祉 の実践において, 作業所は当事者が暮らす身近な場所で, 当事者及び家族, さらには支援者から 見ても意義深い実践を展開してきた. だからこそ, 作業所をいかにして存続させるかということ は大変重要であることから, その取り組みとして, センターが以下の研究会を立ち上げたのであ る.
4. 地域精神保健医療福祉対策研究会
個々の作業所が自立支援法に直面している中で, この状況を単独で乗り越えるには, 十分な時 間, 発想, さらにはマンパワーが不可欠である, と言わざるを得ない. そこで, センターがこれ まで地域精神保健福祉に多大なる貢献をしてきた作業所を体系的に支援する取り組みとして, 研 究会を発足させたのである. そして, 志向したのが作業所の運営基盤の強化であると共に, その ことを達成するため, さらには, 研究会の特徴として注目したのが SHG だった. また, この研究会の開催期間は, 2006 年 10 月から 2007 年 3 月までの半年間とされたが, 当初より翌年度以 降の継続を前提にした第一段階という位置付けで実施されることになった. 次に, 構成員として は, ①愛知県精神保健福祉士協会代表, ②社会復帰施設協議会代表, ③小規模作業所関係者, ④ 小規模通所授産施設関係者, ⑤精神保健福祉相談員会代表, ⑥愛知県精神障害者家族会連合会代 表, ⑦市町村の作業所担当者代表, ⑧センター所長, ⑨学識経験者, という人たちが選任された. そのような中, 筆者は作業所の職員経験を持ちえているということから, 愛知県へ来て半年余り しか経過していないにも関わらず座長としての役割を担うことになった. 一方で, 上記の構成員 の中に当事者が入っていないが, これについては選任を試みたものの, 性急な研究会の招集の中 で実現しなかったということである. そのような中, 筆者がこの研究会に関心を抱いた理由とし て, 自立支援法が施行されて以降, 都道府県や国は市町村へ丸投げともとれるような責任を回避 した関わり方をしてきた. ところが, この研究会は法外事業である作業所に対して, これまでの 活動を評価して, 特長を見出しながら支えていこうという考えを明確に示していたのである. ま た, 利用者が作業所運営委員会に入れていない実態を不本意とし, 利用者の力に着目することか らも SHG の意義について, 研究会を通して明らかにしていきたい, という考えについても聞か され, 未知なる可能性を感じた. なぜなら, 自立支援法により国が志向しているのは, 利用者の 一般就労への移行であり, 新体系の事業所については, それに向けての作業工賃の上昇といえる. これらのことから, 「まず, 作業所へ通うことが大切」 であるとか, 「居場所重視」 というような 発想は昨今消えつつあった. それよりも, 小規模な団体は近隣の別団体と共同することも視野に 入れながら, とにかく一般就労を目指すというもので, その先には 「自己責任論」 の影が見え隠 れしているのである. しかしながら, これらの流れに比し, SHG は当事者の自己有用感を同じ体験をしてきた仲間 との自助と共助を通して得ることを目指したものといえる. これらのことからも, 研究会に対し ては, 自立支援法以前の当事者に対する原則的な捉え方を再確認する意味からも, 大いに期待し たのである.
5. 精神障害者小規模作業所への実態調査
アンケート調査 1 ) 概要 センターでは, 1995 年と 2006 年の 2 回にわたって, 作業所及び小規模通所授産施設に対して アンケート調査を実施している. ただし, 1995 年に実施したアンケート調査 (以下, 95 年調査) では, 愛知県内の作業所 24 箇所全てを対象としていることに対し, 2006 年に実施したアンケー ト調査 (以下, 06 年調査) では, 1996 年に大都市特例によって名古屋市内の作業所が県の管轄 から外れたため, 名古屋市を除く 28 箇所 (回収できたのは 27 箇所) の作業所及び同じく名古屋 市を除く小規模通所授産施設 10 箇所を対象にして実施している. なお, 調査項目は, ①施設の概要, ②運営の概要, ③利用者の概要, ④職員の概要の 4 つについてであるが, 本稿では作業所 の今後の方向性を検討する上で参考になりやすいと考えられる②と④の一部について, 作業所に 対する調査結果を中心に述べることにする. 2 ) アンケート調査結果 【運営面】 まず最初に, 作業所の運営基盤の 心臓部分ともいえる 「作業所の運営 資金」 については, 表 2 に示すよう に, 95 年調査と比較しても大きな 違いは見られず, 殆どのところが 1,500 万円未満の資金で運営してい ることがわかる. ただし, 県・市の作業所への補助金としては, 95 年調査・06 年調査の対象と なっている大半の作業所がAランク (利用者の登録人数が 10 人以上) を受けているものの, そ の補助金額は 2006 年度額が 991 万 2 千円である. したがって, 中には, 1,500 万円以上の運営 資金を計上している作業所も見られるが, 国庫補助金の約 100 万円を除いたとしても, 400 万円 以上の額が民間基金, 作業収益等による資金から成り立っていることが推測できると共に, これ らは特別会計として極めて限定的な使途を制約された性質の資金といえる. 次に, 「作業所職員の勤務形態別人数」 では, 表 3 に示すように, 95 年調査と比し, 06 年調 査では非常勤職員の比率が高くなっていること がわかる. これは, 表 2 とも無関係ではなく, 実際的に人件費に計上可能な額の絶対的な低さ の表れであろう. 加えて, 作業所運営において, 間接的に大い に関わるマンパワーの関係では, 95 年には調査項目が無かったものであるが, 06 年調査におい て, 「ボランティアの参加」 は, 市民ボランティアが 16 箇所 (59.3%), 家族ボランティアが 4 箇所 (14.8%) を数える. また, これらのボランティアをはじめとする人的社会資源の 「運営委 員会の構成員」 については, 市町村職員が 25 箇所 (96.2%), 家族会が 21 箇所 (80.8%), 医療 機関の職員が 21 箇所 (80.8%), 保健所職員が 20 箇所 (76.9%) と高い値を示しているが, 利 用者とボランティアについては, 3 箇所(11.5%)と 4 箇所 (15.4%) という低い数値にとどまっ ている. 一方で, 「SHG の活動がある作業所」 (06 年調査のみ) は 4 箇所 (14.8%) を数えており, さ らに, 「作業所が受けたい支援」 (06 年調査のみ) では, マンパワー増強・財政支援が共に 17 箇 所 (63.0%) であり, 次いで, 管理運営 10 箇所 (37.0%), 利用者支援 8 箇所 (29.6%) と続く. 表 2 作業所の運営資金 (公的・その他の補助金+作業収益等) 95 年調査 (n : 24) 06 年調査 (n : 27) 1,100 万円未満 10 41.7% 9 33.3% 1,100∼1,500 万円未満 11 45.8% 17 63.0% 1,500 万円以上 3 12.5% 1 3.7% 計 24 100% 27 100% 単位:箇所 (作業所数) 表 3 作業所職員の勤務形態別人数 95 年調査 (n : 67) 06 年調査 (n : 82) 常 勤 52 77.6% 54 65.9% 非常勤 15 22.4% 28 34.1% 計 67 100% 82 100% 単位:人 (作業所職員)
【職員の現状】 「作業所職員の経験年数」 は, 表 4 に示すよ うに, 全体的な分布としては 95 年調査と 06 年 調査では大きな差はない. しかし, 06 年調査 では, 3 年未満の経験年数の者の割合が 95 年 の 6 割強から減ったとはいうものの, これに 4 年から 7 年の経験年数の者を加えると, 全体の 8 割が経験年数 7 年以下ということになる. ま た, 「作業所職員の年間賃金」 であるが, 95 年 調査項目にはなく, 06 年調査で新たに導入し, 44 人の回答を得ているが, 常勤職員の最高額が年間賃金 484 万円で, 最低が 100 万円であり, 中央値が 270 万円・平均が 264 万円であった. 次に, 「作業所職員としての魅力」 については, 表 5 に示すように, 触れ合い・社会的意義を 挙げた者が多かった. ただ, 創造性を挙げた者が両年の調査共に 10%前後であり, 意外にも低 調であった. 一方で, 表 6 に示すように, 「不安・不利」 について給料を挙げた者が 95 年調査の 25 人 (33.8%) から 06 年調査の 36 人 (52.9%) に増えており, これは, 先にあげた年間賃金の 中央値の低さからつながってくる部分であろう. 聞き取り調査 1 ) 概要 アンケート調査をより深めていくために, 筆者が作業所利用者及び職員に対して, 聞き取り調 査を 2007 年 1 月から 2 月にかけて実施した. そして, 対象及び方法としては, 愛知県を 4 つの 地域に分け, 各々の地域から 1 箇所を選び計 4 箇所の作業所に対して, 事前に連絡をとった上で, 各々の作業所の利用者にはグループワークにより約 50 分間, 職員には座談会形式で約 70 分間話 を聞いた. また, その内 1 箇所の作業所職員に対する調査については, 近隣地域の作業所職員も 表 4 作業所職員経験年数 95 年調査 (n : 72) 06 年調査 (n : 75) 1 年未満 15 20.8% 6 8.0% 1∼3 年 30 41.7% 31 41.3% 4∼7 年 16 22.2% 23 30.7% 8∼11 年 6 8.3% 8 10.7% 12∼15 年 5 6.9% 5 6.7% 16 年以上 0 0.0% 2 2.7% 計 72 100% 75 100% 単位:人 (作業所職員) 表 5 職業の魅力 (複数回答) 95 年調査 (n : 72) 06 年調査 (n : 73) 触れ合い 33 45.8% 38 52.1% 社会的意義 19 26.4% 17 23.3% 創造性 10 13.9% 7 9.6% 自発性 2 2.8% 4 5.5% その他 3 4.2% 7 9.6% 感じない 3 4.2% 3 4.1% 計 70 76 表 6 不安・不利 (複数回答) 95 年調査 (n : 72) 06 年調査 (n : 73) 給料 25 33.8% 36 52.9% 対人関係 25 33.8% 17 25.0% 仕事の難しさ 15 20.3% 20 29.4% 体力健康 12 16.2% 19 27.9% その他 16 21.6% 20 29.4% 無し 24 32.4% 0 0.0% 1 人平均 1.6 1.7 単位:人 (作業所職員) 単位:人 (作業所職員)
加わっての座談会となった. 次に, 内容としては, 利用者に対しては, ①作業所の居心地, ②障害者自立支援法について, ③SHG をはじめとした当事者活動, ④自分にとっての居場所の内容, ⑤行政機関や作業所等へ の意見や要望, とした. 次に, 作業所職員に対しては, ①作業所職員としての魅力と不安, ②作 業所の課題とその解決に向けての考え, ③障害者自立支援法について, ④作業所の特長 (独自性 や長所として目を引く点等), ⑤利用者の作業所運営への参加状況, ⑥利用者への個別支援の有 無, ⑦作業所活動へのボランティアの導入について, ⑧行政機関や家族会等への意見や要望, で ある. 2 ) 聞き取り調査結果 【作業所利用者】 表 7 に示すように, ① 「作業所の居心地」 については, 安心感 や 温かい , という意見を はじめ, 地域のオアシスとして位置付けている利用者が多かった. また, 相談できる人がいる 仲間がいるのがいい というように, 作業所という場を通して得られる支援者や仲間の存在も 重要な要素として挙げられていた. その他, 通常単独では体験しにくい, レクリエーションにつ いて挙げた者も多くいた. さらに, 病状が悪化しなくていい 自分が変えられたりする とい う意見からもわかるように, 客観的に作業所の意義について認めている者もいた. 次に, ② 「障 害者自立支援法について」 は, 支援じゃなく無理やりという印象がある という意見に象徴さ れるように, 概して否定的な捉え方が目立った. 一方で, ③ 「SHG をはじめとした当事者活動」 については, 調査した 4 箇所の内, 2 箇所の作業所の利用者が中心となって, 実際に SHG 活動 が行われており, その内の 2 箇所における SHG 活動としては, 食事会等を通して生活の質を高 める活動を主な内容としていた. また, SHG 活動を中心的に行っている利用者からは, 概して, 調査全体を通して積極的な発言が得られた. さらに, ④ 「自分にとっての居場所の内容」 につい ては, 殆どの者が作業所, デイケア, SHG を挙げており, 他にはわずかではあるものの, 美容 院や書店を挙げている者もいた. また, 意見の中で, 発病前の友人との付き合いが極端に減じ た , という趣旨のことを述べた者が複数名いた. そして最後に, ⑤ 「行政機関, 作業所等への 意見や要望」 としては, 現在利用している作業所を無くさないようにしてほしい というよう な意見が多く聞かれる等, 利用者の作業所に対する強い思い入れがこの項目をはじめとして, 随 所に伝わってくる聞き取り調査結果であった. 【作業所職員】 ① 「作業所職員としての魅力と不安」 については, 作業所という小さい組織が故に運営に直接 携われ, 経験をつめるという反面, 利用者への支援に加え, 事務 (経理や総務等) 等の日々の業 務に翻弄されている, というものであった. また, 限られた補助金収入が中心の作業所では, 先 の調査 (06 年調査) 結果と同様に, 給与面での不安は隠しきれないようであるが, 一方で, 可 能性や創造性が発揮できることを作業所の魅力として挙げていた者が多くいた. 次に, ①とも連
表 7 作業所利用者に対する聞き取り調査結果 ① 作業所の居心地 「安心感がある」 「1 人暮らしをしているが, 作業所へ来ると話ができたり, 作業が出来たりする. 殻に閉 じこもらなくて済むのがいい」 「餅つき大会等, 普通に会社に行っている時にはできないようなことがで きる」 「働くという目的が見える」 「規則正しい生活ができる」 「作業所へ行くと親が喜ぶ」 「病状が悪化し なくていい」 「ストレス発散になる」 「家族とずっといると息がつまるので気分転換になる, これが一番大 きいかもしれない」 「仲間がいるのがいい」 「温かい, 家庭的」 「精神的に支えられている」 「相談できる人 (職員) がいる」 「人数が少ないのがいい」 「賑やかでわいわいしているのがいい」 「作業所同士の交流会が ある」 「料理をはじめ, 社会経験ができる」 「色んな人 (学生・ボランティア等) と接することで, 自分が 変えられたりする」 「作業所への行き帰りに, 買い物ができる」 「息抜きに, 近くの体育館でスポーツがで きるのもいい」 ② 障害者自立支援法について 「作業所が NPO に移行しようとしているので身近になってきた 「(自立支援医療で) 年に 1 回の書き換え が不便になった」 「自立するなら, 自分たちで勝手にやりたい. 法律でどうこう言われたくない」 「枠には められるのはどうか」 「いいと思っている人はいない」 「支援じゃなく, 無理やりという印象がある」 「作 業所を拠り所にしている人がいるのに, 外に出すというのはどうか」 「かつて (作業所ができるまで) の ように, 世間で犯罪が起こるような状況に追い込まれるでは」 「3 障害が一緒になったというのはいいが」 「今の体系 (作業所) が合っているのに, それが難しいとなれば困る. 維持してほしい」 「今より工賃がマ イナスになるのは残念」 「とまどいがある, 意味がわからない」 「そのうち, 就職ができるかな, と期待し ている」 「障害者にとって厳しく, 悪く扱われているような気がする」 ③ セルフヘルプ・グループ (以下, SHG) をはじめとした当事者活動 「○○会は SHG として, 年に 3 回ぐらい自分たちで計画実施している. 活動は 3 年ほど前から始まり, 夜や日曜日だったりと活動日も様々. 作業所メンバー全員が SHG の会員で, カラオケや食事会等を行っ ている. 作業所へ通えない人たちにも参加してもらいたいので, 保健所の精神保健福祉相談員に伝えて (広報) もらっている」 「個人的に集まることはある」 「○○, ○○等, 市内に 4 つぐらいの SHG がある. 気のあう仲間と喫茶店に行ったりする」 「気の合う仲間同士で集まることはある」 ④ 自分にとっての居場所の内容 「作業所, デイケア, ○○会 (SHG)」 「○○電気 (大型量販店) の売り場めぐり」 「2, 3 人で行くカラオケ」 「友達 (作業所の仲間) と一緒に行く喫茶店」 「1 人で喫茶店へ行く」 「世間の人から, こいつら (精神障 害者たちは) 昼間遊んでいるのではないか と思われているように感じる. ここ (作業所) だと, 自分の 病気のことを言わなくても, あ, そうか と言ってもらえるので, 気分転換になる」 「トレーニングジム」 「宗教」 「毎月 1 回のレクリエーション」 「本屋」 「昔の友人とは交流が途絶えている」 「○○病院のデイケア」 「仲間と集っているとき」 「美容院」 「家」 ⑤ 行政機関, 作業所等への意見や要望 「バスの本数を増やしてほしい, 買い物に行きにくい」 「(作業所の) 昼食費の補助をしてほしい」 「学生や ボランティアに来てほしい」 「(作業所が) 狭い」 「(○○市に対して) 3 級の人にも 2 級の人のようにタク シー券をもらえるようにしてほしい」 「作業所は日中の営みの場なので, 無くなるということだけはやめ てほしい」 「4 月から法律がかわっても, 作業手当を減らさないでほしい」 「リフォームして, 作業環境を よくしてほしい」 *代表的, あるいは, 特筆すべき意見を掲載 SHG ……セルフヘルプ・グループ
動するが, ② 「作業所の課題とその課題へ向けての考え」 については, ソフト面では利用者や地 域への関わりや働きかけの仕方の難しさ, ハード面では建物の改築等を課題としていた. そして, それに対する解決方法としてはスーパーバイザーをはじめとする相談できる者の存在, 資金の必 要性が挙げられた. そのような中, ③ 「障害者自立支援法について」 は, 今回調査した 4 箇所の 作業所全てが NPO 法人化の認証を既に受けていたり, あるいは, 準備がほぼできているものの 見通しが立たない , ということを述べていた. その見通しとは, 作業所利用に一部負担金等 が発生して, 利用者が再び家へ閉じこもってしまうのでは , という側面と, その結果として 利用者数が減った作業所の運営が成り立たなくなるのでは , という大きく 2 つの点においてで ある. 上記のことからも, 今後益々重要とされる, ④ 「作業所の特長, 今後作業所は何を特長にすれ ばよいか」, については, 居場所 緩やかな場 というように, 当事者の地域拠点という点が 挙げられていた. 加えて, 利用者と一緒に運営が出来る点も作業所の特長としていた. また, そ れに伴い, ⑤ 「利用者の作業所運営への参加状況」 については, 運営委員会に利用者が参加して いるところは無かったものの, SHG 活動等を通して, 利用者の意見が活発化されるようになっ てきたということが挙げられていた. さらに, ⑥ 「利用者への個別支援の有無」 については, 作 業所により大きく異なっていたものの, 利用者全員の記録を毎日つけているところ, 就労支援の ためにハローワークへ同行している所もあった. ただ, 全ての作業所がその必要性について認め ており, いかに工夫して実現していくか という意見が大半だった. 次に, ⑦ 「作業所活動へ のボランティアの導入」 については, いずれの作業所もその意義を認めていると共に, 貴重な気 づきとして, 継続できているボランティアは してあげる というタイプの人ではない等, その 資質についても認めていたが, 後方支援の体制を課題として挙げていた. 最後に, ⑧ 「行政機関, 家族会, 精神科病院等への意見や要望」 では, 精神科病院等の関係機関との連携を望んでいるも のの, 協力体制の難しさが挙げられていた. 外部から見るとわかりづらい作業所が抱えている課 題については, 他の聞き取り調査項目でも同様のことが語られていたが, 業務量の多さに疲弊し ていることに加え, 一方で, その状況が周囲から理解されにくい職員の苦悩が大いに伝わってき た.
6. 精神障害者小規模作業所の課題
作業所は, アンケート及び聞き取り調査からもわかるように, 多くの課題を抱えており, それ らは自立支援法が施行されたからという問題ではなく, それ以前から潜在的にあった課題が自立 支援法によって顕在化した, というのが的を射た捉え方であろう. そして, その課題について, 以下の 3 点にまとめて述べていくことにする. 第 1 点目は, 補助金やマンパワーという量的な課題である. まず, アンケート調査からも明ら かなように, 職員は賃金面の不安が大きく, そのことが離職率の高さに直接的につながり, 結果表 8 作業所職員に対する聞き取り調査結果 ① 作業所職員としての魅力と不安に思っていること等の両面 【魅力】「やりたいことが実現できる」 「色んなこと (総務, 経理等の運営面等) がやれて経験になる」 「(利用者の) 少しの変化に気づける」 「これまでの活動を継続する中で, 地域がかわってきた」 「利用者と 職員の間に仕切りがあまり無いので, 一緒に作っていける」 「可能性がある」 「職員が駄目だと (利用者に) 協力してもらえる体制がある」 「枠にはめられにくい分, 創造性が発揮できる」 「運営を担っている実感が ある」 【不安】「自立支援法の新体系になってからのこと (運営面) が心配」 「利用者への対応に戸惑うことがあ る」 「保健所の精神保健福祉相談員以外に相談する人がいない」 「事務に翻弄されている」 「将来性が不安 で, 昇給に関しては行政から異議を出されたことも」 「力 (資本力等) が無い所は存続が難しい, という ようなことを行政から言われたりする」 「作業所がつぶれるのが一番の不安」 「家族を養うにあたって, 困っ ている」 「家に仕事を持ち帰ることが多い」 「業務をこなしている感じ」 「気持ちや体力の消耗が激しい. いかにエネルギーを補充するかが大切」 「仕事を続けるためには, お金と時間が必要だが」 「自分が作業所 の主軸になる中で, この給与で新規職員が集まるか, という思いがある」 ② 作業所の課題とその解決へ向けての考え 【課題】「専門的な支援 (直接的な個別支援・間接的な地域づくりのネットワーク等) ができないし, で きていない」 「地域とのつながりという意味では, 老人会へ食事づくりに利用者と一緒に行くことがある が, その先が思い浮かばない」 「就労支援もやっていきたいが進まない」 「利用者への緊急時の対応に困る」 「内職作業の納期に追われている」 「型にはまらないプログラムづくり」 「職員間では意見も限られている」 「ボランティアは大切と考えるが定着してもらうことが難しい」 「建物 や職員の採用まで影響するので財源が必要」 「リフォーム」 「自立支援法への移行にどのように対応してい くか」 「建物の改修工事」 「利用者への関わり」 【解決に向けて】「経験に基づいたノウハウ」 「相談できる人の存在」 「グループワーク等の技術」 「補助金 を使わないように, 民間基金等の助成金を申請したりしているが, 部分的な対応であり, 根本解決にはな りにくい」 「職員の意識改革」 「第三者 (外部の人) が時折作業所へ入る」 「ボランティアへのフォロー体 制の確立」 「資金面の必要性」 「指導者の存在. 援助技術のスーパービジョンを含めて」 ③ 障害者自立支援法について 「運営委員会に, 市町の担当者が入っているので取り残されているような感じはない」 「他分野とも横のつ ながりができた」 「見通しが立たない. 来年存続するかという不安がある」 「当事者が家にこもってしまう ようでは困る」 「今までの良さがどのように生かされていくかが不安」 「新体系へ移行する中で, 人員の確 保が一番大きな問題だと考えている」 ④ 作業所の特長 (独自性や長所として目を引く点等), 今後何を特長にすればよいか 「居場所としての位置付け, ゆっくりくつろげる」 「生活をトータルに捉えることができる」 「利用者に任 せる部分は任せ, 自然と互いにフォローしあったりしている」 「プライドが保てつつ (生活の流れが) 緩 やかな場になっている」 「週に 1 回の食事作りやレクリエーション. SHG がある」 「居場所を前面に出し た作業所で, 朝から通所しなくても途中からでも参加できる」 「利用者の声を尊重し, 一緒に作り上げて いく作業所」 「月に 1 回の卓球教室」 「皆仲が良い」 ⑤ 利用者の作業所運営への参加状況 「利用者の運営委員会への参加はない. 今回の調査結果 (06 年調査) を見て, 改めて利用者が参加するこ との必要性を感じている」 「家族会の研修会に利用者が呼ばれ, 意見を述べる機会はある」 「SHG の成果 からか, 月に 1 回のレクリエーションでは意見が出たりするようになった」
として職員の大半が経験年数の短い者で占められているという実態を招いている. しかしながら, これらの職員の人件費の大部分は行政の補助金から支払われており, その絶対的な額の低さが問 題の根底にある. 加えて, 補助金によって成り立つ事業の場合, 今回の自立支援法の施行をみて もわかるように, 行政機関の仕組みが変わればたちまち作業所は直接的にその影響を受けてしま う, という運営上の弱さも改めて露呈された. 次に, 職員については, どこの作業所も現状の補 助金を最大限人件費に充て, 日々の活動をしている状況にある. したがって, 補助金が増えれば マンパワーの強化もできるであろうが, 実際的にはそのような状況を作ることは難しいと言わざ るを得ない. しかし, ここで記述が終わってしまえば, 理想論の域を越えられない, 机上の課題 整理になってしまう. ならば何が必要かということになると, 目の前の利用者, さらには職員自 身のためにも, 「ベストを目指しつつベターな実践について考える視点」 である. そのような点 に立ったとき, 地域に根ざすことを目指す作業所は利用者の力, ボランティア, 学生, さらには 地域の関係者といかに協働しながら実践を展開することができるか, ということに着目すべきで あろう. 例えば, SHG が育っている作業所は, 利用者自身の主体性が発揮され, 活動において, ユニークかつ, ニーズに即した提案が実際になされていることが珍しくない. また, ボランティ アや学生が作業所に入ることにより, 社会の風が入り, 職員と利用者の二者間の関係性に膨らみ ⑥ 利用者への個別支援の有無 「面接希望者も 2 人ぐらいいるが, 中々個別支援はできていない」 「作業所以外に利用者の支援者がいるか 否かも把握できていない」 「日誌があるが, 個別支援のフェースシート等の記録類は無い」 「個別支援をし ている. 面接を定期的にしたり, 記録も書いている. また, 病院の PSW を通して, カンファレンスをす ることもある」 「就職, アルバイトをはじめ, 一緒にハローワークへついていったりする」 「障害者職業セ ンターへついて行って, 利用者の新たな面に気づいたりする」 「通所者全員のフェースシートがあり, 毎 日全員分の記録をしている」 ⑦ 作業所活動へのボランティアの導入について 「既存のボランティアグループはある」 「精神保健福祉ボランティア講座の実習先になっている」 「年配の ご夫妻がたまに来訪してくれ, その方の紹介で地域活動が広がった」 「2 人が定期的に入ってくれている が, してあげる というタイプの方ではないのでメンバーからもすんなりと受け入れられている」 「個人 ボランティアでお茶, 俳句を教えてくれる人がいる」 「民生委員さんで, 月に 3 回ぐらい入ってくれてい る人がいる」 「かつて, 自ら希望してボランティアを始めた人がいたが, 根づくまでに十分なフォローが 無かったこともあり, 続かなかった. とっても反省している」 ⑧ 行政機関, 家族会, 精神科病院等への意見や要望 「保健所の担当者 (精神保健福祉相談員) の移動を無くしてほしい」 「病院の PSW 等ともなるべく連絡を 取るようにしているが, 難しい」 「家族会の人には, もっと作業所へ足を運んでほしい」 「家族会立ではじ まった作業所だが, その当時関わった人たちが高齢化し, 介護問題に直面している」 「作業所のある地域 に精神科病院がなく, 協力体制がとりにくい」 「行政担当者には, ぜひ現場 (作業所) に足を運んで, 実 態に目を向けてもらいたい」 「新しい家族の参加が殆どない」 「地域で暮らす当事者の中には, 作業所にさ えつながっていない人が多くいる実態にぜひ目を向けてほしい」 *代表的, あるいは, 特筆すべき意見を掲載 SHG……セルフヘルプ・グループ, GW……グループワーク
が出ると共に, 作業所のプログラム等についても広がりが生まれたりしているのである. このよ うに, 多様なマンパワーの柔軟な活用について考えていく 「現状の中での知恵を絞った取り組み」 が作業所には求められるといえよう. 次に, 第 2 点目としては, 職員の資質の向上という質的な課題である. 自立支援法による新体 系による日払い方式では, 1 日の利用者数によって報酬額の多寡が決まることになるが, 加えて, 作業所の利用者の内, 何割かの者が併用している精神科デイケアとも, 今後はある意味, 従来の 月額方式と異なり競合先となる. このような状況下において, 作業所は新体系に移行した場合, ある程度の延べ利用者数が見込まれないと運営が成り立たなくなることから, 職員は日々電卓を 離せなくなる. したがって, 「職員の資質の向上」 というような話をすると, 「今の作業所はそれ どころではない」 という話をする関係者が少なくないのである. であれば, 今何をすることが未 来の作業所の安定的な運営につながるといえるのだろうか. 少なくとも, 「来てください」 と利 用者や関係者に連呼しても意味がなく, 多くの利用者が求めていることはこれらの勧誘や難しい 理論ではなく, 「魅力ある場」 につきるのではないだろうか. さて, 前置きが長くなってしまったが, 筆者はその魅力という点において, 最も直結すること が職員を含めた作業所を織り成す人たちと考える. 具体的には, 作業所が安心できる場であり, そこで職員から専門的な支援が受けられると共に, ボランティアや学生と多様な話ができる, と いうようなものが担保されておれば, 作業所の存在価値は自ずと認められよう. だが, そのように利用者が感じられる背景には, 職員の専門的な援助技術が無ければ難しく, その内容としては, 直接援助としての個別面接・家族調整・主治医との連絡等をはじめとする個 別支援 (ケースワーク) や, 利用者の相互作用をフル活用した集団支援 (グループワーク) を挙 げることができる. 加えて, 間接援助として, ネットワークづくり, 地域への取り組みとしての 地域支援 (コミュニティワーク) 等がその代表的なものである. さらには, 職員が, 利用者支援 をする上での基盤ともいえる倫理や価値を持ちえており, かつ真摯な姿勢で業務にあたることに より, 利用者が考えもしないような価値観の多様性に気づくきっかけを提供できたりするのであ る. だが, そのためには職員が資質の向上についてよほど意識をしないことには, 1 人何役もの 業務を必要とされる作業所において, 1 日がすぐに過ぎ去ってしまうことになりかねないことか ら, そこには何らかの工夫が求められるといえよう. 最後に, 第 3 点目としては, 第 1 点目の量的な課題と第 2 点目の質的な課題を併せた, 課題の 連鎖性について述べることにする. 図 1−第 1 段階に示すように, 第 1 点目の量的な課題は, 結 果的に職員の業務量の増加へとつながり, 日々の業務に翻弄される, ということは聞き取り調査 からも明らかになった. しかし, 問題は, それ以上にそのことが次の段階へと移行されることで ある. 具体的には, いくら職員が業務量のことを問題にしたとしても, 日々作業所は稼働してい ることから, それに伴う事務的業務を止めることは決して出来ない. では, どこにしわ寄せがい くかと言えば, 図 1−第 2 段階で示すように, 利用者との関わる時間の減少, あるいは, 資質の 向上のための外部研修等への参加機会の減少へとつながってしまうのである.
このことについては, 年末の決算書の作成時期等, 特別な事情がある場合は仕方がないであろ うが, 危険なのはこれらの状況について, 当初問題視していたはずの職員が疲弊したり, 「仕方 がない」 と割切って考えてしまうことにより, 業務の優先順位として, 利用者と関わるための時 間について, 「時間に余裕があれば」 というように, 無意識の内に優先度を低くしてしまうこと である. そして, 結末としては, 図 1−第 3 段階に示すように, 本来小規模で利用者と距離が近 いが故に多くのことに気づけていたはずの視点が広がりにくくなり, 発想の固定化につながりか ねないということを危惧してしまうのである. 以上のことから大切なこととして, これらの課題の連鎖を断ち切るためにいかにすればよいか ということである. これについては, 作業所が持ちえている既存の社会資源や, これまで培って きたノウハウを生かしたり工夫をしながら考えることが有効的だと考える. そのことに加え, 作 業所職員に限らず, 人は状況があまりにも混沌としすぎると, 原点を見忘れてしまいかねないこ とから, 自立支援法に直面している今, 改めて, 主人公たる利用者にとって作業所の機能と役割 とは何かについて検討することが重要といえよう.
7. 精神障害者の暮らしに果たす精神障害者小規模作業所の機能と役割
地域生活を続ける上で大切となる内側から生成される動機付け ここでは利用者にとっての作業所の機能と役割について, 精神科病院に長期入院している者の 地域への移行, さらには, 地域での自立及び社会参加について考察していきたい. 図 2 に示すよ うに, 当事者が精神科病院から長期入院の末に地域社会で生活を始める際, ①経済的基盤, ②居 場所, ③地域生活支援体制, の 3 要素が重要であると考えており, この 3 要素の内容については 先の 2−で述べた通りである. 実際, 退院援助を精神科病院で行う場合, 体系的な支援計画に 基づくか否かを別にして, 支援者がこれらの 3 要素について検討することは特段珍しいことでも 図 1 小規模作業所における課題の連鎖性 ഥ ㊄ ߩ ᷫ 㗵 ੱ ઙ ⾌ ߩ ᷫ 㗵 ዋߥࠬ࠲࠶ࡈᢙߢㆇ༡ 1 ੱ ߩ ᬺ ോ ㊂ ߩ Ⴧ ട ↪⠪߳ߩ㑐ࠊ ࠆᤨ㑆ߩᷫዋ ᄖㇱ⎇ୃ╬߳ߩ ෳടᯏળߩᷫዋ ⊒ᗐߩ ࿕ቯൻ ╙ Ბ㓏 ╙ 㧞 Ბ 㓏 ╙ 㧟 Ბ 㓏 ⷞ ὐ ߩ ᐢ ߇ ࠅ ߠࠄߐ ∋ ᑷ ഀ ಾ ࠅ ఝ వ ᐲない. 加えて, 退院援助をするにあたって当事者に求めることとして, 動機付けを挙げることが できる. つまり, いくらこれらの 3 要素が整っていたとしても, 当の本人がその気にならなけれ ば意味をなさないことから, 退院援助に携わる職員が 「地域には自由がありますよ」 「一度しか ない人生, 精神科病院で過ごすのは悲しいことですから, 地域で暮らすべきですよ」 のような文 言を繰り返すことが少なくないのである. 実際, 全く当事者が動機付けを有していなければ, 地域生活への移行はあり得ないと考えられ るものの, 筆者は当事者が入院しているこの段階においては, むしろ, これらの 3 要素に焦点化 することが重要だと考えるのである. なぜなら, 例えば未成年で発症し, 社会経験を有しないま ま長期入院に至った者にとっては, 地域での単身生活を提案されたとしても, それは動機付けは おろか, 「未知なる生活への不安」 以外の何ものでもないであろう. そのような中, 支援者の援 助等によって, 当事者は地域に対して徐々に目が向き始めていくことになる. これらのプロセスを経て, 当事者が次に考え始められることが, 「日々の生活費の捻出」 であ り, さらに, 「生活の寂しさを想定した昼間の居場所」や, 「困った時に相談できる支援者」 等で あろう. そして, 当事者は図 2−Ⅰ・Ⅱで示すように, PSW の支援等を通して, 退院前に, 障 害年金の受給によって, 定期的に入金される年金を金融機関で実際に引き出したり, 週に 1 回程 度病院から作業所へ通うことで, 作業所の利用者から地域の情報を直接得たりすること等を経て, 地域生活のイメージ化が図られると共に, 安心感を抱くことが可能になるといえる. このような経過の中, 当事者は動機付けが不十分なままも地域生活を開始し, 3 つの要素が整 備されるプロセスを通して, 図 2−Ⅲに示すように, 今居住している住居に 「住み続けたい」 と 考えられるようになり, さらに, 地域生活を続ける中で, 住居を含めたその地域における自らの 居場所が増加し, 生活範囲が拡張することを通して, その地域で 「暮らし続けたい」 というよう に移行していくのではないだろうか. そして, 作業所や SHG の利用を通して, あるいは, 生活 の質 (Quality of Life) を高めるためにこれらの場の活用によって, さらなる生活の広がりへ とつながっていくのである. さて, 動機付けとは, 当事者がこのようにして地域生活を継続し, 主体的に歩み始める中で彼 ら自身の内側から生成されるものではないだろうか. また, このようにして, 周囲 (外側) から 図 2 精神障害者の地域生活に必要不可欠な 3 要素と動機付けとの関係 Σ Τ ၞ␠ળ Υ ♖⑼∛㒮 ⚻ᷣ⊛ၮ⋚ ዬ႐ᚲ ၞ↢ᵴᡰេ ࠗࡔࠫൻ ᔃᗵ ⚻ᷣ⊛ၮ⋚ ዬ႐ᚲ ၞ↢ᵴᡰេ േᯏઃߌ 㧟ߟߩⷐ⚛ ߩቯ⌕ ߺ⛯ߌߚ ࠄߒ⛯ߌߚ ࠄߒᣇ㧔㧽㧻㧸㧕 ᬺ ᚲ 㧿 㧴 㧳
ではなく, 内側から生成された動機付けが, 3 つの要素の土台となることによって, 住居や地域 に対しても愛着がわいてくるともいえる. さらに, これらの当事者の意識が循環していくプロセ スにおいて, 作業所や SHG が大きな役割を果たしてきたことは, これまで紹介した調査からも 十分推測される部分である. だが, 「なぜ, 当事者が主体的な地域生活をおくるにあたって, 作 業所や SHG が正の影響を与えてきたのか」 については, 次項で述べていくことにする. 当事者間の相互作用によって芽生える視点の変更や価値観の再構築 人は対人関係等において大きな問題 を抱えると苦悩することになるが, 解 決にあたってはその原因そのものを焦 点化して消去する, ということもさる ことながら, その課題を一旦棚上げし て, 別の事柄に熱中する等, 気分転換 を図りながら気持ちのバランスを保つ ように努めることが多いのではないだ ろうか. この流れは, 当然, 当事者に ついても同様のことがいえる. 加えて, 彼らは先でも述べたように, 社会から理解されにくい障 害特性を有していることから, 安心と安全を心から実感できるような昼間の居場所を確保しにく い状況にあるといえる. 聞き取り調査において, 表 7−④にも記しているが, 「世間の人から, こいつら (精神障害者たちは) 昼間遊んでいるのではないか と思われているように感じる. ここ (作業所) だと, 自分の病気のことを言わなくても, あ, そうか と言ってもらえるので, 気分転換になる」 というようなことを述べていた者がいた. さて, 作業所は当事者が近隣, あるいは家族関係等で疲弊したとき, エネルギー補給をしたり, 気持ちの建て直しに役立つと考えられるが, そのプロセスについて, 筆者は図 3 のような流れを 辿るのではないかと考えている. まず, 図 3−Ⅰに示すように, 当事者は地域生活においてスト レスの原因となるような課題に直面すると, そのことが生活の中心部分に自然と位置づいてしま い, 通常こなせていた社会生活にまで影響を受けてしまいかねない. そのような中, 図 3−Ⅱに 示すように, 作業所の利用を通して, 他の利用者等との互恵関係によって, 価値観が広がったり, 価値観の置き換えをすることにより, 主観的に生活が広がり, 課題の中身こそ変わらないものの, 現在の生活全体の中で課題の占める割合が小さくなっていくのである. そして, さらに, 「課題 の解決に時間を費やす」 から, 「課題と付き合いつつも, 日々QOL について考えた暮らし方に焦 点化する」 というような視点の変更ができるようになると, 図 3−Ⅲに示すように, 課題が徐々 にその人の生活全体の中心部分から脇の部分へとそれていくといえる. 加えて, 筆者はかつて, 支援者として外側から作業所の活用を思考し, また, 作業所の所長と して内側から直接携わり, さらに今回の調査を通して, 以下の 8 点の機能と役割があると考えて 図 3 価値観の置き換えや視点の変更のプロセス Σ Τ Υ ♖㓚ኂ⠪ߩ↢ᵴో ࠬ࠻ࠬߩේ࿃ߣߥࠆ⺖㗴
いるのである. ① 偏見等を気にすることなく 「ほっ」 とできる場 ② 作業所のメンバーとして, 所属できる場 ③ 様々な活きた情報を得ることができる場 ④ 同じような生活のしづらさを有している仲間と知り合い交流できる場 ⑤ PSW をはじめとする支援者と出会える場 ⑥ ボランティアや学生等の作業所に訪れる関係者と交流できる場 ⑦ 当事者と家族が互いに気分転換をする意味でも両者が適度な距離を保てる場 ⑧ 収入の多寡や職業の種類等にとらわれない人間に対する価値観の再構築が図られる場 当事者は, 上の①や②の機能として, 「ひとりぼっちじゃない」 という安心感や安堵感を得る ことが出発点となり, 作業所の意義を抱き始めることになる. また, ③の機能として, 例えば, 大きな課題となっていた障害受容等についても, 自らがスティグマとして拒否し続けていた障害 年金を他の利用者が活用していることを知り, 「障害年金を受給する前と受給した後の意識の変 化」 を, 活きた情報として得ることにより, 「障害を認めるか否か」 の視点から 「豊かに生きる か否か」 という視点の変更に実際につながったりするのである. また, そのように視点がかわる 上で大きな役割を果たしているのが④・⑤・⑥の人的な社会資源ということになる. 一方で, 家 族と同居している当事者にとっては, 物理的に, 距離をおく意味でも作業所は大いに役立つこと になる. そして, ①∼⑦の機能と役割等を通して, ⑧に示したように価値観の再構築を図ること ができる, ということに最終的に辿り着けることが重要な作業所の魅力であるといえよう(11).
8. 精神障害者小規模作業所の今後の方向性
これまでのアンケート及び聞き取り調査結果をふまえ, 作業所の今後の方向性について考察し ていくことにする. ただし, ここでは運営の危機に直面している作業所の現状を鑑み, 作業所に とって今からすぐに取り組むことができ, かつ, 将来につながる内容に焦点化している. まず最初に, 作業所の新体系への移行の時期については, 管轄する市町村等の考え方により違 いがみられるものの, いずれは何らかの新体系に移行しなければならないことになる. ところが, 既に法人格を持っているところは別にして, その移行にあたっては, 法人格の取得が基礎的な条 件とされている. 中でも, 公益的な活動を行う団体が簡便に法人格取得ができる制度として, 特 定非営利活動促進法による法人 (いわゆる, NPO 法人) を目指す作業所が大半である. 理由と しては, 資産要件が問われないことと, 地域との協働を目指している作業所の考え方にも合致し やすいことが要因といえる. NPO 法人は, 基本的な理念や目的が明確であり, かつ 10 人以上の 会員がおれば比較的簡易な手続きを経て認証を受けられる, というもので, 図 4 に示したように, 家の入口部分が正に NPO 法人の認証といえる. そのような中, 今回聞き取り調査をした 4 箇所 全ての作業所は, これらの手続きは既に終えているか, あるいは, 目途がたっており, 今課題とされていることは, 法人格を取得し新体系に移行した後の運営管理についてであり, 「何人通所 すれば, 作業所と同じ, あるいはそれ以上の報酬を得ることができるか」 というようなものであっ た. また, このことについて, 図 4 を用いて比喩的に表現するとすれば, 「風通しの良い家にする ために, 窓をつけたり, さらには, 煙突や鯱を取り付けるためには, その原資を得るにあたって, 日々何人の利用者が必要となるか」 という議論を繰り返すことになるのである. しかし, 作業所 関係者の思いだけでは直接報酬とは結びつかない. なぜなら, 利用者にとっての関心事は, 図 4 の家の基礎部分 (点線内) の 「その作業所がいかに魅力的であるか」 に尽きると考えられるから である. 要するに, 魅力的な作業所には人が集まるし, そうでないところには人が集まらないと いう図式を描くことができるのである. また, 自立支援法は市町村が裁量権を発揮して作業所と もパートナーシップを形成しながら, 様々な事業展開をすることも可能になったものの, 市町村 が作業所に特定の事業を委託するにあたっては, 作業所に対するある程度の評価が前提となろう. そして, その重要な要素の 1 つが, 「一定の専門性が担保されつつ, 利用者のニーズに沿った特 長をもった作業所」 ということになる. 以上のことからも, 当事者からも行政機関からも選ばれるような作業所になるために何をすべ きか, ということに着目した上で, 以下 4 点に分けて述べていきたい. 社会福祉実践としての作業所活動 作業所はこれまで法外事業でありながら, 当事者の地域生活に多大なる貢献をしてきたことは 周知の事実である. その理由の一つに, 当事者の障害特性に作業所が合っていた, という捉え方 をすることができる. 職員に対する聞き取り調査の中で, 作業所の特長について 「緩やかな場」 と答えた者がいたように, 作業所は自立支援法で目指す一般就労と異なり, 居場所としての機能 が当事者の地域生活をこれまで全国各地で支えてきたともいえる. 図 4 家に例えた小規模作業所の現状と指向すべき内容 ߘߩઁ 㕙 㝯 ജ ࠆ ᬺ ᚲ 㧺㧼㧻ᴺੱߩ⸽ ႎ㈽㧔ഥ㊄㧕 ↪⠪߆ࠄㆬ߫ࠇࠆ ⴕ╬߆ࠄߩᜰቯ߿ᆔ⸤ ᬺ ᚲ ၞᵴേᡰ េࡦ࠲㧙 ዞ ഭ ⛮ ⛯ ᡰេᬺ ᬺ ᚲ ᄙᯏ⢻ဳ ᬺᚲ
しかし, それらの流れの延長線上とは決して言えない自立支援法が施行されたのである. この 状況の中で, まず作業所が求められることは目の前の利用者に対して, きめの細かい支援をいか に提供できるか, という 「ソフト福祉」 であろう. しかし, 社会福祉実践というのは国が敷いた レールの中で, 精一杯動き方を考えるだけでは到底利用者のニーズを満たすことができない. 大 事なことは, 日々実践の中で, 自立支援法の問題点等に直面したとき, おざなりにするのではな く, そのことを客観視し事例として残し, 風化させないことが重要となる. また, これらの事例 をもつ複数の作業所が市町村や関係機関等と連携をとりながら, 国に対して, 改善案等を示しな がら新しい制度設計にも働きかけるという 「ハード福祉」 にまで目を向けてこそ社会福祉実践と いえる. このように, 作業所はソフト福祉とハード福祉を車の両輪のごとく機能させてこそ, 社 会的な役割を果たすことになるといえよう(12). 一方で, 経験年数の短い職員が多い作業所において, これらの社会福祉実践をするにしても, その意義付け等が見出せなければ, 上で挙げたような循環的な社会福祉実践は難しいことになる. しかし, 現状では既存の財政及びマンパワーの状況は簡単に変更できず, そこには何らかの工夫 が求められることから, 筆者は 「作業所の指針づくり」 が有効的であると考える. 具体的には, 作業所の理念や目的, 設立から今日に至るプロセスの中での, 「作業所が目指す道標」, あるいは, 「作業所利用者の捉え方」 等についての冊子を改編しながらまとめ, この指針の意味や意義を常 に職員は確認しつつ, 新しい職員が採用された折にはオリエンテーションのツールとして活用す るのである. 先で紹介した作業所職員に対するアンケート調査の中で, 「職員の専門分野 (大学等で受けた 学問分野)」 としては, 95 年調査と 06 年調査で, 社会福祉が 36.8%・55.3%と上位を占めたも のの, その一方で, これらの専門分野が無し, と答えた者が 26.5%・23.7%と全体の約 4 分の 1 に及んでいる. ただし, 専門分野をスタート時点で持ちえていない職員が, 必ずしも利用者のニー ズにそった支援が出来ないとは限らないものの, それらの者を人的社会資源として教育していく 意味でも, 作業所の指針づくり等が必要であるといえよう. 職員の資質向上に向けたスーパービジョンの導入 作業所職員が専門性を大いに発揮するためには, 資質向上に向けた何らかの取り組みが必要と なり, その最も有効的な方法の一つとして考えられることにスーパービジョン (以下, SV) を 挙げることが出来る. しかし, 1 日の職員配置が 2 名ないし 3 名であり, かつ経験年数の短い職 員が多い作業所においては, 職員間で SV を行うことは現実的といえない. 将来的には, 職員の 定着率が高まり, 経験年数の長い者が増えてくれば状況は変わるであろうが, 現状においては以 下の 2 つの形態の組み合わせが有効的ではないかと考えるのである. まず, 第 1 点目としては, 作業所は保健所の精神保健福祉相談員や保健師, 精神科病院のPS W, 市町村の担当職員等の既存の関係機関 (社会資源) に目を向けるところから始めることが必 要ではないかと考えるのである. そして, それらの人的社会資源に対し, 次のでも挙げるが,
作業所内で実施するプログラムに積極的に参加してもらい, その後, 事業の振り返りをしつつ, グループ SV (関係機関の職員と作業所職員数名) のスーパーバイザーとして関与してもらうと いう方法を考えてみたい. ただし, これらの関係機関の職員は元々 SV の教育を受けているわけ ではないことと, 普段の作業所の様子を十分に知らないことから, 職員が受身の姿勢では物足ら ないもので終ってしまうし, スーパーバイザーの任を依頼された者にとっても不全感が残ってし まうことになる. したがって, その関係機関の職員と共に作業所で昼間行った 「プログラムを通 して, 利用者との関わり方について考える」 というように, 論点を絞った上で実施することが必 要となろう. 次に, 第 2 点目としては, 複数の作業所の職員が集い, ピア SV(13)を行うことが有効的だと考 える. それも, できれば利用者が帰宅した後に, 互いの作業所の実態をイメージしやすくするこ とと経費の節減からも, 持ち回りでいずれかの作業所で実施することが望ましいといえる. 普段 の利用者への関わりや関係機関とのネットワークの構築の仕方で困っていること等を互いに出し 合い, 意見交換することで十分ピア SV になるのである. しかし, 「これであれば以前も実施していたが, 愚痴の言い合いで終っていたため作業所の運 営主体からも好感をもたれなかった」 というような意見も聞かれそうだが, 大事なことはここか らである. この SV を職員の資質向上のための研修会と位置付け, 参加者を明記し, さらに, そ の日の記録についても, 詳細は別にして話の内容と得られたことを整理して業務実績として挙げ るのである. また, このピア SV に対して, 関心を抱く関係機関の職員等がおれば積極的に参加 を要請し, その者にスーパーバイザーを担ってもらい, グループ SV にすることもできるのであ る. これらの 2 点の取り組みを個々の作業所の実態に合わせて, 統合化させつつ, 取り組むことに より, さらに付加価値として, 「ここの作業所の職員は資質向上に取り組んでいる」 と周囲に知 らしめることにもなる. このような一つ一つの日々の職員に対する評価が, 作業所そのものの社 会的評価に直結する部分が少なくないことからも, 資質の向上に向けた取り組みは重要といえる. 重層的な支援システムの構築 利用者支援の観点からすれば, 作業所は利用者間の相互作用による互恵関係から生み出される ものは実に大きいことから, グループワーク及びセルフヘルプ機能の宝庫である, といえる. だ が, 利用者からすれば, これらの意義については認めつつも当然に個人として受け止めてもらい, 個人的な支援も受けたいという思いを抱いていることであろう. 一方で, 精神科デイケア等の医 療機関の付設の施設とは異なる, 作業所の特長を出した支援内容について考えることもまた必要 である. しかしながら, これまで述べてきたように, 作業所の既存のマンパワーでは限られた関 わりしかできにくいことも事実である. そのような中, 筆者は以下の 2 点を取り入れることによ り, これらの課題に対応できると考える. まず, 第 1 点目は, セカンドオピニオンの選任である. 実際, 対人関係がもつれてしまい, 他