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地方自治体職員を対象とした、地域振興に資する産学
官連携専門人材育成研修 (テクノロジー・リエゾン・
フェロー研修) 制度の評価 (2)
Author(s)
筧, 一彦; 石川, 肇; 太田, 与洋; 嶋田, 壽男
Citation
年次学術大会講演要旨集, 26: 481-486
Issue Date
2011-10-15
Type
Conference Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/10119/10166
Rights
本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す
るものです。This material is posted here with
permission of the Japan Society for Science
Policy and Research Management.
概 要 東京大学では、地域振興に貢献する産学官連携の専門家を自治体内に育成するために、テクノロジー・リエゾ ン・フェロー研修制度を2000年より開始した。既に70名に達する研修生を受け入れている本制度は、前稿[1] で述べたように講義やOJTを通じた東京大学研究者との交流をプログラムに組み込むなど、他の研修制度には 見られない特徴を有している。 本稿では、前稿で概要紹介を行ったテクノロジー・リエゾン・フェロー研修制度について、その研修生に対し て行われたアンケート調査を通じ、研修としての有効性評価を行う。一年間という時間をかけて様々な取り組み を実施する本研修は、産学官連携推進人材の育成という観点で大きな効果をもたらしていることを示す。
1
はじめに
東京大学では、地域振興に貢献する産学官連携の専門家を自治体内に育成するために、テクノロジー・リエゾ ン・フェロー研修(以下、TLF 研修)制度を 2000 年より開始した。自治体から毎年度複数名、多い年度では十名 の派遣を受け、合計すると受け入れ研修生数は開始以来七十名に達している。一年間かけて実施される本研修で は、大きく分けて表 1 上部にまとめた四つの実施項目が行われる。 TLF研修制度の概要紹介を行った前稿 [1] に続いて、本稿では TLF 研修制度に参加した研修生を対象としたア ンケート調査を通じて、TLF 研修制度の有効性評価を行う。上記の四つの実施項目を総合的に行うことに加えて、 (5)で述べた「異なる所属の人間が一年にわたり目的と場とを共有して活動する機会」を提供する本研修制度は、 産学官連携推進人材の育成という点で効果が高いことをアンケート回答から示す。一方で、本研修制度を推進し 効果を高める上での課題もまとめる。 本稿は以下、次のように構成される。第 2 節では、アンケートによる調査内容およびその実施方法について紹 介する。この調査結果をまとめたものが第 3 節である。第 4 節では、寄せられたアンケートから特筆すべき内容 や事例を紹介する。同時に、課題として認識されている事象を紹介する。最後の第 5 節にて本稿をまとめる。2
実施アンケートの概要
本節では、本稿の基盤となるアンケートの実施状況についてまとめる。 今回のアンケート調査は、表 2 の通り二回に分けて実施された。これら 2 回のアンケート調査での質問内容を まとめたものが表 3 で、文章記入による自由回答形式を採用している。本稿では質問内容のうち 2. および 4-1. に 対する回答を中心に解析を行った。 表 1: TLF 研修制度での研修実施項目 (1–4) と、付随して得られる機会 (5) (1) OJTによる産学官連携実務の習得 (2)産学官連携に関連した知識の習得のための研究者等による講義への参加 (3)産学官連携に関連した知識の習得のための産業界や研究機関の見学 (4)派遣元自治体で設定する個別課題の解決 (5)異なる所属の人間が一年にわたり目的と場とを共有して活動する機会!1@5= (C!"/AD 7&'E0)G3?.;
H ;I,BHJI
<-:+>%86*8#9 H4$&7&E02FI表 2: 本アンケートの実施概要 実施時期 対象 TLF 研修生 対象人数 回答数 2008年 12 月 第 1–8 期修了生※ 48 45 2011年 7 月 第 9–11 期修了生 17 12 ※第9期生(2008年時点で研修中)にもアンケートを実施し たが、 修了前のため今回の集計からは除外した 表 3: 実施アンケートの質問項目 1. TLF研修受講時点から現在までの所属部署・業務内容 2. TLF研修への意見および研修効果 2-1. 受講した研修課目に対する感想、今後更に深く学びたい点、改善要望等 2-2. TLF 研修を通して習得した “能力・スキル・知識・人脈等” の具体的活用事例 2-3. 「東京大学(或いは首都圏の大学)だからこそ得られた」“能力・スキル・知識・人脈等” 2-4. TLF 研修を通して修得した “能力・スキル・知識・人脈等” の所属機関への移転・還元状況 3. 産学連携活動における課題 〔省略〕 4. 人的ネットワーク他 4-1. TLF 研修を通じて培った人的ネットワークの活用状況 〔以下略〕 5. 大学に対する要望 〔省略〕 東京大学産学連携本部では、学内の豊富な研究者と地域自治体の職員との意見交換・情報交換を行う場として、 構成員を TLF 研修修了生とする「東京大学地域振興研究会」を設置し、2008 年 12 月に設立会合を開催した。そ の後も毎年、総会を開催している。この設立会合開催にあたり、それまでの TLF 研修修了生およびその時点での TLF研修生を対象として、TLF 研修制度および地方自治体における産学官連携の状況などに関したアンケートが 行われた。ここで得られたデータが、本稿が解析を行うデータの一部となっている。 第二回目は、そのアンケート実施から三年が経過した本年 2011 年 7 月に実施された。回答の重複を避けるた め、2009 年 3 月以降に TLF 研修を修了した研修生のみを対象とした。
3
アンケート解析
本節では、前節で説明したアンケートの解析結果を、制度上の特徴および効果の観点からまとめる。本アンケー トは自由回答形式であるため、その回答内容を読解した上でどの項目に該当するのかどうかを判断している。3.1
TLF
研修制度の特徴 (1):制度設計の持つ強み
TLF研修制度の以下の活動内容について、TLF 研修生がどういった制度上の特徴を見いだしているか、この小 節では検討を行う。 主に産学官連携活動の創出を行う (1) の OJT の実践活動の重要さを述べた回答が 15 名から寄せられている。ま た、(3) の訪問見学について「得難い経験をした」といった回答が 9 人から寄せられている。こうした個別の研修 内容に関することに加え、TLF 研修では様々な研修項目が「一つのパッケージ」としてまとめて行われているこ との重要性や価値を指摘している回答が 3 件寄せられた。表 2: 本アンケートの実施概要 実施時期 対象 TLF 研修生 対象人数 回答数 2008年 12 月 第 1–8 期修了生※ 48 45 2011年 7 月 第 9–11 期修了生 17 12 ※第9期生(2008年時点で研修中)にもアンケートを実施し たが、 修了前のため今回の集計からは除外した 表 3: 実施アンケートの質問項目 1. TLF研修受講時点から現在までの所属部署・業務内容 2. TLF研修への意見および研修効果 2-1. 受講した研修課目に対する感想、今後更に深く学びたい点、改善要望等 2-2. TLF 研修を通して習得した “能力・スキル・知識・人脈等” の具体的活用事例 2-3. 「東京大学(或いは首都圏の大学)だからこそ得られた」“能力・スキル・知識・人脈等” 2-4. TLF 研修を通して修得した “能力・スキル・知識・人脈等” の所属機関への移転・還元状況 3. 産学連携活動における課題 〔省略〕 4. 人的ネットワーク他 4-1. TLF 研修を通じて培った人的ネットワークの活用状況 〔以下略〕 5. 大学に対する要望 〔省略〕 東京大学産学連携本部では、学内の豊富な研究者と地域自治体の職員との意見交換・情報交換を行う場として、 構成員を TLF 研修修了生とする「東京大学地域振興研究会」を設置し、2008 年 12 月に設立会合を開催した。そ の後も毎年、総会を開催している。この設立会合開催にあたり、それまでの TLF 研修修了生およびその時点での TLF研修生を対象として、TLF 研修制度および地方自治体における産学官連携の状況などに関したアンケートが 行われた。ここで得られたデータが、本稿が解析を行うデータの一部となっている。 第二回目は、そのアンケート実施から三年が経過した本年 2011 年 7 月に実施された。回答の重複を避けるた め、2009 年 3 月以降に TLF 研修を修了した研修生のみを対象とした。
3
アンケート解析
本節では、前節で説明したアンケートの解析結果を、制度上の特徴および効果の観点からまとめる。本アンケー トは自由回答形式であるため、その回答内容を読解した上でどの項目に該当するのかどうかを判断している。3.1
TLF
研修制度の特徴 (1):制度設計の持つ強み
TLF研修制度の以下の活動内容について、TLF 研修生がどういった制度上の特徴を見いだしているか、この小 節では検討を行う。 主に産学官連携活動の創出を行う (1) の OJT の実践活動の重要さを述べた回答が 15 名から寄せられている。ま た、(3) の訪問見学について「得難い経験をした」といった回答が 9 人から寄せられている。こうした個別の研修 内容に関することに加え、TLF 研修では様々な研修項目が「一つのパッケージ」としてまとめて行われているこ との重要性や価値を指摘している回答が 3 件寄せられた。 a<- NXMQ^FIK$ (39 */ [\WUP^R % 1]24 FLEK@ ":GAC TYV^ !?0 .:_.;3` 6]SOZ 3G,8 7=GBJ ,-> 6) & DG /GH &G+ &G+ /G' 5# 図 1: アンケート集計結果 また、この研修が産学官連携を推進する Proprius21 プログラムオフィサー(CCR 時代の呼称は「客員教員」、 以下あわせて「オフィサー」)の指導の下で行われていることも重要である。前稿でも紹介されている通り、産学 連携提案集である UCR プロポーザルにおいては、様々な専門領域に明るく産業界経験を持つオフィサーが、産業 界と学術界とのつなぎ合わせの場を設定し運営する役割を担っている。こうした産学連携実務担当者の指導の下 で OJT が行われることで、インタビューやコーディネーション、マッチングの適切な進め方についての実地指導 が行われたり、また専門領域に明るくない TLF 研修生に対しては追加で内容解説が行われたりするため、学びの 効果が高い。この実際の活動の場を通じた OJT により実務を体感することの効果および重要性を指摘した回答は 16件であった。加えて OJT のみに限らず、オフィサーが身近な立場で指導・相談を行える環境にあることの利点 を指摘した回答が 6 件あった。3.2
TLF
研修制度の特徴 (2):東京大学および東京で行われること
次に、この TLF 研修が東京大学および東京という場所において行われることの意義を、TLF 研修生の回答を通 じて説明する。 日本を代表する大学の一つである東京大学では、教授から助教までをあわせると 3,800 名を超える研究者が、最 先端の領域において、また領域の第一人者として日々研究活動を行っている。OJT および講義を通じて、こうし た研究者と交流できることの利点を指摘した回答は 17 名から寄せられた。また、東京大学においてカバーされる 研究領域の広さを指摘した回答は 2 件であった。東京大学研究者の持つ産学官連携への意識の高さを指摘した回 答も 1 件あった。 いうまでもなく東京大学の本拠地は東京で、日本の政治、経済そして学術の中心拠点として様々な活動が行われ ている場所である。そのため多種多様なセミナーが開催されており、特に首都圏外の自治体から派遣された TLF 研修生の中には、表 1 での (4) の個別課題の一環としてこうしたセミナーへの参加を活発に行う人も少なくない。 アンケートの回答でも、9 人からセミナー参加のメリットが挙げられていた。また、東京に集まる様々な情報への アクセスのしやすさを挙げた回答も 4 件あった。3.3
TLF
研修制度の効果 (1):研修生自身の素養
前二節では TLF 研修制度の特徴を述べてきたが、以降の小節では TLF 研修制度がもたらしている効果につい て述べたい。 研修を通じて身につけられた事柄として多く回答が得られたのは「知識習得」で、37 名がこれを挙げていた。 この際の知識として多く挙げられていたのが産学官連携や知的財産権に関するもので、他にも先端科学に関する研究者がどのような視点を有しているのかといった、「大学に関する知識」を挙げた回答は 12 件であった。こう した基礎知識は、実際に産学官連携を推進し実際にコーディネーションを行う際の基盤をなすものとなる。 より体得的な内容として、「スキル・自信」の回答が 20 名から寄せられている。個別のスキルとしては「イン タビューの進め方」「コミュニケーションの取り方」「情報の集め方・研究シーズの把握」が主なものであり、「自 分のやりたいことについて協力してもらう手法を学んだ」という表現をしている回答者もいた。 文系出身の技術系担当者にとっては、産学官連携の際にやり取りが行われる科学技術に関する情報が苦手とな る可能性が高い。座学による講義およびインタビューといった OJT をオフィサーと共に行うことで、「自信がつ いた」という回答も目立った。 自治体職員の中には、大学の研究者との接点を持つことに敷居の高さや気後れを感じる方も少なくないようで ある。本研修では OJT や講義を通じて、東京大学研究者との接点および身近にやり取りをする機会を数多く持つ こととなる。このことにより、東京大学を含めた大学研究者に対する心理的障壁が下がったとの回答も 3 名から 寄せられている。 その結果、様々な活動を行う TLF 研修を通じて「視野の広がり」を覚えたとの回答を 5 名の研修生が行ってい る。このことは、本研修制度が産学官連携推進に関する知識やスキルを獲得する機会にとどまらず、人材育成の 観点から大きな価値を生みうることを示唆している。
3.4
TLF
研修制度の効果 (2):人脈
人の集う研修では、人脈の形成も得られる重要な効果のうちの一つである。 自治体間での人脈や情報交換状況について見てみると、39 名から人脈の活用を行っているとの回答が得られた。 異なる自治体出身の方々が一年間という時間を共有することから研修生同士の連携は自ずと強固なものとなり、そ れぞれの代同士でのコミュニケーションが保たれている様子がその回答からもうかがえる。同じ代の間のみなら ず、上下の代とは年度末の引き継ぎを通して面識を持つことができ、また地域振興研究会での更に広い代の間で の接点が持てるなど、幅広い代の間でのコミュニケーションが図られる機会も設定されている。 TLF研修での諸活動では、表 1 の (1) の OJT においては学内研究者および企業関係者、(2) の講義においては 学内研究者および学外の講演者、また同様に (3) 見学および (4) 個別課題においても様々な関係者との接点を持つ 機会がある。こうした活動の結果、東京大学研究者との間での人脈拡大に効果があったと回答をしたのは 11 名、 東京大学外の有識者との人脈構築を回答で挙げたのは 8 名であった。4
TLF
研修制度の成果事例と考察
前節では TLF 研修制度の持つ特徴および効果をまとめたのを受け、本節では TLF 研修制度を通じて得られた 効果による成果をまとめる。同時に、TLF 研修制度に対する考察を行う。4.1
TLF
研修制度のもたらした成果事例
得られた回答を抽出してまとめたものが表 4 である。TLF 研修制度を通じて得られている成果は、当然のこと ながら日常の業務を通じて還元しているとの回答が多く寄せられた。 その中で目立った回答は、東京大学研究者に対する講演や委員の依頼である。ある特定の分野について地元の 大学では適任の講演者を見つけることができない場合、また利益相反の観点から地元の大学研究者に委員の委嘱 を行うことがふさわしくない場合など、TLF 研修を通じて得た東京大学内の人脈が役立てられている。同様に、 TLF研修内での講義や個別課題でのセミナー参加などにより得られた人脈から、東京大学研究者以外の専門家に 対する講演等依頼に結びついた事例も見られた。 その他大きな事例では、東京大学との間での連携協定締結に結びついたというもの、東京大学との間で新たなプ ログラム実施につながったというもの、コンソーシアムの形成に役立ったとするものなど、多岐にわたっている。研究者がどのような視点を有しているのかといった、「大学に関する知識」を挙げた回答は 12 件であった。こう した基礎知識は、実際に産学官連携を推進し実際にコーディネーションを行う際の基盤をなすものとなる。 より体得的な内容として、「スキル・自信」の回答が 20 名から寄せられている。個別のスキルとしては「イン タビューの進め方」「コミュニケーションの取り方」「情報の集め方・研究シーズの把握」が主なものであり、「自 分のやりたいことについて協力してもらう手法を学んだ」という表現をしている回答者もいた。 文系出身の技術系担当者にとっては、産学官連携の際にやり取りが行われる科学技術に関する情報が苦手とな る可能性が高い。座学による講義およびインタビューといった OJT をオフィサーと共に行うことで、「自信がつ いた」という回答も目立った。 自治体職員の中には、大学の研究者との接点を持つことに敷居の高さや気後れを感じる方も少なくないようで ある。本研修では OJT や講義を通じて、東京大学研究者との接点および身近にやり取りをする機会を数多く持つ こととなる。このことにより、東京大学を含めた大学研究者に対する心理的障壁が下がったとの回答も 3 名から 寄せられている。 その結果、様々な活動を行う TLF 研修を通じて「視野の広がり」を覚えたとの回答を 5 名の研修生が行ってい る。このことは、本研修制度が産学官連携推進に関する知識やスキルを獲得する機会にとどまらず、人材育成の 観点から大きな価値を生みうることを示唆している。
3.4
TLF
研修制度の効果 (2):人脈
人の集う研修では、人脈の形成も得られる重要な効果のうちの一つである。 自治体間での人脈や情報交換状況について見てみると、39 名から人脈の活用を行っているとの回答が得られた。 異なる自治体出身の方々が一年間という時間を共有することから研修生同士の連携は自ずと強固なものとなり、そ れぞれの代同士でのコミュニケーションが保たれている様子がその回答からもうかがえる。同じ代の間のみなら ず、上下の代とは年度末の引き継ぎを通して面識を持つことができ、また地域振興研究会での更に広い代の間で の接点が持てるなど、幅広い代の間でのコミュニケーションが図られる機会も設定されている。 TLF研修での諸活動では、表 1 の (1) の OJT においては学内研究者および企業関係者、(2) の講義においては 学内研究者および学外の講演者、また同様に (3) 見学および (4) 個別課題においても様々な関係者との接点を持つ 機会がある。こうした活動の結果、東京大学研究者との間での人脈拡大に効果があったと回答をしたのは 11 名、 東京大学外の有識者との人脈構築を回答で挙げたのは 8 名であった。4
TLF
研修制度の成果事例と考察
前節では TLF 研修制度の持つ特徴および効果をまとめたのを受け、本節では TLF 研修制度を通じて得られた 効果による成果をまとめる。同時に、TLF 研修制度に対する考察を行う。4.1
TLF
研修制度のもたらした成果事例
得られた回答を抽出してまとめたものが表 4 である。TLF 研修制度を通じて得られている成果は、当然のこと ながら日常の業務を通じて還元しているとの回答が多く寄せられた。 その中で目立った回答は、東京大学研究者に対する講演や委員の依頼である。ある特定の分野について地元の 大学では適任の講演者を見つけることができない場合、また利益相反の観点から地元の大学研究者に委員の委嘱 を行うことがふさわしくない場合など、TLF 研修を通じて得た東京大学内の人脈が役立てられている。同様に、 TLF研修内での講義や個別課題でのセミナー参加などにより得られた人脈から、東京大学研究者以外の専門家に 対する講演等依頼に結びついた事例も見られた。 その他大きな事例では、東京大学との間での連携協定締結に結びついたというもの、東京大学との間で新たなプ ログラム実施につながったというもの、コンソーシアムの形成に役立ったとするものなど、多岐にわたっている。 表 4: TLF 研修制度を通じて実現した成果例 • 東京大学研究者に対する講演・委員の依頼 (9 件) • 専門家(東京大学研究者以外)に対する講演等 の依頼 (5 件) • 自治体と東京大学との間での連携協定・プログ ラムの推進(3 件) • 東京大学オフィサーに対する講演等の依頼 (2 件) • UCR-Proposal の概念の一部を自治体内データ ベースに導入 • 他の自治体、学会、産業界と連携した研究拠点 の形成など • 産学官連携事業の立案と運営など • 研究プロジェクト提案、コンソーシアム形成 • 公募研究の調整 • セミナー・講演会等の企画 • 自治体内企業の技術高度化や活動推進支援 • 特許の実施許諾および維持管理4.2
TLF
研修制度に対する考察
アンケート回答に対するこれまでの分析から、(1) OJT、(2) 講義、(3) 見学、そして (4) 個別課題ををひとつ のパッケージとして行う TLF 研修制度の有効性が示唆されている。また、(5) の異なる所属の人間が一年にわた り場と目的とを共有して活動する機会を持ち、加えてた多様な関係者と接することで、人脈形成の場としての価 値も大きいことが示唆されている。加えて副次的な効果として、「視野の広がり」といったことが示唆しているよ うに、社会人教育の場としても価値が高いことが伺える。 現在では産学官連携のための人材育成研修は他の団体でも様々展開されており、それぞれに歴史と成果とを有し ている。そのような中で、受け入れられる人材の数は限られるものの、一年間という時間をかけて OJT および講 義などを一つのパッケージとして展開するこの TLF 研修制度の持つ効果は高い。 一方で、TLF 研修制度を通じて体得した経験や知識を活かすことができるかどうかは、研修終了後に派遣元で 与えられる職責にも大きく左右される。事実、 5 名からは「産学官連携業務に携わることがなく、活用できてい ない」との回答が寄せられている。 TLF研修制度の効果は高いものと確信しているが、経済環境の優れない状況下で一年間人員を派遣することに 敷居の高さが生じていることも、TLF 研修を実施する立場として感じることが少なくない。しかしながら、研修 のもたらす効果を紹介することによって、派遣の価値を見いだしている自治体も少なくなく、そうして派遣されて くる職員の持つ能力および潜在力の高さには常に驚かされている。 その能力を高め潜在力を更に引き出し、結果として自治体における産学官連携活動の推進に資する研修活動と して、TLF 研修が改善を図るべき点にはどのようなものがあるのだろうか。アンケート回答に記載された内容か ら以下四点に分けてまとめたい。 一つ目が、「産学官連携実務へのさらなる参加」である。現時点で TLF 研修生は UCR-Proposal によるマッチ ングの活動に従事しており、テーマ登録数の増加に伴い企業と大学の間での面談の機会も増加傾向にある。これ は実務経験を積む上では効果が高いが、そこで取り扱われる事例の多さもあり、現時点では契約書の調整および 締結といった深い内容までは関与しないことがほとんどである。東京大学産学連携本部では価値創造型共同研究 創出スキームである Proprius21 [2] も行っている中で、こうした産学連携プロジェクト創出活動に、企業側および 学内研究者の合意も得た上で、更に深く関与してもらうということも検討課題の一つである。 二つ目に講義に目を向けると、第二回目のアンケートでは「企業における産学官連携の実際」、「地域振興に関 する内容」、「最近の研究開発のトピックス」に関してのニーズが寄せられている。前稿でも触れているように、こ れまでも研修生からの声に応えるように講義課目を設定しており、今後もこうした声に沿うように努めたい。 三つ目として、回答の中で散見された「研修で得られた能力やスキルが属人的であり、なかなか自治体内に移転 できない」との指摘を取り上げたい。まず、この産学官連携専門人材育成はまだ知識・スキル体系が十分に確立し ていない領域であるものと思われる。そのため、研修生から寄せられる声に常に耳を傾け、どういった知識やス キルがその後の職務に活きているのかを把握する必要がある。一方で、この産学官連携推進という職務は、人間上で実地の場で経験を積むことが必須であり、ある程度の属人性は免れないものと思われる。OJT を含むこの研 修制度の下で産学官連携推進人材を生み出し続け、派遣元に戻った研修生の活動を通じて各自治体内においても 徐々に知見や経験が蓄えられるようにする必要がある。 最後に、本研修を完遂する上で必要充分な期間がどの程度の長さであるか、についての評価はまだ十分には行 えていない。一年間という研修期間について「長過ぎる」との回答も 1 件ある中で、例えば半年のみの参加といっ たプログラム編成が可能か、検討を行う価値もあるものと思われる。