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硬膜外内視鏡による難治性腰下肢痛治療

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膜外内視鏡による難治性腰下肢痛治療

戸 部

賢, 肥 塚

郎, 小 幡 英 章

齋 藤

要 旨 【背 景】 近年, 様々な治療法においても難治性な腰下肢痛が増えていて, その治療法の一つとして 膜外 内視鏡が登場した. 【目 的】 難治性腰下肢痛患者に対する 膜外内視鏡治療の有効性を検討する. 【対象 と方法】 2005年以降に群馬大学附属病院で腰下肢痛で 膜外内視鏡治療を受けた患者に対して, 治療前後 の痛みの程度を調査した. 【結 果】 入院時の痛みの指標 VAS (visual analog scale) は 66±26であったの に対し, 治療後退院時には 35±23であった. しかし, 除痛効果は長くは続かず, 2ヶ月後の VASは 68±22と 術前とほぼ変わらなかった. 【結 語】 難治性腰下肢痛患者に対して, 膜外内視鏡治療を行い一定の除痛 効果を得ることができたが, 今後は に治療法の改良と適応病態の選別を進めることが重要と えられる. (Kitakanto Med J 2008;58:153∼158) キーワード:慢性痛治療, 難治性腰下肢痛, 膜外内視鏡 腰下肢痛症には椎間板ヘルニア, 脊柱管狭窄症, 脊椎 離すべり症, 椎体骨折などに起因するものと, それら の症状に対して施行された手術などによる二次的なもの がある. 若年者の急性の症例では完治することも多い が, 高齢者や急性の腰痛を繰り返し発症している例では, 慢性の腰痛症に移行し, しばしば各種の治療に抵抗性で ある. 特に, 腰下肢痛に対して複数回の手術を受け, 次第 に症状の悪化する例は, failed back surgery syndromeあ るいは multiple operated backと呼ばれ,難治性腰下肢痛 の代表である. 一般的に難治性腰下肢痛では炎症所見に乏しく, 消炎 鎮痛剤の除痛効果は乏しい. オピオイドの鎮痛効果も限 定的である. 漫然と消炎鎮痛薬の投与を受け消化性潰瘍 などの副作用を将来する例も稀ではない. 膜外ブロッ クなどの神経ブロックも施行されるが, 原因が除去され ないため, 効果は短期間しか継続しないことが多い. ま た, 単純レントゲン撮影や, CT スキャン, MRI などに著 変の認められない腰下肢痛症では, 詐病の嫌疑をもたれ て, 社会的に孤立するケースも見られる. こうした難治性の腰下肢痛症例に対して内視鏡を用い て診断・治療を行うのが, 膜外内視鏡 (エピドラスコ ピー) 治療である. もともと, 極細経の内視鏡を用いて 膜外腔や脊髄くも膜下腔を観察しようという試みは 1930年代に開始されている. 1995年に仙骨 膜外腔を 経由して内視鏡を挿入する手法が報告され, に 0.8ミ リメートル経の軟性内視鏡も開発されたことから, 米国 や日本を中心に臨床検査・治療への応用が急速に拡大し つつある. 膜外腔内視鏡の特徴は低侵襲であること, 膜外腔 の肉眼的観察所見が得られること,直視下の灌流・洗浄・ 癒着剥離が行えること, 病変部位への確実な薬剤投与が 期待できること, 本法施行後の 膜外ブロックによる薬 剤の十 な広がりが期待できることなどである. 本法は 先進的な診断治療法として, 平成 16年に自治医科大学 病院に対して高度先進医療の認定がなされている. 今回, 手術適応のない難治性腰下肢痛患者 16名に対 して, 腰下肢痛の診断・治療を目的として 膜外内視鏡 治療を実施した. 対 象 と 方 法 群馬大学医学部附属病院臨床試験審査委員会において 承認を受けたのち, 各症例からインフォームドコンセン トを取得して実施した. 対象は腰椎ヘルニア, 腰部脊柱 管狭窄症, 変形性脊椎症のために難治性の腰下肢痛を有 1 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院麻酔科蘇生科 平成20年1月28日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院麻酔科蘇生科 戸部 賢

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する患者で, 発症から 3ヶ月以上経過しており, 既存の 内服薬治療, リハビリテーション治療, 神経ブロックな どによっても腰下肢痛が十 に改善しない症例とした. また, 脊椎疾患を専門とする整形外科医が診察の時点に おいては手術の適応がないと判断した症例に限定して実 施した. 一方, 以下の基準に合致する場合は実施が困難 であるか, 合併症を発生させる危険性が高いため除外し た : 全身状態の不良な症例 (ASA 類 <), 年齢が 20 歳以下もしくは 85歳以上の症例, 妊娠の可能性がある 症例, 出血傾向を伴う症例 (血小板数 6万/mm >, aPTT 50秒<, PT 活性 60%>), 感染症を併発している症例 (白血球数 12000/mm <, CRP5.0mg/dl<など). 試 験 実 施 方 法 膜外腔内視鏡実施前検査として一般的な診察 (問診, 血圧・脈拍測定など)に加え下記の検査を行った : 胸部・ 腰部単純エックス線撮影, 血液検査 (血算, PT, aPTT,

CRP, ALP, など), 腰椎 MRI 撮影, 痛みのスコア (VAS-100) 膜外内視鏡の実施手順は五十嵐らの方法に倣い以下 のとおりとした. 1) 麻酔 : 内視鏡挿入部に 0.5%リドカインを 5-20ml 用いて局所麻酔を行う. 膜外腔還流に伴う痛みを緩 和するためにフェンタニル 0.05-0.2mg, プロポフォー ル 2-6mg/kg/hrを必要に応じて併用する. 2) 体位 : 手術台の上で腹臥位をとり, 骨盤部に厚さ 5 -20cm程度の枕を挿入する. 3) エックス線透視補助下に仙骨裂孔より 膜外腔にイ ントロデューサーを用いてビデオガイドカテーテル (Visionary Biomedical Inc., Roswell, 医療用具承認番 号 21100BZY0009) を挿入する. 4) 膜外内視鏡を って 膜外腔を観察する. 5) 生理食塩水を用いて発痛の原因と えられる部位を 灌流・洗浄する. 生理食塩水の還流量は 1時間当たり 500ml以下に留める.また,カテーテル先端を湾曲させ 微細な力を用いて癒着剥離を行う. 6) 疼痛原因部を確定した場合は 1-2%メピバカインも しくは 0.125-0.5%ブピバカイン, 0.2-0.75%ロピバカ インを 5-10ml病変部位に注入する. また, 局所に炎症 性変化を認めた場合には病変部位に 1-4mg のデキサ メサゾンを注入する. 膜外内視鏡治療目的に入院した際の入退院時, 膜 外内視鏡治療施行日の 2∼ 8週間後に効果の評価を行っ た. その際の測定項目は, 痛みのスコア (VAS-100) とし た. また, 実施後に副作用の発生有無を観察した. 特に, 膜刺激による頭痛, 悪心, 嘔吐, 神経根や脊髄の物理的 圧迫による腰下肢痛悪化, 新規の神経症状, 膜穿孔に よる症状 (頭痛, めまい, ふらつき等), 施用した医薬品の 添付書に記載された範囲の副作用, などを重点的に検討 写真2 癒着剥離前 (左) と後 (右) の 膜外造影写真 写真1 ビデオガイドカテーテル (上) とファ イバーオプティックスコープ (下)

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した.

治療前後の VASスコアの変化は Wilcoxon signed-ranks testで統計学的に検討した (StatView 5.0, SAS Institute Inc.,NC). 結 果 症例の背景, 膜外内視鏡で観察された所見, 治療前 後での症状の変化は表のとおりである (表 1). 患者の年 齢は 63±14歳で, 男性 9 名女性 7名であった. 疾患では, 脊柱管狭窄症が最も多く 13例で, 椎間板ヘルニア術後 2 例,坐骨神経痛 1例であった.内視鏡所見と,術前の VAS や術後の改善度に関しては相関は認められなかった. 全 例において施行後 2週間以内は腰下肢痛の軽減が認めら れた (図 1). 16症例の VASスコアの値は術前値が 66± 26に対し, 退院時は 35±23となり, 2週間後でも 44±17 へと低下していた (P<0.05).4週間後,8週間後には痛み の再発が見られる例が多かった.尚,2,4,8週後に来院し なかった例がそれぞれ 2, 9, 10例あり, その後の電話イ ンタビュー等による追跡調査では, 痛みの軽減例 5/16 例, 不変例 10/16例, 悪化例 1/16例であった. 副作用調 査では, 穿刺部の痛みを数日訴えた 3例あったが, 自然 治癒し, 他の訴えや腰下肢痛の悪化は何れの例でも認め られなかった. 膜穿孔した症例 7においても, 特に術 後の合併症を認めなかった. 察 今回の対象症例は慢性腰下肢痛の原因が特定できない ものを対象としたため, 膜外内視鏡の所見も様々で, 炎症所見 (発赤, 血管新生等) が強く見られたもの 4例, 膜外腔に激しい癒着を認めたもの 7例, 特に所見のな 図2 術前後の VASの変化 (mean±SD) 年齢(歳) 身長(cm) 体重(kg) 性別 病 名 発赤 癒着 1 50 167 52 M 腰部脊柱管狭窄症 (++) (++) 2 67 156 50 F 腰部脊柱管狭窄症, 腰椎圧迫骨折後 (++) (++) 3 60 160 57 M 腰部脊柱管狭窄症 (−) (++) 4 58 170 50 F 腰椎椎間板ヘルニア術後 (−) (++) 5 67 165 61 M 坐骨神経痛 (+) (+) 6 50 167 58 M 腰部脊柱管狭窄症 (+) (+) 7 78 154 56 M 腰部脊柱管狭窄症 (+) (++) 8 68 156 50 F 腰部脊柱管狭窄症 (+) (+) 9 51 166 63 M 腰部脊柱管狭窄症 (+) (+) 10 69 156 50 F 腰部脊柱管狭窄症 (+) (+) 11 80 158 56 M 腰部脊柱管狭窄症 (−) (++) 12 66 153 50 F 腰部脊柱管狭窄症 (−) (−) 13 72 144 55 F 腰部脊柱管狭窄症 (++) (++) 14 51 167 63 M 腰部脊柱管狭窄症 (+) (+) 15 68 156 50 F 腰部脊柱管狭窄症 (++) (+) 16 27 175 70 M 腰椎椎間板ヘルニア術後 (−) (+) 図1 症例背景, 疾患名, 内視鏡所見

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いもの 1例であった. 慢性の難治性腰下肢痛という同一 の症状でも, 原因は多岐に渡ることが確認された. 過去 に手術を受けている例では癒着所見が顕著であるが, 剥 離に成功すれば長期に渡る鎮痛が得られることが症例 5 において確認された. 伊達 ならびに服部ら も 7および 16例の failed back surgery syndromeに対して 膜外内 視鏡を施行し同様の結論を得ている. 今回の症例において除痛期間は 1週∼ 4週以上であっ た. 過去の報告では, 除痛期間は疾患や術前の病態, 膜 外内視鏡で確認された所見により様々であるが, 4週程 度の除痛はいずれの研究でも報告されており, 今回 の 16例での結果とほぼ同等であると えられる. 鎮痛 効果を期待して本法を施行する場合には疾患や病態毎に 鎮痛の得られる期間が異なること, 一定の鎮痛が得られ ても再発する可能性は少なくないことを予め十 説明し ておくことが重要であると思われる. 症例 14では, 膜外に異常所見を認めず, 難治性の腰 痛の原因が, 少なくとも現時点では, 膜外腔には無い ことが確認された. この症例は発症の起因が他院での 膜外穿刺処置であったため, 発症以降一貫して, 原因は 膜外腔付近での神経障害や癒着などによるものではな いかと懸念されていた. 今回の 膜外内視鏡による観察 により, 現在では 膜外に異常はなく, 痛みの原因は神 経根の異常によるものであることが推察された. 原因の 同定は今後の治療方針の決定ばかりでなく, 患者の不安 感払拭にも寄与することが期待される. この症例での 膜外内視鏡治療後の痛みレベル低下は, こうした心理的 要因が関係しているものと思われる. 膜外内視鏡施行後には, 頭痛, 悪心, 嘔吐, 腰下肢痛 悪化, 新規の神経症状出現などが副作用として発生する ことが知られている. 特に, 膜穿孔した場合には, 頭 痛, めまい, ふらつき等が強く発症する恐れがある. しか し, 今回の 16例ではこれらの発症はなく, 膜を穿孔し た 1例でも頭痛などの訴えはなかった. 膜を穿孔した 例は 膜外腔に強い癒着を認めた症例であるため, 穿孔 後も早期に穿孔部が癒着閉鎖され, 髄液の漏れをほとん ど来さなかったことが想定される. 本法の問題点は, いかなる症例に最も有効で長期の効 果が期待できるのか同定されていないこと, 長期の治癒 期間を得るために必要な局所の処置が特定されていない こと, 治療の経済性についての評価がなされていないこ となどである. 今後, 施行頻度が増加することにより, 情報の整理がなされ, 有効性の高い症例にもっとも効果 的な方法で施行されるようになると えられる. また, 手技の普及により, 挿入キットの価格低下や手技時間短 縮によるコスト削減が期待でき, それによって に普及 が加速することも期待される. ま と め 16例の難治性腰痛症例に対して 膜外内視鏡を施行 し, 一定の除痛効果を得ることができた. また, 副作用の 発生は無かった. 今後, に治療経験を積み, また, 情報 を他施設で共有することにより, 治療法の改良と適応病 態の選別を進めることが重要と えられる. 本法の普及 が先行している他国では, 本法を選択的神経破壊術など に応用する試み (ステロイドデポジット, 電気凝固 な ど) が開始されている. 膜外内視鏡手技の改良により, 従来の盲目的もしくは透視画像による神経ブロックの限 界を超えた新たな治療法の開発が期待できるかもしれな い. 参 文 献

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Treatment of Chronic and Complicated

Low Back Pain with Epiduroscopy.

Masaru Tobe,

Shiro Koizuka,

Hideaki Obata,

and Shigeru Saito

1 Department of Anesthesiology, Gunma University Graduate School of Medicine

Percutaneous epiduroscopy is a minimally invasive technique for the examination of the epidural space and which allows the diagnosis and the treatment of chronic back pain and radiculopathy. In the present study,epiduroscopy was operated on 16 patients with the aim of comparing the lumbar epidural space of the patients with chronic and complicated low back pain that are refractory to conventional pain managements. In 11 patients,we identified inflammatory coloring around the diseased nerve root. In 6 patients, hard connective tissue adhesion was apparently observed. Two of them have had spinal surgery in their histories. All sixteen patients experienced significant pain reduction after epiduroscopy. The duration of the effect was 2-8 weeks. Epiduroscopy is considered to be effective for the patients with chronic low back pain that is resistant to medication or nerve blocks.(Kitakanto Med J 2008;58: 153∼158)

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