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学校教育における「本気」について ~人間関係のリアリティを考える観点から~

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Academic year: 2021

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1 学校教育における「本気」について ~人間関係のリアリティを考える観点から~ 高度学校教育実践 教 員 養 成 特 別コース 実習責任教員 阿形 恒秀 片倉 祥輝 実習指導教員 葛上 秀文 キーワード:本気、リアリティ、心のメッセージ 第1章 はじめに 第1節 研究の背景 (1)教職を志望した動機 私の両親は中学校の教員である。小さいころ から学校に行けば教師に会い、家に帰っても教 師である両親の姿を見ていた。両親から「教員 になれ。」と言われたことは一度もなかったが、 私は休みの日にも部活動の指導にあたる両親に ときには同行し、生徒と本気で関わろうとする 姿にいつの間にか憧れていったのかもしれない。 そんな中で、自分はいつか教員になるのだろう となんとなくではあるが思うようになっていた。 (2)研究テーマの検討 大学時代、一番力を入れたのは硬式テニス部 での活動である。私は、2年次の夏から引退ま での間、キャプテンに任命され、部をまとめて いくという大きな責任を任された。自分がキャ プテンとして人をまとめていく立場になったこ とで、自分の正直な気持ちを相手に伝え、他人 の気持ちをじっくり時間をかけて考えていくう ちに、私でも仲間の力を借りれば引っ張ってい くことができるのではないかと考えることがで きるようになっていった。こうして、なんとな く自分は教師になるのだろうという気持ちから、 ぜひとも教師になって他の先生方や生徒たちと 力を合わせて様々な事をやり遂げ、その喜びを 共有していきたいという考え方に変わっていっ た。 第2節 自己課題の設定 (1)入学時の教師観・教育観 教員免許取得をめざし徳島の出身中学校で教 育実習を行った際に一番真剣に取り組んだのは、 生徒全員に配布されている連絡帳である「あゆ み」を読み、コメントを書くことだった。真剣 にコメントを書いていくことで私のコメントを 楽しみにしてくれる生徒も出てきた。生徒は教 師の何気ない一言や反応を楽しみにしてくれて いることに気がついたのと同時に、教師は生徒 に「いつも私たちを見てくれている」という安 心感も与えることができるのではないかと考え るようになった。そして、生徒からの自然な発 言に自然な対応ができ、生徒の思いを大切にで きる教師になりたいと考えるようになった。 (2)一年次前期の講義 私は、生徒の「心のメッセージ」を受けとめ るためにはどうしたらよいのか、その答えを求 め1年次前期の講義を受けた。なかでも、「生徒 指導の理論と実践」の授業を通して、生徒たち は、教師が自分たちに「本気」で接してくれて

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2 いるかどうかを見極めているのではないか、そ して、その本気が伝わったときに生徒は教員に 「心のメッセージ」を投げかけてくれるのでは ないかと思うようになった。また、「本気」では ない教師の言葉は生徒たちには届かないという ことに気付かされた。さらに、この授業では、 オーセンティシティ authenticity(真正である こと、信頼性、信憑性、確実性)ジェニュイン ネス genuineness(偽りがないこと、誠実、本 物、正真正銘)という二つの概念で、教師の「本 気」について解説されていた。特に、genuineness については、カール・ロジャーズの「純粋性」、 「自己一致」という考え方とも関連していると 教わった。このようなテーマについて、さらに 理解を深めたいと考えた。 第2章 実践研究 第1節 基礎インターンシップでの実践研究 (1)授業実践に関して どのような授業を作っていけば生徒におもし ろいと思ってもらえるのか悩んでいた私は、「チ ーム総合演習Ⅱ」の時間に現職の先生から、「今 日の授業ではここだけは生徒に教えてあげたい と思うところを取り上げ、そこについて教材研 究する。教材研究する中で、なぜ自分がここを 教えたいのか、なぜ自分がそれに興味を持った のか、ということを生徒に伝えてあげることが 大切だ。」とアドバイスをいただいた。 また、メンターの先生が生徒に、「毎時間の授 業で学ぶことと自分の生活や徳島、日本とのつ ながりについて関連づけるとともに、関心を持 ち、意欲的に考え、考えたことを発表したり表 現する力を身に着けさせなければならない。」と 毎時間のように言っていたことを受け、生徒に 「社会科の授業はおもしろい」と感じてもらえ るためにはどのような資料を提示すればよいか、 どのように授業を展開すれば今学んでいること と自分たちの生活が結びつくのだろうかと本気 で考え、休みの日には教材研究で史跡や資料館 など様々なところに足を運んだ。 第2節 基礎インターンシップと自己課題 (1)基礎インターンシップでの気づき 基礎インターンシップでは、授業実践だけで はなく、学級経営や部活動指導にも積極的に取 り組んだ。そして、学級、部において、自分な りの「本気」で一人一人の生徒に関わる中で、 個々の生徒理解の重要性を痛感した。 また、『生徒指導提要』にも示されているよう に、「集団には、それを構成する個人の理解だけ ではとらえきれない集団特有の問題」がある。 したがって、一人一人の生徒と丁寧に接すると ともに、集団を理解することも生徒理解の重要 な視点である。基礎インターンシップにおいて、 一人一人の生徒に対しては「本気」の関わりが ある程度できたが、集団に対する指導の場面で は、どうしても理屈やきれいごとを言ってしま いがちな自分に気づき、集団への関わり方の難 しさを学ぶことができた。 さらに、生徒同士の関係を観察する中で、表 面的には深刻な「いじめ」、「対立」などの問題 は見られなかったが、仲間としての深い関係性 という点では課題を感じ、実習の最後に、車い すバスケットでの人間関係を描いた井上雄彦の 漫画『リアル』を引用して、馴れ合いの関係や 単なる仲良しグループではない「本気」の仲間 関係を考えてほしいというメッセージを示した。 そして、総合インターンシップでは、「本気」の 集団づくりについても、実践の中で考察してい きたいと考えた。

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3 第3節 総合インターンシップでの実践研究 (1)配属学級での生徒集団との関わりの事実 経過と考察 総合インターンシップでは、1 年γ組に配属 された。メンターの先生でありγ組の担任の先 生でもあるY教諭は、私の中学時代の恩師であ ることもあり、たくさんのことを教えてくださ り、さまざまな面で助けてくださった。 また、γ組の生徒は明るく、元気いっぱいで、 素直な生徒が多かった。また、みんな優しく、 実習生の私に対してもお客さん扱いするのでは なくγ組のクラスの一人として関わってくれた。 運動会で使用する学級旗作りや文化祭のポスタ ー作りの際には、「先生の仕事は『1-γ』の色 を塗ること」と大事な部分をいつも任せてくれ た。また、教室には机と椅子も用意してくれ、 座席表には生徒が私の座席を書き込んでくれて いたことなどからγ組の一人として関わってく れたことが伝わってきた。 このようなγ組で授業をさせていただいたり、 給食を食べたり、掃除をしたりとさまざまな場 面で生徒と関わり、生徒の成長を見ることがで きた。そんな中でも、毎週木曜日は「片倉 Day」 ということで「あゆみ」(日記)を読む日をメン ターのY教諭が作ってくださった。「あゆみ」に は、私への質問や生徒の好きなこと部活での出 来事、友だちと遊んだことなど様々な事が書か れており、私は毎週「片倉 Day」を楽しみにし ていた。そのような生徒の気持ちに応えるとい う意味も込めて、「片倉 Day」のときには、手を 抜くことなく自分の正直な気持ちをびっしり書 いて返した。中には私の返事を楽しみにしてく れている生徒もおり、「あゆみ」の内容をきっか けに話をすることは本当にたくさんあった。特 に、おとなしい生徒で普段あまり話しかけてく ることがない生徒には、「あゆみ」に書かれてい たことをきっかけに、部活のことや休みの日の 出来事について自然に話すことができた。 また、「あゆみ」でのやりとりだけではなく、 メンターのY教諭が生徒の前で話す時間を何度 も作ってくださったため、クラスという集団の 前で話すことにも少しずつ慣れてきた。基礎イ ンターンシップの際には、集団に対する指導の 場面において、どうしても理屈やきれいごとを 言ってしまいがちであったが、みんなの前でも 私の考えを話してみたり、これは是非ともみん なに考えてもらいたいことだと思ったときには、 真剣に話をすることもあった。 (2)部活動での生徒集団との関わりの事実 経過と考察 実習中には、基礎インターンシップと同様に 軟式テニス部を見させていただいた。顧問のZ 教諭はいつも忙しくされており、代わりに指導 を任せていただくこともあった。一緒にテニス をしているうちに生徒との距離は縮まっていっ た。一人一人の生徒ともしっかり話をしたり、 できる範囲でアドバイスをたくさん伝えた。キ ャプテンには、自分がキャプテンをしていたと きのことを話したり、ときには厳しいことも言 いながら、ともに練習メニューを考えたことも あった。練習終わりのミーティングでは、Z教 諭がいらっしゃらないときには、私が代わりに 部員全員の前で話をした。私は、自分が部活を していたときのことや当時自分が犯した失敗に ついて、いつも本気で語った。 最終日にテニス部の生徒から頂いた色紙には、 小さい文字でメッセージをびっしり書いてくれ ている生徒がたくさんいた。中には、「先生の『本

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4 気』という言葉が心に残っています。」と書いて くれている生徒もいた。 私は、みんなに対する私なりの本気の気持ち が伝わっていたことを最後の言葉や色紙から知 り、嬉しかったと同時にほっとした。また、本 気の気持ちはお互いに伝わるものだということ が分かった。 第4節 総合インターンシップと自己課題 (1)総合インターンシップでの気づき 4月1日から実習が開始されたため、附属中 学校での基礎インターンシップとは違い、1年 生においては入学するところから生徒を見るこ とができた。2、3年生は、4月1日から新学 期が始まったとはいえ、前年からおられる先生 方や同級生、先輩、学校の校舎やルールなど知 っていることはたくさんある。しかし、1年生 は私と同様に何も分からない状態からスタート を切ることになる。そのため、友だち関係はど うなっていくのか、部活は何に入るのかなど、 生徒の小学生から中学生に変わっていく様子や 成長をさまざまな場面で見させていただくこと ができた。2、3年生は新しく後輩ができたこ とで、先輩としてかっこいいところを見せよう と気合が入っていた。特に部活動では、先輩風 を吹かせながらも一生懸命教えてあげている姿 が見られた。 配属学級や部活動においては、自分なりの「本 気」で一人一人の生徒に関わる中で、個々の生 徒理解の重要性を基礎インターンシップ時より も痛感した。「本気」で関わっていかなければ命 を落とすことにも繋がりかねないということを 身をもって感じたこともあった。また、理屈や きれいごとを言ってしまいがちだった集団に対 する指導の場面では、以前よりは自分の正直な 気持ちを伝えることができるようになったと実 感できた。最終日には、配属学級と部活動の両 方で、基礎インターンシップでも用いた井上雄 彦の漫画『リアル』を引用し、馴れ合いの関係 や単なる仲良しグループではない「本気」の仲 間関係とともに、今という時間を大切にしてほ しいというメッセージを示した。 第3章 今後の課題 第1節 教職大学院2年間の省察 (1)4観点からの省察 インターンシップを通して、教職大学院にお いて設定されている到達目標の中の「授業実践 力」、「学級経営力」、「生徒指導力」、「コミュニ ケーション力」の4観点は相互に関連し合って いるということに気がついた。また、この中の 一つでも力を抜いてしまうと他の三つにも影響 してくる場合もあるが、苦手な部分については 他の三つでカバーすることもできるということ も学んだ。 第2節 めざす教師像 (1)「本気」の教師になるために この2年間の学びの中で、教師になりたいと いう気持ちが日を増すごとに強くなっていった。 このような気持ちになっていった背景には、私 と関わってくれた生徒たちや様々な事を教えて くださった実習校、大学院の先生方がいてくだ さったからだと心から思っている。来年からは 教師として現場に出ることになるが、生徒が発 信する「心のメッセージ」を敏感に感じるアン テナをいつも張り、生徒のどんな些細なシグナ ルも見落とさない教師を目指し、生徒たちや先 生方から教えていただいたことを活かして頑張 ってきたい。

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