小中学校におけるラインケアの充実に関する研究

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− 101 − 小中特交におけるラインケアの充実に関する研究 人 間 教 育 専 攻 臨床心理士養成コース 楠 本 奈 緒 子 1. 問題と目的 日本の教師の 1週間当たりの勤務時間は, OECD国際教員指導環境調査(TALIS,2013) によると, 53.9時間で,調査参加 34か国中最 長で、あった(参加国平均 38.3時間)。また平 成27年度公立学校教職員の人新子政状況調査J (文部科学省, 201ωによると,教育職員の精神 疾患による病気休職者数は, 5,009人(全教育職 員数の0.54%)であり,平成 19年度以降, 5,000 人前後で推移し,依然として高い水準で、ある。 このような現状に教師の勤務状況やメンタル ヘルスに関する問題は大きな社会問題として 取り上げられるようになった。 このような中,文部科学省(2017)は「学校に おける働き方改革」を早急に進めていく必要が あるとし教師が疲労や過度な心理的負担によ って心身の健康を損なうことのないよう,国や 社会全体で学校での働き方について見直しが迫 られているとしている。 文部科学省(2013)は,教職員のメンタルヘル スの保持等への予防的取組として管理職による ラインケアの充実を示したが,宮下(201ωは, 学校現場においては管理職へのメンタルヘノレス 研修が中心であり,管理職による組織的介入は まだ少ないと述べている。 ラインケアをソーシャルサポートの一種であ るとすれば,サポートを行う側からの研究は少 ない。判交現場の責任者である校長が,部下へ 指導教員 吉井健治 のメンタルヘルスにおけるサポートをどのよう に捉え,実施しているのかを明らかにすること は,教師側からだけの視点では明らかにできな い重要な知見が含まれていると考える。 原(2013)は,個人を対象として早期発見や対 応,治療,職場復帰と再発防止という取組であ る「個人志向型Jと,職場環境や組織を含めて, 精神疾患への寵患を未然に防ぐという「組織志 向型」の両者を統合して行うことで,より効率 的にかっ自然にメンタノレヘルス不調の予防施策 を行うことができると指摘している。また,井 上(2010)は,管理職のストレスがラインケアの 実施に影響を及ぼすと述べている。 そこで,本研究の第1の目的は,小中学校校 長が,どのようなラインケアを必要と考え,ど のように期面しているのかを明らかにすること である。第2の目的は,ストレスからの回復に 重要なレジリエンスや主観的幸福感が,校長か ら教師へのラインケアにどのような影響を与え るのかを明らかにすることである。第3の目的 は, 自由言己主を基に小中学校におけるラインケ アが,より機能的に実施されるための学校組 織・体制・校長の意識の在りょう等について具 体的に示しながら,一定の共通モデ、/レを提示す ることで、ある。 2.方法 2県の小中学校校長に質問紙調査を行い,回 収できた160名を分析対象とした。調査内容に

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− 102 − は,①フェイスシート,②個人的ラインケア(1

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項目5件法)及。需品千載的ラインケア(23項目 5件

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卦測定項目,③自由言己主,④主観的軒高感尺度 (12項目 4件的,倒宥神的回復力尺度(21項目 5件j却を含めた。なお,本研究では,統計角平析 ソフトIBMSPSS 23.0を用いた。 3. 結果 因子分析の結果,個人的ラインケア必要度及 び実施度において,支持的支援,予防的支援, 協働的支援の3因子が抽出され, 9項目 3因子 干拓査が確認された。以上の結果から,校長から 部下の教師への支援は, 日常的に教師の話を傾 聴しながら尊重し,問題発生時には共に動くこ とが重要であることが示唆された。 また,庁掛哉的ラインケアにおいては,組織的 ラインケア必要度及び実施度において,環境調 整的支援と業務効率化支援の2因子が共通して 抽出された。それ以外に,組織的ラインケア必 要度では,組織活用型支援が,組織的ラインケ ア実施度では健康啓発的支援が抽出された。以 上の結果から,校長の旭織的な支援は,出

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織を 活用することを念頭に置いた上で,業務を効率 化しながら,教師が働きやすい環境を設定し, 精神的健康の保持増進を促すことの重要性が示 された。 さらに,朝交種,校長暗硫酸年数,学校規模 によるラインケア必要度及び実施度を検討した 結果,小学校校長は,中学校校長よりも個人的 ラインケア及。守邸騨句ラインケアのいずれにつ いても必要度が高かった。特に,校長耳樹霊験年 数2年以下において,小学校校長は中朝交校長 よりも個人的ラインケア必要度が高かった。学 校規模については,いずれも有意な差は見られ なかった。 加えて,校長の主観的幸福感によって個人的 ラインケア実施度が異なり,主観的幸福感が中 程度及び高い校長は,主観的幸福感の低し、校長 よりも個人的ラインケアをより多く実施してい た。 同様に,校長のレジリエンスによって個人的 ラインケアの実施度が異なり, レジリエンスの 中程度及び高い校長は, レジリエンスの低い校 長よりも個人的ラインケアをより多く実施して いた。また,組織的ラインケアの実施度も異な り , レジリエンスの高い校長は, レジリエンス の低い校長よりも組織的ラインケアをより多く 実施していた。 なお, レジリエンスによって主観的幸福感が 異なり,レジリエンスの中程度及び高い校長は, レジリエンスの低し、校長よりも主観的幸福感が 高いことが明らかとなった。 4.考察 最終的に提示した「効果的なラインケアモデ ル」はあくまでも一案であり,必ずしも全てが 当てはまるものではないと認識している。各学 校で、本モデ、ルを踏まえた上で、の実践を元に,学 校の状況や一人一人の耕市に芯じた実践が工夫 され,より各学校に応じた更なる旭織的な取組 モデルの広がりが望まれる。 特に,主観的幸福感やレジリエンスという個 人の心理特性によってラインケアの実施に差が 生じていたことから,制度をより良く利用する ためには,それを活用する人の心理的影響が大 きいことを意識しておきたい。 本研究が,学校におけるラインケアの在り方 について多くの人の関心を高め,今後の研究が 広がり,学校における教師の精神的健康の保持 増進に少しでも役立てられることによって,児 童生徒や保護者へのより良し、瑚卒と対応につな がることを心より願う。

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