学校教育における主体的な参加を促す合唱指導に関する一考察
ー「共同体感覚
jの育成に着目してー
教科@領域教育専攻 芸術系コース(音楽) 員Ij藤剛志 1.研賓の目的 近年、携帯電話や SNSなどの ICTの著 しい発達によって、コミュニケーションの 媒体や方法に変化が見られる。そのような 中で、学校教育においては、これまでより、 対面的なコミュニケーションが苦手な生徒 が増えているといわれる。それらの生徒が 集まるような学校においては登校や集団に 適応できない子どもたちが増え、集団とし てまとまりをもつことへの困難さを生じや すくなっていると考えられる。そのような 現代の課題に対して、学校教育は、どのよ うな貢献をすることができるだろうか。そ の解決の手がかりのーっとして筆者は学校 音楽教育における合唱に注目した。理由は 合唱が集団で行い、個々人が関わりをもつ ことによってこそ、為し得るという特性を もつからである。学校音楽教育は、学力の 育成を保障されなければならない。しかし、 それだけにとどまらない人格形成としての 役割も担っていると見られる。そこで本研 究は、音楽科の学力を育成し、その上で、 人格形成を促すとしづ立場から、A.アドラ ー (1870'""1937)が提唱した個人心理学の 「共同体感覚Jに着目し、現代の学校音楽 教育における生徒一人一人が主体的に合唱 にかかわることができるような新しい合唱 指導の重点を見出すことを目的としている。2
研究の方法と概要 第 1章では、日本における合唱の受容と 指 導 教 員 鉄 口 真 理 子 現状について明らかにすることを目的とし た。その結果、日本における合唱はその時 代の様々な出来事に適応しながら、合唱に 参加している人々による受け入れ方が変化 してきたといえる。そして、時代によって、 合唱への参加の仕方は様々ではあったが、 自ずと「多くの人々を参加に導くj としづ 合唱の特性がみえた。そして、現代の合唱 の活動の現状から、個々人の意思による参 加によって、成立している在り様が明らか になった。つまり合唱は自ずと「多くの人々 を参加に導く」という社会的な音楽活動で あることと、その特性は参加する一人一人 によって支えられているものということが わかった。 第 2章では、学校音楽教育における合唱 指導の目的と意義について明らかにするこ とを目的とした。そのため平成2
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年告示の 学習指導要領(音楽編)と教育出版と教育芸 術社の 2社の音楽科の教科書を分析した。 その結果、学習指導要領におけるA表現(1) 歌唱の指導事項と〔共通事項〕を関連させ ていること、それぞれの学習のねらいにつ いて特定の指導事項や〔共通事項〕に偏り が見られないということがわかった。しか し、 2社の教科書計 6冊の各教科書の合唱 曲の中で、過半数以上の曲で A表現 (1) 歌唱ウ(イ)に該当するねらいが題材名に具 体的に示され、学習指導要領を意識したも のになっていることが読み取れた。 R U Q d ワ ム第 3章では、学校音楽教育における合唱 の主体的な参加を促す指導の重点を探るた めに、A.アドラーによる「共同体感覚」と はどういうものかを明らかにすることを目 的とした。その結果、個人心理学について は、社会的なものを志向しながらも個人を これ以上分割できないものと見なし、個人 と社会的な全体の関係性を明らかにする研 究であることがわかった。そして、野田 (1992)によると、「共同体感覚Jとは『対象 (object)の相』と『過程(process)の相』に 分けられること、野田(1994)によると、「共 同体感覚Jは「所属感J