秘密保持の合意と証券詐欺
著者
小杉 亮一朗
著者別名
Ryoichiro KOSUGI
雑誌名
東洋法学
巻
59
号
3
ページ
319-338
発行年
2016-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007727/
《 商事法研究会報告(第 9 回)》
秘密保持の合意と証券詐欺
小杉 亮一朗 一 はじめに インサイダー取引とは、一般に、証券の価値に影響を及ぼ す重要な未公開情報を有する者がおこなう証券取引をい ( 1) う 。 米国におけるインサイダー取引規制は、証券詐欺禁止条項と いわれる一九三四年証券取引所法一〇条(b)項とSEC規 則 一 〇 b ―五(以 下、 単 に「一 〇 条(b) 項」 「規 則 一 〇 b ― 五」 と 記 す こ と が あ る。 ) を 根 拠 に 発 展 し て き た と い わ れ て い ( 2) る 。 し か し な が ら、 規 則 一 〇 b ―五 の 文 言 は 曖 昧 で、 ど の ような詐欺が禁止されるのかは、必ずしも明確ではないと評 されてい ( 3) る 。インサイダー取引は、自己に有利な未公開情報 を開示することなく証券取引をおこなうだけで、積極的に他 者を欺く行為を見出しにくいことが少なくな ( 4) い 。連邦最高裁 判 所 は、 一 〇 条(b) 項 と 規 則 一 〇 b ―五 を 根 拠 と す る 事 例 で は、 重 要 な 未 公 開 情 報 に 基 づ く 証 券 取 引 を お こ な っ た 者 が、信認義務等を負う者であるか否かに注目することが少な くなかっ ( 5) た 。会社の取締役等は受認者であり、信認関係上の 義務を負うといわれてい ( 6) る 。そして、受認者は忠実義務を負 い、自身の利益を図ってはならず、受益者のためだけに行動 しなければらないとされ ( 7) る 。しかしながら、一〇条(b)項 の文言は、信認義務違反を要求しているわけではないため、 信認義務がなくとも、証券詐欺が成立し得るかということが 問題とな ( 8) る 。また、信認義務に代わる他の義務等が、証券詐 欺成立の根拠となり得るかということも関心を集めてい ( 9) る 。 たとえば、秘密保持の合意がなされ、当該合意の違反がなさ れた場合、合意違反を根拠として証券詐欺が成立することは あるのだろう ( 10) か 。一定の状況下でのみ当事者間に信頼義務が 生 じ う る 点 で、 信 頼 関 係 は 信 認 関 係 と 異 な る と い わ れ て い ( 11) る 。 S E C は、 不 正 流 用 理 論 の 適 用 が 問 題 と な る イ ン サ イ ダー取引の事案で、信託もしくは信頼の義務が生じる状況を 例 示 し た S E C 規 則 一 〇 b 五 ―二 を 制 定 し ( 12) た 。 本 稿 の 内 容 と 特に関連のある規定は(b)項(一)号で、情報の秘密を守 ることに合意した者は、不正流用理論の下で責任を問われる ことがあるとされてい ( 13) る 。しかしながら、SEC規則一〇b 五 ―二 は そ も そ も 有 効 な 規 則 で あ る か と い う 点 に つ い て も 議 論がある。本稿では、インサイダー取引規制と関係の深い点 を 中 心 に U.S. v. Kim 事 件 を 紹 介 し、 上 記 の よ う な 問 題 点 に ついて若干の考察をおこなう。 二 U.S. v. Kim ( 184 F. Supp. 2d 10 ( 14) 06 ) 序 本件は、クラブの会員が守ることを誓約した信頼に反するこ と は、 犯 罪 行 為 で あ る か と い う 興 味 深 い 問 題 を 投 げ か け る。政府側は、クラブの会員間の特別な『信認類似の』関係 は、この義務をもたらすと主張する。しかしながら、裁判所 は意見を異にする。クラブの会員は特別な絆を感じるかもし れないが、彼らの関係には、それが秘密情報に基づいて取引 してはならない法的義務を生じさせるという起訴状で主張さ れているような特別なものはない。こうした状況における信 頼の喪失は、クラブから除名され、仲間から敬遠されること の理由にはなるが、合衆国の刑法の適用はない。 背景 一九九九年三月、 被告人
Keith Joon Kim
は Granny Goose Foods 社 の 最 高 経 営 責 任 者(C E O) で あ っ た。 彼 は、 五 〇 歳 未 満 の 社 長 の 全 国 的 な 組 織 で あ る Young Presidents Organization (Y P O) の 会 員 で も あ っ た。 Y P O は 地 方 支 部で構成されており、さらに小規模なフォーラムに分かれて いた。被告人は、北カリフォルニアの一九一七フォーラムの 会員であった。 起訴状の主張にあるように、YPOの一九一七フォーラム の『フ ォ ー ラ ム の 原 則』 は 次 の よ う に 記 し て い た。 『わ れ わ れは、完全に秘密の環境で活動する。フォーラムで話された ことは、外部の者と話し合われることはないであろう。あら ゆ る 面 で 常 に 秘 密 に す る。 』(起 訴 状 七 頁) 。 会 員 は、 会 員 規 約として書面による『秘密保持の約束』を守ることも求めら れた。当該取り決めは次のように規定する。 私達の誰しもがフォーラムにおいて希望する交流を確 か な も の に す る た め に 必 要 な 水 準 の 信 頼 を 実 現 す る た め、会員の地位によって共有されるすべての情報は、極 秘扱いとされなければならないことを、私は理解する。 私 は、 フ ォ ー ラ ム に 関 す る い か な る 事 柄 も、 配 偶 者、 『重要な他者』 、他のYPOの会員やYPOの会員でない 者等のフォーラムの外部の何人とも話してはならないこ とを理解する。私は、本規約の違反がフォーラムからの 退 会 勧 告 を も た ら す で あ ろ う こ と を 理 解 す る。 何 よ り も、私に非常に個人的な意見・諸問題・諸課題を委ねた フォーラムの友人に対する道徳倫理上の重大な責任を私 が負うことを、私は理解する。この信頼を壊すことは、 フォーラムを会員にとってこの上なく大事な存在たり得 なくする。 Meridian Data 社 の C E O も、 一 九 一 七 フ ォ ー ラ ム の 会 員 で あ っ た。 Meridian 社 は、 コ ン ピ ュ ー タ ー の 記 憶 装 置 を 製 造 す る N A S D A Q に 上 場 し て い る 株 式 公 開 企 業 で あ る。 一九九九年三月一日に、一九一七フォーラムの会員は、北カ リフォルニアからコロラド州スノーマスへ、毎年恒例の静養 の た め に 自 家 用 機 で 出 発 し た。 出 発 前 に、 Meridian 社 の C
E O は、 同 社 が 他 社 ― Quantum 社 ― と の 合 併 交 渉 に 加 わ る の で 参 加 す る こ と が で き な い と、 フ ォ ー ラ ム の 議 長 に 伝 え た。彼は、欠席する理由を他の会員に伝えることを容認した が、情報の秘密保持を強調するよう議長に依頼した。フォー ラムの議長は、被告人と一九一七フォーラムの他の会員に情 報を伝えた。 起訴状によれば、この秘密情報に基づいて、一九九九年三 月一日から四日の間に、被告人は一株あたり二ドルから四ド ル 一 二 セ ン ト の 間 で、 一 八 万 七 三 〇 〇 株 の Meridian 社 株 を 購 入 し た と さ れ る。 被 告 人 は、 ビ ジ ネ ス・ パ ー ト ナ ー、 兄 弟、 義 理 の 兄 弟 に も 当 該 情 報 を 明 か し、 彼 ら は Meridian 社 の株式を購入した。 一 九 九 九 年 五 月 一 一 日、 Meridian 社 は Quantum 社 に よ る 買 収 に 合 意 し た と 公 表 し た 。 M er id ian 社 の 株 価 は 、 七 ド ル 五 六 セントまで急騰した。その結果、被告人は、五八万三三六〇 ドルを投資し、八三万二六二七ドルの利益を実現した。被告 人 の ビ ジ ネ ス・ パ ー ト ナ ー は、 二 〇 万 八 八 五 ド ル、 兄 弟 は 二万七四六九ドル、義理の兄弟は一万三四九二ドルの利益を 実現した。 被 告 人 は、 一 つ の 通 信 詐 欺 の 訴 因、 二 つ の 証 券 詐 欺 の 訴 因、一つの不実表示の訴因で起訴された。彼は、連邦刑事訴 訟規則一二条(b)項によって、起訴状の最初の三つの訴因 (不 実 表 示 を 除 く す べ て の 訴 因) の 棄 却 を 申 立 て た。 以 下 の 理由で、被告人の公訴棄却の申立ては認められる。 審 議 I.法規範 連 邦 刑 事 訴 訟 規 則 一 二 条(b) 項 は、 『一 般 的 な 争 点 の 審 理を経ることなく判断することができる』すべての抗弁の事 実審理前の検討を認める。一二条(b)項の申立てを検討す る際に、当裁判所は、起訴状の事実上の主張を前提としなけ ればならない (
United States v. Jensen, 93 F.3d 667, 669
( 9th Cir. 1996 ).) 。『当 裁 判 所 は 申 立 て ら れ た 法 律 問 題 を 裁 定 す る ために必要な予備的認定をすることができるが、当裁判所は 事 実 の 最 終 的 認 定 者 の 管 轄 を 侵 す こ と は で き な い( United States v. Nukida, 8 F.3d 665, 669 ( 9th Cir. 1993 ) ( internal citations omitted ).) 。 従 っ て『被 告 人 は、 申 立 て が 十 分 な 証 拠によって裏付けられていないことを根拠に、一応主張事実 が確からしい起訴状に適切に異議の申立てをすることはでき な い 』( Jen se n 93 F. 3d at 6 69 ( quo ti ng Un it ed St at es v. Mann, 517 F.2d 259, 267 ( 5th Cir. 1975 )) . )。 Ⅱ.証券詐欺(不正流用) 被告人は、一九三四年証券取引所法一〇条(b)項と規則 一 〇 b ―五 違 反 で 起 訴 さ れ て い る。 伝 統 的『内 部 者』 取 引 と 『不正流用』という、一〇条(b)項と規則一〇b― 五に基づ く責任の二つの一般的な理論が存在する( See United States
v. OʼHagan, 521 U.S. 642, 651 ―52, 138 L. Ed. 2d 724, 117 S. Ct. 2199 ( 1997 ). 政 府 側 が 認 め る よ う に、 不 正 流 用 理 論 の み が、本件にとって適切である。 不 正 流 用 理 論 の 下 で は、 『人 は 情 報 源 に 対 し て 負 う 義 務 に 違 反 し て、 証 券 取 引 の た め に、 秘 密 情 報 を 不 正 流 用 す る 場 合』 、 規 則 一 〇 b ―五 に よ っ て 禁 止 さ れ る よ う な、 証 券 取 引 『に 関 す る』 詐 欺 を 犯 す( Id. at 652. )。 伝 統 的 内 部 者 取 引 が 会社内部者と当該会社の株主との間の義務違反を含むのに対 し、不正流用は秘密情報の所有者と当該情報を委ねられた者 と の 間 の 義 務 違 反 を 含 む( Id. )。 不 正 流 用 者 は、 企 業 の『外 部者』である。 被告人が申立てる主要な問題は、被告人と一九一七フォー ラムの会員との関係が、秘密保持義務と不正流用理論に基づ く刑事責任の前提としての機能を果たし得る違反を生じさせ るか否かである。 A. OʼHagan 最 高 裁 判 所 は、 OʼHagan 事 件 に お い て、 初 め て 不 正 流 用 理論に直面した。裁判所は、信認義務に違反して不正流用し た 重 要 な 未 公 開 情 報 に 基 づ い て 取 引 す る 者 は、 一 〇 条(b) 項 と 規 則 一 〇 b ―五 に 基 づ き、 刑 事 責 任 を 負 わ さ れ る 可 能 性 があるとした( Id. at 650. )。 OʼHagan は、弁護士が弁護士事 務 所 と 事 務 所 の 依 頼 人 に 負 う 信 認 義 務 に 違 反 し た。 裁 判 所 は、 OʼHagan の 行 為 は、 弁 護 士 と 所 属 事 務 所、 依 頼 人 間 に 広く認められている義務違反を引き起こしたので、刑事責任 の適切な根拠であると結論した。しかしながら、裁判所は、 重要な未公開情報に基づく取引を断念する一般的な義務はな いことを強調した( Id. at 661. )。 OʼHagan 事件で示された関係は、 一般的な信認関係であっ た。政府側が認めるように、本件は、弁護士と依頼人、遺言 執行者と相続人、後見人と被後見人、本人と代理人、受託者 と 受 益 者、 上 席 役 員 と 株 主 の よ う な、 一 般 的 な 信 認 関 係 や 『基 本 的 な』 信 認 関 係 を 法 廷 で 争 っ て い な い( See United Sta tes v. Ch estm an, 947 F. 2d 551, 56 8 ( 2nd C ir. 199 1 ) )。 従って、当裁判所は、本件で示されている組織構成員間の関 係のような――非信認関係が不正流用責任を裏付け得るか否 かに関する指針として他の先例を参照せねばならない。 B. Chestman: 『信任と信頼に類似する関係』 両当事者が合意するように、不正流用責任の正確な輪郭を 検討する際に―すなわち、どのような関係が責任を生じさせ る 可 能 性 が あ る か ― 主 要 な 事 件 は、 United States v. Chestman 事件である( United States v. Chestman, 947 F.2d 551 ( 2nd Cir. 1991 ).) 。 Chestnan 事件は、夫が妻と妻の家族 に負う義務を伴う。裁判所は、信認関係の共通する本質的な 特徴を備えていなかったので、示された具体的な関係は、不 正流用責任を生じさせないと結論した( Id. at 570 ―71. )。 裁 判 所 は、 『人 が、 信 認 義 務 や 信 任 と 信 頼 の 類 似 の 関 係 に
違反して重要な未公開情報を不正流用し、証券取引に当該情 報 を 利 用 す る 場 合、 規 則 一 〇 b ―五 に 違 反 す る』 と し た( Id. at 566. )。 論 点 は、 被 告 人 と 一 九 一 七 フ ォ ー ラ ム の 会 員 と の 関 係 が、 『信 任 と 信 頼 の 類 似 す る 関 係』 換 言 す る と 信 認 関 係 に類似する関係であるかどうかである。 最初の争点として、秘密情報の交換だけでは信認類似の関 係 は 生 じ な い こ と は、 Chestman 事 件 判 決 か ら 明 ら か で あ 1 る ( Id. at 567. )。 そ れ ゆ え に、 Meridian 社 の C E O が 被 告 人 と 一九一七フォーラムの他の会員に秘密情報をただ委ねたとい う理由だけで、本件において「類似する関係」は生じない。 1 本 件 と は 関 係 な い が、 Chestman 事 件 判 決 は、 家 族 関 係 だ け で は 不 十 分 で あ る と も 結 論 し た( Id. at 568. )。 こ の 具 体 的 な 制 限 を 越 え て、 Chestman 事 件 判 決 は、 『信 任と信頼に類似する関係』を構成するものに関する、より一 般的な指針を与えている。要するに、不正流用の責任の前提 としての役割を果たすために、主張される関係は、信認関係 と『機 能 的 に 等 し い も の』 で な け れ ば な ら な い( id. at 568. )。 『「類 似 の」 と い う 文 言 が 示 唆 す る よ う に、 「信 任 と 信 頼の関係」は、信認関係の共通する本質的な特徴を備えてい な け れ ば な ら な い』 ( Id. )。 従 っ て、 裁 判 所 は 本 件 で 係 争 中 の関係が、信認関係の特質を有していたか否か決定せねばな らない。 この問題に答えるためには、信認関係の本質的性質を理解 す る 必 要 が あ る。 Chestman 事 件 判 決 で 述 べ ら れ た よ う に、 信認関係の核心は、 信頼と実質的な支配と優越にある ( Id. )。 信認『関係は、信頼が一方に置かれ、他方に結果として生じ る優位性と影響力が存在する場合に存在する』 ( Id. at 568. )。 政 府 側 は、 優 位 性 と 影 響 力 に 対 す る Chestman 事 件 判 決 の 言及は、優位性もしくは影響力のいずれかを要求するものと 解 釈 さ れ る べ き で あ る と 主 張 す る。 こ の 主 張 は、 Chestman 事件判決のみならず、理論的説得力によっても、あまり支持 されるものではな 2 い 。そのような主張は、ほとんど意味論の 類 で あ る。 政 府 側 は、 『助 言』 と 同 義 語 に 解 さ れ る『影 響 力』 で 足 り る と 主 張 す る。 し か し、 Chestman 事 件 判 決 は、 助 言 の 授 受 以 上 の も の が 要 求 さ れ る こ と を 明 ら か に す る。 Chestman 事 件 判 決 は、 対 等 の 立 場 に あ る 者 が 他 者 に 及 ぼ す 『影 響』 で は な く、 優 位 な 性 質 や 支 配 的 性 質 の 影 響 力 を 要 求 する。政府側は、――同僚や対等な立場にある者が影響する よ う な ――「影 響」 を 及 ぼ す 能 力 で 足 り る と す る が、 Chestman 事件判決はそれ以上のものを要求する。 2 この主張は、 『信認関係』は、 『人が、人を裏切らな い他人の誠実さを信頼し、結果として、前者に対する
優 位 性 や 影 響 力 を 得 る 場 合 に』 生 じ 得 る と 記 述 す る Blackʼs Law Dictionary に、 あ る 程 度 依 拠 し て い る (
Blacksʼs Law Dictionary 712
( 7th ed. 1999 ).) 。 信認関係の本質―とりわけ信認関係における支配や優位性 の存在―を分析する際に、不正流用理論の刑事責任を支持す る事例について検討することが有益である。これらの事例で は、概して、弁護士と依頼人、雇用者と被用者、精神科医と 患 者 の 関 係 に あ っ た( See e.g., United States v. OʼHagan, 521 U.S. 642, 138 L. Ed. 2d 724, 117 S. Ct. 2199 ( 1997 ) ( attorney-client ) ; United States v. Falcone, 257 F.3d 226 ( 2nd Cir. 2001 ) ( employer-employee ) ; United States v. Willis, 737 F. Supp. 269 ( S.D.N.Y. 1990 )( psychiatrist-patient ).) 。このような関係は、対等な人々の関係ではない。 Chestman 事 件 判 決 が 要 求 す る よ う に、 そ れ ら は、 優 位 性、 支配、管理を特徴とする。弁護士と精神科医は、優れた知識 と専門性を有する。依頼人と患者は、優れた知識の助けを得 るために、秘密情報を伝えねばならない(それは、法的助言 や 治 療 と い う 形 で も た ら さ れ る。 )。 雇 用 者 と 被 用 者 の 関 係 は、伝統的な本人―代理人のシナリオと付随するコモンロー の法的義務を示す。 Chestman 事 件 判 決 と 上 記 諸 例 の 分 析 が 明 ら か に す る よ う に、 信 認 関 係 の 最 も 本 質 的 な 特 徴 は、 何 ら か の 優 位 性、 支 配、 あ る い は 管 理 で あ る。 そ れ ゆ え に、 当 裁 判 所 は、 「信 託 と信頼に類似する関係」は、優位性、支配、管理によって特 徴づけられなければならないと考える。従って、本件におい て 解 決 の 手 が か り を も た ら す 争 点 は、 被 告 人 と Meridian 社 のCEOと一九一七フォーラムの他の会員の関係が、対等な 立 場 に あ る 者 の 対 等 な 関 係 と し て 最 も よ く 特 徴 づ け ら れ る か、ある程度の支配を伴う関係と特徴づけられるかである。 も ち ろ ん、 信 認 に 類 似 す る 支 配 は、 多 く の 状 況 で 生 じ 得 る。たとえば、弁護士と依頼人、精神科医と患者の状況にお いて、主に、かけ離れた知識と専門性から生ずる(この内在 す る 格 差 は、 法 的 義 務 に よ っ て 補 完 さ れ て き た) 。 雇 用 者 と 被用者の状況においては、コモンローの本人と代理人の原理 から生ずる。 当裁判所は、当事者が引用した諸事例の再検討をおこなっ た。不正流用責任を支持するそれらの事例において、信認類 似の支配は、一般に、 1かけ離れた知識と専門性 2秘密情報 共有の説得力ある必要性 3しかるべき援助をする法的義務と いった、いくつかの組み合わせから生じている。これらの特 徴 の 存 否 は、 被 告 人 と 一 九 一 七 フ ォ ー ラ ム の 会 員 と の 関 係 が、優位性、支配、管理の特徴があるか否かを決定するにあ たり重要である。これらのすべての特徴が存在しなければな ら な い か、 そ し て そ の 程 度 に つ い て は、 こ こ で は 決 定 し な い。 以 下 で 詳 細 に 述 べ る よ う に、 起 訴 状 で 主 張 さ れ る 関 係
は、これらのいずれの特徴をも有しない。結果として、当該 関係は優位性、支配、管理のいずれでもない。従って、当該 関係は『信任と信頼の関係』たり得ない。それゆえに、起訴 状は、法律問題として、不正流用責任の根拠を立証する諸事 実を主張することを怠っている。 それぞれの主要な特徴を、以下、順に述べる。 1.かけ離れた知識と専門性 政府側は、かけ離れた知識や専門性について主張しなかっ た。実際、まさにYPOの加入基準―五〇歳未満の大企業の 社長―は、会員間の業績、経歴、専門性を同水準にする。せ いぜい、YPOの様々な会員が互いの問題に対して異なる視 点を有するだけである。 2.秘密情報共有の説得力ある必要性 YPO会員が互いに重要な未公開情報を共有する説得力あ る必要性は存在しない。そのような情報の共有は、集会を活 発にし、あるいは、少しばかり助言を向上させるかもしれな いが、決して必要なことではない。注目すべきは、―CEO や Meridian 社 が、 懸 案 の 合 併 交 渉 ゆ え に 集 会 に 参 加 し な い であろうという―本件で問題となっている特定の連絡は、全 く無用なものであったということである。この重要な未公開 情報を共有し、情報漏洩の危険を冒すもっともな理由を突き とめることは難しい。 Meridian 社 の C E O と い う よ り は む し ろ 被 告 人 が 直 接 の 責任を問われているので、本件の状況に及ぶように不正流用 理論を拡大適用することは、おこなわれた情報漏洩を正当化 することにつながるであろう。当裁判所は、これは不適切な 結 論 で あ る と 考 え る。 Meridian 社 の C E O は、 そ の 理 由 の 秘密保持を強調したとしても、彼がなぜ集会を欠席するのか ということを、一九一七フォーラムの会員に伝えるべきでは な か っ た。 本 件 で 不 正 流 用 責 任 を 課 さ な い こ と は、 『不 正』 が処罰を免れることを許すことになるが、不正流用理論の拡 張案は、秘密情報の拡散をより広範に助長する実際的な影響 を有し、それゆえに乱用の恐れを増加させる。情報源がはっ き り し た 理 由 で 情 報 を 共 有 す る こ と に 責 任 を 課 す こ と に よ り、法は無用な未公開情報の共有を抑制するべきである。 不正流用理論がいみじくも適用される場合、容認しがたい 悪影響なしに、秘密情報の拡散を情報源で阻止することがで きない。依頼人は、弁護士の助言を必要とする。患者は治療 を必要とする。雇用者は自身の仕事を遂行することができる ようにせねばならない。たとえば、 United States v. Falcone 事件においては、一般公開前の出版物に、従業員がアクセス できるようにする雑誌の流通システムに代わる現実的な選択 肢 が 存 在 し な か っ た。 一 方、 Meridian 社 の C E O は、 Y P Oの会員と情報を共有するに先だって、合併交渉が公知とな るまで、実際の影響がでないようただ待ち続けることができ た。
こ の 線 に 沿 っ て、 『 OʼHagan が 公 開 買 付 者 の 代 理 人 を 務 め る弁護士事務所に勤めているのではなく、公開買付けの対象 会 社 の 代 理 人 を 務 め る 弁 護 士 事 務 所 で 働 く 場 合、 OʼHagan のような弁護士を一〇条(b)項の違反者とすることはあま り 理 に か な わ な い』 と 裁 判 所 が 理 由 づ け た OʼHagan 事 件 を より詳細に分析することには価値がある( OʼHagan, 521 U.S. at 659 )。 不 正 流 用 理 論 は、 「外 部 者」 取 引 す な わ ち 投 資 対 象 となる企業とその株主に対する義務とは無関係な違反を対象 とする。しかしながら、本件は、証券が取引されている会社 の内部者に負うとされる義務の違反と関係する。一般に、伝 統的内部者取引の責任は、情報提供者と情報受領者の責任を 通して、そのような違反に対処する。政府側は、本件で、情 報受領者と情報提供者の責任をもたらさない内部者による意 図的な重要な未公開情報の漏洩であった珍しい事例に、不正 流用理論を配置転換しようとしてい 3 る 。これだけでは、政府 側の主張を退ける理由にならないが、本件が、不正流用の枠 組みに入らないことを示す。 3 おそらく、不正流用理論への政府側の依存は、情報 提 供 者 の 責 任 を 裏 付 け る で あ ろ う、 Meridian 社 の C EOが合併情報を漏洩した際の同社のCEOの心理状 態を、政府側が証明することができないという結論を 反映するものであろう。 3.法的な援助義務 信 認 類 似 の 関 係 は、 し か る べ き 援 助 を す る 法 的 義 務 を 伴 う。 何 ら 法 的 義 務 は 存 在 し な い。 起 訴 状 は、 『Y P O 一 九 一 七 と そ の 会 員、 Meridian 社 の C E O』 に 対 す る『義 務』 を 示 唆 し て い る(起 訴 状 一 二 頁) 。 し か し こ れ は、 法 的 義務ではない。被告人の行動がYPOの互助的な会員の地位 に基づいた悪質なものであったとしても、被告人に対する民 事 上 の 訴 訟 原 因 を、 Meridian 社 の C E O や 一 九 一 七 フ ォ ー ラムの他の会員が有していることを、誰も示唆していない。 明示の秘密保持の取り決めの存在は、結論を変えるものでは ない。そのような取り決めは、会員が負う道徳と倫理上の義 務を記載しているかもしれないが、法的義務を生ずるもので はない。 上に詳細に示した三つの要素のほか、起訴状は、被告人と 一九一七フォーラムの会員との関係に、ある程度の優位性、 支配、管理が存在したという結論に合理的に導く他の事実を 何ら主張していない。三つの要素の完全な欠如は、YPOは クラブであると―常識が最初に示唆するものを補強するにす ぎない。YPOの会員は、社交的に交際し、情報を交換し、 意見を求めるために集まる同等の人々である。会員は、対等 な人々である。 要 す る に、 被 告 人 と 一 九 一 七 フ ォ ー ラ ム の 会 員 と の 関 係 は、ある程度の優位性、支配、管理の特徴がなかった。それ
は、信認関係と機能的に同等の関係ではなかった。クラブの 規則は、被告人の行動を禁じていたかもしれないが、連邦証 券諸法は―少なくとも本件では―禁じていなかった。 C.他の判例法 当 裁 判 所 を 拘 束 す る も の で は な い が 、 U nite d S ta te s v . R ee d 事件判決は、この分野で注目されているので、若干の検討を 要する( United States v. Reed, 601 F. Supp. 685 ( S.D.N.Y. ), revʼd. on other grounds, 773 F.2d 477 ( 2d Cir. 1985 )。 Reed 事件判決は、不正流用責任の基礎を構成するために、関係が 優 位 性、 支 配、 管 理 を 必 要 と し な い こ と を 示 唆 す る。 Reed 事件は、秘密の職業上の連絡歴によって特徴づけられる父子 関係を伴うものだった。裁判所は、管理に関する主張がない にもかかわらず、不正流用責任を裏付けるために十分な信認 類似の関係が存在しないにもかかわらず、陪審問題が存在す ると結論し、公訴棄却すべきだという申立てを認めなかった ( Id. at 705. )。 Reed 事 件 判 決 は、 二 種 類 の「信 頼 関 係」 を 認 め た( Id. at 712 ―13. )。 一 つ 目 は、 裁 判 所 が 詐 欺 的 取 引 を 取 り 消 し た 判 例 に 由 来 し、 あ る 程 度 の 支 配 を 要 す る( Id. at 712. )。 二 つ 目 は、法の作用による信託などで、そのような主張を要しない ( Id. at 713. )。 Reed 事件判決は、いずれも不正流用の基礎と なり得ることを示唆した。 当 裁 判所 の 見 解 では、 Reed 事 件 判決 は、 『信 頼』 関 係と 信 認関係の本質的な特徴を共有する関係とを合成している。実 際、 第 二 巡 回 区 が Reed 事 件 判 決 の 信 頼 関 係 の 定 義 を 検 討 す る際、非常に柔軟で便宜的な信頼関係として有益であると結 論したように、つまるところ信任と信頼の関係は、民事法の 他 の 領 域 に 存 在 す る か も し れ な い が、 『刑 事 法 に は 入 る 余 地 がない』とした( Chestman, 947 F.2d at 570. )。 D.SECの規制 被告人が取引した後、上記の結論はSECの見解によって 補強されている。 被告人は、二〇〇〇年八月二四日に施行された現行の規則 に基づき、起訴状は刑事上の不正流用となる諸事実を主張す る も の と 認 め る。 新 規 則 は、 規 則 一 〇 b ―五 の 対 象 と す る 『イ ン サ イ ダ ー 取 引 の「不 正 流 用」 理 論 で、 信 用 や 信 頼 の 義 務を人が負う』三つの非排他的な状況を規定する( 17 C.F.R. § 240 .10b ―5 ( preliminary note ).) 。それらは、 ( 1) 人 が 情 報 の 秘 密 を 守 る こ と に 合 意 す る と き は い つ でも ( 2) 重 要 な 未 公 開 情 報 を 伝 達 す る 者 と 重 要 な 未 公 開 情 報を伝達される者が、秘密を共有する経緯、習慣、 慣行を有するときはいつでも、あるいは、 ( 3) 人 が 配 偶 者、 親、 子 供、 兄 弟 姉 妹 か ら 重 要 な 未 公 開情報を受領し、あるいは得る時はいつでも である( Id. )。
一つ目と二つ目の状況が、本件の被告人の行為に当てはま るであろう。SECがこの新規則を制定する必要があると考 えたという事実は、新規則の対象とする行為が、規則の制定 前は法的に禁止されていなかったという主張に説得力を与え る。 規則の制定前に、一九九九年一二月二〇日のSECリリー ス は、 規 則 案 と 意 見 募 集 に つ い て 説 明 し た( Selective Disclosure and Insider Trading, 1999 WL 1217849 ( SEC Release Nos. 33 ―7787, 34 ―42259, and IC ―24, 209 )( Dec. 20, 1999 ).) 。 S E C リ リ ー ス は、 当 時、 不 正 流 用 の 責 任 の 範 囲 を「未決」であると評していたが、同リリースを詳細に読み 込むと、規則案は現在の法を明確にするのではなく、新たな 法 を 定 め る こ と を 意 図 さ れ て い た こ と が は っ き り す る( Id. at 2 ) 。(本 件 に 影 響 す る) Chestman 事 件 判 決 で 示 さ れ た 当 時の法に対するSECの不満は明らかである。SECは以下 のように述べた。 し か し な が ら、 わ れ わ れ の 見 解 で は、 Chestman 事 件 判決の多数派のアプローチは、身近な家族の関係者およ び親密な人間関係にある関係者が、その会話における秘 密が保持されることに対し、合理的かつ当然の期待を抱 く大きさを十分には認識していない。従って、われわれ は、 Chestman 事 件 判 決 の 多 数 意 見 は、 投 資 家 と 証 券 市 場を、内部情報の不正流用と結果として生じる悪用から 十分に保護するものではないと考える( Id. at 22. )。 S E C は『不 正 流 用 理 論 の 下 で、 家 族 関 係 や 人 間 関 係 が 「信 託 や 信 頼 の 義 務」 を も た ら す 場 合 を 決 定 す る た め に、 わ れわれが、目下、提案するより広範なアプローチにはもっと もな理由が存在する』と述べて締めくくった( Id. at 23. )。 SECの見解によれば、新規則に記載された不正流用責任 の 三 つ の 基 準 は、 Chestman 事 件 判 決 に 従 っ た 責 任 の 基 準 で はない。SECの見解は当裁判所を拘束していないが、規則 の制定とエンフォースメント責任を通した、インサイダー取 引の法の発展のためのSECの役割を考慮すると説得力があ る。少なくとも、新規則の経緯は、被告人の行為に刑事責任 は伴わないはずであるという当裁判所の結論を裏付ける。 最 初 の 二 つ の 分 類 は『単 に Chestman 事 件 判 決 で 明 確 に 述 べられた性質を改めて表明するだけ』であるから、新規則の 「よ り 広 範 な」 ア プ ロ ー チ は、 ど う も、 第 三 の 分 類(家 族 関 係)だけであるという政府側の主張を真に受けることは難し い。リリースの文言は、新規則が、家族関係『や他の非ビジ ネス関係』に適用されることをはっきりと示す( Id. at 2. )。 SECリリースの一面は、政府側の見解をわずかに裏付け る か も し れ な い。 リ リ ー ス は、 明 示 の 秘 密 保 持 の 合 意 は、 Chestman 事 件 判 決 に 従 っ た 不 正 流 用 の 責 任 を 裏 付 け る の に
足 り る こ と を 示 唆 す る( Id. at 22. )。 S E C リ リ ー ス は、 ど の よ う な 明 示 の 合 意 が、 Chestman 事 件 判 決 に 従 う 責 任 の 十 分な根拠となるのか、詳しく述べていない。 しかしながら、当裁判所の見解では、明示の合意が先に詳 細に述べた信認関係の特質を有する関係を示す時のみ、明示 の合意は不正流用の責任の根拠をもたらし得る。たとえYP Oの会員が明示の秘密保持の合意に拘束されたとしても、当 該合意は会員の倫理と道徳のみに訴えかけるものであった。 すなわち、何らの法的義務を生じさせるものでもなかった。 E.結論 こ の 問 題 に 取 り 組 む 二 つ の 地 方 裁 判 所 が、 『信 任 と 信 頼 に 類似する関係』の存在は、陪審によって決定される事実問題 で あ る と 結 論 し た( See Reed, 601 F. Supp. at 705; SEC v. Singer, 786 F. Supp. 1158, 1169 ( S.D.N.Y. 1992 ).) 。従って、 棄却の申立ての段階で法廷で問われる問題は、起訴状におけ る 主 張 が 真 実 で あ る と す る な ら ば、 『信 任 と 信 頼 に 類 似 す る 関係』が被告人と一九一七フォーラムの会員との間に存在し たとすることを、それらが裏付けるか否かである。 以上の理由から、当裁判所は、起訴状の主張が証明された としても、法律問題として、被告人と一九一七フォーラムの 会員の間に『信任と信頼の類似する関係』が存在したという 認 定 を、 起 訴 状 の 主 張 は 裏 付 け な い で あ ろ う と 結 論 す る。 従って、起訴状の第二、第三の訴因(証券詐欺)は棄却され る。 Ⅲ.通信詐欺 被 告 人 は、 18 U.S.C. § 1343 違 反 で、 一 つ の 通 信 詐 欺 の 訴 因でも起訴されている。証券詐欺の起訴の原因となる詐欺容 疑は、通信詐欺の起訴の根拠としての役割も果たす。政府側 が認めるように、通信詐欺の有罪判決は、基礎となる義務違 反に裏付けられていなければならない。以上の理由から、そ のような義務は、本件では存在しない。したがって、起訴状 は、通信詐欺違反を主張することもできない。起訴状の第一 訴因は棄却される。 結 論 上記の理由から、被告人の公訴を棄却すべきだという申立 ては認容される。起訴状の第一、第二、第三の訴因は、これ により棄却される。 上記のとおり命ずる。 Dated: 1 ―15 ―02 CHARLES R. BREYER 合衆国地方裁判所判事 ※ 本件を紹介するにあたり、指宿信「刑事訴訟における手続 打切り⑴―「正義の増進のための訴追の打切り」制度を参 考にして―」 北大法学論集四三巻一号一― 六二頁 (一九九二) を参考にした。ほかに、押切謙德「アメリカ合衆国連邦刑
事 訴 訟 規 則 概 説(そ の 3 )」 判 例 タ イ ム ズ 六 七 〇 号 六 二 頁 (一九八八) 、瀧賢太郎「アメリカ合衆国連邦刑事訴訟規則 概説 (その 6 )」 判例タイムズ六八七号二四頁 (一九八九) 、 森 本 哲 也『概 説 ア メ リ カ 連 邦 刑 事 手 続』 一 二 八 ―一 二 九 頁(信山社出版、二〇〇五)を参照した。 三 おわりに OʼHagan 事 件 連 邦 最 高 裁 判 ( 15) 決 は、 い わ ゆ る 不 正 流 用 理 論 を支持し、インサイダー情報の情報源への義務違反を認めた とされ ( 16) る 。また、同事件で連邦最高裁判所は、求められる義 務の内容を明らかにしていないといわれてい ( 17) る 。SEC規則 一 〇 b 五 ―二 は、 こ の よ う な 不 正 流 用 理 論 の 適 用 範 囲 に か か る不明瞭性を緩和するために採用されたとされ ( 18) る 。弁護士と 依頼人等、信認関係の存在が明白な場合以外でも、特定の場 合には規制の対象になると解説されてい ( 19) る 。そのような状況 の一つとして、情報を秘密にするという合意をした場合があ げられてい ( 20) る 。信頼義務が認められる事案の一つは、雇用契 約等の契約で守秘義務が明示的あるいは黙示的に課せられて いた場合であるといわれてい ( 21) る 。不正流用理論で責任が肯定 された多くの事案では、情報源と情報を得た者の間に契約関 係があり、与えられた情報を流用しない義務が明示的あるい は黙示的に課せられていたにもかかわらず、当該義務に違反 したことを理由として責任が課されたとされ ( 22) る 。さらに、取 締役等を具体例として掲げた記述ではないが、代理人・パー トナー・受託者は一定の守秘義務を負うとし、信認関係から 生 じ る 守 秘 義 務 に つ い て は、 次 の よ う な 見 解 が 示 さ れ て い る。 「英語で duty of confidentiality とは、守秘義務と訳して よ い と 思 わ れ る が、 confidentiality に は、 そ も そ も 信 頼・ 信 用・信任という意味があり、結局、当該情報に関し、信頼を 裏切らないという意義をもつ。通常の場合、それは守秘義務 であると考えてよいが、たとえ誰に漏らさなくとも、その情 報を使って自らの利益を図るのが許されないことをみれば、 狭い意味で秘密を守るだけにとどまらないことがわか ( 23) る 。」 Chestman 事 件 判 決 に つ い て は、 「① 一 方 の 他 方 に 対 す る 信頼と②他方から一方への影響力(支配または優位性)の存 在、および③他方によるその引受け」を信頼関係の成立に要 求したと紹介されてい ( 24) る 。同判決と守秘義務との関係につい て は、 「… 雇 用 契 約 で 守 秘 義 務 が 明 示 的 に あ る い は 黙 示 的 に 課 せ ら れ る と さ れ る 場 合 に は、 他 方 が 守 秘 義 務 に 同 意 し た (③ の 要 素) か ら こ そ 一 方 は 他 方 を 信 頼 し 情 報 を 託 し(① の 要 素) 、 他 方 は そ の 情 報 源 に 対 す る 影 響 力(支 配 ま た は 優 位 性)を行使しうる立場に立った(②の要素)ことから他方に は相応の義務(信頼義務)が課せられると解釈できる…」と 説明されてい ( 25) る 。 他 方 で、 Walton v. Morgan Stanley & Co. 判 決 は、 「情 報 は対等な立場で得たものであることから、信認義務違反は成
立 し な い」 と し た と 紹 介 さ れ て い ( 26) る 。 そ し て、 「情 報 を 得 た としても、それが信頼や影響力の行使には結びつかない対等 な関係によるものであるなら、信頼義務は否定されるとの立 場 が と ら れ た」 と 解 説 さ れ て い る。 Kim 事 件 か ら 示 唆 さ れ ることは、秘密保持の合意がなされても、信頼関係の存在が 認められず、一〇条(b)項の証券詐欺の成立を裁判所が認 め な い 可 能 性 が あ る と い う こ と で あ る。 Kim 事 件 で は、 右 に 引 用 し た Chestman 事 件 の ② の 要 素 が 不 存 在 で あ っ た と し て、信頼関係の成立が認められなかった。信頼関係、秘密保 持の合意そして証券詐欺との関係について、米国ではどのよ うな見解が示されているのであろうか。まず、証券詐欺とし て法的責任を負わせるためには、秘密保持の合意だけでは不 十分であるとする見解があ ( 27) る 。このような立場は、信認関係 や信頼関係の存在が必要であると主張す ( 28) る 。さらに、SEC 規 則 一 〇 b 五 ―二 は 無 効 で あ り、 信 認 要 件 を 排 除 し て 直 接 に 欺瞞の有無を検討することは、長年の最高裁の先例を帳消し にして書き換える行為であると批判した裁判所の見解を引用 す ( 29) る 。そして、通常の秘密保持の合意は、信認関係の特徴で ある優位性と支配関係の特徴を備えていないと指摘す ( 30) る 。次 に、情報源を積極的に欺いた事例では、信認関係は不要であ るとする見解があ ( 31) る 。このような立場からは、開示義務がな ければ沈黙は不実表示ではないとする考え方は、裁判所が規 則 一 〇 b ―五 訴 訟 の 境 界 線 を 定 め る た め に 利 用 し た ル ー ル で あると主張す ( 32) る 。そして、おおむね次のように解説する。秘 密保持の明示の合意がある場合には沈黙していたことになら ず、情報の目的外利用を約し、あるいは少なくとも情報を伝 達しないことを約束してい ( 33) る 。そのような約束をしたにもか かわらず、約束を守るつもりがなかった場合には詐欺的不実 表 示 に な ( 34) る 。 約 束 を 守 る 意 思 に つ い て は、 (a) 約 束 の 締 結 から破棄までの時間が短い場合には、約束を守るつもりがな か っ た こ と を 推 測 し や す く、 (b) 秘 密 保 持 の 合 意 の 後、 相 当に時間が経過した場合は、自身が約束を守るという意思表 示を訂正しないと欺瞞になるとされ ( 35) る 。インサイダー情報が 有用な期間は短く、秘密保持の合意の後、短時間で取引が実 行 さ れ る こ と が 少 な く な い の で、 (a) の ケ ー ス が 多 い の で はないかと指摘されてい ( 36) る 。 Kim 事 件 で は、 秘 密 保 持 の 合 意 が な さ れ た 場 合 で も、 現 段階においては、裁判所は必ずしも証券詐欺の成立を認める わけではないことが明らかになった。他方で、上記のように 秘密保持の合意違反を不実表示ととらえたならば、証券詐欺 が 成 立 し 得 る と す る 立 場 も あ る。 Dorozhko 事 件 で、 裁 判 所 はハッキングにより重要な未公開情報を知った場合に、積極 的不実表示を根拠に証券詐欺の責任が生じる可能性があると し ( 37) た 。インサイダー取引の性質を有する事例を、信認関係や 信頼関係にない外部者による取引をも規制範囲に含め得る積 極的不実表示に分類する考え方は興味深い。もっとも、積極
的 な ハ ッ キ ン グ に よ る Dorozhko 事 件 と ク ラ ブ で 受 動 的 に 情 報 を 耳 に し た Kim 事 件 で は、 情 報 入 手 の 経 緯 が 異 な る 等、 事 例 が 異 な れ ば 当 然 に 相 違 点 も あ る。 ま た、 Kim 事 件 で、 情報提供者と情報受領者の責任に分類される事例を不正流用 理論の事例に転換しようとしていると、裁判所は推測した。 情報受領者から利益を得ることを期待して情報を提供した場 合に、情報提供者の責任が成立し得るとした判例があ ( 38) る 。情 報漏洩の事例では、いわゆる情報提供者の「利得要件」等の 立証が求められ ( 39) る 。裁判所が最終的にどのように判断するか は別として、信認義務理論、不正流用理論、情報提供者・情 報受領者の責任、積極的不実表示等の複数の分類に該当し得 る事例については、責任を追及する側は、自身が有利と考え る理論を採用することがあるということになろうか。重要な 未公開情報に基づく証券取引という共通の性質を伴う事例で あっても、証券詐欺が成立するとは限らず、その分類も必ず しも明瞭なものばかりではないかもしれない。 注 ( 1) 黒 沼 悦 郎『ア メ リ カ 証 券 取 引 法』 一 五 六 頁(弘 文 堂、 第 二 版、 二 〇 〇 四) 、 栗 山 修「ア メ リ カ に お け る イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の 現 状 と 問 題 点」 同 志 社 法 学 四 五 巻 一 ・ 二 号 二 〇 三 頁 (一 九 九 三) 、 島 袋 鉄 男「ア メ リ カ に お け る 内 部 者 取 引 規 制 の 法 理 再 論(上) ― 規 制 の 限 界(内 部 者 の 範 囲) を め ぐ る 最 近 の 動 向―」琉大法学三四号七二頁(一九八四) 。 ( 2) 浅 野 裕 司「イ ン サ イ ダ ー 取 引 を め ぐ る 法 規 制 の 問 題 点」 比 較 法 二 五 号 二 五 頁(一 九 八 八) 、 上 田 真 二「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の あ り 方 に つ い て」 私 法 六 九 号 二 四 〇 頁(二 〇 〇 七) 、 川 口 恭 弘 ほ か「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の 比 較 法 研 究」 民 商 法 雑 誌 一 二 五 巻 四 ・ 五 号 四 三 三 頁(二 〇 〇 二) 、 神 崎 克 郎「内 部 者 取 引 の 規 制 に 関 す る 各 国 法 の 動 向」 ジ ュ リ ス ト 八 一 九 号 八 〇 ―八 二 頁 (一 九 八 四) 、 栗 山 修「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 と 民 事 責 任」 銀 行 法務 21 五二一号四九頁 (一九九六) 、 栗山修 「米国インサイダー 取 引 規 制 に お け る「イ ン サ イ ダ ー」 の 解 釈 基 準」 国 際 商 事 法 務 二 四 巻 七 号 七 三 八 頁(一 九 九 六) 、 黒 沼 悦 郎『証 券 市 場 の 機 能 と 不 公 正 取 引 の 規 制』 九 二 頁(神 戸 大 学 研 究 双 書 刊 行 会、 二 〇 〇 二) を 参 照。 近 藤 光 男「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の 範 囲 と 理 論 ― OʼHagan 事 件 判 決 を 中 心 に ― 」 商 事 法 務 一 四 七 三 号 二 頁 (一 九 九 七) 、 栗 山 修[一 九 八 七 ―二] ア メ リ カ 法 三 八 四 ―三 八 五 頁、 島 袋 鉄 男[一 九 九 八 ―二] ア メ リ カ 法 二 九 六 頁、 龍 田 節「証 券 取 引 法 五 八 条 一 号 に い う「不 正 の 手 段」 の 意 義」 別 冊 ジ ュ リ ス ト 一 〇 〇 号 一 四 五 頁(一 九 八 八) 、 Curtis J. Milhaupt 編 = 江 平 亨 ほ か 著『米 国 会 社 法 U.S. Corporate Law 』 二 六 六 ―二 六 七 頁(有斐閣、二〇〇九) 。 ※ ま た、 島 袋 鉄 男『イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 ― ア メ リ カ に お け る 法 理 の 発 展 ―』 二 二 頁(法 律 文 化 社、 一 九 九 四) を 参 照。 な お、 同 書 の 三 〇 頁 で は、 「… 取 引 所 に お け る イ ン サ イ ダ ー 取 引 を 純 粋 に 詐 欺 だ と 構 成 す る こ と が、 理 論 上 難 し い …」 と 指 摘 さ れ て い る。 瀬 谷 ゆ り 子「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 と 課 徴 金
制 度 ― ア メ リ カ に お け る 民 事 制 裁 金 と の 比 較 ―」 『比 較 企 業 法 の 現 在 ― そ の 理 論 と 課 題 石 山 卓 磨 先 生・ 上 村 達 男 先 生 還 暦 記 念』 三 九 六 頁(成 文 堂、 二 〇 一 一) で は、 刑 事 訴 追 で 用 い ら れ る 諸 法 や 緒 規 定 に 関 す る 解 説 が あ る。 後 述 の Kim 事 件 では、通信詐欺( wire fraud )の成否も問題となった。 ( 3) 近 藤・ 前 掲 注( 2) 二 頁、 島 袋・ 前 掲 注( 1) 七 六 頁、 萬 澤 陽 子『ア メ リ カ の イ ン サ イ ダ ー 取 引 と 法』 五 八 頁(弘 文 堂、 二 〇 一 一) 等 を 参 照。 た だ し、 神 崎・ 前 掲 注( 2) 八 一 頁 で は、 「… 多 く の 判 決 例 及 び 審 決 例 が 積 み 重 ね ら れ て お り、 ア メ リ カ 合 衆 国 に お い て は、 内 部 者 取 引 の 規 制 に つ い て、 実 際 上 は、 極 め て 具 体 的 か つ 詳 細 な ル ー ル が 形 成 さ れ て い る。 」 と 解 説 さ れ て い る。 同 様 に、 神 崎 克 郎『証 券 取 引 の 法 理』 五 二 一 ―五 二 二 頁 (商事法務研究会、一九八七)も参照。 ( 4) 島袋・前掲注( 1)七六頁。 ※ も っ と も、 信 認 義 務 を 負 わ な い ハ ッ カ ー が、 ハ ッ キ ン グ に よ っ て 企 業 の 重 要 な 未 公 開 情 報 を 知 り、 証 券 取 引 等 を お こ な う よ う な 事 例 も、 イ ン サ イ ダ ー 取 引 に 分 類 さ れ る の で あ ろ う か。 こ の よ う な 事 例 で は、 投 資 者 に 対 す る 直 接 の 虚 偽 表 示 は 見 出 し に く い も の の、 I D 等 の 不 実 表 示 が あ っ た 場 合 に は、 コ ン ピ ュ ー タ ー を 欺 い た と す る 余 地 が 生 じ る か も し れ な い。 See SEC v. Dorozhko, 574 F. 3d 42 ( 2d Cir. 2009 ). 他方で、 ハ ッ キ ン グ が、 ロ ッ ク さ れ た 書 棚 か ら 鍵 を 盗 む こ と と 同 様 の 行 為 で あ れ ば、 欺 瞞 は 存 在 し な い と す る 見 解 も 見 受 け ら れ る 。 See Brain A. Karol, Deception Absent Duty: Computer Hackers & Section 10 ( b ) Liability, 19 U. M iami , B us . L. R ev . 185 ( 2011 ). ( 5) 上 田・ 前 掲 注( 2) 二 四 一 頁、 上 田 真 二「イ ン サ イ ダ ー 取 引 に お け る「開 示 ま た は 断 念」 の 原 則 に つ い て ― ア メ リ カ 法 を 参考として―」 彦根論叢三四〇 ・ 三四一号一六七頁 (二〇〇二) 、 大 崎 貞 和「米 国 イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の 新 展 開 ― 不 正 流 用 理 論 を 認 め た OʼHagan 判 決」 資 本 市 場 ク ォ ー タ リ ー 一 巻 一 号 二 ― 一 〇 頁(一 九 九 七) 、 葛 愛 軍「イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 に 関 す る 研 究( 2 ) ― 日 本・ ア メ リ カ・ 中 国 の 比 較 を 通 じ て ―」 北 大 法 学 論 集 五 九 巻 五 号 一 三 〇 ―一 四 五 頁(二 〇 〇 九) 、 川 口 ほ か・ 前 掲 注( 2 ) 四 三 三 頁・ 五 〇 二 ―五 〇 三 頁・ 五 〇 四 ―五 〇 五 頁、 栗 山 修「米 国 連 邦 イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 に お け る「信 認 義 務」 の 検 討」 神 戸 市 外 国 語 大 学 外 国 学 研 究 八 〇 巻 九 〇 頁(二 〇 一 二) 、 黒 沼・ 前 掲 注( 1) 一 六 四 ―一 六 六 頁、 黒 沼・ 前 掲 注( 2) 九 二 ― 九 七 頁、 近 藤・ 前 掲 注( 2) 二 頁、 近 藤 光 男「企 業 買 収 の 情 報 と イ ン サ イ ダ ー 取 引」 商 事 法 務 一 三 一 九 号 三 七 頁(一 九 九 三) 、 島 袋・ 前 掲 注( 1) 七 六 ―七 七 頁、 徐 治 文「内 部 者 取 引 規 制 の 意 義 と 機 能 ―「法 と 経 済 学」 の 法 理 論 を 手 掛 か り に ―」 法 政 研 究 六 七 巻 三 号 六 一 三 ―六 一 四 頁(二 〇 〇 一) 。 並 木 和 夫「ア メ リ カ に お け る 内 部 者 取 引 規 制 の 法 理 ― Chiarella お よ び Dirks 両 事 件 ま で ―」 法 学 研 究 六 二 巻 一 二 号 二 二 〇 ―二 二 一 頁(一 九 八 九) 。 島 袋・ 前 掲 注( 2) 法 理 の 発 展 二 三 頁 で は、 「… 単 な る 沈 黙 ( concealment )、 も し く は、 自 分 の 知 っ て い る こ と を 開 示 し な か っ た( nondisclosure ) と い う だ け で は、 コ モ ン・ ロ ー 上 の 詐 欺 に は な ら な い と い う の が 一 般 原 則 で あ っ た。 た だ し、 こ の 一 般 原 則 に は、 い く つ か の 例 外 が 認 め ら れ、 そ の 一 つ が、 … 当 事 者間にある種の信任関係( confidential or fiduciary relation )が 存 す る 場 合 で あ る。 こ の 場 合 に は、 受 任 者 に、 不 正 な 利 得 を し
な い た め の 最 高 の 誠 実 性 が 要 求 さ れ、 取 引 に 影 響 す る 重 要 な 情 報 を 相 手 方 に 開 示 す る 義 務 が 生 ず る こ と に な り、 沈 黙 や 不 開 示 で も 詐 欺 に な る と さ れ る。 」 と 説 明 さ れ て い る。 も っ と も、 テ キ サ ス・ ガ ル フ 判 決 と キ ャ デ ィ ー・ ロ バ ー ツ 審 決 の 法 理 に つ い て は、 信 認 関 係 の 存 在 を 開 示 義 務 の 前 提 と す る 従 来 の コ モ ン・ ロ ー の 厳 格 な 解 釈 を 離 れ、 取 引 当 事 者 の 一 方 だ け が 未 公 開 情 報 を 有 し て い る と い う 不 平 等 や 公 表 前 に こ れ を 利 用 す る こ と の 不 公 正 性 と い っ た、 一 般 的 根 拠 に よ り 基 礎 づ け た と こ ろ に 大 き な 意 義 が あ っ た と 説 明 さ れ て い る 。 ま た 、 Chia rella 事 件 ・ D irk s 事 件 連 邦 最 高 裁 判 決 に つ き、 同 書 の 三 四 ―三 九 頁 を 参 照。 同 書 の 四 六 頁 で は、 「… 公 開 買 付 以 外 の 分 野 で は、 チ ア レ ラ お よ び ダ ー ク ス の 法 理 に よ っ て 、 信 任 関 係 に な い 外 部 者 の 取 引 に は 規 制 が 及 ば な い こ と に な る …」 と 説 明 さ れ て い る。 荒 谷 裕 子「イ ン サ イ ダ ー 取 引( 2)」 別 冊 ジ ュ リ ス ト 一 〇 〇 号 一 四 九 頁(一 九 八 八) で は「そ も そ も 信 任 義 務 関 係 を 内 部 者 取 引 規 制 の 前 提 と す る こ と 自 体、 今 日 に お け る 非 個 性 的 な 市 場 に お け る 規 制 の 意 義 を 全 く無視したものであると言わざるをえない。 」と評価されている。 不 正 流 用 理 論 に つ い て、 同 文 献 の 一 四 九 頁 で は「こ の 理 論 は、 一口で言えば、 未公開情報を利用すること自体が不正流用 ( mis -appropriation ) に な る と い う 考 え 方 で あ る。 」 と 説 明 さ れ て い る。 上 村 達 男「イ ン サ イ ダ ー 取 引( 3)」 別 冊 ジ ュ リ ス ト 一 〇 〇 号 一 五 二 頁(一 九 八 八) で は、 Chiarella 事 件 最 高 裁 の Burger 長 官 の 不 正 流 用 理 論 に つ い て「信 任 義 務 の 存 在 を 理 論 的 前 提 と せ ず、 何 ら か の 違 法 行 為 の 存 在 で 足 り る と す る も の」 と し、 第 二 巡 回 区 控 訴 裁 判 所 は Newman 事 件 と Materia 事 件 で 不 正 流 用 理 論 を 適 用 し た が「… バ ー ガ ー 意 見 と は 異 な り、 そ れ ぞ れ 証 券 会 社 な い し 印 刷 会 社 に 対 す る 信 任 義 務 の 存 在 を 前 提 と し、 こ れ に 反 し て 不 正 流 用 す る こ と を も っ て 違 法 性 の 根 拠 と し て い る。 」 と 説 明 す る。 Burger 長 官 の 反 対 意 見 に つ き、 島 袋・ 前 掲 注 ( 2) 法 理 の 発 展 四 〇 頁 で は、 「… 取 引 当 事 者 は、 と く に 信 任 関 係 が な い 限 り、 お 互 い に 情 報 を 開 示 す る 義 務 は な い … 情 報 上 の 優 位 性 が … 何 ら か の 違 法 な 手 段 に よ っ て 得 ら れ た も の で あ る 場 合 に は、 こ の 原 則 も 後 退 す べ き で あ る。 」「チ ア レ ラ 判 決 は、 バ ー ガ ー 長 官 に よ っ て 示 さ れ た 不 正 流 用 理 論 を 否 定 し た わ け で は な く … そ の 解 釈 を 後 日 に 残 し た と み る こ と が で き る。 」 と 紹 介 さ れ て い る。 ま た、 同 書 の 四 四 頁 で は、 Rule 14e ―3 に つ い て は 「… 会 社、 株 主、 あ る い は 取 引 の 相 手 方 に 対 し て、 信 任 関 係 に あ る こ と を 要 件 と し て お ら ず …」 と 説 明 し、 五 〇 頁 で は「… 一 九 八 四 年 制 裁 法 が オ プ シ ョ ン 取 引 を 明 文 で も っ て 規 制 の 対 象 と 認 め た こ と は、 或 る 場 合 に は、 必 ず し も 信 任 関 係 が 先 に 存 在 し て い な い 場 合 で も、 開 示 義 務 が 生 じ う る と す る も の …」 と 指 摘 す る。 ほ か に、 島 袋 鉄 男「イ ン サ イ ダ ー(内 部 者) 取 引 に つ い て」 比 較 法 研 究 五 〇 巻 一 〇 一 頁(一 九 八 八) 、 並 木 和 夫「不 正 流 用 理 論( Misappropriation Theory ) の 再 検 討 ― 内 部 者 取 引 規 制 の 基 礎 理 論 の 研 究 ―」 法 学 研 究 六 八 巻 四 号 一 ― 一 八 頁 (一 九 九 五) 、 並 木 俊 守「ア メ リ カ の イ ン サ イ ダ ー 取 引」 企 業 会 計 四 〇 巻 一 一 号 一 〇 四 ―一 〇 五 頁(一 九 八 八) 、 畠 山 久 志「ア メ リ カ に お け る イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 の 変 遷 に つ い て」 熊 本 学 園 大 学 経 済 論 集 一 二 巻 一 ・ 二 合 併 号 五 一 ―六 七 頁(二 〇 〇 五) を 参 照。 畠 山 ・ 前 掲 注 ( 5) 五 三 頁 で は 、 信 認 義 務 理 論 に つ いて「… 「詐欺の行為」に代えて取引当事者間の「信認義務違反」を問お
うとするもの。 」とし、六八頁では「コモン・ローの 信 認 義 務 違 反 を 「 詐 欺 行 為 」 と し て 認 定 し … 」 と 解 説 さ れ て い る 。 信 認 義 務 理 論 と 不 正 流 用 理 論 に つ い て、 萬 澤・ 前 掲 注( 3) 四 頁を参照。 ほ か に、 ド ナ ル ド・ C・ ラ ン ゲ ボ ー ト = リ ー・ S・ ス ペ ア = チ ャ ー ル ス・ A・ ス ペ ア(瀬 谷 ゆ り 子 訳) 「米 国 の 証 券 規 制 に お け る 詐 欺 行 為 お よ び 内 部 者 取 引 ― グ ロ ー バ ル 市 場 に お け る そ の 適 用 範 囲 と 理 念 ―」 日 本 法 学 六 〇 巻 二 号 二 四 一 ―二 四 三 頁 ( 一 九 九 六 年 )、 M ilh au pt ・ 前 掲 注 ( 2) 二 六 六 ―二 七 六 頁 等 を 参 照 。 ( 6) 神 崎・ 前 掲 注( 2) 八 一 頁 で は「… こ れ ら の 古 典 的 な 内 部 者 が 株 主 に 対 し て 特 別 の 信 任 義 務 を 負 っ て い る こ と か ら も た ら さ れ る 帰 結 で あ る」 と 解 説 さ れ て い る。 樋 口 範 雄『フ ィ デ ュ シ ャ リ ー[信 認] の 時 代』 三 七 頁(有 斐 閣、 二 〇 〇 〇) 。 ま た、 樋 口 範 雄 = 佐 久 間 毅 編 著『現 代 の 代 理 法 ― ア メ リ カ と 日 本』 一一頁(弘文堂、二〇一四)も参照。 ( 7) 樋口・前掲注( 6)フィデュシャリー三九頁、二四一頁。 ( 8) 本 稿 で 紹 介 す る 事 例 の ほ か、 た と え ば、 前 掲 注( 6) 記 載 の SEC v. Dorozhko, 574 F. 3d 42 ( 2d Cir. 2009 )事件を参照。 Dorozhko 事件に対する評価については、 次の文献を参照された い。 James A. Jones Ⅱ , Outsider Hacking and Insider Trading: T he ex pa nd in g o f L iab ilit y A bse nt a F id uc iar y D uty , 6 W a sh .J.L . T ech . & A rts 111 ( 2010 ). Adam R. Nelson, Extending Outsider Trading Liability to Thieves, 80 F ordham L. R ev . 2157 ( 2012 ). Robert T. Denny, Beyond Mere Theft: Why Computer Hackers Trading on Wrongfully Acquired Information Should Be Held Accountable Under the Securities Exchange Act, 2010 U t a h L . R ev . 963 ( 2010 ). John C. Coffee Jr., Mapping the Future of In -sider Trading Law: Of Boundaries, Gaps and Strategies, 2013 C o lu m B u s . L. R e v . 281 ( 2013 ). Mark F. DiGiovanii, Weeding Out a New Theory of Insider Trading Liability and Cultivating an Heirloom Variety, A Proposed Response to SEC v. Dorozhko, 19 G eo . M ason . L. R ev . 593 ( 2012 ). Elizabeth A. Odian, SEC v. Dorozhkoʼs Affirmative Misrepresentation Theory of Insider Trading: An Improper Means to a Proper End, 94 M a r q . L. R ev . 1313 ( 2011 ). Hagar Cohen, Cracking Hacking: Expanding Insider Trading Liability in the Digital Age, 17 SW.J. I n t l . L. 259 ( 2011 ). ( 9) 守 秘 義 務 違 反 を 一 〇 条(b) 項 違 反 の 根 拠 に し 得 る と す る 見 解 と し て 、 H arr y S. Ger la , C on fid en tial ity A gr ee m en ts an d t he Misappropriation Theory of Insider Trading: Avoiding the Fi -duciary Duty Fetish, 39 D ayton L. R ev . 331 ( 2015 )を参照。他 方 で、 守 秘 義 務 違 反 を 根 拠 に し 得 な い と す る 見 解 と し て、 Tyler
J. Bexley, Reining in Maverick Traders: Rule 10b5
―2 and Confi -dentiality Agreements, 88 T ex . L. R ev . 195 ( 2009 )を参照。栗山 修「米 国 連 邦 イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 と S E C 規 則 一 〇 b 五 ―二」 国 際 商 事 法 務 三 九 巻 四 号 六 一 三 頁(二 〇 一 一) は、 こ の 論 文 を 引用している。 ( 10) 萬澤・前掲注( 3)二五三頁を参照。 ( 11) 栗 山・ 前 掲 注( 9) 六 一 二 頁。 田 中 英 夫 編『英 米 法 辞 典』 一 八 〇 頁(東 京 大 学 出 版 会、 二 〇 〇 四) の confidential relation (信 頼 関 係) の 項 目 で は、 「当 事 者 間 の 法 律 関 係 か ら 当 然 に 信 頼 関 係 が 認 め ら れ、 も っ ぱ ら 相 手 方 の 利 益 を 図 る 義 務(高 度 の 忠
実 義 務) が 負 わ さ れ る 狭 義 の fiduciary relation (信 認 関 係) と 区 別 し て、 忠 実 義 務 の 程 度 が こ れ よ り も 弱 い 信 頼 関 係 を さ す。 … 医 者 と 患 者 … の 関 係 の よ う に 当 事 者 間 に 事 実 上 一 方 が 他 方 の 信 頼 を 受 け 影 響 力 を 行 使 し う る 関 係 が み ら れ る 場 合 が こ の 例。 た だ し、 fiduciary relation の 同 義 語 と し て 用 い ら れ る こ と も な い わ け で は な い。 」 と 解 説 さ れ て い る(田 中 英 夫 編『B A S I C 英 米 法 辞 典 三 八 ―三 九 頁(東 京 大 学 出 版 会、 二 〇 一 〇) も 参 照。 ) 樋 口 範 雄『フ ィ デ ュ シ ャ リ ー[信 認] の 時 代』 三 七 頁(有 斐 閣、 二 〇 〇 〇) で は「フ ラ ン ケ ル 教 授 も … 信 認 関 係 の 時 代 を 宣 言 し て い た。 た と え ば、 彼 女 が あ げ る 例 で は、 代 理 人 … 会 社 の 取 締 役 や 役 員、 遺 産 管 理 人 お よ び 遺 言 執 行 者 … 後 見 人、 さ ら に は 患 者 と の 関 係 で 医 師 や 精 神 科 医 な ど、 皆、 受 認 者 で あ る。 … 依頼人に対する弁護士も受認者であり…。 」と説明されている。 ( 12) 大 崎 貞 和 = 平 松 那 須 加「米 国 に お け る 選 択 的 情 報 開 示 規 制 の 強 化」 資 本 市 場 ク ォ ー タ リ ー 四 巻 二 号 八 頁(二 〇 〇 〇) 、 川 口 ほ か・ 前 掲 注( 2) 五 〇 五 頁、 黒 沼・ 前 掲 注( 1) 一 七 三 頁、 畠 山・ 前 掲 注( 5) 七 一 ―七 二 頁、 萬 澤・ 前 掲 注( 3) 五 八 頁、 吉 川 満「米 国 の 新 し い 公 正 開 示 規 則 と イ ン サ イ ダ ー 取 引 禁 止 規 則〔上〕 」 商 事 法 務 一 五 七 一 号 一 二 ―一 三 頁。 一 五 頁(二 〇 〇 〇) を参照。 ( 13) 大 崎 ほ か・ 前 掲 注( 12) 八 頁、 黒 沼・ 前 掲 注( 1) 一 七 二 頁、 萬 澤・ 前 掲 注( 3) 五 八 頁、 吉 川・ 前 掲 注( 12) 一 三 頁 を 参照。 ( 14) な お、 栗 山・ 前 掲 注( 5) 米 国 連 邦 九 五 ―九 六 頁、 栗 山・ 前 掲 注( 9) 六 一 三 頁 で、 本 件 が 紹 介 さ れ て い る。 ま た、 近 藤 光 男 = 志 谷 匤 史 編 著『新・ ア メ リ カ 商 事 判 例 研 究』 一 ―七 頁(商 事 法 務、 二 〇 〇 七) の「ア メ リ カ 商 事 判 例 を 読 み 解 く た め の 基 本用語解説」を参考にした。 ( 15) U.S. v. OʼHagan, 117 S. Ct. 2199 ( 1997 ).OʼHagan 事 件 判 決 を 解 説 す る 邦 語 文 献 と し て、 た と え ば 以 下 に 掲 げ る 論 文 等 を 参 照。 近 藤・ 前 掲 注( 2) 二 ―九 頁、 近 藤 光 男「 U.S. v. OʼHagan, 117 S. Ct. 2199 ( 1997 )インサイダー取引規制の範囲」近藤光男 = 志 谷 匤 史 編 著『新・ ア メ リ カ 商 事 判 例 研 究』 二 七 六 ―二 八 三 頁 (商事法務、二〇〇七) 。 ( 16) 品 谷 篤 哉「セ ン ト ラ ル・ バ ン ク 判 決 ― 連 邦 最 高 裁 に よ る Rule 10b ―5 の 解 釈 に 関 す る 覚 書 ―」 『久 保 欣 哉 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 市場経済と法』 二一九頁 (中央経済社、 二〇〇〇) では、 「同 判 決 は 不 正 流 用 理 論 の 中 で も 特 に 情 報 源 に 対 す る 詐 欺 理 論 を 採 用した。 」と説明されている。 ( 17) 栗山・前掲注( 5)米国連邦九四頁。 ( 18) 大 崎 ほ か・ 前 掲 注( 12) 八 頁、 栗 山・ 前 掲 注( 5) 米 国 連 邦九四頁を参照。 ( 19) 大 崎 ほ か・ 前 掲 注( 12) 八 頁、 黒 沼・ 前 掲 注( 1) 一 七 二 頁、 萬 澤・ 前 掲 注( 3) 五 八 頁、 吉 川・ 前 掲 注( 12) 一 三 頁 等 を参照。 ( 20) 大崎ほか・前掲注( 12)八頁。 ( 21) 萬澤・前掲注( 3)二五三頁。 ( 22) 萬澤・前掲注( 3)二五三頁。 ( 23) 樋口・前掲注( 6)一六〇頁。 ( 24) 萬澤・前掲注( 3)二五三頁。 ( 25) 萬 澤・ 前 掲 注( 3) 二 五 三 頁。 Chestman 事 件 判 決 に つ い て、たとえば近藤・前掲注( 5)三五― 三八頁を参照。
( 26) 萬澤・前掲注( 3)二五九頁。 ( 27) See Bexley, supra note 9 at 197. このような問題以前に、島 袋・ 前 掲 注( 2) 法 理 の 発 展 三 〇 頁 で は、 「… 取 引 所 に お け る イ ン サ イ ダ ー 取 引 を 純 粋 に 詐 欺 だ と 構 成 す る こ と が、 理 論 上 難 し い…」と指摘されている。 ( 28) Id. at 210 ―11. ( 29) Id. at 197, 211. ( 30) Id. at 211. 事 案 を 異 に す る が、 支 配 の 要 素 に 関 し、 米 国 の 投 資 運 用 の 状 況 に お け る 業 者 の 責 任 に つ い て、 お お む ね 次 の よ う な 説 明 が な さ れ て い る。 今 川 嘉 文「投 資 に 係 る 損 失 と 過 失 相 殺 の 法 理( 1)」 神 戸 学 院 法 学 三 五 巻 三 号 四 ―五 頁(二 〇 〇 五) で は、 業 者 が 顧 客 口 座 に 対 し 裁 量 権 を 有 し、 ま た は 実 質 的 支 配 を し て い る 場 合、 信 認 義 務 を 負 う と す る。 そ し て 対 等 な 当 事 者 に よ る 自 己 利 益 の 追 求 が 許 さ れ る 契 約 法 理 に 対 し、 信 認 義 務 は 顧 客 の 信 頼 を 受 け て 顧 客 利 益 の 最 大 化 を 図 る べ き 忠 実 義 務 を 内 包すると説明している。 ( 31)
See Gerla, supra note 9 at 339.
( 32) Id. ( 33) Id. at 339. ( 34) Id. at 340. ( 35) Id. at 340 ―41. ( 36) Id. at 340. ( 37) SECv. Yun, 327 F. 3d 1263 ( 11th Cir. 2003 ). ( 38) Dirksv. SEC, 463 U. S. 646 ( 1983 ). Yun, 327 F. 3d 1263. SECv. Maxwell, 341 F. Supp. 2d 941 ( S. D. Ohio 2004 ). また、 川 口 ほ か・ 前 掲 注( 2) 五 〇 二 ― 五 〇 四 頁 も 参 照。 Dirks 事 件 判 決 に つ い て、 野 田 博「証 券 ア ナ リ ス ト へ の 自 発 的 開 示 と イ ン サ イ ダ ー 取 引( 1)」 一 橋 論 叢 一 一 七 巻 一 号 一 一 六 ―一 二 三 頁 (一 九 九 七) 、 野 田 博「証 券 ア ナ リ ス ト へ の 自 発 的 開 示 と イ ン サ イ ダ ー 取 引( 2 ・ 完) 」 一 橋 論 叢 一 一 八 巻 一 号 三 九 ―四 〇 頁 (一九九七)を参照。 ( 39) Yun, 327 F.3d 1263. Yun 事件について、たとえば次の文献 を 参 照 さ れ た い。 M. Anne Kaufold, Defining Misappropriation Theory: The Supposal Duty of Loyalty and the Expectation of Benefit, 55 M ercer L. R ev . 1489 ( 2004 ). 石田眞得「不正流用理 論 に お け る 情 報 伝 達 者 の「利 得」 要 件」 商 事 法 務 一 七 一 四 号 四四頁(二〇〇四) 。
Maxwell, 341 F. Supp. 2d 941. Maxwell
事件について、たとえ ば 次 の 文 献 を 参 照 さ れ た い。 David T. Cohen, Old Rule, New Theory: Revising the Personal Benefit Requirement for Tipper/ Tippee Liability under the Misappropriation Theory of In sid er Trading, 47 B.C.L. R ev . 547 ( 2006 ). 川 口 恭 弘 「 内 部 者 取 引 に お け る 情 報 伝 達 者 の 責 任」 商 事 法 務 一 九 九 七 号 六 一 ―六 五 頁 (二 〇 一 三) 。 拙 稿「情 報 提 供 者 と 情 報 受 領 者 の 責 任 に 関 す る 小 論」千葉商大論叢四七巻一号一六三― 一六五頁(二〇〇九) 。 両 事 件 に つ い て、 た と え ば 拙 稿「証 券 規 制 と 会 社 法 の 日 米 比 較 研 究」 CUC View & Vision 三 六 号 七 一 頁(二 〇 一 三) 、 萬 澤 陽 子「米 国 に お け る 情 報 伝 達 者( tipper ) 責 任」 証 券 レ ビ ュ ー 五三巻二号一一六― 一三三頁(二〇一三)を参照。 ま た、 Chestman 事 件 の 判 旨 と し て、 近 藤・ 前 掲 注( 5) 三 六 頁 で は「チ ェ ス ト マ ン に 幇 助 者、 教 唆 者 ま た は 情 報 受 領 者 と し て の 責 任 を 課 す に は、 ロ ー ブ が 重 要 な 情 報 を、 チ ェ ス ト マ
ン の 認 識 し て い る 信 用 と 信 頼 の 義 務 に 違 反 し て 打 ち 明 け た と の 証 拠 が 重 要 で あ る が、 本 件 に は そ れ が 欠 け て い る。 情 報 を 打 ち 明 け ら れ た 者 か ら 秘 密 の 保 持 の 保 証 が な さ れ た と の 証 拠 も な い。 家 族 関 係 だ け で は こ の 種 の 秘 密 を 守 る と の 約 束 を 引 き 出 せ るものではない。 」と紹介されている。 (こすぎ りょういちろう・千葉商科大学商経学部准教授)