東南 ア ジ アにお け る陸水 生 物 学 的研 究
上
野
益
1
.
陸 水生 物研 究 の意 義 陸 水生 物学 は湖 沼河 川 をは じめ と し,広 く内陸 の水域 つ ま り陸 水の生 物 をその研 究 の対 象 と して い る。 陸 水 中 に如 何 な る種類 の生 物 が生活 して い るか , またそれ らの地球 上 にお け る陸水 - の分布 状 態 , な らび に分布 の 由来 を考 究 す るのが, まず そ の重要 な 内容 を な して い る。 さ ら に, それ ぞれ の陸 水 域 に どれ だ けの種類 の生 物 が共 存 し, それ ぞれ の生 物 の個体数 の割 合 は ど うで あ るか, ま た彼 ら とその生活 環境 な る陸 水 との闇係 は ど うか, とい うよ うな生 態学 的方 面 もま た重 要 な 内容 の一 都 で あ る。 この場 合 には陸 水 それ 白身 の物理 ・化学的な研究 が 要 求 さ れ , さ らに陸 水 の諸 性質 の決 定 に大 きい影 響 力 を もつ ,それぞ れ の地域 の地 形地 質 な らび に気 候 が考慮 に入 れ られ なけれ ば な らな い。陸 水 生 物学 あ るいは広 義 の陸 水 学 は, この よ うに,坐 きて い ない生 活 環境 とそ の申 に生 活 して い る生 物 との複 雑 な相互 関 係 を明 らか に しよ うとい う 努 力 の上 に成 り立 って い る。 陸 水 とそ の生 物 との人 生 に対 す る関係 もまた重要 で あ る。 純良 な飲料 水 を供 給 す るため に, 文 明諸 国 が多 大 の苦 心 を払 って い る こ とは い うまで もないが,飲料 水 の原 水 な らび にそ の精 製 過 程 で起 る生 物学 的 な障害 に対 して は,多 くの陸 水使 物 学 的 な研究 課 題 を提供 す る。 都 市 の膨 大 に伴 う下 水 (家庭 汚水) あ るいは工場廃 水 が天然 陸水 に及 ぼす汚染 は,陸水 生 物学研究 者の
深 い関心 を呼 ぶ 問題 で あ る し, 陸水 を天 然 の清 浄 に保 て ない とい う懸 念 が彼 らを悩 ます。 ま た,人類 を苦 しめ る吸血 昆虫 , あ るいは伝染 病 を媒 介伝 播 す る昆虫 の多 くが,陸水中
で幼 虫時 代 を過 す こ とに よ って ,陸水 生 物学者 の参 加 すべ き多 くの問 題 が生 ず る。例 えば, マ ラ リア病 原虫 を媒 介 す る蚊 の幼 虫 は陸 水 中 に生活 す るか ら, その防除 には蚊 自身 につ いて の知識 と と も に, そ の生活場 所 な る陸 水 の性 質 を知 らね ば な らな い。 そ の他 に も, 人畜 の寄生 虫 の なか に は, その中間宿 主 を陸水動 物 に求 め る ものが少 な くな く, これ もま た いわ ゆ る 「衛 生 陸水学 」 の重 要 な研究課 題 で あ る。 衛 生 陸水 学 が取 上 げ るべ き問 題 は特 に熱帯地方 に多 い。 淡 水 (陸 水) 漁業 につ いて は特 に触 れ る必 要 が ないで あ ろ う. なお ,近 年 盛 ん に築造 せ られ るダ ム湖 につ い て は,生 物以外 の陸 水学 的性 質 につ いて も,生 物 を 含めた陸水 学 的研究 に お いて も,天然 の湖 沼 とちが った性 格 を示 す点 に興 味 が あ るが , こ こで は これ 以上 触 れ な い こと とす る。 陸 水生 物学 の研究 は, さ きに述 べ た よ うに,生 物 の分 類 分布 か ら進 んで生 態学 に及 び ,現在 はそれ らの基 礎 の上 に陸水特 に湖 沼 の物 質 代謝 に学者 の興 味 が貼 って い る。 生 態学 的 な比 較研究 か ら遥 々実験的研究 に入 りつ つ あ る とい え る
。
性 態 学 的 科学 と して i))陸 水!上物学は主 と して 北半球 の温帯 地 方で進 み,地球 上 U)他,J)地 域 の 陸 水 につ いて は ,近 隼 よ うや く研 究 が増加しつ つ あ る現 状 で あ る。 従 って ,地 球上 の陸水 C/)性 格 を比 較 しよ うとす れ 且 知 られ てい る事実 uI) 水 とそc
Jj吐 物 とが最 もよ く調 べ られ
て い る拙 ま, わ が 日本 列 島 で あ り. そ れ に次 ぐC/)が東
山ア ジ アJ)ス ンダ列 島 U)ス マ トラ ・ジ ャワお よび バ リレ)3島で あ るこ そ uj他u
j東南
ア ジ ア諸地
域 で 徳, フ イ リッピ ン ・セ レベ スな どが あ る程 度[軒先 さ/ilJて お り,大
陸 邦 のベ トナ ム ・カ ム ポ ジ -/ ・ラオ ス ・タ イ ・マ レイ シア な どは , それ らU)国々uj研究 者oj努 力 に も拘 らず,陸 水/日舞、j-I:rは まだ初/ltJjC/)段 階 だ とい って も過 言 で は な いo た だ ,魚類
・蚊 な どの若 干uj動 物 群 は例 外 で , よ 昭和 18年 (1943)に, 『太 平一洋 U_〕泡
洋 と陸 水』 とい う1冊 uJ書 が編 集 され るに 当 り, ;i)た く Lは、卜甘'fUj知識 に拭 いて 「酉 太 平 洋 圏 諸地 方 の陸水牡
物 」 な る1篇
の総説
,をつ くり,来 由 ア ジ アの陸 水吐 物 につ い て もや や 詳 し く述 べ たo それ か ら20年余 の 歳 月を経 過 した 今 日にな って も, これ を全面的 に 書 きか え る必 要 を痛 感 す る ほ ど,豊 富 な資 料を
手に し得 な い ので あ るし、マ ラヤ a)淡 水生 物 (陸 水生 物)研
究 の rjt・里 を試 み た D.S.Johnson (1957)は,1954年 までレLj該 地 方 の陸 水吐 物C
/j知識 は, 若 干 の動 物 理量-
除 き. ど うひ い き 日に見 て も断 片的とい う他 は な く, 多 くの生 物 群 は全 く無 視 され て い た こ とを指摘 して い る。 これ は 今か ら半世 紀 前c
J)巧つが 日 本 の伏 態 に よ く似 て い る。前述 U〕よ うに, ジ ャ ワ ・スマ トラし引達水 が近 代的 方法 で 研 究 せ られ, て ,-一国の陸 水 とそ の井二物 とが よ くわ か って い る点 で ,一 躍 世 界 屈 指 とな った uI jと人 きい ちが いで あ る.1 これ は Thienemann,Ruttner,Feuerborn 3教接 が約 1'Lf-:-問 にわ た って尖 Jjkした,ドイ ツ ・ス ンダ陸水探 検 (DeutscheLimnologischeSunda-Expedition,1928-29)に よ る もuj
で あ る、ノ そ cJj成果 は多 くoj専 門 学 者 の 研究 に よ り, 30 年 近 く
C
/)歳 月 を釣
して,
『熱 ′日日速水』
(DietropischeBinnengewasser)な る数千 ペ ー ジ に逢 す る 大報
1
-
I
l:;告とな り. 東南 ア ジア燕′侶 陸 水の知 識 の宝庫 で あ る。 そ の他uj地域 につ いて は , い くつ か の生 物 群 につ いて は 別 と して , 陸 水 な らび にそ の焦 物界 を具体 的 に 展 望す る こ とが 不 可能 なの は ,必 ず しもわ た く しレ)不勉 強 U)せ いば か りで は な いだ ろ う。2.
乗 南 ア ジ アの陸 水 生 物 相 東南 ア ジ アの諸 地 方 は , 大体 動 物 地 理 学上Lj)東洋区 に 入 る こ とが A.R.Wallace以 来 よ く知 られて い るが , そ の東 南 に隣 す るオ- ス トラ りア医 との境 界 を ど こにす るか ほ議論 が あ る,) こ の境 界 線 , す なわ ち, いわ ゆ る ワ レス線 は , バ リ烏 とそ の束 に接 す る ロム ボ ク島 との閥 を通 り, ボ ル ネ オ ・セ レベ ス両
島の間を北進 し, さ らに北 東 に折 れ て ミンダナ オ 島cj)南年 来 に抜 け・、) これ に対 し,Max Weberは ア ジ ア糸淡水 魚 が ,劣 勢 なが らも,Wallacea_)所 説 よ りも さ
3-らに東進 して い る事実 か ら,東 洋 ・豪 州 両 区の境 界 線 は, チモ ー ル島 の東 方 を北進 し, モ ル ッ カ諸 島の西 方 を通 って , - ル マ- ラ島北 方 で太平 洋 に抜 け る と主 張 した。 Weberの淡水 魚 の 研 究 は,東 南 ア ジアの陸 水動 物 相研 究 に先 鞭 をつ けた もの の- で あ る。 ワ レス ・ウ ェバ ア両境 界線 の価 値 は後段 に触 れ る こ ととす る。 記述 を進 め るに先 だ って , 半世紀 近 くの昔 に発 表 せ られ た
J
.
Meisenheimerの熱帯
ア ジ ア の動 物地 理学 的 区分 を見 よ う。 この凶 の ⅠⅠⅠ.地 区 は ビル マ ・タイ ・カ ム ポジア ・ラオ ス ・ベ ト ナ ムな どの ア ジア大陸 の東 南 周縁 部 を含 む 。ⅠV.地 区 は セ レベ スを除 くス ンダ地方 で , ボル ネ オ ・ス マ トラ ・ジ ャワな どは この 地 区 に包括 され る。 彼 の 時 代 には まだ 「ワラ シア」
(Wal -1acea)U)設 定 は提 唱 されて い なか った ので ,Ⅴ.お よ び ⅤⅠ.両 地 区 に分 った ので あ る。 米 人植 物学 者 E.D.Merrillと地質 学者 R.E
.Dickersonとが フイ リッピ ンよ り小 ス ンダ諸 島 まで の 中間 区域 を,
「ワラ シア」 と呼 ぶ こ とを提 唱 したの は 1928年 の こ とで あ る。 「ワラ シア」 中間地 帯 は東 を前述 の Weber線 に, 酉 を 同 じ くWallace線 に よ って 限 られ るか ら, この両線 の生 物地 理学 的意義 は見 なお され た こ ととな る。 Merrillらは西 側 の Wallace線 を北 に延 長 して , ル ソ ン島 と台湾 との間 のバ シ海 峡 で東 -太 平 洋 に抜 け る こと と した。 この中間地帯 は地 質学者 の いわ ゆ るス ンダ陸 地 とパ プ ア陸地 との中間 に位 し,EL:.物 と して は ア ジア系要 素 を主 体 と し, パ プ アお よびオ ー ス トラ リア系要 素 が混在 した,Merrillの言 葉を借 りるな らば, 一 種 の不安 定地 域 (ttunstable area") で あ る。 さ らに, ま だ解決 せ ね ば な らぬ多 くの問題 が残 って い る の は,
「ワラ シア」 内部 と周辺 部 との生 物 の関係 につ いてで あ る。 東 南 ア ジアで の生 物地 理 学 上 の研 究 の必要 性 が 「ワ ラシア」 地帯
にあ る ことは,現在 で も少 しも変 って い な いが,大小 多 I 数 の島峡 が散 在 して い る地 域 で あ るか ら, そ の探 検調 査 は容 易 な こ とで は な い と思 われ る。
陸 水生 物 につ いて も同 じこ とが いえ るが ,淡 水 魚 等 を除 いて, われ われ の知 識 は極 めて乏 しい と 工 第1図 Meisenbeimerによる南アジア ・アフ リカの動物地理区 (Brehm,1953よ り写す)いわ ざ るを得 な い C,)で あ る。 従 来行 わ れ た 「ワ ラ シア Lお よ びそ の周辺 地 域 の陸 水/冒
勿u
j研 究 LJjうナ、, ドイ ツ人 R.Woltereck 教侵 uJ探 検 (1932)〔/jJ成果が最 も 多 くL
'
/
)貢 献 を して い る そ の 目的 は そ れ らuj島峡 の陸 水動 物中
の 固有 柿 お よび種 uj分 離 に二心 、1、Lが おか れ , 蒐某材 料 もフ ラ ン ク トンの ほか , エ ビ ・カニ , 恒類 等 , そレ)目
的 に適 す る若 干 の動 物 群 に限 られ,陸
水 の侶 質等 につ い て は何
も発 表 され て い な い 一 「ワ ラ シア」 な らび に そ の 周辺 地 域 の陸 水 牲 物 の概 要 は ,前 節 に 引用
した 拙 文 (1943)中 に あ るか ら, こ こで は これ 以上 触 れ な い こ と とす るこ 増子 これ --- ′ ㌣ 2 第2図 「ワラシア」中間地措(破線で囲んだ部分) (上野,1943よ り変写)さて , さ きに引用 したMeisenheimerの 区 分 (許 し く人為的で あ る こ と/i-否 め な い が) a)ラ ち
,Ⅰ
V.
地 区 の 大陸 周縁 部 (マ レ-半 島) お よび .Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
地
区 につ いて み よ う‥ この う ちでⅠ
ⅠⅠ, 大陸 周縁部
が最 も陸 水 焦 物 ,Jjわ か って い な い地 域 で あ る。Ⅰ
Ⅴ.
a)半 島l
W
は あ る拙 射 井究 され て い るが , そU_)進 度 は 欧米 や わ がLl本 等の比 で は な い) さ きに引用
した Johnsonが 同 じ文中
で , マ ラヤ の陸 (淡) 水 につ いて の知識 は, 欧州 の吐 物 学者 が19世 紀 初 動 に, 欧州 の陸 (演) 水 に つ い て持 って い たU
)と全 く ノこ差 が な い と述 べ て い るの は,決 してl圭ノ、過 ぎで は なか ろ う従来
荏-!-上態
学 的 に1射及った もの は全 く家 々た る もujで あ る」 そ れ ゆ え,Johnsonが上記 1文 をつ く った こ と,手写 と しな けれ ば な らない /そ の内
容 の概 略 は次 節 に述 べ るー こ こで は陸 水動
物地理
C/)1例 と して , 榛 脚 目カ ラ ノイダ亜 目(
Di
a
Pt
o
mus
類) a)分布 伏 態 を ,Brehm (1953)に 従 って述 べ よ う。 同氏は前記 Meisenheimer c)J8地 区全 邦 につ いて 分布 を検 討 して い るが , ここで は
東
南 ア ジ ア, す なわ ち,Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
.,Ⅰ
Ⅴ.
,Ⅴ
.お よび ⅤⅠ.c
D4
地 区 と イ ン ド地 区 とに限 る こ と とす る、、 この うち,Ⅴ.:-VI.が 「ワ ラ シア」 で あ る二 模掛
目申
で キ ク ロポ イ ダ 亜 目は普 遍 'Jlr -布 種 が多 い が , カ ラ ノイ ダ_lll7.日は分 布 の局 限 され た もの が ∴;(,し、〔ノ)で , こU
jよ うな研究 (り目的 に通 す る〔) 採 集 が 行 き とどけぽ この表 (表 1)の空白しっ埋 め られ るl
l
Z
I
.
T5分 が埋'日].rけ るで あ ろ うが, 大体uj分 布 ('_)様 相 ,JL-これ に よ って察 す る こ とが で きよ う.J これ らuj粍U
_)
分布 の 由 来 な らび に 各地 区 にお け る 分化 につ いて は, /雄 摘 )に論ず る こ とを差控 え る カ ラ ノイダ模 脚 目は , こレ)よ うに特 異 な分布 'IIしてい るu
jで著 しい が,他
U)プ ラ ンク トン動 植 物 を見 る と,温端
二地 方の 陸 水に拝聞 す る種 と同 じもcJ)が多いの に気 づ くJ中
で も,横 側 目キ ----55--表 1 Meisenheimer地 区 にお け るDiaPtomusの分布 南 部 以 外 の セ イ ロ ン, 大 陸 周 縁 部,b外7のmt/ご 票ス ン思ダ ,(7
Ⅴ+
,
㌢ 1ⅤⅠ,7:) イ ン ド 南 部 イ ン ド 台湾 "(_I) _… _(_Il)_ __」 !!!) TroPodiaPtomus T.doriai T.hebereri T.maZaiicus T.gtgantoviger Heh'odiabtomus H.viduus H.contoytus H.elegans H.PuZcher H.kieferi H.nibPonicus SinodiaPtomus S.galleSa Rhtnedia
Ptomus R.indt-cue AZZodl'aptomatS R.cinctus R.mirabiZiPes R.rangunensts R.raoi EodiaPiomus E.blacheri E.dracontsignivomi E.woZteyecki NeodiaPtomus N.strigilibes N.satanas N.mePhistol)heles N.PhysaZ
iPus 全 イ ン ド セ イ ロ ン ベ ン ガ ル , ゴア ベ ン ガ ル 北 イ ン ド 全 イ ン ド 北 イ ン ド 南 イ ン ド タイ (?) ビル マ,カ ム ポ ジ ア 南 イ ン ド ビノレマ 南 イ ン ド カ ム ポ ジ ア カ ム ポ ジア カ ム ポ ジ ア カ ム ポ ジ ア (?) (schmackeri i handeZi, シナ) Nilghiri, 南 イ ンド 諸 島 _lI_V)___ ス マ トラ, ジ ャ ワ ス マ トラ, ジ ャ ワ ジ ャ ワ, ・ヾり ジ ャ ワ ジ ャ ワ p- フイ リッピン セ レベ ス に Var・.Pに PyaslnuS P そ 0) 他 kikuchii 日本 日 本 chafjTanjoni: お よび sarst 東亜 セ レベ ス sinensisシナ (多 くの品種 jaPOnicus が分布) 日本N.diabhorus N.lyml)hatus PhyllodiaPtomus
P.annaeおよび P.blanci "Dta♪tomus"insulanus
および vexi
l
l
ifer 'tDiaPiomus"visnu ttDl-aj・tomus"javanus Arctodtabtomus A.altissimus A.♪arvisPl'neus Nilghiri, 南インド 仝イン ド セイロン (annae) 北イン ド 高山帯A.euacanthus 北イン ド山地 Nilghiri
シンガポ-ル, - -カム ポ ジア カム ポ ジア ジ ャワ -セ レ・^ミス Pに国有 トル ケ ス タ ン (blanck3') 中央 ア ジr)"LT
は
Ste no-diaPtomusと なる が い る。Ruttnerが ス マ トラ ・ジ ャ ワの湖 沼 か ら採 集 した総 計267種 の プ ラ ンク トンレ)うナ,, ざ っ と四 分 の- が熱 帯 陸 水 だ け に い る もの で あ った。〉個体 数 o)机 1仲 は仝 プ ラ ンク トンの46,% を 占め るが ,熱 帯 性 種 の割 合 はそ の三 分の一 で あ る。 ま た, 多数u
j
l剛 本の もujの20-25% は , 温 帯 熱 帯 双 方 の湖 に優 勢 で あ り,残 りの約 50% が 大 き くて深 い湖 の沖
邦 には い な くて,小 水域 ,浅 湖 あ るいは 大潮 の
沿
岸 ,侶 二多 い もU_
jで
ある.。Ruttner は冷 水 狭適
温 性の
種 は ジ ャ ワ ・スマ ト ラの湖 沼 に発 見 され ず , 大部分が広適温性
種 で , それ ら熱 帯 陸 水の み に lL
l
.
J
i
はす る も(ノyま温
水什 狭 適 温 性 な る こ とを指摘 して い る。 ま た,普 遍 )拍子の種 で あ って沿 ,E
S;
;
l
F
l二に仕 活 して い るの が常 で あ る珪 藻 や 枝 角 類 が,イ ン ドネ シアの若 十 の湖 沼 の プ ラ ンク トン中
に量l'刷 二膨 しく出現 す る。柚物
性 プ ラ ン ク トンl
f
Jの珪 藻 の 量 的刊 合は25%,動 物 性プ ラ ン ク トン中
で は 甲殻 類 の 占め る鼠
的 割合が最 大 (20%)で ,輪 虫 類 が最 小で あ る。 この よ うな 串実 か ら,Ruttnerは湖 沼 プ ラ ン ク トンは沿 岸 性 種 に 由 来 す る とい う従 来 の仮 説 が ,熱 帯 湖 沼 で実 証 され る とす る。 プ ラ ンク ト ンのLl:_態 につ いて は な お次 節 で 触 れ る こ と とす るこ 陸 水 動 物 地 理 学 上 特別
の 注 意 を惹 く 動 物 の 一一一つ は , G.0.Sars(1929)が 記載 した 地 下 水 産 盲 目の マ レ- ム カ シエ ビ (Parabathynella malaya)で あ るOこの種 は マ レイ シ アの苗 都 ク ア ラ・ル ンプ ー ル の 近 く0)Batu洞窟 内の 小 水 溜 りか ら 採 渠 され,た (図3)C ム カ シエ ビ斬(Bathynellacea)は , 欧州 各地 の ほか 「二1本 列 島 の地 下 水 に 分布 し, そ の 1回凱出方 で は上.i己P・
malayaが 知 られノて い るの み で あ る。 ム カ シエ ビ類 は体長 1- 2mm の微 小 甲殻 類 で あ るが , そ の近 縁 者 は 化石 と して 発 見せ られ ,現 /再出下
水車
か ら発見 され る軒 は , い わ ゆ るや
′
生 きて い る 化石 'Y と もい うべ き珍 奇 7昌 )の で あ る3.
陸 水 生 態 学 的研 究生
1!/AU)珪 物 環境 な る陸 水 特 に湖 沼河 日日二つ いて は ,吉 村 信吾1
根 -
:
L/r) 『東亜0)塵永』 (1943) - 57-な る有 益 7-な 1文 が 発 表 され て あ る 。 ス マ トラ ・ジ ャ ワ な らび に バ リ
〃
)
陸 水 に つ い て は, Thienemann, Ruttnerらの 基 礎 的研 究 が あ る こ とは既 に述 べ た。 大 陸 周 縁 邦 に は 大河 は あ るが湖 沼 は少 な く, その
研究 も 十 分 行 わ れ て い る とは い え な い。 ビル マ に は若 十 の湖 沼 が あ るが,シ ャ ン台地 の イ ン レ湖(
I
n1
6
Lake)は , 古 く イ ン ド 博物 館 長 T.N.Annandalel)(1918)の動 物 相 に関 す る詳 しい研 究 が あ る。 該 湖 は石 灰 岩 地 に あ るた め 湖 水 が石 灰 分 に富 み , 貝 類 が豊 富 で そ の種第3図 マ レームカシエビ (Parabathynellamalaya
G.0.Sars). (Sars,1929よ り写す) も特殊 な もの が 多 く,湖 中 に多 数 の 浮 島 が あ るの が有 名 で あ る。 同性 上 (1916)は これ よ り以 前 に マ レー 半 島 の タ レサ ー ブ湖 (Talesaab)を 研究 して い る。 近 年 東 南 ア ジ アの 大 陸 周縁 部 で 行われ た陸 水 研 究 の最 大 の貢 献 は,聞 直 大学 大 原 農 業 生 物 研 究 所 の小 林 純 博士 (1958)の タ イ
国
陸 水 の 化 学 的 研究 で あ ろ う。 小 林 博 士 は タ イ国 内31ヵ所 か ら陸 水 試 料 を 集 め て分 析 した。そ の 殆 ん ど 大 部 分 は 河 川 で あ るが , そ の 中 に メ コ ン河 (MaeKhong)流 域 の ノ ン ハ - ン 湖(Lake
N
ong Ham)と, マ レー半 島 の タ レサ ー ブ湖 (LakeTalesaab)とが含 ま れ て い る。 こ の研 究 は稲 作 が農 業 の 中心 とな って い る タ イ国 で , か ん が い用 水 と して の河 川 水 質 を 明 か に す る こ とに重 点 を お いて進 め られ た。 しか し, そ の試 料採 集 が 同 国 内の全 地 域 にわ た って い る こ とか ら, 同国 の地 方 陸 水 学 (regionallimnology)的展 望 を試 み 得 る点 に , 大 き い陸 水 学 的 意 義 を有 す る。 陸 水 生 物 学 に お い て ,生 物 の生 活 環 境 と して の陸 水 の性 質 を 明 か に す る こ とは , 基 礎 的重 要 事 だ か らで あ る。 小 林 博 士 の 研 究 に よれ ば , タ イの 河 川 の 溶 存 固形 物 量 は 平 均 115.2mg/Jで , 口本 河 川 の平 均 値 85.3mg/J よ り濃 厚 で あ る。 河 水 に 及 ぼ す石 灰 岩 の影 轡 は タ イの方 が 日本 よ りは るか に 大 き く, 平 均 Ca19.8mg/∫,HCO382.6mg//(円本 は Ca9.5mg//, HCO332.3mg//) で あ るが , 硫 酸塩 量 は タ イの平 均 が SO43.3mg/Jで 火山に富 む 日本 河 水 の 四 分の-
-あ ま りで あ るO海 に 囲 ま れ た H本 列 島 の 陸 水 が風 送 塩 の影 響 で塩 分 (Cl) に富 み ,河 水 oj平 均 値 6.4mg/Z なの に くらべ , タイで は 4.7mg/lで あ る。 しか し, 後 者 に は コ ラー ト高 原 の よ うに岩 塩 層 の あ る地 域 に , f二1本 に は 見 られ な い濃 度 の高 い もの が あ り,乾 期 に は300mg/I 1) 1915年 に琵琶湖の動物相を研究 した。有 担 え る こ とが あ る 「植 物 牲 プ ラ ン ク トンの発 生 と深 い 関係 が あ る
燐
酸 塩 は ,小 林 博士 が し ら べ た31ヵ所 中30ヵ所 まで が PO40.00-0.01mg/∫,同 じ く珪 酸 は SiO2平 均 16.0mg/Jで あ った。 メ コ ン河 (MaeKhong)は全 長 4,200km,流 域 面 積 800,000km2,タ イ ・ラオ ス ・カ ム ポ ジ ヤ ・ ベ トナ ム等 大 陸 周縁 諸 国 に と って重 要 な河 で , そ の 開 発 計 画 が 国 際 的注 目を浴 び て い るか ら, 小 林 博士 の 研 究 も この河 を中
心 と して い る。 乾 期 と雨 期 とで著 し くそ の 水 位 を異 にす る, メ コ ン河 や メ ナ ム河 (MaeNam) の よ うな季 節 風 地 域 の 陸 水 は 陸 水生 物 学 的 に も多 くの 研 究 課 題 を提 供 す る。 大 陸 周縁 部 の 湖 沼 の水 質 を窺 知 す べ き資 料 と して , ノ ン- - ン湖 と タ レサ ー・ブ湖 との デ - タを小 林 博 士 の研 究 か ら次 表 に抄 LLIIして お く (1956-57年 , FH川1
1回 化学 分析
の平 均 値 )∩ 表 2 タイ国湖沼の水質(mg//)
〔小 林1958〕
去a Mg;NaiK ・HCO3…SO 4サ siO2率
04
"
ON3-"
:4-.1:/vN/7簡 牒 pHl
1 L l
1) 採水場所サコソナ コオン (SakonNakhon). 2) 採水場所バ ッタル ン (Patthalung).
3) 海水混入分を除き算出 C. マ レー 半島 の先 端 部 ji:I占め るマ ラヤの 陸 (演) 水生:_物 につ い て は , 予察 的 で あ るが , 鑑述 の Johnsonu)研 究 が あ る。 小 地 域 の 陸 水/-[・二物 界 の例 と して そ の 概 略 を 次 に述 べ る′- マ ラヤは全 く 赤
道
帯 に位 置 し, そ の 陣 (演 ) 水圧 斗17,]・:ま全 地 域 にわ た って 変 りは な く.-・地域 の 結 果 で 全 休 /fp: 類 推 で き る と思 わ れ 易い が , 美 は決 して そ うで は な ∴ 動 植 物 拙 ま国
内 を通 じて 同I-・で は な い 。 そ れ は地 形 , 水 の物 ]gi.・化学 的状 態 に よ る こ とは もち ろん ,気 候 の 軽 微 な 変 化 もiJ,択 lliを 及 ぼ して い ろ。 そ の うちで 第 一 に重 要 なのは 両地 ま た は丘 陵地 の 分布 で あ って , そ こは冷 い 水 キ 好 む流
水牲
種 の生 活 場 所 を提 供 す る と同 時 に,平 地 性 柿 の分 布 の 障 壁 とな って い る-例 え ば , )こ形 の淡 水巻 貝Br
o
t
i
ab
o
e
ana
は パ- ン (Pahang) な らび に 上 郡 ム アル 盆 地 (Muar) に は 移 しい が ,中
央 山地 以西 の地 域 には好 適 な生 活 場 所 が な い ら しい。 淡 水 魚 のRas
b
o
r
ae
l
e
gans
は ク- ン ・ トレ ンガ ヌー (Tahan-Trengganu) ∫/圭化で は, 明 らか な変 種 が見 られ る。 南部 マラヤ の み にそ の 分 布 が 限 られ て い ろ エ ビの
Mac
ro
b
rac
hi
um t
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とOx
ygas
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Ph-t
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とが あ るo 前 者 は シ ンガ ポ- ル 島 の 流 水 に普 通 で あ るが ,ネ グ リ ・セ ム ピ ラ ン(NegriSembilan)以 北 か らは知 られ て い な い
。
後者 は マ ラ ッカな らび に ネ ダ リ ・セ ム ピ ラ ンの稲 作地
帯 の 小 目=二しば しば 移 し く出現 す る。マ ラヤ の 大部 分 の 地 域 で は ,土 壌 が極 度 に石 灰 分 に乏 し く, これ は森 林
地/
帯
で は醸性の陸
/Jkを伴 って い る
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ジ ョホ ー ル, パ- ンな らび に ネグ リ ・セ ム ピ ラ ンに は広 い 区域 にわ た って , この 種 の 酸 性 の 褐 黒 色 水 を も った 沼沢 地 が 発達 して い る〔 この よ うな水域 は, Punt
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の よ うな ,小 魚 に富 む 。 そ の動 物群 集 をつ くって い る種類 には,広 い 分布 の もの もあ るが , この よ うな腐植 質 性 の水 域 にの み分 布 して い る もの もあ るっ紅藻
(?所 属 不確 定) の美 しいBat
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が生 育 し, 鼓 藻 の種 類 に富 ん で い る こ とは , わ が 円 本 の この種 褐 黒 色 水 に よ く似 て い る。 貝 類 を全 く欠 くこ と も同様 で ,多 数 個 体 が発 見 せ られ る の は, トンボの幼 虫や ,Mac
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の よ うな各 種 の エ ビで あ る。 森 林 rPにあ る中 流や プ ール も褐 黒 色 水 で あ り,酸 性 も強 い が ,褐黒 色 水 特 有 の小 魚
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は非 常 に少 な くな るか , 見 られ な くな る傾 向 が あ るoA
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輿 C・m第4図 A,a-h.北西 ジョホール, 褐黒色水河流の魚類 と甲殻類。 B,a-d.マラヤ急流の魚類 と エビ。 (Aa)
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〔Johnson,1957よ り集成〕 土 壌 が石 灰 分 に富 ん で い る地 方 陸 水 で は事 情 は大 い に異 る。中
部 お よび 北 部 マ ラヤの各 地 に,特異 な風 景 をつ くって い る石 灰 岩 の 露 頭地 帯 が この種 の陸 水 に富 ん で い る。 CaC03 と し て 40ppm.以上 の アル カ リ度 を示 す それ らの水域 で は , 酸 性 水 と異 って ,鼓 藻 が非 常 に少 な く,緑 藻 に富 み ,大形 水 草 が しば しば豊 富 に生 育 して い る。石 灰 分 に富 む 陸 水 で あ るか ら,貝 類 に富 む の は 当然 で あ るが ,巻 貝 の 中 には石 灰 分 の 濃度 が著 し く高 い陸 水 に限 る もの が あ る。 西 北 部 パ - ンの クア ラ ・ トレ ンガ ン附近 の ,石 灰 岩 台地 か ら流 出す る河 流 にの み産 す る カ ラスガイ
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の一 種 が あ る。 この川 の水 温 は常 に低 くて 24oCを超 え な いoマ ラヤ の流 水 動 物 相 は高 地 性 と低 地性 とにわ け られ るが , これ は水温 の ちが い に基 くもの の よ うで あ る。 両麓 の一 連 の狭 い地帯 が 低 地 性 流水 動 物 相 の見 られ る と ころで , エ ビの
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な どが ,そ の代 表 的/=圭_活 着 で あ る、- これ に反 して高 地 性 流 水 は,い わ ゆ る渓 流 で ,魚 や エ ビが い な い 代 りに, 昆 虫 の 水生幼 虫 を以 て 代 表 せ られ る こ とは , わ が 日本 のL恒 也渓 流 と変 りが な い
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第5図 a-f・KualaPilah,NegriSembilan の石灰分 に富んだ 稲田の貝類,
(a)Pilaconica, (b)タニシVivibarasumatrensis, (C)カワニナ
⊥'WeZanoidestubercuZata
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モノアラガイ LymnaealuteoZa, (e)Lymnaea1)inguis, (f) ヒラマキガイIndoPlanorbisexustus.(g)
は分布の局限 されたスジマキタニシViutPeraPoZyzonata.⊂Johnson,
1957か ら集成〕
人 間 活 動 に伴 う陸 (咲 ) 水 動 植 物 の受 け る影 響 は マ ラヤ とて例 外 で は な く, 特 に錫 鉱 山廃 水 の鉱 毒 が著 しいo そ の 他 に,他 の地 方 とは ちが った動 物 相 の壊 滅 的影 響 が あ る,J それは
い
わ ゆる熱 帯魚飼 育 の 流 行 に伴 う濫 獲 に よ り,珍 奇 な あ るい は美 麗 な小 魚 は 目に見 え て減 少 しつ つ あ る マ ラヤ の 自然 保 護 の重 点 の一 つ は こん な と ころ に もあ るわ けで あ る二一-/方,稲 作や 養 魚 の 発達
に
伴 い , 沼沢 性 動 物 , 例 えば ラ ンケ ス ター エビ (Macrobrachium lanchesteri)や , 体 側に 2個 の 黒 点 が あ る
小
畑 TrichoPodustrichoPterusな どは , 今や マ ラヤ で は最 も普 通 の淡 水動 物 に な って い る。 この他 に も, マ ラヤ 以外 の 淡 水 動 物 特 に魚 類
中
に, 移 入せ られ て土 着 し, 車には 他 の魚 類 が生 活 で き ない 水 域に もよ く繁 殖 して い る もの が あ るこ _:-ニ :三善 Cm 第6図 マラヤで最 も普通な淡水動物 とな った2種, (a)ランケ ス ター エビ Macrobrachium lanchesteri, (b)Tr7,'choPodustrichoPterus.⊂Johnson,1957コJohnson は マ ラヤ の 陸 (汰) 水動 物 の
中
に,地 域 ri吊二頗 る 多い が , そ の地 域 が 数カ
所 に限 ら れ て い るか , あ るい は局 部 的 で あ る もの の あ る こ とを指 摘 して い る。 そ の珊 由 oj紳 月は ま だ で きて い な い〔例 え ば , 多 くの縞 が あ る タニ シの ViviParaPolyzonataは シ ンガ ポー ル,島 の 普通 の養魚 地 に い るが , マ ラヤ の他 の地方 で は全 く発 ,Fiされ な い ---
61--東南 ア ジ ア熱帯 の陸水 には海 産 系 の ものが多数 棲 息 し,生 理 ・生 態 学 的 に興 味 あ る問 題 を提 供 す る。 カニ ・エ ビな どの元 来海 産 の属種 が陸水 動 物 相 の主 要要 素 を なすが , セ レベ スの 山地 湖 には- ゼ科魚類 や エ ビの種類 に富 む 。 さ らに, ス マ トラや ジ ャ ワの奥 地 の淡 水 には, ゴカイ に似 た多毛 環虫類 が い るの で著 しい。 例 えば , スマ トラの ラナ ウ湖 の湖岸 や 湖底 か らは体 長 20cm に も達 す る
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を , ジ ャワの ボ ゴール で は 別種L.hawai
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が 得 られ て い る。他 の一種Lyc
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は海岸 か ら500km.も距 った地 の湊 布 の石 下 か ら, あ るいは海抜 1,700m の高地 に生育 して い るCo
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(チ -/ナ ンシ ョウ 料) や ,野生 バ ナ ナの 葉静 間 の溜 り水 の中 か ら発 見 せ られ た。熱 帯 陸 水動 物 相 の- 特徴 と して 今後 も百三意 す る価 値 が あ るO 近 代 陸水 生 物 学 の 中心課 題 の一 つ とな って い る湖 の生産 力 につ いて は,東 南 ア ジ ア全 体 と し て は殆 ん どその研究 が未 着 手 で あ る。 国 際生 物 学研 究 計画(
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の一 環 と して, 同一方 法 (標 準 化) によ る世 界 各 地 の陸 水 の一 次 生 産 力 (植 物 性 プ ラ ン トン生 産 力) の国 際協 力 によ る測 定 が,近 く軌 道 に乗 ろ うと して い るか ら,数 年 を 出 ない うちに,東 南 ア ジア陸水 につ いて も明 ら か にな るだ ろ うと期 待 せ られ る。1928-29年 の ジ ャ ワ ・スマ トラの陸水 探検 の材 料 によ る Rutt・ nerの プ ラ ンク トンの定 量 研究 の結果 が,1952年 に 274ペー ジ に達 す る 大論 文 と して発表 せ ら れ , この ギ ャ ップを埋 め, われ われ の渇望 を宿 した。 この作業 はそれ ぞれ の湖 で各1回行 われ たの に過 ぎないか ら, あ る与 え られ た時の, いわ ゆ る ttstandingcrop" を明か に した の に と どま るが ,該 地 方 の湖 沼 の生 産 生物 学 の基 礎資 料 た る ことは疑 いが ない。Ruttner は植 物性 お よび動 物性 プ ラ ンク トン量 を測 り, それ を湖面 1cm2 下 単 位 で , mm3量 で表 わ した。14の湖 で の その値 は19.52か ら 1.46mm3 と変動 が あ り,全 湖 沼の平 均 値 は 7.6mm3で あ った。上 の 値 を順 にな らべ てみ る と, それ らの湖 沼の透 明度 や色 か ら推 測 した比 較栄 養度 の順 とよ く相応 して い る。例 えば, スマ トラの マニ ンジヤ ウ湖 (LakeManindjau)の プ ラ ンク トン量 の 1cm2 水 面下 19.52mm3 は,しらべ た湖 沼の ttstanding crop" 中の最 大値 で あ るが,これ は一般 富栄養 湖 よ りも貧栄 養 湖 に 近似 の値 で あ る。 東 ジ ャ ワの 富栄 養 湖 ラモ ンガ ン (Ranu Lamongan) の プ ラ ンク トン量 は わず か に 8.00mm3 で ,温 帯地 方 の 欧州 の アル プ ス周辺 の湖 沼で得 られ た 結果 とあま り変 らな い。 熱帯 湖 沼の生産 力 が 大 きい と思 いが ちな我 々の想 像 に反 す る結果 で あ る。一 般 に貧栄 養 湖 は水 が清 澄 で光 の透過 率 が 大 きい か ら,植 物性 プ ラ ンク トンは光 合成 活 動 に効果 的 な, よ り深 い水 層 に分布 し,光 合成 の うえ栄 養 塩類 を利 用 して植 物
性
ttstanding crop" を年ず る。富栄 養 湖 には貧栄 養 湖 に倍 す る有 効栄 養 物質 が存 す る と仮 定 す る と,後者 は,上述 の よ うに, 前 者 よ りも光 の透 過 率 が 大 きいか ら, 両 湖 の光 以外 の諸状 況 が 同一 で あ る とすれ ば , ほぼ 同一 量 の ttstanding crop" を生 ず る筈 で あ る。 今 ,水面 1cm2下 の プ ラ ンク トン量 によ らず ,プ ラ ンク トン植 物 の活 動 層 の湖 水 1/あ た りの平 均 プ ラ ンク トン含量 に よ って, 湖 沼 を類 型 化 す る と, 最 大プ ラ ンク トン量 を も った ジ ャ ワの6湖 (6.67-18.7mm3/∼) は高 度 の富栄 養 とな り, 最 少 のプ ラ ン ク トン量 を も った スマ トラの3湖 (0.44-1.96mmソ/)は 貧栄 養 で あ る. そ こで , (1)与 え られ た里 位表il沌 宣下 に
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1じた,ttstandingcrop"に よ って示 され る 湖 の プ ラ ンク トン吐 産 , (2)吐 産 氷層 内の , 水 の -f帥 'L体精 あた りの ttstanding cropHで表 わ され た湖 水 の肥 沃 度 , とは 明 か な ちが いが あ る こ と とな る。光 合 成 が行 われ るべ き水 屑 の プ ラ ンク トンの個 体 密度 は,肥 沃 度 す なわ ち湖 水の栄 養 皮 に左 右 され るの に反 し,単 位水 面下 の プ ラ ンク トン量 こそ栢 射 透過 率 の函 数 な る こ とを Ruttnerは指摘 す る。 ス ンダ諸 島の熱 帯 湖 沼 の 水面
1cm2下 の プ ラ ン ク トン量 が,温帯 地方 の 湖 沼の値 に近 似 して い る こ とは ,先 に述 べ た 通 りで あ る。 あ る与 え られ た時 の熱帯 湖 沼の "standing crop"量 が, 温帯湖
沼 とほぼ 同一 で あ る とい う, この重要 な結果は ,東西 ア ジ アの理 論 な らび に応用性 水生 斗須封 こと って , 大 きい 意義 を有 す る。 しか し,Ruttnerの成果 は , あ くまで もあ る与 え られ た時 の/L:.産 嵐 ,す なわ ち ttstanding crop"で あ って ,年 と打重量が ど うなの か は全 くわ か らな い。 これ には ,-J/王「lHrjE,'扇で 少 な くとも1
年 間 ,近 代 陸水 学 的方 法 に よ る連 続 研 究 が行われ る必 要 が あ り, そ の 日「畑 こは深い
湖 と浅 い湖 との双方 が選 ばれ , 併行 実 胞 され るの が理 想 的で あ る。 その 結 果 が 山た とき, は じめて東 南 ア ジ ア湖 沼の プ ラ ン ク トン_/生産 力が, 全面的
に我 々の 知識 を豊 か に して くれ るで あ ー7L
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4.
東 南 ア ジ ア陸 水研 究 の必 要 これ まで に記述 した と ころは ,東 南 ア ジアの陸水 /巨物 学 的研 究 の片鱗 に とどま り, 大勢 を棺
望す る こ とがで きなか ったの は遺憾 で あ る。 目下 ジ ャワの ボ ゴール には陸
水漁 業研 究 所(_Labo・ ratoryofInland Fisheries,Bogor,Indonesia)が あ り, マ ラ ッカの Batu Berendam には, 熱 帯 養 魚 研 究 所 (TheTropicalFish CultureResearch lnstitute)が あ って , 盛 ん に.活動 し て い るか ら,陸 水吐 物 学 的研 究 も道 々行わ れ る に ちが い な い。 ボ ゴール の研 究所 の K.F.Vaas お よび M.Sachlam (1955)が浅 い小養魚池 の水温 ,pTfI,0 2,C0 2等 の 「]問変 化 o)興 味 あ る研 究 を発表 して い るO マ ラ ッカの研 究 所 で は , スー ダ ンにい た G.A.Prowseが所 長 と して 移 っ て か ら,マ ラ ッカの淡 水 産 珪 藻 や鞭 毛 藻 につ いて次 々と発 表 し,1962年 の第 15回国
際陸 水学 会 議 で は熱帯 養 魚池 の陸 水学 的諸 問 題 を論 じたo それ.らuj池 は 一次佳 産 に対 す る人 きい潜在 力 を も って い る ら しい の に, 水面
近 くの プ ラ ンク トンに よ る遮 光 の影 響 の ため ,実 際 の一 次 年産 が 著 しく減 少 す る こ とを指摘 して い るO そ して ,養魚 の 改善 には陸 水吐 物学 的 な基 礎 原理 の必 要 を説 いて い るO両 研 究 所 と も淡 水 養殖 を そ の研究 の 目標 と して い るの は 当然 で あ るが , それ ぞ れ の国 の陸水 な らび に陸 水吐 物 につ いて も, その研究 の 手が の び る こ とを期 待 して や ま ないo 現 在 ,東 南 ア ジ アで どの よ うに陸 水 が研 究 せ られ , あ るい は陸水 研 究 が計 画せ られ て い るか を ,本 間 なわ た く Lは よ く知 らな い-I 1958年 12月 に, シ ンガ ポール で開 か れ た, Darwin,Wallaceの進 化 論 発表百 年 ,Linnaeusの ttSystema Natuae" 10版 刊 行二 百 年 の 記念学 会 が
--催 され た際 ,淡水 生 態学 部会 で5題 の研 究発表 が行 われ た。 いず れ も興 味 あ る内容 で あ った と 思 わ れ るが, そ の全 部 が陸 水生物学 の最 近 の傾 向 を反 映 した もので はない。 多 くの陸水生 物研 究 者 を柳 して い るわ が 日本 が
,
陸水研 究 隊 を送 って,近 代 的研 究方 法 で現地 の研 究者 達 に協 力 す る こ とは,国 際 的 にす こぶ る意義 が大 きい といわね ば な らない。 も しこの よ うな企 画 が幸 い に も実 現 す る暁 には まず何 を なすべ きか は, わ た くLが本文 の各所 に断 片 的 に触 れ たの に よ っ て明 らかで あ ろ うが , なお重 複 を い とわず二 三 の私見 を次 につ け加 え よ うo (1) まず ,選 ばれ た地域 の陸水 塗物 の徹 底 的 な採 集 と精確 な同定 とによ り,如何 な る動 植 物 が いて , どの よ うに分 布 して い るか を明か にす る ことO これ まで よ く研 究 され て い なか った動 植 物群 につ いて は,特 に精査 す る こ と。 (2) 睦水生 物群 集 の種類 を明か にす るため に,種 々の異 った地域 の異 った水域 に注 意 し, そ れ らの水域 の生 物群 集 が何 種 の生 物 によ って, どの よ うに構成 され て い るか を明か にす る こと。 (3) 選 ん だ若 干 の生 物群 集 につ いて定 量 的 な調査 を行 うこと。 (4) 年 活環境 な る陸水 の性 質 を 明か にす るた め,実 行 しうる範 囲で物理 ・化学 的 な観 測 を実 施 す る こと。 最 後 に東 南 アジ ア陸 水 の 自然保 護 につ いて述 べ たい。 これ はそれ ぞれ の国 自身 の問題 で はあ るが,美 しい 自然 状 態 が失 われ るか も知 れ ない とい う懸 念 は,陸 水研究者 が等 し く持 って い る ことだか らで あ る。 これ には やが て国際 的 な視 野 か ら保護 の勧告 が行 われ るよ うにな るで あ ろ うが , も し, わが陸 水研 究 隊 が送 られ るよ うな気運 になれ ば ,隊 員は この点 に留 意 して観 察 に つ とめて くる ことが望 ま しい。他 国人 の眼 に映 じた 自然景 観 の 印象 が,保 護 区域 の選定 に大 い に参 考 にな る と思われ るか らで あ る。 わ た くLは東 南 アジ アの 自然保 護 につ いて は 殆 ん ど無 知 で あ るが, タイ田 に保護協 会 (The Association for the Conservation ofWild Life of Thailand)がで きて いて盛 ん に活動 して い る ことを知 って い る。 その原 名 TheNiyom Phrai Associationな る この協 会 は 各種 の 催 しの ほか, 季 刊 の Conservation Newsfrom Thailandを発行 し,保 護知識 の普及 につ とめて い る。 タイ国立 公 園設 置の運動 を
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年 に開始 し,国立 公 園法 の草案 が1
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年 に完 了 し,1
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年1
月 国会 で承 認 せ られ た。 国立 公 園 に予 定 され て い る 9ヵ所 の 中 には,爆 布 や渓 流 に富 み陸 水生 物学上 興 味 に富 む 区域 も含 まれ て い るo マ レー半 島 の東側 で は KuaoLuang地域 が国立 公 園 の一 にな って い る。*
この小 文 は京都 大学教授 吉 井良三 博士 の お勧 め に従 ってつ くった もの で , この機 会 が与 え ら れ な けれ ば ,わ た くLは 筆 を執 る に 至 らなか った にちが いない。 末 尾 なが ら吉 井教授 に深 謝 の意 を表 す る。主 な 参 照 文 献
(本文申に 出 た もの も必 ず しも掲 出せ ず , 自由 な選 択 に よ る)
Annandale,T.N.-Preliminary reporton the fauna of the Ta16 Sap orinland seaof Singgora.∫.Nat.His
t
.Soc.Siam,2,90-102,1916.Annandale,T.N.
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ial.-FaunaofthelnleLake.Rec.‥nd.Mus.,14,ト212,1918. Brehm,Ⅴ.-Bemerkungenzu den tiergeographischen Verhaltnissen derindischen Stiss-wasser-Calanoiden.Oesterreich.Zool.Zeitschr.,4,402-418,1953.
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3
8
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小林 純 一 東南ア ジ ア諸 匡Iの河 川の 化学 的研 究 , タイ国 の 水質 につ い て
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吉 村 倍吉 一
東亜
の 陸 水 .『太 平 洋 の海 洋 と陸水』,525-754,岩 波 ,東 京,1943.Summar
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Themostdetailedlimnologicalknowledge was obtained bythe German LimnologicalSundaExpedition,1928-29,whichwasundertakenbyThienemannandRutt -nerin theislandsofSumatra,JavaandBali. In countriesboth insular and continental otherthan those islands,despite the work of many biologists and limnologists our knowledgeisstill inadequateeven forthetaxonomy and biogeographyofanimals and plantsin inlandwaters. Detailedknowledgeislacking with regardtothe composition and structureofvarious biotic communitiesin inland watersaswell asthe physi_Cal andchemicalnatureofthosewatersasenvironmentsforaquaticlife.Concerning the zoogeography of inland watersin SoutheastAsia,thewriterhas referredtoBrehm'Swork on thefreshwater Calanoidaasan example. Theoccurrence of
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in the subterran・ean waterofMalayaisstriking,because thisistheonlyrecordofthis group ofCrustaceaofthe archaic type outside Europe andJapan. Kobayashi's chemicalinvestigationsofthe river watersofThailand area mostimportantcontribution to regional limnology in Asia. His work wasdoneat30 Stationswhich coveralltheriver systems throughoutthecountry,including twolakes,LakesNong Ham andTalesaab.Thebioticcommunitiesofvarioustypesofinlandwaters havebeen fairlywelldealtwithbyJohnson in Malaya:these are noteworthyforthe inhabitantsfoundin peatyblack waters,inwatersrichin lime,and in torrentsatboth low andhighlevels.Theeffectsofhuman activitiesuponinlandwateranimaland plant lifearealsoremarkablein manypartsofMa一aya.
Production biological studies,which areoneofthe important research projectsin presenトdaylimnology,havebeen almost neglected in SoutheastAsia. In such asit ua-tion,Ruttner'splankton studiesin thelakesofIndonesia(publishedin1953)isespecially importan
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Hehas shown thatthevolumeofthe standing cropofplankton produced atanygiven momentbelow agiven surfaceunitofatropicallakeisnearly thesame asthatofatemperatelake.For biologists and limnologists who have had experience of studies only in the temperatezone,tropical inland waters are extremely attractiveasthey offer great opportunitiesforthestudyofmany importantbiologicalphenomena.