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すれ違い通信を利用した大規模イベントにおける人動線推定方式の提案

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(1)Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. すれ違い通信を利用した 大規模イベントにおける人動線推定方式の提案 北上眞二†1 荻野正†2 大岸智彦†3. 宮西洋太郎†4. 浦野義頼†1 白鳥則郎†1. 概要:大規模なイベント会場やテーマパークにおいて,来場者の動線情報はマーケティング情報として有用であるだ けではなく,緊急時の避難指示や会場レイアウト変更のための基礎データとしての活用が期待できるため,その推定 方式として GPS 測位法や環境測位法など,様々な研究がなされてきた.しかしながら,これらの方式は,屋外での利 用に限定されたり環境側に測位機器を設置するためのコストがかかったりするという課題があった.本稿では,大規 模イベント会場において,来場者の移動距離を計測する「歩数計」と近接通信ネットワークにより来場者間で情報を 交換する「すれ違い通信」を組み合わせることにより,来場者の動線推定を行う「すれ違い人動線推定方式」を提案 する.提案方式は,来場者の移動範囲を表す「最大移動円」という概念を導入し,すれ違った来場者の最大移動円の 関係を元に来場者の位置を推定する.また,来場者の遭遇が少ない場所に「位置補正アンカー」を配置することによ り,累積される動線推定の誤差を補正する.提案方式に基づいて,大規模イベント会場を想定した人動線推定シミュ レーションを行った結果,屋内外を問わず GPS 測位法と同程度の精度で人動線推定が可能であることが分かった. キーワード:大規模イベント会場,人動線推定,すれ違い通信,GPS 測位法,環境測位法,歩行者自律測位法. が分かった.これは,GPS 測位法と同程度の精度であるが,. 1. はじめに. 位置補正アンカーの配置位置や数を調整することにより,. 大規イベント会場やテーマパークにおいて,来場者の動 線情報は,マーケティング情報として有用であるだけでは なく,緊急時の避難指示や会場レイアウト変更のための基 礎データとしての活用が期待できる[1].人の動線推定方式 については,GPS 測位法や環境測位法,歩行者自律測位法. さらなる精度向上が期待できる.. 2. 大規模イベント会場における来場者の動線 推定 2.1. 人の動線推定法. (PDR 法)など,様々な研究がなされてきた.しかしながら,. 人の動線推定方式については,従来から GPS 測位法,環. これらの方式は,屋外での利用に限定されたり環境側に測. 境測位法および歩行者自律測位法(PDR 法)など,様々な研. 位機器を設置するためのコストがかかったりするという課. 究がなされてきた[5][7][9].また,これらの方式を組み合. 題があった[2][3][4].. わせる方式の研究もなされている[5].. 本稿では,大規模イベント会場への適用を想定し,来場. 2.1.1 GPS 測位法. 者の移動距離を計測する「歩数計」と,すれ違った時に近. GPS 測位法は,GPS 衛星から受信した軌道情報を元に動. 接通信ネットワークにより来場者間で情報を交換する「す. 線推定を行う方式である[5].近年,GPS チップの低価格化. れ違い通信」を組み合わせることにより,来場者の動線を. が進み入手しやすくなったことから,その応用が進んでい. 推定する「すれ違い人動線推定方式」を提案する.提案方. る.また,多くのスマートフォンにも GPS 機能が標準搭載. 式では,来場者の遭遇位置は,前回他の来場者と遭遇した. されており,その機能を活用した動線推定アプリも利用さ. 位置を中心,そこからの移動距離を半径とする「最大移動. れている.しかしながら,GPS 測位法は,GPS 衛星からの. 円」が交わった領域内にあるという点に着目し,来場者が. 情報が受信できる屋外での利用に限定される.また,屋外. 遭遇するタイミングで来場者の動線を推定する.また,移. においても,建物などの障害物により測位位置がずれるこ. 動せず最大移動円が固定となる「位置補正アンカー」を来. とが知られており,この誤差を補正するための研究もなさ. 場者の遭遇が少ない場所に配置することにより,累積され. れている[6].. る動線推定の誤差を補正する.. 2.1.2 環境測位法. 提案方式に基づいて人動線推定シミュレーションを行 2. 環境測位法は,Bluetooth や Wi-Fi などの電波強度や到達. った結果,来場者が 500 名のイベント会場(広さ 100m ). 時間の情報を利用して動線推定を行う方式である[7].この. において,20 個の位置補正アンカーを配置することにより,. 方式は,屋内外を問わず利用できるが,環境側に測位機器. 提案方式による動線推定の平均誤差が 8m 以下となること. を設置しなければならず,大規模イベント会場への適用に おいては,その設置やメンテナンスにコストがかかるとい. †1 早稲田大学 Waseda University †2 明星大学 Meisei University †3 KDDI 総合研究所 KDDI Research, Inc. †4 株式会社アイエスイーエム ISEM Inc.. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. う課題がある.また,地磁気を利用した環境測位法の研究 もなされている[8].この方式は,環境側に測位機器を設置 する必要がないが,あらかじめ地磁気データと物理的な位 置を対応させるためのデータベースの準備が必要となる.. 1.

(2) Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 2.1.3 歩行者自律測位法(PDR 法). は,屋外と屋内が混在する大規模なイベント会場での利用. 歩行者自律測位法は,歩行者が持つデバイスの加速度セ. を想定し,低コストで来場者の動線を把握するための「す. ンサやジャイロセンサなどからの情報を用いて動線推定を. れ違い人動線推定方式」を提案する.本方式は,大規模イ. 行う方式である[9].この方式は,屋内外を問わず利用でき. ベント会場では,来場者がすれ違うことが多いという点に. ると共に環境側への測位装置の設置が不要となるが,セン. 着目した方式である.. サデータの誤差の影響が受けやすかったり,移動距離を求. 3.1 基本的な考え方. める際に誤差が累積したりするという課題がある.これら. 図1(a)において,来場者 M1 が位置 P1(1)から P1(2)に移. の課題に対しては,機械学習を用いて精度を高める研究が. 動したとすると,P1(2)は P1(1)を中心とし M1 の移動距離. なされている[10].. d1(1)を半径とする円 C1(1) の内部にあると推定できる.本. 2.2 大規模イベントにおける人動線推定の要件. 稿では,この円を「最大移動円」と呼ぶ.来場者が直線的. 第 1 章で述べたように,大規模なイベント会場やテーマ. に移動した場合は,移動後の位置 P1(2)は,最大移動円の円. パークにおいて,来場者の動線推定はマーケティングや緊. 周上になる.同様に,図 1(b)において,来場者 M2 が P2(1). 急時の避難指示,会場レイアウト変更などのために有用で. から P2(2)に移動し,P1(2)にいる来場者 M1 と遭遇したと. ある.本稿では,大規イベント会場における来場者の動線. すると,P1(2)と P2(2)は M1 の最大移動円 C1(1)と M2 の最. 推定の要件を下記のように設定した.. 大移動円 C2(1)が交わった領域内にあると推定できる.次 に,図 1(c)において,来場者 M1 が位置 P1(3)で来場者 M3. 〔要件1〕 屋外会場と屋内会場の間でシームレスに利用 できること. 〔要件2〕 期間限定のイベントにも対応するため,動線推 定のための設備の設置を最小限にすること. 〔要件3〕 来場者が持つデバイスは,低コストで実装でき,. と遭遇すると,P1(2)を新たな中心とし P1(3)までの移動距 離 d1(2)を半径とする最大移動円 C1(2)と M3 の最大移動円 C3(1)が交わった領域内に P1(3)があることが推定できる. 以上により,来場者の最初の位置が既知であれば,来場 者が遭遇する度に,それぞれの最大移動円の中心(直前に. 低電力で動作すること. GPS 測位法は,〔要件2〕を満足するが,屋外会場のみ で利用となるため〔要件1〕が満足しない.また,高頻度 で GPS 情報を受信すると,来場者が持つデバイスのバッテ リ容量が問題となり〔要件3〕を満足させることができな い.環境測位法は,屋内外を問わず利用できるため〔要件 1〕を満足するが,環境側に測位機器を設置しなければな らないため〔要件2〕を満足させることができない.歩行 者自律測位法は, 〔要件1〕と〔要件2〕を満足させること ができるが,歩行者が高精度な加速度センサやジャイロセ ンサを搭載したデバイスを保持する必要があり〔要件3〕 を満足しない.このように,従来方式は,大規模イベント 会場における来場者の動線推定の要件をすべて同時に満足 させることができない.. 図 1. 最大移動円と来場者の遭遇. また,イベント会場において来場者の動線推定を行う際 は,来場者の匿名性が担保されなければならない.これは, システムの運用のみで担保するのではなく,動線推定方式 に匿名性を担保する仕組みが組み込まれている必要がある. なお,本稿では,マーケティングや緊急時の避難指示,会 場レイアウト変更などに利用することを想定しているため, 来場者の正確な動線は必要とせず,来場者の流れや密集度 が把握できる程度の精度が得られればよいものとした.. 3. すれ違い人動線推定方式 第 2 章で述べたように,従来からの人の動線推定方式は, それぞれに利用場所やコスト等の制約条件がある.本稿で. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 図 2. 人遭遇時の最大移動円の関係. 2.

(3) Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 他の来場者と遭遇した位置)と半径(直前に他の来場者と. 3.3 位置補正. 遭遇した位置からの移動距離)を交換することにより,遭. 提案方式は,来場者と遭遇した位置からの移動距離をもと. 遇した位置を含む領域を求めることができる.つまり,図. に次の遭遇位置を推定する.そのため,来場者が移動する. 3において,来場者 M1 は P1(1),P1(2),P1(3)の順に移動. につれて,その誤差が累積すると考えられる.そこで,本. したと推定できる.. 提案方式では,イベント会場に最大移動円が固定の「位置. 3.2 人遭遇時の最大移動円の関係. 補正アンカー」を配置する.この位置補正アンカーは移動. 来場者が遭遇した時の,それぞれの最大移動円の関係は, 図 2 に示すように 5 つのパターンが考えられる.. しないため,常に最大移動円の中心は正確な位置となり半 径は固定となる.本提案方式では,来場者と遭遇する回数 が少ないと最大移動円の範囲が広くなり誤差が大きくなる. (1) 一点遭遇(図 2(a)). ため,来場者の遭遇が少ない場所(たとえば,イベント会. 最大移動円が円周上の 1 点で接する.この場合は,. 場の周辺部分など)に位置補正アンカーを配置する.なお,. その接点を来場者の遭遇位置とする.. 来場者の位置を補正するために,すべての来場者が位置補. (2) 領域遭遇(図 2(b)). 正アンカーと遭遇する必要はなく,位置補正アンカーによ. 最大移動円が円周上の 2 点で接する.この場合は,. って位置を補正された来場者と遭遇することで,アンカー. 最大移動円が重なりあった領域内で来場者が遭遇. に遭遇しなかった来場者の位置も補正される.つまり,す. しているが,その正確な位置は分からない.そこで,. れ違い通信によって位置補正情報が伝搬される.. 本提案方式では,領域の中心(2 つの接点を通る直. 3.4 システム構成. 線と 2 つの円の中心を通る直線の交点)を,来場者 の遭遇位置とする. (3) 不接点遭遇(図 2(c)). 図 3 に,提案方式のシステム構成を示す.提案方式のシ ステムは,来場者が持つ「動線推定デバイス」と動線推定 結果を収集するための「管理サーバ」から構成される.動. 来場者は遭遇したが,それぞれの最大移動円が接し. 線推定デバイスは,それを持つ来場者の移動距離を測定す. ない.この場合は,直前の遭遇位置(それぞれの最. るための「歩数計」,遭遇した他の来場者と最大移動円の情. 大移動円の中心)に誤差があったものと考え,それ. 報(中心位置と半径)を交換するための「すれ違い通信部」,. ぞれの最大移動円の中止を結ぶ線分の中点を,来場. 推定した位置データを管理サーバに送信するための「ネッ. 者の遭遇位置とする.. トワーク通信部」および提案方式により最大移動円の情報. (4) 内包遭遇(図 2(d)および図 2(e)) 最大移動円が内包関係にある.内包遭遇は,遭遇. から現在位置を推定する「動線推定アルゴリズム部」から 構成される.. 相手の最大移動円を自分の最大遭遇円が内包する. 歩数計から移動距離を得るためには来場者の歩幅デー. 場合(内包遭遇 A)と,遭遇相手の最大移動円が自. タが必要になるが,これはあらかじめ登録した来場者の身. 分の最大遭遇円を内包する場合(内包遭遇 B)があ. 長から推定するものとする.提案方式では,すれ違い通信. る.内包遭遇となった場合は,内包される最大移動. プロトコルとして BLE(Bluetooth Low Energy)を採用するも. 円の半径が閾値より短い場合のみ,内包円の中心で. のとしているが,近接通信プロトコルであればその種類は. 遭遇したものとする.. 問わない.管理サーバへのデータ送信は,イベント会場に. なお,来場者が接近したままで並行移動した場合は,正. あわせて,Wi-Fi や 3G/LTE などの無線ネットワークを利用. しい動線推定ができないと考えられるため,遭遇した相手. するものとする.なお,提案方式は,加速度センサや BLE. が前回遭遇した来場者と同一の場合は,遭遇しなかったも. が利用可能なスマートフォンのアプリとして実装すること. のとみなす.. も可能である.. 4. 評価 提案方式の動線推定精度を評価するために,イベント会 場の来場者移動を模擬し,その動線を推定するシミュレー ションを行った.本シミュレーションでは,イベント会場 は 100m×100m の矩形領域とし,その領域内を来場者がラ ンダムに移動するものとした.来場者は,10m 単位のラン ダムに設定された目標位置に向かって 1m を移動単位とし て移動する.来場者が目標位置に到達した時は,新たな目 標位置を 10m 単位でランダムに設定する.ただし,市街地 図 3. システム構成 ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. における人の移動とは異なり,イベント会場の来場者は目. 3.

(4) Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 標位置に直行せず徘徊しながら移動する場合が多いことを. の来場者数における平均誤差を平準化(平準化幅 0.1)し. 考慮して,今回のシミュレーションでは 10%確率で目標位. たグラフである.また,表 1 に,それぞれの来場者数につ. 置とは異なる方向に移動し,10%確率でその場に停止する. いて,平均密度(人/m2),平均遭遇間隔(m),および 500~600. ものとした.また,来場者の接近距離が 3m 以内となった. ステップの範囲における誤差の平均と標準偏差を示す.. 場合に,その2者は遭遇したものとしお互いの最大移動円. 図 4,図 5 および表 1 に示すように,来場者数が異なっ. の情報を交換するものとした.なお,本シミュレーション. ても平均誤差には大きな差異がみられなかったが,来場者. は R 言語を用いて実施した.. が少ないと平均誤差のばらつきが大きい.一方,来場者が. 4.1 来場者数の影響. 増えるにつれて,平均誤差のばらつきは小さくなった.な. 図 4 に,来場者数が 100 名,200 名,500 名および 1,000. お,来場者数が少ない場合は平均遭遇間隔は長くなるため,. 名について,位置補正アンカーを配置しない場合のシミュ. 動線推定が行える回数が少なくなる.. レーション結果を示す.同図において,横軸は 1m 単位の. 4.2 位置補正アンカー配置の効果. 来場者の移動ステップ,縦軸は提案方式の平均誤差(m)であ. 図 6 に,来場者数を 500 名に固定して,イベント会場に. る.ここで,来場者の正確な位置と提案方式による推定位. 位置補正アンカーを 8 個,20 個および 52 個配置した場合. 置とのユークリッド距離を誤差とした.図 5 は,それぞれ. のシミュレーション結果を示す.図 8 に位置補正アンカー. 図 4. 動線推定の平均誤差の分布(来場者数). 図 6 動線推定の平均誤差の分布 (位置補正アンカー数). 図 5 動線推定の平均誤差の比較(来場者数). 図 7 動線推定の平均誤差の比較(アンカー数). 表 1. シミュレーション結果(来場者数) 来場 者数 100 200 500 1,000. 密度 (人/m2) 0.10 0.14 0.22 0.32. 平均遭遇 間隔(m) 25.6 13.5 5.9 3.2. 誤差の平均 (*1) 28.8 27.5 25.0 24.2. 誤差の標準 偏差(*1) 11.6 6.6 2.3 1.8. (*1)移動ステップ 500~600m の値. 表 2. シミュレーション結果(アンカー数) アンカー数 0 8 20 52. 誤差の平均 (*1) 25.0 15.7 7.6 5.1. 誤差の標準偏差 (*1) 2.3 1.3 0.6 0.4. (*1)移動ステップ 500~600m の値. . ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 4.

(5) Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report の配置位置を示す.なお,位置補正アンカーは,来場者が ランダム移動する際の目標位置の候補(10m 間隔の格子点) となる地点には配置しないようにした.図 7 は,それぞれ の位置補正アンカー数における平均誤差をとして平準化 (平準化幅 0.1)したグラフである(位置補正アンカーな しを含む).また,表 2 に,それぞれの位置補正アンカーの. (a) アンカー数:8. (b) アンカー数:20. (c)アンカー数:52. 図 8. 位置補正アンカーの配置位置. 配置数について,500~600 ステップの範囲における誤差の 平均と標準偏差を示す. 図 6,図 7 および表 3 に示すように,位置補正アンカー を配置することで,誤差の累積は回避できると同時に,平 均誤差のばらつきが更に小さくなることが分かった.具体 的には,アンカー数が 20 個の場合の平均誤差は 7.6m,標 準偏差は 0.6 となった. 4.3 矩形移動の動線推定 図 9 および図 10 に,来場者数を 500 名とし 1 名の来場者 が矩形線上を 2 周移動した場合の動線の推定結果を示す. ここで,その来場者は位置補正アンカーに直接遭遇しない. (a) 位置補正アンカーなし. ように移動するようにし,他の来場者はランダムに移動す るものとした.同図(a)は位置補正アンカーを配置しない場 合,同図(b)は位置補正アンカーを 20 個配置した場合の動 線推定の結果ある.図 9 および図 10 に示すとおり,1 週目 (移動ステップ 240m まで)は,平均誤差に大きな差異は なかったが,位置補正アンカーを設置しない場合の 2 週目 で平均誤差が大きくなった.一方,位置補正アンカーを設 置した場合は,動線推定の誤差は累積せず,平均誤差 15m 程度を維持しなから動線が推定できていることが分かる.. 5. 考察. (b) 位置補正アンカー26 個 図 9. 矩形移動時の動線推定. 5.1 動線推定の精度に対する考察 第 4 章で示した人動線推定シミュレーションの結果によ り,提案方式は GPS 測位法と同程度の精度が得られるため, 大規模イベント会場における来場者の流れや密集度の把握 への活用が可能と考える. 提案方式の精度は,最大移動円が重なった領域の面積と 相関関係があり,その面積が狭いほど精度が良くなる.こ れは,他の来場者との遭遇間隔が短い方がよいことを意味 する.しかしながら,図 5 に示す通り,来場者数が 500 名 と 1,000 名の場合とでは,動線推定の誤差には差異がみら れなかった.これは,1,000 名の場合の平均遭遇間隔が 3.2m となり来場者の遭遇距離 3.0m に近くなったためと考えら れる.つまり,提案方式の精度上限は来場者の遭遇距離に. 図 10 矩形移動時の動線推定の誤差比較. 依存するため,遭遇距離を短くする方が精度がよくなるこ. 場者が移動目的位置に直線的に移動しないため,来場者の. とを意味する.なお,提案方式では,来場者が遭遇するタ. 遭遇パターンが,領域遭遇(図 2(b))や内包遭遇(図 2(d)). イミングで動線推定を行うため,次に遭遇するまでの間の. になるケースが多くなったためと考えられる.動線推定の. 位置は推定できない.このため,動線推定の誤差は同等で. 誤差累積については,図 7 に示すようにイベント会場に位. あっても,平均遭遇間隔が短い方が精度がよいといえる.. 置補正アンカーを配置することで補正することができる.. 一方で,来場者の数が増えた場合であっても,来場者が. また,提案方式はすれ違い通信によって位置補正情報を伝. 移動するにつれて動線推定の誤差が累積した.これは,来. 播させることができるため,すべての来場者が遭遇するよ. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 5.

(6) Vol.2017-GN-100 No.12 Vol.2017-CDS-18 No.12 Vol.2017-DCC-15 No.12 2017/1/20. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report うに位置補正アンカーを配置する必要はない.提案方式は. 信を用いた登山者位置推定方式を提案している.この方式. 来場者の遭遇間隔が長くなると誤差が大きくなるため,来. は,2 点間を相互に移動する登山者がすれ違った場所によ. 場者の遭遇が少ない場所に位置補正アンカーを配置するこ. って,遭難時の捜索範囲を限定することを目的としており,. とが望ましい.. 登山者の動線を推定することを目的としていない.. 5.2 提案方式の有用性に対する考察 提案方式は,3.4 で述べた動線推定デバイスを来場者に. 7. まとめ. 持たせるだけでよく,屋内外を問わず利用することができ. 大規模イベント会場における来場者の動線推定のため. るため,2.2 で述べた大規模イベントにおける人動線推定. の「すれ違い動線推定方式」を提案した.また,提案方式. の要件〔要件1〕を満足する.また,提案方式は,環境側. に基づく人動線推定シミュレーションを実施し,提案方式. に測位装置を配置する必要がないため, 〔要件2〕を満足す. が GPS 測位法と同程度の精度が得られることを示した.今. る.さらに,提案方式の動線推定デバイスは,基本的には. 後は,提案方式に基づく動線推定デバイスのプロトタイプ. 歩数計とすれ違い通信のみを用いるため〔要件3〕を満足. を用いて実際のイベント会場への適用性を評価するととも. する.なお,リアルタイムに来場者の動線を推定する必要. に,その精度向上のための研究を進める予定である.. がない場合は,管理サーバとの通信は不要である. 本提案方式は,遭遇した他の来場者とは最大移動円の情 報のみを交換し個人を特定する情報を交換しないため,そ. 参考文献 [1]. 本間謙也,間所洋和,佐藤和人:「動線解析によるイベント 会場での行動パターン分類」,電子情報通信学会論文誌,情 報・システム J95-D(10), pp.1848-1858 (2012). [2]. 藤井彩恵, 内山彰, 梅津高朗, 山口弘純, 東野輝夫:「無線端 末の遭遇履歴情報を用いた移動軌跡推定手法の提案」,情報 処理学会論文誌,Vol. 49, No. 10, pp. 3601-3611 (2008). [3]. 北上眞二,荻野正,宮西洋太郎,浦野義頼,白鳥則郎:「大 規模イベント会場における人の動線分析に関する一考察」, 情報処理学会全国大会講演論文集,Vol. 78 No. 2 pp.2.11-3.12 (2016). [4]. 山口貴広 , 高見一正:「端末間の協調連携による地下街で の位置推定法」,電子情報通信学会技術研究報告, 情報ネ ットワーク, Vol. 112,No.464, pp. 335-340 (2013). [5]. 興梠正克,蔵田武志:「組み込み型 GPS・自蔵式センサシス テムによる屋内外歩行者ナビ」,電子情報通信学会技術研究 報告,PRMU2006-33,pp.75-80 (2006). [6]. 荻野正,北上眞二,宮西洋太郎,浦野義頼,白鳥則郎:「す れ違い通信を用いた GPS の精度向上手法に関する一考察」, 情報処理学会全国大会講演論文集,Vol. 78 No. 2 pp.2.13-3.14 (2016). [7]. R. Nagpal, H. Shrobe, and J. Bachrach,"Organizing a global coordinate system from local information on an ad hoc sensor network", Proceedings of the 2nd international conference on Information processing in sensor networks, pp. 333-348 (2003). [8]. 波多野健太,久保田幸一: 「地磁気による屋内測位システム」, 情報処理学会第 77 回全国大会 2W-01 (2015). [9]. 大竹久美子,蒔苗耕司:「自律型測位を用いた歩行者経路案 内システムの構築」,地理情報システム学会講演論文集,vol. 13,pp. 419-422 (2004). れぞれの来場者の匿名性は担保される. 5.3 今後の課題 提案方式は,すれ違い通信により来場者間で最大移動円 の情報を交換する.そのため,すれ違い時間内にすれ違い 通信による情報交換を完了させる必要がある.一方,提案 方式はすれ違い通信距離が短いと動線推定の誤差は小さく なるが,その分だけすれ違い時間が短くなる.したがって, 提案方式に基づく動線推定デバイスを実装する際は,この 条件を満たすように,すれ違い通信方式のチューニングが 必要となる. 動線推定の精度については,時間的要素(たとえば,他 の来場者と遭遇する時間間隔など)を取り入れることで, さらに精度を向上させることが可能になるものと考える. また,他の動線推定法と組み合わせることにより,動線推 定の精度を向上させることも可能である.たとえば,歩行 者自律測位法と組み合わせることにより来場者の移動方向 が分かれば, 「最大移動円」は「最大移動扇型」となり,動 線推定の精度を向上させることができるものと考える.. 6. 関連研究 人の動線推定へのすれ違い通信の適用については,これ までにも幾つかの研究がなされている.藤井ら[2][11]は, 無線による人の動線推定や位置基準ノードを使った人の動 線推定において,すれ違い通信による情報交換により推定 精度を向上させる方式を提案している.これに対して,本 稿による提案方式は,すれ違い通信のみによる動線推定方 式の確立を目的としている.山口ら[12]は,地下街におけ る人の動線推定において,店舗や通行人の位置を交換する 方式を提案している.この方式は複数の店舗や通行人から 位置情報のみを取得して推定位置としているのに対して, 本稿の提案方式は, 人の移動距離と 1 対 1 のすれ違い通. [10] 梶航士,岡田将吾,新田克己:「歩行者自律測位のための機 械学習を用いた動線推定」,人工知能学会全国大会論文集, Vol.27, pp.1-4 (2013) [11] 藤井彩恵, 内山彰, 前田久美子, 梅津高朗, 山口弘純, 東野 輝夫 : 「少数の基準位置情報を移動無線端末間で補完する 位置推定手法の提案と評価」, 情報処理学会論文誌, Vol.48, No.12, pp.3977-3986 (2007) [12] 山口貴広 , 高見一正:「端末間の協調連携による地下街で の位置推定法」,電子情報通信学会技術研究報告,情報ネッ トワーク, Vol. 112,No.464, pp. 335-340 (2013) [13] 野坂俊介, 岸野寛史, 奥田唯, 北村泰彦:「すれ違い通信を 用いた登山者位置推定方式」,電子情報通信学会総合大会講 演論文集,情報・システム, Vol. 1, No.97 (2013). 信を利用して動線を推定する.野坂ら[13]は,すれ違い通. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 6.

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