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子どものためのワークショップのデザイン

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Academic year: 2021

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(1)76. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 若林尚樹 Wakabayashi Naoki 札幌市立大学. 子どものためのワークショップのデザイン Workshop design for children. Sapporo City University. 1.はじめに 「こどものためのデザイン」を意識して研究に取り組むようになったのは、 神奈川県藤沢市の江ノ島近くにある水族館が2004年にリニューアルオープン する際、そこに展示するコンテンツを共同で開発したことからであった。目 の前に広がる相模湾をテーマに浅瀬から海底までの環境を再現しさまざまな 魚が泳ぐ大水槽は、この水族館の特徴的な展示の一つである。それまでは. Web3D の技術による魚が泳ぐ水中世界を再現したインタラクティブコンテ. ンツを開発していたが、その技術を応用してこの水族館のためのシミュレー ションコンテンツ「aqua surf」(図1)の開発をすることになった。相模湾. 大水槽内部の環境や地形とそこで泳ぐ魚の様子を Web3D で再現したコンテ. ンツで、水槽の中に泳ぐ様々な魚の名前や特徴を調べたり、水槽の中を自由 に動き回ることで、まるで自分が水槽の中にいるような体験ができるもので ある。これは2005年から同館内にあるなぎさの体験学習館に設置され、ここ を訪れた多くの子どもたちが利用してくれた。しかし、その様子を見ている とゲームのようにこのシミュレーションコンテンツを楽しんでいるだけで、 実際の相模湾大水槽への興味や関心へとなかなかつながっていかないことが 明らかになった。そこで、このコンテンツをゲームとしての興味ではなく、 海の生物に対する興味や関心へとつなぐために子ども向けの体験型イベント をなぎさの体験学習館とともに企画し、2005年12月にわたしたちとしてはじ めてのワークショップ「さかなのカ・タ・チ」を実施した。これがワーク ショップをテーマにした「こどものためのデザイン」のはじまりであった。. 2.ワークショップとは 図1 Web3D コンテンツ「aqua surf」画面例. ワークショップは、問題解決やトレーニングの手法、学びや創造のための 手法としてなどさまざまな分野で行われている。参加者が自ら参加・体験 し、グループの相互作用の中で何かを学びあったり創り出したりする、双方 向的な学びと創造のスタイルとして定義されている。すなわち、個人的な体 験とともに、いっしょに参加する他者との関わりといった社会的な環境の中 で何かを作ったりすることで表現したり、ワークショップというプログラム の中での体験に参加することで、他者との対話の中から自分の考えについて のさまざまな視点を学ぶといった、ダイナミックなプロセスがワークショッ プの特徴となっている。中野によると、ワークショップは「創造する」─ 「学ぶ」による軸と、「個人的」─「社会的」の軸によって、図2のように分.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 類される[注1]。動物園や水族館などの展示施設では、生物への興味や関 心をきっかけにして「4.自然・環境系」を目的としたワークショップを中 心に、「1.アート系」や「5.教育・学習系」として盛んに実施されてい る。特に「4.自然・環境系」と「1.アート系」を組み合わせた参加型の プログラムは、飼育員の話を聞いたり観察したりするだけでなく、それに関 連づけた題材で参加者が自ら作ったり描いたりするといった楽しみや達成感 などから、子どもたちに人気のプログラムとして全国の動物園や水族館で数 多く実施されている。しかし、そこでは作ったり描いたりするだけでなく、 参加者自身の体験を通して「気付き」と「行動」をいかに誘発し、それに基 づいた「興味あることの発見とその展開」にどのように結びつけていくのか 図2 ワークショップの分類. が重要であると考えられる。. 3.考えるためのオブジェクト J. ピアジェは、認知的発達段階諸説において、子どもの認知機能の発達を. いくつかの段階にわけてそれぞれを特徴づけている[注2]。乳児は感覚運 動期(sensorimotor stage)として、見たり、聞いたり、触ったりという感覚. や、つかんだり、落としたり、噛んだりといった運動によって外界を知る段 階であるとしている。幼児期は前操作期(pre-operational stage)で、表象の. 能力を使って延滞模倣や象徴遊び(ごっこ遊び)、描画、言語といった行動 が現われ、概念化や推理も生じるが、なお知覚に支配され直観的である。 6,7∼11,12歳の児童期では具体的操作期(concrete operational stage)で、 現実の具体的なものや事象に関して論理的な操作が可能となる。この時期は 多くの側面に注意を配り、そこから得られた情報を共応させながらより適切 な推論をくだす論理的操作を使った思考を、多くの経験をとおして身につけ る時期であると特徴づけている。このような具体的操作期を経て、抽象的一 般的な形で論理形式的に考えることができる形式的操作期(formal operational. stage)(11,12歳以上)へとつながることで段階をおって知性は発達すると している。. シーモア・パパートは、ピアジェのこのような考え方を発展させ、モノ (オブジェクト)作りを通して、学び手自らが知識を構成していこうとするコ ンストラクショニズム(構築主義:constructionism)を提唱した。学び手が他. 者との共同活動を通して自分にとって意味のある何らかのモノ(オブジェク ト)をつくりあげていく。この活動を通して「新しいアイディアや意味づけ を生みだそうとする学習環境」を実現しようとするものである[注3]。人 は自分にとって意味のあるものを構築するときに何かを学習することがで き、説明されるより自分でやってみる方がより効果的な学習が期待されると する考え方である。この時オブジェクトはそれぞれのイメ−ジや考えを顕在 化しようとする「考えるためのオブジェクト(Objects to think with)」とい う役割を果たしていると考えられる。この考え方にもとづいた教材の活用. は、生物を題材に描いたり作ったりといった具体的な対象に対する主体的な 行動を誘発するものとして、ワークショップにおいても大きな効果が期待さ 1)中野民夫:ワークショップ ─ 新しい学びと創造の場, 岩波新書,2001 2)J. ピアジェ,中垣啓訳:ピアジェに学ぶ認知発達の科 学,北大路書房,2007. 3)S. パパート,奥村貴世子訳:マインドストーム ─ 子. 供,コンピューター,そして強力なアイデア,未来 社,1982. れる。 ミッチェル・レズニックはこのような考え方をさらに発展させ、子どもた ちにクリエイティブに考えさせ、なおかつ共同活動を通して自分にとって意 味のある何らかのモノ作っていくプロセスでは、「想像する(アイディアを 練る) 」→「作る」→「遊ぶ」→「(友達と遊びを)共有する」→「振り返. 77.

(3) 78. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. る」→「想像する……」、という図3のような創造的思考のスパイラル(ク リエイティブ・ラーニング・スパイラル)をいかに循環させるのかが大切で あるとしている[注4]。. 4.体験のデザインとしてワークショップ 4.1. はじめてのワークショップ. わたしたちにとってはじめてのワークショップ「さかなのカ・タ・チ」. は、2005年12月に新江の島水族館に併設された「なぎさの体験学習館」で実 施した。その構成は「アイスブレーク」「観察体験」「魚の工作」「振り返り」 図3 クリエイティブ・ラーニング・スパ イラル. の4つのステップで構成されている。最初の「アイスブレーク」は魚の模様 を描いた風船に水を入れて、それを図4のように参加者が一列に並んで順に 手渡していき2つのチームで早く終わった方が勝ちとなる。このように参加 者間で協力して行うミニゲームで、緊張をほぐしプログラムへの期待を高め る。その後、水族館内の水槽の前でみんなで魚の話をしながら観察し画用紙 に魚の絵を描き、それをもとに観察してきた魚を紙工作として制作する。制 作の際にはパソコンの Web3D コンテンツで様々な角度に回転させながら魚. の立体形状を確認し工作をおこなった。これによって観察の際に自分で描い た絵と Web3D コンテンツとを行き来し、形や模様を確認しながら工作する. 3時間ほどのプログラムである。このワークショップによって、「モノ」と してのコンテンツの開発だけでなく、それをいかに効果的に活用するのかと いった「コト」のデザインの魅力とその重要性とともに、むずかしさに気づ かされた。. 4.2. はじめてのワークショップでの気づき. はじめてのワークショップをとおして、子どもたちがどのようなことに興. 味を持ち、そして積極的に楽しんでくれるようにするためにはどんな仕掛け が必要なのか。また、その場を盛り上げるためにはどうすれば良いのかを体 験的に見出すことができた。しかし、それとともにこのワークショップで テーマとしていた魚の観察、そして観察から見つけたことを工作として表現 するといった視点が薄れてしまい、みんなでワイワイとたのしく工作やゲー ムをすることが中心の時間となってしまったという反省もあった。いかに魚 の形や色、泳ぎ方などの特徴に興味をもってもらうのか、そのためのファシ リテーションと仕掛けが必要である。特に仕掛けとして工作の際にテーマに 注目してもらうためにも教材が重要であることがわかった。それは、参加し た子どもたちが共同の場での活動を通して自分にとって意味のある何らかの モノをつくりあげ、それをきっかけに新しいアイディアや意味づけを生みだ そうとすることのできる学習環境を実現するためにも必要なものである。こ のことから、ワークショップのプログラムを子どもたちひとりひとりにとっ ての「体験」として、より効果的なものにするための教材開発の研究が重要 であることがわかった。また、それとともに、ワークショップの効果につい て、他のワークショップと比較したり、ワークショップの内容との因果関係 を指摘できるような客観的な分析評価をするための手法が必要であることが わかった。 図4 ワークショップ「さかなのカ・タ・ チ」 4)ミッチェル・レズニック,ライフロング・キンダーガー テン:創造的思考力を育む4つの原則,日経 BP,2018. 4.3. 子どものための評価手法. 従来のワークショップの評価は、参加者の行動を観察したり、ワーク.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. ショップ終了後のアンケートとして実施する自由記述による感想や、“楽し かったか”等の段階評定を求めるものが多い。成人が対象の場合、自由記述 や複数項目の段階評定による主観評価を行うことは、ワークショップの客観 的な評価に有効と考えらえる。しかし、子どもを対象とする場合、評価のた めの十分なボキャブラリーが少ないなど、自由記述ではその表現が限られて しまうおそれがある。また、段階評定でも、評価に用いられる語の理解にお ける個人差や年齢差が生じることから、評価語が限定されてしまうことが少 なくない。ワークショップの効果計測のための指標として、参加者による主 観評価を求める方法について検討した研究[注5]では、SD 法による印象. 図5 「気持ち温度計」の評価票の例. 評定と因子分析によって、3つの指標(高揚感:わくわくした ─ わくわく しなかった等、達成感:できた ─ できなかった等、難易度:かんたんな ─ むずかしい等)が報告さている。子どもを評価者とした SD 法は、有用であ. る[注6]とされ、小学校中学年以上であれば評定値の信頼性は保たれると. いう先行研究がある[注7]。このことから3つの指標にもとづく段階評定 をワークショップの進行に沿って複数回行うことにより、参加者の気持ちの 変化を時系列で多面的に捉えることが可能であると考えられる。評定には感 覚(ワークショップ参加時の印象[気持ち])の量を線分の長さ等で表すマ グニチュード推定(ME)法[注8]を用い、3つの指標に対する自分の気. 図6 「気持ち温度計」の記入例. 持ちを、それぞれ対応する温度計のイラスト(図5)に色を塗って表す「気 持ち温度計」(図6)を開発した。これによって、「今の気持ちを測ってみよ う!」という参加者への呼びかけで、ワークショップのプログラムのひとつ として工程に埋め込むことができ、工程にそった気持ちの変化をとらえられ ることがこれまでの調査で明らかになっている。それとともに、気持ちの変 化の傾向からそれぞれのワークショップのテーマや工程などによる傾向の違 いを捉えることができると期待される。また、ME 法による評定の展開とし. ては、線分ではなく例えば円の大きさで評定値を表すといったように、評定 値を表す媒介を工夫することによって描画や色塗り、工作などの作業を含む ことなど、工程と組み合わせた評価としてワークショップに適用しやすいと いう利点がある。. 4.4. 気持ち温度計によるワークショップの評価. これまで気持ち温度計は2015年以来さまざまな改良がなされ、多くのワー. クショップにおける評価の実績を重ねてきた。その蓄積によってのワーク ショップの傾向の違いや特徴を捉えることができるとともに、学年や性別な 図7 動物バイザーの例(ライオンとキリン) 5)政倉祐子,若林尚樹:子どもの印象評定による体験学 習の評価 ─ SD 法を用いた試み ─ ,デザイン学研究 特集号,21-2,14-19,2014. 6)altz, H. E.: Ontogenetic change in the meaning of concepts. as measured by the semantic differential. Child Development,. どの参加者の属性ごとの評価値を比較することで、テーマや課題に対するよ り詳細な分析を行うことができると期待される。 2018年11月17日に札幌の円山動物園で実施したワークショップ「この耳だ れの耳 ?!」は、動物の顔をモチーフにしたバイザータイプの組み立てキット. 「動物バイザー」(図7)を教材に、円山動物園の動物に興味を持ってもらう とともに、観察の楽しさと、観察による気づきや発見の面白さを体験できる. 34, 667-67, 1963. プログラムである。観察の工程を含む60分のプログラムと観察の工程を含ま. 測定,幼兒の教育,68,52-59,1969. ない45分のプログラムとを気持ち温度計によって比較した[注9]。. 7)賀集 寛,仲田啓子,三宅敏子:幼児の情緒的意味の 8)Stevens, S. S.: Psychophysics: Introduction to its Perceptual,. Neural, and Social Prospects. New York: Wiley, 1975. 9)若林尚樹,政倉祐子,田邉里奈:観察と工作を組み合 わせた教材によるプログラムの評価,第59回日本動物 園水族館教育研究会出雲大会,日本動物園水族館教育 研究会,2018. その分析から、観察を含むと観察を含まないとでは変化の傾向に違いがあ ることがわかった(図8、図9)。なお、難易度については「難しかったか」 という問いに対する評定のため、値が低い方が難しくないを表す。この難易 度については、観察ありの場合に観察の工程で参加者によらず比較的一定し. 79.

(5) 80. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 図8 観察ありの場合の結果(誤差棒は SD). 図9 観察なしの場合の結果(誤差棒は SD). て低く、参加者にとって観察すること自体は難しくないことがわかった。高 揚感については、観察なしの場合では工程による差があまりない一方、観察 ありの場合では終了後に最も高くなっていた。また、達成感についても、観 察なしの場合には工程による差がない一方、観察ありの場合では制作の工程 と終了後に比較的高くなるという傾向であることがわかった。このことか ら、観察などの工程においても工作と関連づけた教材を活用することで、参 加者の具体的な行動を促すことができ、高揚感や達成感を向上させる傾向が あることがわかった。. 5.これからの取り組み これまでの多くのワークショップにおいて主観的な印象評価の分析を蓄積 することで、プログラムでの課題設定が同じであり工程も同じであれば、そ の評定の平均値の違いからそれぞれの特徴として比較検討することはできる ことがわかった。しかしプログラムの分析評価については、総合的に効果が あることは見出せたものの、高揚感、達成感、難易度の3軸での気持ち温度 計の評定結果だけでは、企画する側のワークショップの目的に対する参加者 の達成度や使用した教材の難易度など、より詳細な項目に対する評価は難し いことが明らかになってきた。このことから、従来の3軸による気持ち温度 計での主観的な印象評価とともにプログラムの内容や教材に対して「集中し ているかどうか」や「得意そうであるか」などの第三者による客観的な視点.

(6) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. からの参加者の取り組みのようすを加味した分析など、より多面的な評価が 必要であると考えられる。また、SD 法での評定が困難とされる低年齢の参. 加者の評価手法についても新な視点から検討する必要がある。このような多 面的な評価手法を組み合わせ、あるいは使い分けていくことによってより詳 細な分析と評価が可能になると考えられる。今後はあらたな評価軸も考慮し た評価手法とその分析手法の検討を継続するとともに、より多くの研究者が ワークショップの評価手法について、さまざまな視点からの研究を深めその 成果を共有していくことが望まれる。 本研究は、JSPS 科研費(挑戦的萌芽研究 課題番号:26560098)(挑戦的萌. 芽研究 課題番号:16K12682)(基盤研究 C 課題番号:17K01049)の助成を 受けて実施したものである。. 参考文献 しみずみえ:あそびのじかん,英治出版,2016 ピーター・グレイ,吉田新一郎訳:遊びが学びに欠かせないわけ,築地書館,2018 ミッチェル・レズニック,ライフロング・キンダーガーテン:創造的思考力を育む4つの原則, 日経 BP,2018. 山内祐平,森玲奈,安斎勇樹:ワークショップデザイン論,慶應義塾大学出版会,2013. 81.

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