C A N C E R 8 (1999), p .13- 16 13
マングローブの苗木を食害する力二類
渡 遺 精 一 地球規模の環境の保全と調和のとれた開発を推 進することが危急であると 叫ばれている. 生物の 分布や環境の変化 は,もとより人間が定めた国境 に縛られることはない. 国連環境会議が1992年に ブラジルで行われてから ,国際的 な視点に立って 環境問題を 捉 え,対処しなければならない情況に なっている . このような背景から,マングロープ 域の保全 と利用は熱帯域の環境と開発にか らんで 重要な関心事のひとつである . マングローブ林は 従来木炭材,薪材,建築材の生産の場として利用 されてきたが,潮汐に洗われるマングローブ域は 多くの生物の生息場所 を提供しており,カニ類 もマングローブの 樹林 や泥干潟を 利用して生活 している. マング ロー ブの落ち葉を摂食するカ ニ と し て , アシハ ラカガ、や、ニモ ドキN的ω6os鈎aγ仰 μtt U仰1nl S附 t仇h叫iユ ピ ア カ ベ ン ケ イ ガ ガ、ニ Ses
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ar円P叩 eγηyt仇hr仰,'Odactりy lω
a (C ar町ml川lleri,し 1989), Cardisoma guanhui (H erreid,1963), Chirom anthes onychothoru間 (M alley,1978)
など, さまざ まな種類が知 られている . これら のカニの 中に は マ ン グ ロ ー ブ の 種 子 (胎 生芽) や芽生えたばかりの若木 を食害 す る ものがいる (W atanabe et a,.l 1996). 天然林 では , これらの カニ類の活動 は自然の営みの 中にまぎれて大きな 問題とはならないが,マングローブの苗木を栽培 している現場や,それらを植林 したばかりの地域 では , カニ類によるマングローブの苗木の食害 は 無視できないものがある . 熱帯域では ,エピの養殖が盛んで日本にも多量 のエピが輸出 されてき た. しかし ,エピの養殖池 を作るためにマ ングロー ブの樹 木を 伐採 したた め,環境に大きな影響 を与えた . J1C A ( 国際協
Seiichi W A T A N A B E: T he predation on m androve seedlings by crabs. 力事業団) のマングロ ープセ ンタ ーはイン ドネシ アのパリ 島にあり ,エビ養殖や木材生産などのた めに伐採されたマングローブ林を再生し ,マング ローブの造林技術の開発と造林後のマングローブ を持続的に利用する 林経営システムを確立するこ とをめざし ,パ リ島とロンボック島で調査,技術 開発を行 っている . 本論では ,JIC Aが, エピの養殖場 跡 や伐採さ れて荒れた地域をマングローブの林 に戻すプロジ ェク 卜に関連して行 ったマングロ ーブ域の植物に 対するカニ類による食害の実験と養殖場跡の泥干 潟域に生息する カニ類について述べる . カニ類によるマング ローブの種子や苗木に対する 食害 マングローブの苗木を栽培している干潟域に は, さまざまなカニ類が生息しているが,これら の内苗木を食害するのはどの ような種類であるの かを特定するために,マング ローブの苗木に対す るカニ類の 捕 食活動を記録し た. 実験,観察は 1994年12月2 4 - 2 8日にパ リ烏の J1C Aマング ロー ブセ ンターで行 った. マヤプシギSonneratia albaに対する食害 コンテナ (59 X 3 8 X 2 3 cm ) に2 - 3か月のマヤ プシギの苗を植え , カニをその 中に入れて苗に対 する食害の様子を観察した . こ の実験では6 種類 のカニを用いた. (1)オオベンケ イガニ
Neoetisesarma (Neoetisesarma) lafoηdi
5尾 の カ ニ ( 甲幅42 - 44mm) を用い て実験を 行 った結果, この 内の 4 尾がマ ヤプシギの苗をポッ
ドの植 え込み函から 1.5 - 3 cmの所から 切断 し食
害した . 食害 は夜間に行われた (図1 ).
14
マングロープの苗木を食害するカニ類 図1 オ オ ベ ン ケ イ ガ 二 Neoepisesarma (Neoepisesarma) lafondiによるマ ヤプシ ギの食害 図2 ミナミオカガニ Cardisoma carnifexによ るマヤプシ ギの食害 5 尾のカニ( 甲幅65-80mm) を用いて実験を行 った . すべてのカニがポッドを破壊し,マヤプシ ギの苗を食害した( 図 2) . (3) アシハラガニモドキNeosa門 叩tium smithii
l 尾 の カ ニ ( 甲幅31mm) を用いて実験した . こ のカニはマヤプシギの苗を根元から切断し ,食害 した. いっぽう,シオマネキ類 U c a spp. ( 甲幅23 38mm) 10尾,クマドリオウギガニBattozius vi削 -s ω ( 甲幅 55 一73mm) 3 尾 , ノ コ ギ リ ガ ザ ミ 類
Scylla oce仰 化a,S. serrata ( 甲幅 150 - 175mm) 5 尾は,マヤプシ ギに害を与えなかった. フタパナヒルギR h i z o p h o r a apiculataに対する 食害 前述の実験と同じコンテナに数枚の葉を持つフ 図3 オ オ ベ ン ケ イ ガ ニ Neoepisesarma (Neoepisesarma) lafondiによるフタパナ ヒルギの茎につけられた特徴的なかじり痕 タパナヒルギを植えて実験した . (1)オオベンケ イガ、ニ 2尾のカニを用いて実験を行 った結果,こ のう ちの1尾がフタパナヒルギの根本に近い部分を食 害した . 捕食されたフタパナヒルギの茎には特徴 的なか じり痕が残った( 図3) .
(2)
ミナミオカガニ 3尾のカニを用いて実験した . 2尾のカニがフ タパナヒルギの苗を引き倒した. 1 尾は害を与え なかった. オオパヒルギR h i z o p h o r a m u c r o n a t aに対 する 食害 実 験 に 用 い た カ ニ は 上 部 の 開 口 部 54cm ,底部 35cm ,高さ 63cm のプラスティック製のポッドに約 70cm のオオパヒルギを植えた. 収容したカニはオ オベンケイガニとミナミオカガニである. 両種と もオオパヒルギを食害することはなかった . 以上の実験の期間は2 - 3 日程度であるので, 食筈を行わなかったカニがマングロープの胎生芽 や,苗に害を及ぼさないとはいえないが,強力な 食害動物とはいえないだろう. ロンボック島の植 林を行 った地域での観察によると ,ヒルギの胎生 芽には特徴的なかじり痕がついているのが認めら れた. これは,オオベンケイガニがつけたかじり 痕と同様なもので,この種に近いカニ類がつけた ものと予想される . このほか,養殖場跡地にはカクベンケイガニ Parasesarma pictum,オオユピアカベンケイガニ渡 溢 精 一 15 Parasesanna plicatum, リュウキュウシオマネキ
Uca (Deltuca) coarc
ω
ω
coarctata,ヤエヤマシオ マネキ Uca (Deltuca) dussimieri d叫SSt附 e n, ツノメガニ Oc沖oda ceratoththalma,クイラハ シ リ イワガニMetotograts叫s lat析。叫s,タイワンガザミ Portunus peiagicus
,
ミナミベニツケガニThalami-ω
cre叩 taがよく見られる. シオマネキ類は日中 に活動するので養殖場跡地に見られる代表的なカ ニといえる. 移しい数のシオマネキ類が泥に穴を 掘り,地下の泥を表面に運び出すことにより,還 元層の発達を防いでいる . 多くのカニ類は雑食性であるが, ミナミアシハ ラガニ Helice leachi,アシハラガニモドキ ,カク ベン ケイ Parasesanna tictum,クロベンケイガニ Chiromanthes de加 仰tなどは ,おもに草食であり, マングロープの落葉や胎生芽を食べる (Nakasoneand Agena, 1984)_ クリスマスアカガニ
Gecar-coidea 叩 talis (Christmas Island red crab) も通
常は草食で熱帯雨林の林床に 落ちてくる落ち葉, 花あるいは果実 などを食べている (Hicks,1985)_ しかし, 仲間の死体や他の動物の死骸なども摂食 する. 前述のミナミオカガニやオカガニ Cardiso-m a hirtipesも草食である. 沖縄では,オカガニの ことをカンダクイガン( 芋食いガニ) といって, 芋畑に出没する様を表している ( 三宅,1996)_ 隆生のカニ類の食性についてW olcott (1988) が まとめている. マングローブの種子や苗木を食害するカニ類 は,ある程度限定されるであろうが,彼らがどの くらいの量を消費しているかは, さらに実験を重 ねる必要がある. また,エピの養殖場跡の泥干潟には,泥の盛り 上がりが方々に見られる . はなはだしい場合には, 池の跡地の全面に見られ,泥干潟はでこぼこにな っている . これらのマウンドの 一部は,オキナワ ア ナ ジ ヤ コ Thalassina a仰 mara ( Mud-lobster)
によ って作られたものである. このようなマウン ドが発達すると,マングロープの苗は,すべて倒 れてしまい,多大な努力が水泡に帰してしまう . これを防除する方法はまだない. カニ類によるマングロープの苗木の食害を防ぐ 方法として,カニが苗の畑に入らないようにする ことで苗木を守ることができる. 苗畑がフェンス をめぐらせることができる程度の広さであればこ れは可能である. 苗の畑が地面よ り一段高くなっ ていれば,ネ ズミ返しのようにピニールシー トを 張り出してオーバーハングを作っておけば有効で あり( 図4) ,実際に 使われている. 植林してし まったものにはこのような方法は使えないので, カニ類の密度が高いところを避けて植林するか, 苗木を密植してカニの攻撃を防ぐことが有効とな る. エピの養殖場跡や伐採されて荒れた地域をマン グローブの林にもどすには多大のコス トが掛か る. マングローブ林を有効に,持続的に利用する 方法がも っ ともコストが掛からず合理的である が,短期的には,エピ養殖や,薪炭材の伐採が大 きな富を生む. これらを 一概に不適切ということ 図4 ビニール シー トで作られたカニがえし. この ようにオーバーハ ングを作 って おくとカニは {要入できない. 図5 タイのベチャブリにあるシルボフィ ッシャ リ ーの実験区画.
16 マングロープの苗木 を食害するカニ類 はできないが,長期 的 視野に立った地域の利用 法 が必要とさ れよう. エビ主主舶 について も, 最近生 態系に優し い養殖 法 が考えら れるようになってき てい る. シルボフイ ツシャ リーS ilbo fi sh ery とい うマング ロー ブ樹林と エピやミ ル クフイッシュの 養殖を併せて行う環境に優しいシステムが研 究 さ れ一部で笑行に移されている (1支15 ) こうする と自然の景観が失われることなく魚介類の生産が 可能になる . ノコギ リガザ ミ類は東南アジアで は 重 要 な水産資源( 渡逢 ・S li stio no,199 3 ;伏屋 ・ 渡逃 ,1995 ;渡迭ら ,1996 ;渡 逃 ・伏屋 ,1997) であるが,こ の よう なシステムで養殖する ことが できる . 自然と調和 した 漁業や林業の あ り方を模索し , マング ロー ブ域 の有効な 利用 と保全法を確立する ことが望 まれ る. ]lC A の 八 戸 英 喜 氏 に は 実 験 の 設定,カニ類の捕獲などで多大にお世話になった. 深謝する . 参考文献
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