研 究 速 報 1. は じ め に 敷地面積に対する延べ床面積の割合のことを“容積率” といい,その法的限度のことを“指定容積率”という.特 に建築コストに比べて土地代が高価な都市部において,経 済合理的な建築主および設計者は,指定容積率を可能な限 り消化して容積率つまり床面積を最大化しようとするのが 一般的である.この現象を強調するため,本稿では容積率 を“消化容積率”といい,指定容積率を単に“容積率”と いって区別する.2003 年 1 月の建築基準法改正により天 空率の規定が追加された2).この新たな指標を用いること で斜線制限の緩和が可能となり,これまで斜線制限によっ て容積率を十分に消化できなかった敷地でも容積率の有効 利用が図れるようになった. 天空率緩和には上記のような利点が挙げられるが, 一方 で,天空率の算定には,複雑なコンピュータ計算が必要で あり,斜線制限で建築物を計画するよりも検討に手間がか かる.天空率は緩和規定であるので,天空率ではなく従来 の斜線制限で建築物を計画しても問題ない.したがって, 両者に基づく消化容積率や建築物形状にどの程度の差異が 認められるのかを分析することには意味がある. そこで本研究では,敷地形状や建物形状などの条件の違 いにより,消化容積率や建物高さがどう変わるかを, 道路 斜線制限下にあるケースと天空率緩和を用いたケースのそ れぞれで分析する.具体的には,中間画地を想定し,その 敷地において建築可能な建物の消化容積率を導出する.次 に,敷地形状やセットバック距離を変化させた場合の消化 容積率や建物高さについての分析を行い,道路斜線制限と 天空率緩和との差異を比較する. 2. 数 理 モ デ ル 2.1 敷地・斜線制限の定式化 幅員
ܹ
[m] の道路に面した面積ܵ
[m2] の中間画地を考え, 敷地の左前方を原点とし,間口方向がݔ
,奥行き方向がݕ
, 高さ方向がݖ
のݔݕݖ
座標系を設定する.以後,特に断りの ない限り単位は [m] とする.敷地は矩形領域と仮定し,そ の間口と奥行きの比率はͳǣ ݎ
とする.すなわち,間口の長 さをܺ
,奥行きの長さをܻ
とすると,ܺ ൌ ඨ
ܵ
ݎ
ܻ ൌ ξݎܵ
である. ま た, 当 該 地 域 の 建 ぺ い 率 はܣ ൈ ͳͲͲΨ
, 容 積 率 はܸ ൈ ͳͲͲΨ
で与えられているものとする.一方,斜線制限 については,その適用距離をܶ
,斜線勾配を݇
,セットバ ック距離をݏ
で与える. 以上のような敷地において,斜線制限・天空率緩和それ ぞれの場合における消化容積率の限度を計算したい.加え て,容積率が満たされる場合は,可能な限り建物高さを低 くしたい.ただし本稿では,議論の見通しの良さを考慮し, 最も影響の大きい道路斜線制限のみを考慮する.つまり, 隣地斜線制限・北側斜線制限・日影規制など,その他の建 築規制は以後,無視する. 2.2 斜線制限下で直方体を想定した場合 まず,建物形状として直方体を想定したときにおける, 斜線制限下での消化容積率の限度とそのときの建物高さを 算出したい.ただし本稿では,建物は敷地と平行に建てる ものと仮定する. 消化容積率を最大化するためには,その建築物を間口を 最大限に活用し,かつ,敷地の奥から建てることが望まし い.いま,建築物前面部のݕ
座標をݒ
と設定し,さらに, 建築物の高さは݄
,階高を݀
とする.このとき,考えるべ き建築物(直方体)ܲ
の端点は以下で与えられる: 道路斜線制限の,ݕݖ
座標における斜線は,ݖ ൌ ݇ݕ ݇ሺܹ ݏሻ
(1)
୪ୢൌ ሺͲǡ ݒǡ Ͳሻ
୰ୢൌ ሺܺǡ ݒǡ Ͳሻ
୪୳ൌ ሺͲǡ ܻǡ Ͳሻ
୰୳ൌ ሺܺǡ ܻǡ Ͳሻ
୪୳ൌ ሺͲǡ ܻǡ ݄ሻ
୰୳ൌ ሺܺǡ ܻǡ ݄ሻ
୪ୢൌ ሺͲǡ ݒǡ ݄ሻ
୰୳ൌ ሺܺǡ ݒǡ ݄ሻ
研 究 速 報道路斜線制限と天空率緩和に基づく消化容積率と建物高さの比較
Comparisons of Height Restriction and Relaxation by Sky Factor Focusing on Digestion Floor Area Ratio and Building Height渡 部 宇 子
*・本 間 裕 大
**・本 間 健太郎
***・今 井 公太郎
***Hiroko WATANABE, Yudai HONMA, Kentaro HONMA and Kotaro IMAI
*東京大学大学院 工学系研究科
**東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター
で与えられる.ただし,適用距離ならびに建ぺい率を考慮 し,建築物の前面位置
ݒ
が取りうる範囲をݒ
୫୧୬ ݒ ݒ
୫ୟ୶ ただしݒ
୫୧୬؝ ሼሺͳ െ ܣሻܻǡݏሽ
ݒ
୫ୟ୶؝ ሼܻǡܶെܹെݏሽ
. . に制限する.本稿では現実的なパラメータ設定を鑑み,ܶ െ ܹ ݏ
は成立するものと仮定する.また,ݒ ݒ
୫ୟ୶ ならば,道路斜線制限を受けず,常に容積率の上限まで建 てられるが,これも本質的な議論から外れるため,考慮し ない. (i) 消化容積率の限度がࢂ
未満のとき まず(1)より,前面位置ݒ
と高さ݄
の関係は݄ ൌ ݇ݒ ݇ሺܹ ݏሻ
なので,当該建築物の消化容積率݂ሺݒሻ
は݂ሺݒሻ ൌ
ܻܺ ൈ ܺ ൈ
ͳ
ሺܻ െ ݒሻ ൈ
݀
݄
ൌ
ܻ݀ ൈ
݇
ሼሺܻ െ ݒሻݒ ሺܹ ݏሻሺܻ െ ݒሻሽ
である.一階の微分条件を満たすݒ
をݒ̰ ൌ
ܻ െ ܹ െ ݏ
ʹ
と置くと,消化容積率を最大化するݒ
כはݒ
כൌ ൞
ݒ
୫୧୬൫ݒ̰ ൏ ݒ
୫୧୬൯
ݒ̰
൫ݒ
୫ୟ୶ ݒ̰ ݒ
୫୧୬൯
ݒ
୫ୟ୶൫ݒ
୫ୟ୶൏ ݒ̰൯
消化容積率がܸ
未満を想定しているため,そのときの建物 高さ݄
כは݄
כൌ ݇ݒ
כ ݇ሺܹ ݏሻ
であり,また,消化容積率の最大値݂ሺݒ
כሻ
は݂ሺݒ
כሻ ൌ
ە
۔
ۓ݇ሺܻ ܹ ݏሻ
ଶͶܻ݀
ሺݒ
כൌ ݒ̰
ሻ
݄
כሺܻ െ ݒ
כሻ
ܻ݀
ሺ
ሻ
で与えられる. (ii) 消化容積率の限度が容積率ࢂ
に一致するとき この場合,少なくともܸ ൌ ݂ሺݒሻ
(2) が実根を持つ必要があり,その条件はݏ ʹඨ
ܻܸ݀
݇ െ ܻ െ ܹ
である.(2)を満たす解をݒ ൌ
ܻ െ ܹ െ ݏ
ʹ
േ ඨ
ሺܻ ܹ ݏሻ
Ͷ
ଶെ
ܻܸ݀
݇
とし,順に と置く.このとき,建物高さを最小化 するݒ
ככは,ሼݒ
୫୧୬ǡ ݒ
୫ୟ୶ሽ
と の大小関係で場合分け される.消化容積率の限度がܸ
となるためには,さらにݒ
ି ݒ
୫ୟ୶かつݒ
୫୧୬ ݒ
ା を満たす必要があることに注意すると,ݒ
ככൌ ൞
ݒ
ା൫ݒ
ି ݒ
୫୧୬ ݒ
ା ݒ
୫ୟ୶൯
ݒ
୫୧୬൫ݒ
ି ݒ
୫୧୬ ݒ
୫ୟ୶ ݒ
ା൯
ݒ
ିሺݒ
୫୧୬ ݒ
ି ݒ
୫ୟ୶ሻ
であり,その場合の建物高さ݄
ככは݄
ככൌ
ܻܸ݀
ܻ െ ݒ
ככ となる(消化容積率の限度はܸ
). 2.3 斜線制限下で多面体を想定した場合 次に,建物形状として“多面体”を想定したときにおけ る,斜線制限下での分析をする.具体的には,実際の建物 形状としてもよく観察される,斜線に沿って直方体の一部 を切り取り,斜面が存在する七面体を想定する. 前節と同様,建築物を間口を最大限に活用し,かつ,敷 地の奥から建てることを考える.いま,グランドレベルに おける建築物前面部のݕ
座標をݒ
ଵ,屋上レベルにおける建 築物前面部のݕ
座標をݒ
ଶと設定し,さらに,建築物前面部 の高さを݄
ଵ,建築物そのものの高さを݄
ଶとする. このと き,建築物(七面体)ܳ
のそれぞれの端点は,ݍ
୪ୢൌ ሺͲǡ ݒ
ଵǡ Ͳሻ
ݍ
୰ୢൌ ሺܺǡ ݒ
ଵǡ ݄ሻ
ݍ
୪୳ൌ ሺͲǡ ܻǡ Ͳሻ
ݍ
୰୳ൌ ሺܺǡ ܻǡ Ͳሻ
ݍ
୪୳ଶൌ ሺͲǡ ܻǡ ݄
ଶሻ ݍ
୰୳ଶൌ ሺܺǡ ܻǡ ݄
ଶሻ
ݍ
୪ୢଶൌ ሺͲǡ ݒ
ଶǡ ݄
ଶሻ ݍ
୰ୢଶൌ ሺܺǡ ݒ
ଶǡ ݄
ଶሻ
ݍ
୪ୢଵൌ ሺͲǡ ݒ
ଵǡ ݄
ଵሻ ݍ
୪ୢଵൌ ሺܺǡ ݒ
ଵǡ ݄
ଵሻ
で表される. 以上のような想定で,消化容積率を最大化しつつも,そ の高さをできる限り低くするためには, グランドレベルに おける建築物前面部ができる限り道路へ近いことが望まし い. そこで,ݒ
ଵൌ ݒ
୫୧୬݄
ଵൌ ݇ݒ
୫୧୬ ݇ሺܹ ݏሻ
とし,またݒ
ଶと݄
ଶの関係としても(1)より݄
ଶൌ ݇ݒ
ଶ ݇ሺܹ ݏሻ
に設定する.ݒ
ଶの取りうる範囲は,൛ݒ
ିǡ ݒ
ାൟ
൛ݒ
ିǡ ݒ
ାൟ
研 究 速 報ݒ
୫୧୬ ݒ
ଶ ܻ
である. (i) 消化容積率の限度がࢂ
未満のとき 本節における消化容積率݃ሺݒ
ଶሻ
はgሺݒ
ଶሻ ൌ
ܻܺ ൈ
ͳ
ܺ
݀ ൈ ൜
ͳ
ʹ
ሺݒ
ଶെ ݒ
ଵሻሺ݄
ଵ ݄
ଶሻ ሺܻ െ ݒ
ଶሻ݄
ଶൠ
ൌ
ܻ݀ ൈ
݇
ͳ
ʹ
ሺݒ
ଶെ ݒ
୫୧୬ሻ ሼሺݒ
୫୧୬ ݒ
ଶሻ ʹሺܹ ݏሻሽ
ሺܻ െ ݒ
ଶሻሼݒ
ଶ ሺܹ ݏሻሽሿ
である.これが容積率ܸ
を満たせない場合に, 建築物ܳ
の 消化容積率を最大化するݒ
ଶכは,明らかにݒ
ଶכൌ ܻ
である.このときܳ
は屋上面が退化した六面体となる. 建物高さ݄
ଶכは݄
ଶכൌ ݇ሺܻ ܹ ݏሻ
であり,また,消化容積率の最大値݃ሺݒ
ଶכሻ
は݃ሺݒ
ଶכሻ ൌ
ʹܻ݀
݇
ሺܻ െ ݒ
୫୧୬ሻሼݒ
୫୧୬ ܻ ʹሺܹ ݏሻሽ
で与えられる. (ii) 消化容積率の限度が容積率ࢂ
に一致するとき この場合,少なくともܸ ൌ ݃ሺݒ
ଶሻ
(3) が実根を持つ必要があり,その条件はݏ
ܻܸ݀
݇ሺܻ െ ݒ
୫୧୬ሻ െ
ܻ ݒ
୫୧୬ʹ
െ ܹ
である.(3)を満たす解をݒ
ଶൌ ܻ േ ඨሺܻ െ ݒ
୫୧୬ሻሼܻ ݒ
୫୧୬ ʹሺܹ ݏሻሽ െ
ʹܻܸ݀
݇
とし,順に൛ݒ
ଶିǡ ݒ
ଶାൟ
と置く.このとき,建物高さを最小化 するݒ
ଶככは,ሼݒ
୫୧୬ǡ ܻሽ
と൛ݒ
ଶିǡ ݒ
ଶାൟ
の大小関係で場合分けさ れる.消化容積率の限度がܸ
となるためには,さらにݒ
ଶି ܻかつݒ
୫୧୬ ݒ
ଶା を満たす必要があることに注意すると,ݒ
ଶככൌ ൞
ݒ
ଶା൫ݒ
ଶି ݒ
୫୧୬ ݒ
ଶା ܻ൯
ݒ
୫୧୬൫ݒ
ଶି ݒ
୫୧୬ ܻ ݒ
ଶା൯
ݒ
ଶିሺݒ
୫୧୬ ݒ
ଶି ܻሻ
であり,その場合の建物高さ݄
ଶככは݄
ଶככൌ
ʹܻܸ݀ െ ݇ሺݒ
ଶ ככെ ݒ
୫୧୬ሻሺݒ
୫୧୬ ܹ ݏሻ
ʹܻ െ ݒ
ଶככെ ݒ
୫୧୬ となる(消化容積率の限度はܸ
). 2.4 天空率緩和における建物形状 最後に,道路斜線制限における天空率緩和を想定した場 合における,建物形状の分析について述べる.前述のよう に,天空率緩和は斜線制限を建物に置き換えた場合の適合 建築物と,その天空率を比較する必要がある.本章の場合, その適合建築物ܼ
はݖ
୪ୢൌ ሺͲǡͲǡͲሻ
ݖ
୰ୢൌ ሺܺǡ ͲǡͲሻ
ݖ
୪୳ൌ ሺͲǡ ܶ െ ܹ െ ݏǡ Ͳሻ
ݖ
୰୳ൌ ሺܺǡ ܶ െ ܹ െ ݏǡ Ͳሻ
ݖ
୪୳ൌ ሺͲǡ ܶ െ ܹ െ ݏǡ ݇ܶሻ ݖ
୰୳ൌ ሺܺǡ ܶ െ ܹ െ ݏǡ ݇ܶሻ
ݖ
୪ୢൌ ൫ͲǡͲǡ ݇ሺܹ ݏሻ൯
ݖ
୰୳ൌ ൫ܺǡ Ͳǡ ݇ሺܹ ݏሻ൯
で端点が与えられる. これに対する天空率緩和の建築物ܴ
は前節までとの対応 を考慮し,以下のように与える.まず,建物形状は直方体 を想定し,敷地と平行に立てるものと仮定する.加えて, 敷地の奥から,間口の中心と建物の中心が一致するように 建築物を配置するものとする.建築物左前面部のݔ
座標をݑ
ଷ,ݕ
座標をݒ
ଷと設定し,さらに,建築物の高さは݄
ଷ,階 高を݀
とすると,ܴ
の端点は以下の通り:ݎ
୪ୢൌ ሺݑ
ଷǡ ݒ
ଷǡ Ͳሻ
ݎ
୰ୢൌ ሺܺ െ ݑ
ଷǡ ݒ
ଷǡ Ͳሻ
ݎ
୪୳ൌ ሺݑ
ଷǡ ܻǡ Ͳሻ
ݎ
୰୳ൌ ሺܺ െ ݑ
ଷǡ ܻǡ Ͳሻ
ݎ
୪୳ൌ ሺݑ
ଷǡ ܻǡ ݄
ଷሻ
ݎ
୰୳ൌ ሺܺ െ ݑ
ଷǡ ܻǡ ݄
ଷሻ
ݎ
୪ୢൌ ሺݑ
ଷǡ ݒ
ଷǡ ݄
ଷሻ ݎ
୰୳ൌ ሺܺ െ ݑ
ଷǡ ݒ
ଷǡ ݄
ଷሻ
上述の建築物(直方体)ܴ
のうち“斜線制限が適用される 範囲内の部分”と適合建築物ܼ
を,算定位置ܿ
ൌ ቌ
ܺ
ቒ ܺ
ܹቓ
ൈ ݅ǡ െܹǡ Ͳቍ ǡ݅ ൌ Ͳǡͳǡ ǥ ǡ
ܺ
ܹඈ
から比較し,全ての地点でその天空率がܼ
のそれを下回れ ば良い.ܴ
は針のように細長くすれば,必ず天空率緩和・容積率 をともに満たす建築物が設計可能である.したがって,消 化容積率が上限ܸ
であるという制約の下,その建物高さ݄
ଷ を最小化する 建物形状を数値計算した.なお,天空率計 算には文献1)のアルゴリズムを用いた. 研 究 速 報3. 数 値 例 以上の数理モデルの仮定の下,種々の条件で斜線制限と 天空率緩和のそれぞれの場合における消化容積率の限度, ならびにそのときの建物高さを数値計算した. 一例として,敷地面積S = 200[m2],前面道路幅員をW = 12[m] としたときの計算例を示す.今回は,商業地域(指 定建ぺい率 80%,指定容積率 600%),建物の用途は事務 所(階高 4.0m)と想定,斜線制限に関する適用距離を 25m,適用勾配 1.5 と設定した. 3.1 敷地の縦横比の変化による消化容積率の違い 敷地の縦横比
ݎ ൏ ͳ
の場合は間口が広い敷地であり,ݎ ͳ
の場合は奥行の深い敷地である.斜線制限の場合の 様々な敷地の縦横比における消化容積率と建物高さの変化 を表 1 に示す. 敷地の縦横比が増加するほど,すなわち奥行きが相対的 に深くなるほど,より指定容積率を消化できていることが 確認できる.しかし,直方体では指定容積率 600% のすべ てを消化できているわけではない.一方,七面体では縦横 比ݎ ͳ
の場合,指定容積率 600% を消化できている. なお, 天空率は指定容積率 600% を消化できている. 3.2 セットバックによる消化容積率の違い 次に,セットバックを考慮した場合の計算例を示す. 直方体,七面体それぞれの場合において,様々なセットバ ック距離における消化容積率の変化を図 1・図 2 に示す. 概して,敷地の奥行きが相対的に深くなり,かつセットバ ック距離が増加するほど,指定容積率を消化できる.一方 で,間口が相対的に広い場合,適切なセットバック距離の 存在が確認される.セットバックによる高さ制限の緩和に ともない,敷地の建築可能面積が減少するトレードオフの 関係が見て取れる. 3.3 敷地の縦横比による建物高さの違い 最後に,建物高さの観点から,斜線制限と天空率緩和の 比較を行う.図 3 に,様々に敷地の縦横比を変化させた場 合の建物高さを示す.なお,実線でつないだ部分は,指定 容積率を消化できていることを示している. まず,天空率緩和の場合,全体的な傾向として,敷地の 縦横比が増加するほど(= 奥行きが深くなるほど)建物高 さが低くなる.これに対し,斜線制限(直方体)の場合に は,奥行きが深くなるほど,建物高さが高くなっている. 斜線制限の場合,大まかには,建物が高くなるほど容積率 を消化できるため,上記の性質は,天空率緩和と斜線制限 の差異が減少していることを意味している. 0 2 4 6 8 2 3 4 5 6 r = 0.5 r = 1.0 r = 2.0 率 図 1 セットバック距離と消化容積率の関係(直方体) 0 2 4 6 8 2 3 4 5 6 r = 0.5 r = 1.0 r = 2.0 率 図 2 セットバック距離と消化容積率の関係(直方体) 0 0 0 5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0 20 30 40 50 60 斜線制限(直方体) 斜線制限(七面体) 天空率緩和 縦横比 建物高さ 図 3 敷地の縦横比と建物高さの関係 表 1 敷地縦横比を変化させたときの消化容積率と建物高さ 直方体 七面体 縦横比 消化容積率 消化容積率 ݎ ൌ ͲǤͳ 386% 440% ݎ ൌ ͲǤ͵ 406% 499% ݎ ൌ ͲǤͷ 420% 540% ݎ ൌ ͳǤͲ 444% 600% ݎ ൌ ʹǤͲ 480% 600% ݎ ൌ ͵ǤͲ 409% 600% 研 究 速 報4. お わ り に 本研究では,道路斜線制限や天空率緩和下での消化容積 率や建物高さを定式化し,その分析を行った.分析の結果, 間口の広い敷地においては,天空率の利用が圧倒的に有利 である結果が出た.このときの建物高さは,セットバック なしの道路斜線制限の場合と比較すると 2 倍以上の高さの 細長い建物形状である.初期段階でのボリュームスタディ を行う上で,示唆的である. 今回は最も強い制限となることが多い道路斜線制限のみ を考慮したが, 実際には隣地斜線制限や北側斜線制限,日 影制限など多岐に亘る建築規制を考慮する必要がある. (2017 年 6 月 6 日受理) 参 考 文 献 1) 本間裕大, 栗田治, 鈴木絢子(2008): 計算幾何学アルゴリズム に基づく立体角指標を用いた都市景観評価,日本建築学会計 画系論文集, No.643, pp.2035–2042. 2) 駒田政史, 深滝准一(2013): Jw_cad 日影・天空率完全マスタ ー , エクスナレッジ. 研 究 速 報