一 平成26年度税制改正の経緯
平成26年度税制改正については、例年と異なり、 2 段階で議論が行われました。 まず、税制抜本改革法の規定に基づく検討の結 果、昨年10月に、平成26年 4 月 1 日からの消費税 率(国・地方)の 8 %への引上げについて確認さ れました。これにあわせて、消費税率の引上げに よる反動減を緩和して景気の下振れリスクに対応 するとともに、その後の経済の成長力の底上げと 好循環の実現を図り持続的な経済成長につなげる との考え方に立って、秋に前倒しで、民間投資を 活性化させるための税制措置等について閣議決定 されました(「消費税率及び地方消費税率の引上 げとそれに伴う対応について」)。 その後、毎年の年度改正と同様のプロセスによ り、秋に決定された事項も含める形で、12月12日 に与党において「平成26年度税制改正大綱」が取 りまとめられ、12月24日には「平成26年度税制改 正の大綱」が閣議決定されました。その内容に沿 って、 2 月 4 日に「所得税法等の一部を改正する 法律案」及び「地方法人税法案」が国会に提出さ れ、国会における審議の結果、 3 月20日に成立し ました。 本稿においては、平成26年度税制改正の概要 (国税部分)を説明します。二 平成26年度税制改正の基本的考え方
平成26年度税制改正においては、現下の経済情 勢等を踏まえ、デフレ脱却・経済再生に向け、設 備投資の促進、研究開発投資の促進、所得の拡大 等を図るために、平成25年度税制改正と合わせて、 これまでと次元の異なる思い切った税制措置を講 じることとしました。具体的には、生産性向上設 備投資促進税制の創設、研究開発税制の拡充、所 得拡大促進税制の拡充、復興特別法人税の 1 年前 倒し廃止等を行うこととしました。 また、税制抜本改革を着実に実施するため、給 与所得控除の上限の引下げや地方法人課税の偏在 是正、自動車重量税のグリーン化のための措置を 講ずるほか、震災からの復興を支援するための税 制措置等を講ずることとしました。 これらの改正により、平年度で4,470億円の減収、 平成26年度においては5,810億円の減収となるこ とが見込まれています((参考)参照)。このほか、 復興特別法人税の 1 年前倒し廃止に係る平成26年 度の減収が6,453億円あり、平成25年度税制改正 と今回の税制改正を合わせれば、国・地方を通じ 目 次 一 平成26年度税制改正の経緯������ 3 二 平成26年度税制改正の基本的考え方�� 3 三 平成26年度税制改正の概要������ 5 1 デフレ脱却・経済再生に向けた税制 措置���������������� 5 2 税制抜本改革の着実な実施����� 6 3 復興支援のための税制上の対応��� 7 4 納税環境整備����������� 7 5 その他�������������� 7て、1.6兆円程度の減税措置を講じることになり ます。なお、このうち、昨年10月に消費税率引上 げに伴う対応として決定した税制措置による減収 額は、国・地方合わせて 1 兆円程度になります。 (参考)平成26年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額 (単位:億円) 改 正 事 項 平年度 初年度 Ⅰ 「消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について」での 決定事項 ⑴生産性向上設備投資促進税制の創設 ▲ 2,990 ▲ 3,520 ⑵研究開発税制の拡充 ▲ 270 ▲ 200 ⑶中小企業投資促進税制の拡充 ▲ 170 ▲ 170 ⑷ベンチャー投資促進税制の創設 ▲ 30 ▲ 10 ⑸事業再編促進税制の創設 ▲ 100 ▲ 100 ⑹既存建築物の耐震改修投資の促進のための税制措置の創設 ▲ 70 ▲ 60 ⑺所得拡大促進税制の拡充 ▲ 1,060 ▲ 1,350 Ⅱ Ⅰに追加して決定する事項 1 .個人所得課税 ⑴給与所得控除の見直し 810 -(380) - ⑵企業型確定拠出年金の拠出限度額の引上げ ▲ 70 ▲ 20 個人所得課税 計 740 ▲ 20 2 .法人課税 ⑴交際費等の損金不算入制度の見直し ▲ 430 ▲ 290 ⑵国家戦略特別区域における税制措置の創設 ▲ 20 0 ⑶集積区域における集積産業用資産の特別償却制度の廃止 10 10 法人課税 計 ▲ 440 ▲ 280 3 .消費課税 ⑴車体課税 ①自動車重量税のエコカー減税の拡充 ▲ 160 - ②経年車に係る自動車重量税の税率の見直し 150 80 小 計 ▲ 10 80 ⑵非製品ガスに係る石油石炭税の還付制度の創 ▲ 150 ▲ 130 ⑶消費税 ①簡易課税制度のみなし仕入率の見直し 180 - ②外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し ▲ 100 ▲ 50 小 計 80 ▲ 50 消費課税 計 ▲ 80 ▲ 100 合 計 ▲ 4,470 ▲ 5,810 (注 1 ) 上記の計数は10億円未満を四捨五入している。 (注 2 ) 「Ⅱ 1 .⑴給与所得控除の見直し」の平年度の増収見込額は平成29年施行分適用後の増収見込額であり、 カッコ書きは平成28年施行分適用後の増収見込額である。 (注 3 ) 復興特別法人税の 1 年前倒し廃止に伴う特別会計分の減収見込額は、平成26年度▲6,453億円となる。 (注 4 ) 「Ⅱ 3 .⑴車体課税」の増減収見込額は、特別会計分(平年度▲ 4 億円、初年度34億円)を含む。 (注 5 ) 地方法人税(仮称)の創設による特別会計分の増収見込額は、平年度4,845億円、初年度 3 億円。地方 法人特別譲与税の増減収見込額(国税の税制改正に伴うものを含む。)は、平年度▲7,100億円、初年度▲ 211億円となる(総務省試算)。
三 平成26年度税制改正の概要
1 デフレ脱却・経済再生に向けた税制措
置
⑴ 復興特別法人税の 1 年前倒し廃止 足元の企業収益を賃金の上昇につなげていく きっかけとするため、平成24年度から 3 年間の 時限措置として課されている復興特別法人税を 1 年前倒しして廃止することとしました。この 廃止により、法人税率は25.5%まで下がること となります。 ⑵ 民間投資と消費の拡大 ① 所得拡大促進税制の拡充 個人の所得水準の改善を通じて消費を一層 喚起していくため、平成25年度税制改正にお いて創設された所得拡大促進税制の拡充措置 を講じることとしました。具体的には、より 多くの企業が着実に賃上げを行うことを支援 するため、給与等支給増加割合の要件の見直 し(基準年度である平成24年度と比較して、 現行では 5 %以上の増加としている基準を、 平成25・26年度は 2 %以上、平成27年度は 3 %以上、 平成28・29年度は 5 %以上という基 準に変更)を行うこととしました。また、企 業の従業員構成の多様性に配慮するため、平 均給与等支給額に係る要件の見直し(全従業 員の平均給与での比較から継続従業員の平均 給与での比較に変更)を行うこととしました。 ② 生産性向上設備投資促進税制の創設 設備の更新等を促進し、生産性の向上を図 るとともに、国内における設備投資需要を喚 起するため、生産性の向上につながる設備 (①先端設備、 ②生産ライン等の改善につな がる設備)への投資に対して、即時償却又は 5 %(建物等は 3 %)の税額控除を可能とす る措置を創設することとしました。なお、① 先端設備とは、最新モデルであり、かつ旧モ デルと比較して 1 %の生産性向上を達成して いるような設備をいい、②生産ライン等の改 善につながる設備とは、投資計画上の投資利 益率が15%以上(中小法人は 5 %以上)であ るような設備をいいます。 ③ 研究開発税制の拡充 研究開発投資を一層加速させるため、研究 開発税制について、上乗せ措置(増加型・高 水準型)の適用期限を 3 年間延長するととも に、そのうち増加型の措置について、従来は どれだけ試験研究費が増加しても税額控除率 を一律 5 %としていたところを、今般の改正 においては、試験研究費の増加率に応じて税 額控除率を引き上げる仕組み(控除率 5 % ⇒ 5 %~30%)に改組することとしました。 ④ ベンチャー投資促進税制の創設 民間企業等の資金を活用したベンチャー企 業への投資を促進するため、起業家と民間企 業との橋渡し役となるベンチャーファンドを 通じて、事業拡張期にあるベンチャー企業に 出資した場合、その損失に備える準備金につ き損金算入を可能とする(出資金の80%損金 算入)こととしました。 ⑤ 事業再編促進税制の創設 法人の収益力の飛躍的な向上にむけた戦略 的・抜本的な事業再編を強力に促進するため、 複数企業間で経営資源の融合による事業再編 を行う場合、その損失に備える準備金につき 損金算入を可能とする(出資金・貸付金の70 %損金算入)こととしました。 ⑥ 設備投資につながる制度・規制面での環境整備に応じた税制 民間投資を活性化していくためには、税制 面の支援だけでは限界があり、単なる更新投 資の域を超えた新たな投資を後押しするよう な、制度・規制面での環境整備等が必要です。 平成26年度税制改正においては、こうした観 点を踏まえ、例えば、老朽化した建築物の更 新等による防災力の向上等に向けた制度・規 制面の対応が行われたことに対応し、既存建 築物の耐震改修投資の促進のための税制措置 を創設することとしました。具体的には、耐 震改修促進法(平成25年11月施行)の耐震診 断結果の報告を行った事業者が、報告から 5 年以内に耐震改修により取得等をする耐震改 修対象建築物の部分について、その取得価額 の25%の特別償却を可能とすることとしまし た。 ⑦ NISAの使い勝手の向上 家計の安定的な資産形成を支援するととも に、経済成長に必要な成長資金を確保する観 点から平成25年度税制改正において創設した NISA(非課税口座内の少額上場株式等に係 る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)の 利便性を向上させるため、 1 年単位でNISA 口座を開設する金融機関の変更を可能とする とともに、NISA口座を廃止した場合にNISA 口座の再開設を可能とすることとしました。 ⑧ 交際費課税の見直し 法 人 の 支 出 す る 交 際 費 等( 1 人 当 た り 5,000円以下の飲食費等を除きます。)につい ては、原則として損金不算入であるところを、 これまで中小法人については800万円を限度 に損金算入を認めることとしていました。今 般の改正においては、より一層の消費の拡大 を通じた経済活性化を図るため、その適用期 限を 2 年間延長するとともに、大法人も含め、 飲食のための支出の50%を限度に損金算入を 可能とすることとしました。なお、中小法人 については、現行の定額控除(800万円)と の選択制としました。 ⑶ 地域経済の活性化(中小企業投資促進税制の 拡充など) 地域経済を支える中小企業の投資の活性化を 図るため、中小企業投資促進税制について、そ の適用期限を 3 年間延長するとともに、拡充措 置を講じることとしました。具体的には、産業 競争力強化法の施行日(平成26年 1 月20日)か ら平成29年 3 月31日までに取得等をした特定機 械装置等(機械装置並びに一定の工具、器具備 品及びソフトウェア)が、先述した生産性向上 設備投資促進税制の対象設備等である場合には、 資本金が3,000万円以下の法人については、即 時償却又は10%の税額控除、資本金が 1 億円以 下の法人については、即時償却又は 7 %税額控 除を可能とすることとしました。 ⑷ 国家戦略特区 国家戦略特区の創設に伴い、我が国の経済社 会の活力の向上等に寄与することが見込まれる 事業の実施を支援するための措置を講じること としました。具体的には、設備投資減税を創設 する(特別償却:機械装置等については即時償 却(中核事業)・50%(中核事業以外)、建物等 については25%、税額控除:機械装置等につい ては15%、建物等については 8 %)とともに、 研究開発税制の特例を設ける(即時償却の対象 となる開発研究用設備の減価償却費について研 究開発税制における特別試験研究費とみなす (税額控除割合12%))こととしました。
2 税制抜本改革の着実な実施
⑴ 給与所得控除の上限の引下げ 給与所得控除については、その水準が実際の 勤務関係経費や主要国の水準に比して過大であ ること等から、長年、政府税制調査会においても見直しの必要性が指摘されてきたところです が、今般の改正においては、給与所得控除の上 限額が適用される給与収入1,500万円(控除額 245万円)という基準を、平成28年より1,200万 円(控除額230万円)に、平成29年より1,000万 円(控除額220万円)に引き下げることとしま した。 ⑵ 地方法人課税の偏在是正に向けた取組み 平成26年 4 月からの消費税率の引上げによる 地方消費税の増収により、地方団体間の財政力 格差が拡大することが見込まれることから、法 人住民税法人税割を都道府県・市町村あわせて 4.4%引下げ、国税として税率4.4%の地方法人 税を創設し、その税収の全額を交付税原資化す ることとしました。また、あわせて、「偏在性 の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間 の措置」とされている地方法人特別税・譲与税 の規模を 3 分の 1 に縮小し、法人事業税に復元 することとしました。 ⑶ 自動車重量税のグリーン化 平成25年度与党税制改正大綱において、自動 車重量税については、「財源を確保して、一層 のグリーン化等の観点から燃費性能等に応じて 軽減する」との方針が示されたことを踏まえ、 エコカー減税の拡充(平成26年度以降新車購入 する「免税車」は 2 回目車検時も免税)を行う とともに、一般に環境負荷が大きい経年車(13 年超~18年未満)に対する税率の引上げを行う こととしました。
3 復興支援のための税制上の対応
東日本大震災により多数の被災者が離職を余儀 なくされた地域又は生産基盤の著しい被害を受け た地域の雇用機会の確保に寄与する事業を行う法 人が、復興産業集積区域において機械等を取得し た場合に即時償却できる制度の適用期限を 2 年延 長することとしました。4 納税環境整備
⑴ 猶予制度の見直し 滞納の早期段階での計画的な納付を確保する ため、納税者の申請に基づく換価の猶予の創設 等を行うこととしました。 ⑵ 税理士制度の見直し 税理士制度について、申告納税制度の円滑か つ適正な運営に資するよう、税理士に対する信 頼と納税者利便の向上を図るため、税理士の業 務や資格取得のあり方などの見直しを行うこと としました。 ⑶ 消費税の簡易課税制度のみなし仕入率の見直 し 消費税の簡易課税制度については、課税の適 正化の観点から、累次の見直しを行ってきてい るところですが、今般のみなし仕入れ率の実態 調査の結果、実際の仕入れ率がみなし仕入れ率 を大きく下回っていた 2 業種について見直し (金融業及び保険業60%⇒50%、不動産業50% ⇒40%)を行うこととしました。5 その他
⑴ 外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し 観光立国の推進や外国人旅行者の消費拡大に よる地域活性化の観点から、一定の不正防止措 置を講じることを前提に、免税対象品目を飲食 料品や化粧品等の消耗品へ拡大するとともに、 購入記録票等の様式の弾力化及び手続の簡素化 を行うこととしました。 ⑵ 国際課税原則の総合主義から帰属主義への変 更 外国法人に対する課税原則について、いわゆ る「総合主義」に基づく従来の国内法を、2010 年改訂後のOECDモデル租税条約に沿った「帰 属主義」に見直すこととしました。具体的には、外国法人の支店(PE)が得る所得については、 支店が本店から分離・独立した企業であった場 合の所得としました。現行の総合主義では、国 内事業所得と本店が稼得した国内源泉所得が日 本での申告対象になっていたところ、帰属主義 では、支店に帰属する所得、すなわち、国内事 業所得とともに第三国で稼得する所得が申告対 象となります。