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IFRS(国際会計基準)入門

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IFRS(国際会計基準)入門

~IFRS の概要、別記事業・金融商品をめぐる動向、及び XBRL~

(株)富士通総研・公認会計士 高原雅純

はじめに

金融庁企業会計審議会は2009 年 6 月 30 日、「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中 間報告)」を議決・公表、日本でもいよいよ2015 年又は 2016 年に国際財務報告基準(IFRS、通称:国 際会計基準)の強制適用を開始するロードマップが公表された。強制適用の判断時期は、2012 年を目処 としている。 本稿においては、以下の構成により、IFRS の原文を交えたかたちで IFRS の概要、別記事業・金融商 品をめぐる動向、及びXBRL 等を中心に紹介することとしたい。 1. IFRS の概要 2. 別記事業(銀行、保険等)の取扱い 3. 金融商品をめぐる IFRS の動向 4. IT システム部門の重要性 5. XBRL 6. 富士通の IFRS 関連サービス なお、本文中におけるIFRS の日本語訳は、「国際財務報告基準(IFRSs)2007」(著:国際会計基準審 議会 、翻訳:企業会計基準委員会・財務会計基準機構 、出版:レクシスネクシスジャパン)を主とし て引用している。

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1. IFRS の概要

IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)は、世界的に承認され遵守 されることを目的として、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB) によって設定される会計基準の総称である。

2000 年の証券監督者国際機構(IOSCO)による国際会計基準の承認、2001 年の国際会計基準委員会 (IASC)から国際会計基準委員会(IASB)への改編、2005 年の欧州委員会(EC)による EU 域内上場企業へ のIFRS 導入等を機に、IFRS を自国の会計基準として適用する国及び IFRS への収斂を目指している国 は、100 ヶ国以上に急速に増加している。既に IFRS を適用済みの EU、豪州、香港等をはじめ、2011 年までにはカナダ、韓国等も適用の予定である。また2002 年以降 IFRS との収斂を進めてきた米国に おいては、2008 年 11 月、米国証券取引委員会(SEC)によって IFRS 適用のロードマップ案が公表され た。当案は、2009 年 12 月 15 日以降終了事業年度から特定の要件を満たす企業に対して任意適用を認 め、2011 年に強制適用するかどうかを決定、強制適用の場合には 2014 年から 2016 年に間に段階的に 適用するというものである。 そしていよいよ日本でも、冒頭に記載のとおり、金融庁企業会計審議会が2009 年 6 月 30 日に「我が国 における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を議決・公表した。一定の上場企業の2010 年3 月期の連結財務諸表から任意適用を容認し、強制適用するかどうかは 2012 年を目処に決定、強制 適用決定の場合は2015 年又は 2016 年に適用を開始(暦年か年度かは未定)する予定である。SEC案の ような段階適用か、又は一斉適用かは未定である。2004 年にIFRS推進室を設立した富士通をはじめ、 わが国の国際的企業の一部は既にIFRSの適用準備を進めているが、大多数の日本企業はいよいよこれか らIFRS適用準備を開始するところである。 2009 年 1 月 1 日時点の IFRS の一覧は、以下の通りである。 No タイトル No タイトル IFRS1 国際財務報告基準の初度適用 IAS37 引当金、偶発負債及び偶発資産 IFRS2 株式報酬 IAS38 無形資産 IFRS3 企業結合 IAS39 金融商品: 認識及び測定 IFRS4 保険契約 IAS40 投資不動産 IFRS5 売却目的で保有する非流動資産及び廃止事 業 IAS41 農業 IFRS6 鉱物資源の探査及び評価 IFRIC1 廃棄、原状回復及びそれらに類似する既存の負債の変動 IFRS7 金融商品:開示 IFRIC2 協同組合に対する組合員の持分及び類似の金融商品 IFRS8 事業セグメント IFRIC4 契約にリースが含まれているか否かの判断 IAS1 財務諸表の表示 IFRIC5 廃棄、原状回復及び環境再生ファンドから生じる持分に 対する権利

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IAS2 たな卸資産 IFRIC6 特定市場への参加から生じる負債-電気・電子機器廃棄 IAS7 キャッシュ・フロー計算書 IFRIC7 IAS 第 29 号「超インフレ経済下における財務報告」に

規定される修正再表示アプローチの適用 IAS8 会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬 IFRIC8 IFRS 第 2 号の範囲

IAS10 後発事象 IFRIC9 組込デリバティブの再査定 IAS11 工事契約 IFRIC10 中間財務報告と減損

IAS12 法人所得税 IFRIC11 IFRS 第 2 号-グループ及び自己株式取引 IAS16 有形固定資産 IFRIC12 サービス譲与契約

IAS17 リース IFRIC13 カスタマー・ロイヤルティ・プログラム

IAS18 収益 IFRIC14 IAS 第 19 号-確定給付資産の制限、最低積立要件及びそれらの相互関係 IAS19 従業員給付 IFRIC15 不動産の建設契約 IAS20 政府補助金の会計処理及び政府援助の開示 IFRIC16 在外営業活動体に対する純投資のヘッジ IAS21 外国為替レート変動の影響 IFRIC17 非現金資産の所有者への分配 IAS23 借入費用 SIC7 ユーロの導入 IAS24 関連当事者についての開示 SIC10 政府援助―営業活動と個別的な関係がない場合 IAS26 退職給付制度の会計及び報告 SIC12 連結―特別目的事業体 IAS27 連結及び個別財務諸表 SIC13 共同支配企業―共同支配投資企業による非貨幣性資産の拠出 IAS28 関連会社に対する投資 SIC15 オペレーティング・リース―インセンティブ IAS29 超インフレ経済下における財務報告 SIC21 法人所得税―再評価された非減価償却資産の回収 IAS31 ジョイント・ベンチャーに対する持分 SIC25 法人所得税―企業又は株主の課税上の地位の変化 IAS32 金融商品: 表示 SIC27 法的形態はリースであるものを含む取引の実体の評価 IAS33 1株当たり利益 SIC29 サービス譲与契約:開示 IAS34 中間財務報告 SIC31 収益―宣伝サービスを伴うバーター取引 IAS36 資産の減損 SIC32 無形資産―ウェブサイト作成費用 上表内の IFRS(IASB が策定する国際財務報告基準)、IFRIC(国際財務報告解釈指針委員会が策定す る指針)、IAS(IASB の前身である国際会計基準委員会が策定した国際会計基準)、SIC(IFRIC の前身 の旧解釈指針委員会が策定した指針)の全ての基準・指針群の総称が、広義のIFRS(IFRSs)である。 IFRS の内容を確認する場合は、;  収益関連:IAS18・IAS11・IFRIC12・IFRIC13・IFRIC15・IFRIC18・SIC29・SIC31  金融商品関連:IAS32・IAS39・IFRS7・IFRIC9・IFRIC16  企業結合・連結会計関連:IFRS3・IAS27・IAS28・IAS31・SIC12・SIC13・IFRIC17 などのように、企業活動の種類ごとにグルーピングして捉えると効率的である。 なお、金融商品会計(IAS39 等)、財務諸表の表示(IAS1)、法人所得税(IAS12)、リース(IAS17)、収 益(IAS18)、従業員給付(IAS19)、引当金等(非金融負債:IAS37)、をはじめ、多くの分野が 2011 年までに改訂される見込みであり、現在それぞれがディスカッション・ペーパー(Discussion Paper: DP) 又は公開草案(Exposure Draft: ED)の段階にある。詳細は、IASB(IASCF)のウェブサイト (http://www.iasb.org/)を参照頂きたい。

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2. 別記事業(銀行、保険等)の取扱い

銀行業や保険業などのわが国の金融機関におけるIFRS 適用にとって、重要な特殊事情の一つが「別記 事業」の取扱いである。 「別記事業」とは、財務諸表等規則第二条によって、当該事業の所管官庁に提出する財務諸表の用語、 様式及び作成方法について法令の定めがある場合、又は当該事業の所管官庁が財務諸表等規則に準じて 制定した財務諸表準則等がある場合に、当該事業を営む株式会社又は指定法人が法の規定により提出す る財務諸表の用語、様式及び作成方法については、財務諸表等規則等の規定によらず、その法令又は準 則の定めによるものとされる事業をいう。別記事業に該当する事業の内容は、財務諸表等規則の「別記」 に列挙されている。銀行・信託業、保険業などはこれに含まれる。 これによって銀行・信託業及び保険業は、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の企業情報開示に おいて財務諸表を提出する場合、財務諸表等規則等に加えて、銀行・信託業では「銀行法施行規則」、保 険業では「保険業法施行規則」に基づいて財務諸表を作成している。20 余りある別記事業のなかでも特 に銀行・信託業が基づく「銀行法施行規則」や保険業が基づく「保険業法施行規則」では、個別財務諸 表とは別に連結財務諸表の様式・取扱いが指定されている点で稀な業種であり、これらの規則及び様式 によって、従来これらの業種の日本基準の連結財務諸表は高い比較可能性が担保されてきたと考えられ る。 本稿冒頭に記載したわが国のIFRS 適用ロードマップである「我が国における国際会計基準の取扱いに 関する意見書(中間報告)」(金融庁企業会計審議会、2009 年 6 月 30 日)では、別記事業について、以 下のように記載されている。 将来的な強制適用の検討(抜粋) 強制適用対象及び方法等 また、強制適用に当たっては、実務対応上必要な期間として、強制適用の判断時期から少なくとも3年の準備期間 が必要になるものと考えられる(すなわち2012年に強制適用を判断する場合には、2015年又は2016年に適用開始)。 さらに、強制適用を判断するに当たって、IASBが作成するIFRSをそのまま適用するか、一部修正又は適用除外とす るか否かについては、IFRSの内容、IFRSの基準設定の状況(デュー・プロセスを含む)を見極める必要がある。 強制適用については、会計基準は財務報告におけるいわばものさしとして、これに違反すれば法的な制裁も発動さ れ得るという極めて重い意味を持つものであり、万が一IASBが作成したIFRSに著しく適切でない部分があるため、 我が国において「一般に公正妥当と認められる」会計基準とは認められない場合には、当局として、当該部分の適 用を留保せざるを得ない場合があり得る。 このため、当局として、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務諸表規則)等において、 我が国における個々のIFRSの適用を認めるための適切な規定を整備する必要がある。

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なお、財務諸表等規則の別記に掲げる事業(別記事業)については、その公益性や事業の特殊性等から、一定の当 局の監督を受けており、規制や当局の監督との関係、財務諸表の作成負担などの観点からの別途の検討も必要であ る。 IFRS に対する実務の対応、教育・訓練(抜粋) 当局 開示執行当局、監査人監督当局における教育、訓練、指針等の見直しが必要である。前記のとおり、比較可能性向 上の観点から会計実務も国際的に収れんする必要があることを踏まえ、例えば、現時点から、IFRSについての理解 を深めるとともに会計実務の実態把握(比較分析)に取り組む必要がある。また、開示規制、監査基準等の見直し の必要性、特に、別記事業等においては、各所管当局が、それぞれの立場からの対応の必要性の検討を早めに行っ ておく必要がある。 当初の公開草案から加筆修正されてはいるものの、当中間報告の議決・公表文書では上記のように、別 記事業については、規制や当局の監督との関係、財務諸表の作成負担などの観点からの「別途の検討も 必要」である、という記載であり、当中間報告ではIFRS 適用における別記事業の取扱いの結論は特に 明記されていない。 企業会計審議会画調整部会の議事録によると、『別記事業については「別途の検討も必要」との記載があ るが、これはカーブアウト(IFRS の基準の一部を適用除外すること)を想定されているのか、適用時 期の話を想定されているのか、確認したい』という質問に対しての事務局側(金融庁・三井企業開示課 長)の回答を以下に記載する。(2009 年 6 月 11 日) 『別記事業につきましては、悩ましい問題がありまして、主には個別の財務諸表の部分が多いかと思いますが、銀 行のように連結についても規制会計が存在するところはございます。したがいまして、現時点では軽々な結論は出 さないと言っているわけではございます。ものによりけりではありますが、できるだけ強制適用のときに上場企業 は全体として連結財務諸表については国際会計基準が適用できることが目標であると思っています。その意味で、 できるだけ早い段階でそれぞれの規制当局といろいろな話し合いをしていく必要があろうかと思います。そのため にも任意適用企業のサンプルをできるだけ増やして頂いて、そういう実例をベースに具体的な検討を各当局として いく。例えば銀行であれば、もちろんバーゼル合意との関係もありますが、銀行監督当局と十分意見交換をしてい ただきたいと思っております。』 (http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/gijiroku/kikaku/20090611.html) また、税務研究会・企業懇話会における三井企業開示課長のコメントを以下に記載する。(2009 年 7 月 13 日) Q.別記事業への IFRS の導入は? A.任意適用の段階では、会計の考え方自体は日本の今の会計基準をベースに開示について一定の特例を求める方針。 従って、2010 年 3 月期については、別記の規則にある開示は行う必要がある。その上で IFRS の任意適用に基づく 開示ができる。強制適用の段階では、別記事業の開示の仕方そのものを IFRS に合わせるのか合わせないのか決定す る。それぞれ規制当局の規制目的やその考え方があると思うので、今後調整していきたい。(引用元:週刊経営財務

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2009 年 8 月 3 日) 銀行業、保険業等の別記事業は、IFRS 適用における別記事業の取り扱いについて今後の動向に特に注意が必要であ る。 銀行業、保険業等の別記事業は、IFRS 適用における別記事業の取り扱いについて今後の動向に特に注 意が必要である。

3. 金融商品をめぐる IFRS の動向

わが国の金融機関におけるIFRS 適用において、最も重要なインパクトを与えるものの一つが金融商品 会計である。IFRS の金融商品会計基準の中核である IAS39 号は、IFRS の中で最も大部でありかつ 2010 年までに全面的に現行の規定と置き換わる予定である。本稿では直近の重要な論点を紹介することとし たい。

(1) 金融商品の分類及び測定

金融商品会計については、昨秋のリーマン・ショックの後、金融商品の再分類の容認措置が急遽決定さ れたのは記憶に新しいところであるが、持ち合い株等の保有残高が大きいわが国の金融機関は、今後も 基準改訂の動向に注意する必要がある。本稿においては、IASB から公表された直近の公開草案におい て、わが国金融機関が突出して保有している持ち合い株や長期保有国債等が関連する有価証券の取扱い について、重要な改訂案が示されていることを紹介したい。 まず、IFRS と日本基準における金融資産の現状の分類及び測定の規定を以下に整理する。 ① 現行の基準 IFRS における金融資産の分類及び評価 金融資産の分類 当初認識後の測定、 及び評価差額の認識方法 減損 1 損益を通じて公正価値(fair

value through profit or loss) により測定する金融資産 (1) 売買目的保有(held for trading) (2) 当初認識時に当期損益を 通じて公正価値で測定するも のとして企業が指定したもの 公正価値(Fair value)で測定し、公正価 値の変動により生じた利得及び損失は 当期損益(Profit or loss)で認識する。 -

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2 満期保有目的投資 (held-to-maturity investments) 償却原価 (Amoritsed cost) 認識する (戻入は可) 3 貸付金及び債権

(loans and receivables)

償却原価 (Amoritsed cost) 認識する (戻入は可) 4 売却可能金融資産 (available-for-sale financial assets) 公正価値(Fair value)で測定し、公正価 値の変動により生じた利得及び損失は その他包括利益

(Other comprehensive income)で認識 する。 認識する (持分金融商品 の戻入は不可) (負債商品の戻 入は可) (参考)日本基準における有価証券の分類と評価 有価証券の分類 当初認識後の測定、及び評価差額の認識 方法 減損 1 売買目的有価証券 IFRS と同じ - 2 満期保有目的の債券 IFRS と同じ 認識し、償却原 価法の適用を停 止する。 (戻入は不可) 3 その他有価証券 時価をもって貸借対照表価額とし、評価 差額は洗い替え方式に基づき、次のいず れかの方法により処理する。 (1) 評価差額の合計額を純資産の部に計 上(全部純資産直入法)。 (2) 時価が取得原価を上回る銘柄に係る 評価差額は純資産の部に計上し、時価が 取得原価を下回る銘柄に係る評価差額 は当期の損失として処理する(部分純資 産直入法)。 (純資産の部に計上される評価差額は、 税効果考慮後) 認識する (一時的な下落 の判定について 30%、50%の数 値基準があり、 一時的でない下 落は減損認識す る。 (戻入は不可) (子会社株式及び関連会社株式、市場価格のない有価証券を除く) IFRS と日本基準において、有価証券の分類に関して実質的な差異は無い。ただし、売買目的有価証券 への分類基準は、日本基準の方がより制限的である。また、IFRS の分類 1 の(2)「当初認識時に当期損 益を通じて公正価値で測定するものとして企業が指定したもの」は、「公正価値オプション」と呼ばれ、 日本基準に対応するものは存在しない。評価差額の認識については、日本基準では、その他有価証券に ついて部分純資産直入法を選択できる点が異なる。市場価格の無い持分金融商品の評価方法、および減

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損の取扱いも異なる。

後述の公開草案との比較において、ポイントとなる現行のIFRS の原文を以下に記載する。

IAS 第 39 号第 55 項(抜粋)

A gain or loss on an available-for-sale financial asset shall be recognised in other comprehensive income, except for impairment losses and foreign exchange gains and losses, until the financial asset is derecognised. At that time the cumulative gain or loss previously recognised in other comprehensive income shall be reclassified from equity to profit or loss as a reclassification adjustment

売却可能金融資産に係る利得又は損失は、減損損失及び為替差損益を除き、当該金融資産の認識の中止が行われる 時まで、その他包括利益の中で認識しなければならない。当該金融資産の認識の中止が行われる時には、それまで その他包括利益に認識されていた利得又は損失の累積額は、再分類調整として資本の部から当期損益に再分類され なければならない。 現行のIFRS では、売却可能金融資産について公正価値の変動により生じた利得及び損失として認識さ れたその他包括利益は、当該有価証券を売却した場合、いったん損益計算書の当期利益を経由する(「リ サイクリング」する)ことを意味している。 ② IASB の改訂案 上記のような現在の金融商品の分類・測定に関して、2009 年 7 月 14 日、IASB から公開草案「Financial Instruments: Classification and Measurement」(同年9 月 14 日まで意見募集)が公表された。当草案 では、以下のように分類・測定方法が変更される案が提示されている。

金融商品のうち、(1) 基本的な貸出金の性質(basic loan features)を有し、かつ(2) 契約金利を基準と して管理(managed on a contractual yield basis.)されているという条件を満たすものは償却原価で評価 し、当条件を満たさないものは公正価値で評価する。(公開草案第4 項, 第 5 項)

当公開草案における注目すべき基準は、以下の部分である。

公開草案第 21 項

At initial recognition, an entity may make an irrevocable election to present in other comprehensive income subsequent changes in the fair value of investments in equity instruments within the scope of this [draft] IFRS that are not held for trading.

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トレーディング目的で保有される持分金融商品(普通株式等)の評価損益は損益に計上する。一方、ト レーディング目的で保有されるもの以外の持分金融商品への投資については、当初の認識において、当 該投資の公正価値の変動による評価差額を、当期損益ではなくその他包括利益の中で表示することを選 択することができる。いったんその他包括利益で表示することを選択すると、事後的にこの選択を取り 消すことはできない。 公開草案冒頭の中の説明部分

There would be no transfers from other comprehensive income to profit or loss (‘recycling’) and hence no impairment requirements. This proposal is intended to assist users of financial statements to identify separately the gains and losses on equity instruments that are held for purposes other than realising direct investment gains and to assess the implications of such fair value changes accordingly.

この提案によれば、その他包括利益から当期損益への振替え(「リサイクリング」)はできない。したが って減損を認識する要求も無い。この提案の意図は、財務諸表の利用者が、トレーディング目的以外の 目的によって保有する持分金融商品に係る損益を分離して認識し、したがってそのような公正価値の変 動の意味を評価することを支援することである、とされている。 トレーディング目的で保有されるもの以外の持分金融商品への投資について、その他包括利益における 表示を当初選択した場合、公正価値で評価した評価差額は、当期損益には最後まで計上されず、その他の 包括利益から直接、利益剰余金に振替えられることになる。(これはわが国の損益計算書でいう「当期純 利益」を経由しないということであり、従来わが国が主張してきた当期純利益の性質が変化することを 意味する。) この取扱いに関して、いわゆる「益出し」が不可能となることでわが国の金融機関等に対する影響の重 要性が指摘されているが、以下のような議論の背景を多面的に捉える必要がある。  包括利益至上主義に対する当期純利益の優位性、及びその前提としてのリサイクリングを重視して きたわが国の主張  わが国の金融機関等の持ち合い株等の保有残高は、世界的にも突出しているという状況  金融危機以降の政治的圧力を含む流動的な状況 なお長期保有国債については、(1) 基本的な貸出金の性質を有し、かつ(2) 契約金利を基準として管理さ れているという条件を満たすか否かで、償却原価測定か公正価値測定(当期損益)のいずれかとなるが、 いずれの場合においても現状の「その他有価証券」とは異なる処理方法となる。

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(2) 認識の中止

金融資産の認識の中止とは、既に認識されている金融資産を貸借対照表(財政状態計算書)からオフ・ バランスにすることを意味するもので、金融資産の譲渡、特定目的会社による債権流動化取引等の取引 に関係することに加えて、現在IASB が基準改訂の公開草案を公表しているため、金融機関にとってき わめて重要な論点である。 ① 現行の基準 現行のIAS39 号においては、金融資産からのキャッシュ・フローに対する契約上の権利が消滅した場合, 又は,所定の要件を満たした適格の譲渡の場合においてのみ、金融資産の認識の中止を要求する。金融 資産の譲渡における認識の中止の要件に関して、重要な原文を以下に紹介する。 認識の中止の要件 IAS 第 39 号第 20 項(抜粋)

When an entity transfers a financial asset, it shall evaluate the extent to which it retains the risks and rewards of ownership of the financial asset. In this case:

(a) if the entity transfers substantially all the risks and rewards of ownership of the financial asset, the entity shall derecognise the financial asset and recognise separately as assets or liabilities any rights and obligations created or retained in the transfer.

(b) if the entity retains substantially all the risks and rewards of ownership of the financial asset, the entity shall continue to recognise the financial asset.

(c) if the entity neither transfers nor retains substantially all the risks and rewards of ownership of the financial asset, the entity shall determine whether it has retained control of the financial asset. In this case:

(i) if the entity has not retained control, it shall derecognise the financial asset and recognise separately as assets or liabilities any rights and obligations created or retained in the transfer.

(ii) if the entity has retained control, it shall continue to recognise the financial asset to the extent of its continuing involvement in the financial asset.

企業が金融資産を譲渡する場合、当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値をどの程度保持しているかを、次の ようにして評価しなければならない。 (a)企業が、当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転している場合には、当該金融資 産の認識の中止を行い当該譲渡において創出又は保持された権利及び義務をすべて資産又は負債として別個に認識 しなければならない。 (b)企業が、当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを保持している場合には、当該金融資 産の認識を継続しなけれぱならない。 (c)企業が『当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転したわけでも、ほとんどすべて を保持しているわけでない場合には、当該金融資産に対する支配を保持しているかどうかを、判定しなければなら ない。この場合において、 (i)企業が支配を保持していない場合には、企業は当該金融資産の認識の中止を行い、当該譲渡において創出

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又は保持された権利及び義務をすべて資産又は負債として別個に認識しなければならない。 (ii)企業が支配を保持している場合には、当該金融資産に対して継続的関与を有している範囲において、当 該金融資産の認識を継続しなければならない。 上記のように、金融資産の譲渡については、リスクや経済価値が実質的に移転しているかどうかの判断 を重視する「リスク・経済価値アプローチ」が採用されているが、それのみで判断ができない場合には さらに支配を保持しているかどうかという「支配基準」を二次的に利用している点に特徴がある。なお、 金融資産のキャッシュ・フローを受け取る契約上の権利を保持しているが、一方で、一つ又はそれ以上 の受取人に当該キャッシュ・フローを支払う契約上の義務を引き受けている場合には、特定の条件を満 たす場合には、金融資産の譲渡として扱う。(パス・スルーの要件) なお、日本基準では、「金融商品に関する会計基準」第 8 項、第 9 項において; 金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したと きは、当該金融資産の消滅を認識しなければならず、金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転 するのは、次の要件がすべて充たされた場合とする。  譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全され ていること  譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること  譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有してい ないこと とされており、日本基準では、法的要件が必須であることが、IFRS との最も重要な相違点である。 ② IASB の改訂案

IASB は、2009 年 3 月 31 日、公開草案「ED/2009/3 Derecognition: Proposed amendments to IAS 39 and IFRS 7(認識の中止:IAS 第 39 号及び IFRS 第 7 号の改訂案)」を公表し、新たな認識の中止モデ ルを提案している(2009 年 7 月 31 日まで意見募集)。またこの草案は、過半数には至らなかった IASB メンバーにより支持されている代替的モデルについても言及している。

認識の中止は、IASB 及び FASB における MoU 項目として位置付けられていたが、昨今の金融危機の 影響を受けて緊急を要する課題としてIASB は作業を加速化させ、ディスカッション・ペーパーの公表 を経ずに直接に公開草案の公表に至ったものである。

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公開草案における認識の中止モデルでは、「支配」の存在を重要視している。例えば、現金と引き換えに 金融資産を第三者に譲渡したが、譲渡人が譲渡資産に対してコール・オプションのような何らかの関与 を引き続き保持している場合など、単純な売り切りではない金融資産の譲渡を、資産の売却(売買取引) とみなすのか、又は資産を担保とする借入(金融取引)とみなすのかに関する判断基準を列挙している。

公開草案:認識の中止 第 17A 項 An entity shall derecognise the Asset if:

(a) the contractual rights to the cash flows from the Asset expire;

(b) the entity transfers the Asset and has no continuing involvement in it; or

(c) the entity transfers the Asset and retains a continuing involvement in it but the transferee has the practical ability to transfer the Asset for the transferee’s own benefit.

上記のように、認識の中止の条件として提示されたのは、(1) 資産からのキャッシュ・フローに対する 契約上の権利の失効、(2) 企業は資産を譲渡し、その資産に対して継続的な関与を保持していない、(3) 企 業は資産を譲渡し、当該資産に対して継続的な関与を保持しているが、譲受人が自己の便益のためにそ の資産を譲渡する実務上の能力がある、の3つである。 注意すべきポイントは、上記(3) 譲渡対象資産を第三者に譲渡する事務上の能力に関して、資産の処分 が契約上禁止されていても、譲受人が入替資産(replacement asset)を容易に取得することができる場合 については実務上の能力を有するとされる点である。 公開草案:認識の中止 適用指針 AG52E 項(b) (抜粋) Factors to consider in assessing ‘practical ability to transfer’

A contractual prohibition on disposing of the Asset (or the absence of an explicit contractual right to dispose of it) may not prevent the transferee from having the practical ability to transfer the Asset to a third party if the transferee can readily obtain a replacement asset. Replacement assets are deemed to be readily obtainable if the Asset is actively traded on an accessible market (at the date of transfer).

この結果、従来は金融取引として処理されたきた多くの買い戻し条件付売却取引(レポ取引)や有価証 券の消費貸借取引が、(入替資産を容易に取得できる場合に該当し)売買取引とみなされ、取引の経済的 実態(金融取引)から乖離する可能性があり、加えて金融資産の一部譲渡について条件によっては一部 をオフ・バランスできないなど、現行実務に重要な変更をもたらす可能性が指摘されている。 当公開草案は、連結財務諸表に関する公開草案との相互関係を説明するために公開のラウンドテーブル の開催が予定されており、審議の行方に注意が必要である。

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(3) 金融資産の減損に対する期待損失モデル

IASB は、2009 年 6 月 25 日、「Request for Information (‘Expected Loss Model’) Impairment of Financial Assets: Expected Cash Flow Approach」を公表し、金融資産の減損に対する「期待損失モデ ル」の実現可能性についてコメントを求めている(期限:2009 年 9 月 1 日)

現行のIAS39 号では、償却原価で計上される金融資産に対する減損を、「発生損失モデル」に基づいて 認識・測定することを求めているが、金融危機を契機として当モデルに内在する矛盾や恣意性に批判が 寄せられている。

期待損失モデルの特徴について、原文を紹介する。

Request for Information (“Expected Loss Model’) 第 9 項抜粋

In summary, the main features of the expected cash flow approach include:

(a) interest revenue is recognised on the basis of expected cash flows (including expected credit losses) upon the initial recognition of an instrument.

(b) impairment results from an adverse change in credit loss expectations (ie expectations of credit losses are higher than those previously expected).

(c) an impairment loss is recognised in profit or loss and is measured as the difference between the carrying amount of the financial asset and the present value of the revised expected cash flows of that asset.

(d) when determining the present value of expected cash flows, fixed rate instruments are discounted using the effective interest rate calculated upon the initial recognition of the instrument and variable rate instruments are discounted using the current effective interest rate.

(以下省略) 「期待損失モデル」による場合、受取利息は、当該金融商品の当初認識時点における(期待損失を含む) 見積りキャッシュ・フローを基礎として認識される。減損は期待損失が変化することによって生じ、当 該減損損失は、当該金融資産の帳簿価額と修正後の見積りキャッシュ・フローの現在価値との差額とし て測定され損益計上される。見積りキャッシュ・フローの現在価値は、固定金利金融商品の場合は当初 認識時点の実効金利で割り引き、変動金利金融商品は現時点の実効金利で割り引くことによって決定さ れる。 予想損失モデルでは、結果的に、発生損失モデルよりも早い時点で貸倒損失の認識が生じる可能性があ る。よって発生損失モデルのように、金融危機のような事象が発生した時点で損失計上が増加し始め、 自己資本増強のための資産売却が相場の下げ幅を拡大するといった景気変動の増幅効果があるモデルよ りも、そのような効果を抑制する可能性がある。コメントの募集期限は2009 年 9 月 1 日で、それに続 く減損に関する公開草案は2009 年 10 月に公表予定である。(後述(5) その他を参照)

(14)

(4) 負債の測定における信用リスク

IASB は、2009 年 6 月 18 日、ディスカッション・ペーパー「DP/2009/2 Credit Risk in Liability Measurement(負債の測定における信用リスク)」を公表、コメントの募集期限は 2009 年 9 月 1 日で ある。 金融危機を契機として、多くの破たんの危機にあるような金融機関が自己の信用力低下により、自己の 負債の公正価値評価をした結果、利益を計上しているという現象に対して、現行のIFRS における負債 の公正価値評価の規定から計上される利益を維持すべきか、排除すべきかの意見を求めるものである。 賛成論と反対論を記述したスタッフ・ペーパーが添付されている。 負債の測定における信用リスクは、「自己の信用リスク」と呼ばれ、現行のIFRS では、借入金を公正価 値で測定する際に、自己の信用度の変動によって生じる損益を計上することを要求している。理論的で はあるが、常識・直感に反すると考える意見もあり、また金融市場の最近の動向は、この論点に関する 懸念を増大させている。当論点は、他のIASB のプロジェクト、特に金融商品、保険、公正価値測定、 及び引当金、偶発負債及び偶発資産と関連性がある。

(5) その他

IFRS の金融商品関連については、以下のような他の論点についても作業が進行中である。  公正価値測定(公開草案:2009 年 5 月 28 日)  減損(2009 年 10 月に公開草案公表予定)  ヘッジ(2009 年 12 月に公開草案公表予定) 前述(1) 金融商品の分類及び測定は、2009 年 12 月期の決算から適用、IAS39 号の内容は順次内容が入 れ替えられ、2010 年中に IAS39 号の全面刷新が完了する予定である。 なお、わが国ASBJ は、2009 年 5 月 29 日「金融商品会計の見直しに関する論点の整理」を公表した。 これは IASB と米国財務会計基準審議会(FASB)の共同プロジェクトへの対応の一環であり、2011 年を 目処に我が国の現行「金融商品会計基準」の見直し(置き換え)の可能性について論点を整理したものあ る。金融危機の影響で流動化している海外動向の動向を見きわめる状況のもと、当論点整理では(1) 金 融商品会計の範囲、(2) 金融商品の測定、(3) ヘッジ会計の3点について論点を示している。

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4. IT システム部門の重要性

IFRS適用における各企業のITシステム部門は、以下のような理由により、きわめて重要な役割を有している。  IFRS では各会計分野において、日本基準に比して詳細な注記情報の開示が求められており、追加 的なデータの収集が多く発生すること  基幹業務系のシステムをはじめ、人事労務系、固定資産系、連結会計等の決算処理系など、IFRS 適用のシステムインパクトは自社のIT システムの広範囲に及ぶこと  以下の理由により、経理部と監査法人の間における従来の日本基準からのIFRS への変更方針に関 する話し合いは、強制適用までの数年間延々と続く可能性があり、結果的にそれぞれの会計方針の 決定の後につづく IT システムの対応作業は、経過措置的な手順を含む長期間の作業となる可能性 があること  経理部にとってIFRS の理解等に時間が必要であること、  監査法人内部でも、日本基準の監査に加えて国際部等の追加的なレビューが必要となること、  プリンシプル・ベースに起因して結論の合意がなかなか得られない論点が多く含まれているこ と、  現状のIFRS に対してディスカッション・ペーパーや公開草案が公表されている分野はムービ ングターゲットとして困難な対応が迫られること したがって、IT システム部門の担当者は、社内の IFRS 適用プロジェクチームへの当初からの参画はも ちろんのこと、IFRS、及び自社が現在採用する日本基準をできるだけ早期に理解しておくことが必要で あり、なかでも特に早期にIFRS の概要や考え方を理解することが重要である。

5. XBRL

IFRS 適用による比較可能性の担保やグローバル連結管理をめぐる重要なテーマの一つが、「XBRL」で ある。XBRL とは、財務情報等のビジネス報告情報を効率的に作成・流通・利用できるように国際的に 標準化されたXML ベースの言語である。 XBRL は世界各国で普及がすすんでおり、日本では、金融庁 EDINET、東京証券取引所 TDnet、日本 銀行、国税庁等多くの規制当局でXBRL の適用が開始されている。

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我が国の金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムは EDINET と呼ばれ、現在は上場会社等約5000 社、ファンド等約 3000 本の有価証券報告書をはじめとする提出者 が利用している。金融庁は開示情報の二次利用性の向上等を目的とした EDINET の再構築を行い、平 成20 年 4 月以降に開始する事業年度等に係る財務書類について、XBRL 形式による財務諸表の提出が 義務化された。現在EDINET の XBRL データの範囲は、注記等をのぞく基本財務諸表部分であるが、 今後、注記等を含めた対象範囲の拡大の可能性がある。 また米国証券取引委員会(SEC)は、SEC登録企業に対して 2009 年 6 月よりXBRL形式による企業情報提 出を順次開始、3 年間で全対象企業に対して義務化することを決定しており、既にXBRLデータの提出が開 始されている。またIASCFでは、毎年のIFRSの改訂にあわせて年次でIFRSタクソノミの改訂を行ってい る。 XBRL データは、タクソノミと呼ばれる会計的意味の辞書とインスタンスと呼ばれる実績値データで構 成されている。XBRL の利用は、標準化された会計的意味を人間とコンピュータが共有することに他な らず、財務情報を提出者から利用者までサプライチェーンとして流通させることで、資本市場の効率性・ 正確性を飛躍的に向上させることが期待されており、具体的効果としては、提出企業における開示書類 作成業務の効率化及び連結経営管理の高度化、投資家等における開示情報の効果的・効率的利用、また 規制当局における審査業務等への効率化等が挙げられる。 本稿の冒頭で紹介した「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」(金融庁企 業会計審議会)では、XBRL の IFRS への対応について、以下のように示されている。 『我が国においては、同一データ形式による企業間又は経年での比較可能性の確保、投資情報の活用の 利便性の観点から、既にXBRL 形式(国際的に標準化された財務報告等に使用されるコンピュータ言語) により作成された財務諸表を開示することとなっている。このため、IFRS を適用する場合でも、IFRS に基づく財務諸表がXBRL 形式により開示可能な状況となっていることが必要である。

IASCF では、IFRS 対応の XBRL データ形式(タクソノミ)を開発しているが、IASCF がタクソノミ に用意した開示項目数は我が国のタクソノミの項目数に比べて著しく少ない状況にある。また、IASCF が開発したタクソノミは日本語対応となっていない等、我が国の電子開示システム(EDINET)に適合 しないものとなっている。

このため、IFRS 適用後においても、投資者への開示水準が後退することのないよう IFRS 対応のタク ソノミの項目数の国際的な環境整備に努めるとともに、我が国における任意適用開始時を一つの目途に

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EDINET 向けのタクソノミ等の開発を行い、IFRS の強制適用が決定された場合には、遅くとも IFRS が強制適用されるまでには導入できる状況となっていることも必要である。』

現在金融庁とIASCF・米国 SEC は、EDINET タクソノミ・IFRS タクソノミ・USGAAP タクソノミ 間の相互運用性の確保を目的とした共同作業中であると発表されており、将来的に、IFRS 準拠の連結 財務諸表及び注記等のXBRL データが、日本基準の個別財務諸表部分とともに金融商品取引法に基づく 企業情報開示を目的としてEDINET に提出される場合には、IFRS タクソノミ、EDINET タクソノミ、 拡張タクソノミ及びインスタンスは以下のような構造となる可能性がある。 IFRS タクソノミ及び関連ガイドライン等は、IASCF の XBRL 関連ウェブサイトを参照頂きたい。 (http://www.iasb.org/XBRL/XBRL.htm) XBRL とは、ある概念と別の概念の間の関係とその関係の内容(たとえば、「現金及び預金」と「流動 資産」の間の表示の親子関係や、計算関係、会計的意味の関係)や、特定の概念を説明する情報(勘定 科目名や参照元の会計基準)、また多軸で分類される情報(セグメント情報等)などの会計的な意味を、 従来の制約条件を乗り越えて人間とコンピュータが共有するものである。IFRS の適用における XBRL が果たす役割は、開示財務諸表に限定されているものではない。たとえば、海外の連結子会社等を含む IFRS ベースの連結グローバル経理規定を、ワードやエクセルだけでなく XBRL で記述することにより、 以下のような効果をもたらすことが期待される。  海外子会社を含む連結グループ全体において、複数言語の同時管理により、以下のような意味の共 有・変更管理を実施する。

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 概念の定義  特定の会計概念と別の会計概念の関係(たとえば、IFRS の原文と自社で使用する会計方針と の関係)  概念や概念間の関係を分類し、個別に管理を実施する。  グローバル連結経理規定と連結決算用レポーティングパッケージを有機的にリンクさせる。 IFRS への世界的な会計基準の収斂は、XRRL の普及との相乗効果によって、財務情報の国際的な比較 可能性の向上において飛躍的な効果をもたらすことが期待される。日本企業においては、早期に IFRS の基礎、概念フレームワーク及びXBRL 等を理解し、この世界共通のモノサシを開示財務諸表の作成目 的にとどまらず、連結グローバル経営管理のツールとして利用する準備を始めるべきである。

6. 富士通の IFRS 関連サービス

以上、IFRS の概要、別記事業・金融商品会計をめぐる動向、及び XBRL 等を中心に紹介してきた。わ が国の金融機関等においては、経理部門に限らず、特に情報システム部門の担当者は、早期にIFRS の 概要や概念のフレームワーク、金融商品会計等の現状や改訂動向を整理しておく必要があることを再認 識いただければ幸いである。 富士通では、

 2004 年に IFRS 推進室を設立し、IFRS 適用の準備を進めてきた富士通経理部 IFRS 推進室;  XBRL を中心として IFRS 関連の実績・ノウハウを蓄積してきた富士通総研コンサルティング部門;  2011 年に IFRS に移行するカナダにおける IFRS 関連コンサルティングをはじめとして、北米顧客 にサービスを提供する富士通アメリカのコンサルティング部門;  ERP、連結会計パッケージを含むシステム開発・運用・コンサルティング部門; 等の連携をもとに、各種のIFRS 関連サービスを提供予定である。 富士通総研では顧客のIFRS対応の一助として、まずは情報システム部門、経理部門を対象としたIFRS の基礎に関する研修会実施や、欧州のIFRS開示状況等に関する書籍の出版を本年内に予定している。是 非ご参照頂きたい。

参照

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