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Vol.62 No.2 大阪大学経済学 September 2012 公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ * 処理の貢献額の差に関する分析 : 選好と信念からの計測 二本杉剛 中野浩司 要旨公共財供給実験において, 同じ相手とゲームを繰り返すパートナーズ処理と, ゲームを繰り返

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Title

ジャーズ処理の貢献額の差に関する分析 : 選好と信

念からの計測

Author(s)

二本杉, 剛; 中野, 浩司

Citation

大阪大学経済学. 62(2) P.61-P.70

Issue Date 2012-09

Text Version publisher

URL

https://doi.org/10.18910/57124

DOI

10.18910/57124

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大 阪 大 学 経 済 学 September 2012 Vol.62 No.2

公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ

処理の貢献額の差に関する分析:選好と信念からの計測

二 本 杉  剛

・中 野 浩 司

1.はじめに 公共財の自発的供給メカニズムに関する実験 研究では,同じ相手とゲームを繰り返すパート ナーズ処理と,ゲームを繰り返すごとに相手が ランダムに変わるストレンジャーズ処理が用い られてきた。Andreoni and Croson (2008)によ ると,これらの二つのマッチング処理では,公 共財への貢献額やその推移に違いがあることが 要  旨 公共財供給実験において,同じ相手とゲームを繰り返すパートナーズ処理と,ゲームを繰り返 すごとに相手がランダムに変わるストレンジャーズ処理では,貢献額が異なることが観察されてき た。しかしながら,その理由は十分に明らかにされていない。そこで,本研究では,両マッチング 処理における貢献額の差が生じる理由を,被験者の選好と信念から検討した。選好は,人間を自己 の利得と他者の利得の合計を大きくする,または利得の差を小さくすることに関心がある協力的タ イプ,自己の利得を大きくすることにのみ関心がある利己的タイプ,そして,自己の利得と他者の 利得の差を最大にすることに関心がある競争的タイプに分類するSocial Value Orientation尺度を用 いて計測した。また,信念は,被験者に対してピリオドごとに相手の貢献額の予想を表明させるこ とで計測した。我々の分析結果から,パートナーズ処理での貢献額はストレンジャーズ処理での貢 献額よりも有意に高く,二つのマッチング処理による貢献額の差は,利己的タイプの貢献額の差に よって説明出来ることが分かった。また,協力的タイプと利己的タイプはどちらも,自分の貢献額 が信念と正の相関がある条件付き協力行動をとっていることが分かった。さらに,利己的タイプ は,マッチング処理間で,信念に対する限界的な貢献額に有意差が存在するが,協力的タイプに は,そのような有意差が存在しないことも明らかにした。これらの結果は,今後の実験研究におい て,被験者の貢献行動を正確に理解するためには,選好計測が必要であることを示している。 JEL Classification: C72, C91, C92, H41

Keywords: linear public goods experiment, preference, belief, social value orientation

西村幸浩教授には,原稿を読んでいただき貴重なコ メントをいただいた。また,西崎勝彦氏には,実験 実施時にコンダクターを務めていただいた。これら の人にお礼申し上げる。また,二本杉は日本学術振 興会の特別研究員奨励費から資金補助を受けた。深 く感謝いたす。なお,本稿における誤りは全て筆者 の責任に帰するものである。 † 東京福祉大学通信教育部講師  〒 170-0013 東京都豊島区東池袋 4-23-17 e-mail: t.nihonsugi@gmail.com ‡ 大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程  〒 560-0043 大阪府豊中市待兼山町 1-7 e-mail: fge014nh@mail2.econ.osaka-u.ac.jp

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観察されている 1。しかしながら,二つのマッチ ング処理による違いがなぜ生じるのかについて は,過去の研究では未だ十分に明らかにされて いない。 先行研究では,公共財へ貢献する理由とし て,二つの有力な考え方が示されている 2。一つ 目は,選好に原因を求める考え方であり,社会 的選好モデルとよばれる。社会的選好とは,他 者の利得や意図を考慮した選好であり,公共 財供給メカニズムの環境では,Goeree, Holt and Laury (2002)による利他性と,Andreoni (1990) やPalfrey and Prisbrey (1997)による温情効果 が代表的なモデルとして考えられている。利他 性モデルは,他者の効用関数を自己の効用関数 の中に組み込んでおり,温情効果モデルは,自 己の貢献額そのものを自己の効用関数に組み込 んでいる。二つ目は,相手の行動に対する予測 に原因を求める考え方で,条件付き協力とよば れている。条件付き協力は,自分以外のグルー プメンバーの貢献額を予想して,予想した貢 献額と同じ額を貢献するという考え方であり, Croson (2007)やFischbacher and Gächter (2010) で観察されている(以後,相手の貢献額の予想 を信念とよぶ)。このように,先行研究では, 公共財に対して貢献が行われる理由を選好と信 念から説明しており,この二つの説明は理論的 にも実験的にも十分な説明力があることが示さ れている。 そこで,本稿では,パートナーズ処理とスト レンジャーズ処理の貢献額を,選好と信念から 説明することで,二つのマッチング処理による 1 本稿では,線形の効用関数を仮定した標準的な公共 財メカニズムを考えている。 2 被験者が均衡戦略を選択しない理由の一つとして,

Andreoni (1995),Palfrey and Prisbrey (1997),Goeree, Holt and Laury (2002),そしてHouser and Kurzban (2002) によって,インセンティブの理解不足(confusion)また は実験中のミス(error)が指摘されている。しかし,本 研究では,実験中にconfusionとerrorが最大限生じない 実験デザインを構築したため,これらについては明示的 には扱わないこととする。 貢献額の差が生じる理由を明らかにする。本実 験では,選好計測方法として,社会心理学など で用いられているSocial Value Orientation尺度 (以下ではSVO尺度とよぶ)を用いた。SVO尺 度は,人間は自己と他者に対する重みづけをし ているという考え方のもとで,自己の利得と他 者の利得の合計を大きくする,または利得の差 を小さくすることに関心がある協力的タイプ, 自己の利得を大きくすることにのみ関心がある 利己的タイプ,そして,自己の利得と他者の利 得の差を最大にすることに関心がある競争的タ イプに分類する尺度である。また,信念の計測 は,Croson (2007)やFischbacher and Gächteraer (2010)と同様に,被験者に対してピリオドご とに相手の貢献額の予想を表明させることで計 測した。我々の分析結果から,パートナーズ処 理の貢献額はストレンジャーズ処理の貢献額よ りも有意に高く,二つのマッチング処理による 貢献額の差は利己的タイプの貢献額の差によっ て説明出来ることが分かった。また,協力的タ イプと利己的タイプはどちらも,条件付き協力 行動をとっていることも分かった。さらに,利 己的タイプはマッチング処理間で,信念に対す る限界的な貢献額に有意差が存在するが,協力 的タイプにはそのような有意差が存在しないこ とも明らかにした。 この論文は以下のように構成されている。第 2 章では実験のデザインと手順について説明 し,第 3 章では実験結果と分析結果について説 明をする。第 4 章では分析結果について議論 し,最後に第 5 章で結論を述べる。 2.実験デザイン 2 . 1 公共財の自発的供給メカニズムと実験処理 本実験では,被験者は二人一組となり,それ ぞれ 24 単位の実験用の貨幣を初期保有として 持っている。各被験者は,24 単位のうち,ど れだけ公共財( )へ貢献するか決定する。社

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September 2012 公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ処理の貢献額の差に関する分析 - 63 - 会には当初から 3 単位の公共財が存在している とする。また,公共財からの限界便益を 0.7 と 設定したため,社会全体での公共財からの限界 便益は 1.4 である。以上のことを踏まえて,各 被験者の利得( )を以下のように設定する。 (1) (1)式から明らかなとおり,合理的,利己的 な被験者は公共財に対して貢献をしない。ま た,パレート効率的な資源配分は,お互いの被 験者が初期保有の全てを公共財に対して貢献す ることで達成される。 本実験では二つのマッチング処理を実施す る。一つは,上に示した公共財供給メカニズ ムにおいて,同じ相手と 15 ピリオド繰り返す パートナーズ処理である。もう一つは,同じく 上に示した公共財供給メカニズムにおいて,ピ リオドごとに相手をランダムに組み合わせて 15 ピリオド繰り返すストレンジャーズ処理で ある。 2 . 2 SocialValueOrientation 本実験では,選好を計測する方法として,社 会心理学で発展してきた選好計測手法の一つで あるSVO尺度を用いる。SVO尺度では,人間 は自己と他者に対する重みづけをしているとい う考え方のもとで,人間を協力的タイプ,利己 的タイプ,競争的タイプの三タイプに分ける。 協力的タイプとは,自己の利得と他者の利得の 合計を大きくする,または利得の差を小さくす ることに関心があるタイプ,利己的タイプと は,自己の利得を大きくすることにのみ関心が あるタイプ,そして競争的タイプとは,自己の 利得と他者の利得の差を最大にするタイプであ る。SVO尺度では,被験者に対して 8 個の質 問を行い,6 個以上協力的な選択をしていれば 協力的タイプに分類する 3。利己的タイプや競争 的タイプも同様に,8 個の質問に対して 6 個以 上利己的な選択または競争的な選択をしていた 場合に,それぞれのタイプに分類する。いずれ にも分類されない被験者は未分類とする。 SVO尺度は,社会心理学のみならず,脳神 経科学など他の分野でも用いられる信頼性の高 い尺度であり,経済実験の論文であるOfferman et al. (1996),Sonnemans et al. (1998),そして Van Dijk et al. (2002)でも既に用いられている。 本実験においては,このSVO尺度を用いて, 公共財供給ゲームにおける貢献額と選好の関係 について分析する。 2 . 3 実験方法・手順 被験者は,大阪大学の学生 40 名であり,そ のうち 20 名がパートナーズ処理に参加し,残 りの 20 名がストレンジャーズ処理に参加した。 ただし,いずれのマッチング処理でも経済学研 究科の学生は除いている。被験者の募集は,大 阪大学内でインターネットを通じておこなっ た。 いずれのマッチング処理でも,まず始めに 20 名の被験者を集め,ランダムに被験者番号 を割り当てた。被験者はパーテーションが設置 されているパソコンの前に座っているので,お 互いの行動は見えない。次に,インストラク ション,インストラクションのまとめ,記録用 紙,練習用の配当表,そして本番用の配当表を 配布し,ICレコーダーを用いて実験の説明を した 4。なお,全ての被験者は,同じ実験資料が 配布されたことを知っている。実験の説明の 3 8 個の質問及び選択肢の説明は付属資料を参照され たい。 4 配当表には,相手と自分の全ての選択の組合せによ る結果が記載されている。この配当表は,全ての 戦略を一覧し検証することが可能であるため,情報 の完備性を高めることができる。また,配当表から 自分の利得が簡単にわかるため,ゲームのインセン ティブの理解不足(confusion)や配当の計算ミスを, 可能な限り小さくすることが出来る。

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後,質問時間が 5 分間設けられ,その後,被験 者が実験のルールと配当表の見方を正確に理解 しているか確認するために,確認テストを実 施した。確認テストでは,11 個の設問のうち, パートナーズ処理では平均正答数は 10.75(標 準偏差 0.4),ストレンジャーズ処理では平均 正答数は 10.65(標準偏差 0.6)であった。採 点後,全ての被験者は正しい解答の説明を受 け,その後,再び質問時間を 5 分間設けた。確 認テストの成績と実験手順から,私たちは被験 者が実験の内容を完全に理解した上で,実験に 参加したと確信している。 実験が開始すると,まず始めに二人一組のペ アがつくられた。ただし,ペアはランダムにつ くられ,実験中・実験後を通して,ペアの相手 が誰であるのか分からないため,匿名性は十分 に保たれている。各被験者は,各ピリオドの 始めに,24 単位の実験用の貨幣を与えられた。 そして,この 24 単位の実験用の貨幣を,どれ だけ公共財へ貢献するのか意思決定をした。さ らに,このピリオドでの相手の貢献額の予想を した。パソコン画面に自分の貢献額と相手の貢 献額の予想を入力した後に,記録用紙に自分の 貢献額と相手の貢献額の予想を記入し,さら に,自分の貢献額と相手の貢献額の予想の理由 を自由記述で記入した。すべての被験者の意思 決定が終わると,自分のパソコンの画面に相手 の実際の貢献額と自分の配当が表示された。被 験者はその結果を記録用紙に記入して第 1 ピリ オドが終了した。パートナーズ処理では,同じ 相手と 15 ピリオド同じ手順を繰り返し,スト レンジャーズ処理ではピリオド毎にランダムに 選ばれた相手と,15 ピリオド同じ手順を繰り 返した。実験後,被験者の一人が代表として 1 から 15 の数字が書いてあるくじを引き,くじ で選ばれた数値と同じピリオドにおいて,相手 の貢献額の予想と実際の相手の貢献額が一致し ていた被験者には,追加報酬として 500 円が支 払われた 5。従って,被験者の報酬は公共財供給 ゲームから得られる報酬と追加報酬の合計であ る。その後,被験者はSVO尺度を含んだ実験 のアンケートに回答して最後に報酬が支払われ た 6 すべての実験はFischbacher (2007)による z-Treeを使っておこなった。いずれのマッチン グ処理でも,実験時間は約 1.6 時間であった。 パートナーズ処理の平均報酬は 2299 円(最小 1885 円,最大 2793 円),ストレンジャーズ処 理の平均報酬は 2370 円(最小 1928 円,最大 2761 円)であった。なお,いずれのマッチン グ処理の平均時給も,大阪大学の周辺で学生が 仕事をするときの一般的な時給よりも十分に高 いため,被験者にとって十分なインセンティブ となっている。 3.実験結果 本実験の目的は,ストレンジャーズ処理と パートナーズ処理の貢献額の違いを,選好と信 念から説明を試みることである。まず 3.1 節に おいて,パートナーズ処理とストレンジャーズ 処理での平均貢献額の推移および平均貢献額の 差について記述する。次に,3.2 節において, SVO尺度に従い被験者分類をおこない,選好 タイプごとに,パートナーズ処理とストレン ジャーズ処理での平均貢献額と平均信念を記述 する。最後に,3.3 節において,それぞれの選 好タイプごとに変量効果モデルの分析を行い, マッチング処理によって貢献行動が変化するか 5 追加報酬は二次のプロパー・スコアリング・ルール に基づいて支払われた。このルールは,誘因両立 性を満たしており,多くの実験研究でも用いられて い る。 例 え ばOfferman (1997),Nyarko and Schotter (2002),そしてKosfeld et al. (2009)を参照されたい。 6 本研究ではSVO尺度による選好計測の際に,被験者 に対して金銭的支払いをおこなっていない。そのた め,選好タイプの分類に関する信頼性が十分ではな い可能性がある。ただし,後に示すとおりSVO尺度 を用いた実験結果は先行研究と一致している。

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September 2012 公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ処理の貢献額の差に関する分析 - 65 - 確認をする。 3 . 1 平均貢献額の結果 図 1 はパートナーズ処理とストレンジャーズ 処理での平均貢献額の推移を表している。パー トナーズ処理においては,第 1 ピリオドでは, 初期保有の 39%(9.4 単位)を貢献している。 その後,ピリオドが進むにつれて,平均貢献額 は減少している(Spearman rank correlation test, ρ = - 0.61, p < 0.05)。ストレンジャーズ処理 においては,第 1 ピリオドでは,初期保有量 の 41%(9.9 単位)を貢献している。その後, ピリオドが進むにつれて,平均貢献額が減少 している(Spearman rank correlation test, ρ = - 0.61, p < 0.05)。また,平均貢献額は,ストレ ンジャーズ処理よりもパートナーズ処理の方が 有意に高い(Wilcoxon rank sum test, p < 0.01)。

平 均 貢 献 額 ピリオド パートナーズ ストレンジャーズ 図 1.パートナーズ処理とストレンジャーズ処理で の平均貢献額の推移 3 . 2  SVO尺度および選好タイプ別による平均 貢献額と平均信念の結果 表 1 は,実験に参加した全ての被験者を, SVO尺度を用いてタイプ別に分類した結果で ある。パートナーズ処理では協力的タイプが 7 名,利己的タイプが 9 名,競争的タイプが 0 名,未分類が 4 名である。ストレンジャーズ処 理では協力的タイプが 10 名,利己的タイプが 7 名,競争的タイプが 0 名,未分類が 3 名であ る。どちらのマッチング処理でも,競争的タイ プに分類された被験者はいないため,以下では 協力的タイプと利己的タイプの二つの選好タイ プについて分析を進める。 表 1.SVO 尺度を用いた被験者分類 パートナーズ処理 ストレンジャーズ処理 協力的タイプ 7 10 利己的タイプ 9 7 競争的タイプ 0 0 未分類 4 3 合計 20 20 図 2 は,パートナーズ処理とストレンジャー ズ処理での平均貢献額を選好タイプ別にまとめ たものである。協力的タイプの平均貢献額は, ストレンジャーズ処理では 4.2(標準誤差 0.7), パートナーズ処理では 6.8(標準誤差 1.0)で ある。利己的タイプの平均貢献額は,ストレン ジャーズ処理では 2.1(標準誤差 0.7),パート ナーズ処理では 9.5(標準誤差 0.9)である。 協力的タイプは,ストレンジャーズ処理とパー トナーズ処理での平均貢献額に有意差がないが (Wilcoxon rank sum test, p > 0.05),利己的タイ プは,ストレンジャーズ処理よりもパートナー ズ処理の方が,平均貢献額が有意に大きくなる (Wilcoxon rank sum test, p < 0.01)。また,スト レンジャーズ処理では,利己的タイプよりも協 力的タイプの方が,平均貢献額が有意に大きく なるが(Wilcoxon rank sum test, p < 0.05),パー トナーズ処理では,逆に,協力的タイプよりも 利己的タイプの方が,平均貢献額が有意に大き くなる(Wilcoxon rank sum test, p < 0.05)。

次に,信念の結果について述べる。図 3 は, パートナーズ処理とストレンジャーズ処理での 平均信念を選好タイプ別にまとめたものであ る。協力的タイプの平均信念はストレンジャー ズ処理では 3.4(標準誤差は 0.7),パートナー ズ処理では 5.6(標準誤差は 0.9)である。利

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己的タイプの平均信念はストレンジャーズ処理 では 3.8(標準誤差は 0.8),パートナーズ処理 では 10.3(標準誤差は 0.9)である。協力的タ イプは,ストレンジャーズ処理とパートナーズ 処理での平均信念に有意差がないが(Wilcoxon rank sum test, p > 0.05),利己的タイプは,スト レンジャーズ処理よりもパートナーズ処理の 方が,平均信念は有意に大きくなる(Wilcoxon rank sum test, p < 0.01)。また,ストレンジャー ズ処理では,利己的タイプと協力的タイプの 平均信念に有意差はないが(Wilcoxon rank sum test, p > 0.05),パートナーズ処理では,協力的 タイプよりも利己的タイプの方が,平均信念が 有意に大きくなる(Wilcoxon rank sum test, p < 0.01)。 平均信念 ストレンジャーズ パートナーズ 協力的タイプ ストレンジャーズ パートナーズ 利己的タイプ 注)**1%有意水準,*5%有意水準を表す。 図 3.選好タイプ別による平均信念 以上の実験結果から,平均貢献額について は,パートナーズ処理の方がストレンジャーズ 処理よりも有意に高く,両マッチング処理の平 均貢献額の差は,利己的タイプの貢献額の差に よって説明できることが分かった。また,協力 的タイプは,マッチング処理の違いによって, 平均貢献額と平均信念いずれも有意差は存在し ないが,利己的タイプの平均貢献額と平均信念 いずれも,ストレンジャーズ処理よりもパート ナーズ処理の方が有意に大きい。このことは, どちらの選好タイプも信念から貢献額を決めて いることを示唆している。 3 . 3 変量効果モデルの分析結果 この節では,利己的タイプと協力的タイプの データを分けて,それぞれのタイプごとに観察 された貢献額が,計測した信念とマッチング処 理とどのような関係にあるのか検討する。それ ぞれのタイプごとに,以下の(2)式の変量効 果モデルを回帰分析する。 (2) は被験者 の 期における 貢献額, はピリオドの値, は被験者 の 期における信念を表しており, は被験者 の参加したマッチン グ処理を表すダミー変数で,パートナーズ処理 を 1,ストレンジャーズ処理を 0 としている。 は各個人の変量効果である。また,マッチ ング処理の違いによって,信念に対する限界的 な貢献額に違いが生じる可能性があるため,信 念とマッチング処理の交差項を説明変数に加え ている。 表 2 は変量効果モデルの分析結果を表して いる。協力的タイプは の係数が有意 に正であることから,信念と貢献額に正の関 係があることがわかる。また, の 係 数, の 係 数 は 平均貢献額 ストレンジャーズ パートナーズ 協力的タイプ ストレンジャーズ パートナーズ 利己的タイプ 注)**1%有意水準,*5%有意水準を表す。 図 2.選好タイプ別による平均貢献額

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September 2012 公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ処理の貢献額の差に関する分析 - 67 - どちらも有意ではないことから,マッチング 処理は貢献額に影響を与えていないことが わかる。利己的タイプも,協力的タイプと 同様に の係数が有意に正である。ま た, の係数は有意ではないが, の係数は有意に正で ある。 協力的タイプ 利己的タイプ PERIOD -0.101 -0.255 (0.105) (0.082)** BELIEF 0.516 0.199 (0.083)** (0.069)** TREATMENT 1.506 0.533 (1.212) (0.983) BELIEF × TREATMENT 0.052 0.438 (0.118) (0.087)** Constant 3.154 4.158 (1.529 )* (1.311)** Observations 255 240 表 2.変量効果モデルの分析結果 注)カッコ内は標準誤差。**1%有意水準,*5%有意水 準を表す。 変量効果モデルの結果から,協力的タイプは 信念だけから貢献額を決めており,貢献額と信 念に正の関係があることから条件付き協力行動 をとっていることが分かった。利己的タイプも 貢献額と信念に正の関係があるため条件付き協 力行動をとっているが,パートナーズ処理で の信念に対する限界的な貢献額は,ストレン ジャーズ処理での信念に対する限界的な貢献額 よりも大きいことが明らかになった。これらの 結果は,協力的タイプはマッチング処理によっ て条件付き協力の程度に変化はないが,利己的 タイプはマッチング処理によって条件付き協力 の程度に変化があることを示している。 4.議論 本稿では,ストレンジャーズ処理とパート ナーズ処理における貢献額の違いについて,選 好と信念から説明することを目的として,貢献 額を観察するだけではなく選好と信念を計測し た。そして以下の三つの発見があった。 一つ目は,パートナーズ処理での平均貢献額 はストレンジャーズ処理での平均貢献額よりも 有意に高く,両マッチング処理での平均貢献額 の差は,利己的タイプの貢献額の差に起因する ことである。二つ目は,協力的タイプと利己的 タイプは,どちらも条件付き協力行動をとって いることである。三つ目は,協力的タイプは マッチング処理によって条件付き協力の程度に 変化はないが,利己的タイプは,パートナーズ 処理での信念に対する限界的な貢献額がストレ ンジャーズ処理での信念に対する限界的な貢献 額よりも大きく,マッチング処理によって条件 付き協力の程度が変化することである。 次に,本稿の実験結果と先行研究との関係に ついて議論する。Offerman et al. (1996)は,ス トレンジャーズ処理を用いた公共財供給実験を 実施し,協力的タイプが利己的タイプよりも公 共財へ多く貢献することを観察している。この 結果は,我々のストレンジャーズ処理での実験 結果とも整合的である。本研究は,パートナー ズ処理においては,ストレンジャーズ処理で の実験結果とは逆に,利己的タイプの方が公 共財へ多く貢献することも観察している 7。また

Fischbacher and Gächter (2010)は,本研究と同 様に,被験者の選好と信念が貢献額にどのよう な影響を与えるのかストレンジャーズ処理を用 7 利己的タイプはKreps et al. (1982)によって示された 戦略的な動機に基づいて行動していたと考えられる。 彼らは,繰り返し囚人のジレンマゲームにおいて, ストレンジャーズ処理であっても他のプレーヤーが 協調的な戦略をとる可能性が高いという確信が強い ほど,協力的な均衡が実現する可能性が高いことを 理論的に示している。

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いて分析している。彼らは,公共財への貢献は 選好と信念の両方から説明出来ることを示して いる。我々とFischbacherらの分析結果は,ど ちらも選好が貢献額に影響を与えているため, 被験者の貢献行動を理解するためには,選好計 測手法を用いた分析が必要であることを示して いる。ただし,彼らは被験者の選好タイプを, フリーライダータイプ(信念に関係なく常に貢 献しないタイプ),条件付き協力タイプ(相手 が協力するなら協力するタイプ),そしてこぶ 型タイプ(信念がある水準以下では条件付き協 力タイプで,信念がある水準を超えるとフリー ライドするタイプ)に分類しており,我々の用 いたSVO尺度とは異なる被験者分類手法を採 用している 8。今後は,どの被験者分類方法が, 公共財への貢献動機を明らかにするために適切 なのかについても検討する必要がある。 5.結論 本研究は,パートナーズ処理での平均貢献額 がストレンジャーズ処理での平均貢献額よりも 有意に高く,両マッチング処理での平均貢献額 の差は利己的タイプの平均貢献額の差によって 説明出来ることを明らかにした。また,協力的 タイプと利己的タイプはどちらも条件付き協力 行動をとっているが,利己的タイプは,マッチ ング処理間で,信念に対する限界的な貢献額に 有意差が存在するが,協力的タイプにはそのよ うな有意差が存在しないことも明らかにした。 我々の実験結果は,選好タイプ別の分析手法 は,被験者の意思決定を正確に理解するために 適切な手法であることを示している。今後,選 好タイプ別の分析手法を用いて人間行動を精度 よく観察し,現実の人間の行動特性を前提とし た研究が行われることに期待する。

8 彼らの選好計測方法の詳細はFischbacher, Gachter, and

Fehr (2001)を参照ありたい。

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September 2012 公共財供給実験におけるパートナーズ処理とストレンジャーズ処理の貢献額の差に関する分析 - 69 -

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Van Dijk, F., Sonnemans, J., and Van Winden, F. (2002) “Social ties in a public good experiment.” Journal of Public Economics, 85 (2): 275-299. 付属資料 SocialValueOrientation(SVO)尺度の説明 1.課題 被験者は,設問 1 から 8 まで順番に,選択 肢A,B,Cの中からいずれか一つを選択する。 設問 1 を用いて課題の説明をする。選択肢A は,もしあなたがAを選ぶと,あなたは 240 円を,相手は 40 円を獲得するという意味であ る。選択肢B,Cも同様の意味である。被験者 は,深く考え込まずに,自分の好みに従って A,B,Cの中からいずれか一つを選ぶ。 設問 1 あなた 相手 A 240 40 B 270 140 C 240 240 設問 2 あなた 相手 A 170 160 B 210 80 C 170 10 設問 3 あなた 相手 A 110 110 B 130 50 C 100 0 設問 4 あなた 相手 A 300 180 B 240 250 C 200 20 設問 5 あなた 相手 A 220 20 B 220 210 C 280 100 設問 6 あなた 相手 A 110 105 B 110 10 C 140 50 設問 7 あなた 相手 A 100 20 B 110 60 C 100 100 設問 8 あなた 相手 A 80 90 B 70 10 C 90 40 2.結果の評価方法 各設問中の 3 つの選択肢は,協力的選択肢 (自己の利得と他者の利得の合計が最大),利己 的選択肢(自己の利得が最大),競争的選択肢 (自己の利得から相手の利得を引いた値が最大) のいずれかに分類される。たとえば,設問 1 で は,選択肢Aが競争的選択肢,選択肢Bが利己 的選択肢,選択肢Cが協力的選択肢となる。 8 個の質問に対して 6 個以上協力的選択肢を 選んでいれば協力的タイプと分類する。利己的 タイプや競争的タイプも同様に,8 個の質問に 対して 6 個以上利己的選択肢または競争的選択 肢を選んでいた場合に,それぞれのタイプに分 類される。いずれにも分類されない被験者は未 分類とする。

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The Difference of the Contribution between a Partners Design and a Strangers

Design in Linear Public Goods Experiment: Measured by Preference and Belief

Tsuyoshi Nihonsugi and Hiroshi Nakano

 In numerous previous studies, the difference of the contributions in linear public goods experiments existed between a Partners design, where the same group of subjects plays repeatedly and a Strangers design, where subjects are randomly re-matched in each repetition of the game. However, few researches have clarified the reason for the difference of the contribution between a Partners design and a Strangers design. In this paper, we attempt to investigate the difference of the contribution by measuring the subjects’ preferences and the beliefs. We measure the preferences using Social Value Orientation which classify people into cooperators who maximize joint outcome and equality in outcomes, individualists who maximize own outcomes , and competitors who maximize the difference between own and the other outcomes. Moreover, we ask the subjects to estimate the other group member’s contribution to measure the beliefs in each period of the game. We find that the subjects in a Partners design contribute significantly more to the public good than the subjects in a Strangers design, and the difference of the contribution between the treatments could be explained as resulting from the difference by the individualists. Furthermore, both the cooperators and the individualists behave as conditional cooperators whose contributions to the public good are positively correlated with their beliefs. However, the marginal contributions from the beliefs for the individualists are significantly difference among the treatments, but such difference is not observed for the cooperators. These results indicate that future research should measure the subjects’ preferences to accurately understand the contribution behavior.

JEL Classification: C72, C91, C92, H41

参照

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