2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 1
第 6 回 消費関数
種々の学説
〈導入~ケインズの絶対所得仮説〉
消費関数とは所得と消費の関係を表したもの。前期までに学んできた消費 C の考え方はケインズの絶対所得仮説に基づく。 ★ケインズ型消費関数…現在の消費 C が現在・ ・の(国民)所得 Y にのみ依存。消費:C=c
0・Y+c
1 Y:所得, c0:限界消費性向, c1:基礎消費 このような消費関数は、所得 Y が増大するにつれ、平均消費性向(所得に占 める消費の割合:C/Y)は逆に減少するという性質を持つ。 図で考える 国民所得が Y0から Y1に増大すると、消費は C0から C1になり、原点と結んだ 線分の傾き C/Y(平均消費性向)は小さくなる。 式で考える ↓2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 2 この時 c0・c1が一定の場合、Y が大きい程 C/Y は小さくなる。 ★ケインズの絶対所得仮説の不整合 1.ケインズの消費関数は消費 C が現在の所得 Y のみに依存 2.ケインズの消費関数のとき、所得 Y が増大すると平均消費性向 C/Y は減少 する ↓ しかしアメリカの経済学者クズネッツは、平均消費性向は長期的には安定(一 定)していることを発見。 ↓ ケインズの絶対所得仮説では、この平均消費性向の長期的な安定性を説明で きない。 ↓ この性質を説明する種々の学説が提言される。 従って、この回では平均消費性向を論点とする様々な消費関数を学習する。
〈種々の学説〉
★概観…消費関数の学説一覧は、現在の消費 C が何に依存するかで異なる。 現在の所得………ケインズ 現在の所得+流動資産……トービン 現在の所得+過去の所得…デューゼンベリー 将来の所得………フリードマン, モディリアーニ ①トービンの流動資産仮説 流動資産仮説とはケインズ型消費関数を基に、現在の消費 C が所得以外 の流動資産 (ex. 貯金など:M)の影響を受けることを加味したもの。この理2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 3 論では預貯金 M が多い人ほど、現在の消費 C も多いと考えられる。 流動資産仮説に基づく消費関数は次の通り。 従って、平均消費性向は以下の様になる。 ・長期的…安定的に経済は成長する。所得 Y の増加<流動資産 M の増加 の傾向。 ↓ M/Y (所得に占める資産の割合)の値は上昇。 ↓ 基礎消費 c1が一定のとき、所得 Y の増大による c1/Y 値の 下を相殺。 ↓ 平均消費性向 C/Y は一定の値をとる。 ・短期的…ケインズの絶対所得仮説の説明参照。 ②デューゼンベリーの相対所得仮説 相対所得仮説とは、人々の消費行動は過去の習慣に依存しているため、現 在の消費 C は今期の所得 Y と過去の最大所得 YMの両方に依存するという説。 時間的効果と空間的効果の両面から説明する。 相対所得仮説に基づく消費関数は以下に定式化。 消費 C を所得 Y で割った平均消費性向 C/Y は下記のように示される。
2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 4 ・長期的…経済は安定的に成長する。従って、現在の所得 Y=最大所得 Ymとなる。これより、長期的な平均消費性向は で示され、一定の値をとり安定する。 ・短期的…景気後退期により現在の所得 Y<最大所得 Ymの場合がある。 この時 Ym/Y 値が上昇するので、消費は増大し平均消費性向も 上昇する。このように過去の所得が消費の減少を食い止める効 果をラチェット効果(歯止め効果)という。〈時間的〉 また、現在の消費が他人の消費レベルに依存するとき、一時 的に所得が減少していても、他人の贅沢に対抗し自分の現在 所得水準以上の消費をしてしまう。この影響をデモンストレ ーション効果と呼ぶ。〈空間的〉 ③モディリアーニのライフサイクル仮説 ライフサイクル仮説とは現在の消費 C が一生で消費可能な所得の総額(生 涯所得)に依存するという考え方。消費 C は勤労所得 Y と資産 W の関数。 この時平均消費性向 C/Y は以下の式になる。 ・長期的…資産 W は資産価格上昇などで上増加。所得 Y も増加するた め、W/Y は一定の値をとり、平均消費性向も一定の値をと る。 ・短期的…資産 W は一定。平均消費性向 C/Y は勤労所得 Y が増加する
2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 5 につれ右辺の W/Y 値が小さくなりため減少。 ④フリードマンの恒常所得仮説 恒常所得仮説とは所得 Y を恒常所得と変動所得に分け、消費水準は自己 の所得能力から予想できる将来の平均的な所得(恒常所得)に依存するが、 一時的な変動所得(ex. ボーナス)には依存しないという考え方。 恒常所得は過去の所得の平均値で示され、それを根拠とする将来の所得 の予想値を含む。 恒常所得仮説では消費 C は恒常所得 YPが一定割合であるとする。消費関 数は以下の式になる。 となり、平均消費性向は以下のように表わす。 ※実際に得られる所得 Y は期間ごとに増減する。よって、実際の所得 Y と生涯得られる所得の平均値である恒常所得 YPには差が生じる。そ の差を変動所得という。 ・長期的…経済は安定的に成長するため、恒常所得 YPは増加。従って、 YP/Y(所得 Y に占める恒常所得 YPの割合)は安定的であり、平 均消費性向 C/Y も安定的である。 ・短期的…一時的な変動所得で所得 Y>恒常所得 YP になるとき、YP /Y 値 は低下する。よって、平均消費性向 C/Y は減少する。
2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 6
〈平均消費性向以外の消費の論点〉
① ガルブレイス(依存効果) 消費者の消費行動が企業の広告(コマーシャル)に依存していること。ガル ブレイスは消費者の欲望が大企業の広告から創造されていると強調。現代の 市場経済において、企業は消費者に優越する支配権を持つと指摘。 ②ヴェブレン効果 宝石や高級毛皮のように社会的身分の象徴(ステイタスシンボル)となる財 では、その高価さそのものが財の欲望形成の原因となり、財価格の上昇が逆 に財の消費量を増大させる。このように社会制度や社会の象徴が財に与える 効果がヴェブレン効果である。 ② ピグー効果(実質残高効果) 物価 P の下落が貨幣価値を高め(=実質貨幣残高 MS/P を増大させ)、それが 財市場の需要要因である消費や投資を刺激し、IS 曲折を右にシフトさせるこ とをピグー効果という。 ケインズモデルにおいて、物価の下落は貨幣供給量を増加させ LM 曲線を右 シフトさせるだけで、IS 曲線には影響しない(前期の第 6 回/IS・LM 分析参照 のこと)。しかし、古典派の大御所ピグーはこの効果に基づき、物価が IS 曲 線に影響することを指摘した。 ※実質貨幣残高…現在市中に流通している貨幣量でどれだけの財・サー ビスを購入できるか表したもの。貨幣量 MSを物価 P で 割り、MS/P で定義される。財・サービスを 1 単位購入 するには物価 P を払う必要があるので、貨幣量 MSで購 入できる財・サービスの量は MS/P である。 〈余談〉 社会学において、消費社会と人々の関連は 21 世紀を分析するキータームであ る。消費とは欲求を満たすために財・サービスあるいは資源を消耗することを 表す。また、生産の反意語でもある。 消費は①モノの有用性(使用価値/機能)の消費、②モノの社会的価値の消費 (みせびらかし消費)、③記号としてのモノ(付加価値)の消費、の 3 つの側面を 持つ。②や③の消費は、自分と他者を区別するための消費(差異消費)で、消費2008 年度慶應霞会 参考:伊藤元重著「入門経済学第2版/日本評論社」, 賀川昭夫等著「First Step マ クロ経済学/有斐閣」 7 は一種のコミュニケーション(非言語コミュニケーション)と言える。 近代(~現代)は大量消費時代であり、その背景には特定の個人ではなく大衆 が政治・経済・文化などあらゆる側面で影響力をもつ大衆社会の到来が指摘さ れる。大衆の特徴には他人指向型、政治的無関心、画一的思考などが挙げられ る。 確固たる主体を失ったポストモダンの状況下で、人々は他者との差異に過敏 になり、消費を通してそれを拡大し人格崇拝(他者を区別し、特別な自己を希求) を推し進めている。さらに、ガルブレイスの指摘するように企業やメディアは 欲求そのものを創り出すので、人々の満たされない欲求=欲望を助長させ、こ の過剰な差異化は一層加速している。物質主義は似たような価値観で人々を結 びつけようとするが、その結びつきは弱く、コミュニケーションの脆弱化は止 まらない。 世界は我々のみているものであるが、しかし同時に、我々は世界の見方を学 ばなければならない。それは何よりまず、我々が知を通してこの視覚に到達し、 この視覚を身につけ、我々とは何者であり、見るとは何であるかを言わなけれ ばならない。 『見えるものと見えないもの』M.ポンティ 参考:藤川千歳 社会学 a/b の授業プリント