梅 毒 患 者 に お け るChlamydia trachomatisの
検 出
清島真理子
奥村
哲
大谷
道廣
渡辺
恵
松本
良
堤
正好
引地
一昌
1985年1月 よ り1986年3月 ま で に県 立 岐 阜 病 院 皮膚 科 を 受 診 した顕 症 梅 毒 患 者33例(男 性9例,女 性24例)を 対 象 と した 。 男 性 で は 尿 道 内の,女 性で は 子 宮 頸 管 の 擦 過 標 本 を 得 て,MicmTrakTM Direct Specimen Testを 用 い てC.trachoatisの 検 出 を行 った 。 男 性梅 毒 患 者 で は9例 中1例 で C.trachomatis陽 性 を 示 し,陽 性 率 は11.1%で あ った 。 女 性 梅毒 患 者 に お い て は24例 中8例 でC.
trachomatis陽 性 で あ り,陽 性 率 は33.3%で あ った。 全 例 にお い て 同 時 に行 った グ ラム 染 色お よ び チ ョコ レー ト寒 天 培 地 での 培 養 にお い て 淋 菌 は検 出 され な か った。 女 性 に お け るC.trachomatisの 検 出 率 は 欧米 のSTDク リニ ックで の 検 出率 と同 程 度 に高 く,わ が 国 のC.trachomatisに よ る 汚 染 は 楽 観 を 許 さな い 状 況 で あ る と推 測 され た 。
キ ー ワ ー ド: Chlamydia trachomatis-Syphilis-Micro Trak
は じ め に
Chlamydia trachomatis(以 下C.trachomatis)は ト ラ コ ー マ,封 入 体 結 膜 炎,鼠 径 リ ンパ 肉 芽 腫 の 病 原 体 で あ る の み な ら ず,尿 道 炎,副 睾 丸 炎,前 立 腺 炎,子 宮 頸 管 炎,卵 管 炎,子 宮 内 膜 炎,不 妊 症,子 宮 外 妊 娠,鼻 炎, 中 耳 炎,肺 炎,Reiter病,直 腸 炎,Fitz-Hugh-Curtis 症 候 群(腹 膜 炎,肝 周 囲 炎)な ど の 病 原 体 と な り得 る こ と が,近 年 明 ら か に な っ て き た1,2)。'ま た,非 淋 菌 性 尿 道 炎 で は 約40∼50%,淋 菌 性 尿 道 炎 で は 約20∼30%検 出 さ れ て お り3ψ5>,sexually transmitted diseases(以 下 STD)の 病 原 体 の1つ と し て も 関 心 を 集 め て き て い る 。 し か し,本 邦 に お け るC.trachomatis感 染 の 発 生 状 況 に つ い て の 報 告 は 少 な い3・5,6)。 そ こで,今 回 わ れ わ れ は 当 科 を 訪 れ た 顕 症 梅 毒 患 者 よ り,男 性 で は 尿 道 内 の, 女 性 で は 子 宮 頸 管 の 擦 過 標 本 を 得 て,C.trachomatisの 検 出 を試 み,梅 毒 との混 合 感 染 の 状 況 を検 討 す る こ とが で きた の で報 告 す る。 対 象 お よび 方 法 1985年1月 よ り1986年3月 ま で に 当科 を受 診 した 顕 症 梅 毒 患 者33例(男 性9例,一 女性24例)を 対 象 と した 。33 例 の うち第 一 期梅 毒 患 者 は29例(男 性7例,女 性22例), 第 二 期 梅 毒 は4例(男 性2例,女 性2例)で あ った。 可 能 な症 例 で は 時期 を変 えて 検 体 を得 る こ とが で き,検 体 数 は男 性 で は10検 体,女 性 で は51検 体 にの ぼ った。 塗 抹 標 本 の 採取 は まず,男 性 で は外 尿 道 口 よ り細 い ポ リエ ス テ ル綿 棒Mini tip culturette(R)を尿 道 内 に 挿 入 し,中 で 回転 させ て 尿道 上 皮 を 擦 過 した。 女 性 で は 子宮 頸 管 に や や太 い ポ リエ ステ ル綿 棒APPlicator(R)を 挿 入 し,頸 管 内膜 を擦 過 した。 これ らの ポ リエ ス テ ル綿 棒 を ス ラ イ ドグ ラス上 で 同 転 させ 塗 抹 した 。 次 に常 温 にて乾 燥,ア セ トン固 定 後,西 浦 らの方 法7)に 準 じてFITCで 標 識 したCtrachomatisに 特 異 的 なモ ノ ク ロー ナ ル抗 体(Micro TrakTM Direct Specimen Test,Syva Com-pany,USA)8)と 反 応 させ,水 洗 した 後,螢 光顕 微 鏡 で 観 察 を行 った 。
結 果
螢 光 顕 微鏡 に よ り対 物100倍 の 視 野 で 赤 色 に染 ま る上 Mariko SEISHIMA, M. D., Satoshi OKUMURA, M.
D. and Michihiro OHTANI, M. D. 県 立 岐 阜 病 院 皮 膚科
〒500岐 阜 市 野 一 色4-6-1
Megumi WATANABE, Ph. D., Ryo MATSUMOTO, Ph. D. , Masayoshi TSUTSUMI, Ph. D. and Kazumasa HIKICHI, Ph. D.
Special Reference Laboratories 昭 和61年11月22日 掲 載決 定
第1-a図 第1-b図
第1図Micro Trak法 による 直 接 塗 抹 標本から のC.trachomatisの 検出。elementary bodyが アッ プル グ リ ー ン に光 る 粒子と して 観察さ れ る(矢 印)。
皮 細 胞 中あ るいは細 胞 外に,アッ プル グ リー ン に 光る pin point sizeの 粒子と し てelelnentary bodyが 観 察 さ れ た標 本 を 陽性 と した(第1-a,b図)。 男性 梅毒 患 者 9例 に おい て10検体 を 採 取 し た が,そのうち1検 体 の み て陽性 を 示 した。 これは 症 例 数 と し ては11.1%の 陽 性率 で あ り,検体 数として は10%の 陽性 率であっ た 。 この 陽 性 例 は 第一 期 梅毒 患者 であっ た 。 女 性 梅毒 患 者24例に つ い て511検体 を 採 取 した が,そ の う ち8症 例12検 体 に お い て 陽 性であっ た。8症 例の 内 訳は 第 一期梅毒 患 者6例 , 第 二期梅 毒 患 者2例で あっ た 症 例 数と し て は33.3%の 陽 性率 であり,検 体 数 と して は23.5%の 陽性 率であっ た (第1表,第2表)。 な お,C.trachomatisが 検 出 さ れ た 男 女 合わ せ て9例 につ いて は ミ ノマ イシ ン(R)200mg/日 内 服 を1週 間行っ た。 内 服 終了 直 後 の 検 査で は1例 の み 陽 性 例 が あった が,1か 月 後 に,Micro Trak法 に よ る 検査 を 行っ たと ころ,全 例 でC.trachomatisを 検 出 し なかっ た。 第1表 梅 毒 患 者 におけ るChlamydia trachomatis の 検出(Micro Trak法)
第2表 顕 症 梅 毒 の 時 期 別 に み たChlamydia trachomatisの 検 出(MicroTrak法) 同時 に,す べ て の 症例 につ い て 女性 で は頸 管 擦 過 物 を,男 性 で は 尿 道擦 過物 を ス ラ イ ドグ ラス に塗 抹 し,グ ラム染 色 を施 し,ま た チ ョコ レー ト寒 天培 地 で 培 養 を行 った が,全 例 と も淋 菌 は検 出 され な か った。 考 案 ク ラ ミジ ア は特 有 な 増殖 形態 を持 った 微生 物 で あ る。 す な わ ち,感 染 性 を もつelementarybody(EB)と 呼 ば れ る粒 子 と して宿 主 細 胞 に 吸着 しフ ァゴ ゾー ム に取 りこ まれ,そ の後,大 型 で 代 謝 活性 の高 いreticulate body (RB)へ と変 化 し,分 裂 増 殖 す る。 次 にRBはEBへ と再 構 築 され,や が て宿 主 細胞 が崩 壊 す る際 に 細胞 外 へ 放 出 され る2,9)。 ク ラ ミジア属 は 封 入 体 の 性 質 とサ ル フ ァ剤 に対 す る 感 受 性 の 差 か らC.trachomatisとC.psittasiの2つ に分 類 され,さ らにC.trachomatisは3種 の生 物学 的 亜 種 に 分 類 され る。 す なわ ち,ト ラ コーマ,封 入 体 結 膜 炎,非 淋 菌 性 尿道 炎,子 宮 頸 管 炎 な どの 原 因 とな る trachoma biovar,第 四性 病 を ひ きお こすlymphogranu-loma venereum(LGV)biovarお よ び マ ウ ス肺 炎 を ひ き お こすmouse pneumonitis biovarの3種 で あ る。 マ ウ ス肺 炎 は ヒ トに は 感 染 しない と され て い る。 しか し, trachoma biovarお よびLGVbiovarは ヒ トか ら ヒ トへ 伝 播 す る。 これ らのbiovarは 血 清 学 的 に さ ら に細 分 さ れ,trachoma biovarはA,B,Ba,C,D,E,F,G, H,I,J,Kの12種,LGV biovarはL1,L2,L3の 3種 に 分 け られ る9,10)。 C.trachomatis感 染 を 証 明す る検 査 法 と して は 分 離 培 養 同 定 法,直 接 塗 抹 染 色法 お よび 血 清 学 的診 断 法 が 挙 げ られ る11)。 それ ぞ れ の 検査 法 に は 特 色 が あ るが,培 養 細 胞 を用 い て ク ラ ミジ アを培 養 す る方 法 は 細 胞培 養 の 設 備 が 必 要 で あ り,ま た,判 定 ま で に 日数 を要 す るの で 迅 速 に結 果 を得 た い場 合 は不 都 合 で あ る。 これ に対 し, 感 染 部 位 の 擦 過 物 よ りの直 接 塗 抹 標本 か らC.trachoma-tisを 検 出 す る方 法 は,C.trachomatisのB,Cお よ びL2の 血清 型 を抗 原 として 主 要膜 タ ンパ クに特 異 的 な モ ノク ロー ナ ル抗 体 が 作 成 され8),さ らに こ の 抗 体 を FITCで 標 識 した 試 薬 が 開発 され た こ とに よ り,迅 速 で しか も容 易 に で き る 臨 床 検査 法 とな っ て きた11)。 この モ ノ ク ロー ナ ル抗 体 を用 い た検 査法 は西 浦 らに よ って有 効 性 の 検 討 が 行 われ,直 接 塗 抹 に お い て もEBを 検 出す る こ と に よ り,培 養 法 に匹 敵 す る感 度 と特 異 性 を もつ こ と が確 認 され た7)。 そ の た め,今 回のC.trachomatis の 検 出に は この方 法 を用 い た 。 C.trachomatisはSTDの 病 原 体 と してか な り高 い頻 度 で感 染 が あ る と考 え られ てお り9),欧 米 ではSTDク リニ ック を受 診 した 女性 にお け るC.trachomatisの 検 出率 は19∼33%の 報 告 が あ るが,一 般 の妊 婦 にお い て も 6∼18%の 報 告 が あ る1)。 わが 国 で も非淋 菌 性 尿 道 炎 で は 約40∼50%,淋 菌 性 尿道 炎で は 約20∼30%検 出 され て い る3∼5)。また,女 性 で も,非 淋 菌 性 子宮 頸 管 炎 患 者 の 22.7%,淋 菌 性 子 宮 頸 管 炎 患者 の25.0%,出 産 婦 の6.3 %に お い てC.trachomatisが 検 出 され て い る。 今 回 われ われ が 行 った 梅 毒 患 者 に お け るC.tracho-matisの 検 出 は男 性 で は症 例 数 と して は11.1%,検 体 数 と して は10%の 陽 性 率 で あ り,女 性 で は 症 例 数 と しては 33.3%,検 体数 と し ては23.5%で あ った 。 この よ うに女 性 で 高 い 検 出率 を示 した の は,女 性24例 中17例 が岐 阜 市 内の 特 殊 浴 場 で働 く女 性 で あ り,感 染 の 機 会 が 多 い た め と考 え られ る。 また,今 回 検査 を行 った 男 性9例 とも尿 道 か らの 膿 性 分泌 物,尿 道 痛,排 尿 痛 な どの 尿 道 炎 の症 状 が 全 くな い症 例 で あ った た め,検 出率 が 低 か った の で あ ろ う。 そ れ に対 し,女 性 で はC.trachomatisに よる 子 宮 頸 管 炎 が あ って も帯 下 の 増 量 が あ る程 度 で,全 く症 状 の発 現 し ない こ とも多 い た め本 人 は気 づ か ず 感 染 して い る こ とが 多 い の で 検 出 率 が 高 くな った のか も しれ な い 。 さ らに検 体 採取 時 に 男性 で は 外 尿 道 口 よ り綿 棒 を挿 入 す る た め,女 性 に お け る検 体 採 取 に 比 し,強 い疼 痛 を 伴 う。 そ のた め 検 体 の 採取 が 不 十 分 とな る可 能 性 が あ る。 女性 にお け る検 出 率 は欧 米 のSTDク リニ ックで の 検 出 率 と同程 度 に高 く,わ が 国のC.trachomatisに よ る 汚 染 は 欧米 の状 況 と比 べ て決 して楽 観 で き る状 況 で は な い と推 測 され る。C.trachomatisが 検 出 され た 男 性1 例,女 性8例 と もほ とん ど無 症 状 で,女 性2例 にお い て わ ず か に帯 下 の 増 量 を 感 じる の みで あ った 。 この よ うに 全 く無 自覚 の うち にsexual contactに よ り相手 に伝 播 し た り,頸 管感 染 をお こ した 女性 が 出産 す る際 に産 道 感 染 に よ り新 生 児 の封 入 体 結 膜 炎 や とき に は肺 炎 を ひ きお こ す 可 能 性 が 十分 あ る1,12)。
欧 米 のSTDク リニ ックで の子 宮 頸 管 か らの 淋菌 の検 出は 約15∼30%で あ り1),C.trachomatisと 同 程 度 か, 淋 菌 の 検 出 率 の方 が やや 低 い 傾 向 に あ った 。 今 回 の われ われ の 検 査 で は淋 菌 の検 出 され た 症例 は な か った 。 言 い 換 えれ ば梅 毒 とC.trachomatisに よる二 重 の 感 染 は 男 性 で は11.1%,女 性 で は33.3%に あ った が,梅 毒,C. trachomatisお よび 淋 菌 に よ る三 重 の 感 染 は な か った と い う こ とに な る。 C.trachomatis感 染 に対 す る 治 療 は,最 小発 育 阻 止 濃 度 か らみ る と リフ ァ ン ピ シ ンが 最 も感 受 性 が 高 い13) が,耐 性 を獲得 しやす いた め,テ トラサ イ ク リン(TC), ドキ シ サ イ ク リン(DOXY),ミ ノサ イ ク リン(MINO) が よ く用 い られ14),1982年 に 米 国 のCDC(Centerfor Disease Control)が 発 表 したSTD治 療 に関 す るガ イ ド ライ ンで も ク ラ ミジア尿 道 炎 ない し非 淋 菌性 尿 道 炎 の第 一 選 択 薬 とし てTC,DOXYが 挙 げ られ てい る15)。 MINOで もTCと 同様 の 効 果が あ る とい う報告 が あ り 14) ,1日4回 投 与 で あ るTCよ りも1日2回 投 与 で よ いMINOの 方 が 内服 しやす い で あ ろ う と考 え,今 回 は MINOを200mg/日,7日 間投 与 を 行 った 。 投 与 開 始1 カ月 後 の再 検 査 で 全 例 陰 性 化 して お り,MINOは 有 効 で あ った と考 え られ た 。
文
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Detection
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trachomatis
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Patients
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and Secondary
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Mariko Seishima, Satoshi Okumura and Michihiro Ohtani
Department
of Dermatology,
Gifu Prefectural
Gifu Hospital
4-6-1 Noishiki, Gifu, Japan
Megumi Watanabe,
Ryo Matsumoto,
Masayoshi Tsutsumi
and Kazumasa Hikichi
Special Reference
Laboratories
51 Komiya-cho,
Hachioji, Tokyo, Japan
Key words : Chlamydia trachomatis—SyphilisMicro Trak