基礎応用数学 第5章 微分法
第
5
章 微分法
§ 5.1
導関数
1.
微分係数
平均変化率 x = aの近傍で、関数 f (x)が定義されているとする。aからx軸の正の方向に微少距離h離れたところ までの平均変化率、 f (a + h) − f (a) h (5.1) がh → 0で極限値をもつとき、これを f (x)のx = aでの右微係数、または右微分係数といい、 f+0(a) = lim h→+0 f (a + h) − f (a) h (5.2) と書く。同様にx軸の負の方向に微少距離h離れたところまでの平均変化率が、h → 0で極限をもつとき、 f−0(a) = lim h→−0 f (a + h) − f (a) h = limh→0 f (a − h) − f (a) −h (5.3) と書き、これを f (x)のx = aでの左微係数、または左微分係数という。ここで両者が一致すれば、単に、 f0(a) = lim h→0 f (a + h) − f (a) h (5.4) と書いて、これを f (x)のx = aでの微係数 、または微分係数 という。定義から、微分係数が存在するた めには、f (x)はx = aで連続でなければならない。 -6 x y ¡¡ ¡¡ "" "" " " " " P Q a a + h Fig.5.1 微分係数の幾何学的表現 座標(a, f (a))を点P、座標(a + h, f (a + h))を点Qとすると、平均変 化率(5.1)式は直線PQの傾きになる(図5.1)。 ここでhを次第に0に近づけるとき、直線PQの傾きが次第に一定値 α に近づくならば、すなわち(5.4)式が極限値を持つならば、αはx = a における f (x)の微分係数となる。直線PQを接点P における接線 と いう。2.
導関数
導関数の定義 xのある区間で微分係数(5.4)が連続的に定義できるとき、f0(a)はaを変数とした関数とみることがで きる。変数をxに変えた、関数としての微分係数を f (x)の導関数 といい、 f0(x)、 d f dx、 d f (x) dx 、 D f (x) などと表す。 ✎ 導関数は(xの)関数であり、微分係数は導関数の(あるxでの)値である。これらは混用しないよう にしなければならない。基礎応用数学 第5章 微分法 高階導関数 f (x)がある区間で微分可能であり、導関数 f0(x)が連続であるとき、f (x)は連続微分可能であるとい う。さらに、導関数 f0(x)もまたその区間で微分可能であれば、f (x)は2回微分可能であるといい、f0(x) の導関数を f00(x)と書く。このとき f00(x)も連続であれば、f (x)は2回連続微分可能であるという。 このように、n回の微分を行ったときに得られた導関数を、f (x)のn階導関数といい、 f(n)(x)、 d nf dxn、 dnf (x) dxn 、 D nf (x) などと表す。 また、関数がn回連続微分可能であることを、Cn級であるという。特に何回でも微分可能な関数は、 C∞級であるという。 関数の極値と導関数 f (x)をx = aの近傍で1回微分可能な関数 とする。もし、f (x)がx = aで極小値、すなわちこの近傍 での最小値をとるならば、近傍内のすべてのx > aであるxに対して、 f (x) − f (a) x − a > 0 である。ここで、x → aの右極限をとれば、 lim x→a+0 f (x) − f (a) x − a >= 0 (5.5) と右微分係数は非負になる。同様に左極限をとって左微分係数を求めれば、 lim x→a−0 f (x) − f (a) x − a <= 0 (5.6) となる。関数は微分可能であるから、(5.5)、(5.6)よりx = aでの微分係数は0でなければならない。す なわち、f0(a) = 0である。 f (x)がx = aで極大値をとる場合も、同様の議論により f0(a) = 0であることが示される。 よって次の 定理が成り立つ。 定理5.1 (極大、極小) f (x)をx = aの近傍で1回微分可能な関数とする。もし f (x)がx = aで極小値、あるいは極大値 をとれば、 f0(a) = 0 である。 ✎ f (x)は微分可能なことが必要である。f (x) = | x |はx = 0で最小値をとるが、微分可能ではない。 この逆は成り立たない。たとえば f (x) = x3はx = 0で f0(0) = 3x2= 0であるが、極小値も極大値もと らない。一般に f0(a) = 0となるaを関数の停留点 というが、極大をとる場合も極小をとる場合も、どち らもとらない場合も含まれる。 f (x)が2回微分可能ならば、停留点での f00(x)の符号を調べることによって、極大、極小の区別をつけ ることができる。すなわち、f0(a) = 0となる停留点x = aで、f00(a) > 0ならば f (x)は極小値、f00(a) < 0
ならば f (x)は極大値をとる。f00(a) = 0のときは、関数は極大値も極小値もとらない。これを狭義の停留 値 ともいう。
基礎応用数学 第5章 微分法
3.
導関数の公式
関数の導関数を求める際に、関数と導関数の演算に関する関係式を調べておけば、いちいち定義式(5.4) に戻らずにすむので便利である。 以下、f (x)、g(x)が微分可能と仮定してそれらの関係式を求める。 関数の定数倍の導関数 公式5.1 {c f (x)}0= c f0(x) (5.7) 関数の和と差の導関数 公式5.2 { f (x) ± g(x)}0= f0(x) ± g0(x) (5.8) 【証明】 (5.7)式および(5.8)式は、(5.4)式に代入することより、簡単に導出できる。【証明終わり】 関数の積の導関数 公式5.3 { f (x) g(x)}0= f0(x) g(x) + f (x) g0(x) (5.9) 【証明】 まず、(5.4)式を次の形に書き換える。 f (x + h) − f (x) = h · f0(x) + h ·∆f(h) (5.10) ここで∆f(h)は、lim h→0∆f(h) = 0 となる、剰余(関数)であり、∆f(0) = 0である。 g(x)についても同様に、 g(x + h) − g(x) = h · g0(x) + h ·∆g(h) (5.11) と書き換える。これらの式より、 f (x + h) g(x + h) − f (x) g(x) = { f (x) + h · f0(x) + h ·∆f(h)} {g(x) + h · g0(x) + h ·∆g(h)} = h { f0(x) g(x) + f (x)g0(x)} + h { f (x)∆g(h) + g(x)∆f(h)} + h2{ f0(x) g0(x) + · · · } ここで、上式の両辺をhで割り、h → 0の極限をとれば、2番目の{ · · · }の中は0、3番目の{ · · · }の中 は仮定より有限値に収束するから、 lim h→0 f (x + h) g(x + h) − f (x) g(x) h = f 0(x) g(x) + f (x)g0(x) となり、(5.9)式が導出された。【証明終わり】基礎応用数学 第5章 微分法 関数の商の導関数 公式5.4 xの近傍でg(x) 6= 0であるとき、 ½ f (x) g(x) ¾0 = f0(x) g(x) − f (x) g0(x) {g(x)2} (5.12) 【証明】 まず、 ½ 1 g(x) ¾0 = −g0(x) {g(x)2} を導く。(5.11)式より、 1 h ½ 1 g(x + h)− 1 g(x) ¾ = −1 h g(x + h) − g(x) g(x + h) g(x) = − g0(x) +∆g(h) g(x)©g(x) + h · g0(x) + h ·∆g(h) ª ここでh → 0の極限をとれば、 ½ 1 g(x) ¾0 = −g0(x) {g(x)2} が導ける。 f (x) g(x) = f (x) 1 g(x) と置いて、積の導関数の公式(5.9)を適用すれば、 ½ f (x) g(x) ¾0 = f 0(x) g(x) + f (x) ½ 1 g(x) ¾0 = f 0(x) g(x) + f (x) −g0(x) {g(x)2} = f0(x) g(x) − f (x) g0(x) {g(x)2} 【証明終わり】 合成関数の導関数 公式5.5 { f (g(x))}0= f0(g(x)) g0(x) (5.13) 【証明】(5.10)式と同様に、 g(x + h) − g(x) = h · g0(x) + h ·∆g(h) (5.14) と書き換える。ここでy = g(x)とおけば同様に、 f (y + k) − f (y) = k · f0(y) + k ·∆f(k) (5.15) と書ける。ここでhとkには、 k = h · g0(x) + h ·∆g(h) (5.16) の関係があり、h → 0のときk → 0である。これらの式により、 f (g(x + h)) − f (g(x)) = k · f0(g(x)) + k ·∆f(k) = h · f0(g(x)) · g0(x) + h ·∆g(h) · f0(g(x)) + h ·∆f(k) · g0(x) + h ·∆g(h) ·∆f(k) (5.17) と書くことができる。両辺をhで割って、 f (g(x + h)) − f (g(x)) h = f 0(g(x)) · g0(x) +∆ g(h) · f0(g(x)) +∆f(k) · g0(x) +∆g(h) ·∆f(k) ここで、両辺のh → 0の極限を取れば、右辺の第2項以下は0に収束する。【証明終わり】
基礎応用数学 第5章 微分法
§ 5.2
多変数関数の導関数
1. 2
変数関数の導関数
一般に関数の独立変数は1個とは限らない。そこで、次に独立変数が2個の場合を扱う。独立変数が3 個以上の場合も同様に扱うことができる。 一般に2変数関数を、z = f (x, y)と置く。たとえばxを経度、yを緯度と考えれば、地理座標(x, y)での 標高zはx,yの2変数関数となる。このときzはいわば地形を表す関数である。 そこで1変数関数のときと同様に、ある点でその点を通る直線に沿った斜面の勾配を求めようとすれ ば、一般にその値は直線を(x,y)平面内に投影した方向により変わる。したがって方向を定めて、その後 に勾配を計算しなければならないことになる。 しかし、z = f (x, y)がなめらかに変化する関数であれば、その点を通り斜面に接する接平面が1つ存在 する。この接平面の傾きは、1次独立な2方向での傾きがわかれば決まる。そこでその2方向をx方向と y方向にとってこれらを計算しておけば、すべての方向の勾配は、その1次結合で表すことができる。 これらより、二次元座標点(a, b)の近傍で関数 f (x, y)が定義されているとき、(5.4)式に対応して、 lim h→0 f (a + h, b) − f (a, b) h (5.18) を、f (x, y)のx = a, y = bでのx方向の微係数、または偏微分係数 という。 同様に、y方向についても、 lim k→0 f (a, b + k) − f (a, b) k (5.19) を、f (x, y)のx = a, y = bでのy方向の微係数、または偏微分係数という。2.
偏導関数
導関数の定義 x, yのある領域で微分係数(5.19)式が連続的に定義できるとき、偏微分係数はa, bを変数とした関数と みることができる。変数をx, yに変えた、関数としてのx方向の偏微分係数を f (x, y)の偏導関数 といい、 fx(x, y)、 ∂ f ∂x、 ∂ ∂xf (x, y) などと表す。 同様に、(??)式が連続的に定義できるとき、y方向の偏導関数を、 fy(x, y)、 ∂ f ∂y、 ∂ ∂yf (x, y) などと表す。 偏導関数の計算 関数 f (x, y)の偏導関数、fx(x, y)とは、y =一定である直線上でのx方向の微分であるから、これを計 算するためには、yをあたかも定数のように扱い、xについての1変数関数であるようにみなして、xにつ いての微分を計算すればよい。 同様に、fy(x, y)を計算するためには、xをあたかも定数のように扱い、yについての微分を計算すれば よい。 これらの計算を行う際には、前節で述べた1変数関数について導いた導関数の公式がそのまま適用で きる。基礎応用数学 第5章 微分法 高階偏導関数 偏導関数 fx(x, y)がその領域で、xについてさらに微分可能であれば、1変数関数と同様に、xについて についての2階偏導関数、 fxx(x, y) =∂ 2f ∂x2 が定義される。同様に、yについてさらに微分可能であれば、x, yについての2階偏微分、 fyx(x, y) = ∂ 2f ∂y∂x が定義される。y方向の微分についても同様に、 fyy(x, y) =∂ 2f ∂y2 および fxy(x, y) = ∂2f ∂x∂y が定義される。 一般になめらかな関数の偏導関数については、微分の順序によらないので、xとyは交換でき、 fyx(x, y) = fxy(x, y) または ∂ 2f ∂y∂x = ∂2f ∂x∂y である。 また、関数がすべての独立変数に対してn回連続偏微分可能であることを、やはりCn級であるという。 特に何回でも偏微分可能な関数は、C∞級であるというのも同じである。
3.
全微分
座標点(x, y)から微少距離dsだけ移動したときの、関数 f (x, y)の変化を考える。dsがx方向にdx、y 方向にdyに分解できるとすると、前述した接平面上で考えれば、ds移動したときの変位は、x方向にdx 移動したときの変位∆fxと、y方向にdy移動したときの変位∆fy の和になる。ここで、 ∆fx= ∂ f ∂xdx ∆fy=∂ f ∂ydy であるから、次の公式が成り立つ。 公式5.6 (全微分) d f = ∂f ∂xdx + ∂f ∂ydy4.
変数変換
(chain rule)
接平面上のx, y軸の代わりに、ds方向に座標軸φ、それに垂直方向に座標軸ψ をとってその変化を表 せば、上の公式より、 ∂f ∂φ = ∂f ∂x ∂x ∂φ + ∂f ∂y ∂y ∂φ ∂f ∂ψ = ∂f ∂x ∂x ∂ψ + ∂f ∂y ∂y ∂ψ と変数変換することができる。これを変数変換公式、あるいはchain ruleという。基礎応用数学 第6章 微分法の応用
第
6
章 微分法の応用
§ 6.1
最大・最小問題
この章では微分の応用問題として、最大・最小問題をとりあげる。1.
問題の概要
実社会において、何らかの値を最大、あるいは最小にするよう求められるケースは多い。 ・利潤を最大にする ・コストを最小にする ・要する期間を最短にする などがすぐにも挙げられる。 これらの問題は、もしその問題とされる値を「行為」に対する関数として表すことができれば、その最 大値あるいは最小値を探せば解決することができる。残念ながら、いつでもそのような数理モデルを構築 する事ができるとは限らないが、有力な方法であることは疑いない。そこで、そのような数理モデルがで きる場合について、その最大値や最小値を求める方法について考察する。 なお、最大値と最小値は、符号を入れ替えれば、数学的には同等の問題になる。2.
問題の種類
離散点での最大・最小値 有限個(数学的には可算無限個も)の点で目的となる値が定義され、その中から最大、最小の点を探し出 す、という問題である。 かつてはその点を効率的に探すため、シンプレックス法などが開発されたが、現在は計算機でしらみつ ぶしに当たる方が早いことが多いので、数学的にはあまり扱われることはない。 領域内での関数の最大・最小値 ある領域(一次元ならば区間)の中で、目的となる関数 f (x)の最大(小)値をとる点を探す問題である。 この関数 f (x)を目的関数 という。 目的関数が微分可能である場合には、微分の概念が有効である。 制限(束縛)条件つき最大・最小問題 二変数以上の最大・最小問題で現れる問題。独立変数が領域内の任意の値をとらず、ある条件を満たす ような組しかとれない、という条件下で最大・最小値を求める問題。たとえば、閉領域の境界での最大、 最小値を求めるという問題がこれに当たる。 この条件が陽関数で与えられる場合は、次数を下げた最大、最小問題となるが、条件が陰関数で表され る場合には、ラグランジェの未定乗数法(未定係数法)という方法で求めることになる。 最大・最小値を与える関数 ある条件の元で、最大(小)値を与える関数形を探す問題。多くの場合、関数の積分を最大(小)にする ような関数形を探すことになる。 《例》 昔、王様が手柄を立てた家来に長い縄を与え、「この縄で囲んだ土地を自分のものにしてよい」と 言った。家来はどのような図形を描けば、囲んだ面積を最大にすることができるだろうか。 この例の問題は「等周問題」といい、変分で解くことができる。ただし、変分はこのテキストの範囲を 超えるので、ここでは扱わない。基礎応用数学 第6章 微分法の応用
§ 6.2
一変数関数の最大・最小問題
まず変数が一つだけの関数(一変数関数)についての最大・最小問題を復習しておく。1.
連続微分可能な関数
関数 f (x)の一次導関数 f0(x)が存在し、区間内で連続であるとき(もちろんそのためには f (x)自身も 連続でなければならない)、f (x)は(一回)連続微分可能 である、という。 さらに、関数 f (x)の二次導関数 f00(x)が存在し、区間内で連続であるとき(そのためには f (x)は連続 微分可能でなければならない)、f (x)は二回連続微分可能である、という。 《例》 f (x) = x2 (x >= 0) f (x) = −x2 (x < 0) は一回連続微分可能であるが、x = 0で二次導関数が不連続なので、 x = 0を含む区間では二回連続微分可能ではない。2.
極大値と極小値
一般に、f0(x) = 0なるx = cを停留点といい、そのときの関数値 f (c)を停留値 という。ここで f (x)が 二回連続微分可能な関数ならば、その停留値に関しては次の定理が成り立つ。 定理6.1 一変数関数の極大・極小 関数 f (x)が、xの閉区間[a, b]で有界かつ二回連続微分可能であり、x = cで f0(c) = 0であると する。このとき、f (x)は f00(c) > 0のときx = cの近傍で最小値をとり、f00(c) < 0のときx = cの 近傍で最大値をとる。 定理の証明は次のように導くことができる。もしx = cで f0(c) = 0かつ f00(c) > 0であるとすると、十 分小さな∆cに対して、f0(c +∆c) > 0となるので、開区間(c, c +∆c)に含まれるすべてのxに対して、 ( f (x) > f (c)となる。逆に、十分小さな∆cに対して、f0(c −∆c) < 0となるので、開区間(c −∆c, c)に 含まれるすべてのxに対して、( f (x) > f (c)となる。すなわち f (c)はx = cの近傍(c −∆c, c +∆c)の中 での最小値である。f00(c) < 0の場合も同様に、x = cの近傍での最大値であることを導くことができる。 ただし、逆は成り立たない、たとえば f (x) = x4はx = 0の近傍で最小値をとるが、f00(0) = 0である。 このように、f00(x) = 0のときは、その近傍で最大値を取るときも、最小値を取ることもあり、どちらも とらないこともある(たとえば f (x) = x3)。この場合、さらに高階な導関数を調べなければ、最大(最小) であるかどうか判断できない。 この場合の最大、最小値とは停留点の近傍でのことであり、関数の定義域全体の最大、最小値となって いるかどうかはわからない。その意味でこれらを極大値 、極小値 という。3.
区間内での最大値、最小値
関数 f (x)が有界 であるとは、区間内で f (x) = ±∞に発散せず、関数値が有限値であることを言う。有 界で連続微分可能な関数に対しては、次の定理が成り立つ。 定理6.2 一変数関数の最大・最小 関数 f (x)が、xの閉区間[a, b]で有界、かつ連続微分可能であるとき、f (x)は区間端点a、b、お よび f0(x) = 0となる点のいずれかで最大値(最小値)をとる基礎応用数学 第6章 微分法の応用 定理の証明は前と同様に、次のように導くことができる。もし区間内部の点cで f0(x) > 0とすれば、 十分小さな∆cに対して、f (c +∆c) > f (c)となるので、x = cで関数は最大値を取ることはない。また、 f (c −∆c) < f (c)となるので、x = cで関数は最小値を取ることもない。 f0(x) < 0の場合も、±の符号を かえれば結論は変わらない。 すなわち区間端点あるいは f0(x) = 0の点以外では、関数は最大・最小値を とることはない。 なお、閉区間内で連続微分可能であるという条件は重要である。たとえば f (x) = | x |はx = 0を含む区 間でx = 0で最小値をとるが、これは上の条件には当てはまらない。このような場合には、微分が不連続 となる点で区間を分割して、それぞれ最大値(最小値)を求め、それらを比較しなければならない。
4.
最大値、最小値の求め方
これらをまとめると、一変数関数の区間内での最大値を求めるには、まず微分が連続であるような区間 に分割した上で、それぞれの区間について、 (1)一次導関数 f0(x) = 0で、二次導関数 f00(x) <= 0である停留値(複数あればすべて) (2)区間の両端点での関数値 を求めて比較し、その中最大なものを最大値とすればよいことがわかる。 最小値についても、二次導関数の符号を逆にするだけで後は同様である。§ 6.3
多変数関数の最大・最小問題
つぎに多変数関数の最大・最小問題を考える。ただし、変数がいくつでも基本的な方法は不変であるの で、二変数関数 f (x, y)の場合のみを考えることにする。1.
連続微分可能な関数
連続微分可能な条件は、一変数関数の導関数 f0(x)を偏導関数 ∂f ∂x = 0等に置き換えたものである。た とえば関数 f (x, y)が二回連続微分であるためには、二回偏導関数 ∂ 2f ∂x2、 ∂2f ∂y2、 ∂2f ∂x∂y がすべて存在して 連続でなければならない。2.
極大値と極小値
二変数関数 f (x, y)に対して、∂f ∂x = 0かつ ∂f ∂y = 0となる座標点(cx, cy)を停留点といい、そのときの 関数値 f (cx, cy)を停留値という。ここで f (x, y)が二回連続微分可能な関数ならば、その停留値に関して は次の定理が成り立つ。 定理6.3 二変数関数の極大・極小 関数 f (x, y)が、x, y平面の閉領域Dで有界、かつすべての二階偏導関数が連続微分可能であり、 (x, y) = (cx, cy)で ∂f ∂x = 0かつ ∂f ∂y = 0であるとする。このとき、f (x, y)は ∂2f ∂x2 > 0かつ ∂2f ∂y2 > 0 のとき(cx, cy)の近傍で最小値をとり、∂ 2f ∂x2 < 0かつ ∂2f ∂y2 < 0のとき(cx, cy)の近傍で最大値を とる。 二次導関数まで0のときは、さらに高階の導関数まで調べなければ、極大(小)値になっているかどうか わからないのは、一変数の場合と同様である。 二次導関数が0でない場合、その正負によって4つの場合に分けられる。そのうち、∂ 2f ∂x2 と ∂2f ∂y2 の符 号が同じ場合は、上の定理より極小、極大が判別できる。 残る二つの場合、すなわち、基礎応用数学 第6章 微分法の応用 ∂2f ∂x2 > 0、 ∂2f ∂y2 < 0あるいは ∂2f ∂x2 < 0、 ∂2f ∂y2 > 0のときの停留点を鞍点 という。 鞍点は関数値を等高線のように見れば、峠に当たる場所である。
3.
領域内での最大値、最小値
一次元の場合と同様に、次の定理が成り立つ。 定理6.4 二変数関数の最大・最小 関数 f (x, y)が、x, y平面の閉領域Dで有界、かつ二つの偏導関数が連続微分可能であるとき、 f (x, y)は領域境界点、および ∂f ∂x = 0かつ ∂f ∂y = 0となる点のいずれかで最大値(最小値)をとる 定理の証明も一次元の場合と同様であり、∂f ∂x と ∂f ∂y のどちらかが0でなければ、最大値も最小値も取 り得ないことを示すことができる。4.
最大値、最小値の求め方
これらをまとめると、二変数関数の領域内での最大値を求めるには、まず微分が連続であるような領域 に分割した上で、それぞれの領域について、 (1)一次導関数∂f ∂x = 0かつ ∂f ∂y = 0で、 ∂2f ∂x2 < 0かつ ∂2f ∂y2 < 0である停留値(複数あればすべて) (2)領域の境界での関数値 を求めて比較し、その中最大なものを最大値とすればよいことがわかる。 最小値についても、二次導関数の符号を逆にするだけで後は同様である。 ただここで、(1)については一変数の場合と同様に、条件を満たす停留点を求めてその点の座標値を関 数に代入すればよいが、(2)については一変数の場合ほど簡単ではない。そのような場合には以下に述べ る方法を用いなければならない。§ 6.4
束縛条件下での最大、最小問題
1.
束縛条件
最大(小)値を調べる点が、領域内の全ての点を取ることができず、ある曲線上の点しかとれないとき、 その条件下の点での最大(小)値を調べるという問題を考える。たとえば、次のような問題が考えられる。 ・直線y = ax + b上で、関数 f (x, y)の最大(小)値をとる点を探す。 ・ある経路(直線とは限らない)に沿った点から、関数 f (x, y)の最大(小)値をとる点を探す。 ・ある点を中心とした、半径aの円周上の点から、関数 f (x, y)の最大(小)値をとる点を探す。 このような条件を束縛条件 あるいは制約条件 などといい、一般には次のような形で与えられる。 g(x, y) = C (6.1) 現実に遭遇する問題では、ほとんどの場合、予算、人員、物理的制約などの条件が課されており、その 条件下で最大(小)を与える解を探さなければならず、条件なしに解を求められる場合はむしろ少ない。2.
束縛条件が陽関数で与えられる場合
束縛条件(6.1)式が、y = y(x)あるいはx = x(y)のような陽関数に変形できる場合は、目的関数 f (x, y) を f (x, y(x))、あるいは f (x(y), y)の形に置くことができる。 これはxまたはyだけの関数であるから、一 次元の最大・最小問題に帰着できる。基礎応用数学 第6章 微分法の応用
3.
二変数が媒介変数で表される場合
二変数x、yが媒介変数tにより、x =φ(t)、y =ϕ(t)と表される場合には、目的関数 f (x, y)にこのsき を代入することにより、f (φ(t),ϕ(t))とtだけの関数として表すことができ、やはり一次元の最大・最小 問題に帰着できる。4.
束縛条件が陰関数で与えられる場合
(
ラグランジェの未定乗数法
)
束縛条件が一般の陰関数で与えられる場合には、ラグランジェの未定乗数法 という方法を使って停留値 を求める。 ラグランジェの未定乗数法では、まず(6.1)式をg(x, y) − C = 0という形に変形し、これに係数λ をか ける。これをラグランジェの未定乗数という。そしてそれを目的関数 f (x, y)に加えて新しい目的関数を 作る。 これはx, y,λ の三変数の関数F(x, y,λ)となる。 F(x, y,λ) = f (x, y) +λ(g(x, y) −C) (6.2) ここでλ のかかる()の中の値は常に0であるから、F(x, y,λ)の値は元の目的関数 f (x, y)と変わらな い。そしてこの(6.2)式を目的関数として、束縛条件のないx, y,λ の三変数関数の極値問題として解く、 すなわち、 ∂F ∂x = 0 ∂F ∂y = 0 ∂F ∂λ = 0 (6.3) により連立方程式を立てて、x、y、λ を求めれば、それが最大(小)値を与える候補である、停留値の値 となっている。 これは、説明するより例題を見た方が理解がしやすい。 例題6-1 ¶ ³ 直線y = 1 − x上で、f (x, y) = x2+ y2の最小値を、ラグランジェの未定乗数法により求めよ。 ☞束縛条件をx + y − 1 = 0と変形し、ラグランジェの未定乗数法を適用する。目的関数は、 F(x, y,λ) = x2+ y2+λ(x + y − 1) である。これに(6.3)式を適用すると、 2x +λ = 0 2y +λ = 0 x + y − 1 = 0 であるから、この連立方程式を解くと、λ = −1、x = y = 12 であるから、(1 2, 1 2)が停留点である。 この点は極小値を与え、他に停留点はないからこの点が最小値を与える。すなわち最小値は 1 2 なお、この問題はラグランジェの未定乗数法の例として出したのであり、解くだけならyをxの関 数として代入し、xだけの極値問題として解いた方が早い。 µ ´基礎応用数学 第6章 微分法の応用