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小児難治性白血病の克服を目指して

杉 田 完 爾

山梨大学大学院医学工学総合研究部小児科学講座

要 旨:小児急性リンパ性白血病(ALL)の予後は多剤併用化学療法の進歩によって著明に改善さ

れてきたが,Philadelphia 染色体を有する ALL や MLL 遺伝子の再構成を有する ALL は依然として 難治性である。この二大難治性 ALL を攻略するためには,白血病細胞の分子遺伝学的あるいは生 物学的特性を追求することによって,難治性白血病の『弁慶の泣き所』を探し出すことが重要とな る。本総説では,小児二大難治性 ALL の分子遺伝学的・臨床的特性に関して現在までに分かって いることを概説し,次に二大難治性 ALL の化学療法剤に対する感受性,サイトカイン受容体の発 現と機能,分子標的療法,細胞傷害分子に対する感受性について我々のデータを中心に紹介すると ともに,臨床応用へ向けた現状について触れる。 キーワード 小児難治性白血病,Philadelphia 染色体,MLL 遺伝子 はじめに 小児急性リンパ性白血病(acute lymphoblas-tic leukemia, ALL)の治療成績は,近年の多剤 併用化学療法の進歩によって飛躍的に向上して きているが,Philadelphia 染色体陽性(Ph+) ALL や MLL(mixed lineage leukemia)遺伝子に 再構成のある(MLL+)ALL は,化学療法単独 の治療では依然として難治性である。この二大 難治性 ALL を攻略するためには,臨床像の解 析や白血病の本態に迫る分子遺伝学的アプロー チに加えて白血病細胞の生物学的特性に関する アプローチによって難治性白血病細胞の『弁慶 の泣き所』を探し出すことが重要となる。その 泣き所を見いだせれば,新しい視点からの治療 アプローチが可能となる。慢性骨髄性白血病 (chronic myeloid leukemia, CML)に対する分 子標的剤 imatinib の登場とその衝撃的臨床効 果を目の当たりにした今,新規の治療アプロー チは,実験室の試験管内でだけ再現される絵空 事ではなく,すぐにでも臨床応用に繋がる現実 味を帯びた治療法として認知されるようになっ てきている。本総説では,最初に小児二大難治 性 ALL において明らかとなってきている分子 遺伝学的・臨床的特性に関して,共通点・相違 点を対比させながら概説を試みたい。次に, 我々の研究室では,この二大難治性 ALL の生 物学的特性に関する追求を研究ターゲットの中 心に据えて『弁慶の泣き所探し』を続けてきて いるので,その成果の一端を紹介させていただ くとともに,臨床応用へ向けた現状について解 説を試みたい。 I. Ph+ALL と MLL+ALL の 分子遺伝学的・臨床的特性 1.染色体転座,融合遺伝子,融合蛋白 Ph 染色体は,t(9;22)(q34;q11)によって 形成される小染色体で,22q11 に座位する bcr 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2008 年 3 月 5 日 受理: 2008 年 3 月 6 日

総  説

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( breakpoint cluster region) 遺 伝 子 に 9q34 座 位する c-abl 遺伝子が融合している。bcr 遺伝子 の切断部位は intron 1(minor bcr, m-bcr)あ るいは intron 2 あるいは 3(major bcr, M-bcr) に集中しており,c-abl の一部と head to tail で 融合する。m-bcr に切断点がある場合は exon 1 (B1)が c-abl の exon 2(a2)と連結した B1-a2 mRNA が転写され,融合蛋白 p190BCR-ABLが産

生される。一方,M-bcr に切断点がある場合は bcr exon 2(b2)あるいは exon 3(b3)が a2 に連結した b2-a2 mRNA あるいは b3-a2 mRNA が転写され,p210BCR-ABLが産生される。CML

の場合はほぼ例外無く p210BCR-ABLが産生される

が,小児 Ph+ALL では p190BCR-ABLが産生される

頻度が高い。Ph 染色体は通常の染色体検査で 検出される頻度が高いため診断漏れは少ない が,B1-a2 mRNA, b2-a2 mRNA, b3-a2 mRNA を 検出する reverse transcription (RT)-polymerase chain reaction( PCR) 法 を 用 い れ ば 1 日 で Ph+ALL の診断が可能となる。稀に a2 がスプ ラ イ ト ア ウ ト さ れ た b 2 - a 3 あ る い は b 3 - a 3 mRNA から p203BCR-ABLが産生される場合があ り1),通常の RT-PCR 法では bcr-abl mRNA は検 出されないため,bcr-abl の融合シグナルを検出 できる fluorescence-in situ hybridization(FISH) 法や bcr 遺伝子のサザーンブロット解析で診断 を確定する必要がある。また,ABL 蛋白に対 する抗体を用いたウエスターンブロット法を行 えば,異なる分子量の BCR-ABL 蛋白と正常 ABL 蛋白(p145)の検出と鑑別が容易におこ なえるため非常に有用である。 MLL 遺伝子は 11q23 に座位し,MLL+ 白血 病では相互転座によって 30 種類以上の遺伝子 と融合遺伝子を形成する。MLL+ALL で頻度の 高い転座は t(4;11)(q21;q23),t(11;19) (q23;p13),t(9;11)(p21;q23)で,それぞれ

AF4, ENL, AF9 と融合し,in-frame で転写・翻 訳され,融合蛋白を産生する。通常の染色体検 査 で 転 座 の 検 出 が 難 し い 場 合 も 多 く ( 特 に 11;19 転座),MLL+ALL の診断は RT-PCR 法で 主 な 融 合 mRNA で あ る MLL-AF4, MLL-ENL,

MLL-AF9 を検出することが重要である。しか し,他の遺伝子と融合している場合には検出さ れないため,後述する臨床像や白血病細胞の抗 原発現などから MLL+ALL が疑われる場合は, MLL 遺伝子の再構成バンドを検出するサザー ンブロット解析が必須となる。MLL 遺伝子の split signal を検出する FISH 法も有用である。

2.白血病化(leukemogenesis)の機序 Ph+ALL においては,強力なチロシンキナー ゼ活性を有する BCR-ABL 融合蛋白が産生され る 。 こ の 融 合 蛋 白 は 4 量 体 を 形 成 し , BCR-ABL 自身を強くリン酸化することに加えて, 通常はサイトカイン刺激で初めてリン酸化され る多くのサイトカイン受容体あるいはその下流 のシグナル伝達分子群をリン酸化することによ って恒常的に活性化し,造血前駆細胞を不死化 させる。BCR-ABL 融合蛋白が,Ph+ 白血病の leukemogenesis に直接的に係わっていること は,様々な実験系で証明されている2)。例えば, BCR-ABL が導入されると,サイトカイン依存 性に増殖する細胞株はサイトカイン非依存性に 増殖するようになり,正常線維芽細胞は腫瘤形 成能を獲得する。また,種々の方法で BCR-ABL が導入されたマウスは CML や急性白血病 を発症する。 MLL+ 白血病の leukemogenesis の機序は完 全に解明された訳ではないが,少なくとも 2 つ の機序の関与が明らかにされている3,4)。ひと つの機序は,MLL 遺伝子の転写活性が転座パ ートナー遺伝子の転写活性化ドメインによって 活性化されることである。他の機序は,MLL 融合蛋白が転座パートナー遺伝子産物の多量体 形成能のために 2 量体化することである。両者 とも MLL の標的遺伝子群(homeobox 遺伝子 の Hoxa9 など)が異常に活性化され,腫瘍化 のファーストステップとなる。MLL 蛋白は his-tone methyltransferase 活性を有し,多くの co-factor 群と大きな complex を形成しているが, そのひとつが癌抑制遺伝子 Men1(multiple en-docrine neoplasia type 1)にコードされている

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menin で,Hox 遺伝子の発現を正に制御して いる。Men1 遺伝子を欠失させた造血細胞に MLL-AF9 融合遺伝子を導入しても Hoxa9 の発 現 が 抑 制 さ れ て t r a n s f o r m さ れ な い た め , menin は Hox 遺伝子を介して MLL+ALL の leukemogenesis に深く関与していると考えら れる5,6)。最近,MLL+ALL で高発現している

MEIS(mouse ecotropic virus integration site) 1 遺伝子が Hoxa9 遺伝子と協調して FLT3 発現 を強く誘導することが明らかにされた。種々の タイプの MLL 融合遺伝子を造血系細胞に導入 すると,in vitro で造腫瘍性を示し,あるタイ プの MLL 融合遺伝子においては knock-in 法7) や Cre-lox translocation 法8)でマウスに導入す ると骨髄増殖性疾患や急性白血病を発生するこ とが示されている。しかし,急性白血病を発症 するまでの期間が非常に長く,乳児期発症とい う MLL+ 白血病とは明らかに臨床像が異なる。 Ono R ら9)は,MLL-SEPT6 や MLL-ENL を造

血前駆細胞に導入すると不死化し,マウスに導 入すると骨髄増殖性疾患を発症させるが急性白 血病は発症しないこと,SEPT6 や MLL-ENL と共に活性型 FLT3(internal tandem du-plication)を導入すると短い潜伏期間で様々な lineage の急性白血病を発症させることを報告 した。このことは,MLL+ 白血病の発症には, MLL 標的遺伝子群の活性化に加えて,二次的 遺 伝 子 異 常 の 付 加 が 重 要 な こ と を 示 唆 し て いる。 3.臨床像 成人 ALL の中で Ph+ 症例の占める割合は, 高年齢になるにつれて増加することが知られて いる。小児 ALL においても,年長児に発症率 が高く,小児 ALL 全体の 1-5 %を占める。一方, MLL+ALL は乳児期発症が多く,乳児 ALL の 約 80 %を占め,ほとんどの症例が 3 歳までに 発症する。両 ALL とも発症時の白血球数が多 いことが特徴で,MLL+ALL では中枢神経浸潤, 皮膚浸潤の頻度が高い。また,両 ALL とも稀 ではあるが経過中に急性骨髄性白血病(acute

myeloid leukemia, AML)に形質転換をする場 合 が あ る 。 P h + A L L で は 骨 髄 球 系 に , MLL+ALL では単球系に転換することが特徴で ある。両 ALL とも多能性造血幹細胞に近いレ ベルでの白血病で,リンパ系にも骨髄系にも分 化可能なポテンシャルを有しているからと考え られる。化学療法の進歩によって,両 ALL の 完全寛解(complete remission, CR)導入率は 90 %以上に向上してきている。しかし,化学 療法単独の治療を継続すると再発率が高く, Ph+ALL の 5 年無再発生存率(event free sur-vival, EFS) は 約 30 %10), MLL+ALL の 3–4 年

EFS は 30–40 %と報告されており11,12),依然と

して予後不良である。第 1CR 期に同種造血幹 細胞移植(hematopoietic stem cell transplanta-tion, SCT)を行うことができれば,Ph+ALL で は著明に予後が改善されることが知られてい る13)。一方,MLL+ALL では同種 SCT によって 予後は改善されるもののそれほど劇的ではな く,また移植合併症も多いため新しい治療アプ ローチの開発が求められている。 4.白血病細胞の抗原発現 両 ALL とも B 細胞系に特異性が非常に高い CD19 や CD79a が陽性であることに加えて, CD13, CD33 などの骨髄系抗原の発現頻度が高 いことが特徴である。Ph+ALL は小児 B-pre-cursor ALL の大部分で発現が認められる com-mon ALL antigen(CALLA, CD10)がほぼ例外 無 く 陽 性 で あ る の に 対 し , M L L + A L L で は CD10 陰 性 の 頻 度 が 高 い こ と が 特 徴 で あ る 。 我々は,KOR-SA3544 というモノクローナル抗 体を作製し,この抗体が Ph+ALL に例外無く反 応陽性のため,Ph+ALL の一次スクリーニング に非常に有用な抗体であることを報告した14) さらに,この抗体の標的抗原は,成熟顆粒球に 高発現している CEA(carcinoembrionic anti-gen, CD66e)superfamily に属する nonspecific cross-reacting antigen(NCA)−50/90(CD66c) であることを証明した15)

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5.癌抑制遺伝子 癌の発生・進展には種々の癌抑制遺伝子の不 活化が関与していると考えられている。代表的 な癌抑制遺伝子のうち,p53 遺伝子や Rb 遺伝 子の異常は小児 ALL 症例では比較的少ない。 一 方 , cyclin-dependent kinase( CDK) 4 と CDK6 の inhibitor(CDKI)である p16/INK4a をコードする遺伝子の欠損は Ph+ALL や T 細 胞性 ALL で高頻度に認められると報告されて いる。我々は,MLL+ALL では p16 遺伝子が存 在しているにもかかわらず p16 蛋白の発現が認 められないことを見いだし,p16 遺伝子がプロ モーター領域のメチル化により不活化されてい ること,脱メチル化剤の 5-aza-2’ deoxycitidine を添加して培養すると p16 蛋白の発現が誘導さ れることを明らかにした16)。また,p16 遺伝子 領域 9p21 に転座や欠失が認められないにもか かわらず p16 遺伝子の欠失や再構成が認められ る 7 細胞株の発症時 ALL 細胞を検討し,同様 の p16 遺伝子異常が発症時から認められること を明らかにした17)。これは,発症時に p16 遺伝 子異常が認められる ALL 症例は再発率が高く, 細胞株として樹立されやすいことを示唆してい る。Ph+ あるいは MLL+ALL では,メカニズム が異なるものの p16 の機能が失われており,難 治性に関係していると考えられる。

II. Ph+ALL と MLL+ALL に対する 生物学的アプローチ

1.化学療法剤に対する感受性

ALL の寛解導入療法の key drugs は,pred-nisolone, L-asparaginase, vincristine であるが, Hongo T ら20)は 3 薬剤に感受性が低い ALL 細 胞は他の 11 種類の抗白血病剤にも感受性が低 く,予後不良であることを示している。一般的 に,Ph+ あるいは MLL+ALL は in vitro 薬剤感 受性テストにおいて抗白血病剤に対する感受性 が 低 い こ と が 知 ら れ て い る が , 約 4 0 % の Ph+ALL 症例は比較的に高感受性を示し21),こ の群は化学療法単独でも治癒が望める可能性が ある。 ステロイド感受性は小児 ALL の予後を規定 する最も重要なリスク因子のひとつである。小 児における ALL 治療はステロイド単独投与に よって開始され,末梢血芽球の減少率が悪い (poor responder)症例は,芽球の減少率が良 い(good responder)症例より予後不良であり, 治療強度を高めたプロトコールが採用される。 ALL におけるステロイド感受性は,基本的に は白血病細胞が有するステロイド受容体数によ って規定されている。白血病細胞株を用いた 我々の検討では,ステロイド受容体数は感受性 株では 1-5 万/cell,耐性株では 500-5000/cell 程 度であった。ステロイド受容体は細胞質内に存 在し,heat shock protein-90(HSP-90)と複合 体を形成しているが,ステロイドが受容体に結 合すると,HSP-90 から解離して,核内に移行 し生物学的活性が発揮される。我々は,ステロ イド受容体数が多いにもかかわらずステロイド 抵抗性を示す細胞株(Ph+ 株と MLL+ 株の各 1 株)を検討し,異常な HSP-90 を発現している ことを見いだした。異常 HSP-90 と結合したステ ロイド受容体は,核移行が障害されていた22) 2.サイトカイン受容体の発現と機能 (1)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体 G-CSF 受容体(G-CSFR)は顆粒球系細胞に 発現され,その分化・増殖・機能に重要な働き を果たしていることは周知の事実である。また, 多能性造血幹細胞にも発現が認められる。我々 は,強化療法後の G-CSF 投与中に芽球の増加 が認められたが,G-CSF の中止で芽球が消失し た MLL+ALL 症例を経験したことが契機となっ て,MLL+ALL 細胞株の G-CSFR とその機能に ついて解析を行った。全ての細胞株で G-CSFR の発現が認められ,G-CSF の添加で増殖が刺激 されたが,骨髄系抗原を発現する細胞株で顕著 であった23)。同様に Ph+ALL についても検討 を行い,ほとんど全ての細胞株と新鮮白血病細 胞が G-CSFR を発現し,G-CSF の投与で増殖刺 激を受けることを明らかにした。増殖刺激は,

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MLL+ALL と同様に骨髄系抗原を発現する細胞 株や新鮮 ALL 症例で顕著であった。興味深い ことに,Ph+AML 細胞株では G-CSF による増 殖刺激がほとんどなく,抗 G-CSF 中和抗体の 添加で増殖が阻害されたため,Ph+AML にお いては,G-CSF が autocrine mechanism で増殖 に関与していることが示された24)。MLL+ なら びに Ph+ALL 細胞は G-CSF の投与で増殖刺激 を受けることが判明したため,これらの症例に 同種 SCT を行う場合,我々の施設では前処置 中に抗白血病剤の感受性を高めるために G-CSF を投与して細胞回転を刺激し,移植後は感染症 が重症化しないかぎり G-CSF の投与を控えて いる。 (2)thrombopoietin(TPO)受容体 TPO 受容体は膜結合型チロシンキナーゼで c-Mpl である。c-Mpl 欠損は先天性無巨核球性 血小板減少症を発症させるように,巨核球系細 胞の分化・増殖に重要な働きをしている。また, G-CSFR と同様に造血幹細胞にも発現が認めら れる。我々は,MLL+ あるいは Ph+ALL におい て c-Mpl の発現を検討し,全ての細胞株,新鮮 白血病細胞が c-Mpl を発現し,TPO の添加で 種々の程度に増殖刺激を受けることを明らかに した25)

(3)Fms-like tyrosine kinase 3(FLT3)

FLT3 はクラス 3 の受容体チロシンキナーゼ で,MLL+ALL 細胞は FLT3 を高発現している ことが明らかとなった。我々は,各種の B-pre-cursor ALL 細胞株に FLT3 ligand(FL)を添加 したところ,Ph+ALL や 1;19 転座 ALL 細胞株 では増殖刺激を受けるのに対し,MLL+ALL 細 胞株では増殖抑制を受けることを見いだした。 この増殖抑制はアポトーシスではなく細胞回転 停止(G1 arrest)が誘導されるためで,CDKI である p27/Kip1 の転写後修飾による著しい発 現増強と MLL+ALL で構成的にリン酸化されて いる転写因子 STAT(signal transducer and ac-tivator of transcription)5 の脱リン酸化を伴っ ていた。また,FL 刺激を受けた MLL+ALL 細 胞は,放射線や抗白血病剤に耐性を示し,休眠 状態(quiescence)に誘導されていると考えら れた。抗白血病剤に耐性の休眠状態は,膜結合 型 FL を高発現している骨髄ストローマ細胞株 との共培養でも誘導され,抗 FL 中和抗体で部 分的に解除された26)。成人 AML においては, 接着分子インテグリンに属する VLA-4 を発現 する AML 細胞が骨髄ストローマ細胞上に発現 される細胞外マトリックスであるフィブロネク チンに接着することで抗白血病剤に対し抵抗性 を 獲 得 し , 微 小 残 存 病 変 ( minimal residual disease, MRD)の形成に関与することが証明さ れ注目を集めている27)。骨髄ストローマ細胞 は膜結合型あるいは分泌型 FL を高発現してい ることが知られているため,骨髄ストローマ細 胞に接着した MLL+ALL 細胞は化学療法に抵抗 性の休眠状態に誘導されることで MRD を形成 することが予想され,MLL+ALL の早期再発の 一因である可能性がある(図 1)。 3.分子標的療法 通常の抗白血病薬は程度の差こそあれ,白血 病細胞だけでなく正常細胞も攻撃の対象となる ため,ある程度以上の副作用は不可避である。 分子標的療法は,白血病細胞に特異的に存在す る,あるいは白血病細胞だけで特異的に活性化 している分子を介して白血病細胞を攻撃する治 療法で,理論的には副作用が極めて少ない治療 法である。 1)BCR-ABL 阻害剤 強いチロシンキナーゼ活性を有する BCR-ABL 融合蛋白が Ph+ 白血病の leukemogenesis に 直 接 的 に 関 与 し て お り , 分 子 創 薬 さ れ た BCR-ABL 阻害剤 imatinib(STI571,商品名グ リベック)を Ph+ 白血病細胞に添加すると, 効率的に増殖停止とアポトーシスが誘導され る。最初に慢性期 CML 症例に対する驚異的な 有 効 性 が 報 告 さ れ , 続 い て 移 行 期 C M L や Ph+ALL 症例に対する有効性が検討された。小 児 Ph+ALL 症 例 に 対 す る phase 1 study で は , 10 例中 8 例に有効性が確認され,成人におけ る 1 日投与量の 400 mg と 600 mg に相当する薬

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理学的な小児投与量は それぞれ 260 mg/m2 340 mg/m2と推定された28)。成人 Ph+ALL 症 例 ( n = 92) に お い て 化 学 療 法 と imatinib (400-600 mg/day)を併用して寛解導入療法を 行 っ た 最 近 の 報 告29)で は , CR 率 が 95 % , PCR 法による BCR-ABL 陰性化率が 52 %と極 め て 高 い 臨 床 効 果 を 示 し , 77 % の 症 例 が 第 1CR 期に同種 SCT を施行できている。小児 Ph+ALL においても imatinib は front-line thera-py として広く用いられるようになるであろう。 一方。imatinib が広く臨床的に用いられるにつ れて,imatinib に対する耐性が問題となってき ている。imatinib は ABL キナーゼドメイン内 の ATP 結合部位に ATP と競合的に結合するこ とで BCR-ABL 活性を阻害するが,ATP 結合部 位のアミノ酸変異によって imatinib の結合能 が失われると imatinib に耐性となる。多くの 変異が報告されているが,主な点変異部位は Glu255 と Thr315 である。CML においては比 較的長い期間を経て変異を獲得する場合が多い が,Ph+ALL においては変異を有する白血病細 胞が診断時から minor clone として存在する症 例があり,この場合は imatinib 治療によって minor clone が選択・増幅されて比較的短期間 で耐性化を来すと考えられている30)。現在, imatinib に耐性化した Ph+ 白血病にも有効な薬 剤の開発が進んでおり,ATP 結合部位とは異 なる部位に結合する ONO12380,imatinib より AT P 結 合 部 位 に a f f i n i t y が 高 い n i l o t i n i b (AMN107)や dasatinib,Lyn 阻害活性がある NS-187(CNS-9)などが用いられている31-34) ま た , T 3 1 5 I 変 異 に も 有 効 な A G 4 9 0 類 似 tryphostin 誘導体 WP1130 や Aurora キナーゼ 阻害剤 MK-0457 が注目されており,臨床治験 も始まっている。 2)JAK2(Janus kinase 2)阻害剤 JAK2 は数多くのサイトカイン受容体に結合 している非受容体型チロシンキナーゼで,転写 図 1.MLL+ALL の MRD 形成に FL/FLT3 interaction が関与している可能性 を示す仮説 膜型ならびに分泌型 FL を大量に産生する骨髄ストローマ細胞に接着し た MLL+ALL 細胞は,FL/FLT3 interaction によって休眠期に導入され, 抗白血病剤に抵抗性を獲得し,MRD を形成する。FLT3 阻害剤は,直 接 的 に MLL+ALL 細 胞 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る だ け で な く , FL/FLT3 interaction をブロックすることで,MLL+ALL 細胞を覚醒さ せ,抗白血病剤に対する感受性を回復させる。

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因子 STATs の活性化を通じて,サイトカイン のシグナル伝達に重要な役割を担っている。特 に,interferon-γ,erythropoietin,TPO,IL-3, GM-CSF のシグナル伝達には必須の分子である ことが知られている。AG490 は合成チロシン キナーゼ阻害剤 tryphostin 誘導体で,正常造血 を抑制することなしに B-precursor ALL 細胞に アポトーシスを誘導する JAK2 阻害剤として報 告された35)。我々は,様々な B-precursor ALL 細胞株において JAK2 の構成的リン酸化を検討 し,Ph+ALL と MLL+ALL では強くリン酸化さ れていることを見いだした。また,臍帯血単核 球 の コ ロ ニ ー 形 成 能 を 抑 制 し な い 濃 度 で Ph+ALL,MLL+ALL 細胞に高率よくアポトー シ ス を 誘 導 し た の で , 自 家 SCT 時 の ex vivo purging には有用な薬剤として報告した36)

3)peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)刺激剤

PPAR は核内受容体スーパーファミリーに属 し , PPARα, PPARβ, PPARγ が 知 ら れ て い る 。 PPARγ は特に脂肪組織に発現が高く,脂肪細 胞の分化に重要な役割を担っている。Troglita-zone(TGZ)は,チアゾリジン誘導体に属す る合成 PPARγ リガンドで,インスリン抵抗性 糖尿病に対する新薬(商品名ノスカール)とし て既に臨床使用されていたが,大腸がんにアポ トーシスを誘導するとの報告がなされた37) 我々は,TGZ が糖尿病の治療域濃度で種々の 白血病細胞に効率よくアポトーシスを誘導でき ること,そのメカニズムが転写因子 Tcf-4 の抑 制を介する c-Myc 発現の消失によることを報告 した38)。TGZ は副作用として劇症肝炎を発症 する場合があるとの緊急情報が出されて発売中 止となったため,残念ながら,白血病治療に関 する臨床応用は頓挫してしまっている。最近, PPARα と PPARγ の 刺 激 薬 で あ る TZD18 が Ph+ALL に非常に低濃度で増殖停止とアポトー シスを誘導することが示され,注目されてい る39) 4)FLT3 阻害剤 神経成長因子 NGF の受容体 TrkA の阻害剤と して開発された CEP-701(Cephalon 社),PKC 阻害剤として開発された PKC412(Novartis 社), 血管形成を抑制する VEGF 受容体阻害剤として 開発された SU11248(Sugen 社)などが FLT3 キナーゼ活性を著明に抑制することが判明し, 活性型 FLT3(ITD)を有する AML 症例を中心 として臨床治験が開始されている。現在までの ところ,副作用は少なく,有効性も確認できる が,期待されていたような劇的な効果は得られ ていない。MLL+ALL 細胞は FLT3 の発現が非 常に高く,FLT3 の第二キナーゼドメイン内に D835 変 異 を 有 す る 頻 度 も 高 い40)。 我 々 は , MLL+ 細胞株を用いた検討を行い,D835 変異 を有する場合は非常に強く,wild-type の場合 もかなり強く FLT3 とその下流シグナル分子群 (STAT5, MAPK, Akt)が構成的にリン酸化され ており40),FLT3 阻害剤 PKC412 を添加すると シグナル分子群が完全に脱リン酸化されて細胞 周期停止とアポトーシスが誘導されることを見 いだした41)。現在,そのメカニズムを詳細に 検討中である。図 1 に示すように,FLT3 阻害 剤は MLL+ALL に直接的作用を持つだけでな く,骨髄ストローマ細胞との FLT3/FL interac-tion をブロックすることで,抗白血病剤に感受 性の低い休眠状態から覚醒させる作用を発揮す る可能性がある。欧米では MLL+ALL 症例に対 し CEP-701 を組み込んだプロトコールが計画 されており,劇的な治療効果を期待したい。 5)histon deacetylase(HDAC)阻害剤 ヒストンのアセチル化と脱アセチル化は遺伝 子の発現制御に重要であり,その制御異常と leukemogenesis との関連が一部の転座型白血 病で示唆されている。一般的にヒストンのリジ ン残基が histon acetyltransferase(HAT)によ ってアセチル化されると転写が亢進し,histon deacetylase(HDAC)によって脱アセチル化さ れ る と 転 写 が 抑 制 さ れ る 。 H D A C 阻 害 剤 (HDACI)は,各種の腫瘍細胞に細胞回転停止, アポトーシス,分化を誘導することが報告され, AML や MDS への臨床応用も始まっているが, 小児 ALL に対する作用を検討した報告はほと

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んどない。我々は HDACI のひとつである tri-chostatin A(TSA)を用いて各種の ALL 細胞 株 に 対 す る 作 用 を 検 討 し , P h + あ る い は MLL+ALL 細胞株では非常に低濃度で細胞回転 停止とアポトーシスが誘導されることを見いだ した42)。HSP-90 は HDAC6(class IIb HDAC)

によって脱アセチル化されていることが知られ ているが,HDACI の投与で高アセチル化され て機能を喪失し,HSP-90 のシャペロン機能に 依存している蛋白質群(HSP-90 client proteins と呼称され,BCR-ABL と FLT3 が含まれる)が 多価ユビキチン化されて,proteasome 依存性 に処理される43)。小児難治性 ALL に対する耐 性克服剤としての役割が期待される。 4.細胞傷害分子に対する感受性

Fas ligand(FasL)と TNF-related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)は共に TNF スーパ ーファミリーに属し,それぞれの受容体である Fas あるいは DR4/DR5 に結合すると受容体発 現細胞のカスペース群が活性化されてアポトー シスが誘導される。FasL や TRAIL は細胞傷害 性 T 細胞(CTL)や活性化 NK 細胞の細胞表面 に発現が認められ,ウイルス感染細胞や腫瘍細 胞のアポトーシス誘導に重要な機能を果たして いる。同種 SCT 後に移植片対白血病(graft-versus-leukemia, GVL)効果が発揮されるため には,ドナーリンパ球が白血病細胞を kill する ために用いる細胞傷害分子(FasL,TRAIL,パ ーフォリンなど)に対する白血病細胞の感受性 が重要である(図 2)。我々は,Ph+ALL 細胞は Fas を発現しているにもかかわらず recombi-nant soluble FasL(化学修飾によって agonistic に改変されている)の添加に耐性を示すのに対 し,DR4/DR5 を発現し,recombinant soluble TRAIL の添加で効率よくアポトーシスが誘導 されることを見いだした44)。一方,MLL+ALL 細胞は FasL にかなり耐性であることに加えて, DR4/DR5 の発現が低いために TRAIL に耐性で あることを見いだした45)(図 3)。Ph+ALL 細胞 の TRAIL に対する極めて高い感受性は,同種 SCT 後の高い GVL 効果と関連があると考えら れる。一方,MLL+ALL 細胞の FasL と TRAIL の両者に対する耐性は,同種 SCT 後に GVL 効 果が低いことと関連がある可能性がある。 図 2.細胞傷害性 T 細胞(CTL)と NK 細胞の細 胞傷害活性に関与する分子群とその受容体 活性化 CTL と NK 細胞は細胞表面に FasL and/or TRAIL を発現し,それらの受容体 Fas and/or DR4/DR5 を発現している標的 細胞に接着すると死シグナルが伝達され, アポトーシスを誘導する。パーフォリンは CTL や NK 細胞の細胞内顆粒から分泌され る細胞傷害分子で,標的細胞にアポトーシ スを誘導する。 図 3.B-precursor 白血病細胞株の TRAIL に対す る感受性 MLL+ALL 細胞株は,FLT3-D835 変異を有 する細胞株(*)以外は TRAIL に耐性であ った。新鮮 MLL+ALL 細胞も同様の耐性を 示した。

(9)

NK 細 胞 は , NK 細 胞 受 容 体 を 介 し て 自 己 MHC を認識すると抑制シグナルが伝達されて 細胞障害活性を示さないが,同種 SCT 後にお いてはドナー NK 細胞受容体に患者(レシピエ ント)細胞から抑制シグナルが伝達されない場 合にドナー NK 細胞が主に perforin を介して同 種 NK 活性を発揮する。主要な NK 細胞受容体 で あ る KIRs( killer-cell immunoglobulin-like receptors)のうち CD158b(KIR2DL2/3)は group 1 に属する HLA-C(Cw1,Cw3 など)を, CD158a(KIR2DL1)は group 2 に属する HLA-C(Cw2,Cw4 など)を ligand として認識する46) 日 本 人 の HLA-C ア レ ル 頻 度 は group 1 が 90 % , group 2 が 10 % で あ る た め , 患 者 は group 1 ホ モ の 場 合 が 多 く , ド ナ ー が group 1/group 2 ヘ テ ロ の 場 合 , ド ナ ー NK 細 胞 の CD158a に抑制シグナルが伝達されないために ドナー NK 細胞が患者白血病細胞を攻撃する。 同種 NK 細胞が関与する GVL 効果は,AML の 一部でのみ認められると考えられてきたが,最 近,HLA 一致同胞ドナーからの同種 SCT 後に 再発した非寛解期 MLL+ALL 症例に,同種 NK 細胞活性が発揮される HLA-C タイプの父親を ドナーとして SCT を行い,1 年以上完全寛解が 維持されている症例が報告された47)。臍帯血 バンクから同種 NK 細胞活性を期待できる臍帯 血を選別し,MLL+ALL に対して臍帯血移植を 行 う 治 療 戦 略 を 基 礎 的 に 検 証 す る た め に , MLL+ALL 細胞株に対する臍帯血由来 NK 細胞 の細胞障害活性を検討したところ,MLL+ALL の HLA-C が group 1 ホモで,臍帯血の HLA-C が group 1/group 2 へテロである場合に,臍帯 血 NK 細胞は MLL+ALL 細胞に対して高い細胞 傷害活性を示した。同種 NK 細胞活性を利用し た臨床的に有用な GVL 効果の誘導が可能にな るかもしれない。 おわりに 既存(あるいは新規)の抗白血病剤の投与量, 投与方法,投与スケジュールを工夫することに よって白血病の治療成績の向上を目指す大規模 治療研究は極めて重要である。多数の優れた治 療研究によって,小児 ALL の予後はこの 20 数 年で劇的に改善された。しかし,未だに難治性 白血病は存在しており,この難物を攻略してゆ くためには,様々な見地からの新しいアプロー チ法によって『弁慶の泣き所』を探し出し,臨 床応用を目指していくことが求められている。 参考文献

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