〔
大 気 汚 染 学 会 誌J
. Japan Soc. Air Pollut. 17 (3) 177∼186 (1982)
〕
変 異 原 性 試 験 用 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー
計 測 値 の 補 正 方 法 に 関 す る研 究
松
下
秀
鶴*・ 後
藤 純
雄*
森
田
昌 宏**・林
健
児**
A Method
for Calibration
of the Counts by an Automatic
Colony Counter for Mutagenicity
Assay
Hidetsuru MATSUSHITA*,
Sumio GOTO*,
Masahiro MORITA** and Kenji HAYASHI**
大 気浮 遊 粉 じん な どの環 境 試 料 の変 異 原 性 を 求 め るに は,多 くの プ レー ト上 に 出現 した コ ロ ニー を 数 え る必要 が あ る。 こ の計 数 に は 莫 大 な 時 間 を 要 し,こ の 難 点 を 解 消 す るた めに 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー が 開発 され て い る。 しか し,市 販 の 自動 コ ロ ニ ー カウ ン ター に よ る コ ロニ ー計 数 値 は 肉 眼 に よ る場 合 と 異 な る値 を 与 え,こ の計 数 誤 差 は コ ロニ ー数 が 増 加 す るに つ れ て 大 き くな る傾 向が 認 め られ る。 これ ら の原 因 と して は,1)自 動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ーは プ レー ト上 の重 な り合 った コ ロニ ーを1つ と数 え る, 2)コ ロニ ー数 が 増 加 す るに 伴 な い,コ ロ ニ ー粒 径 が 小 さ くな り,自 動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ー の感 度 が 低 い 値 に 設定 され て い る場 合に は,設 定 され た 大 き さ以 下 の小 さな コ ロ ニー を検 出す る こ とが 出来 な い, こ とが 主 な 原 因 で あ る こ とが判 った 。 第1の 問 題 に つ い て は,100か ら2,000個 まで の コ ロニ ーが そ れ ぞ れ プ レー トに 一 様 に分 布 して い る と仮 定 した モ ン テ カル ロ法 に よ るシ ミュ レー シ ョンか ら,単 独 で 存 在 す る コ ロ ニ ーお よび2,3,4,…,n 個 の コ ロ ニ ーが 重 な り合 って存 在 す る数 の 出現 確 率 を 算 出す る こ とに よ り解 決 した 。 こ こで,シ ミュ レ ー シ ョンに 必 要 な コ ロ ニ ーの粒 径 は コ ロニ ー数 の 関 数 と して 実 験 値 よ り求 め た 。 算 出 され た確 率 の 関数 を 用 い て,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー計数 値 を 目視 コ ロユ ー数 に 換 算 で き る補 正 式 を 導 い た 。 第2の 問 題 は,コ ロ ニ ー数 に 応 じて,自 動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ー の 感 度 を 変 化 させ て測 定 す る こ とに よ り解 決 した 。 す なわ ち,コ ロ ニ ー数1,000個 まで は 中程 度 の 感 度 で,ま た,1,000個 以 上 で は よ り高 い 感 度 で計 数 す る と良 好 な 値 が 得 られ る こ とが 判 った。 これ らの事 か ら,作 成 した 補 正 式 と プ レー ト上 の コ ロニ ー の 検 出に 適 した 感 度 の選 択 とを 組 み 合 わ せ る こ とに よ り,自 動 コ ロニ ー カ ウ ン ターに よ る計 数 値 を 通 常 の 目視 コ ロニ ー数 と同 等 の値 に 良 好 に 換 算 で き る こ とが 判 った 。 1. 緒 言 大 気 浮 遊 粉 じん な どの 環 境 試料 の変 異 原 性 を モ ニ タ リ ン グす るた め に は,多 数 の 地 点 で定 期 的 に 浮遊 粉 じん を 採 取 し,こ れ ら の変 異 原 性 を 規 格 化 され た 方 法 で測 定 す る必 要 が あ る。 変 異 原 性 試 験 法 は 微 生物 を用 い るた め一 般 に,化 学 計 測 法 と比 べ て 再 現 性 が 悪 い 。 した が って, 被 験試 料 の変 異 原 性 は試 験 プ レー トへ の投 与 量 を 数 段 階 変 え て得 た試 験 の結 果 か ら求 め られ てお り,ま た,1つ の 試 料 に つ い て 代 謝活 性 化 した 場 合 と しな い 場 合 の変 異 原 性 試 験 を,通 常2∼3種 類 の菌 株 につ い て行 ってい る。 こ のた め,多 数 の 浮遊 粉 じん試 料 の変 異 原 性 を求 め るに は 非 常 に 数 多 くの試 験 プ レ ー トが 必 要 とな る。 これ に 対 して,試 験 プ レー トに 出現 した コ ロ ニー の 計数 は 通常, *国 立公衆衛生院地域環 境衛生学部 東京都港区白金 台4-6-1 **東 京理科大学理学部応用数学科 東京都新宿区神楽坂1-3
178 大 気 汚 染 学 会 誌 第17巻 第3号 (1982) 肉 眼 に よ り行 わ れ てい るた め,こ れ に 要 す る 時 間 は莫 大 な も の とな る。 例 えば,肉 眼 で 通 常 の プ レ ー ト上 の 1,000個 の コ ロ ニ ーを 計 数 す るに は 熟練 した 人 で も約5 分 を 要 す るか ら,こ の よ うな プ レー ト100枚 を 計 測 す る の に8時 間 以 上 か か る こ とに な る。 最 近,こ の よ うな 手 間 を 省 くた め の 装 置 と して,自 動 コ ロ ニー カウ ンタ ーが 市販 され る よ うに な った 。 しか し,本 装 置 は コ ロニ ー数 が 増 加 す るに つ れ て 目視 で の 計数 値 との差 が ひ ら く欠 点 を 有 して い る。 この よ うな 計数 誤 差 の補 正 に関 しては 直 線 回 帰 補 正 が な され て お り,主 と して コ ロニ ー数 の少 な い 場 合 に 適 用 され て い る1,2,3,4)。また,コ ロニ ー数 の多 い 場 合(約2,000個 まで),長 焦 点 レン ズ を用 い て プ レ ー ト面 の 一 部 を拡 大 して 直線 回 帰 補正 す る方 法 も報 告 さ れ て い る5)。し か し,こ の 方 法 で は プ レー ト面 のあ る一 部 の み を拡 大 す るた め,菌 の まき 方に よる コ ロニ ー発 生 のわ ず か な片 寄 りで も大 き な計 数 誤 差 を 生 じや す い 。 ま た,被 験 プ レー トに は コ ロニ ー数 の多 い も のや 少 な い も のが 入 り混 じ って い るた め,被 験 プ レー トに よ っ て レン ズ の交 換 が 必 要 とな り,操 作が 煩 雑 に な る とい う難 点 が あ る。 現 在,サ ル モ ネ ラ菌 を用 い る変 異 原 性 試 験 法 は 広 く一 般 に 用 い られ て お り,こ の試 験 に よ る プ レー ト上 の コ ロ ニ ー数 は しば しば1,000個 を越 え る。 こ の よ うな コ ロ ニ ー数 の多 数 の プ レー トの計 数 に ,自 動 コ ロ ニ ー カウ ン タ ーを 導 入 す るた め に は,上 記 の難 点 を 解 消 す る手 法 の開 発 が 必 要 であ る。 そ こで,本 研 究 で は,変 異 原 性試 験 に お け る コ ロ ニ ー計 数 を よ り簡 易 に 短 時 間 で 行 い得 る方法 を 作 成 す る 目的 で,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン ター に標 準 レ ン ズ を 用 い た 場 合 の計 数 値 の 補 正 法 に つ い て検 討 した 。す な わ ち,ま ず,自 動 計 数 値 と 目視 コ ロ ニ ー数 との相 異 の 原 因 を 調 べ,そ の 主 因 の 一 つ と考 え られ た コ ロ ニー の重 な りの 補 正 方 法 を コ ン ピ ュ ー タ ー ・シ ミュ レー シ ョ ンに よ り検 討 す る と共 に,コ ロ ニ ー数 増大 に伴 う検 出感 度 の 変 化 を も考 慮 に 入 れ た 補 正 方 法 の 作成 に つ とめ た。 そ の 結 果,実 用 に 耐 え うる補 正 方 法 を 見 出 した の で こ こに報 告 す る。 2. 実 験 方 法 2.1 試験 プ レ ー ト(寒 天 平 板培 地)の 作 製 シ ャ ー レは,和 光純 薬 工 業 製(内 径:86mm)お よび Falcon社 製(内 径:88mm)の γ線 照 射 滅菌 済 の も の を用 い た。 高 圧 蒸 気 滅 菌 したVogel-Bonnerの 最 少 培 地E,グ ル コ ース2%,寒 天1.5%を 加 え て 混 合 し,こ れ を シ ャー レに30mlず つ 分 注 して 冷却 固 化 させ,試 験 プ レー トを 作 製 した 。 2.2 変 異 原 性 試 験
変 異 原 性 試 験 は,Salmonella typhimurium TA100お よ びTA98株6)を 用 い,プ レイ ンキ ュベ ー シ ョン法 で行 っ た7)。 す な わ ち,変 異 原 性 物 質(主 にbenzo (a) pyrene お よび2-nitrofluorenc)を 入 れ た 滅菌 試 験管 にS-9mix8) 500μl又 はNa-リ ン酸 緩 衝 液500μlを 加 え,サ ル モ ネ ラ菌 の培 養 液100μl(菌 数:約1×108)を 加 え,37℃ で 20分 間 恒 温 水 槽 で 振 盪 しなが らプ レイ ン キ ュ ベ ー シ ョン した 。 そ の後,45℃ に 保温 した ソ フ トア ガ ー2mlを 加 え て 混 合 し,こ れ を試 験 プ レー ト上 に 注 い でか ら,一 様 に 広 げ,37℃ で48時 間 イ ンキ ュベ ー トした 。 以 上 の操 作 に よ りプ レー ト上 に 出現 した復 帰変 異 株 の コ ロニ ー数 を, 肉 眼 お よび 自動 コ ロニ ー カ ウ ンタ ーに よ り計 数 した 。 2.3 自動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ー 変 異 原 性 試 験 に よ り出現 した 復 帰 変 異 株 の コ ロ ニ ー数, 全 コ ロ ニ ーの表 面 積 お よび測 定 面 積 の 自動 計 測 に は,東 洋 測 器 社 製 コ ロニ ー ア ナ ライ ザ ーCA-7A型(以 後CA-7A型 と略 す)並 び にArtck Systcm社 製 モ デ ル880型 (以後Artek 880型 と略 す)の2機 種 の 自動 コ ロニ ー カ ウ ンタ ー を使 用 した 。 レン ズ と し ては,そ れ ぞ れ の機 種 に 備 え 付 け の標 準 レ ンズ(50mm)を 用 い た 。 2.4 コ ン ピ ュー タ シ ミ ュ レー シ ョン コ ン ピ ュー タ シ ミュ レー シ ョンは,コ ロ ニー 数 とそ の 粒 径 関 係 の実 験 的 デ ー タを 考 慮 に 入 れ,一 様乱 数 を用 い た モ ン テ カ ル ロ法9)に よ る統 計 的 な 方法 に よっ て,一 定 面 積 内に 所 定 の コ ロ ニ ーを 分 散 させ た時,単 独 で存 在 す る コ ロニ ー の数,お よび2個,3個,… …,n個 重 な り 合 って存 在 す る コ ロニ ー の数 をIBM3031型 プ ロ セ ッサ ー で算 出 した 。 3. 結 果 お よ び 考 察 3.1 自動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ー 計数 値 と 目視 コ ロ ニー 数 との 比 較 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン ター を用 い て試 験 プ レー ト全 面 を 測 定 す る と,シ ャ ー レ外 壁 の反 射 光が 影 響 し,正 確 な 計 数 が 不 可 能 とな る。 この た め,自 動 コロ ニ ー カ ウ ン タ ー に よ る コ ロ ニー計 数 は通 常 次 の よ うに 行 っ てい る。 す な わ ち,ま ず 測定 部分 を試 験 プ レー ト内に 設 定 して,そ の 部 分 の コ ロニ ー数 と面 積 を測 定 す る。 次 に 試 験 プ レー ト 全 体 の 面 積 を 求 め,こ れ と測 定 部 分 の面 積 よ り視 野 率 を 算 出 し,こ の 視 野 率 よ り 自動 計 数 値 を 補 正 し,試 験 プ レ ー ト中 の 全 ゴ ロ ニー数 を求 め る。 Fig.1は,目 視 コ ロニ ー数 と,通 常 の視 野 率 補 正 に よ る 自動 計 数 値 との 関 係 を調 べ た 結 果 を 示 した も ので あ る。 こ こに は,CA-7A型 に よる 実 測 値(感 度:slope3)と
大 気 汚 染 学 会 誌 第17巻 第3号 (1982)
Fig. 1. Difference between visual count and ordi-nary calibrated instrumental count.
通 常 の視 野 率 補 正 値(視 野 率:0.748)と に 対 す る 目視 コロ ニ ー数 の関 係 が 示 し てあ る。Fig.1か ら,通 常 行 わ れ て い る視 野 率 補 正 を 加 え て も,目 視 コ ロ ニ ー数 との相 異 は,コ ロニ ー数 が 増 加 す るに 伴 い大 き くな る傾 向 が認 め られ る。 一般 に ,試 験 プ レー ト内に 発 生 した コ ロニ ーの 中 に は 単 独 で 存 在 す る もの の ほ か,2つ3つ 又 はそ れ 以 上 の コ ロ ニ ーが 重 な って 存在 す る場 合 が認 め られ る。 これ ら重 な り合 った コ ロ ニ ーは,肉 眼 で は それ ぞれ 識 別 出来 る の に 対 し て,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ーで は識 別 出来 な い。 こ の事 がFig.1に 示 した 肉 眼 実 測 と 自動 計測 と の 相 異 の主 な 原 因 の一 つ と考 え られ る。 そ こで,こ の よ うな コ ロ ニ ー の重 な り度 合 を コ ン ピ ュ ー タに よ り求 め,こ れ を 用 い て補 正 す れ ば よ り真 に 近 い 値 が 得 られ る もの と考 え られ た 。 3.2 シ ミ ュレー シ ョン に よ る補 正 方 法 の 検 討 試 験 プ レー ト内 に発 生 した コ ロニ ー重 な り度 合 を 統 計 的 に信 頼 出 来 る平 均 値 と して見 積 るた めに,以 下 に のべ るモ ン テ カル ロ法 に よ り,モ デ ル コ ロニ ー を モ デ ル プ レ ー ト内 に発 生 させ,モ デ ル コ ロニ ー の重 な り度 合 を コン ピ ュ ー タ ーに よ り算 出 した 。 3.2.1 コ ロ ニ ー発 生 の モ デ ル化 お よび一 様 乱 数 の作 成 と検定 変 異 原 性 試 験 に よ りプ レー ト内 に発 生 した コ ロニ ー の 重 な りを モ ン テ カル ロ法 に よ りシ ミュ レ ーシ ョ ンす る場 合,実 験 事 実 を 考 慮 して 次 の仮定 を し,コロ ニ ー発 生 に
Fig. 2. Relation between average diameter of colonies and visual count.
対 す る モ デ リ ン グ を 行 った 。 i)サ ル モ ネ ラ 菌(His:約1×108個)は プ レ ー ト上 に 一 様 に 分 布 し て い る。 ii)突 然 変 異 を 起 こ し てHis+と な っ た 菌 に よ る コ ロ ニ ー は,サ ル モ ネ ラ 菌(Hisつ の 中 か ら ラ ン ダ ム に 発 生 す る 。 迩)His+菌 に よ り形 成 さ れ た コ ロ ニ ー は 円 形 で あ る 。 以 上 の 仮 定 を 用 い,モ ン テ カ ル ロ 法 で コ ロ ニ ー の 重 な りを シ ミ ュ レ ー シ ョ ン す る 場 合 に は,ま ず コ ロ ニ ー の 座 標 を 定 め る た め の 一 様 乱 数 が 必 要 とな る 。 こ の 一 様 乱 数 Yi[0,1]の 作 成 は 式(1)に 示 した 混 合 合 同 法 に よ る 算 術 乱 数10)を 用 い た 。 ま た,乱 数 列 の 検 定 は,式(2)に 示 し た 頻 度 検 定 法10)を 用 い て 行 っ た 。 す な わ ち,有 意 水 準5 %〔xg2(9,0.05)=16.92〕 以 上 の 値,お よび0に 近 い 値 (0.5)を 破 棄 す る こ と に よ っ て 局 所 ラ ン ダ ム 性 の 検 定 を 行 っ た 。
(1)
Xi:0∼2147483647ま で の乱 数 値;X0:奇 数 の初 期 値;a,b:正 の任 意 の 定 数(奇 数); 宏 乱 数 列 の数;Rc:正 の 整 数 の 最大 値(2)
Fi:理 論 度 数;fi:〔0,1〕 をm等 分 し た 時 の それ ぞれ の区 間 の実 現 度 数 3.2.2 数 値 実 験 円 形 プ レ ー ト(半 径rm/m)の 中 心 を2次 元 座 標(ξ, η)の 中 心 に と り,3.2.1で 求 め た 検 定 済 み の 乱 数 を, 区 間[-r,r]に 正 規 化 し,ξ,η 座 標 に 対 し,別 々 の 乱180 大 気 汚 染 学 会 誌 第17巻 第3号 (1982)
Fig. 3. Block diagram of simulation by MonteCarlo method with computer.
数 を 発 生 さ せ ξi2+ηi2≦r2な る 円 内 の 条 件 を 満 足 す る 一 対 の 乱 数 を 作 り,こ れ を 用 い て モ デ ル コ ロ ニ ー の 位 置 (ξi,ηi)を 定 め る 。 た だ し,i=1,2,3,…,nで,こ れ は プ レ ー ト内 の コ ロ ニ ー の 番 号 を 示 す 。 ま た 本 実 験 で は コ ロ ニ ー の 発 生 総 数nは100,200,300,… …,2,000と し た 。 こ の よ うに し て 位 置 の 定 め られ た モ デ ル コ ロ ニ ー に は, そ の 粒 径(dn)と し て,次 の 実 験 に よ る 実 測 値 の 平 均 値 を 与 え た 。 す な わ ち,変 異 原 性 試 験 に よ り発 生 さ せ た 試 験 プ レ ー ト内 の 復 帰 変 異 コ ロ ニ ー の 総 コ ロ ニ ー 面 積 を 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー(感 度:slope3)で 求 め る と 共 に,コ ロ ニ ー 数 を 肉 眼 で 計 測 し,両 測 定 値 か ら コ ロ ニ ー1個 当 た り の 平 均 粒 径 を 求 め る 作 業 を 種 々 の 試 験 プ レ ー トに つ い て 行 い,コ ロ ニ ー の 数 と 平 均 粒 径 と の 関 係 を グ ラ フ上 に プ ロッ ト し た 。Fig.2に そ の 結 果 を 示 す 。 コ ン ピ ュ ー タ ー に は 実 測 値 を ス ム ー ジ ン グ し た 値,す な わ ちFig.2の 点 線 に 対 応 す る 値 を コ ロ ニ ー 粒 径(dn)と し て 与 え た 。 以 上 の 操 作 に よ り 円 形 プ レ ー ト内 に 発 生 さ せ たn個 の コ ロ ニ ー 〔gi(ξi,ηi,dn);i=1,2,…,n〕 の うち 任 意 の2 個 の コ ロ ニー(gs,gt)が 重 な る 条 件 を 式(3)で 判 定 し た 。
(3)
コ ロ ニ ー の 重 な り をn個 の す べ て の コ ロ ニ ー の 組 合 せ に 対 し て 判 定 し,コ ロ ニ ー が 単 独 で 存 在 す る数(N1), 2個 重 な っ た 数(N2),お よ びk個 重 な っ た 数(k=3,4, … ,k)Nkを 求 め た 。Fig.3に は そ の 計 算 手 順 を 示 す ブ ロ ッ ク ダ イ ヤ グ ラ ム を 示 した 。大 気 汚 染 学会 誌 第17巻 第3号 (1982)
Nt N1 N2
Fig. 4. Appearance frequency of N1, N2 and Nt in a plate containing 2000 colonies which are obtained by the 150 times computer simulations.
Fig.4は,モ デ ル コ ロ ニ ー 数 を2,000と し,モ ン テ カ ル ロ法 に よ る 数 値 実 験 を150回 繰 返 し て 行 っ た と き に 得 られ たN1,N2お よ びNtに 対 す る 度 数 分 布 を ヒ ス トグ ラ ム で 示 した も の で あ る 。 こ こ で,Ntは 単 独 お よ び 重 な り合 っ て 存 在 す る コ ロ ニ ー の 総 計(N1+N2+N3+…) を 示 す 。 こ のNtは,試 験 プ レ ー ト内 の2,000個 の コ ロ ニ ー の うち,相 互 に 重 な り合 っ て い る コ ロ ニ ー は 自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー で は1つ と 計 測 し,か つ コ ロ ニ ー の 重 な りは ラ ン ダ ム に 発 生 す る と し た 場 合 の 数 とそ の 分 布 に 相 当 す る 。 モ ン テ カ ル ロ 法 に よ る 数 値 実 験 を,モ デ ル コ ロ ニ ー 数 100,200,300,…,2,000個 に 対 し て,そ れ ぞ れ150回 ず つ 繰 返 し て 行 っ た 結 果 をTable1に ま と め て 示 す 。 こ こ に は,Nt,N1,N2… の 数 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 を 示 し て あ る 。 ま た,Fig.5に はNt,N1,N2,N3お よ びN4 の 数 の 平 均 値 と モ デ ル コ ロ ニ ー 数 と の 関 係 を 示 す 。 Tablelお よ びFig.5よ り,モ デ ル コ ロ ニ ー 数 を 増 加 さ せ る と,コ ロ ニ ー 同 士 の 接 触 数 が 増 し,そ の た めNt の 数 と モ デ ル コ ロ ニ ー 数 の 差 が 増 加 す る こ と が 判 る 。 Ntの 数 とFig.1に 示 し た 自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー に よ る 通 常 の 視 野 率 補 正 計 数 値 と の 関 係 をFig.6に 示 す 。 こ こ で は,モ デ ル コ ロ ニ ー 数 は 目視 コ ロ ニ-数 と 同 じ で あ る と仮 定 し てNtをFig.5か ら 求 め た 。Fig.6か ら, 通 常 の 視 野 率 補 正 計 数 値 と 現 の 数 は ほ ぼ 一 致 し た 値 を 示 す こ と が 判 る。 以 上 の 事 実 は,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー の 主 な 計 数 誤
Fig. 5. Relation between numbers of input colonies and average numbers of N1, N2, N3, N4 and Nt which are obtained by the MonteCarlo simulation.
差 は コ ロニ ー の重 な りに よ る こ とを 強 く示 唆 す る と共 に,コ ン ピュ ー タ シ ミュ レー シ ョンを用 い て 自動 コロ ニ ー カ ウン タ ー計 数 値 を 補 正 す る こ とが 可 能 で あ る事 を示 して い る。
182 大 気 汚 染 学 会 誌 第17巻 第3号 (1982)
Table 1. Numbers of single colobies and clusters of colonies which are obtained by the MonteCarlo simulation.
3.3 補 正 式 の 作 成 お よび そ の 検 討 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー計 数 値 か ら 目視 コ ロ ニー数 を 求 め るた め に は,Fig.5のNtの 曲 線 を用 い て 換 算 して も よいが,補 正 式 を 作成 し,こ れ を用 い て電 子 卓 上 計 算 機 な ど に よ り算 出 した ほ うが は るか に能 率 的 で実 用 的 で あ る。 そ こで,こ の 補 正 式 の作 成 方 法 の検 討 を行 った 。 3.3.1 補 正 式 の作 成 補 正 式 の 作 成 に あ た って,直 接Nt曲 線 か らモ デ ル コ ロ ニ ー数 を 求 め る 近 似 式 を 導 き 出 す こ とが 困難 で あ っ た た め,統 計 的 見 地 か ら,確 率Pを 用 い る方 法 を 検 討 し た 。 す な わ ち,コ ロ ニ ーの重 な りに対 す る確 率Pは 次 式 (4)で 示 され る。
(4)
こ こ でNj,nはn個 の コ ロ ニ ー を 発 生 さ せ た と きj個 重 な り合 っ た コ ロ ニ ー の 数 で あ り,Nt,nはFig.5のNtTable 2. Reliability of the calibration equation.
Fig. 6. Relation between ordinary calibrated instrumental count and Nt.
の数 に相 当す る。 この確 率Pj(n)とPt(n)を 発 生 コ ロ ニー数 に対 して プ ロ ッ トす る とFig.7が 得 られ る。Fig.7か ら発 生 コ ロニ ー数500以 下 と500以 上 で はPt(n)曲 線 の パ タ ー ンが 異 な り,前 者 は 指 数 近 似,後 者 は 直線 近 似 出 来 る こ とが 判 る。 そ こ で,次 式(5)に よ る最 小 自乗 法 を こ ころ み 実 験 式 を 求 め た 。
(5)
こ こ で,nは 発 生 さ せ た コ ロ ニ ー 数 で あ る 。 最 小 自乗 法 に よ る 係 数 α,β は そ れ ぞ れ αI=0.985, βI=-1.57× 10-4お よ び αII=-7.895×10-5,βIi=0.95が 得 られ た 。 こ の 実 験 式 を 用 い て,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー 計 数 値 か ら 目視 コ ロ ニ ー 数 を 算 出 す る 補 正 式(6)を 導 き だ し た 。 こ の 時n=500以 下 の 場 合 は 指 数 関 数 で 表 示 さ れ て い る の で,n=500以 上 の 場 合 の 関 数 の タ イ プ に 統 一 す る た め に テ ー ラ ー 展 開 し,βI2≪1か ら 第2頃 以 下 を 無 視 し た 。 ま た,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー 計 数 値 か ら 目 視 コ ロ ニ ー 数 を 算 出 し う る よ うに,目 視 コ ロ ニ ーに 対 し て 陽 関 数 と し 更 に,自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ー の 視 野 率 の 変 動 を 考 慮 し て 補 正 式(6)を 求 め た 。(6)
こ こでkは 視 野 率,xは 自動 コ ロ ニー カ ウ ンタ ー計 数 値 で,x/kはFig.6のNtnに 相 当す る,ま たyは 算 出 した 目視 コ ロニ ー数 であ る。 3.3.2 補 正 式 の検 討 モ デ ル コ ロ ニ ー数(目 視 コ ロ ニ ー数 に相 当)を 補 正 式 (6)か ら正 し く算 出 出来 るか否 か を調 べ た 。 す なわ ち,184 大 気 汚 染 学会 誌 第17巻 第3号 (1982)
Fig. 7. Appearance probability of colonies in each state versus number of input colonies in the MonteCarlo simulation.
Fig. 8 Relation between visual counts and instru-mental counts calibrated by the present
cali-bration equation.
Instrument: Colony Analyzer CA-7A; sense 3.
モ ンテ カ ル ロ数 に よ るNtの 数 を 式(6)のxに 代 入 し, これ よ り得 られ たyを モ デ ル コ ロニ ー数 と比 較 した 。 そ の結 果 をTable2に 示 す 。 Table2か ら,補 正 式(6)か ら求 めた 補 正 値 は モデ ル コ ロ ニ ー数 に対 して す べ て1%以 内 に あ る こ とが 判 る。 一方 ,モ ン テ カル ロ法 に よ って 得 られ たFig.5中 のNt の数 は 平 均 値 で あ り,こ の 値 はTable1に 示 す ご と く 常 に 統 計 的 変 動 を伴 な っ て い る。 こ の 変 動 はTable1 に 示 した 平均 値Ntと 標 準 偏 差 σtの値 か ら判 る よ うに か な り小 さ い。 例 え ば,n=2000の 場 合,平 均 値 か ら
Fig. 9. Effect of sensitivity on the calibrated instru-mental count. ±5%以 内 の計 数 値 は 数 値 実 験 試 行 回数150回 の うち97 %以 上 の割 合 で 出現 す る こ とが 判 る。 これ らの結 果 か ら,補 正 式(6)は 自動 コ ロ ニー カ ウ ン ター の補 正 に有 用 であ る と考 え られ る。 3.4 補 正 式 の 実 測値 へ の 適 用 補 正 式 の 有用 性 を検 討 す るた め に,補 正 式(6)を プ ロ グ ラ ム電 子 卓 上 計 算機 に 入 れ,こ れ を 用 い てFig.1に 示 した 自動 コ ロニー カ ウン タ ー計 数 値 を 補 正 して み た 。 そ の結 果 をFig.8に 示 す。Fig.8か ら,補 正 値 は,計
rig. 10. Relation between visual counts and the in-strumental counts calibrated by the present method. 数 値 の大 きな 部 分 で 若 干 目視 値 よ り低 い 値 を 与 え るが, こ の 図 とFig.1と の対 比 か ら 通 常 の視 野 率補 正 値 の場 合 よ り大 幅 な 改 善 が な され て い る こ とが 判 る。 特 に,コ ロ ニ ー数1,000以 下 の場 合,式(6)に よ る補正 は十 分 使 用 し うる と判 断 され た 。 一方,コ ロ ニ ー数 が1 ,000以 上 の 場 合 の 補正 値 が 目視 コ ロ ニ ー数 よ り若 干 低 い 値 を 与 え た 原 因 を種 々 検 討 した 結 果,コ ロニ ー カ ウ ン タ ー の検 出 感 度 の影 響 が大 きい と 推 定 され た 。 何 故 な ら,現 実 の コ ロ ニ ーは 半 球 状 で あ り, そ の径 は コ ロニ ー数 が 増 す に つ れ て小 さ くな るか ら吸 光 度 は コ ロニ ー数 が 大 き くな るほ ど減 少 し,ブ ラ ン ク との 差 が 小 さ くな り,小 さな コ ロ ニ ーは カ ウ ン トしな くな る 可 能 性 が あ るた め であ る。 そ こで,式(6)に よ る補 正 値 に 及 ぼ す 自動 コ ロ ニー カ ウ ン タ ー の感 度 の影 響 を 調 べ た 。そ の結 果 をFig.9に 示 す 。Fig.9か ら,自 動 コ ロニ ー カ ウン タ ー の感 度 を 上 げ る と コ ロ ニ ー計 数 値 が 増 加 す る こ とが 判 る。 また,コ ロ ニ ー数1,000付 近 まで はslope3で の補 正 値 が 肉眼 に よ る計 数値 と よ く一 致 し,コ ロ ニ ー数1,000付 近 以 上 で はslope2で の 補正 値 が最 も良 い結 果 を あ た え る こ とが 判 る。 こ の結 果 を 確 か め るた め に,変 異 原 性 試 験 を 行 った 多 数 の プ レー ト上 の復 帰 変 異 コ ロ ニ ー数 を 肉 眼 で 計 測 す る と共 に,CA-7A型 自動 コ ロニ ー カ ウ ン タ ー を用 い て, コ ロニ ー数1,000ま で はslope3,そ れ 以 上 で はslope2 で計 数 し,こ の値 を式(6)に よ り補 正 した 。 そ の結 果, Fig.10に 示 す よ うに 補 正 計 数 値 は 目視 コ ロ ニー数 と よ く一 致 す る ことが 判 った 。 また,Fig.10に は,Artek 880型 自 動 コ ロ ニ ー カ ウ ン タ ーに よ り感 度:sense4.8で 計 数 し,こ れ を 式(6) に よ り補正 した 結果 も併 せ て示 して あ る。CA-7A型 の 場 合 と同 様,目 視 コ ロニ ー数 と よ く一 致 した 値 を 示 す こ とが 判 る。 以 上 の 結 果 か ら,変 異 原 性 試 験 に よ り得 た 復 帰 変 異 コ ロ ニ ーは,コ ロニ ー数 に応 じて感 度 を切 りか え て 自動 コ ロ ニ ー カ ウ ン ター で計 測 し,こ れ を補 正 式(6)で 補 正 す れ ば,肉 眼 に よ る計数 値 と同等 の値 が 得 られ る事 が 判 っ た 。 自動 コ ロ ニー カ ウン タ ー で の計 測 時 間 は 秒 の単 位 で あ る。 した が って,本 法 は大 気 浮 遊 粉 じん の変 異 原 性 モ ニ タ リン グな ど,多 試 料 の変 異 原 性 を定 期 的 に 測 定 す る のに 極 め て有 効 な 手 法 とな る もの と思 わ れ る。 な お,本 研 究 の 費用 の一 部 は厚 生 省 が ん 研 究 助 成 金 お よび 文 部 省 環 境 科学 特別 研 究 補 助 金に よ っ て まか な わ れ た 。 関 係 各 位 に 深 謝 の 意 を表 し ます 。 (受稿1981. 12. 25)
文
献
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Adaptation
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Cancer Res., 37, 2726-2728 (1977)
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Semiautomated
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A Method for Calibration
of the Counts by an Automatic
Colony Counter for Mutagenicity
Assay
Hidetsuru MATSUSHITA*, Sumio GOTO*,
Masahiro MORITA** and Kenji HAYASFII**
*
Department of Community Environmental Sciences, National Institute of Public Health; 4-6-1, Shirokanedai, Minato-ku, Tokyo 108 JAPAN
**
Department of Applied Mathematics, Faculty of Science, Science University of Tokyo; 1-3, Kagurazaka, Shinjuku-ku, Tokyo 162 JAPAN