ブエノスアイレス駐在員事務所 2012 年 7 月
住友金属鉱山、チリで積極化する銅開発事業
~Sierra Gorda 鉱山開発事業が建設開始~
はじめに 当事務所は日本の真裏に位置する南米の赤道以南(ブラジルを除く)を管轄国としているが、 今回は、近年需要が急激に拡大する銅の世界最大生産国であるチリにおいて、積極的に銅関連 事業を展開されている住友金属鉱山株式会社(以降、「住山」とする)の現地活動状況につい てレポートさせていただきたい。 チリについて まずはチリの概要について説明したい。チリは南米大陸を縦断する6000m級のアンデス山脈 の太平洋岸に位置し、南北約4630kmに対して東西300kmの大変細長い国となっている。 チリの特産ブドウ アンデス山脈 その気候は鉱物開発が盛んな北部砂漠地帯、わが国でも有名なワイン生産に適する中部準乾燥 地帯、そして鮭などの養殖業が活発な南部ツンドラ地帯とに大きく分かれる。 人口は1600万人とブラジルの10分の1、隣国アルゼンチンとの比較では3分の1と南米では相 対的に少ないものの、同国GDPの4割近くを占める鉱物セクター、特に全輸出の半分超を占める 銅の価格上昇を背景にここ数年、年率約3%の経済成長を続け、その堅実な経済運営もあり、南 米では「経済の優等生」と称される国となっている。ちなみにその地形的特徴、南北を砂漠と 氷河、東西を太平洋と山脈に囲まれた国土から国民の性格は島国的といわれており、開放的か つ陽気な国民性を特徴とする南米の中では少々際立った国民性との印象を、現地訪問するたび に感じる次第である。 チリ経済を支える銅開発については、1300年程前までさかのぼることができるとのことであ るが、本格的な商業生産開始は米国系企業を中心とした20世紀初頭からとなっている。その後、 ナショナリズムの高まりを受け、1955年に現在のチリ銅公社CODELCOの母体が設立されるが、 外資に対しては開放政策を維持し、今や銅生産量では世界シェア第1位を誇るまでに成長してい る。わが国との関係では、2007年9月に日本・チ リ経済連携協定(EPA)が発効するなどきわめ て良好なものとなっているが、その礎のひとつ は、チリがわが国における銅の最大輸入相手国 であることからもわかるとおり、銅開発分野に おける住山をはじめとした本邦企業の積極的な 参加であると考えている。当行もわが国の安定 的な資源調達および両国間の関係強化の観点か ら、チリにおけるさまざまな銅開発事業へのご 支援を実行している次第である。 マイニングビジネス基本戦略 サンチャゴ市内 住山のチリでの具体的な事業について報告する前に、同社のマイニングビジネスにおける基 本戦略について簡単に触れたい。 皆さまご存じのとおり中国をはじめとする新興国の経済成長を背景に資源争奪戦が近年激化 しており、資源の安定的調達先の確保はわが国においても喫緊の課題となっている。 そのうち、銅については上下動を繰り返しつつも過去10年間で大幅に価格上昇し、さらに既 存鉱山は開発進捗による品位の低下に加え、新規鉱山も開発コストがかさむ地域がメインとな り、投資コストおよびリスクとも年々膨らみ続けている状況である。 このような状況を踏まえ住山は、マイニングビジネスにおける基本戦略として「優良資源権 益の確保」「オペレータシップの確保」および「人材確保と技術力向上」を掲げ、銅に関して は積極的な自社探鉱や開発案件への参入等を通じ2020年までに権益シェア分生産量として日本 の銅輸入量の2割強に相当する30万トンを達成するとしている。 チリでの事業展開 (1)1965~2005年 次に住山のチリでの事業を紹介したい。同社のチリでの事業は50年近い歴史を有しており、 すでに1960年代半ばには安定的な銅精鉱調達のためRio Blanco鉱山を相手先とした融資買鉱を 行っている(同鉱山は世界最大の銅生産者であるCODELCOの主要鉱山のひとつとして現在も 操業中)。 銅積出港付近 銅鉱山開発 銅開発事業への参画については、86年の米国Morenci鉱山開発への参画を通じ構築した銅資 源メジャーPhelps Dodge(現Freeport-McMoRan Copper &Gold)との強固な信頼関係を背景 に同社が権益を保有する鉱山を対象に進められ、92年にはCandelaria鉱山、その後、隣国ペル ーでのCerro Verde鉱山と合わせ2005年にはOjos del Salado鉱山の各開発事業への参画を実現 している。
Candelaria鉱山 所在地:チリ第Ⅲ州 権益比率: ▶Freeport-McMoRan(旧Phelps Dodge) 80% ▶住山 16% ▶住友商事 4% 生産開始:1992年 銅精鉱生産量:15万トン/年(2011年、銅量換算) Ojos del Salado鉱山
所在地:チリ第Ⅲ州(Candelaria鉱山に隣接) 権益比率: ▶Freeport-McMoRan(旧Phelps Dodge) 80% ▶住山 16% ▶住友商事 4% 生産開始:1929年 銅精鉱生産量:2.6万トン/年(2011年、銅量換算) 2010 年のコピアポ鉱山落盤事故時 労働者を救出したカプセル (2)現地会社の開設 また、住山は300年以前にまでさかのぼる別子銅鉱山開発や世界でもきわめて高い金品位を誇 る菱刈金鉱山および米国のポゴ金鉱山開発などで蓄えた豊富な経験などを背景に、開発案件へ の参入だけでなく自社探鉱にも注力しており、2007年には探鉱業務をメインとする現地会社 ( Sumitomo Metal Mining Chile LTDA、以 下「SMMチリ」)を開設している。 銅に対する高い需要を背景に、開発段階か らの権益取得コストは他社との競合もあり 年々上昇を続け、加えて事業のマジョリテイ 獲得もきわめて困難な状況となっている。こ のような状況下、優良な銅事業案件獲得のた めに住山が打ち出した施策のひとつが「積極 的な自社探鉱の推進」である。今回、同社の 山縣社長にお時間をいただき、チリでの具体 的な業務内容に加えて興味深いお話をいくつ か聞かせていただけたので、後ほどご紹介さ せていただきたい。 Sierra Gorda 鉱山正式調印後のクロージングセレモニー、 左 住山・家守伸正社長、中央 Quadra・Paul Blythe 社長、 右 住友商事・加藤進社長 (3)Sierra Gorda鉱山開発への参画 先ほど住山のマイニングビジネスの基本戦略について紹介したが、まさにそれが具体化した のが2011年5月に発表されたSierra Gorda鉱山開発への参画ではないだろうか。
Sierra Gorda鉱山開発は当初、事業主体であるKGHM International(旧Quadra FNX社) が中国の国家電網公司(SGCC)との共同開発を発表。国家電網公司は世界最大の電力配送会 社であり、最大の銅需要家たる中国のチリ銅開発事業への本格参入として各種報道で大きく取 り上げられたが、その後の両社間の交渉が不調に終わり、最終的に住山との間で合意に至った ものである。
住山が取得した権益は31.5%(住友商事との合計では45%)とチリでの銅開発事業では最大 となっており、建設開始段階からの参画も踏まえると、チリでの銅開発事業にかかるノウハウ がさらに高まるものと思われる。 Sierra Gorda鉱山の年間銅精鉱生産予定 量(銅量換算)は22万トンで権益シェア分 の生産量は7万トン、これは同社が掲げる長 期ビジョン銅30万トンの23%を占め、今後 の同社資源成長戦略の柱と位置付けられる プロジェクトである。 なお、住山はSierra Gorda鉱山開発事業 において生産される銅精鉱の引取権として 全体の5割、わが国輸入量の1割弱に相当す る約11万トンを確保し、また上記のとおり 主体的な事業参画を通じたさらなる住山の 国際競争力の向上は、わが国の中長期的な 鉱物資源確保にも貢献するところ大である ことを踏まえ、当行も本事業に対するご支 援を決定している次第である。 Sierra Gorda 鉱山、前列左から住友商事・柴戸隆非鉄金属原料 部長、住山・川口幸男資源事業本部長、住山・家守伸正社長 Sierra Gorda鉱山 所在地:チリ第Ⅱ州(Esperanza鉱山などに近接) 権益比率: ▶KGHM International 55% ▶住山 31.5% ▶住友商事 13.5% 生産開始:2014年(予定) 銅精鉱生産量:22万トン/年(マインライフ平均、銅量換算)
Interview
SMMチリ 山縣社長に聞く ~多国籍チーム一丸となって~ 最後に、住山の現地最前線であるSMMチリの山縣社長に現地の探鉱活動などについて伺ったお 話の内容をご紹介したい。 ※文中の肩書きは取材当時のもの。 SMM チリ 山縣順一社長(右端)と現地スタッフ ――業務内容は探鉱と聞くが。 チリにて住山が参画する各開発事業の現地窓口業務も実施しており、2011年参画を発表した Sierra Gorda鉱山開発事業の建設が開始されたことから、最近は同事業にかかる業務が増えてはいるものの、SMMチリのメイン業務はあくまでも探鉱。当地で銅関連のビジネスをされる本 邦企業は開発関連を中心としており、その意味では当社の当地での活動は特色あるものと認識 している。 探鉱についてだが、チリは長い銅開発の歴史を有し、地表に植生がないことから衛星による 資源探査が有効かつ効果的である。したがって具体的な探鉱業務は、前記衛星探査によるター ゲットの抽出、かかる鉱微地に直接出向いた現場での地表調査、試錐、評価作業などである。 そのような活動にはチリの地質関連知識が必要不可欠であり、当社スタッフもおのずと現地 人スタッフが多くなっており、実際の作業はさまざまな国籍を有するメンバーが1つのチーム となって行っている。 ――探鉱と開発業務との関連とは。 探鉱は開発の前段階で実施されるものだが、探鉱業務を通じ蓄積される現地地質に関するさ まざまな情報は、新規権益取得における客観的評価に貢献するところが大きい。実際、先般の Sierra Gorda鉱山開発事業参画決定においても重要な役割を果たしたと考えている。 ――探鉱業務は都市部から遠く離れた地区がメインとなるのでは。 ご存じのとおり有望な鉱脈がある地区 の多くは砂漠が広がる乾燥地帯に位置し、 現場への道路も整備されていないことが 多く、移動だけでも大変な状況である。 また、実際の探鉱作業は長期間に及び野 外テントでの宿泊も多いが、それゆえに 先ほど申し上げたさまざまな国籍を有す るメンバーがまさに一体となることが求 められている。 なお、実際の探鉱業務、またそれに続 く開発事業の安定的および効率的な実施 には、現地住民との良好な関係構築は不 可欠であり、その点についてはいつも留 意している。具体的には現場周辺の道路 整備や教育機材の提供など地域社会への 貢献は最優先課題のひとつとなっている。 Sierra Gorda鉱山、住山・阿部副社長兼シェラゴルダプロジェクト推進本部長、 トラック組み立て場付近。後方に組立前の 300 トンダンプトラックの荷台 また、チリ国内では近年の経済成長や鉱山開発の活性化から水不足が深刻な問題となってお り、探鉱業務実施においても現地住民の水資源に影響を与えぬよう細心の注意を払っている。 ――水不足といえば、Sierra Gorda鉱山開発事業については全量海水を利用するとのことだが 技術的な課題などは? 技術的な課題としてはパイプやその他設備の腐食防止、銅鉱物選別工程における実収率、精 鉱品質維持などがあげられる。 Sierra Gordaを含むチリにおける鉱山の多くは砂漠地帯に位置するため、鉱山操業に必要な 水の確保が大きな課題となっている。 この課題への方策は海水を直接利用する 淡水を利用する近隣の既存鉱山や地域住民 後チリでの鉱山開発を進めるにあたって、 こと。必要な水量を比較的安価に確保でき、また、 との関係維持にも資するため、海水の直接利用は今 重要度が増している技術である。
da で は 、 海 岸 線 か ら 内 陸 ま で 約 は、希少生物の保護区域を避 ――Sierra Gorda鉱山開発事業の建設 状 て、環境保 や現地住民との良好な関係維持を最優先に順調に建設は進められている。 ※この記事は、JOI機関誌「海外投融資」の『ワールドレポート(JBIC海外駐首席が紹介する日系企業の現地での取り組み)』 海水を直接利用するには、内陸の高地 に位置することが多い鉱山サイトまでの 輸送が重要なポイントとなる。Sierra Gor 140kmのパイプラインを敷設。当該敷設 にあたって けるなど十分な環境保全への配慮がなさ れており、環境当局の許可も得ている。 Sierra Gorda 鉱山、同上、ショベル組立場付近。 況は。 2014年の生産開始に向け 後の構造物は一掬い 100 トンのショベルのバケット 全 コーナーに掲載されたものです。 (株式会社国際協力銀行 ブエノスアイレス駐在員事務所 首席駐在員 鈴木 将仁)