1.はじめに
たんぱく質は生命の維持に最も基本的な物質であり、 組織を構築するとともに、様々な機能を果たしている。す なわち、細胞膜をつくり、細胞骨格を形成し、体の骨格、 筋肉、皮膚を構成している。たんぱく質を構成しているアミ ノ酸は、たんぱく質合成の素材であるだけでなく、神経伝 達物質やビタミン、その他の重要な生理活性物質の前駆 体ともなっている。さらに、酸化されるとエネルギー源とし ても利用される。 生体は外界より酸素、水、栄養素を摂取し、体外に炭酸 ガス、水、代謝産物を排泄することにより動的平衡状態を 保っている。体たんぱく質も合成と分解を繰り返してお り、種類によりその代謝回転速度は異なるが、いずれも分 解されてアミノ酸となり、その一部は不可避的に尿素など に合成されて体外に失われる。したがって、成人において もたんぱく質を食事から補給する必要がある。成長期に は、その上に新生組織の蓄積に必要なたんぱく質を摂取 しなければならない(図1)。 食事摂取基準(2010年版)策定において、たんぱく質特集:日本人の食事摂取基準(2010年版)の策定の考え方
たんぱく質・アミノ酸の食事摂取基準*
keywords:
推 定 平 均 必 要 量(estimated average requirement;EAR)、推 奨 量
(recommended dietary allowance:RDA)、目安量(adequate intake;AI)
木戸康博1) Yasuhiro KIDO 小林ゆき子2) Yukiko KOBAYASHI
◆京都府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻1) 京都府立大学生命環境学部食保健学科2)
Division of Applied Life Science, Graduate School of Life and Environmental Sciences1) Department of Food Sciences and Nutritional Health, Faculty of Life and Environmental Sciences2) Kyoto Prefectural University
たんぱく質は生命の維持に最も基本的な物質であり、組織を構築するとともに、様々
な機能を果たしている。たんぱく質欠乏症として、たんぱく質・エネルギー栄養失調症
が知られている。たんぱく質の欠乏や不足を回避する指標として、窒素出納法により推
定平均必要量と推奨量が、乳児においては、母乳のたんぱく質含有量から目安量が策
定されている。たんぱく質の耐容上限量は、たんぱく質の過剰摂取により生じる健康障
害との関係を根拠に設定されなければならない。しかし現時点では、耐容上限量を策定
しうる十分な根拠が見当たらないので、耐容上限量は設定されていない。たんぱく質の
目標量は、たんぱく質摂取量と生活習慣病との関係を根拠に設定されなければならな
い。しかし現時点では、たんぱく質の目標量量を策定しうる十分な根拠が見当たらない
ので、目標量は設定されていない。アミノ酸の食事摂取基準として、成人の不可欠アミノ
酸の推定平均必要量が策定されている。
*Dietary Reference Intakes for Protein and Amino Acid
では、欠乏や不足を回避する指標として推定平均必要 量、推奨量、目安量が策定された。しかし、過剰による健 康障害を回避する指標である耐容上限量と生活習慣病の 一次予防の指標である目標量については、科学的根拠が 十分得られていないので策定されなかった。
2.たんぱく質必要量に影響を及ぼす要因
たんぱく質利用効率は、たんぱく質、アミノ酸、総窒素 の摂取量により変化する。また、窒素化合物以外の栄養 素の摂取量によりたんぱく質代謝は影響をうける。 2-1.エネルギー摂取量 エネルギー代謝は、たんぱく質代謝に大きな影響を及 ぼし、エネルギーのたんぱく質節約作用として古くから知 られている1)。エネルギー摂取不足はたんぱく質利用効率 を低下させ、逆にエネルギー摂取が増すと窒素出納は改 善される2)。これには、インスリン分泌の増加によるたんぱ く質合成の促進、分解の抑制が寄与している。また、成人 を対象とした窒素出納に関する報告(361例)では、エネ ルギー摂取量と窒素出納の間に有意な正相関が認められ ている3)。したがって、たんぱく質必要量に関する実験で は、エネルギー平衡状態で実施する必要がある。 2-2.生活習慣 2-2-1.身体活動 活発に活動し、摂食量が多い人では容易にたんぱく質 必要量を満たすことができ、また、たんぱく質の質の重要 性も低い。しかし、不活発な人、高齢者などでは、食事に 注意しないとたんぱく質、その他の栄養素不足を招きや すい。たんぱく質必要量と身体活動の関係について、運動 不足は体たんぱく質異化状態を招き、適度の運動は食事 たんぱく質の利用を高める。また、激しい運動はたんぱく 質分解を亢進させることから、運動強度に応じてたんぱく 質必要量はU字型を描く4)。さらに、子どもや成人を対象と した研究において、適度の運動が成長を促進し、食事た んぱく質の利用を高めることも報告されている5)6)。 一般に、運動時には発汗による経皮窒素損失量が増大 し、アミノ酸の異化亢進、体たんぱく質の合成低下と分解 上昇がみられる。しかし、運動終了時以降に、体たんぱく質 の合成が分解を上回るようになり、損失を取り戻すことが 多い。また、軽度ないし中等度の運動(200〜400 kcal/ 日)を行った場合には、たんぱく質必要量は増加しないこ とが報告されている7)8)。このように、エネルギー供給が十分 ならば「健康づくりのための運動指針2006」で示されてい る運動では、たんぱく質必要量は増加しない場合が多い。 2-2-2.休養・ストレス 日常のストレスに関しては、48時間の断眠や大学生の 期末テスト時の窒素出納試験の報告しか見あたらず、窒 素出納に及ぼす軽度のストレスの定量的な影響は明らか ではない。また、日常のストレスは窒素出納実験の被験者 にも作用しており、その影響は窒素平衡維持量の中にす でに含まれていることから、ストレスに対する安全率は見 込まないことにした。 2-2-3.喫煙・飲酒 喫煙は細胞にフリーラジカル障害を与え、飲酒は直接 的、間接的に代謝に影響を与える。しかし、喫煙や飲酒と たんぱく質必要量との定量的関係は明らかではない。 2-3.個人差 これまでに報告されている窒素出納値には、研究者間 で10%から40%程度の大きな幅が見られる。この変動 幅の中には個人差変動の他、個人内変動や、実験条件、 実験誤差などの研究者による変動も含まれている。19 研究の被験者235人のデータを解析した結果によると、 観察された変動の40%は研究者間の変動であり、残りの 60%が各研究者内の変動であると報告されている9)。ま た、同一被験者で繰り返し測定された成績から、各研究 者内の変動の2/3は個人内の変動であり、1/3が真の個 人差変動であり、その変動係数は12%であった。しか し、変動曲線に偏りがあるので、個人差変動の変動係数 は、12.5%(標準偏差×1)とされた。3. 推定平均必要量・推奨量・目安量
たんぱく質欠乏症として、たんぱく質・エネルギー栄養 失調症が知られている。たんぱく質・エネルギー栄養失調 症の1つであるカシオコアは、エネルギーは足りているが、推定平均必要量(g/kg体重/日) =維持必要量÷利用効率+蓄積量÷蓄積効率推奨量 (g/kg体重/日) =推定平均必要量×個人差変動推奨量(g/日) =推定平均必要量×個人差変動×基準体重 ここで、維持必要量には、成長期の幼児、児童および青 少年を被験者として行われた窒素出納試験成績10)〜16)に よって得られている値の平均値である0.67g体重/kg/日 (107mg窒素/kg体重/日)が採用された。ただし、尿と便 以外のその他の窒素損失は、現在利用できる報告10)17)〜20) を基に、6.5±2.3mg窒素/kg体重/日(5 〜 9mg窒素/ kg体重/日)として、上記の維持必要量が算出された。ま た、幼児、児童および青少年期といった発育過程によって 維持必要量が異なるという証拠が見当たらないので、こ の値を成長期すべての年齢にわたって用いている。 蓄積量は、成長に伴うたんぱく質の蓄積量として、成長 期の各年齢における基準体重の増加量と基準体重に対 する体たんぱく質の割合から算出された。成長期の体重 たんぱく質が不足することで発症する。浮腫、毛髪の変色、 ペラグラ様皮疹、下痢、低タンパク質血症などが特徴であ る。これらの欠乏や不足を回避する指標として、食事摂取 基準(2010年版)策定において推定平均必要量、推奨量あ るいは目安量がライフステージ別に策定されている。 3-1.乳児 0 ~ 11か月 (目安量) 乳児(6 〜 8か月)目安量(g/日)=10.6(g/L 乳児の 場合、たんぱく質必要量は、成人のように窒素出納法で決 められないので、健康な乳児が摂取する母乳に含有され るたんぱく質量および離乳食として摂取するたんぱく質 摂取量から目安量として算定されている。また、乳児期 は、ライフステージを3区分、すなわち生後0〜5か月、6 〜8か月、9〜11か月に分けて策定された(表1)。 たんぱく質目安量(g/日) =母乳中のたんぱく質濃度×平均哺乳量+母乳以外の離 乳食のたんぱく質量 乳児(0 〜 5か月)目安量(g/日) =12.6(g/L)×0.78(L/日)= 9.83 乳児(6 〜 8か月)目安量(g/日) =10.6(g/L)×0.60(L/日)+6.1(g/日)=12.5 乳児(9〜11か月)目安量(g/日) =11.2(g/L)×0.45(L/日)+17.9(g/日)=22.9 3-2. 成長期 1 ~ 17歳 (推定平均必要量・推奨量) 1〜17歳の幼児、児童および青少年の推定 平均必要量は、たんぱく質維持必要量と成長 に伴い蓄積されるたんぱく質蓄積量から要因 加算法によって算出された(表2)。ただし、利 用効率は体重維持の場合のたんぱく質利用効 率である。推奨量は、個人差変動を成人と同じ 1.25として次式により算出された。 年齢区分 0 〜 5 か月 6 〜 8 か月 9 〜11 か月 母乳中たんぱく質濃度(g/L) 12.6 10.6 9.2 哺乳量(L/ 日) 0.78 0.60 0.45 離乳食からの摂取量(g/ 日) ー 6.1 17.9 表1 乳児の年齢区分と目安量 目安量= 母乳中たんぱく質濃度×哺乳量+離乳食からの摂取量 表2 小児の推定平均必要量の算出方法 ただし、蓄積量(D)=B×1,000÷365×C÷100÷A 推定平均必要量(g/kg/日)=D×100÷E+F×100÷G 推定平均必要量(g/日)=(D×100÷E+F×100÷G)×A 推奨量=推定平均必要量×1.25
に対する体たんぱく質の割合は、出生時から10歳までの 体組成値21)、4か月齢から2歳までの体組成値22)、4歳か ら18歳までの体組成23)に基づき算出された。 利用効率には、9 〜14か月齢児について検討された結 果(1歳児における体重維持の場合の利用効率が70%、 蓄積効率が40%)16)が用いられた。なお、蓄積効率は成長 期を通して40%とみなし、体重維持の場合の利用効率 は、成長に伴い成人の値(90%)に近づくと考えている。 3-3.成人 18 ~ 69歳 (推定平均必要量・推奨量) 窒素出納実験により測定された良質たんぱく質の窒素 平衡維持量を基に、それを日常食混合たんぱく質の消化 率で補正して推定平均必要量を算定し、その上に個人差 変動を加えて推奨量が算定されている。日常食混合たんぱ く質の質については、国民栄養調査成績の食品群別たん ぱく質摂取量とそれぞれのたんぱく質のアミノ酸組成から アミノ酸摂取量を算出し、アミノ酸スコアを求めると、1973 年FAO/WHOアミノ酸評点パターン24)、1985年FAO/ WHO/UNUアミノ酸評点パターン25)、2007年FAO/ WHO/UNU評点パターン26)のいずれを基準に用いても 100を越えている。したがって質の補正は必要ない。 良質たんぱく質の窒素平衡維持量を検討した17の研 究27)〜41)の値を平均すると0.65g/kg体重/日(104mg窒素 /kg/日)となる。この値をもって窒素平衡維持量とされた。 女性(12名)で日常食混合たんぱく質の消化率を実測 した研究では、平均で92.2%と報告されている32)。また、 男性(6名)について測定した結果は95.4%であった42)。こ れらより、日常食混合たんぱく質の消化率は90%とされ た。個人差変動には、個人差変動の変動係数(12.5%)9)の 2倍(25.0%)である1.25が用いられた。 推定平均必要量(g/kg体重/日) =窒素平衡維持量÷消化率= 0.65÷0.90 = 0.72 推奨量(g/kg体重/日) =推定平均必要量×個人差変動= 0.72×1.25 = 0.90 推奨量(g/日) =推定平均必要量×個人差変動×基準体重 3-4. 高齢者 70歳以上 (推定平均必要量・推奨量) 加齢により、最大換気量、腎血流量、肺活量等の生理 機能は低下し、体組織では骨格筋が減少し、脂肪は増加 傾向を示す。筋たんぱく質代謝は低下するが、内臓たんぱ く質代謝はほとんど変化しない。たんぱく質代謝回転速 度や生理機能の低下は、高齢者のたんぱく質利用効率に 影響を与えると考えられるが、たんぱく質の推定平均必要 量は若年成人と差は認められないとの報告もある9)。一般 に、高齢者では、日常の生活活動は不活発となり、食欲低 下と相まって食事摂取量が少なくなることが多い。このよ うなライフスタイルの違いもたんぱく質の推定平均必要量 に影響を及ぼすと考えられる。 健康な高齢者が通常の食事を摂取している条件下で 観察された窒素出納維持値の平均値を推定平均必要量 とみなし、個人差変動を考慮した数値が推奨量とされた。 高齢者のたんぱく質の推定平均必要量について検討した 報告のうち、被験者個々の窒素出納結果が記載されてい た5研究36)43)〜 46)の60人の被験者の窒素出納144デー タを用いた pooled-analysis を行い、得られた平均値 0.85g /kg体重/日(136 mg窒素/kg体重/日)が推定 平均必要量とされた(図2)。ただし、この値は、混合たん ぱく質の消化吸収率に90%、その他の窒素損失に実測値 または5mgを用いて補正した後のものである。また、個人 差変動には成人と同じ1.25が用いられた。 推奨量(g/kg体重/日)= 0.85×1.25 =1.06 図2 高齢者の窒素出納(5つの研究より) 1)窒素摂取量を混合たんぱく質に補正(卵たんぱく質×100/90) 2)雑多な窒素損失量:測定値あるいは5mg/kg体重/日(FAO/WHO/ UNU、1973) 3)窒素出納=窒素摂取量-窒素排泄量
なお、施設入居者や在宅ケア対象の高齢者では、低栄 養状態にあり負の窒素出納を示す人が少なくない47)。身 体活動量が低下すると骨格筋のたんぱく質代謝が低下 し、たんぱく質の推定平均必要量は大きくなる。また、エネ ルギー摂取量が低い場合にもたんぱく質の推定平均必要 量は大きくなるので、そのような対象については、健康人 とは別にたんぱく質補給量を考慮する必要がある。 3-5. 妊婦 体たんぱく質蓄積量は体カリウム増加量より間接的に 算定することができる。妊娠末期の平均の体カリウム増加 量は2.08mmol/日であり48)〜 51)、これにカリウム・窒素比 (2.15mmol カリウム/g窒素)48)、およびたんぱく質換算係 数(6.25)を用いて、妊娠末期の平均体たんぱく質蓄積量 を次式により算出した(表3)。 たんぱく質蓄積量(g/日) =体カリウム蓄積量÷2.15×6.25 =2.08÷2.15×6.25 = 6.05 体たんぱく質蓄積量は、妊娠中の体重増加量により変 化することを考慮に入れる必要がある。すなわち、体たん ぱく質蓄積量は、最終的な体重増加量を11 kg52)として 補正されている(表3)。 妊娠中期のたんぱく質蓄積量は、妊娠末期は中期の 3.9倍51)であると報告されており、中期を1.10 gとした。初 期についてはたんぱく質蓄積量が少なく無視しうるもの と考え、妊娠時期別の設定を行った。ここで、たんぱく質 の蓄積効率として43% 48)、個人差変動として1.25を用い て、妊娠時のたんぱく質付加量は次式により算出された。 付加量(g/日) =蓄積量÷蓄積効率 ×個人差変動初期付加量(g/日) = 0(g/日)÷0.43×1.25 = 0 中期付加量(g/日) =1.10(g/日)÷0.43×1.25 =3.20 末期付加量(g/日) =4.29(g/日)÷0.43×1.25=12.47 3-6. 授乳婦 分娩により妊娠時に蓄積したたんぱく質のかなりの部 分が失われるが、蓄積された体たんぱく質の一部は母体 内に残る。また、産褥期には体重減少や授乳によるたんぱ く質の損失が生じる。そこで、妊娠によるたんぱく質蓄積 残と体重増加残に対するたんぱく質付加量とは相殺され るものとされた。したがって、授乳期のたんぱく質付加量 は泌乳に対する付加量のみとなる。 離乳開始期までの6か月間を母乳のみによって授乳し た場合、1日平均泌乳量は0.78 L/日とされた53)〜 59)。この 間の平均母乳中たんぱく質濃度は、12.6g/Lである54)55) 60)〜 65)。食事たんぱく質から母乳たんぱく質への変換効率 は、1985年FAO/WHO/UNU報告25)に基づき70%と された。これらの値を用い、授乳婦へのたんぱく質付加量 は、個人差変動を1.25として次式によって算出された。 付加量(g/日)=12.6×0.78×100÷70×1.25=17.55
4. 耐容上限量
たんぱく質の耐容上限量は、たんぱく質の過剰摂取に より生じる健康障害を根拠に設定されなければならな い。しかし現時点では、たんぱく質の耐容上限量を策定し うる明確な根拠となる報告は十分には見当たらない。し たがって、耐容上限量は設定されていない。5. 目標量
たんぱく質の目標量は、たんぱく質摂取量と生活習慣 病との関係を根拠に設定されなければならない。しかし 現時点では、たんぱく質の目標量量を策定しうる明確な 表3 妊娠期における体たんぱく質蓄積量 妊娠各期のたんぱく質蓄積量の比は、初期:中期:末期=0:1:3.9として計算した。アミノ酸の摂取量を不足から過剰の範囲で変化させ、そ の他の全てのアミノ酸の必要量は満たされた条件に設定 されている。したがって、表4の合計の不可欠アミノ酸(総 不可欠アミノ酸)量を摂取しても全てのアミノ酸の必要量 が満たされる訳ではないことに注意すべきである。 乳幼児、児童および青少年の不可欠アミノ酸の推定平均 必要量では、たんぱく質推定平均必要量の項目において述 べられているように、体重維持のためのアミノ酸必要量に 加えて成長に伴うアミノ酸必要量も加えられる。したがっ て、それぞれの不可欠アミノ酸の推定平均必要量は成人の それらに比べて高い。これらの数値を求めるために実施さ れた研究はきわめて少なく、主に要因加算法によりその数 値は算出されている。実験的データの裏付けは成人の不可 欠アミノ酸の推定平均必要量のデータに比べて少ないが、 乳幼児と青少年の年代別不可欠アミノ酸の推定平均必要 量が2007年WHO/FAO/UNU報告26)に示されている。 食品たんぱく質のアミノ酸スコアは化学的に分析された 食品中のアミノ酸組成を用いて計算されたものである。しか し、ヒトが摂取する場合は、たんぱく質の消化吸収率やアミ ノ酸の有効性についても考慮する必要がある。そこで、通常 のアミノ酸評点パターンに、たんぱく質の消化率を加味した たんぱく質消化率補正アミノ酸評点パターンがより正確な 評価法として用いられるようになってきた69)。また、加熱、ア ルカリ処理などによってもアミノ酸の有効性は変化するの で、これらの要因についても考慮する必要がある。 6-2. たんぱく質摂取に伴う代謝変化 現行のたんぱく質摂取基準量は、窒素平衡維持量を基 に策定されており、様々な生体機能の維持の面からの検 証は十分になされていない。また、たんぱく質の耐容上限 量を策定しうる明確な根拠が十分には見当たらないの で、耐容上限量は設定されていない。しかし、40歳以下の 健康成人に1.9 〜 2.2g/kg体重/日のたんぱく質を一定 期間摂取させると、インスリンの感受性低下、酸・シュウ 酸塩・カルシウムの尿排泄増加、糸球体ろ過量の増加、 骨吸収の増加、血漿グルタミン濃度の低下などの好ましく ない代謝変化が生じることが報告されている70)。また、65 歳以上の男性に2g/kg体重/日以上のたんぱく質を摂取 させると、血中尿素窒素が10.7mmol/L以上に上昇し、 高窒素血症が発症することが報告されている71)。これら 根拠となる報告は十分には見当たらない。したがって、目 標量は設定されていない。
6.その他(補足)
6-1. 不可欠アミノ酸の推定平均必要量 不可欠(必須)アミノ酸とは、ロイシン、イソロイシン、バ リン、リジン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、フェ ニルアラニン、ヒスチジンである。 たんぱく質の栄養価は、それを構成するアミノ酸(特に 不可欠アミノ酸)組成により評価される。ヒトの必要とする 個々の不可欠アミノ酸量がその評価の基準となるため、不 可欠アミノ酸必要量を正確に把握することは重要である。 不可欠アミノ酸の推定平均必要量は、最初Rose66)により 窒素出納法により測定された。しかし、窒素出納法には多 くの問題点があり、必要量が低く見積もられる傾向にある ため、現在ではRoseらの成績は用いられていない。 最近、13C標識アミノ酸を用い、呼気への13CO 2排泄量か らアミノ酸必要量を算定する方法が開発された67)。それに は、24時間のアミノ酸出納法、直接アミノ酸酸化法、指標 アミノ酸酸化法があり、これらの方法の信頼性は比較的高 く測定における種々の利点もあることから、現在ではこれ らの方法によりアミノ酸必要量が求められている26)68)。 2007年にWHO/FAO/UNUから報告された成人の不 可欠アミノ酸の推定平均必要量26)を表4に示した。ただ し、上記のアミノ酸必要量の測定では、測定しようとする アミノ酸 2007 WHO/FAO/UNU 1985 FAO/WHO/UNU (mg/kg/day) (mg/g protein) (mg/kg/day) (mg/g protein) His 10 15 8–12 15 Ile 20 30 10 15 Leu 39 59 14 21 Lys 30 45 12 18 Met + Cys 15 22 13 20 Methionine 10 16 – – Cysteine 4 6 – – Phe + Tyr 25 38 14 21 Thr 15 23 7 11 Trp 4 6 3.5 5 Val 26 39 10 15 不可欠アミノ酸の合計 184 277 93.5 141 表4 成人の不可欠アミノ酸の推定平均必要量 成人のたんぱく質必要量は0.66 g/kg 体重/日として計算されている。 (日本人のたんぱく質必要量は0.65 g/kg体重/日である。)6-5.感染、手術、外傷などのストレス時のたんぱく質必要量 感染症への罹患、手術、外傷などのストレス下では、摂 食量は減少し、たんぱく質代謝が異化的となる。その結 果、窒素損失量は増加し、たんぱく質必要量も増大する。 しかし、感染症、手術などの種類、重症度(重傷度)、期間 等により窒素損失増加の程度は異なる。定量的研究は少 ないが、合併症のない一般的な手術で5g/日、火傷で70 g/日程度のたんぱく質損失が報告されている。 6-6. たんぱく質摂取基準使用上の留意点 食事摂取基準は、エネルギー並びに他の栄養素の摂取 量が十分であるという前提の基に求められている。した がって、エネルギーや他の栄養素の摂取量が不足した状 態では、たんぱく質摂取量が基準量を満たしていても、た んぱく質栄養状態を正常に維持できない場合もある。 また、たとえエネルギー平衡状態にあっても、高齢者や 身体活動が低下している者あるいは低体重の者にあって は、基準量のたんぱく質を摂取していてもたんぱく質不足 状態となる場合があり得る。 現行のたんぱく質摂取基準量は、窒素平衡維持量を基 に策定されており、様々な生体機能の維持の面からの検 証は十分になされていない。したがって、健康増進あるい は生活習慣病の予防に望ましい量、理想的な摂取量を意 味しない。それを下回ると窒素平衡も維持できない最低 の必要量と考えるのが妥当である。 の報告より、成人においては年齢にかかわらず、たんぱく 質摂取は2.0g/kg体重/日未満に留めるのが適当である と考えられる。健康な成人の耐容上限量は、推奨量の約2 倍(2.0g/kg体重/日)以上と推定され、窒素平衡維持の ための推定平均必要量は0.6〜0.8g/kg体重/日と見積 もられているので、たんぱく質摂取量が1.0〜1.5g/kg体 重/日の範囲内にあれば、不足あるいは過剰のいずれの 危険性も少ないと考えられる。 6-3.人工乳栄養児の目安量 人工乳栄養児のたんぱく質食事摂取基準は、人工乳の たんぱく質利用効率を考慮して参考値として示されてい る。ここで、人工乳栄養児の参考値は、人工乳のたんぱく 質の利用効率を母乳の70% 25)とみなし、目安量の参考値 として次のように求めたものである。 0 〜 5か月の目安量の参考値(g/日) =母乳栄養児の目安量(9.83)×100/70 =14.04 6 〜 8か月の目安量の参考値 (g/日) =10.6(g/L)×0.60(L/日)×100/70+6.1(g/日)=15.2 9 〜11か月の目安量の参考値(g/日) =11.2(g/L)×0.45(L/日)×100/70+17.9(g/日)=25.1 6-4.筋肉肥大を伴う運動、中等度以上の持久性運動と たんぱく質必要量 一般に、運動時には発汗による経皮 窒素損失量が増大し、アミノ酸の異化 の亢進、体たんぱく質の合成の低下と 分解の上昇がみられる。しかし、運動終 了時以降に、体たんぱく質の合成が分 解を上回るようになり、損失を取り戻す ことが多い。 激しい運動を長時間行うとアミノ酸 異化が亢進し、たんぱく質要求量が増 すことが知られている。筋肉肥大を伴う ような場合や、長時間にわたる中等度 以上の持久性運動時には、たんぱく質 摂取量をそれぞれ1.7 〜 1.8g/kg体 重/日、1.2 〜 1.4g/kg体重/日程度 に増加することが望ましい。 表5 たんぱく質の食事摂取基準 性別 男性 女性 年齢 EAR RDA AI UL DG EAR RDA AI UL DG 0 〜 5(月) ー ー 10 ー ー ー ー 10 ー ー 6 〜 8(月) ー ー 15 ー ー ー ー 15 ー ー 9 〜11(月) ー ー 25 ー ー ー ー 25 ー ー 1〜 2(歳) 15 20 ー ー ー 15 20 ー ー ー 3 〜 5(歳) 20 25 ー ー ー 20 25 ー ー ー 6 〜7(歳) 25 30 ー ー ー 25 30 ー ー ー 8 〜 9(歳) 30 40 ー ー ー 30 40 ー ー ー 10 〜11(歳) 40 45 ー ー ー 35 45 ー ー ー 12 〜14(歳) 45 60 ー ー ー 45 55 ー ー ー 15 〜17(歳) 50 60 ー ー ー 45 55 ー ー ー 18 〜 29(歳) 50 60 ー ー ー 40 50 ー ー ー 30 〜 49(歳) 50 60 ー ー ー 40 60 ー ー ー 50 〜 69(歳) 50 60 ー ー ー 40 50 ー ー ー 70 以上(歳) 50 60 ー ー ー 40 50 ー ー ー 妊婦(付加量) 初期 +0 +0 中期 +5 +5 ー ー ー 末期 +20 +25 授乳婦(付加量) +15 +20 ー ー ー
参考文献
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