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中国における酪農生産の変貌と乳業の生乳調達の実態

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Ⅰ はじめに 中国の生乳市場において、2008年の「メラミン 混入粉ミルク事件」(以下、「メラミン事件」)の発 生により、生乳価格の主な決め手であるタンパク 質の検出値を高めるために、生乳の流通段階にお いてメラミンの混入が多く行われていたことが判 明した。それ以降、生乳生産から加工処理までの 段階の管理と監督が重視されるようになり、生乳 の生産・流通を一貫して行うことを目的とする取 り組みが盛んに行われるようになった。例えば、

Dairy Production Change and Raw Milk Procurement of Dairy Processors in China

DAI, Rongqinsi

Hiroshima University Abstract:

Dairy farming operations in China are mostly small scale and lack funds and facilities. After milking mechanization developed, private milking businesses appeared, providing milking service for charge for farmers who have no milking machine. To strengthen the raw milk procurement system and make it traceable, dairy processors have started vertically integrating such private milking stations. In some cases, the processors even promote contract farming with farmer cooperatives which includes the milking process. Meanwhile, the establishment of large scale dairy farms operated by processors or the private sector has become common. In major existing studies, the vertical integrated raw milk distribution initiated by dairy producers in China has been assessed as an effective way to improve not only the quantity and quality of raw milk but also the income of dairy farmers, as long as the processors keep monitoring the whole supply process with responsibility. But the rapid expansion of dairy industrial capital investing in raw milk production and distribution also could create negative impact on dairy farming section. This study aimed to identify the problems of dairy processor and raw milk producer under the current milk business condition. Toward this objective, four research tasks were undertaken. First, raw milk distribution in China were analyzed using existing literature sources, which provides an understanding of past research. Second, dairy production development in China was surveyed from a historical aspect, which confirmed that the change of farming section was strongly influenced by the evolution of dairy industry. Third, the raw material procurement structure for processors was examined by studying cases from a field survey. Fourth, the impacts from the current raw milk procurement structure were assessed.

〔Key words〕 raw material procurement, direct farming, contract farming

*広島大学(E-mail:[email protected])  キーワード:原料調達、直営生産、契約生産 《論文》

中国における酪農生産の変貌と乳業の生乳調達の実態

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零細・小規模酪農家が行っていた乳牛飼育を近代 化・標準化した農場に集中させ、酪農家各自で行 っていた手搾り等の搾乳作業を大型搾乳機械の共 同利用によって代替する等の酪農生産の組織化が その一環である。他方、とりわけ近年、大手乳業 の全国での事業展開により、大規模酪農経営の展 開、乳業の自社農場の新設が多くみられるように なった。 こうした酪農生産の大規模化の動きが盛んな 中、乳業の生乳調達構造の解明とその実態の把握 は、中国における安定的・持続的な生乳供給シス テムの構築を検討する上で重要な課題であると考 える。 以上をふまえ、本研究は、中国の酪農生産の変 化と生乳流通の実態と、生乳調達における乳業と 酪農生産者の課題を明らかにすることを目的とす る。具体的課題は次の3点である。第1に、先行 研究を整理し、中国における生乳の生産・流通に 関する取り組みについての評価を把握し、本研究 を位置づける。第2に、統計データと既存資料の 分析を通して、中国における酪農生産の展開経緯 と背景を把握する。第3に、事例分析を通して、 乳業と酪農生産者の相互関係について検討する。 筆者は、2010年及び2013年に、中国西南部の新興 酪農産業地帯として展開しつつある四川省と雲南 省で、大手乳業N、Y、Mの3社および関連の酪 農生産者について聞き取り調査を実施した。第4 に、以上をふまえ、生乳調達における乳業と酪農 生産者の課題について検討する。 Ⅱ 中国における生乳流通に関する先行研究 中国の生乳流通ならびに酪農生産の状況が著し く変化したのは、搾乳ステーション等といった集 乳施設の設立後である。これら集乳施設は乳業と 酪農生産者の結節点として、その役割が大きく注 目されてきた。うち代表的な研究として、農畜産 業振興機構(2010)、鐘(2013)、戴・矢野(2012) が挙げられる。 中国では、1990年代に搾乳の機械化が推進さ れ、徐々に酪農生産者による機械化搾乳が義務づ けられるようになり、1996年から搾乳ステーショ ンが大手乳業によって設置されるようになった1) 農畜産業振興機構(2010)では、「搾乳ステーシ ョンは中国における独特の集乳システムであり、 搾乳施設・機械に投資する資金的余裕のない零 細・小規模酪農家が安定的に搾乳を行い、経営を 維持していくための共同搾乳施設である」と評価 した。 ところが、鐘(2013)によると、搾乳サービス を酪農家に有料提供している単なる搾乳機能を有 する集乳商人の集乳施設であるケースも少なくな い。1990年代末から2000年代半ばまでの間に発生 した「酪農ブーム」は、集乳商人による搾乳ステ ー シ ョ ン の乱 立 を助 長 したと考 えられる。 鐘 (2013)によると、中国の生乳市場において、生 乳は殆ど搾乳ステーションを通して乳業に販売さ れている。うち集乳商人が経営しているものが約 69%で最も多く、乳業が所有または管理している ものは約22%、大規模生産者が運営するものは約 6%、酪農専業合作社(以下は合作社と略)とい った酪農生産者組織が運営するものは約2%であ る2)。同研究では、乳業の系列搾乳ステーション の利用者の生産規模が比較的大きく、生産の効率 性、生乳の品質も比較的高いと指摘している。一 方、集乳商人が運営する搾乳ステーションは7割 で最も多いとはいえ、搾乳ステーション自体の規 模が小さく、利用者も殆ど零細の兼業農家であ り、生乳生産・流通の効率性がやや低いとみられ る。こうした集乳商人が運営する搾乳ステーショ ンにおいては、関連の政府部門による監察、乳業 による技術指導・監督が行き渡っていないケース が多いため、搾乳段階における生乳品質に問題が 起きる可能性が大きいと考えられる。この状況の 中、乳業の支援の下で、搾乳ステーションと近代 化・標準化された乳牛飼育施設(「養殖小区」3) (次節で詳述))を併設した合作社の結成という取 り組みが推進されるようになった。 戴・矢野(2012)は、生乳取引における搾乳ス テーションと「養殖小区」を運営する合作社の実 態と役割について考察した。同研究で取り上げた 合作社は、政府、特定の乳業、投資人(後に合作 社の運営者となる)等からの政策的・経済的支援 により施設を建設し、農家は出資せず、乳牛さえ 所有していれば合作社に加入できる。こうした取 り組みは、酪農家にとって施設の共同利用による

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生産コストの削減といったメリットがある。ま た、合作社が乳業と取引契約を結ぶことは、零細 農家の販路の安定につながっていると戴・矢野 (2012)が評価した。なお、こうした合作社の結成 は、乳業の開発的支援が関与しているため、合作 社が当該乳業に対して生乳全量販売を義務付けら れる等、実質上乳業の専属的な生乳生産基地とな っている。合作社の結成により零細・小規模農家の 生産環境が改善されたものの、生乳取引において は依然として乳業が主導的な位置にあるといえる。 以上のように、これまでの研究は、主に乳業が 零細・小規模酪農家から生乳を調達するケースに 注目しており、零細・小規模酪農家が依然として 多く存在する現状の中で、中国生乳流通の実態把 握に大きく寄与してきた。しかし近年、乳業の事 業拡大とともに酪農生産の集約化・大規模化展開 が顕著になり、従来の零細・小規模の酪農生産者 と異なった性格や経営形態を有する大規模生産者 が相次いで登場し、その数も年々増加している (後述)。本稿では、特にこうした大規模生産者に 注目したい。 Ⅲ 中国における酪農生産の変貌 1 酪農生産の推移 中国における酪農の成長は後発的である。図1 に示すように、1978年の改革開放後に、乳牛飼養 頭数(非搾乳頭数を含む)が著しく増加したもの の、生乳生産量はそれほど伸びていなかった。そ の直接的な原因は乳牛1頭当たりの乳量の低下に ある。この時期において、酪農経営が多く新規展 開されたものの、零細農家の酪農経験や技術並び に経済能力の欠如が、生産性の低下につながった と考えられる。この傾向はおおむね1990年代半ば まで続いた。 社会主義市場経済体制の確立(1992年)による 市場自由化の実現が、酪農・乳業の発展に大きな 刺激を与えた。乳牛飼養頭数の増加に伴い、乳業 による酪農生産者に対する技術指導や「養殖小区」 の建設等が進展した。その結果、1990年代後半に、 20年間ほど続いていた1頭当たり乳量の低下傾向 に歯止めがかかった。乳牛1頭当たりの乳量なら びに、飼養頭数の大幅な増加によって、生乳生産 量が急激に伸びた。しかし2006年に、それまでに 大幅に増えてきた乳牛飼養頭数は2005年に比べ約 200万頭も急減し、その後回復したものの、前に 比べ増加が緩慢になってきている。生乳生産量も 2007年から横ばいないしは減少傾向が続いている (図1)。今日の中国における酪農生産は、量的に すでに限界に達していると推察できる。 2 酪農生産の展開と生乳流通の変化 改革開放に伴う農業改革によって、公有制酪農 部門が衰退し、次第に多くの零細・小規模酪農家 が現れた。同時に、公有制乳業部門が乳業資本に 転身し、急速に成長している。零細・小規模酪農 家の組織化や大規模生産者の出現等といった酪農 生産の変化は、乳業部門の発展とその原料調達戦 略と密接に関係していると思われる。この仮説を 検証するために、まず中国における酪農生産の変 化過程について整理する必要がある。 孔ら(2010)は中国の酪農生産の歴史的変遷を ①1949年 から1978年、 ②1979年 から1991年、 ③ 1992年から2002年、④2003年から現在、の4つの 時期に区分した。しかし、2008年の「メラミン事 件」を境に中国の生乳流通が大きく変化したと思 われるため、本稿では、孔ら(2010)の第④時期 をさらに2つに分け、現代中国における酪農生産 の展開経緯を5つの時期に大別する。 ⑴ 第1期:1949年〜1978年 第1期は1949年建国以後から1978年改革開放以 図1 中国の酪農生産状況の推移

資料:Holstein Farmer Dairy Consultants『China Dairy Data Report 2013』より筆者作成

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前の計画経済期である。この約30年間における中 国の農業は、土地の私有を基本とする家族経営か ら共同経営へ、そして計画経済下の集団経営へと いう大きな変革を経験した。近代中国では、1850 年代頃にヨーロッパから乳用牛が導入されて以 降、外国人による近代的牧場が多く開設され、 1920年代からは中国人経営の牧場もみられるよう になった4)。1949年建国後、一方では、国営(公 営)農場が設立され、他方では、土地改革が進 み、すべての農家は私有制下の自作農となった。 しかし50年代半ばから社会主義運動が始まり、次 第に土地や役畜等の生産手段が公有制に取って代 わり、農業も家族経営から集団経営へ移り変わっ た。58年に人民公社が成立し、酪農において「乳 牛小組」といった集団経営の農場が設立された。 60年代に全人民所有制の確立により、多くの集団 経営の農場が国営農場に転じた。国営農場は、乳 業部門と共に都市近郊に設置されることが多く、 都市部住民に供給するための市乳の原料乳を主に 生産していた。こうした国営農場といった公有制 農場は現代中国における酪農生産の最初の担い手 である。この時期の公有制部門の労働者は、労働 意欲が低下していたと譚ら(2007)が指摘してい る。 ⑵ 第2期:1979年〜1991年 第2期は1979年から1991年の発展初期である。 改革開放後、個人農家による酪農経営が解禁さ れ、零細農家による小規模の酪農生産が展開され るようになった。80年代半ば以降、一部の国営農 場が解体し、飼養していた乳牛が農場周辺農村地 域の個人農家に譲渡され、特に飼養頭数が5〜7 頭の零細農家が増加した5)。国営農場を除き、乳 牛飼養頭数が20頭以上の規模を有する酪農経営が 極めて少なかった6)。この時期には、多くの零 細・小規模酪農家は施設や技術の面において資金 と経験が不足している。酪農経営の自由度が向上 したとはいえ、効率性と収益性が低く、生乳生産 量の増加は緩慢であり、生乳品質も低下していた。 こうした中、「養殖小区」の設立が政府によっ て進められるようになった。「養殖小区」とは、 一定の区域内の零細・小規模酪農家(3〜4戸) が分散的な乳牛飼養と繁殖活動を一ヶ所に集約さ せ、共同的・統一的に行うための共同農場である と戴・矢野(2012)が定義している。しかし多く の零細・小規模酪農家が乳牛飼養を「養殖小区」 に集約して行うようになったとはいえ、農場の管 理、防疫、乳牛の飼養等は依然として個々の農家 が各自行っていた7)。すなわち、協同性等といっ た組織としての要素が生まれていなかったと考え られる。 ⑶ 第3期:1992年〜2002年 第3期は1992年から2002年の酪農生産構造の再 編期である。改革開放後に段階的に導入された市 場メカニズムは、1992年に「社会主義市場経済」 という形をとり国家体制として確立した。この時 期において、地方政府の支持と乳業の誘致の下 で、酪農生産を副業ないし専業として新規展開す る農家が続々と現れ、とりわけ草原地帯において 酪農主要生産地が形成された。国営農場の経営も しくは所有における乳業への従属化、乳業による 酪農生産への統合がみられるようになった。その 背景として、国営乳業の株式会社化・民営化、民 営乳業の新設、外国資本の参入等といった乳業部 門における著しい発展が挙げられる。特に酪農生 産の比較的盛んな地域(黒竜江省、内モンゴル自 治区等の草原地帯)および北京・上海等牛乳・乳 製品の主要な消費地帯において顕著であり、この 内、「伊利乳業」、「光明乳業」等いくつかの企業 が中国の大手乳業に成長した。1990年代末、乳業 の急速な発展に伴う生乳需要の急増に、酪農生産 が追いつかなくなり、生乳市場が不安定な状態に 陥った。安定的な原料乳調達を確保するため、大 手乳業各社による集乳圏の全国的拡張・強化「運 動」が激しい競争を伴いながら展開した。 当時の生乳市場において、「乳業─集乳所─酪 農家」といった生乳の取引構造が形成された。 1990年に中国進出を果たしたネスレ社の生乳調達 構造がその典型例である。張ら(2008)によると、 ネスレ社は黒竜江省の双城市農村部に多数の集乳 所を設立し、その一つの市域内における零細酪農 家を網羅した集乳圏を形成した。しかし、搾乳の 機械化率が低く、酪農家は輸送缶で手搾りした生 乳を集乳所へ運ぶのが殆どである。ネスレ社は、 集乳所の運営者8)を通して酪農家の情報を収集

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し、それに基づく酪農家に対する奨励制度を設け る等で、酪農家の固定化に力を入れている。 この時期における酪農家は、生乳販売において 比較的自由であり、乳業と交渉可能な位置にあっ たと思われる。一方、乳業は特定地域内の生乳市 場を寡占する傾向が強く、酪農家の販路について の選択肢は極めて少なかったと考えられる。 ⑷ 第4期:2003年〜2008年 第4期は2003年から2008年の急速成長期であ る。この間、酪農・乳業の発展を促進する政策等 が相次いで打ち出され、酪農部門が急激に成長し た。乳牛飼養頭数と生乳生産量の増加は驚異的で あり(前掲図1)、生産者数も大幅に増加した(図 2)。とりわけ大手乳業による大型牧場の建設お よび既存の零細・小規模酪農家の組織化が進み、 搾乳の機械化による搾乳施設の設立と搾乳作業の 集約化が進行した。こうした中、乳業と酪農生産 者の間で様々な取引形態が形成されている。例え ば「乳業─合作社─酪農家」、「乳業─搾乳ステー ション─酪農家」が挙げられる。すなわち乳業は 様々な取り組みを通して酪農生産者と関わろうと している。これらの取り組みは、生乳市場の安定 性と生乳取引のリスク削減につながっていると孔 ら(2010)が評価した。しかし、2008年の「メラ ミン事件」の調査で、搾乳ステーションにおいて 生乳にメラミンが混入されたことが発覚し、これ までの生乳流通構造の見直しが急がれ、乳業主導 の生乳流通構造の再編が始まった。具体的には、 例えば乳業による搾乳ステーションの系列化や新 設、零細・小規模酪農家の組織化に対する働きか けがみられるようになり、取引も紙面契約によっ て規定するようになった。さらに、指定した生産 資材の購入や生乳の全量販売等、乳業による生乳 の生産・取引上の規制がみられるようになった。 ⑸ 第5期:2009年〜現在 第5期は2009年から現在である。2008年の「メ ラミン事件」以来、牛乳・乳製品に関連する食品 安全性問題が相次いで発生している。第4期で急 速に伸びてきた生乳生産量や乳牛飼養頭数も停滞 しつつある(前掲図1)。規模別酪農生産者数の 推移についてみると(図2)、すべての規模の酪 農生産者数の増加が2009年から鈍化ないし減少し ている。大多数は依然として乳牛飼養頭数20頭以 下の小規模生産者であるが、2009年から減少傾向 にある。それに対して、大規模生産者数が継続的 に増えてきている。2009年に706戸あった超大規 模(≧1,000頭)の生産者は2011年にわずか2年 間で310戸も増加した。2011年に、経営規模1,000 頭以上の生産者数は全体の約0.05%とわずかしか 占めていないが、乳牛飼養頭数は全体の約12%占 めている。乳業の直営牧場(1万頭以上のものも ある)または農牧企業9)が経営する大型牧場が それに当たる。表1をみると、現在の乳牛飼養頭 数99頭以下を有する生産者が99%を占めており (4頭以下が75%)、100頭以上を有する酪農生産 者はわずか1%未満である。規模別の飼養頭数を 図2 2002年∼2011年規模別酪農生産者数の推移

資料:Holstein Farmer Dairy Consultants『China Dairy Data Report 2013』より筆者作成  注:1)資料では2002年、2005年、2009年、2010年、 2011年のデータのみ記載。    2)2005年の1∼4頭規模の生産者数はデータ無 し。 表1 中国の規模別酪農生産者数と飼養頭数 (2011年) 規模(頭) 生産者数 実際の乳牛飼養頭数 実数(人) 構成比(%) 実数(万頭) 構成比(%) 1~4 1,653,200 75.29 419.91 29.10 5~19 454,200 20.69 134.54 9.32 20~99 76,100 3.47 316.50 21.93 100~199 5,236 0.24 77.96 5.40 200~499 3,930 0.18 132.09 9.15 500~999 2,075 0.09 152.09 10.54 ≧1,000 1,016 0.05 210.05 14.56 合計 2,195,700 100.00 1,443.14 100.00

資料:Holstein Farmer Dairy Consultants『China Dairy Data Report 2013』より筆者作成。

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みると、99頭以下規模の生産者は全体の約6割、 100頭以上規模の生産者は全体の約4割を占めて いる。すなわち零細・小規模酪農家が圧倒的に多 いが、減少傾向にある。一方、大規模生産者が増 加している。その要因として、①酪農家の組織化 による生産の集約化、②乳業による自社牧場の設 立に伴う直営生産・下請生産の展開ならびに、③ 新規の大規模酪農家の出現等があげられる。 Ⅳ 乳業の生乳調達構造と酪農生産者の実態 ─事例分析─ 現在中国における乳業の原料調達パターンは契 約取引と直営生産の2パターンに大別することが できる。契約取引の形態は、契約対象である酪農 生産者の類型によってまた細分化される。今日の 中国では、乳業の生乳需要に対応するため、合作 社のみならず、新規の大規模酪農家の出現、近代 化牧場の請負経営(農牧企業)等、酪農生産者の 性格が多様化している。聞き取り調査によると、 地元乳業は、個々の零細・小規模酪農家の組織で ある合作社と取引契約を結ぶことが多くみられ る。それに対し、他地域から参入してきた乳業は 主に、大規模酪農家や農牧企業等比較的規模の大 きい生産者と契約する。一方、直営生産は大手乳 業全般にみられる調達パターンである。聞き取り 調査により、表2に示す事例を抽出した。いずれ の事例乳業も中国の大手乳業であり、比較的定着 した生乳調達構造を有し、本研究の事例分析に適 していると考えられる。 1 直営生産─乳業グループNを事例に─ 近年、大手乳業が膨大な資金を投入し、相次い で大規模な直営牧場を設立している。直営牧場の 設立は酪農生産の近代化・標準化・均一化を意味 する。乳業は、安定的生乳調達の確保、生乳品質 の向上、トレーサビリティー実施の可能等を自社 牧場の設立理由としているが、直営牧場からの生 乳は乳業の需要のわずかしか占めていない。調査 したいずれの乳業においても、直営牧場で生産し た生乳は殆ど学校給食用牛乳(「学生飲用乳」)等 特定の製品の原料として指定されている。 四川省に位置する乳業グループN(以下、「グ ループN」)の直営牧場Lについて分析する。グル ープNは四川省内ないし全国各地域の地元乳業を 吸収し、持株会社として拡大してきた大規模乳業 グループである。2011年に、グループNが出資 し、学校給食用牛乳の原料供給のための生産基地 として直営牧場Lを設立した(表3)。直営牧場L の従事者は29人、主に周辺農村の余剰労働力の雇 用である。直営牧場LはグループN傘下の乳業Pと 乳業Hに生乳供給し、両社で製造された学校給食 用牛乳は四川省内の学校に供給されている。直営 牧場Lは標準化牧場として、生乳生産過程におけ る衛生・安全性管理が重視されており、生乳品質 向上にも力を入れている。例えば牛舎内温度が20 ℃を超えた場合、ファンが自動的に作動する。さ らに25℃を超えた場合、スプリンクラーが作動す る。このような自動化管理が徹底している場合、 生産コストが高いため利潤率が低いと想定され る。換言すれば、直営牧場Lの継続的稼働は膨大 な資金が必要とされる。そのため、グループNに よる他の事業からの収益で支えなければ、生乳代 金のみでは直営牧場Lの運営が困難であると考え られる。 続いて、グループNの系列乳業Aの直営牧場に ついて分析する。乳業Aは1970年代に四川省の隣 の雲南省で設立した都市近郊立地型の中小規模の 元国営乳業であったが、1990年代に民営化が進み、 2004年に四川省の乳業グループNに吸収された。 乳業Aは調査時点において2つの直営牧場を有し ている。表4に示すように、直営牧場Bは2000年 までに国営農場として、かつての国営時代の乳業 Aの生乳調達先として生乳生産していた。その後 に乳業Aの専属牧場に転換し、現在では1日当た り約5tの生乳を提供している。直営牧場Bの従 業員の多くは国営農場時代から勤めていた経験者 表2 調査事例 乳業 酪農生産者 調達 グループ N(地元) 直営牧場 L 直営 グループ Nの系列乳業 A(地元) 直営牧場 B 直営牧場 S グループNの系列乳業 P(地元) 合作社 H 契約 乳業 Y(他地域) 酪農家 W 乳業 M(他地域) 農牧企業 X 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成

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や農業技術専門学校の卒業生であることが特徴的 である。そして、乳業Aが2009年に新しく設立し た直営牧場Sについてみる。直営牧場Sは大規模 生産可能な近代化牧場であり、1日当たり約10t の生乳を生産し、乳業Aの学校給食用牛乳および 「生態牧場」(自然生態を守っている牧場という意 味)ブランドの製品の原料として特定されてい る。この直営牧場Sにおいても旧国営乳業や農場 で勤めていた者が多くみられた。 以上のように、大手乳業が新たに直営牧場を設 置したケースもあれば、本来国営乳業に供給して いた国営農場がそのまま民営化された乳業の専属 牧場になったケースもある。乳業にとって、直営 牧場は決して主な原料調達先とはいえないし、こ うした近代化・標準化の直営牧場を運営するには 多額な資金を必要とするため、しばしば赤字経営 の状況に陥る。また、新しい近代化牧場に比べ、 元国営農場はインフラの整備が立ち遅れており、 従業者数も多く、経営上必ずしも効率的とはいえ ない。しかし、直営牧場の生産過程における先進 技術の応用や、基準に沿った衛生・安全性管理、 農場から工場までの一貫したプロセス等が行われ るため、「品質向上」のイメージにつながり易く、 プレミアム製品のブランド作りならびに乳業のイ メージアップに役立っているといえよう。 2 契約生産 ⑴ 酪農家組織(合作社)との取引─乳業Pを 事例に─ 乳業Pの前身は1985年に設立した国営農場Pに 付属していた乳業部門である。1997年に国営乳業 となり、2004年に一部の資本がグループNに吸収 され、N社傘下の乳業となった。乳業Pと契約し ている酪農家組織の合作社Hは、2009年に農家 103戸によって発足し、うち約10戸の出資と金融 機関の融資によって設立した。資金投下した10戸 以外の農家も合作社H結成後に、資金、乳牛、労 働のいずれかを投下している。この103戸のうち、 それまでに個人経営の集乳所や搾乳ステーション を通して乳業Pに生乳販売していた零細・小規模 酪農家が大半を占める。合作社Hの結成によっ て、資金力に乏しかった零細・小規模農家が、生 産資材の共同調達、設備等の共同利用、生乳の共 同生産ができるようになり、集乳商人の介在も取 り除かれ、直接乳業Pに生乳の共同販売を行うよ うになった。現在の合作社Hは、表5に示すよう に、約300頭の乳牛を飼養し、内搾乳できるのは 約200頭で、1日当たり約3tの生乳を生産して いる。約20人の従業員が一日8時間の交代制で、 朝晩2回の搾乳時間に間に合うように生産活動を 行っている。飼料に関しては、乳業Pの指定によ り濃厚飼料はすべてグループNの系列飼料メーカ ー製飼料を使用している。 続いて、合作社Hと乳業Pとの取引関係につい てみてみる。図3に示すように、合作社Hは乳業 Pに対して、生乳の全量販売を行わなければなら 表3 グループNの直営牧場Lの実態 概況 グループNが1,700万元を投資し、2011年5月に設立。 面積 約110畝(7.33ha) 牛舎数 3棟(うち1棟が子牛舎) 搾乳方式 12複列ヘリングボーンパーラー(5人操作) 飼養頭数(搾乳頭数) 600頭(300頭) 1日当たり搾乳量 約6t(27~28kg/頭) 従業者数 29人(地元村落の余剰労働力が多い) 従事時間 7:00-10:00、13:00-16:00、19:30-22:00 飼料調達 濃厚飼料:グループNの系列飼料乳業の製品粗飼料:東北部の乾草、米国の輸入ウマゴヤ シ、トウモロコシサイレージ 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成  注:防疫のため、見学禁止となっている。 表4 グループNの系列乳業Aの直営牧場の実態 直営牧場 乳業A直営牧場B 乳業A直営牧場S 概況 2000年に伝統的な国営農場から乳業直営牧場 に転換。 2009年建設された近代 化牧場。拡大予定。 面積 約150畝(10.05ha) 約300畝(20.1ha) 牛舎数 n.a. 6棟(うち2棟が子牛舎) 搾乳方式 複列ヘリングボーンパーラー ロータリーパーラー 飼養頭数(搾乳頭数) 約500頭(約300頭) 約1,100頭(約600頭) 1日当たり搾乳量 約5t 8~10t 従業者数 約40人 約40人 従業者特徴 従業員は国営農場時代 か ら 勤 め て い た 経 験 者、農業技術専門学校 の卒業生が多数 従業員は牧場の宿舎に 住み込み、十日間連続 出勤して三日間の休暇 での交代制 飼料調達 濃厚飼料:乳業Aが指 定 粗 飼 料: 主 に 周 辺 農 村、近隣地域の農村地 帯から調達 濃厚飼料:乳業Aが指 定 粗飼料:主に東北部、 山東省等から調達 資料:現地での聞き取り調査より。 注:直営牧場Bは防疫のため、見学禁止となっている。

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ない。合作社Hは生乳生産以外に、乳業までの生 乳輸送も負担する。一方、乳業Pは合作社Hに対 して、再生産価格を保障すると約束している。し かし調査当時、乳業Pは合作社Hの生乳を実際の 再生産価格に近い価格で買取っているため、合作 社Hは殆ど利益が生じていない状況にある。 ⑵ 大規模生産者との取引─乳業Yおよび乳業 Mを事例に─ ① 生乳取引の実態 乳業Yと乳業Mは近年に四川省で加工拠点を設 立した全国規模を有する大手乳業である。 まず、乳業Yの契約取引についてみる。乳業Y と契約取引関係にある酪農家W10)は、表6のよ うに、2011年から酪農生産を展開し、現在では約 200頭の乳牛を飼養し、遠方農村地域から7〜8 人の余剰労働力を雇用している。酪農家Wの位置 する地域は大手乳業Yの集乳範囲に含まれ、周辺 の酪農家約100戸(内既存の酪農家は2割、乳業 Yの誘致により酪農を新規展開した農家は8割) とあわせて乳牛合作社を設立している。しかし、 この合作社は形式上の組織であり、乳業Yは規模 の比較的大きい酪農家と直接的契約取引を行って いるのが実態である。 図4は乳業Yと酪農家Wの取引関係を示してい る。酪農家Wは乳業Yと契約取引関係にある。1 年ごとに更新される契約においては、酪農家Wの 義務として乳業Yへの生乳全量販売が原則とされ ている。酪農家Wに対して、乳業Yは最低価格を 表5 グループNの系列乳業Pの契約生産者「合作 社H」の実態 概況 2009年に設立。農家103戸によって発足。約10戸が出資。 設立資金 約800万元(金融機関から融資を含む) 面積 約50畝(3.35ha) 牛舎数 2棟 インフラ面の整備 合作社 搾乳方式 12複列ヘリングボーンパーラー 飼養頭数(搾乳頭数) 約300頭(200頭) 1日当たり搾乳量 約3t 従業者数 約20人 従事時間 一日8時間(交代制) 飼料調達 濃厚飼料:グループNの系列飼料乳業製品粗飼料:米国の輸入ウマゴヤシ 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成  注:防疫のため、見学禁止となっている。 図3 合作社Hと乳業Pの取引関係 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成 表6 乳業Yと乳業Mの契約取引先酪農家Wと農牧 企業Xの実態 生産単位 酪農家W 農牧企業X 契約先乳業 (2008年四川省支社が設立)乳業Y (2009年四川省支社が設立)乳業M 設立時期 2011年 2011年 初期資金(万元) 200 1,800 インフラ面の建設 酪農家W自身 乳業M 搾乳器 複列ヘリングボーンパーラー(2人操作) 面積 約2.67ha 約15.33ha 従業者数 7~8人(住み込み勤務) 25人(住み込み勤務) 飼養頭数 200頭 500頭 1日当たり搾乳量 1t(19kg /頭) 4t(17kg /頭) 牛 舎( 間・ 棟 当 た り飼養頭数) 5棟(50~80頭) 2棟(250頭) 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成 図4 酪農家Wと乳業Yの取引関係 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成

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保証し、技術面および生産資材面について指導す ることを約束する。乳業Yは酪農家Wに長期駐在 する技術員を派遣し、生乳品質向上のための技術 指導のみならず、生乳生産全過程における監督も 義務付けられている。乳業Yが指定した生産資材 の購入、契約通りの生産、生産過程における衛 生・安全管理等が徹底しているか否かが派遣技術 員の主な監督内容である。また、派遣技術員は前 年度の状況によって来年度の生乳生産量を予測 し、乳業Yの生乳需要の年度計画にあてはめ、翌 年の契約書における酪農家Wの義務とされる最低 生産量の数値を決定するが、最低生産量に関する 監察が実質的に月またはシーズンごとに行われて いる。すなわち生産量が前年同月に比較して落ち た場合、すぐに派遣技術員による原因調査や改善 等が実施される。もちろん、酪農家Wの生乳生産 量が契約上の最低数値を超えた場合、超過分を他 社に販売する等自己処理が可能であるが、事実、 酪農家Wは調査時点で超過分があったとしても他 社に販売しがたいといっている。 続いて、乳業Mの契約取引についてみる。乳業 Mと契約取引関係にある農牧企業Xは、表6のよ うに、2011年に設立された約500頭の乳牛を保有 している企業11)である。図5に示すように、牧 場は乳業Mが出資して建設され、名目上は乳業M の自社牧場となっているが、企業Xが下請会社と して牧場を運営している。企業Xは乳業Mと牧場 の賃貸契約を結び、企業Xは最初の3年間に約70 万元の賃貸料を乳業Mに支払わなければならない が、4年目以降に継続的に牧場を運営する場合は 賃貸料が発生しない。ただし、牧場のインフラ施 設の管理が企業Xの義務とされている。生産面に おいて、両者は特約取引関係にある。乳業Mに対 して、企業Xは生乳の全量販売が義務とされ、最 低生産量の保証も約束させられている。企業Xに 対して、乳業Mは生乳最低価格の保証を約束する が、技術員による厳格な技術指導と監督も行われ ている。企業Xは牧場の運営にあたって、乳牛の 購入から生乳の物流までの全コストを負担し、全 過程が乳業Mの指導の下で実施される。 ② 大規模生産者の意向と契約取引の問題 聞き取り調査から、酪農家Wと農牧企業Xの意 向および契約取引の問題について明らかになっ た。酪農家Wは現段階では比較的収益性が良く、 乳業が生乳価格を大幅に低下させないかぎり、経 営規模をさらに拡大したいと考えている。一方、 農牧企業Xは今後の経営に対して危機感を感じ、 とりわけ飼料を中心とする生産資材の値上がりと 乳業側による生乳買取り価格の値下げを懸念して いる。ただし、乳業が指定した生産資材は高価な ものが多く、コストの負担が大きいことや資金不 足の問題は両者に共通し、乳業との契約の見直し が求められている。その他、農業産業化推進に関 する政府からの支援は乳業へだけでなく、契約生 産者への直接的支援も求められている。 Ⅴ 生乳調達における乳業と酪農生産者の 課題 以上の事例分析をふまえ、現行の生乳調達構造 における乳業と酪農生産者にとってのメリットと デメリットについて検討する。 乳業にとって、現段階における直営生産は原料 の品質向上および安全確保のために位置づけられ ており、最終的に製品戦略に反映される。しか し、直営農場の運営に莫大な資金が必要であり、 その再生産に投入できる十分な資本力を有してい なければ運営が困難となるため、現状では、直営 生産は乳業の主要原料調達ルートにはなっていな い。一方、乳業の原料調達において最も多くみら れるのは契約生産であるが、乳業や契約対象の違 図5 農牧企業Xと乳業Mの取引関係 資料:現地での聞き取り調査より筆者作成

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いによって評価も若干異なっている。まず、第1 に、乳業が自社農場を他の個人または組織に賃貸 し、原料の契約取引関係を結ぶケースにおいて は、農場の所有と経営は分離している。この場合 の乳業にとってのメリットは、直営生産に比べ原 料生産のコスト負担が軽減されることにある。ま た、名目上直営農場と同様に自社農場であるた め、製品戦略に役立つ可能性も考えられる。それ に対し、乳業は、農場経営者との情報の非対称性 等のリスクを負わなければならない。また、乳業 は農場の施設や機械設備の遊休を防ぐために、経 営者が破綻したとしても農場での原料生産を続け なければならない。その場合、乳業が農場に対す る赤字補填を課される。そして、第2に、合作社 との契約取引は、乳業にとって投入の低い形態で あるといえる。また、事例でみた合作社社員の大 半は合作社を結成する前にすでに当該乳業に生乳 を供給していたため、合作社を含む周辺の酪農地 帯は当該乳業の集乳圏として定着している。つま りこの乳業は、合作社の唯一の生乳販売先であ り、乳業にとって掌握し易いと考えられる。第3 に、大規模酪農家との契約取引は、乳業にとって も比較的投入の低い形態であるが、生産者に対す る掌握のハードルが上がっている。実際に、同じ 乳業の生乳調達ルートは1種類だけではなく、異 なる形態の調達ルートを複数有する場合が殆どで ある。これは、すべての調達先に投下した資本の 量および生産者から収奪した価値の量を合わせて みた場合、最少の資本投下で酪農生産者を最大限 度に掌握するためであると考えられる。 酪農生産側にとって、契約取引は、ある程度販 路が確保されているというメリットもあるが、共 通の問題点は主に、生産資材面および原料価格面 における自由度の低さと交渉力の弱さにある。そ れは乳業の誘致や支援によって成立した酪農生産 者(組織)において特に顕著である。ただし、事 例でみた大規模酪農家において、乳業による規制 が若干緩和されたのも事実である。このような大 規模酪農家は中国における酪農生産の新しい担い 手として今後増加するであろう。大規模酪農家の 多くはすでに施設面において充実しており、乳業 とも直接契約しているため、生産資材や施設の共 同利用、生乳の共同販売等の必要性が生じない が、合作社の結成という動きもみられた。この場 合の合作社は、大規模酪農家にとって、主に同業 者間の情報共有、乳業との交渉力向上等の役割が 期待されていると考える。他方、零細・小規模酪 農家が依然として多い中、乳牛の飼養・繁殖・疾 病予防等に関わる多大な経済的負担を抱え、経営 が困難なものも多いため、生産・販売活動の協同 を図る酪農家組織としての合作社の設立が特に重 要となってくる。ただしこの場合も、乳業資本に よる掌握が免れず、経営が大きく制約される可能 性が大きい。 Ⅵ おわりに 中国の酪農生産はとりわけ2000年以降に、量的 な変化と質的な変化が顕著にみられた。本研究は その質的な変化に注目し、中国の酪農生産者の変 貌および乳業資本の原料調達の実態を、生乳取引 の側面から明らかにした。現段階における中国の 酪農生産の発展は、乳業資本の主導によるもので あり、酪農生産側は依然として乳業の動向に強く 規定されているといえる。 今日、大手乳業は海外(ニュージーランド等) における原料生産基地や加工拠点の設置へ動き出 している12)。こうした中、中国国内の乳価下落な いし酪農生産の空洞化が懸念される。中国におけ る酪農の持続的発展のために、酪農経営の自立化 に向けて取り組んでいく必要があると考える。 [付記]この論文は、2013年度日本農業市場学会 研究助成を受けている。 注 1)農畜産業振興機構(2010)、pp.85〜86。 2)鐘(2013)、p.78。 3) 「養殖小区」における「養殖」という用語は中 国語で家畜飼養を意味する言葉として一般的 に使われ、主に畜産業における家畜の飼養と 繁殖を指すものである。本稿での「養殖小区」 は乳牛のみを対象にしている。具体的に戴・ 矢野(2012)、p.46を参照。 4)王(2000)、p.21。田中ら(1991)、p.321。 5)孔ら(2010)、pp.39〜40。

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6)資料同上。 7)孔ら(2010)、pp.41〜42。 8)集乳所の運営者はネスレ社から派遣された社 員ではなく、ネスレ社が集乳所の運営のため に新規採用した契約社員である。運営者は担 当集乳所の責任者でもある(張ら(2008)を 参照)。 9)本稿における農牧企業とは、畜産の生産を中 心事業として企業的経営を行う経済組織のこ とを指す。 10)酪農家Wは本来専業酪農家ではなかったが、 農業大学の畜産専攻を卒業して専業的酪農生 産を開始した(聞き取り調査より)。 11)企業Xは個人出資によって設立され、現在は 酪農生産の経験者x氏が運営している。 12)詳細は戴(2014a)を参照。 参考文献 [1] 厳善平「中国農村経済の変容過程に関する 研究」『桃山学院大学総合研究所紀要』第21巻 第2号、1995年、pp.9〜30 [2] 戴容秦思・矢野泉「中国昆明市における生 乳の市場構造に関する一考察」『農業市場研 究 』 第20巻 第 4 号( 通 巻80号 )、2012年、 pp.45〜52 [3] 戴容秦思「中国の巨大乳業における企業結 合プロセス」『流通』No.35、2014年a、pp.15 〜32 [4] 戴容秦思「中国における乳業資本の展開プ ロセスと現段階の企業行動」『農業研究』第27 号、2014年b、pp.443〜468 [5] 孔祥智・張利癢・鐘真・譚智心等『中国乳 業経済組織模式研究』中国農業科学技術出版 社、2010年 [6] 農畜産業振興機構編『中国の酪農と牛乳・ 乳 製 品 市 場 』 農 林 統 計 出 版 社、2010年、 pp.85〜86 [7] 王懐宝編『中国乳業50年』海洋出版社、 2000年 [8] 鐘真『生産組織方式、市場交易類型与生鮮 乳質量安全:“後三聚氢胺時代”中国乳業発 展模式審視』中国農業出版社、2013年 [9] 田中静一ほか編著『中国食物事典』柴田書 店、1991年 [10] 譚向勇・曹暕・周俊玲『中国乳業経済研究』 中国農業出版社、2007年、p.50 [11] 張永根・李勝利・曽凡玲「“雀巣模式”的典 型調査及啓示」『中国乳業』2008年第11期、 2008年、pp.22〜25 [12] 施良平「国営農場発展対策研究」、中国農業 科学院修士論文、2011年 [13] 李静萍「人民公社時期所有制的三次過渡」 『当代中国史研究』第19巻第4期、2012年、 pp.48〜55 [2014年12月25日受付、2015年8月27日受理]

参照

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