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北海道伊達鉱山周辺の河川水質に対する鉱山廃水の影響評価

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論 説 報 文 1.緒   言 わが国における金属鉱業の歴史は古く,江戸時代には 世界的な金属産出国であり,7,000 ほどの鉱山が鉱物資 源の採掘を行っていたといわれている120 世紀初頭か ら1960 年代にかけて,鉱山から流出する「坑廃水」と 総称される水に起因するカドミウム(Cd)やヒ素(As) による健康被害が全国各地で発生し,大きな社会問題と なった。その措置として国(現経済産業省)は,1973 年に「特定施設に係る鉱害防止事業の実施に関する基本 方針(第1 次)」を策定した。以降今日に至るまで 10 年 ごとに基本方針が更新され,鉱害を確実に防止するべく, 坑道閉塞や集積場の覆土・緑化工事による坑廃水の発生 量低減・水質改善が講じられ,対策後においても流出す る坑廃水については中和処理が行われてきた2,3。これら 適切な対応の結果,重篤な鉱害の発生が防止されている ことは,評価に値するものと考えられる。 2018 年度からはより積極的な取り組みとして,50 年 という長期的な視点で国内休廃止鉱山を元山の性状に戻 す「休廃止鉱山におけるグリーン・レメディエーション の調査研究事業」が経済産業省により開始された(以下, GR 事業という)。GR 事業は,現在坑廃水処理事業を実 施している79 鉱山を対象に処理水量や水質等の特性を 踏まえたリスク評価を行い,鉱山ごとのリスクレベルに 応じてより安全でコストの低い処理方法を選択すること を内容としている 4。事業目標は鉱害防止に関わる管理 負担の軽減や大幅なコスト削減の達成にあり,そのため のフレームワークとして,坑廃水の水質管理に関する弾 力的運用についても検討が進められている。弾力的運用 とは,坑廃水が河川に排出されているポイントにおいて リスク管理されている現状の運用方法を異なる視点で見 環境資源工学67 : 128–138 (2021)

北海道伊達鉱山周辺の河川水質に対する鉱山廃水の影響評価

富山 眞吾

1

*・萩野  翼

2,4

・五十嵐敏文

1

・迫田 昌敏

3

・正木 悠聖

3

Effects of Acid Mine Drainage from the Date Mine on Nearby Rivers

Shingo TOMIYAMA

1

*, Tsubasa HAGINO

2,4

, Toshifumi IGARASHI

1

, Masatoshi SAKODA

3

and Yusei MASAKI

3

1Faculty of Engineering, Hokkaido University, Kita 13, Nishi 8, Kita-ku, Sapporo 060-8628, Japan 2Graduate School of System Engineering, Hokkaido University, Kita 13, Nishi 8, Kita-ku, Sapporo 060-8628, Japan

3Japan Oil, Gas and Metals National Corporation, 10-1, Toranomon 2-chome, Minato-ku, Tokyo 105-0001, Japan 4Current affiliation: Idemitsu Kosan Co., Ltd., 1-1 Marunouchi 3-chome, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8321, Japan

Abstract

This paper describes the geochemistry of acid mine drainage (AMD) and river water around the Date Mine in southwest Hokkaido, Japan. The mine is located in a sulfide deposit that contains pyrite and generates AMD, which is currently being neutralized; however, the introduction of a passive treatment system (PTS) is being considered. In preparation for the introduction of the PTS, this study aims to evaluate the environmental impact of untreated AMD flowing into rivers. The flow rate of the river depends on precipitation, and the ratio of AMD to that of the river was in the range 0.0014–0.018. In mixing experiments of AMD and river water based on measured results, the formation of iron and copper precipitates with increasing pH was observed, which suggests the possibility of self-purification phe-nomena of heavy metals in the river. The calculated oxidation rate of Fe(II) increased with pH. The surface complexa-tion model in PHREEQC reproduced Cu concentracomplexa-tion decrease due to coprecipitacomplexa-tion with iron hydroxide. Assuming that untreated AMD is mixed with the river water, the Fe2+ concentration decreased from 0.19 mg L–1 to 0.003 mg L–1 in the river.

Key words: Closed and abandoned mine, Acid mine drainage (AMD), Self-purification, Heavy metals, Point-of-use

キーワード: 休廃止鉱山,坑廃水,自浄作用,重金属類, 利水点 1北海道大学大学院工学研究院環境循環システム部門 2北海道大学大学院工学院環境循環システム専攻 3独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 4現:出光興産株式会社 2020 年 11 月 25 日受理 *e-mail: tomiyama@mmc.co.jp

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129 Vol. 67, No. 3(2021) 直し,下流河川で何らかの水利用が行われている場合, 河川水を利用している地点を「利水点(point-of-use)」 と見做してそこを評価ポイントとし,人の健康リスクや 生態系への影響の観点からリスク管理を行うものであ る5 こういった利水点におけるリスク管理(利水点管理) を行う上で必要な検討事項として,通年の重金属類濃度 等の調査に加えて,現在実施されている坑廃水処理を別 の処理方法に替えた場合や災害時などの無処理の場合を 想定した重金属類濃度の予測評価が提唱されている 5 一方で,利水点を含む河川の水質は河川水および河川水 と混合する坑廃水やその処理水の重金属負荷量(濃度と 流量の積)のバランスに左右され,そのバランスは融雪 や降雨等によって変動し得る。さらには河川水の流下に 伴う重金属類の沈澱や坑廃水等の鉱業活動由来の負荷以 外に存在する自然由来負荷の寄与など,さまざまな要因 が複合的に影響した結果が河川水中の重金属類濃度値と して測定される 6–11。リスク評価では,これら諸要因を 把握し考慮した上で利水点における水質を評価すること が重要である。 著者らは上記課題に着目し,国内複数の休廃止鉱山を 対象に河川水質データの蓄積や定量モデルの構築に取り 組んでいる。研究のフレームワークは水質形成に係わる 概念検討と地球化学モデルによる水質の再現であり,両 者を統合し利水点の水質予測モデルを構築することを目 標としている。本論文では,現在坑廃水の中和処理を行っ ている北海道伊達鉱山を対象に,坑廃水が何らかの理由 で処理されずにそのまま放流され,それが河川水と混合 した場合を想定し,河川水質に与える影響の予測評価を 行った。伊達鉱山は,鉱山保安法に基づく鉱害防止を義 務付けられた鉱業権者が存在しない廃止鉱山であり,坑 廃水処理に関する法的な義務はないが,周辺環境の保全 を目的として北海道が国(経済産業省)から補助金の交 付を受け,坑廃水の中和処理を実施している。本鉱山で はかつて人工湿地による水処理の適用可能性に関する研 究が行われており,pH 調整の必要性などの課題を伴う ものの,総合的な観点からみて適用性ありと評価されて いる 12。そこで筆者らは,今後人工湿地を導入する際に 必要となる利水点評価に関連する研究の一環として,水 質汚濁防止法に定められる排水基準値を参考に,坑廃水 が同基準値を超過している溶解性鉄(S–Fe)と銅(Cu) に着目した河川の調査と予測評価を行い,利水点管理へ の適用性と課題について整理した。 2.研究対象地の概要と調査・試験方法 2.1 研究対象地の概要 研究対象地域である伊達鉱山は,北海道西南部の内浦 湾に流れ込む気門別川の最上流域の河口より約10 km の 地点に位置する廃止鉱山である(Fig. 1)。近隣の地質は 新第三紀の火山岩類からなり,その周囲には第四紀の火 山岩類および火砕流堆積物が分布する。鉱床は1887 年 に発見されたとされており,1940 年の通洞坑開削から 1974 年に鉱業権が放棄され閉山するまでの間に金(Au) 372 kg のほか銅精鉱 98 t,沈澱銅 326 t が採掘・採取さ れた。鉱床タイプは新第三系国縫層の火山岩類中に胚胎 する黒鉱型鉱床であり,最大で50 × 35 m 規模の 3 鉱体 から構成され,一部に鉱脈を伴う 13,14。鉱石鉱物として 黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱のほか希産鉱物であるテルル金 鉱が産出することが知られている 15。操業時代,坑道内 からS–Fe や Cu などの重金属類を含む酸性の坑水が流 出し,鉱業権者により中和処理が行われた。廃止鉱山と なった後は,地元自治体の北海道が坑口閉塞等の鉱害防 止工事を実施するとともに,工事後になお坑口跡や近傍 の河川河床周辺から湧出する坑廃水や湧水を集水し,中 和処理を行っている。 2.2 坑廃水の湧出状況調査 前述のように伊達鉱山では坑口跡や河川河床から湧出 する坑廃水を集水・処理しており(以下,元山地区とい う),2018 年 8 月 8 日にこれらの状況と水質の調査を行っ た。現地では踏査により地質や鉱化変質,湧出の状況を 確認し,湧水が認められた箇所では採水の上,ただちに 水温,pH,電気伝導率(EC),酸化還元電位(ORP)を 測定し,事前に酸洗浄したのち試料水で共洗いした 250 mL ポリエチレン容器 2 本に移し,分析室へ持ち帰っ た。2 本の容器中 1 本には Merck Millipore 社製の 0.45 μm メンブレンフィルターを用いて濾過した試料を採水し, 残り1 本には未濾過試料をそれぞれ採水した。なお,濾 過試料に対しては実験室に持ち帰った後に硝酸を加え た。pH,EC,ORP はそれぞれ東亜ディーケーケー社製 のHM-30P,CM-31P,RM-30P を用いて測定した。 2.3 河川水および処理原水の流量・水質モニタリング 鉱山下流河川である気門別川および処理原水の流量お よび水質の季節的な変動を把握するために,流量および 水質のモニタリングを行った。河川の測定箇所は坑廃水 処理施設の処理水放流口から500 m 下流地点 M1 とさら に下流に下った東関内橋M2,関内橋 M3 および利水点 M4 の計 4 地点である。M1 から M3 までの区間に支流 は合流せず,M3 と M4 間では 2 つの支流が合流する (Fig. 2)。M1 から M4 までの距離は約 8 km である。利 水点M4 では河川水が分取され,伊達市内の田畑 22 ha

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の灌漑に利用されている。これら河川水に加えて坑廃水 処理施設内,処理プラント手前の導水配管排出口箇所に て処理原水(Collected AMDs)の流量測定・採水を行った。 河川の流量測定方法は流速断面積法を適用した。用いた 流 速 計 は, 可 搬 式 電 磁 流 速 計(ALEC 電 子,model ACM-3D)であり,水深および流速測線間隔は水面幅の 10% 程度とした。河川 4 地点中,最大水深が 50 cm 程 度であったため,水面から6 割水深の 1 点で測定を行っ た。モニタリングは2018 年および 2019 年の 2 ヵ年にわ たり行い,実施回数は2018 年 8 月 9 日,9 月 26 日,10 月4 日,11 月 6 日,11 月 29 日,12 月 11 日,2019 年 5 月9 日,6 月 12 日,7 月 4 日,8 月 6 日,9 月 5 日,10 月3 日および 11 月 5 日の計 13 回である。処理原水につ いては容器法を適用し,2019 年の河川水測定と同時期 に流量測定と採水を行った。 上記地点でのモニタリングに加えて,元山地区から M1 地点間の河川水質を確認するため,2019 年 5 月 10 日に採水を行った。採水箇所はR1 ~ R7 の計 7 地点で ある(Fig. 2)。 2.4 室内分析 水試料の室内分析項目と方法は以下のとおりである。 重炭酸イオン(HCO3–)は未濾過試料から50 mL を分取 し,0.02 規定の硫酸で pH 4.8 になるまで試料を滴定す ることでアルカリ度を測定し,得られたアルカリ度を用 Fig. 1 Geological map showing the location of the Date mine area; the inset shows the mine’s location in Japan. Contour

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131 Vol. 67, No. 3(2021) いてHCO3–濃度を算出した。主要陽イオンであるナト リウムイオン(Na+),カリウムイオン(K+),カルシウ ムイオン(Ca2+),マグネシウムイオン(Mg2+)および ケイ素(Si)は濾過試料を対象に誘導結合プラズマ発光 分光分析装置(ICP-AES)の標準法によって定量分析を 行った。使用した装置は,島津製作所製のICPE-9000 で ある。主要陰イオンである塩化物イオン(Cl–),硫酸イ オン(SO42–)は未濾過試料を対象に分析前に濾過を行い, イオンクロマトグラフ法により測定した。使用した装置 は,サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の INTEGRION RIFC である。重金属類である S–Fe,Cu, Zn,アルミニウム(Al)は濾過試料に対して,誘導結 合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)の標準法によっ て定量分析を行った。ICP-AES を用いた重金属類の分析 にあたっては検量線法を用いて,繰り返し測定のばらつ き幅が濃度値の1% を超えた 0.01 mg L–1を定量下限値 として扱った。 2.5 坑廃水と河川水の室内混合試験 坑廃水が何らかの理由で処理されずにそのまま放流さ れた場合を想定し,下流河川の水質に与え得る影響を評 価することを目的として,ビーカースケールによる混合 試験を実施した。2018 年 9 月および 11 月に予備試験を 行い,2019 年 11 月に本試験をそれぞれ実施した。混合 の対象は処理原水と河川水とし,河川水は予備試験では 利水点M4 の河川水,また本試験では処理水を放流して いない時間帯に採水した気門別川上流M1 地点の河川水 を用いた。採水後から試験開始までの間に処理原水中に 含まれる溶存鉄が大気中酸素に起因して酸化反応する影 響を極力防ぐため,坑廃水処理施設の事務所棟を試験場 所として,敷地内で処理原水を採水後直ちに混合試験を 開始した。混合の具体的方法として,河川水試料1 L に 対して処理原水を一定量加え,マグネチックスターラー で撹拌しながら一定時間経過後の水温,pH,ORP およ びEC を測定しながら混合水を採取した。その際 0.45 μm マイレックスフィルターで濾過し,濾液を実験室に持ち 帰り分析した。ただし鉄(II)(Fe2+)については,混合 試験を行った事務所棟に運搬・設置した吸光光度計(日 立UV-1900)を用いて,1,10–フェナントロリン吸光光 度法により濾液を分取し,都度分析した。処理原水を河 川水に混合する際の量比は,後述するモニタリング結果 を踏まえて1:0.01,1:0.02 および 1:0.05 の 3 通りを設定 した。 2.6 Fe 酸化速度の評価 室内混合試験におけるS–Fe 濃度の低下傾向から,以 下の一次反応式でFe の酸化が生じると仮定した。 dC kC dt = − (1)

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ここでC は濃度,t は時間(hr),k は酸化速度定数(hr–1 である。これを積分すると次式となる。 0 kt C e C − = (2) ここでC0は初期濃度である。 上記(2)式により,室内混合試験により得られた初 期濃度と時間経過に伴う濃度低下をC/C0として求め, 異なる混合比条件下でのk を評価し,鉄濃度変化予測の 適用性を検討した。 2.7 表面錯体モデルによる銅濃度低下に関する評価 Cu に関しては混合水の pH が水酸化 Cu の沈澱が生じ ない領域であるため,水酸化鉄との共沈を想定し地球化 学解析ソフトPHREEQC 16,17を用いた地球化学計算を 行った。ここで考慮した反応は沈澱およびFe 水酸化物 に対する表面錯体形成であり,データベースMinteq. v4.dat 18を参考にそれぞれの平衡定数を設定した(Table 1)。 3.結果および考察 3.1 坑廃水の湧出状況および水質 2018 年 8 月 8 日に現地で測定した水質および水試料 の分析結果をTable 2 に,また水試料のシュティフダイ アグラムをFig. 2 にそれぞれ示す。元山地区では閉塞済 みの坑口跡付近3 箇所から坑廃水が湧出する状況が確認 でき,その量はそれぞれ目視で数L min–1程度であった (AMD1 ~ 3)。また,気門別川の河床および河岸部露頭 において硫化鉱物を伴う変質帯の分布および河床からの 湧水(AMD4,Fig. 2 写真)が確認された。これらの坑 廃水や湧水はpH 3 前後の酸性を示し,かつ最大濃度で 734 mg L–1の 硫 酸 イ オ ン(SO 42–),255 mg L–1のS–Fe, 11.6 mg L–1Cu を含有した。各坑廃水および湧水は現 地に設置された集合桝に集水され(Collected AMDs), 敷設された配管内を自然流下で坑廃水処理施設まで導水 されている。元山地区の集合桝から採水した処理原水の pH は 3.16,S–Fe 濃度は 179 mg L–1Cu 濃度は 6.3 mg L–1 流量は50 L min–1であった。これらの坑廃水が酸性であ りSO42–濃度が高い要因として,式(3)に示すような 黄鉄鉱の酸化によって説明することができる。

2FeS2 + 7O2 + 2H2O = 2Fe2+ + 4SO42– + 4H+ (3)

黄鉄鉱の酸化により生成したFe2+は式(4)により酸 化され,Fe3+が形成される。形成されたFe3+は式(5) により黄鉄鉱の酸化を促進し,加えて微生物作用によ る間接的な作用によっても黄鉄鉱の酸化が促進され る19,20 4Fe2+ + O 2 + 4H+ = 4Fe3+ + 2H2O (4) FeS2 + 14Fe3+ + 8H2O = 15Fe2+ + 2SO42– + 16H+ (5)

坑廃水が酸性であることとSO42–およびS–Fe が含ま れることは,式(3)の反応を示唆している。また,河 床は坑廃水中の溶存鉄の酸化沈澱とみられる鉄酸化物が 付着しており,これは式(4)の反応が考えられる。 3.2 河川水および処理原水の流量・水質 モニタリング地点M1~M4の河川流量と処理原水の流 量推移をFig. 3 に示す。M1,M2 および M3 は途中区間 で支流河川が合流しないことから概ね類似した流量値を 示し,平均値はM1 が 14.7 m3 min–1M2 が 14.5 m3 min–1 およびM3 が 13.2 m3 min–1である。下流ほど平均の流量 値が漸減する傾向があり,河床堆積物中への伏流による Table 1 Values of constants used for calculations

Ferrihydrite Gypsum Brucite Cu(OH)2 Zn(OH)2 Al(OH)3 Calcite log K 3.191 –4.61 16.844 8.674 11.534 10.8 –8.48

ΔH (k cal) –73.374 1 –113.996 –56.42 –81.8 –111 –8

Table 2 Physicochemical properties of AMD samples (8 August, 2018)

Sample No. Flow rate pH EC Eh Temp Na + K+ Ca2+ Mg2+ ClHCO 3– SO42– S–Fe Si Cu Zn Al m3 min–1 mS m–1 mV °C mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1meq L–1mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1 AMD1 — 3.46 68.9 743.9 13.2 8.7 0.85 64.1 8.5 8.0 <0.01 222 1.5 15.3 1.5 0.20 7.8 AMD2 — 5.11 13.9 429.6 10.1 3.7 0.68 9.5 3.7 7.5 0.04 28.9 0.72 7.1 0.03 <0.01 0.21 AMD3 — 2.91 121.2 620.4 12.5 6.4 0.95 10.0 6.4 7.6 <0.01 383 117 26.7 1.6 0.61 33.0 AMD4 — 2.89 159.6 636.4 12.6 7.0 1.1 10.4 7.0 7.0 <0.01 737 255 29.9 11.6 0.91 63.4 Collected AMDs 0.050 3.16 137.3 666.2 15.1 5.9 0.96 10.3 5.9 8.0 <0.01 543 179 28.0 6.3 0.74 42.7

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133 Vol. 67, No. 3(2021) 失水が生じている可能性が考えられる。全期間を通じた 3 地点の最小値は 4.9 m3 min–1,最大値は25.1 m3 min–1 あり,融雪期(2019 年 5 月)に最大値を示す。各地点 の最大・最小の変動幅は3 ~ 4 倍程度である。これら地 点の下流に位置するM4 の流量は,変動幅が 16.7 から 53.9 m3 min–1,平均値は33.0 m3 min–1であり,M1 ~ M3 と同様,融雪期に最大値を示す。Fig. 3 には,気象庁の AMeDAS 伊達観測点で得られた日降水量を併せて示す。 日降水量と流量との間に関係性は見いだせない。そこで, 5 通りの累積降水量と 4 地点それぞれの河川流量の相関 (R2値)を算出した。その結果はTable 3 に示すとおり,2 ヶ 年を通して30 日間累積降水量の R2値が最も高く(0.39 ~0.87),気門別川流域の降雨浸透・流出が 30 日間程度 のサイクルである可能性を示している。観測年による差 異として,2018 年は河川流量と 35 ~ 40 日間累積降水 量との相関は認められないが,2019 年は最大 0.87 の R2 値を示し25 日以上の累積期間全般で高い相関性があっ た。この点については年間降水量が2018 年 873 mm, 2019 年 500 mm であり,過去 30 年間で最も降水量が少 なく(30 年間平均値は 881 mm),降水量によって河川 への到達時間に差異が生じている可能性が考えられ る 21。 処 理 原 水 の 流 量 に つ い て み る と0.046 ~ 0.088 m3 min–1(平均値0.060 m3 min–1)の範囲にあり,河川と 比較して変動の幅は小さかった。20 日間累積降水量と 一定の相関性を示すが,相関の程度は決定係数R20.45 であり,河川流量ほど累積降水量との相関性は高くな かった(Table 3)。 処理原水の河川に対する流量比をFig. 4 に示す。前述 した処理原水よりも河川流量の変動幅が大きいことを反 映し,流量比は河川流量の増減に依存する傾向がある。 M1 ~ M4 の流量比は最大で 0.018(M3),最小で 0.0014 (M4)であり,この結果をもとに混合試験における量比 を設定した。 次に水質について述べる。2019 年 5 月 9・10 日に現 地で測定した水質および水試料の分析結果をTable 4 に, シュティフダイアグラムをFig. 2 にそれぞれ示す。表中 で酸化還元電位は,ORP 値を標準水素電極の電位をゼロ としたときの値(Eh)に換算して示している。河川水全 体の概要として,最上流のR1 は Ca–HCO3型を示す一方, R2 から M3 までの下流河川は Ca–SO4型であり,明瞭に 水質が異なる。元山地区に着目するとR1 は pH 8.0 の中 性で,Cu を 0.02 mg L–1含有するほかは重金属類に乏し いのに対し,河床からの湧水AMD4 を挟んで下流に位 置するR2 および R3 では pH が 5.2 程度と低く,S–Fe, Cu,および Al を含む。さらに下流の R4 ~ R7 では pH が徐々に高くなるとともに,重金属類の濃度が低下する。 より下流に位置するモニタリング地点M1 ~ M4 におい ても河川流下に伴いpH が上昇し重金属類濃度が低下す る傾向が認められる。こういった変化はSO42–濃度や EC にも表れており,前者は R1 が 17.0 mg L–1であるの に対し,R2 および R3 が 47 ~ 49 mg L–13 倍程度の 濃度値を示し,下流のR4 ~ R6 では 27 ~ 30 mg L–1 低下する。後者についてはR1 の値 12.4 mS m–1に対し R2 および R3 では 16.0 ~ 20.1 mS m–1と一旦上昇した後, Fig. 4 Relationship between flow rate of river and mixing

ratio of AMD to river water.

Table 3 Coeffcients of determination coefficients, indicating correlation between flow rate of river and cumula-tive precipitation. “—” indicates negacumula-tive correla-tion

Monitoring site Year

Cumulative periods (days) 15 20 25 30 40 45 M1 2018 0.28 0.11 0.63 0.64 0.00 — 2019 0.09 0.13 0.73 0.71 0.77 0.68 M2 2018 0.31 0.13 0.54 0.65 0.012019 0.10 0.04 0.80 0.87 0.65 0.78— M3 2018 0.26 0.14 0.42 0.62 0.012019 0.15 0.02 0.58 0.73 0.74 0.87— M4 2018 0.05 0.01 0.20 0.39 0.002019 0.22 0.22 0.85 0.86 0.75 0.76— AMD 2019 0.05 0.45 0.01 0.01 0.03 0.10 Fig. 3 Seasonal variation of flow rate of river and AMD.

(7)

R4 ~ R6 では 11 ~ 12 mS m–1程度に低下する(Table 4)。 陽イオン・陰イオンのバランスを表示するパイパーダイ アグラムでは,河川水R1 と処理原水を両端としてそれ らを結ぶ線上にそのほか河川水がプロットされ,両者を 端成分とする混合の可能性を示唆している(Fig. 5)。上 記水質の特徴を形成する要因として,R1 と R2 ~ 3 間 の差異については,酸性度やSO42–濃度といった坑廃水 に特有の水質に顕著であり,AMD4 に集水しきれない 湧水が存在し,河川水へのその混入が要因として想定さ れる。R4 より下流域で水質が徐々に変化する要因とし てはR5 と R6 間および M3 と M4 間における支流の合 流のほか,支流が合流しない区間では,S–Fe について は河川水中の溶存酸素や湧水が河川水と混合にすること によるpH の上昇に伴う第一鉄イオン(Fe2+)の酸化・ 沈澱作用 22,またCu,Al については鉄沈澱物への表面 錯体形成に伴う吸着6–8の可能性が考えられる。 河川流量と水質との関係では,モニタリング地点M1 ~M4 のそれぞれにおいて流量の増加とともに pH が上 昇し,EC,Ca および SO42–濃度が低下する傾向が認め られる(Fig. 6)。重金属類(S–Fe および Cu)については, Table 4 Physicochemical properties of river water and AMD samples (9 and 10 May, 2019)

Sample No. Flow rate pH EC Eh Temp Na + K+ Ca2+ Mg2+ ClHCO 3– SO42– S–Fe Si Cu Zn Al m3 min–1 mS m–1 mV °C mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1 mg L–1meq L–1mg L–1 mg L–1mg L–1mg L–1mg L–1 mg L–1 R1 — 8.02 12.4 381.3 8.2 3.8 0.73 8.8 1.4 6.2 0.45 17.0 <0.01 9.9 0.02 <0.01 <0.01 R2 — 5.24 16.0 464.0 9.2 4.0 0.74 9.1 1.6 6.4 0.01 47.4 6.6 10.7 0.32 <0.01 0.52 R3 — 5.23 20.1 465.1 9.4 4.0 0.74 9.4 1.7 6.4 0.01 48.7 5.8 10.9 0.34 <0.01 0.72 R4 — 5.67 11.7 430.1 9.4 3.5 0.73 6.7 1.7 5.9 0.02 29.3 1.1 9.8 0.09 <0.01 <0.01 R5 — 5.95 11.1 422.8 8.9 3.4 0.73 6.3 1.7 5.9 0.02 27.4 0.63 9.7 0.06 <0.01 <0.01 R6 — 6.16 11.3 410.8 10.4 3.4 0.72 7.5 1.9 6.0 0.03 29.7 0.21 9.6 0.03 <0.01 <0.01 R7 — 6.23 12.9 421.1 10.7 3.5 0.73 8.8 1.9 6.1 0.05 33.5 0.18 9.4 0.03 <0.01 <0.01 M1 25.1 6.93 12.7 367.7 11.6 3.3 0.72 7.7 1.7 6.2 0.12 32.9 0.053 10.3 0.03 <0.01 <0.01 M2 24.0 7.21 14.3 390.6 12.9 3.7 0.91 7.7 2.1 7.1 0.23 29.1 <0.01 11.5 0.02 <0.01 <0.01 M3 23.0 7.57 14.0 404.3 12.4 4.3 1.0 8.8 2.4 7.2 0.24 27.1 <0.01 11.5 0.02 <0.01 <0.01 M4 53.9 7.57 14.9 335.7 11.6 5.1 1.1 10.2 2.8 8.2 0.48 20.4 <0.01 12.4 0.02 <0.01 <0.01 AMD 0.075 2.99 117 449.0 11.3 5.6 0.96 12.4 3.2 7.9 <0.01 566 132 30.1 4.1 0.40 39.0

Fig. 5 Piper diagrams indicating hydrochemical characteris-tics of river water and AMD samples collected from the study area.

Fig. 6 Relationships between flow rate of river and chemical properties at monitoring sites. (a) pH; (b) EC; (c) Ca2+; (d) SO

(8)

135 Vol. 67, No. 3(2021) 分析した水試料の多くが定量下限値(0.01 mg L–1)未満 であり,検出された濃度についても流量との間に相関は 認められない。処理原水は各成分が概ね一定しており, 加えて流量の変動幅が河川よりも小さいことにより相関 性が認められない。 3.3 室内混合試験および地球化学計算による水質の 再現結果 混合試験の結果のうち,本試験によるpH,EC,Ca2+ 濃度,SO42–濃度,重金属類濃度(S–Fe および Cu)の変 化をFig. 7 に示す。pH については処理原水と河川水の 混合比によって決定され,混合比が大きいほどpH 値が 低い。1:0.01,1:0.02,および 1:0.05 いずれの混合比に おいても時間経過に伴う顕著なpH の変化は認められず, ほぼ一定している。EC,Ca2+濃度,SO 42–濃度も同様の 傾向があり,処理原水と河川水の値が異なるEC および SO42–濃度は混合直後の初期値が混合比に依存し差異が あるが,Ca2+濃度は処理原水と河川水に差異がないため, 混合比の違いにかかわらず同程度の値を示す。一方で重 金属類のS–Fe は,初期濃度が混合比に依存するととも に時間経過に従い濃度が低下し,混合比が小さいほど濃 度低下の程度が大きい傾向が認められる。ここで本試験 において実施したS–Fe 濃度と鉄(II)(Fe2+)濃度の測定 結果を比較すると,S–Fe 濃度が 0.01 ~ 1.0 mg L–1の範 囲内で相関性はR2 = 0.995(n = 6)と極めて高く,S–Fe 濃度とFe2+濃度が概ね一致する結果となった。このこ とから,混合試験では時間経過とともにFe2+Fe3+ 酸化し,自身の水酸化物を生成することでS–Fe 濃度の 低下をもたらしていることが推定される。さらにCu は S–Fe の濃度低下傾向と類似することから,共沈の可能 性が示唆される。 上記S–Fe の濃度低下を一次反応式(2)で近似した 結果をFig. 8 に示す。この図から 3 通りのいずれの混合 比においても混合から1 ~ 2 時間経過後までに S–Fe の 濃度低下が一次反応式で近似されることがわかる。その 際の酸化速度定数k は 0.20 ~ 1.80(hr–1)であり,混合 比の増加に伴って低下する。 Fe2+の酸化速度は溶液の条件によって異なることが知 られており 23,酸化速度に影響を与える因子としてFe2+ 濃度,溶存酸素濃度,溶液pH,水温等が挙げられ,こ れらの酸化速度や速度に影響を及ぼす共存物等に関する 多く研究がなされている24–31。本研究ではS–Fe 濃度と Fe2+濃度が一致する結果が得られたことから,S–Fe 濃 度をFe2+濃度とみなして以下の酸化速度式(6) 32を用 いて評価を行った。 2 2 1 2 O 2 (Fe ) ( (OH ) )(Fe ) a d k k P dt + − + = − + (6) こ こ でk1k2a は定数で,それぞれ 2.91 × 10–9 hr–1 1.33 × 1012 atm–1 mol–2 hr–12,また P O2は酸素分圧である。 2 回の予備試験を含む混合試験結果から得られた k 値 とpH との関係を Fig. 9 に示す。(2)式による反応速度 Fig. 8 Changes in S–Fe concentration in mixing experi-ments. C/C0 is the ratio of concentration (C) after

elapsed time (h) to the concentation at the start of mixing (C0). Lines indicates the calculated results of

eq. (2) by the least-square method.

Fig. 7 Changes in chemical properties in both mixing exper-iments. (a) pH; (b) EC; (c) Ca2+; (d) SO

42–; (e) S–Fe, and (f) Cu.

(9)

定数k は pH に依存し,pH 値が高いほど k 値も高い傾 向を示す。同図には酸化速度式(6)による計算値を併 せて示した。混合試験によるk 値は計算値と概ね整合し, この結果から,坑廃水と河川水の混合に伴うS–Fe 濃度 の予測に対して酸化速度式を適用できる可能性が明らか になった。 一方で,混合試験のうち本試験によるS–Fe 濃度の推 移 を み る と, 開 始 か ら1 時間後の濃度低下は 0.7 ~ 1.0 mg L–1と混合比の違いによらず一定であることに着 目できる(Table 5)。Fe2+の酸化速度とpH および溶存 酸素(DO)濃度の関係に関する研究事例では,Fe2+ 酸 化 速 度 はDO 濃 度 が 高 い ほ ど 早 い が,DO 濃 度 が 1 mg L–1以上の場合はDO 濃度に関係なく一定であるこ とが報告されている33。この事例を参考にすると,本研 究における試験開始から1 時間後までの S–Fe 濃度の低 下幅が同程度であるのは,溶液への酸素の溶解速度が一 定していることの反映である可能性も想定される。 次にPHREEQC を用いた Cu 濃度の計算値と実測値と の比較をFig. 10 に示す。図中の破線は鉄水酸化物であ るFerrihydrite への表面錯体を考慮しないケースの計算 値,また実線は表面錯体を考慮したケースの計算値であ る。計算上,表面錯体形成を考慮しない場合にはCu 濃 度は変化しないが,表面錯体を考慮した場合はCu 濃度 の低下が予測された。混合試験ではいずれの混合比にお いてもCu 濃度の低下が確認され,特に混合比 1:0.02 の 実測値は表面錯体を考慮した計算値と一致した。以上の 結果より混合試験においてFe2+Fe3+に酸化されると 直ちに自身の水酸化物を生成することで濃度が低下し, Cu は鉄水酸化物に対して表面錯体を形成することで濃 度が低下すると考えられ,重金属によって濃度低下のメ カニズムが異なることが示唆された。 3.4 未処理水の混合を想定した下流河川の水質予測 前項までの結果を踏まえ,坑廃水が何らかの理由で処 理されずにそのまま放流され,それが河川水と混合した 場合のFe2+濃度を予測した。条件として,モニタリン グにより得られた気門別川上流地点M1 の河川流量の最 大値と最小値を用いて,混合比が最小時と最大時を想定 した。経過時間は実測の流速値とM1 を起点とした下流 利水点M4 までの距離から算出した。その結果,河川流

Table 5 Changes in pH and heavy metals (S–Fe, Cu) concentration in mixing experiments. Elapsed

time

1:0.01 1:0.02 1:0.05

pH S–Fe Cu pH S–Fe Cu pH S–Fe Cu

mg L–1 mg L–1 mg L–1 mg L–1 mg L–1 mg L–1 0 min — 0.91 0.026 — 1.9 0.042 — 4.8 0.14 10 min 7.12 0.66 0.020 6.83 1.7 0.037 6.19 4.7 0.13 20 min 7.10 0.45 0.018 6.82 1.5 0.033 6.15 4.5 0.12 1 hr 7.09 0.15 0.016 6.79 0.89 0.022 6.26 4.1 0.10 2 hr 6.99 0.05 0.015 6.79 0.28 0.016 6.37 3.2 0.080 3 hr 7.21 0.01 0.015 7.01 0.017 0.014 6.33 2.4 0.062 Fig. 9 Relationship between pH and k in mixing

experi-ments.

Fig. 10 Changes in Cu concentration in mixing experiments.

C/C0 is the ratio of the concentration (C) after

elapsed time (h) to the concentration at the start of mixing (C0). Lines indicates rate of reaction

(10)

137 Vol. 67, No. 3(2021) 量の最大時は合流時点でのM1 における Fe2+濃度0.07 に対し利水点M4 では 0.001 mg L–1未満まで低下し,最 小流量時はそれぞれ0.19 mg L–1および0.003 mg L–1と予 測された。現実にはM3 から M4 へ至る間で支流が合流 することによる希釈効果が働き,より濃度が低下すると 考えられる。 以上により,混合試験と地球化学計算の傾向が整合し, これら手法を用いて下流河川の水質予測が可能であるこ とが明らかになった。一方で混合試験におけるCu 濃度 低下の程度は実測値と計算値で必ずしも一致せず,考慮 すべき共存種の検討など課題が残されている。さらには, 坑廃水と河川水の混合比やそれに起因するpH および重 金属類の濃度など本研究とは異なる条件下での適用性の 検討や,実際の河川中での挙動との比較検証なども必要 である。今後は,排水基準は満たされているものの未処 理の坑廃水が放流されている廃止鉱山等を対象とし,実 際の河川水質の再現などを行う必要がある。 4.ま と め 本研究では,北海道伊達鉱山を対象に,坑廃水が何ら かの理由で処理されずにそのまま放流され,それが河川 水と混合した場合を想定し,河川水質に与える影響の予 測評価を行った。水量と水質のモニタリングでは,河川 および坑廃水それぞれの変動傾向が明らかになるととも に,坑廃水と河川水の流量比を把握することができた。 その結果を参考に混合比を設定した坑廃水原水と河川水 との混合試験では,pH の上昇に伴う鉄および銅の沈澱 生成が確認され,河川水の重金属類の自浄作用の可能性 が示された。酸化速度式による計算では混合比に応じた S–Fe 濃度の低下が再現され,さらに地球化学解析コー ドPHREEQC を用いた水質予測では,水酸化鉄への表 面錯体反応によるCu の濃度低下傾向が再現された。最 上流のモニタリング地点を起点として未処理の坑廃水が 河川に混入した場合を想定した予測では,ビーカース ケールの混合試験の結果を河川の流下に対しても適用で きると仮定すると,混合比が最大の場合,起点でのFe2+ 濃度0.19 mg L–1に対し,利水点では0.003 mg L–1まで低 下する予測結果が得られた。 今後は,排水基準は満たされているものの未処理の坑 廃水が河川に流入している廃止鉱山などを対象に,実際 の河川濃度の再現を試みるとともに,混合比,pH,重 金属類濃度等の条件を幅広く設定することで,予測手法 の適用性を検討する必要がある。 謝   辞 本研究は,独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源 機構(JOGMEC)による「鉱害防止技術に係る先導的調 査研究事業」の一環で実施した。また,本論文の公表に は一般財団法人日本鉱業振興会の試験研究助成を受けま した。北海道経済部,経済産業省北海道産業保安監督部, 北海道立総合研究機構並びに北紘建設株式会社の関係各 位には,現地調査に際して多大な便宜を頂きました。こ こに記して感謝の意を表します。 References 1. 所 千晴:環境資源工学,66, 2, pp. 57–61 (2019) 2. 永井裕司:資源・素材講演集(春・本郷),5, 1, 1301-07-01 (2018) 3. 川邊規史:資源・素材講演集(秋・札幌),4, 2, 1201-08-08 (2017) 4. 保高徹生,岩崎雄一:環境資源工学,66, 2, pp. 62– 65 (2019) 5. 松田裕之,岩崎雄一:環境資源工学,66, 2, pp. 66– 69 (2019)

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Fig. 2  Sampling locations (numbered) and distribution of water quality represented by Stiff diagrams.
Table 2  Physicochemical properties of AMD samples (8 August, 2018) Sample
Fig. 4   Relationship  between  flow  rate  of  river  and  mixing  ratio of AMD to river water.
Table 4  Physicochemical properties of river water and AMD samples (9 and 10 May, 2019) Sample
+3

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