博 士 ( 水 産 科 学 ) 西 森 靖
学 位 論 文 題 名
マルチビームエコー積分法を用いた
計量スキャニングソナーの開発と魚量計測手法に関する研究 学 位論文内容の要旨
音 響を用いた水産資源調査においては、下向きの魚群探知機に定量化機能を持たせた計 量魚群探知機が1980年代より普及し始め、国内ではスケソウダラなどの中層性魚種の水産 資源調査に活用されてきた。しかし計量魚群探知機は下向きの鋭いピームを使用するため、
表層魚群や遊泳速度の速い魚に対しての計測が難しい。また、表層魚群の中には調査船の 航走 雑音に対し、逃避行動を示すものが多いため、資源量計測の信頼性が低下するという 課題があった。我が国の重要な水産資源である、イワシ、サパ、アジ、マグロ、カツオ、
サン マ、等は、何れも表層性魚種であり、計量魚群探知機を用いた音響資源調査では常に 魚群の逃避行動の影響が議論されてきた。これに対し、近年発達の著しいスキャニングソ ナーは、音響ピーム を水面下の全範囲に走査するため、探査範囲が飛躍的に拡大し、魚群 の逃避行動の影響を受けない、魚群の探査が可能である。
しかしながら、従来 のスキャニングソナーは漁業効率の向上を主目的として発達してき たため 、ダイナミックレンジが狭く、しかも定量的なデータを出カすることができなかっ た。し かし、近年の電子技術の発達により、高い解像度でダイナミックレンジの広いスキ
ヤニングソナーが実現可能となり、スキャニングソナーの長所を活かした水産資源調査へ の応用が期待されている。
スキャニングソナーを利用した資源量計測手法のーつに、定量化されたェコー強度の情 報を用 いるエコー積分法があり、現在最も有望視されている。しかしながら、計量魚群探 知機に比べて、音響ピーム数が格段に多く、多ピームによるエコー積分理論は未だ確立し
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ていない。しかも魚への音響入射角度が不特定であるために、魚のターゲットストレング スの不確実性が増し、その実現には様々な難題を抱えている。
そこで 本研究 では、工 コー積 分法に基 づく計量ソナーの実用化のために、以下の主要 課 題の解決 を目的 とした。 すなわ ち、1)定量化 と較正 が可能な 計量ソナーシステムの 開発 、2)魚 の三次 元平均夕 ーゲット ストレ ングスの 推定、3)マ ルチピー ムエコ ー積 分理 論の確 立とフイ ールドに おける 検証、である。本研究で得られた結果は以下のよう に要 約され る。
1.定量化 と較正 が可能な 計量ソナ ーシス テムの開 発
球形ト ランスデ ューサを用いた漁業用マルチピーム型低周波スキャニングソナーFSV30 をべースとして、広ダイナミックレンジを有するエコー生データの収録機能、および較正 機能を有する計量ソナーシステムの開発を行った。さらにソナーシステムにフイールドに おける較正機能を組み込み較正精度の評価を実施した。水槽測定では近距離音場における 測定誤差が問題となるが、近距離/遠距離音場の関係を理論的に求めて、測定誤差を低減 し、正確な較正が可能であることを明らかにした。水槽測定結果から得られた感度、ピー ム幅の較正値を用いて、フイールドにおいてターゲットストレングスが既知の標準球のエ コーレベルを評価する事により、較正後の感度の精度を検証し、土1. 5dB以内の精度を確認 した。さらにフイールドにおいて容易に感度やビーム幅を較正する手法を開発し、計量ソ ナーシステムに組み込んだ。
2.魚の 三次元 平均夕ー ゲットストレングスの推定
ソナーの定量化されたエコー強度の積分量から魚量を算出するためには、一尾当りの平 均夕 ーゲッ トストレ ングス(TS)を知る事 が必要となる。ソナーを用いて魚群を計測する 場合、魚に対して音響ピームはさまざまな方向から入射する。そのため、ソナーピームの 入射方向を勘案し、三次元の魚のTSパターンに対して、魚の姿勢分布による平均化処理に より求められる平均夕ーゲットストレングスっまり、三次元の平均TSが必要となる。しか ―906一
しながら、ソナー計測で用いることのできる三次元平均TSに関する知見は少ない。そこで、
本研究では、まずFoote (1980)とFurusawa (1990,1999)の方法を参考にして、一般的なソナ ー用の三次元平均TSの式を導い た。その上で、魚の姿勢変化による三次元平均TSの変化 特 性を理論的に検討した。次に、回転楕円体モデルを用いて魚単体のTSの三次元パターン の〃入特性を分析 し、異なる姿勢分布による三次元平均TSの基本特性を分 析した。本研 究により、姿勢分布やソナービームの入射方 向をバラメータとして三次元平均TSを求め る手 法を確立することができた。更に本手法を用いたシミュレーションにより、ソナーの 水平或いは水平に近い方向での探知においては魚のピッチ角の影響は無視できるほど小さ く、魚のヨー角特性 の影響を最も強く受けること、逆に垂直断面モードを含む俯角の大き いソナー探知では、魚群探知機と同様にピッチ角の影響が強くなることを定量的に示した。
3.マルチピームエコー積分法による 魚量算出理論の確立とフイールドにおける検証 計量魚群探知機におけるエコー積分理論は確立されているが、ソナーのエコー強度デー タの積分方法への 理論的なアプローチは、これまで十分なされていない。ソナーによる魚 量算出は、ソナーにより求められた魚群体積と平均体積散乱強度Svを乗じた魚群夕ーゲッ トストレ ングスとして算出可能であるが、ソナーのピーム幅に比べて魚群が十分大きい場 合でないと、体積や平均Svは正確に求める事が出来ないため、本手法が使える条件は限ら れる。計量ソナーを広範囲の資源調査に応用するためには、体積や平均Svの計測精度に依
. 存しない魚量算出アルゴルズムの確立が求めら れる。そこで、本研究では、魚群密度分布 を理論的に与え、音響ピーム走査により得られる二次元、三次元像を光学分野における写 像理論を用いて解析し、ソナーデータの積分量と魚群密度分布の関係式として厳密に求め た。 さらに、その関係式より、魚量算出アルゴリズムの導出を行い、水槽実験および漁獲 試験 を行なって検証した。その結果、計量ソナーによる三次元あるいは二次元の定量化手 法が 魚量推定に有効であることが分かった。本手法は、原理的にソナーの分解能による精 度低下が生じない という大きな特徴を有しており、中、遠距離から広範囲に魚量計量を行 う際に有効な方法といえる。このマルチピームエコー積分法と、ソナー用三次元TS推定法 ―907―
を組み合わせる事で、魚群中の尾数を算出する事が可能となった。
最後に、本研究で開発した計量ソナーを用いて、ノルウェーや国内の漁場においてフイ ールド評価を行い、計量ソナーによる推定魚量とソナー士による見積りや、漁獲データと の比較により、本手法の妥当性を確認した。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 准教授
飯田浩二 齊藤誠一 古澤昌彦 向井 徹
学 位 論 文 題 名
マルチビームエコー積分法を用いた
計量スキャニングソナーの開発と魚量計測手法に関する研究
音 響 を 用 い た 水 産 資 源 調 査 に お い て , 計 量 魚 群 探 知 機 は 下 向 き の 鋭 い ビ ー ム を 使 用 す る た め , 探 査 範 囲 が 狭 く , ま た 逃 避 行 動 を 示 す 表 層 魚 群 の 魚 量 計 測 に は 適 し て い な い 。 こ れ に 対 し , 近 年 発 達 の 著 し い ス キ ャ ニ ン グ ソ ナ ー は , 音 響 ビ ー ム を 水 面 下 の 全 範 囲 に 走 査 す る た め , 探 査 範 囲 が 飛 躍 的 に 拡 大 し , 魚 群 の 逃 避 行 動 の 影 響 を 受 け な い 。 し か し な が ら 、 従 来 の ス キ ャ ニ ン グ ソ ナ ー は 漁 業 効 率 の 向 上 を 主 目 的 と し て 発 達 し て き た た め 、 ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ が 狭 く 、 し か も 定 量 的 な デ ー タ を 出 カ す る こ と が で き な い 。 し か し 、 近 年 の 電 子 技 術 の 発 達 に よ り 、 高 い 解 像 度 で ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ の 広 い ス キ ャ ニ ン グ ソ ナ ー が 実 現 可 能 と な り 、 ス キ ャ ニ ン グ ソ ナ ー の 長 所 を 活 か し た 水 産 資 源 調 査 へ の 応 用 が 期 待 さ れ て い る 。
ス キ ャ ニ ン グ ソ ナ ー を 利 用 し た 魚 量 計 測 手 法 と し て , 魚 群 エ コ ー 強 度 を 積 分 し て 定 量 化 す る , エ コ ー 積 分 法 が 有 望 視 さ れ て い る が , 計 量 魚 群 探 知 機 に 比 べ て , ビ ー ム 数 が 格 段 に 多 く , そ の 処 理 が 複 雑 な た め , 多 ビ ー ム に よ る エ コ ー 積 分 理 論 は 確 立 さ れ て い な い 。 し か も 魚 へ の 音 響 入 射 が 横 方 向 と な る の で , タ ー ゲ ッ ト ス ト レ ン グ ス(TS)の 不 確 実 性 が 増 大 す る 。
そ こ で , 本 研 究 で は ま ず , 定 量 化 し た ソ ナ ー デ ー タ を 取 得 す る た め に , 広 ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ を 有 し , エ コ ー 生 デ ー タ の 収 録 お よ ぴ 較 正 が 可 能 な 低 周 波 型 マ ル チ ビ ー ム 式 計 量 ソ ナ ー シ ス テ ム の 開 発 を 行 っ た 。 本 シ ス テ ム を フ イ ー ル ド お よ ぴ 水 槽 に お い て 標 準 球 を 用 い て 較 正 し た と こ ろ , 土 1. 5dB以 内 の 精 度 を 確 認 す る こ と が で き た 。 一 方 , 計 量 魚 群 探 知 機 に 茄 け る エ コ ー 積 分 理 論 は 確 立 さ れ て い る が 、 ソ ナ ー の エ コ ー 強 度 デ ー タ の 積 分 方 法 へ の 理 論 的 な ア プ ロ ー チ は 、 こ れ ま で 十 分 な さ れ て い な い 。 計 量 ソ ナ ー を 広 範 囲 の 資 源 調 査 に 応 用 す る た め に は 、 体 積 や 平 均Svの 計 測 精 度 に 依 存 し な い 魚 量 算 出 ア ル ゴ リ ズ ム の 確 立 が 求 め ら れ る 。 そ こ で 、 理 論 的 に 与 え た 魚 群 密 度 分 布 か ら 音 響 ビ ー ム 走 査 に よ っ て 得 ら れ る 二次 元 、 三 次元 像 を ,光 学 分 野に 茄 け る写 像 理 論を 用 い て解 析 し 、 ソ ナ ー デ ー タ の 積 分 量 と 魚 群 密 度 分 布 の 関 係 式 と し て 厳 密 に 求 め , 魚 量 算 出 ア ル ゴ リ ズ ム の 導 出 を 行 っ た 。 こ の 中 で , 本 手 法 が , 原 理 的 に ソ ナ ー の 分 解 能 に よ る 精 度 低 下 が 生 じ な
いと いう 特徴 を有 して おり、 中、 遠距 離から魚量計量を行う際に特に有効であることを示 した 。
っ ぎに ,ソ ナー の定 量化さ れた エコ ー強度の積分量から魚量を算出するためには、一尾 当 り の 平均 ター ゲット スト レン グス
(TS)を知 る事 が必 要と なる 。ソ ナー を用い て魚 群を 計測 する 場合 、魚 に対 して音 響ビ ーム はさまざまな方向から入射する。そのため、ソナー ビー ムの 入射 方向 を勘 案し、 三次 元の 魚のTS パターンに対して、魚の姿勢分布による平均 化処 理に より 求め られ る三次 元の 平均
TSが必要となる。そこで、回転楕円体モデルを用い て 魚 単 体 の
TSの 三 次 元 パ タ ー ン の
L/A特 性を 分析 し、 異ぬ る姿 勢分 布に よる三 次元 平均
TSの 基本 特性 を分 析し た。本 研究 によ り、姿勢分布やソナービームの入射方向をパラメー タと して 三次 元平 均TS を求め る手 法を 確立 した 。
最 後に 、本 研究 で開 発した 計量 ソナ ーを用いて、ノルウェーや国内の漁場においてフイ ール ド評 価試 験を 行い 、計量 ソナ ーに よる推定魚量とソナー士推定値や漁獲量との間に線 形比 例関 係を 認め ,本 手法の 有効 性を 明ら かに した 。
審査員らが特に評価した点は以下である。
1
. 漁業 用ソ ナー を発 展さ せて ,高 精度 ,広 ダイ ナミッ クレ ンジ の性能を有する,定量化 と 較 正 が 可 能 な 全 方 向 探 知 型 の 低 周 波 計 量 ソ ナ ー を 開 発 し た こ と 。
2.測 定 の 困難 な魚の 三次 元TS を, 回転 楕円 体モ デル を用 いて 理論 的に 解析し ,計 量ソ ナ ー に よ る 魚 量 推 定 に 必 要 な , 魚 の 三 次 元 平 均
TSを 推 定 す る 方 法 を 与 え た こ と 。
3.空 間 に 配置 した多 数の ビー ム走 査に より 得ら れた ,魚 群エ コー 信号 を積分 処理 する こ と によ り, ビー ムの 分解能 に依 存せ ずに魚量情報を取得することができるマルチビームェ コ ー積 分法
(3DMBEI)による 魚量 算出 理論 を導 いた こと 。
4. 3DMBEI
理 論に 基づ き, 水平 スキ ャン モー ドに よるソ ナー デー タから,単体魚群の魚量 を 推 定 す る実 用的な 方法
(2DMBEI)を考 案し ,計 量ソ ナー に実 装し て漁 獲試験 を行 い, そ の 有効 性を 示し たこ と。