要旨
最適化問題において、オイラー方程式を満たしているからといって、その解 が最適解であるとは言えない。無限期間について論じる中で3期間のような有限 期間を例にとることはできない。
キーワード 定量的マクロ経済学 最適化問題 オイラー方程式 研究ノート
有限期間の最適化問題小考
A Note on Finite-Periond Optimization Problems 安木 新一郎
YASUKI Shinichiro
はじめに
池田太郎氏より池田(2019)をいただいた。そこでは定量的マクロ経済学の最 適化問題に関し、最適解の必要条件であるオイラー方程式について議論されてい る。以下では、池田氏の所説を検討することで、有限期間と無限期間を混同して 議論することの危険性について考える。
なお、最適化問題の解説としては、現在『経済セミナー』誌で「定量的マクロ 経済学と数値計算」が連載中であり参照した。
1.2期間の最適化問題
全体として𝑥𝑥𝑥𝑥̅単位の消費可能な財があるとして、これを 2 期間かけて消費する とする。この時、各期にどれだけ消費を割り当てるのかを考える。この問題は簡 略化して、
(𝑐𝑐𝑐𝑐max0,𝑐𝑐𝑐𝑐1)𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐0) +𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐1) (1) subject to 𝑐𝑐𝑐𝑐0+𝑐𝑐𝑐𝑐1≤ 𝑥𝑥𝑥𝑥̅
𝑐𝑐𝑐𝑐0≥0
𝑐𝑐𝑐𝑐1≥0
のように書ける。ここでuは効用関数、𝑐𝑐𝑐𝑐0と𝑐𝑐𝑐𝑐1はそれぞれ0期と1期の消費量を 表す。βは割引因子として、1期の消費から得られる効用についてはβだけ割り 引くものとする(ただし、有限期間なのでβは1より大きくてもよい。無限期間 であれば0 <𝛽𝛽𝛽𝛽< 1とする)。
(1)の解(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗,𝑐𝑐𝑐𝑐1∗)が内点解だと仮定すれば、クーン=タッカー必要条件より、
𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =𝜆𝜆𝜆𝜆 𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) =𝜆𝜆𝜆𝜆
が成立している(ただしλはラグランジュの未定乗数)。よって、
はじめに
池田太郎氏より池田(2019)をいただいた。そこでは定量的マクロ経済学の最 適化問題に関し、最適解の必要条件であるオイラー方程式について議論されてい る。以下では、池田氏の所説を検討することで、有限期間と無限期間を混同して 議論することの危険性について考える。
なお、最適化問題の解説としては、現在『経済セミナー』誌で「定量的マクロ 経済学と数値計算」が連載中であり参照した。
1.2期間の最適化問題
全体として𝑥𝑥𝑥𝑥̅単位の消費可能な財があるとして、これを 2 期間かけて消費する とする。この時、各期にどれだけ消費を割り当てるのかを考える。この問題は簡 略化して、
(𝑐𝑐𝑐𝑐max0,𝑐𝑐𝑐𝑐1)𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐0) +𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐1) (1) subject to 𝑐𝑐𝑐𝑐0+𝑐𝑐𝑐𝑐1≤ 𝑥𝑥𝑥𝑥̅
𝑐𝑐𝑐𝑐0≥0
𝑐𝑐𝑐𝑐1≥0
のように書ける。ここでuは効用関数、𝑐𝑐𝑐𝑐0と𝑐𝑐𝑐𝑐1はそれぞれ0期と1期の消費量を 表す。βは割引因子として、1期の消費から得られる効用についてはβだけ割り 引くものとする(ただし、有限期間なのでβは1より大きくてもよい。無限期間 であれば0 <𝛽𝛽𝛽𝛽< 1とする)。
(1)の解(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗,𝑐𝑐𝑐𝑐1∗)が内点解だと仮定すれば、クーン=タッカー必要条件より、
𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =𝜆𝜆𝜆𝜆 𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) =𝜆𝜆𝜆𝜆
が成立している(ただしλはラグランジュの未定乗数)。よって、
𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) (2) 𝑐𝑐𝑐𝑐0∗+𝑐𝑐𝑐𝑐1∗=𝑥𝑥𝑥𝑥̅
を解けば解が得られる。
さて、(2)を変形すると、
𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) 𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) = 1
であり、クーン=タッカー必要条件が0期と1期の消費の限界効用の比と価格比 が等しくなるという 1 階条件であることが確認できる。この(2)が定量的マク ロ経済学でいうところのオイラー方程式である。
上記2期間と同じように、今度は全体として𝑥𝑥𝑥𝑥̅単位の消費可能な財をT期間か けて消費するとする。各期に割り当てられる消費量は、
−𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡−1𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡−1∗ ) +𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡∗) = 0, 𝑡𝑡𝑡𝑡= 1,2, … ,𝑇𝑇𝑇𝑇 −1 𝑐𝑐𝑐𝑐0∗+𝑐𝑐𝑐𝑐1∗+⋯+𝑐𝑐𝑐𝑐𝑇𝑇𝑇𝑇−1∗ =𝑥𝑥𝑥𝑥̅
という連立方程式の解となる。
2.無限期間の最適化問題
有限期間については最適解があることが分かったが、無限期間になると無限個 の変数と無限本の方程式が出てくるので1.で導出した連立方程式を解くことが できない。とはいえ、無限期間であっても最適解がオイラー方程式を満たしてい なければならないことにかわりはない。
さて、池田(2019)C.節と同じく3期間モデルについて考えると、必要条件た るオイラー方程式は
𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) = 𝛽𝛽𝛽𝛽2𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐2∗)
と書ける。これを変形すると、
𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) 𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =
𝛽𝛽𝛽𝛽2𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐2∗) 𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗)
となり、0期と1期の消費の限界効用の比と1期と2期の消費の限界効用の比が 等しくなる。
池田(2019)では無限期間の最適化問題において、導出したオイラー方程式
𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡+1𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1= 0, 𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟 ∀𝒕𝒕𝒕𝒕 ≥ 𝟏𝟏𝟏𝟏.
がすべてのtで成り立つと仮定し、3期間モデルの終点𝑡𝑡𝑡𝑡=𝑇𝑇𝑇𝑇= 3について
𝛽𝛽𝛽𝛽3𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐3)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐3 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐3+𝛽𝛽𝛽𝛽4𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐4)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐4 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐4= 0
となっている。しかしながら、3期間について考えているのに第4期がでてきて しまうので𝛽𝛽𝛽𝛽4 𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐(𝑐𝑐𝑐𝑐4)
4 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐4= 0とすると、
𝛽𝛽𝛽𝛽3𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐3)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐3 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐3= 0
を意味する。これを第1期まで考えると、
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐1)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐1 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐1= 0
𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) = 𝛽𝛽𝛽𝛽2𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐2∗)
と書ける。これを変形すると、
𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗) 𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐0∗) =
𝛽𝛽𝛽𝛽2𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐2∗) 𝛽𝛽𝛽𝛽𝑢𝑢𝑢𝑢′(𝑐𝑐𝑐𝑐1∗)
となり、0期と1期の消費の限界効用の比と1期と2期の消費の限界効用の比が 等しくなる。
池田(2019)では無限期間の最適化問題において、導出したオイラー方程式
𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+𝛽𝛽𝛽𝛽𝑡𝑡𝑡𝑡+1𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡+1= 0, 𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟𝐟 ∀𝒕𝒕𝒕𝒕 ≥ 𝟏𝟏𝟏𝟏.
がすべてのtで成り立つと仮定し、3期間モデルの終点𝑡𝑡𝑡𝑡=𝑇𝑇𝑇𝑇= 3について
𝛽𝛽𝛽𝛽3𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐3)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐3 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐3+𝛽𝛽𝛽𝛽4𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐4)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐4 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐4= 0
となっている。しかしながら、3期間について考えているのに第4期がでてきて しまうので𝛽𝛽𝛽𝛽4 𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐(𝑐𝑐𝑐𝑐4)
4 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐4= 0とすると、
𝛽𝛽𝛽𝛽3𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐3)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐3 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐3= 0
を意味する。これを第1期まで考えると、
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐1)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐1 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐1= 0
となり、結果的に
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑢𝑢𝑢𝑢(𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡)
𝜕𝜕𝜕𝜕𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑐𝑐𝑐𝑐𝑡𝑡𝑡𝑡= 0, ∀𝒕𝒕𝒕𝒕 ≥ 𝟏𝟏𝟏𝟏.
つまり1期間の最適化条件に帰着することになってしまう。
無理やり1期間のオイラー方程式を書くと、𝑐𝑐𝑐𝑐0∗=𝑥𝑥𝑥𝑥̅のとき効用は最大となる。
いくら期間を延ばしても第1期の最適化条件が成り立つのであれば、3期間の場 合、𝑐𝑐𝑐𝑐1∗ =𝑐𝑐𝑐𝑐2∗= 0、すなわち消費量が0のときの効用は0で、つねに2期と3期の 限界効用の比が0
0となり定義できない。
おわりに
最適化問題において、オイラー方程式を満たしているからといって、その解が 最適解であるとは言えない。無限期間の最適化問題については、動的計画法のよ うに有限期間の場合とは異なる解法が用いられる。無限期間について論じる中で 3期間のような有限期間を例にとることはできないのである。
参考文献
池田太郎「動学的マクロ経済学におけるオイラー方程式に関する考察」、Kobe University Discussion Paper、1902、2019年2月。
北尾早霧・砂川武貴・山田知明「定量的マクロ経済学と数値計算 1 ―数値計算 ことはじめ」『経済セミナー』、2018年12月・2019年1月、55頁~61頁。
北尾早霧・砂川武貴・山田知明「定量的マクロ経済学と数値計算 2 ―2 期間モ デルと数値計算の概観」『経済セミナー』、2019年1月・2月、106頁~114頁。
北尾早霧・砂川武貴・山田知明「定量的マクロ経済学と数値計算 3 ―動的計画 法」『経済セミナー』、2019年3月・4月、108頁~117頁。
Stokey, N. and Rucas, R. with Prescott,E., Recursive Methods in Economic Dynamics, Harvard University Press, 1989.