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C 型肝炎ウイルス感染による脳形態的変化の研究

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C 型肝炎ウイルス感染による脳形態的変化の研究

Surface-based Morphometry を用いた検討

日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系放射線診断学分野専攻

菊田 潤子 修了年 2018 指導教員 天野 康雄

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C 型肝炎ウイルス感染による脳形態的変化の研究

Surface-based Morphometry を用いた検討

日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系放射線診断学分野専攻

菊田 潤子 修了年 2018 指導教員 天野 康雄

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目次

1. 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1)肝性脳症の定義と疫学・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2)肝性脳症の発症メカニズム・・・・・・・・・・・・・ 4 3C型肝炎ウイルスの中枢神経への作用・・・・・・・・ 5 4) 顕 性 、 及 び 不 顕 性 肝 性 脳 症 に 対 す る 脳 画 像 解 析 と

その知見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

Voxel-based morphometry について・・・・・・・ 8

拡散テンソル画像について・・・・・・・・・・・・9

機能的磁気共鳴画像法について・・・・・・・・・ 10 Surface-based morphometry について・・・・・・11 3. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 4. 対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 5. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 6. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 7. まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

(4)

図と表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

(5)

1

1. 概要

[背景]肝性脳症は肝機能障害による高アンモニア血症やアミノ 酸インバランス、炎症性サイトカインの活性化などによって起こ る。肝性脳症は見当識障害や羽ばたき振戦、昏睡などの精神神経 症状を呈し、Magnetic resonance imagingMRI)を元に脳形態 的、機能的変化に対する研究が進んでいる。

C型肝炎ウイルス(HCV)は、慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患

の起因としてよく知られているが、その他30以上のウイルス関連 性の肝外疾患があることが報告されている。最近では、HCVの中 枢神経系への感染による中枢神経障害が注目されている。そこ で、我々は日常臨床で使用している頭部MRI画像を用い、surface- based morphometrySBM)で統計解析することで、HCV感染に

関連した大脳皮質の形態的変化を評価することとした。

[対象と方法]疾患群は慢性C型肝炎患者11人、対照群は18人とし た。頭部MRI画像を元に、SBMの一つであるFreeSurferで大脳皮 質表面を再構築し、Query, Design, Estimate, and Contrast

(6)

2

QDEC)解析法で疾患群と対照群における二群間比較を行っ た。

[結果]疾患群では対照群と比較して、左中側頭回、左上側頭 回、左上前頭回、右中心後回に皮質表面積の有意な低下

(P < 0.001)、また右下頭頂小葉に皮質厚の有意な増加を認めた (P < 0.001)

[結語]本研究では、慢性C型肝炎患者において言語領域を主体と した大脳皮質の形態的変化が認められ、HCV感染によって惹起さ れた中枢神経障害の影響が考えられた。

<略語集>

MRI : Magnetic resonance imaging MRS : Magnetic resonance spectroscopy SBM : Surface-based morphometry VBM : Voxel-based morphometry

QDEC : Query, Design, Estimate, and Contrast

2. 緒言

1)肝性脳症の定義と疫学

肝性脳症は肝硬変患者の3045%に起こるとされる。顕性の肝性 脳症は、急性型、慢性型、また頻度は少ないが、先天性尿素サイク

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3

ル酵素異常症などの特殊型に分類される。急性型は劇症肝炎、慢性 型は慢性肝炎や肝硬変に合併する。肝性脳症は進行するに従って、

見当識障害や羽ばたき振戦、昏睡などの症状を呈する。

Joverらは、慢性肝炎における中枢神経障害を二種類に分類して

いる1。一つは、見当識障害などの認知機能障害であり、特にC型肝 炎ウイルスの持続感染者は、その他の疾患が原因の慢性肝炎より認 知機能障害が強く現れると言われている2。もう一つは、羽ばたき振 戦として現れる錐体外路障害である。胆道排泄障害と門脈体循環短 路により、マンガンなどの微量元素が脳内に流入することが要因と される。

不顕性肝性脳症は、精神神経症状が目立たず、精神神経機能検査 で初めて診断される病態で、近年診断方法の確立や画像研究が進ん でいる3,4。海外では、不顕性肝性脳症を診断する精神神経機能検査 として、一般的なMini-mental state examinationよりもNCT (Number connection tests)-ANCT-BSelf-determination

theoryLine tracing testDigit symbol test、これらの5つの検査 で構成されるPsychometric hepatic encephalopathy scoreが有効と されている3。不顕性肝性脳症はこれらの精神神経機能検査で注意力

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4

や視空間認識、情報処理などの障害が認められる。

2)肝性脳症の発症メカニズム

脳内では高アンモニア血症や炎症性サイトカインの活性化によ り、アストロサイトや血管内皮細胞が障害され、血液脳関門が破 綻する(図1。また、腸内細菌叢はアンモニアやエンドトキシン などの毒性物質を生成するが、肝機能障害や門脈体循環短路があ ると、これらの有害物質が体循環に流入する。さらに、アストロ サイト内の過剰なグルタミン酸の増加、分岐鎖アミノ酸比率の低 下、GABAγ-アミノ酪酸)などの神経伝達物質の異常によって細 胞性浮腫が起こり、脳症が発症すると考えられている5-7。高アンモ ニア血症における急性脳症では、両側性に帯状回や島、基底核な

どが、MRIFLAIR、拡散強調画像で高信号域を呈し、浮腫性変

化を示す8。また、Magnetic resonance spectroscopyMRS)では グルタミン・グルタミン酸の増加、ミオイノシトールやコリンの 低下が報告されている8,9。加えて、Ahlらは不顕性、及び軽度の顕 性肝性脳症例(慢性B型肝炎患者7名、慢性C型肝炎患者5名、慢性 B/C型肝炎患者2名)において、Positron emission tomography

(9)

5

PET)で視床やレンズ核、小脳にアンモニア集積の増加があっ たことを報告している6

3C型肝炎ウイルスの中枢神経への作用

HCVは中枢神経系に対してヒト免疫不全ウイルス(HIV)と類似

したメカニズムが指摘されており、末梢血中では単核球やマクロフ ァージ、B細胞、T細胞などに感染する10。これらの感染細胞の間で ウイルスの遺伝子配列が共有され、血液脳関門においてHCVの侵入 が容易となる。HCVは血液脳関門を通過すると、脳内のマクロファ ージ/ミクログリアやアストロサイトに感染する11。ミクログリアは グリア細胞の一つで、中枢神経組織内のプラークや不要になったニ ューロンやシナプスの除去と修復を行っており、脳内環境を維持し ている。HCV感染患者の剖検例による検討では、脳内にHCVに感 染したCD68染色陽性細胞のミクログリアが確認されており、これ らの細胞内でHCV複製が行われていると推測されている10,11。ま た、in vitroでは、HCVに感染したマクロファージがtumor

necrosing factor-αinterleukinIL-1IL-6IL-8などの炎症性 サイトカインを誘起するとの報告がある12。これらの炎症性サイト

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6

カインやケモカイン、HCVに感染した血管内皮細胞が血液脳関門を 破綻させ、脳内でのHCV複製を助長するとされる10。さらに、HIV との混合感染によって、炎症性サイトカインの活性化が増長し、中 枢神経障害がより重篤になる10,13Marslandらは、炎症性サイトカ インの病的な活性化で、大脳皮質や白質容積、海馬の容積と表面積 の低下が起こると報告している14

慢性C型肝炎患者の半数以上に易疲労感、全身倦怠感、記憶障害 などの精神神経症状が起こると言われており、約1/3に言語や作業 記憶に関する記憶障害が起こる11。その他、HCV感染に関連した 様々な神経・筋疾患が指摘されている(表1。近年では、Heeren らが、15人の慢性C型肝炎患者における2-deoxy-2-[fluorine-

18]fluoro- D-glucose computed tomographyで、上中前頭回、前帯

状回、海馬や海馬傍回にグルコースの代謝低下、ドパミントラン スポーターシンチグラフィで線条体にドパミンの集積低下があっ たことを報告している15。加えて、大脳皮質のグルコース代謝率と 線条体のドパミン利用率には正の相関があり、前頭葉-線条体の神 経回路と易疲労感やうつとの関連が推測されている15。また、慢性 C型肝炎患者では大脳皮質の脳血流量が低下することが報告されて

(11)

7

いる13。さらに事象関連電位を用いた検討として、Kramerらが慢 C型肝炎患者におけるP300波の振幅低下やピークの遅延を報告 しており16、側頭-頭頂接合部とその隣接皮質の形態的変化が推測 されている17。亀井らは、慢性肝炎の重症度が進むに従って、イン ターフェロン治療により脳波に変化が起きると報告している18。し かしこれまで、脳形態画像でHCV感染に関連した大脳皮質の変化 を観察した報告は限られている19。既報告では、SarmaらがVoxel- based morphometry VBM)を用いた解析を行い、両側大脳皮

質の広範な皮質容積低下を報告しているが19SBMを用いた調査 は本研究が初めてである。

4)顕性、及び不顕性肝性脳症に対する脳画像解析とその知見

顕性、及び不顕性の肝性脳症の患者に対して、頭部MRI 画像を元 VBM、拡散テンソル画像(Diffusion tensor imagingDTI)を 用いた TBSS 解析やネットワーク解析、機能的磁気共鳴画像法

functional MRI: fMRI)を用いたコネクティビティ解析、SBM どで脳形態的、機能的変化が調査されている(表220-25。以下、こ れらの画像解析法とその知見を説明する。

(12)

8

Voxel-based morphometry VBM)について

VBM SPMStatistical parametric mapping)に搭載されて

おり、全脳を対象に灰白質、白質の容積を統計学的に探索する解析 法である。SPM はロンドン大学が開発した脳形態画像解析ツール で 、MathWorks 社 が 開 発 し て い る 数 値 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア の

MATLAB上で動作する。3次元MRI 画像を用い、前処理として灰

白質、白質、脳脊髄の信号を分離し、標準脳に変形する解剖学的標 準化を行う。その後、標準化された画像に対して平滑化を施行し、

ボクセル値を正規分布に近づけ個人差を減らす。その後、VBM ボクセルごとに統計解析を行う。手法が比較的簡便で半自動的に解 析できるため、認知症、躁鬱病、パーキンソン病などの精神神経疾 患を中心に、最も広く用いられている 26-30。しかしながら、VBM 大脳皮質の形態を丸く変形するので、脳回や脳溝などの複雑な変化 はわからない。本邦では、Iwasa らが肝硬変患者(B型肝炎ウイル ス感染者 3人、HCV感染者13 人、非アルコール性脂肪性肝炎患者 2 人)において、小脳や後頭葉に皮質容積の低下、帯状回、頭頂葉、

側頭葉、後頭葉に白質容積の低下を認めたと報告している 20

(13)

9

拡散テンソル画像(DTI)について

DTI は、拡散 MRI 画像から白質線維の方向による水の拡散のし

やすさの違い、すなわち拡散異方性(Fractional anisotropy: FA の程度を定量的に測定する手法である。神経線維はミエリン鞘や細 胞膜の配列に一定の方向性があるため、線維配列と平行な方向への 水分子の拡散は速く、これと直行する方向への拡散は遅くなる。具 体的には3つの固有値(λ1. λ2. λ3)と固有ベクトル(e1. e2. e3 を用いることにより、脳白質内の拡散確立密度分布を楕円形で表わ し、白質線維の質的、量的な変化を評価する。拡散異常の指標とし FA 値の他、みかけの拡散を表す Apparent Diffusion Coefficient

ADCRDRadial diffusivity)とMDMean diffusivity)値 がある。DTI により白質線維の微細な構造上変化の探索が可能とな った。脱髄性疾患では病変部位の FA 低下が報告されており 31、神 経線維の機能異常や神経周囲の構造的変化を反映していると考え られる。また、テンソルトラクトグラフィは白質路をある起点から 追跡する手法であり、これを応用したTBSS解析では、不顕性肝性 脳症例における脳梁、 帯状束、内包、外包、皮質脊髄路、上縦束、

(14)

10

後部放線冠の FA 低下が報告されている 21。また、不顕性肝性脳症 患者を肝移植前後で比較すると、肝移植後において側頭葉白質にFA の著明な低下とRDの増加が報告されている22

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)について

fMRIは、脳の血液酸素化の程度(blood oxygenation dependent

level)を経時的に測定することで、神経細胞の活動性を推定する手

法である。VBM と同様にSPM などの解析ソフトを用いて統計解析 する。課題を施行している賦活時と、課題を施行していない安静時 を比較する課題関連型 fMRI が主流であったが、安静時においても 様々な脳領域が機能的なネットワークを形成していることが示さ れ、現在では安静時fMRI (Resting state fMRI : rsfMRI) のみを用 いた疾患のコネクティビティ変化の研究も行われている。最近では、

テンソルトラクトグラフィや rsfMRI と数学的なグラフ理論を組み 合わせ、脳内の神経ネットワーク効率や局所連結機能を解析するこ とが可能となっている 32Zhang らは、不顕性肝性脳症例に基底核 -視床-皮質回路の機能的変化があり、認知機能障害に関連があると 報告している25。さらに、慢性B 型肝炎患者でも、脳内ネットワー

(15)

11

ク効率の低下と、前頭葉や側頭葉皮質における局所連結機能の異常

23、またコネクティビティ解析で両側楔前部、楔部、中帯状回の機能 的結合性の低下が報告されている24

Surface-based morphometry SBM)について

今回の画像解析で用いたFreeSurferツール

(http://surfer.nmr.mgh.harvard.edu/) は、Massachusetts General Hospitalの研究グループが開発したLinux 環境下で動作

するソフトウェアである33-35SBM に基づき、大脳皮質表面を小 さな三角形のメッシュ構造に再構成し、各頂点のタライラッハ座

標軸(X, Y, Z)を元に個々の大脳皮質表面積、皮質厚および皮質容

積を計測する。脳表面積が算出できるため、SBMVBM より脳 襞の幾何学的な構造上変化を詳細にとらえることができる36-38

本研究で用いたQDECFreeSurfer に搭載された一般化線形 モデル(General Liner ModelGLM)による統計解析法であ る。GLMモデルは正規分布によらないデータも解析でき、QDEC SBM のパラメーターである各頂点の座標軸を用いて、自動的に 統計解析を行う。脳地図は大脳半球を脳回や脳溝に沿って34 分割

(16)

12

したDesikan-Killiany atlasが用いられ(表3)、この 34領域にお ける皮質の脳表面積値や皮質厚値、皮質容積値などの群間比較が

できる。Montoliuらは顕性の肝性脳症がない患者に対して

FreeSurferを用いた画像解析を行っており、左上側頭回と右楔前

部に皮質厚の減少を認めたと報告している4。以上より我々は、

SBMを用いた画像統計解析により、顕性の肝性脳症を呈さない慢 C 型肝炎患者における大脳皮質の形態的変化を検出する可能性 があると考えた。

(17)

13

3. 目的

本研究の目的は、日常臨床で使用している頭部MRI 画像を用 い、SBMで統計解析することで、HCV感染に関連した大脳皮質 の形態的変化を評価することとした。

(18)

14

4. 対象と方法

[対象] 本研究は後ろ向き研究として、日本大学医学部附属板橋 病院に設置された倫理委員会の審査と承認を得て行った(No.RK- 160614-7。日本大学医学部附属板橋病院で、2007 11日から 201312 31 日までに頭部MRIの高分解能3次元T1強調矢状

断像(以下 3D画像)が撮像されていた1625 人の患者のうち、以下 の基準で疾患群と対照群を選別した。

疾患群の適応基準は、1)慢性 C型肝炎患者、2)抗ウイルス薬治 療の既往がない、3West Haven Criteriaに基づいて顕性の肝性脳 症は認めない、とした。除外基準は疾患群、対照群共に 1HIV 性、2)頭蓋内の器質的疾患(脳腫瘍、脱髄性疾患、神経変性疾患、

炎症性疾患など)の存在、3)精神神経疾患の者、4)脳形態に影響 のある全身性疾患(Wilson病、アルコール多飲歴、内分泌疾患など)

の既往のある者、とした。

以上の基準を満たす慢性 C 型肝炎患者 11 人(男性 2 人、女性 9 人、平均年齢 ± 標準偏差73.4 ± 9.4歳、Child-Pugh分類A/B 10/1 人)を疾患群、対照群はB 型及びC 型肝炎ウイルス非感染者18

(19)

15

(男性11人、女性 7人、平均年齢 ± 標準偏差69.2 ± 7.6歳)とし (表 4)。対照群の基礎疾患はいずれも脳形態への影響が少ないも のであり、正常例として利用可能とした(表 5

MRI 撮 像 ] 撮 像 装 置 は 1.5 Tesla MRI MAGNETOM Symphony, Siemens, Erlangen, Germany) で 、 受 信 コ イ ル は Circular polarized head array coil であった。撮像条件は以下の

通りであった:

繰り返し時間 = 11.08 msec, エコー時間 = 4.30 msec, 反転時間 = 300 msec, フリップ角 = 15°, 撮像視野 = 250 × 250², スライ

ス厚 = 2 mm, acquisition matrix 512 × 224, スライス間隔 -1mm, ボクセルサイズ= 0.48 × 1.12 × 2.0 mm³

[画像再構成] 疾患群と対照群の頭部3D画像(DICOM画像)を Linux workstationCentOS6.5, 64bit, Intel® Xeon® Processor X5680, 48 G RAM) に転送した。まず、FreeSurferツールの Reconstruction processingで画像の補正を行い、大脳以外の頭蓋 骨、脳幹部、小脳を除外した。さらに、大脳の表面を三角形のメ

(20)

16

ッシュ構造に再構成し、各頂点のタライラッハ座標軸を元に個々 の大脳皮質表面積、皮質厚および皮質容積を算出した。

[統計解析] FreeSurferQDEC1.5 version)を使用し、GLM による大脳皮質 34 領域の疾患群と対照群の二群間比較を行った。

性別と年齢を共変量とし、Full width at half maximum kernel 10 mm で平滑化、False discovery rate は有意水準 P<0.05として

多重比較補正をした。QDECにおける Significant P 値は- log10 (P 値)を意味し、Significant P= 3 の場合はP0.001Significant P 値=4の場合はP0.0001となる。本研究では、脳表面積は両側 Significant P <5.50、両側Significant P 値の閾値は 2.75、皮質厚

は両側 Significant P <7.01、両側Significant P 値の閾値は3.50 に設定された。そして、疾患群と対照群の間で有意差のあった領域 の皮質表面積や皮質厚の平均値と標準偏差を算出した。

(21)

17

5. 結果

疾患群では対照群と比較して、左中側頭回(Significant P値=

-4.91, P<0.001、左上前頭回(Significant P値=-3.77, P<0.001

左 上 側 頭 回 (Significant P 値 =-3.61, P<0.001)、 右 中 心 後 回

Significant P値=-5.51, P<0.001)に大脳皮質表面積の有意な低 下を認めた(図 3, 5。また、疾患群では右下頭頂小葉の皮質厚 に有意な増加を認めた(Significant P 値=5.46, P<0.001(図4, 5

(22)

18

6. 考察

HCVHIVと同様に、脳内のミクログリアやマクロファージ、

アストロサイトに感染し、感染したこれらの細胞内でのHCV複製 が推測されている10。さらに、炎症性サイトカインやケモカインな どの様々な要因によって中枢神経障害が生じる。しかし、HCV 染に伴った脳形態的、機能的変化についての報告は少なく、本研 究では日常臨床で使用しているMRIを用いて脳形態的変化の評価 を試み、特異的な大脳皮質の病的変化を見出すことができた。

慢性C型肝炎患者に対する大脳皮質の形態的変化については、

SarmaらがVBMを用いた解析を行い、両側大脳皮質の広範な皮質

容積低下を認めたと報告している19。しかし本研究では、疾患群に 大脳皮質の容積低下は認めず、既報告とは一致しなかった。その 理由として、まずはHCV感染後の罹病期間や重症度分類、臨床症 状の違いが影響しているためと推察される。さらに、既報告の統 計解析では多重比較補正を行っていないが、本研究は多重比較補 正を行っており、検定がより厳密になった点も挙げられる。加え て、VBMSBMとの前処理の違いで、脳表に関する変化は詳細に

(23)

19

出ない点も考慮される。MRIを用いた慢性C型肝炎患者の認知機能 障害に対する検討では、T2強調画像での微小な血管障害を示唆す る脳室周囲白質の高信号域の増加との関連が指摘されている11。さ らに、大脳白質に対する詳しい研究としては、DTIMRSを用い た報告がある39-41Fortonらは、慢性C型肝炎患者は健常者や慢性 B型肝炎患者よりも、MRSで大脳白質にコリン/クレアチニン比が

上昇すると報告している39。これは慢性感染や炎症反応の増加を示 すことから、脳内の炎症性サイトカインやミクログリアの異常活 性が推察されている。Bladowskaらは15人の慢性C型肝炎患者にお けるDTI解析で、下前頭-頭頂束、脳梁などの大脳白質にFA低下と ADC増加を、MRSでは前頭葉、頭頂葉白質におけるN-アセチルア スパラテート/クレアチニン比の低下を報告している40。加えて、

Thamesらは、76人の慢性C型肝炎患者は前頭頭頂束と外包にMD

増加を、MRSN-アセチルアスパラテートの低下、両側前頭葉白 質にミオイノシトールの増加を報告している41。以上のように、

HCV感染は脳の形態、機能や代謝に広く影響すると考えられ、

我々の検討結果と関連すると考えられた。

本研究で用いたSBMの脳表面積は、大脳皮質内の情報処理の最小

(24)

20

機能単位と考えられている皮質カラムの数を反映すると推測されて

いる38,42。皮質カラムは直径300500 ㎛程度の円柱状構造で、皮

質の6層構造の中を垂直に伸びている。脳表に沿って並列してお り、皮質のしゅう曲に関連していると考えられている。そして、皮 質カラムの集合体はその局在に対応して機能が分化している。例え ば、左中側頭回は、顔や言語の認知を司り、会話やコミュニケーシ ョン能力に関連する43。左上側頭回はウェルニッケ野を含んでお り、聴覚からの短期記憶や言語理解に関与する44。また、左上前頭 回は作業記憶に関係し45、右中心後回は一次体性感覚野である46 従って、今回の疾患群の左中側頭回、左上側頭回、左上前頭回、右 中心後回の脳表面積低下は、皮質カラム数の減少を示唆し、その部 位の機能障害が推測された。さらに、本研究の慢性肝炎例は、顕性 の肝性脳症やその他の精神神経症状は見られず、前臨床段階と考え られる。より精神神経症状が進行した慢性肝炎例では、皮質表面積 の低下だけでなく皮質容積の低下も現れる可能性がある。

これまでも、脳回の形状は大脳皮質の機能と関連し、認知障害や 統合失調症、注意欠陥障害、双極性障害などで形態的変化が指摘さ

れている47-49。また、大脳皮質の脳回や脳溝の形成に関しては諸説

(25)

21

があり、代表的なものが、Essenらが提唱するCortico-cortical connections説である50-52。これは、機能的に類似したグリア線維や

軸索が相互に引っ張り合い、可能な限り近づくため、脳溝が形成さ れるという理論である。一方で、Richmanらは、皮質層の上位と下 位の発達の差が脳溝を生むと推測している53,54。脳回、脳溝の形成 によって、大脳皮質の神経細胞同士の距離が縮まり、刺激伝達速度 の短縮やエネルギー効率が向上し、神経の局所連結機能や局在性が 高まるとされている52

皮質厚は脳軟膜表面と皮髄境界の距離で算出され、皮質の層構造 にある神経細胞やグリア細胞の数を反映している38,42。近年では、

SBMによって皮質厚の形態的変化がより詳細に解明され、疾患にお

ける皮質厚の変容が報告されている55,56Reynoldsらは、うつ病に おいて両側中前頭回や左前帯状皮質に皮質厚の増加があったと報告 している55。また、Pagonabarragaらは、認知障害のあるパーキン ソン病患者では左上側頭回、左嗅内皮質、左紡錘回に皮質厚の低下 があり、左上前頭回や左前帯状回、右中心前回に皮質厚の増加を伴 っていたと報告している56。本研究での右下頭頂小葉の皮質厚の増 加は、炎症性サイトカインやグリア細胞などの異常活性や増加など

(26)

22

により、作業注視や空間認識に関連したこの領域の障害を示唆する ものと考えられた57

本研究の限界は5つある。一つは後ろ向き研究であった点である。

そのために HCV のマーカーである遺伝子タイプや RNA 量、罹病 期間、慢性C 型肝炎の主な精神神経症状である易疲労感、うつ、記 憶障害の程度を判定する精神神経学的検査の The Word Figure Memory testBeck’s Depression Inventory Hospital Anxiety and Depression ScaleFatigue Impact Scale、利き手などのデー

タが得られなかった。従って、本研究ではこれらの臨床所見と大脳 皮質の形態的変化との関連性が評価できず、今後の検討課題である。

2 つ目は、疾患群の脳内にあるミクログリアが HCV に感染してい

るか否かは、実際に剖検を行っていないため、組織的な裏付けはな い。3つ目は、統計解析に用いたQDEC は有意差のある領域しかP 値が出ず、有意でない領域に関しては評価できない点である。4 目は、疾患群と対照群の男女比がマッチされていない点である。5 目は、症例数が少ない点であり、将来的にはさらに症例数を増やし、

大脳皮質が形態的に変化した領域と臨床経過との検討が必要と思 われる。

(27)

23

7. まとめ

本研究では、慢性C型肝炎患者において言語領域を主体とした大 脳皮質の形態的変化が認められた。これらの変化はHCV感染によ って惹起された中枢神経障害の影響が考えられた。

(28)

24

謝辞

本研究に際し、日本大学医学部生体機能医学系薬理学分野の浅 井聰教授、日本大学医学部臨床試験研究センターの髙橋泰夫准教 授、西田弥生先生には多大なる御援助を賜りました。また、御指 導と御校閲を頂きました日本大学医学部放射線医学系放射線医学 分野の天野康雄教授と諸先生方、東京大学大学院医学系研究科放 射線診断学分野の阿部修教授に感謝と御礼を申し上げます。

(29)

25

図表(図 14、表 16

(30)

26

1 肝性脳症のメカニズム

高アンモニア血症

グルタミン合成酵素

アストロサイト内

グルタミン生成増加 腸内細菌叢

アンモニア生成物の蓄積 脳内

マンガン沈着 アストロサイト 炎症性サイトカイン 細胞内浮腫・障害

血管内皮細胞の障害

RNA障害

ミトコンドリア酸化障害中枢神経障害 血液脳関門の破綻

肝性脳症

脳内では、グリア細胞の一つであるアストロサイトがグルタミン合成 酵素を用いてアンモニアを代謝し、グルタミンに変換する。過剰なアン モニア代謝によりグルタミン生成が増加すると、浸透圧変化によりアス トロサイト内で細胞内浮腫が起きる。

高アンモニア血症や炎症性サイトカインが血管内皮細胞やアストロサ イトを障害し、血液脳関門が破綻する。

腸内細菌叢はアンモニアなどの有毒物質を生成するが、肝機能異常や 門脈体循環短路があると無毒化されず、体内に蓄積する。

脳内へのマンガン沈着、高アンモニア血症によるRNA障害、ミトコ ンドリア酸化障害なども神経障害の一因となる。

(31)

27

2 HCV関連性の中枢神経障害のメカニズム

HCVに感染した 炎症性サイトカイン マクロファージ

IL-1IL-6IL-8 T細胞、B細胞

TNF-α 単核球

ケモカインなど 血管内皮細胞

血液脳関門の破綻

HCVが脳内に侵入し、

脳内のミクログリア/ マクロファージ、

アストロサイトに感染

中枢神経障害

末梢血中でマクロファージ、T細胞、B細胞、単核球、血管内皮細胞など HCVに感染する。

感染したマクロファージが炎症性サイトカインやケモカインなどを誘起 する。

感染細胞や炎症性サイトカイン、ケモカインが血液脳関門を障害して、

HCVが脳内に侵入する。

HCVが脳内のミクログリア/マクロファージ、アストロサイトに感染し、

HCV複製が行われる。これらが炎症性サイトカインやケモカインなどと共 に中枢神経障害を引き起こす。

(32)

28

3 Vertex-wise analysis of cortical surface area in patients compared to controls

The cortical surface areas of the left middle and superior temporal gyri (A), superior frontal gyrus (B), and the right postcentral gyrus (C) were decreased in patients (blue regions).

A. The lateral face of left hemisphere

(33)

29

B. The medial face of left hemisphere

C. The lateral face of right hemisphere

(34)

30

4 Vertex-wise analysis of cortical thickness in patients compared to controls

The cortical thickness of the right inferior parietal gyrus was increased in patients (red region).

(35)

31

1 HCV関連性の神経・筋疾患

障害 主な臨床症状

神経学的所見

脳梗塞、一過性意識消失 局所的症状(麻痺、意識障害など)

急性脳症 昏迷、意識障害

白質脳症 認知障害、失語、四肢不全麻痺など 脳脊髄炎 運動障害、感覚障害、痙攣

脊髄炎 感覚障害、痙性対麻痺

精神神経学的所見

易疲労感 身体的・精神的疲労感 気分障害 うつ、不安障害

記憶障害 言語障害、注意力障害、作業記憶障害 末梢神経障害 知覚障害、下肢異常感覚、反射低下 筋障害(炎症性、非炎症性) 筋萎縮、嚥下障害

Monaco S, Ferrari S, Gajofatto A, et al. HCV-related nervous system disorders. Clin Dev Immunol. 2012; 236148: 1-9より改変

(36)

32

2 肝性脳症で施行された頭部MR法とその知見

頭部MR 所見

T2*強調画像 前頭-基底核-視床回路の鉄沈着

拡散強調画像 急性期肝性脳症患者における皮質下白質の拡散制限 ADC低下

拡散テンソル画像 慢性期肝性脳症患者におけるMD増加、FA低下 不顕性肝性脳症患者における左前帯状回・左前障・

左中心後回・右脳梁の浮腫性変化、左側頭葉白質の 脱髄を示唆する所見

MR spectroscopy 肝性脳症患者におけるコリン・ミオイノシトールの 減少、グルタミン・グルタミン酸の増加

MR還流画像 肝性脳症患者における大脳半球の血流増加

形態的 MRI 急性期肝性脳症患者における皮質のびまん性脳浮腫

慢性期肝性脳症患者における基底核T1WI高信号域 不顕性肝性脳症患者における前頭葉・側頭葉皮質、

尾状核・被殻容積減少、視床容積増加

動作時機能的MRI 肝性脳症患者における注意力・視覚的判断・記憶力 低下

安静時機能的MRI 肝性脳症患者における皮質-線条体-視床回路の機

能的変化、右中前頭回、左楔前部・左後帯状皮質の

機能低下

不顕性脳症患者における基底核-視床-皮質回路の機 能的変化

(37)

33

3 Desikan-Killiany atlas34領域

Frontal lobe 1. Superior frontal gyrus 2. Rostral middle frontal gyrus

3. Caudal middle frontal gyrus 4. Pars opercularis

5. Pars orbitalis 6. Pars triangularis

7. Lateral orbital frontal cortex 8. Medial orbital frontal cortex 9. Frontal pole

10. Precentral gyrus 11. Paracentral lobule Temporal lobe 12. Entorhinal cortex

13. Parahippocampal gyrus 14. Temporal pole

15. Fusiform gyrus

16. Superior temporal gyrus 17. Meddle temporal gyrus

18. Inferior temporal gyrus 19. Transverse temporal cortex

20. Banks of the superior temporal sulcus 21. Insula cortex

Parietal lobe 22. Postcentral gyrus 23. Supramarginal gyrus

24. Superior parietal cortex 25. Inferior parietal cortex 26. Precuneus cortex Occipital lobe 27. Lingual gyrus

28. Pericalcarine cortex 29. Cuneus cortex

30. Lateral occipital cortex

Cingulate cortex 31. Rostral anterior cingulate cortex 32. Caudal anterior-cingulate cortex 33. Posterior-cingulate cortex

34. Isthmus-cingulate cortex

(38)

34

4 疾患群、及び対照群における臨床検査データ

疾患群 対照群 P

症例数 11 18

年齢 73.4 ± 9.4 69.2 ± 7.6 0.0715

性別 (男性/女性) 2 / 9 11 / 7 0.0524

HCV 11 -

Child-Pugh A / B 10 / 1 -

ALT 53.4 ± 59.2 19.9 ± 18.3

AST 48.7 ± 74.8 36.8 ± 17.8

Ht (%) 36.7 ± 4.4 37.4 ± 5.7

略語説明

Ht=ヘマトクリット値

ALT= Alanine aminotransferase AST= Aspartate aminotransferase

症例数と性別、HCVChild-Pugh分類は人数、

年齢、ALTASTHtmean ± SDを算出した。

疾患群と対照群の年齢における比較はMann-Whitney U-test、性別における比 較はχ²検定のFisher’s test で行った。いずれも両群間に統計学的な有意差を 認めなかった。

(39)

35

5 対照群の基礎疾患

年齢 性別 基礎疾患

57歳 男性 脂肪肝 59歳 男性 肝血管腫 66歳 男性 両腎結石 68歳 男性 前立腺肥大症 69歳 男性 胆石症

71歳 男性 脂肪肝 72 男性 肺気腫

72歳 男性 前立腺肥大症 78歳 男性 腎結石

78歳 男性 膵嚢胞性腫瘤 80歳 男性 前立腺肥大症術後 53歳 女性 肝血管腫、脾血管腫 65歳 女性 腰椎椎間板ヘルニア術後 66歳 女性 胸椎圧迫骨折術後

67歳 女性 胆石症

73歳 女性 右鼠径ヘルニア術後 76歳 女性 甲状腺腫

81歳 女性 両側乳腺症

本研究の対象群の基礎疾患は脳形態への影響が少ない為、正常例として利用可 能とした。

(40)

36

6 疾患群と対照群の群間解析で有意差があった大脳皮質の領域

疾患群 対照群 Significant P value Surface area (mm²)

疾患群 対照群 左中側頭回 544.27 ± 163.42 651.06 ± 79.30 -4.91 疾患群 対照群 左上前頭回 4730.27 ± 753.19 5262.44 ± 588.38 -3.77 疾患群 対照群 左上側頭回 3618.55 ± 625.98 3724.44 ± 615.53 -3.61 疾患群 対照群 右中心後回 1031.27 ± 183.24 1208.28 ± 181.55 -5.51 Thicknessmm

疾患群 対照群 右下頭頂小葉 2.62 ± 0.14 2.53 ± 0.23 5.46 Significant P value = - log 10 (P value)

疾患群は対照群と比較し、左中側頭回、左上側頭回、左上前頭回、右中心 後回における脳表面積の有意な低下を認めた。また、疾患群は対照群と比較 し、右下頭頂小葉の皮質厚に有意な増加を認めた。

(41)

37

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図 2 HCV 関連性の中枢神経障害のメカニズム
図 3 Vertex-wise analysis of cortical surface area in patients compared to  controls
図 4   Vertex-wise analysis of cortical thickness in patients compared to  controls

参照

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