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公民科における学習指導案作成指導上の問題点と試み

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要旨

学習指導案は、授業前の授業計画案であり、授業運営上の基軸となるもので ある。高等学校の公民科は、公民としての資質を育成することを重視し、民主 主義の本質や現代社会の基本的な問題についての理解を深めるとともに、人間 としての在り方生き方についての自覚を深めることを目標にしている。その教 科の性格上、授業の前提となる学習指導案作成においても、現代社会の認識を 深めていくとともに、在り方生き方についての自覚を深めていくことに留意す る必要があり、そのための試みについて言及する。

キーワード

公民科、社会の認識、学習指導案、板書計画、多様な生徒、習熟度

1.はじめに

学習指導案は、授業前の授業計画案であり、授業運営上の基軸になるもので ある。

高等学校の公民科は、公民としての資質を育成することを重視し、現代社会の 基本的な問題についての理解を深めるとともに、人間としての在り方生き方に ついての自覚を深めることを目標にしている。地理歴史科とは異なる、公民科 の性格上、授業の前提となる学習指導案作成においても、現代社会の認識を深 めていくとともに、在り方生き方についての自覚を深めていくことを目指す必 要がある。それを実現するには、従来の学習指導案の作成指導に加えて、段階 をおった丁寧な指導が指導教官に求められている。その指導の試みの一端につ

公民科における学習指導案作成指導上の問題点と試み

(2)

いて言及する。

2.公民科と学習指導案

公民科を地理歴史科と比較してみた場合、実際に授業を行った時に気づくこ とは、地理歴史科においては、地名や年号などの記憶すべき基礎基本的事実・

事柄や固有名詞が多く、公民科では、現代社会の認識と言われるように、事 実・事柄よりも仕組みや構造的なことを教える場合が多いことである。

中学校における地理的分野ならびに歴史的分野と、公民的分野との取り扱い をみても、公民的分野が後の学年に位置づけられている。

初期の総合社会科から系統学習に移行した1958年版の中学校学習指導要領で は、1年で地理的分野、2年で歴史的分野、3年で政治・経済・社会的分野を 学習させ、いわゆるザブトン型教科構造といわれた。それ以降から現在までは、

1・2年が地理的分野と歴史的分野の並行学習で、3年で公民的分野を学習す る、パイ型教科構造である。これらにおいても、公民科が地理的分野や歴史的 分野を学んだ後に学習するように設定されている。

公民科では、事実・事柄よりも仕組みや構造的なことを教える場合が多いこ とを十分考慮するならば、学習指導においても配慮すべきであり、したがって、

学習指導案の指導においても、重要視する必要がある。

「現代の社会について主体的に考察させ、理解を深めさせるとともに、人間と しての在り方生き方についての自覚を育て」 (注1)と公民科の目標にあるよう に、現代社会の仕組みや構造的なことを主体的に考えさせることが求められて いる。

問題は、これらの課題を学習指導案の指導に、反映させ、指導を通していか に学習させることができるか、である。ここには、学習指導上の2つの課題を 見つけることができる。一つは仕組みや構造的なことをいかに理解させるか、

であり、二つめは、いかに主体的に自分のこととして考えさせるか、というこ とである。

前者は、仕組みや構造をいかに丁寧にひも解き、理解させるかということで

(3)

あり、後者は、学習内容を多様な生徒個々人の在り方生き方にかかわるものと して、より深く考えることをさせることができるか、ということである。

現在の多様な生徒に対して、これらのことを目指すには、従来の学習指導案 以上に、より丁寧な学習指導案作成指導が必要となる。

3.学習指導案の作成

先にも述べたように、学習指導案は、授業前の授業計画案であり、授業運営 上の基軸となるものである。実際の授業においては、授業前の想定した学習指 導案通りにはいかない。しかし、あまりにもかけ離れたものであっては、授業 運営の役には立たないのみならず、将来の授業への参考にならない。また、公 民科教職志望学生の学習指導案作成段階で必要となる、多様な生徒を対象とし た授業運営のシュミレーション想定能力が身につかない。

授業実習する前に作成され、授業運営上の基軸になる学習指導案は、教材研 究後にすぐに作成させるべきものではないと考える。公民科の目標が、地理歴 史科と比較しても、より深い理解と態度を生徒に求めているからである。

ここでは、公民科で教育実習をする学生への学習指導案作成指導を前提に、

学生にとって学習指導案作成に必要となる努力の段階について述べたい。

まず、学生の内なる理解が始めとなる。

内なる理解とは、教科書をはじめとする学習指導内容の理解である。教えるべ き内容のポイントや基本となる枠組みや仕組みについて、その重要度などの位 置づけも含めて理解することである。

次には、学習指導内容の元となっている現実の社会の事例などのデータ・情報 を理解することである。教科書の中だけで公民科ならびに社会を教えるのでは なく、教科書を通してその元になっている背景にある現実社会を教えるのであ るならば、当然のことである。

この後に、学生の外への理解が始められなければならない。

学生の学んでいる世界における学習指導内容の理解から、教える対象である生

徒の生活圏で生徒が主体的な考察ができるように、指導内容である社会の仕組

(4)

みなどをより深く理解し、生徒が理解しやすい具体例を考える。意識が大学生 の世界から高校生の世界に行くのである。次に、多様な生徒、習熟度や理解能 力が異なる生徒各層に対応できるように、指導内容を再構成したり、指導方法 を数種考える。基礎基本を中心としてスローステップでこまかい段階で指導を 考えたり、応用的総合的な問題を大きく展開していくことを中心に考えたり、

多様な生徒に対応できる、多様な方法を考えておく。

学習指導案作成までに必要な段階として、このように大きく4つの段階があ ると考える。

この過程において、学生は、授業運営用のノートを作成しながら、後述する

「板書等計画案」ならびに「学習指導素案」において点検しながら、生徒への配 布用プリントを完成させる(注2)

4.学習指導案の作成指導上の問題点

教材研究後にいきなり、学習指導案を作成・完成させた場合、学生の多くは 大学生自身の概念的理解水準で学習指導内容を教えるように学習指導案を作成 することになる。そこには多様な生徒は想定されることはなく、具体的な授業 運営上の工夫を各種考える力を養うことはできない。

公民科で求められているのは、現代の社会について主体的に考察させ、理解 を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を育てるこ とである。早急な知識詰め込み・暗記教育が必要なのではなく、自分の問題と して主体的考えられることである。そのためには、生徒への段階をおった丁寧 な学習指導が、学生に求められているのである。このことは、学生を指導する 公民科教育法の教官にも、学習指導案完成までに、学習指導案作成過程で段階 をおった丁寧な指導をすることが要請されているのである。

段階をおった丁寧な指導を学生にする時系列的な課題ばかりではなく、板書

計画のみならず、発問をはじめとする生徒との対応方法など、多様な生徒を指

導するための種々の空間的に考慮すべき観点からも、学習指導案の作成指導を

(5)

する必要がある。

教材研究によって教材内容が良く理解されていることは教育実習生にとって は、必要なことではあるが、教壇に立って多様な生徒を学習指導する点では、

それだけでは十分ではない。ゼミ論や卒業論文の研究発表と、学習指導とは全 く異なることを理解していない学生が昨今、多く見受けられるがゆえに、この 点を特に強調しておきたい。 (注3)

5.学習指導案の作成指導における試み

公民科の学習指導内容への奥行きのある深い理解力、多様な生徒に対応でき る説明能力などが、公民科教職志望学生に求められている。したがって、学習 指導案を作成する過程において、これらの能力を育成する仕組みも要請されて いると考えられる。ここでは、その試みについて考察したい。

その試みとは、マニュアルなどの手順書によって指導していく方法よりも、

一定の書式の文書を作成・完成させていく過程で、教材研究を深めるとともに、

種々の指導技術を点検・確認していき、授業運営のシュミレーションを繰り返 しながら、授業における学習指導を検討していく方法をとったものである。

従来の学習指導案を作成する以前の指導として試みた、「板書等計画案」と

「学習指導素案」の書式と指導について、次に述べていく。

(1) 「板書等計画案」

この「板書等計画案」はきわめて重要である(図表1・2・3)

板書等とは、書式を参照すればわかるとおり、板書のみの計画ではない。板

書を中心とした計画であるが、そこには、生徒との対応も重視されている。対

象とする生徒の習熟度が、上位か中位か下位か、の区別への認識が求められて

いる。この区別は重要である。何故なら、多様な生徒との対応を重視し、主体

的に学習させる授業ならば、学習内容がつねに、少なくともこの3者の層に対

応させて、教材研究されていてしかるべきだからである。内容とともに内容を

(6)

伝える手段も含めて、である。

いくら栄養があるからといって、乳幼児に肉を食べさせる親はいない。人肌 の温いミルクを飲ませる。乳幼児にはミルクを、しかも飲みやすく温めたもの を飲ませる。学習指導もこうあるべきものと考える。

先述したように、高等学校の公民科は、公民としての資質を育成することを 重視し、現代社会の基本的な問題についての理解を深めるとともに、人間とし ての在り方生き方についての自覚を深めることを目標にしている。そのため他 の教科とは異なる特徴として、社会の仕組みや諸々の関係性を扱うことが多い。

このような仕組みや関係性を説明するには、多くの場合、図解が有効である。

そのため、板書における図解を重視する必要がある。板書を中心に構成した理 由もそこにある。また、習熟度が中位から下位の生徒においては、口頭説明を 長時間集中して聞くことは難しい。そのため、生徒の意識が授業に戻った時の 導きとして、板書は重要な意味を持つことも理由の一つである。

図解などの板書内容に応じた、多様な生徒との対応方法に配慮することは必 要不可欠である。

ミルクを温めて飲ませるように、仕組みや構造的な内容を生徒に学ばせるに は、図解が重要であり、図解の板書に十分な配慮が必要である。

図解を考える上でも、生徒が多様であることを忘れるべきではなく、多様さ を想定できるようにしなければならない。そのために、生徒との対応において は、生徒の習熟度別に上・中・下の欄を設定した。

多様な生徒に対応できる授業を考えるには、教材研究をより深めなければな らない。当初想定した指導内容の、当刻授業時間内で教える場合の、重要度の 順位付けをする必要がある。この順位付けで、後で取捨選択がしやすくなるの である。

ただし、一枚に50分の内容の板書計画を記載するには無理がある。時系列的

な数段階の過程が必要である。10分ごとの板書等計画案を5枚、書くことによ

って、10分ごとのステップで学習指導過程を考えるように設定した(注4)

(7)

〔 指 導内容 〕   〔 学習活動 〕   〔 板書構成等 〕タイ トル 、 構成 、 説明文 、 図解 、 要点明示法 

〔板講義等〕 指示、説明、発問、  資料、方法 予想される  生徒の反応 反応別  教師の対応 − 

(  分 〜   分) № 1・2 ・3 ・4 ・5 〔 指 導 内 容 〕   〔 指導段階 ・ 水準 〕  〔 対 象 の 生 徒 〕   図表1 板書等計画案 

グループ 全 体  

発 問  

順 位  

上 中 下 

(8)

〔 指 導内容 〕   〔 学習活動 〕   〔 板書構成等 〕タイ トル 、 構成 、 説明文 、 図解 、 要点明示法 

〔板講義等〕 指示、説明、発問、  資料、方法 予想される  生徒の反応 反応別  教師の対応 − 

(  分 〜   分) № 1・2 ・3 ・4 ・5 〔 指 導 内 容 〕   〔 指導段階 ・ 水準 〕  〔 対 象 の 生 徒 〕  

図表2 

グループ 全 体  

発 問  

順 位  

上 中 下  ・あいさつ  ・自己紹介  (最初5分くらい)    この単元の目標を  口頭で説明する    今日の学習内容      憲法の3原則        「国民主権」の  意味の確認      国民主権の実践として  議会制民主主義が  採用されていること  ↓  議会制民主主義の        説明 

  生徒の関心を    引きつける        ・資料の配付  (レジュメ)        レジュメに  3原則を  書き込ませる     国民主権の意味を   再確認する  ↓  実践法を考える       議会制民主主義の   内容を理解     代表民主制と   呼ばれる理由に   気づく 

・自己紹介の内容  氏名・大学名・学部名・所属ゼミナール・研究テーマ  「地域政策学部」についての説明・PR → 詳しくは、進路指導の時間に  ※高校卒業後の進路についても、軽くふれておく。「編入」について   H10.3  卒業  →  H10.4 〜 H12.3  浪人  →  H12.4 〜  中大  H13  高経 

氏名については板書する。  ™高校卒業の進路について  図解した方が説明しやすい?      ・資料(レジュメの配布)    空欄をうめる形式で作成  発問:憲法の3大原則      ・国民主権とは…以降を   ( )の中に書いて、理解させる  ↓  国民主権の意味と  その実践である議会制民主主義 について、理解を深める    ①     場合によっては、シラバスを見せて  開講科目から、大学の雰囲気を知ってもらう  ②生徒の反応が特にない   → 深追いせずに、今日の本題に入る    ・ひとり1つ、3つの原則すべて出そろうまで   → あまりにも答えが出なければ、ヒント  −主権、−の尊重、−主義  3人くらいに発言させる 

   第4節.現代日本の政治  1.議会制民主主義の現状と課題  (復習)日本国憲法の3原則(基本原理)  1.国民主権     §1.  2.基本的人権の尊重 §97.  3.平和主義     §9.    ・国民主権とは…(主権が国民にある)   国家の政治上の最終的な意思決定をする  権利が国民にある ということ。  (つまり、政治の主役は国民である ということ)  ・導入 日本国憲法の基本原理 → 国民主権 … 最終決定権が、国民にある ということ     「国民主権」の実践  約1億2千万人いる日本国民のすべてが政治に参加するには?  選挙で選ばれた国民の代表が、議会を開いて政治を行なう。    代表が集まって議会を開く 

01 0

A-   E C-B C B B

      ○ 

  ○ 

      ○ 

※クラスの5分の1 … 8人〜9人以上の生徒に発言させられるように心を配る 

地域政策について    質問が出る(?) 

「総合学部」で  あることの説明 →  ~~~~~ 基本原則ともいう 

+α  興味・映画について     音楽について  インデックス  P26 

P46  P46  5分  → 議会制民主主義  代表民主制 議会制民主主義 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~

導入  → 

(9)

〔 指 導内容 〕   〔 学習活動 〕   〔 板書構成等 〕タイ トル 、 構成 、 説明文 、 図解 、 要点明示法 

〔板講義等〕 指示、説明、発問、  資料、方法 予想される  生徒の反応 反応別  教師の対応 − 

(  分 〜   分) № 1・2 ・3 ・4 ・5 〔 指 導 内 容 〕   〔 指導段階 ・ 水準 〕  〔 対 象 の 生 徒 〕   図表3 

グループ 全 体  

発 問  

順 位  

上 中 下  国民主権の   実践法について  「議会制民主主義」が  採用されていることを      説明する    ・議会制民主主義の   しくみを説明する        ・権力分立の意義   権力の暴走を防ぐため  「権力分立」が行われる    三権分立   均衡と抑制の  仕組みを説明する 

      生徒たちが、  議会制民主主義の  採用理由を理解    しくみを理解する  代表民主制とも  呼ばれる理由に気づく    権力分立の意義を  理解する 

      ・議会制民主主義のしくみを  説明した後で、  「なぜ代表民主制」と呼ばれるのか  理由をたずねる  Ans. 代表者が選ばれる etc    ・日本の政治機構は三権分立により 立法・行政・司法・の3つに分かれて いる。それぞれ対応する名前は?  立法 … 法律を立てる  行政 … 実際に政治を行なう  司法 … 法律を司どる          全体に発問し、挙手  1. 8割くらいが挙手  2. 5割くらいが 〃  3. 3割くらいが 〃    こちらで解説  「代表者を選ぶことで、民主制を実現するから」    立法って何だろう?… 国会  行政って何だろう?… 内閣  司法って何だろう?… 裁判所 

   第4節.現代日本の  1.議会制民主主義の現状と課題  (復習)日本国憲法の3原則(基本原理)  1.国民主権      2.基本的人権の尊重  3.平和主義        ・国民主権とは…   政治上の最終的な意思決定をする権利が  国民にある ということ。  (つまり、政治の主役は国民である)    国民が政治に参加する仕組み  「議会制民主主義」(代表民主制)  …主権者である国民が、選挙で選んだ代表者に  権力行使を委ねる制度 

・権力の暴走を防ぐ仕組み   「権力分立」制度(P15)  日本では、立法・行政・司法の3つに  権力を分け抑制と均衡をはかる三権分立  が採用されている  ・衆議院の解散   §66 連帯責任?  ・内閣不信任決議  §69  ・裁判官の弾劾   §64  ・法律の違憲審査      §81  ・最高裁判所の長たる裁判官の指名  §6  ・命令・規則の違憲審査       §81    最高裁判所の長たる裁判官  最高裁判所長 ?  最高裁の裁判長? 

10 20

A-   E BC D B C

      ○      ○ 

      ○ 

      ○ 

理解は  得られた  ~~~~

~~~~~~

→  →  P46  ~~~~~~~~~~~

~~~~~

~~~~~~ ~~~~~~~~

国民(=主権者)  120,000,000人 

代表者(議会)  権力の行使を   委ねられた人々  議会制民主主義 

480×242人  立法  行政 内閣  Check  and  Balance 権力分立  三権分立  立法:(  )  行政:(  )  司法:(  )  国会  内閣 裁判所 

裁判官の弾劾 

三権分立  違憲審査  長の指名  違憲審査 

衆議院の  解散 内閣  不信任案 

(10)

また、生徒の対応において、発問に関しては、生徒全員に問いかける場合と、

個々人に、問いかける場合とでは異なることも意識させるように書式設計した。

実際に教育実習で使って効果を確認した学生のものを書式記入例として示し た(図表2・3) 。2枚の記入例を見ていただければ、この「板書等計画案」の 書式の使い方の一端を理解することが可能であろう。

(2) 「学習指導素案」

10分ごとの、 「板書等計画案」を5枚つなげたものを1枚にまとめた表であり、

50分を流れの中で総括し、俯瞰し、重点・ポイントを検討する(図表4) 学習内容をいかに教えるか、伝えるかではなく、多様な生徒のどの層の生徒 に、適宜、どのような手段で、どう教え、どう生徒と対応し、導き、どう展開 していくか、に重点を置いたものになっている。

そのため、前提としての教材研究は、公民科の専門用語の世界における理解 ばかりではなく、多様な生徒の生活次元の言葉や具体例で展開できるだけ、十 分咀嚼している必要がある。

グループに習熟度の上・中・下があり、そこに印をつけることによって、そ の層の生徒への学習指導内容や指導方法を確認・検討することができるように なっている。

教材内容の熟知は、教育指導においては当然の前提でしかない。

最も重要なことは、多様な生徒に対応した学習内容と指導技術を駆使すること ができるか、にあると考える。 (注5)

実際の教育現場の授業においては、曜日によって、前後の授業内容によって、

生徒の状態は一定ではなく、多様である。生徒は感情のない機械ではなく、そ

の時々の状況によって生ずる感情に左右される生身の生き物であることを忘れ

るべきではない。特に教育困難校に見受けられる、多様な生徒の多くはその時々

の外部環境などに左右されやすい。きわめて流動的な授業態度であることに十分

留意すべきである。そのためには、授業運営の前提としての曜日や時間帯も配慮

する必要がある。

(11)

学習大単元名  学習 内 容   教 師 の 立場  板書等  生徒 の 学習活動 ・ 作業  生徒 の 反 応 ─ 教 師 の 対応  発問  順位  順位  留意点 

目標  

導 入   展 開   ま と め  

順位  順位 ・   ヤマ 場  

学習指導素案 (授業素案)  ・ 時限  ・ 前後 の 授業科 目   目 標   順位 

・ 備考  本時 の 学習指導 

図表4 学習指導素案  グル ー プ   順 位  

全 体  

個 別  

上  中  下 

(12)

日々変化している多様な生徒に対して、対応して学習内容を指導するには、

教育内容を一元的に伝えるのではなく、多様な生徒に対応できるだけの深い教 材研究と種々の指導方法を検討する必要がある。また、それらの検討の上で学 習指導案を作成し、その上で、実際の教壇に立つべきである。

多様な生徒がいる高等学校に教育実習生として学生を送る以上、多様な生徒 への対応ができるように学習指導案作成を媒介にして、種々の教育技術を指導 したいものである(注6)

この「学習指導素案」を基に、特に順位の欄に留意して、重要度を検討しな がら、指導内容を整理した後に、学習指導案に内容を転記ならびに加筆を行い、

学習指導案を完成させるのである。

参照事例として、10分ごとの「板書等計画案」では、原型と政治経済の学習 内容を示すが、50分としての「学習指導素案」では、書き込まれる前の原型を 示した(図表1・2・3・4) (注7)

6.おわりに

公民科の性格上、生徒が現代社会の認識を深めていくとともに、在り方生き 方についての自覚を深めていくことを目指して、公民科教職志望学生に学習指 導案を作成させるべきである。そのため、学習指導案作成の前段階の指導とし て、 「板書等計画案」と「学習指導素案」の書式と指導の試みについて言及した。

多様な生徒に対して、深い理解をさせる学習指導をすることには、多くの困難

がある。そのための教材研究をはじめ、授業運営上の工夫も必要となる。一定

の書式を埋めていく形で、学習指導内容、教材研究、授業運営上の工夫などが

行いやすくなるように設計し、指導した。実際に教育実習で使って効果を確認

した学生のものを書式記入例として示した。今後も、多様な生徒に対する学習

指導の具体的な方法論や、指導を容易にするシステムの設計などについて、考

察していきたい。

(13)

(注1) 文部科学省『高等学校学習指導要領』大蔵省印刷局 1999年。文部科 学省『高等学校学習指導要領解説・公民編』実教出版社 2006年。

(注2) 生徒への配布用プリントは、公民科においては少なくとも4種類のプ リントが標準として必要であると、筆者は考える。この点に関しては、

後日、別稿において扱いたい。

(注3) 教員養成専門の大学において、マイクロティーチングをされたり、大 学付属の小中学校などで実習している。このことは、教職志望者の教育 技術の習得には、それなりに意味があり有効であると思われる。だが、

この実習で得られる大部分は、教材内容をよく理解でき、学習意欲ある 良い子達に伝えられるか、という教育技術の指導である。あらゆる現場 で適用できる、多様な生徒への学習指導能力が習熟できるというもので はない。教育困難な、問題を抱えている学校現場で適用できるものでは ないことを指摘しておきたい。

有名な受験校で勉強された優秀な学生が、教育困難校では必ずしも優 秀ではなく、逆に問題教師になっていることが多々あることと似ている。

私の25年間の高等学校での5校の教育現場経験で時々認められたことで ある。この点は公立校や私立校を問わず、見受けられた。学校現場から 都道府県の教育研究所に再教育教師として送られる教師の出身高校を調 査すれば、いろいろな課題が見えてくることと思われる。

その原因は単に、問題教師自身の素質の問題と言い切ることはできな

い。教育困難校を経験した頃、異動し赴任してきた時は元気で意欲があ

った優秀な教師が徐々に病んでいくのを何人も見てきた。精神病院に入

院した方やアルコール中毒になった方など、他にもいろいろな方を見て

きた。そこにあるのは、学校現場の仕組みのみならず、教育現場に向か

う前に、どんな教育現場でも一定の結果を出せるプロの教師としての学

習指導法を学び身につけていないことも大きな原因のひとつであると考

える。

(14)

この問題に関しては、別稿において改めて説明したい。

(注4) この10分単位には、3つの意味がある。ひとつは、多様な生徒を対象 とする場合には、数十分単位の一本調子の授業運営では適切な対応が難 しいことである。二つ目は、生徒の集中力の持続時間の長さが短くなっ たことである。テレビコマーシャルの間隔が、近年、短くなっているこ とに対応している。3つ目は、指導する側として、授業運営の計画を行 うにしても、後の評価・反省をするにおいても、授業運営の細部の指導 技術に踏み込んで検討することができることである。

(注5) 高校生が日々、インターネットを自在に活用することができている時 代である。現在の高等学校では、高校生は容易に、公民科の学習内容を より深いレベルまで専門用語で調べることができる。知識量や質の情報 収集機会・環境では、大学生に劣ることはない。そのような、専門知識 をインターネットで調べることができている高校生が必要としているの は、高校生の生活圏で、彼らの生活用語でその内容を説明し、自分の言 葉で納得・理解させることでる。また加えて、学習内容の、現実問題と してのリアルな情報と位置づけである。

(注6) 習熟度が低い生徒が多い学級では、当該授業の時間帯を考慮した上で、

適宜、生徒の作業を計画的に挿入することが求められる。5分から10分 間隔で、教科書にアンダーラインを引かせるなど。教師による長い説明 を聞き続けるには無理があり、時々、生徒に単純作業をさせることによ って、授業に引き止めておく諸種の教育技術は最低限必要になる。また 習熟度が低い生徒が多い学級で行ってはならないことや行うことが望ま しいことなどを教える必要がある。習熟度が低い生徒が多い学級に対す る学習指導案のモデルケースについてや、当該授業の時間帯によって授 業運営の前提が異なる点についても後日別稿にて提示したい。

(注7) ここで書かれている、「板書等計画案」ならびに「学習指導素案」の

用語も、その書式も、すべて筆者の創作である。30年以上前に、筆者が

(15)

教育実習生期間中に必要に迫られて、自分に対して課した書式であり、

実習期間中に試行錯誤しながら改良していったものである。教育実習期 間の前に、関連するものがないかをいろいろと調べた結果、このように 考えられたものは見つけられなかったため、仕方なく自分で創作したも のである。

参考文献:

文部科学省『高等学校学習指導要領』大蔵省印刷局 1999年 文部科学省『中学校学習指導要領』大蔵省印刷局 1998年

文部科学省『高等学校学習指導要領解説・公民編』実教出版社 2006年 文部科学省『高等学校学習指導要領解説・地理歴史編』実教出版社 2006年 文部科学省『中学校学習指導要領解説・総則編』東京書籍 1999年

文部科学省『高等学校学習指導要領解説・社会編』東京書籍 1999年

文部省『高等学校公民指導資料 指導計画の作成と学習指導の工夫』海文堂 1992年

森秀夫『公民科教育法 改訂版』学芸図書 2002年 熊谷一乗『公民科教育』学文社 1992年

社会認識教育学会『公民科教育』1996年

加藤西郷・吉岡真佐樹『社会・地理・公民科教育論』高菅出版 2002年 森秀夫『中等社会諸教科教育法』学芸図書 1991年

社会認識教育学会『中学校社会科教育』学術図書出版社 1996年 日本カリキュラム学会『現代カリキュラム事典』ぎょうせい 2001年 日本社会科教育学会『社会科教育事典』ぎょうせい 2000年

尾鍋輝彦・富田武他編『歴史教育学事典』ぎょうせい 1980年

(やまおか しょうきち 本学教授)

参照

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