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米国科学技術政策の最新動向

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米国科学技術政策の最新動向 ― 2002 年 AAAS 年次コロキウム速報―

Science & Technology Trends April 2002

39 特集 5

特集膤

米国科学技術政策の最新動向

― 2002 年 AAAS 年次コロキウム速報―

同時多発テロが米国科学技術政策に及ぼした影響 および 2003 年度の重点目標

2002年4月11〜12日、ワシント ン DC にて AAAS(American Association  for  the  Advancement of Science)のコロキウム「脆弱 な世界における科学技術―科学技 術 政 策 の 再 考 ― ( Science  and Technology in a Vulnerable World

― Rethinking Our Roles―)」が開 催された。毎年春に開催される同 コロキウムは今年で 27 回目にあ

たり、科学技術政策をテーマとし た会議としては全米で最大規模を 誇る。

今年度は 2001 年 10 月に大統領 科 学 補 佐 官 に 就 任 し た John H.

Marburger 博士をはじめとする米 政府の関係者、大学、研究機関お よび R&D 企業等の研究者および 管理者、政策シンクタンクのアナ リスト、さらに諸外国の科学技術

政策の関係者等、計 500 名以上が 参加し、漓同時多発テロ後の科学 技術政策のあり方や、滷2003 年 度の米連邦政府 R&D 予算の編成 動向等を討議した。

本稿では同コロキウムでの討議 内容や関係者へのインタビュー調 査をもとに、米国の科学技術政策 の最新動向を紹介する。

学・官による取り組み

同時多発テロ以降、Bush 政権 は最優先でテロ対策に取り組んで いる。科学界を代表してこれにい ち早く対応したのが、National Academies1)である。

National Academies の 対応

National Academies は、2001 年 9 月 20 日、Bush 大統領に科学界 の英知を結集してテロ対策に協力 することを申し出た2)とともに、

テロ対策への科学の貢献を検討す る内部委員会を設置した。同委員 会は、Harvard 大学名誉教授の Lewis Branscomb 博士および NCI

( National Cancer Institute) 前 所 長の Richard Klauser 博士の共同 委員長の下、2002 年夏を目処に連 邦政府に最終報告書を提出する予

定である。同委員会は 2001 年 9 月 に第一回目の会合を開催し、連邦 政府に対して省庁横断型のテロ対 策 R&D の推進を提言した。

盪政府テロ対策 R&D タスクフォースの新設

M a r b u r g e r 補 佐 官 は 前 述 の National Academies による提言を 受 け 、 NSTC( National  Science and Technology Council)3)の 下 にテロ対策 R&D を推進する 5 つ のタスクフォースを設置した。

5 つのタスクフォースのうち 4 つはそれぞれ以下のテーマを担当 する。

蘆生物および化学物質の検出・

対処

蘆核物質の検出・対処 蘆重要インフラ保護

蘆社会科学、人間工学によるテ ロ心理の研究

5 つ目のタスクフォースは、各 省庁が提出したテロ対策 R&D プ ロポーザルに技術評価を加え、デ ータベース化する。

テロ対策 R&D は学際領域のも のが多いため、同データベースの 構築は、省庁間のプログラム重複 の回避と、各省庁によるプログラ ム設計の効率化に貢献することが 期待されている。

蘯政府テロ対策 R&D プログラムの中間評価

同時多発テロ以降、いくつかの 省 庁 が 手 探 り 状 態 で テ ロ 対 策 R&D プログラムをスタートさせ た。Marburger 補佐官は、これら の取り組みの効率化を図るため、

現在進行中のプログラムの中間評 価をシンクタンクの RAND 社に 依頼した。RAND 社はこれらのプ ログラムを共通フォーマットのス

はじめに

総括ユニット

清貞 智会

同時多発テロ後の科学技術政策

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40

科学技術動向 2002 年 4 月号

プレッドシートにまとめ、プログ ラムの重複、関連省庁間のギャッ プおよび省庁間の協力可能性等を 明確にしながら、中間評価の準備 を進めている4)

盻人材発掘

同時多発テロ以降、一般市民か ら数多くのテロ対策 R&D プロポ ーザルが連邦政府へ寄せられてい る 。 OSTP( President's Office of Science  and  Technology  Policy)

と、連邦政府の IT イニシアチブ Networking  and  for  Information

Technology  R&D を 統 括 す る NCO(National Coordination Office)

は、上記プロポーザルの提案者に 関する情報を集め、データベース 化を進めている。テロ対策に必要 な民間人の新規雇用に意欲的な Bush 大統領の下、各省庁は同デ ータベースを利用して必要な人材 を集めている。

テロ対策 R&D 予算

同時多発テロ以降、テロ対策 R & D 予 算 は 大 幅 に 増 え て い る

(図表 1)

2003 年度は、テロ対策 R&D 予 算の大部分が NIH のバイオテロ対 策R&Dに充てられる見通しである。

大学の国際性への影響

AAAS の講演で、Georgia 工科 大学の G. Wayne Clough 学長は、

「同時多発テロ後、留学生へのビ ザ発給審査が厳しくなっている。

また国際共同研究の推進にも支障 を来たしている。」と指摘した。

また、カリフォルニア大学 Santa Cruz 校の Greenwood 学長は、「同 時多発テロ後、大学ではイスラム 系を中心に留学生への風当たりが 強く、多くの留学生が帰国した。 と指摘した。

さらに米議会では現在、大学で 科学技術を学ぶ学生(米国市民お よ び 永 住 者 限 定 ) を 支 援 す る Technology Talent Act の制定 が検討されており、同法案が可決 されれば、大学の諸外国に対する 閉鎖性が強まることが懸念される。

大学に期待される役割

テロ攻撃は従来型の戦争と異な って、敵が誰なのか、またどこか ら、どうやって攻めてくるのか不 確かな要素が多い。このため、テ ロ心理の研究や、テロに関する情 報の収集、分析、データベース化 等が大学に期待されている。また、

炭疽菌等のワクチンの R&D、人 物照会の精度を高めるバイオメト リックス研究、危険物を検知する センサー精度の向上等も大学等に 期待されている。

これに対して、Branscomb 名誉 教授は AAAS の講演で、「大学は 積極的にテロ対策 R&D を進め、

米社会の健全性の維持に貢献すべ き で あ る 。 た だ し 、 こ れ ら の R&D は学際性が高いものが多く、

評価方法の整備が急がれる。」と

指摘している。

テロ手段供給源としての 危険性

Marburger 補佐官は AAAS の 講演で、「テロ対策における大学 への期待が大きい一方で、大学は 生物兵器等のテロ手段の供給源と なる危険性がある。」と指摘した。

こうしたリスクを軽減するため、

2001 年 10 月 26 日、大学や NCES

( National  Center  for  Educational Statistics)に、FBI や CIA 等の要 求に応じて、研究者の個人データ を提供することを求める USA Patriot Act が制定された。これ について、Branscomb 名誉教授は、

「同法はテロを事前に防ぐ効果が あるが、研究者のプライバシーが 侵 害 さ れ る 恐 れ が あ る 。」 と AAAS の講演でコメントした。

予算編成動向

2002 年 2 月 4 日、Bush 大統領は 2003 年度予算教書発表した(2003 年度は 2002 年 10 月〜 2003 年 9

月)。同予算教書では 2003 年度 R&D 予算が対前年比 8.6 %増の 1120 億ドルで、特に予算増が顕著 な 機 関 は 、 対 前 年 比 9 . 9 % 増 の DOD(Department of Defense)と、

同じく 16 %増の NIH(National

Institute of Health)である(2003 年度大統領予算教書におけるR&D 予算の詳細は、科学技術動向 2002 年 2 月号の特集「米国R&D政策 動向―連邦政府R&D予算配分に 見る重点領域の推移―」参照)

テロ対策 対前年 R&D 予算 増加率

(億ドル) (%)

2001 年度 5.8

2002 年度 15 159

2003 年度 28 87

図表1 テロ対策 R&D 予算の推移

同時多発テロによる大学への影響

2003 年度政府 R&D 予算

(出典)AAAS  Report  XXVII:  Research  and Development FY 2003

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米国科学技術政策の最新動向 ― 2002 年 AAAS 年次コロキウム速報―

Science & Technology Trends April 2002

41 特集 5

2003 年度の重点領域

2003 年度の重点領域は、ナノテ クノロジーとライフサイエンスで ある。

盧ナノテクノロジー

2003 年度予算教書は対前年増の NNI予算を要求している(図表 2)

ま た 、 M a r b u r g e r 補 佐 官 は AAAS の講演で、2003 年度科学技 術政策の重点テーマの一つに NNI

(National Nanotechnology Initiative)

の推進を挙げた。特に 2003 年度 予算教書では、新たに下記テーマ を計上している。

蘆ナノスケールでの製造プロセス 蘆ナノテクノロジーを利用した 化学・生物・核爆弾の検出およ び処理

蘆ナノスケースを対象とした計

測法および計測器の開発

さらに同教書は、これまで NNI で取り組んできた標準化、人材育 成および産学官連携の強化を求め ている。

なお、連邦政府においては に関する分野概念がまだ流動 的な状態にあると見られる。例え ば、NNI の真中の頭文字 N 一般的に Nanotechnology を表 す が 、 N N I 事 務 局 の N E S T

( Nanoscale  Science,  Engineering and Technology)分科会5)が発表 し た National  Nanotechnology Investment  in  the  FY  2003  Bud- get Request by the President は、 Nanoscale science, engineer- ing and technology を 指 す 場 合 もあることが記載されている。さ らに、Marburger 補佐官はナノサ イエンスという概念を提起し、こ れは有機ナノサイエンス(バイオ テクノロジー)と無機ナノサイエ ンス(ナノテクノロジー)から構 成される領域であるとコメントし ている6)

盪ライフサイエンス

2003 年度は 1999 年度からはじ まる NIH 予算倍増 5 ヵ年キャンペ ーンの最終年度にあたり、2003 年 度予算教書ではちょうど同目標が 達成されている。AAAS の R&D 予算・政策プログラムの Koizumi ディレクターは、「NIH への投資 は国民の支持を得やすい。特に連

邦議会は今年の秋に選挙を控えて いるため、予算教書で要求された NIH 予算を減らす可能性は低く、

むしろ増やすであろう。」とコメ ントしている。

この結果、非国防 R&D 予算に 占める NIH のシェアが拡大し(図 表 3)、分野間のバランス問題が生 じている。

分野間のバランス問題

NIH の予算倍増キャンペーンの 終了を控え、NSF や議会の一部か ら、エンジニアリングや物理学分 野 へ の R & D 予 算 増 加 を 狙 っ た NSF 予算倍増キャンペーンを求め る 声 が 挙 が っ て い る 。 し か し Marburger 補佐官は、分野間のア ンバランスを改善する必要性を唱 えながらも、同 NSF 予算倍増キ ャンペーン案には反対の意を示し ている4)

この背景には、「ライフサイエ ンス予算を増やせば同じように物 理分野の予算も増やすべしという 問題ではない。IT の発展がゲノ ム解析を飛躍的に前進させ、また ナノテクノロジーの発展が材料の 新機能を引き出し、さらに新たな 生命現象のメカニズムを解明した ように、様々な分野が複雑に絡み ながら発展している。こうした観 点に立つと、今後もライフサイエ ンス分野には積極的に R&D 投資 することが大切である。おなじく ナノテクノロジーや IT にも同様

(出典)AAAS  Report  XXVII:  Research  and Development FY 2003

図表 2 NNI 予算の推移

R&D予算(億ドル)

4.7

2001 2002 2003 6.0

8 6 4 2 0

7.1

図表3 非国防予算における NIH シェアの推移

(4)

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科学技術動向 2002 年 4 月号

に重点投資することが大切であ る。」との同補佐官の考えがある。

同方針について、SRI Interna-

tional 社の Peterson ディレクター は、「先見性が高く、今後の科学 技術政策の展開が楽しみである。

とコメントしている。

Bush 政権は R&D マネージメン ト を 重 視 し 、 OMB( Office  of Management  and  Budget) を 通 じて各省庁に漓R&D 投資のクラ イテリアの開発、滷同クライテリ アを用いた各 R&D プロジェクト の評価、澆同評価結果の次年度予 算要求への反映を命じた。

既にBush大統領は2001年5月に 発 表 し た NEP( National  Energy Policy)において、DOE(Depart- ment Of Energy)にこれらの作業 を命じており、DOE が開発した 応用研究と開発の投資クライテリ アはその他省庁にも適用され、基

礎研究の投資クライテリアは各省 庁が独自に開発することになって いる。DOE の評価結果は 2003 年 度予算要求に反映される予定であ ったが、DOE が基礎研究の投資 クライテリアの開発に手間取った ため、評価結果の反映は 2004 年 度予算要求に先延ばしとなった。

これに対して、NAS(National Academy of Sciences)は 2002 年 2 月、DOE や OMB の関係者や産学 の有識者を集め、基礎研究の投資 クライテリアの開発について議論 するワークショップを開いたが、

参加者は総論では OMB の要求を

支持するものの、長期的かつリス クの高い基礎研究への投資効果を 簡単なクライテリアで評価できる のか、あるいは萌芽的な研究を潰 すのではないか等の懸念を示した。

Marburger 補佐官は AAAS の 講演で、各省庁の R&D プロジェ クトの審査で用いられるピアレビ ューを効果的に行うため、評価ク ライテリアの開発・整備に意欲を 示したが、サイエンスコミュニテ ィからは「ピアレビューで詳細な クライテリアを設定することは、

評価の形骸化につながる。」との 懸念が湧き上がっている。

同時多発テロが米国の科学技術 政策に与えた影響は大きく、様々 なテロ対策 R&D プログラムが実 施・計画されているが、かなり錯 綜しており早急な調整が求められ ている。

また 2003 年度、Bush 政権はナ ノテクノロジーとライフサイエン スを重点化する予定であり、この 傾向は当面続く見通しである。た だし、拡大する赤字財政を考慮す れば、政府の R&D 投資の効率化・

見直しが必要であり、Bush 政権 が重視する R&D マネージメント の行方が注目される。

01)米国のサイエンスコミュニテ ィを代表する研究者等で構成。

02)"Federal Research and Develop- ment  for  Counter  Terrorism:

Organization,  Funding,  and Options",  November  26,  2001, CRS Report for Congress 03)ホワイトハウスに設置された

委 員 会 。 主 に 連 邦 政 府 の R&D 資源配分の調整を行う。

メンバーには副大統領、大統 領科学補佐官、科学技術関連 省庁の長官、関係部局の長、

その他ホワイトハウス高官お よび大統領が任命した有識者

等が含まれる。

04)"Statement  of  The  Honorable John H. Marburger, III, Direc- tor, OSTP", December 5, 2001, House Committee On Science 05)NSTC の下に設置

06)"Speech of Dr. John Marburger;

Science  Based  Science  Policy", February  15,  2002,  Boston, Massachusetts

07)"University  Research  in  the News", 02-04 February 8, 2002, Association  of  American  Uni- versities

政府 R&D マネージメントの見直し

おわりに

参照

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