経営 と経済 第85 巻 第 3・4号 2006 年
2月
金先物市場の 日中価格変動 と取引時間間隔
森 保 洋
Abstract
ThisarticlestudiestheintradayrelationshipbetweenprlCeChange andtimeintervalsoftradeongoldfutures.Theautoregressivecondi‑ tionalmultinomial‑autoregressiveconditionaldurationmodelproposed byRussellandEngle(2005)isestimatedwithtickdataonthegoldfu‑
tureslistedontheTokyocommodityexchange.EmplrlCalstudyshows evidencesoftime10f‑dayeffectsinthedistributionofpriceChangeand 仇etimeintervalsbetweentrades.Thispaperalsofoundthatlongdura‑ tionsareassociatedwithconstancyofprlCe.Thisisinconsistentwith theresultofRussellandEngle(2005).
Keywords:MarketMicrostmcture,ACM‑ACD Model,Commodity Futures
1
.は じ め に
昨今の国際商品価格の高騰 により,価格変動 リスクをヘ ッジす る手段 とし ての商品先物市場が実需家か ら以前 に増 して注 目されている。 さらに,株式 市場 との連動性が低い国際商品先物市場はオル タネ イテ ィブ投資の対象 とし て も有力視 されている。 この ような商品先物市場 に関するニーズが高まるの に呼応す るかたちで,2004 年 に商品取引所法が改正 され,2005 年
5月に施行 された。この法改正 によって,アウ トハウス型 ク リアニソグハ ウスの導入や, 委託者財産の保全制度の拡充な ど,商品先物取引システムの信頼性向上が期 待 されている。
商品先物市場が多 くの投資家か ら利用 されるためには,法改正 による取引 システムの整備 もさることなが ら,市場が効率的な ものである必要があるだ ろう。市場の効率性 を含めた,我が国の商品先物市場 に関する実証研究 には 以下の ものがあげ られ る。
羽森 ・羽森
(2000)は東京穀物商品取引所 とシカゴ商品取引所で取引される
410 経 営 と 経 済
トウモ ロコシ と大豆の 日次デー タを用い,
GARCHモデル,
GJRモデルの 推定を行 うことによって 日次収益率のボラテ ィリテ ィの変動特性 を分析 して いる。分析の結果,全ての分析系列 において
GJRモデルにおけるボラティ
リティの非対称項は有意ではな く,
1期前の価格変動の符号は今期のボラテ ィリテ ィの増加に違いをもた らさない ことを示 した。
飯原ほか
(2000)は
Schwaltz(1997)のモデルを東京工業品取引所 ( 以下, 東工取 と略す) とニ ュー ヨー ク商品取 引所 で取 引 され る金先物 の 日次価格 データに適用 している。 このモデルではコンビニエンス ・イール ドが直接観 測不可能な時変パ ラメータ として取 り扱われ,カルマン ・フィル タを利用 し て推定 される。推定結果 より,コン ビニエンス ・イール ドは時間 とともに変 化するもの と考 え られ ること, 日米間の市場構造 は異なるにもかかわ らず, 両市場 における金先物 の価格変動特性は似通 っていることを示 した。
渡部 ・大森
(2000)は価格変化率 と取引高を同時に説明する
2変量分布混合 モデルを
MarkovChainMonteCarlo法を用いてベ イズ統計学のアプローチ で推定 している。分析対象は東工取 で取引されている金,級, 白金,綿糸
40単および大阪繊維取引所上場の毛糸の先物 日次デー タである。分析の結果か
ら, 2変量分布混合モデルで価格 と出来高の両者の変動 を説明で きるのは毛 糸だけであることを示 した。
以上の先行研究が, 目次データを利用 した分析であったのに対 し,芹 田ほ か
(2005)は 日中のすべての取引を記録 したデータ,いわゆるテ ィツク .デー タを利用 した分析を行 っている。様 々な取引関連変数 について,その 日中変 動パ ターンを検証 した結果,時間帯別の出来高,約定総代金についてはいわ ゆる
W字型を,約定件数 とボラテ ィリティは
U字型を示 していることを明
らかに した。
この ように,我が国の商品先物市場 に関する実証分析は蓄積 されつつある
ものの,テ ィツク ・データを利用 した研究は緒 に就 いたばか りである。 より
よい取引制度を設計す るためには,流動性の測定な ど,テ ィツク ・データを
利用 した実証分析の蓄積が不可欠である と考 え られる。以上の問題意識 か ら, 本稿では我 が国商品先物市場 において,取引が活発 に行われている商品の一 つであ る金先物 に着 目し,その 日中における価格変動 と取引時間間隔の関係 をマーケ ッ ト ・マイクロス トラクチ ャーの観点か ら実証的に分析する0
本稿は以下の ように構成 される。第 2節では本分析で利用す るデータセ ッ トの作成方法 と,デー タセ ットを用 いた予備的な分析が行われる。第
3節で は本稿で推定 されるモ デルについて述べる。推定結果 とそのインプ リケーシ ョンは第 4節で論 じられる。最後に第 5節で本稿の結論 と今後の課題を述べ る。
2
.データ
2.1
データセ ッ トの作成
本稿では東工取で取引される金先物のテ ィツク ・データを利用 して分析を 行 う。分析期間は2
003年
1月
7日か ら
2003年
3月31 日の
3ヶ月間 とする。金 先物は各営業 日に
6限月が上場 されてお り, これ らが取引時間中に異なった 価格で取引 されている。本稿では各営業 日で最 も取引量が多かった限月のテ ィック ・デー タを抽出 し,それ らをつなぎ合わせ ることによって時系列デー タを作成す る
1。次に作成 したデータの中か ら,値幅制限に達す る価格変動が生 じた営業 日 のデー タを削除する。 これは値幅制限に達 した価格は市場の均衡価格を表 し ていない と考 えるか らである。具体的には
2月
6日,12日
,13日,および
3月1
4日
,17日の
5営業 日のデータを削除する。
金先物の取引時間は午前
9時か ら午前
11 時 と午後1
2時3
0分か ら午後
3時3
01 芹 田ほか(2005)は,各営業 日において残存期間が最 も短 い ものか ら順 に並べ,「番限 1」, ‥.
,
「番限6」 とした。 これ らを同 じ番限毎につなぎ合わせることによって, 6つ の系列 を作成 し,各系列 についての分析 を行 っている。東工取では最 も残存期間が長い 限月の先物 が活発 に取引される傾向にあ るため,本稿で作成 したデータ系列は,芹 田ほ か(2005)でいうところの 「番限6」 とほぼ同一の もの となった。412 経 営 と 経 済
分であるが,データにはこれ らの時間帯以外のタイムスタンプが記されてい るものが散見 された。 この ような取引時間帯外のデータは異常な もの と見な し削除す る。さらに,午前 と午後の取引の最初 と最後で行われる板寄せによ って得 られるデータについて も削除する。 これは,板寄せによる価格形成が ザラバでの価格形成 と異なる性質を持つ可能性があるか らである。
また,同一時刻に同一の価格で約定 されたデータについては, 1つの取引 としてデータを併合する。 これは,第
4節で行 う取引時間間隔の分析におい て,取引時間間隔が
0のデータを用いてモデルを推定すると,不都合が生 じ る可能性があるか らである。
以上の方法で分析 データを作成 した結果
,97617レコー ドがデータセ ット に含まれた。次項ではこのデータセ ットを利用 して予備的な分析を行 う。
2.2
予備的分析
図
1は 日中の 1回の取引における価格変化の分布 を表 したヒス トグラムで ある。図か ら明 らかなように全取引の約41
%は価格変化を伴わない取引である。価格変化が生 じる場合でも,その価格変化幅は呼び値の最小単位である
≦‑2 ‑1
0
1 ≧2図
1:日中価格変化のヒス トグラム1
円である場合がほ とん どであ り,
1回の取引で
2円以上の価格変化が生 じ るのは
0.3%と極めて稀である。また,価格変化の分布ははば対称である。
2
円以上の価格変化 がほ とん どなかったため,i番 目q) 取引における価格 変化状態を表すベ ク トル
Ⅹiを
xi‑ (Ni
l
,Xi2)
I‑(
1
,0)′l
f yi<0(0,0)
′l
f yi‑0 (0,1)′l
f yi>0と定義する. ここで
, yiは
i番 目の取引における価格変化である。
図 2は xi l ,Xi 2g) それぞれのコレログラム と,両者間の相互相関係数を示 している。
1次の 自己相関係数をみると
, xi,1, Xi,2ともに有意に負であるの で, 1回前の取引によって価格上昇 ( 下落)が生 じれば,次の取引では価格 が下落 ( 上昇)するか,価格変化がない場合が多い ことが示 される。また,
自己相関:価格上昇 80 寸0 00 寸OI JOく 申 0 寸 0 0 0 † 0‑ LQ V
1 0 1 5 2 0 L a g
自己相関:価格低下
10 15 20
L叫 相 互 相 関
‑20 ‑10 0 10 20
Lag
図 2:価格変化状態の 自己相関 と相互相関
414 経 営 と 経 済
相互相関係数をみると,
±1 次のラグで有意に正の値を とっている。 このこ とから,
1回前の取引により価格上昇 ( 低下)が起 きると,次の取引で価格 低下 ( 上昇)が起 きる傾向があることを意味 している。 これは,いわゆるビ
ッドーアスク ・バウンス現象を捉 えた もの といえよう。 2次のラグは自己相 関係数,相互相関係数 とも有意であるが,その係数の絶対値は
1次のそれに 比べて非常に小さい。また,
3次以降のラグではほ とん どの係数 について有 意ではないことがわかる。
次に,取引時間間隔の時系列特性 を分析する。図
3(a)は取引時間間隔の コレログラムである。 自己相関係数 は
1次のラグで
0.2程度の値 を とり,ラ グの次数が増 えるに従 って,非常に緩やかに減少 している。 これ より,取引 時間間隔は長期間にわた り過去の影響 を受けることがわかる。 また,図
3(b)
は第
2.3節で後述 される日中季節性調整済み取引時間間隔のコレログ ラムである。 日中季節性を調整 して も,取引時間間隔の過去への依存性はほ
とんど変化がないことがわかる。
(a)
取 引 時 間 間 隔
9[0寸.00.0
LDV の.〇寸.00.0
」UV
0
10 20 30 40 50Lag
(b)
日中 季 節 調 整 済 み 取 引 時 間 間 隔
0
10 20 30 40 50Lag
図3
: 取引時間間隔のコレログラム
2.3
日中季節性の検証
ティック ・データを用いた株式市場 に関する先行研究では,収益率のボラ ティリティや取引回数な どに 日中季節性が観察 されている。例 えば,森保 ・ 須
斎 (2004)は大阪証券取引所 とシンガポール取引所 に上場 されてい る 日経
225先物 について,
1分あた りの取引回数 が前場 と後場の取引開始直後 と取 引終了直前 に増加す ることを示 している。また,前述の ように我が国金先物 市場については,芹 田はか
(2005)が出来高,約定総代金,約定件数がいわゆ る
W字型の 日中季節性 を,ボラテ ィリテ ィが
U字型の 日中季節性 を示す こ
とを明 らかにしている。
ここでは,価格変化 と取引時間間隔の 日中季節性 についての検証 を行 う。
表 1は( 1 ) 式の xi l
, Xi2をそれぞれ被説 明変数 とし,取引時間帯 ダミー
ditを説明変数 とした回帰分析,すなわち
9xlj‑C+∑ ∂Jこ1tjdit+ヮIj(j
‑
1,2) (2)を推定 した結果である. ここで
, diiは
i番 目q) 取引が第
t+1時間帯に発生 していれば 1,そ うでなければ
0を とるダ ミー変数である。取引時間帯は, 日中の営業時間を取引開始か ら
30分・ ごとに区切 り
,10個の営業時間帯を作成 し利用 した。 また, mJ yは正規分布に従 う誤差項である。
被説 明変数が
xl,x2の場合 ともに,推定 された回帰係数はすべて負の値 を とっている。 これは,午前の取引開始直後の
30分間に くらべ,他の時間帯は 価格上昇ない しは価格下落が生 じる可能性が低い ことを意味 している。言い 換 えれば,午前の取引開始直後の
30分 に比べ,他の時間帯のボラティリティ が低い と言 うことであ る。時間帯別の回帰係数 をグラフ化 した ものが図
4で ある。 この図か ら午前の取引開始直後
30分間 と,午後の取引終了直前
30分間 のボラティリティが高い ことがわかる。また,午前の取引終了前
30分間 と, 午後 の取 引開始直後
30分間 もややボ ラテ ィリテ ィが高 い。 これは芹 田ほか
(2005)
の結果 と整合的である。
経 営 と 経 済
表 1:価格変化 の 日中季節性
係 数 標準誤 差
c 0.3165 0.0045
‑0.0185 0.0061
‑0.0274 0.0063
‑0.0237 0.0064
‑0.0242 0.0071
‑0.0290 0.0066
‑0.0274 0.0067
‑0.0340 0.0067
‑0.0350 0.0067
‑0.0128 0.0061
係 数 標準誤差 0.3200 0.0045
‑0.0215 0.0061
‑0.0316 0.0063
‑0.0299 0.0064
‑0.0232 0.0071
‑0.0331 0.0066
‑0.0305 0.0067
‑0.0382 0.0067
‑0.0393 0.0067
‑0.0165 0.0061
0
51500o・ooii」iii図
4:価格変化 の 日中変動の推移図
5は取引時間間隔を平滑化 した ものをプロッ トした ものである
2。横軸 は取引開始時間であ る午前
9時を基準 とし,取引開始 か ら経過 した時間を秒 単位で表 している。縦軸は取引時間間隔 ( 秒)である
3。
この図 よ り日中の取引時間間隔は逆
U字型 を していることがわかる。す なわち,午前の取引開始直後 に最 も取引時間間隔が短 く,午後
1時3
0分〜 2 時近辺 まで取引時間間隔は長 くなってい く,そ して午後の取引終了に向けて 再び取引時間間隔が短 くなっていることがわかる。言い換 えれば,午前の取 引開始直後 と午後の取引終了直前に取引が非常 に活発である一方,それ以外 の時間帯,特 に午後
1時3
0分〜 2 時近辺は相対的 に取引が少ないことがわか
る。
分布混合仮説
(Clark(1973))によれば,単位時間あた りの取 引回数が増 え れば,ボラテ ィリテ ィは増大する。 この仮説が正 しければ,図
5は取引開始 時間直後 と取引終了時間直前にボラテ ィリテ ィがほかの時間帯 より高い こと を意味する。 この ことは,芹 田ほか
(2005)の分析結果 と整合的である。
EngleandRusse
l l
(1998),
RussellandEngle(2005)に倣 い,取引時間間隔 は確定的な 日中季節性 とそれ以外の部分に分割で きるもの とし,以下の分析 では 日中季節性を調整 した取引時間間隔のモデル化を行 う。 日中季節性の調 整は
T
iL
:I=
; : ) , ・
(3)2 平滑化のアルゴ リズムは Friedman(1984)の手法を利用する。実際の平滑化には統計解 析ソフ トウェア R のsupsmu関数を利用する。
3 図の中央付近で平滑化 曲線が途切れているのは,午後の取引開始時刻である12時30分 か ら12時40分までの間にほ とん ど取引が行われていないか らである。 これは,東工取の 取引ルールに起因する。東工取では午前 と午後の取引開始直後 に一斉 に6限月の取引を 開始す るわけではな く,残存期間が短い ものか ら順次2分 ご とに取引が開始 される。本 稿におけるデータセ ッ トの大部分は最 も残存期間が長 い限月の ものか ら構成 されている ため,ほ とん どの営業 日において午後の取引開始時刻は12時40分になっているのである。
同様に9時から9時10分の間 も平滑化曲線が存在 しないことに注意されたい。
418 経 営 と 経 済
で行われる. ここで, T iは i番 目の取引における取引時間間隔, ¢( t i )は i番 目の取引が発生 した時間 糾こおける取引時間間隔の平滑値である。
以下では特 に明示 しない限 り 「 取引時間間隔」を 「日中季節性調整済み取 引時間間隔」の意味で利用することにする。
∞
(qJ≠)帽巴
匝
匝望E宙0 5000 10000 15000 取引時間 (秒)
図5 :取引時間間隔の平滑化
3.
価格変動 と取引時間間隔のモデル化
本稿では, 日中の取引における価格変化 と取引時間間隔の関係を検証する
ために
RussellandEngle(2005)の
AutoregressiveConditionalMuト tinomial‑AutoregressiveConditionalDurationモデル ( 以下
ACM‑ACDモデ
ル と略す)を利用する。 このモデルでは取引時間帯中の
i番 目の取引によっ
て生 じる価格変化を
yi , i ‑1 番 目の取引 と
i番 目の取引の時間間隔を
Tiとし, これ らの過去の条件付 き同時密度関数
f(yi,T
iiy( i l l ) ,I ( i l l ) )を定式化する。
ここで
, y(ill),T(il l )はそれぞれ i ‑1 期以前の価格変化 と取引時間間隔に関 する情報である。 この同時密度関数は
f(yi,TiIy(i‑1),T(
i l l ) )
‑g(yiLy(i l l )
,T
(i))q(Tiry(iJ),T(i ‑ 1 ) )
(4)と,
2つの条件付 き密度関数の積に分解で きる .q(
TiIy(
ill),I(il l ) )は過去 の条件付 きの取引時間間隔に関する密度関数であ り
,g(yily( i l l ) ,I ( i ) )は過 去の価格変化 と取引時間間隔に関する情報および今期の取引時間間隔の情報 が与えられた場合の価格変化に関する密度関数である。
q(
TiIy(ill),I(il l ) )のモデル化の試みは
AutoregressiveConditionalDura‑ tion(以下
ACDと略す) モデル
(EngleandRussell(1998)
)をは じめ として,
NonlinearACDモデル
(Zhangetal(2001 ) )
,Log‑ACDモデル
(Bauwensand Giot(2000)
)などで行われている
.ACM‑ACDモデルでは,これ らq) 成果を 援用 L q(
Tily(ill),I( i l l ) )を定式化する. さらに, 1回の取引において,価 格変化が生 じない確率 に対するある価格変化が生 じる確率の比の対数値 を定 式化することによって,価格変化の分布
g(yiiy(il)
,I(i))を導 出する。以 下では本稿で推定する
q(Tily(ill),I(i‑1 ) )および
g(yiIy(i‑1),I(i))の定式化
について述べる。
3.1 ACD モデル
ACD
モデルでは
,i番 目の取引時刻 と i ‑1 番 目の取引時刻 との差 ( 取引 時間間隔
)Fiを
T i=
QiEi (5)420 経 営 と 経 済
と定式化する. ここで,
gi(i ‑1 ,‥.
,N)は独立かつ同一な分布 にしたが い,非負値 を とる平均
1の確率変数である。 Qiは過去の情報 に よって定式 化 される変数である.本稿ではパラメータの推定が他の
ACDモデルに比べ 容易な
Log‑ACD (u,uJ)モデルを採用する。すなわち,
u w
A
l
n (Qi
)‑ W
+j=∑
α jei ‑ i +
∑ pJlln
(Qi‑i) +
∑p , ・
Zi,jl
I
‑1 j=l (6)と定式化する。 ここで
,zi,jは外生変数, p , ・ は対応するパラメータである。
£i
が したが う分布を特定すれば,最尤推定が可能になる.本稿では e iが 平均
1の指数分布にしたがうと仮定 して推定を行 う。 この場合
ACDモデル の対数尤度関数は
〟
lnLACD‑‑ ∑lfL=1n
Q i ' 音
となる。
(7)
3.2 ACM‑ACD
モデル
AutoregressiveConditionalMultinomial
( 以下
ACMと略す)モデルは離 散的な状態遷移を定式化するモデルの一種である。株式や為替,商品先物 な どの金融商品の価格変化は連続的な もの としてモデル化 される場合が多 い が,現実の取引では,価格変化は必ず呼び値の整数倍 とな り,離散的なもの である。 さらに,図
1か らも明 らかなように,金先物の ような取引が活発 に 行われる商品においては,
1回の取引における価格変化のパ ターンは,価格 変化が 0ないしは呼び値の
± 1‑ 2倍程度 と,数種類に限定 される。 したが って,
ACMモデルは金融商品の 日中価格変動をモデル化するりに適 したモ デルの一つ と考えられる。
起 こりうる価格変化の数を kとし
, Ⅹiを
i番 目の取引における状態を表す
(k‑1 ) 次の列ベク トル とする。 ここで
, Xiの第
j(‑1, . ‥
,k‑1 ) 成分は
i番
目の取引において j 番 目の状態が実現する時 1を とり,それ以外の場合には
0を とるもの とする
。k番 目の状態が実現されている場合は
, Ⅹiがゼロベク トルになる。
また,
7riを i番 目の取引における状態が j となる過去の条件付 きの確率 を表す
(k‑1)次の列ベ ク トル とする。すなわち, 7 riの第 j 成分は, i番 目の 取引における状態が jとなる確率を表 し,k番 目の状態が実現する条件付 き 確率は
1‑('7riで表 される。 ここで,
tは成分が全て 1の
(k‑1 )次q) 列ベク
トルである。
ACM
モデルは条件付 き確率ベク トル
7Tiを直接定式化するのではな く, j 番 目の状態 と k番 目の状態が起 きる確率比の対数値を定式化する。すなわ
ち,
ACM(P , q) モデルは
♪ q
h(打i)‑C+∑Aj(Ⅹi‑j‑7Ci‑j)+∑Bjh(7ri‑j)+x2:i
j‑1 j‑1 (8)
と定式化される. ここで
,h(7ri)はロジステ ィック関数の逆関数であ り,
Ajは
(k‑1 ) 次 の正方行列,
Bjは
(k‑1)次の対角行列である。 また
,Cは定数 項を表す
(k‑1)次の列ベク トル
,ziは外生変数を表す r次の列ベ ク トルであ
り
, xは対応するパラメータを表す
(k‑1
)×r行列である。
(8)
式 から
1番 目か ら( k‑1 ) 番 目の状態が実現する条件付 き確率は
7 T i = e X P [ C + , ∑ f l A A j j ( ( Ⅹ Ⅹ i i 7 7 . . 一 一 打 打 i i ‑ ‑ j j ) , + ・ , ∑B flB
jjh h
((7wiTi‑‑jj), + I x x z z i i ]
・(
1+E , e x p l c
・,flAj(xi‑j一 打i‑i,I,fl
Bj h ( w i ‑
j) +x z i
])llで表現 され る. これ より,
ACMモデルの対数尤度関数 I n
LACMは
〟
l n
LACM ‑∑
恵;Aln元ii
‑ 1
(10)422 経 営 と 経 済
とかける。 ここで,嘉 ‑( Ⅹ ;
,1‑E'
Ⅹi),k
i'‑(7Ti
',1‑('
7Ti)である。
サンプルのサイズを Ⅳ とした とき,価格変化 と取引時間間隔の同時密度 関数
f(yl , …
,yN,T
1, ‑.
,TN)は
(4)式 より,
〟
f(y1
,. . .
,yN,T
1,. . .
,TN)‑ni‑if(y
i,TiIy( i l l ) ,I ( i l l ) )
‑n〟g (yily(ill
),
T(i))
q(Tily(i‑ 1 ),I
(i‑
1)) i‑1
であるか ら,
ACM‑ACDモデルの対数尤度関数
lnLACM̲ACDは,
N N
lnLACM‑ACD‑i∑ l‑1ng(yiIy
( i l l ) ,
I(i))+∑ li‑1nq(T I ,
iy(ill),I(i‑1 ) )
‑
lnLACM+
1nLACDとな り,
ACMモデル と
ACDモデルの対数尤度関数の和 として表現できる。
両者の対数尤度関数が共通に依存す るパラメータは存在 しないので,
ACM‑ACD
モデルの推定は,
ACMモデル と
ACDモデルの推定を独立に行 うこと によって も実現することができる。
4.
推定結果
4.1 ACM‑ACD
モデルの推定 表
2は
ACM‑ACDモデル
ACM:
h( 7 T i ) ‑+ ノ ∑ ‑ 1 A j ( X i 7 ・
17T
i‑ j ) + ノ ∑ ‑ 1 B j h ( 7 T i ‑ , )+I
I,丁α⁚.Tα ㈹
ACD:
Ti‑ ¢igi, ei〜 t,i
. d.
exp( 1 )
2 2 2
1n(¢i)‑a+j∑ α‑1jEi‑i+)∑‑1p]11n(在 j)+ }∑ p,‑1 yyi‑j+ Ezi
両
を推定 した結果である。 ここで, T
l・,y
i,Ziはそれぞれ
i番 目における取引時 間間隔,価格変化,残存期間であ り,diは第 2.3節で利用 した取引時間帯 ダミ‑であ る。 また,
A j ‑ ( ≡ l l a a ; 2 2 ) , B j ‑ ( . b l
bO2) ,
X‑ (;≡ll xX 三22 ;;33) , ♂ ‑ ( BB三: ・'.l・' 88 三;) (15,である。 また,
ACMモ デル におけ る状態
1,2,3はそれぞれ 「価格下落」,
「 価格上昇」
,「 価格変化な し」を表 す。モデル中のラグの次数は
AICを最 小 とする次数 を選択 した。取引時間帯 ダミーを導入するのは,第
2.3節 に おける予備的分析 において価格変化 に 日中季節性 が存在 されることが示唆 さ れたか らである。
現時点での取引時間間隔が価格変化確率 に及 ぼす影響 を示 しているのが
x
l l
,X21 であ る。両者 とも
‑0.4程度 の値 を とってい ることか ら, 1回前 か ら 今回の約定 までの取引時間間隔が長 い と価格変化 が起 きる確率が低 くなるこ とがわかる。一方
,RussellandEngle(2005)では,取引時間間隔が長 くなる と価格が下落する確率が高 くなることを報告 している。 この違いは,分析対 象が本稿では金先物であるのに対 し,Rus
sellandEngle(2005)では,米国株 式市場の個別銘柄であ ることに起因 していると考 え られる。
RussellandEngle(2005)
では,取引時間間隔が長 くなると価格 が下落す る
確率が高 くなる理 由を,Di
amondandVerrecchia(1987)の理論モデルに求
めている。 このモデル によれば,空売 りに関する制限がある市場 では,悪い
ニ ュースが市場に流入 して も,投資家が望む ように空売 りがで きず,その結
果取引時間間隔が長 くなる傾 向がある。
424 経 営 と 経 済
一方,金先物市場では空売 りに関する規制は現物株式市場 より緩やかであ るため,悪いニ ュースが市場に流入すれば,即座に空売 りすることが可能で あると考 えられる。 したがって,
RussellandEngle(2005)で見 られた現象が 本分析では見 られないのではないだろうか。
取引時間帯ダミー,
all,.‥,∂1
9, ∂21,.‥,∂29をみると,すべてが負の値 を とり,午前の取引開始直後 に くらべ,他の取引時間帯においては価格変動 が起 きる確率が小さ くなることが示 された。 日中取引時間帯ダミーが価格変 化確率に与 える影響 のパターンは第
2.3節 とほぼ同じである。すなわち, 午前の取引開始直後 と,午後の取引終了直前の時間帯にもっとも価格が変動 する傾向が見受け られる。
モデルの
ACD部 の推定結果では,
β1+β2が0.
9998と極めて
1に近い値 を とり, 日中季節調整後でも,取引時間間隔は過去に強い影響を受けること が示 され る。また,
p1‑0.0162より, 1回前の取引において価格が上昇 し ていれば今期の取 引時間間隔が長 くな る。 また,
E‑0.016であ るので, 取引され る金先物の残存期間が長ければ取引時間間隔 も長 くな ることがわ
かる。
表2 :ACM(3,3トACD(2,2)の推定結果
状態 1 状態2 ACD
C1 ‑0.4487 C2 ‑0.3713 a7 ‑0.0146 (0.0478) (0.0538) (0.0031)
Al all l2.5867 a21 2.5029 (0.0410) (0.0263)
α12 2.0147 α22 ‑2.9669 (0.0267) (0.0395)
A2 all 1.4555 a21 ‑2.0575 (0.2104) (0.2031)
α1 0.0432 (0.0028)
α2 ‑0.0382 (0.0027)
β1 1.7801 (0.0216)
All
α12 ‑1.1857 α22
(0.1671)
all 0.3164 aZl (0.1839)
a12 ‑0.0075 a22
(0.1435)
bll 0.3285 b22
(0.0804)
b11 0.2128 b22
(0.0547)
bll 0.0131 b22
(0.0171)
xl1 ‑0,4423 x21 (0.0108)
x12 0.1877 (0.0369) x13 0.1105
(0.0319)
∂11 ‑0.0353 (0.0122)
∂12 ‑0.0573 (0.0136)
∂13 ‑0.0366 (0.0129)
∂14 ‑0.0522 (0.0144)
∂15 ‑0.0486 (0.0138)
∂16 ‑0.0308 (0.0133)
x22
x23
∂21
∂22
∂23
∂24
∂25
∂26
2,4121 (0.2420)
0.2767 (0.1637)
‑0.1514 (0.1959)
0.5792 (0.0802)
0.0990 (0.0504)
‑0.0237 (0.0147)
‑0.4131 (0.0114)
0.2311 (0.0389)
0.0735 (0.0297)
‑0.0337 (0.0107)
‑0.0513 (0.0123)
‑0.0489 (0.0122)
‑0.0447 (0.0126)
‑0.0486 (0.0125)
‑0.0286 (0.0112)
Pl
PZ
‑0.7803 (0.0216)
0.0162 (0.0066)
‑0.0164 (0.0066)
0.0016 (0.0005)
426
∂17 ‑0.0520 (0.0141)
∂18 ‑0.0550 (0.0142)
∂19 ‑0.0151 (0.0117 )
∂27 ‑0.0512 (0.0128)
∂28 ‑0.0586 (0.0133)
∂29 ‑0.0299 (0.0104)
経 営 と 経 済
最大対数尤度 ‑168581.74 AIC 337267
状態 1,状態2はそれぞれ 「価格下落」,「価格上昇」を表す。
括弧内の数値は標準誤差を表す。
4.2
価格変化の状態推移確率の対称性を考慮 したモデル推定
第
4.1節の推定結果 か ら,取引時間帯ダミーは 1回の取引における価格 変化確率に等 しく影響を与えている可能性が示 された。本節では,この可能 性,すなわち
∂1i‑ ∂2i
( i ‑1, . . .
,9)を帰無仮説 として,尤度比検定を行 う。
(16)
式の制約をおいた もとで,ACM‑
ACDモデルを推定 した結果を表
3に示す。取引時間帯 ダミーを含むすべてのパラメー タについて,制約を課 さ ない推定結果 とほぼ同じ値を とっていることがわかる。また,この ときの最 大対数尤度は‑1
68590である。第
4.1節の推定で得 られた最大対数尤度は
‑168581