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日本 管理会 計 学 会 誌
管理 会 計 学 1996 年 第4巻第 1号
事例研究
高
シ ェ ア ・高 収
益戦 略
と コ ス ト ・マ ネジ メ ン ト一
S
社 の フ ィ ー ル ド ・ス タデ ィ ー伏 見 多 美 雄 * 末 松 栄一 郎†
〈 研 究要 旨〉
近 年,伝 統 的 な 原 価 管 理 ・予算 管理 の シ ス テム が企 業 実 践 を適切 にサ ポートで きな く なっ てい るの で はない か,とい う認識 や 批判が高まっ てい る.その対 応には, 制 度 として の原 価 会計や予算管理会計とい っ た フ レーム ワーク を
度 外 視 し た改 善 策 も あれ ば, こ のフ レーム ワ ークその もの を改 善 する とい うア ブロ ーチ もあ り,さ まざまであ
る.しかしい ず れにせ よ,その成 否の評価は,個々の 企業の お か れ た時 代 環 境 と製 品 特 性,企業 を と りま く競 争構造や 企 業の 収 益構造, そ して経 営 戦 略にマ ッチ し た もの
で ある か どうか,とい う 視 点か ら な さ れ なけれ ば な らない .フ ィール ド ・ス タデ ィが 重 視 され る ゆえんで ある.
本 稿は, その よう な 問 題 意識 か ら,自動化の ため の 特殊な制 御 機 器を専 門に生産 す る 日本の 中 堅 メ ーカ ーS社の事例を と り あげ,同 社が独 自に 開 発し た 「基 本 原 価 」お よ び 「独算制」と 名 付 けた コ ス ト・マ ネジメ ン ト ・シス テム の特 徴を,上述の よう な 視点か ら整 理 し, 基 本 的な諸 問 題を論 じ ようとする もの で ある.
第1節で 問 題 意 識と本 稿の ねらい を述べ たあと,第2節でケース企 業の概要 を 紹 介 する.そ して 第3 節で はS社を と りまく企業 環 境と製 品 特 性, 競 争 構 造 ・収 益 構 造に 目を向 け,同 社が とっ て きた高シェ ア ・高 収 益 戦 略の背 景 を 明 ら か にす ると と もに, 基 本 原 価シ ス テ ム を導 入 する に至っ た理 由 を 検 討 する.第4 節で は,「基 本原 価」シス
テ ム の 考 え方の 本 質 を分 析 し,高 シェ ア ・高 収 益 戦 略 をサ ポートする仕組み を 明ら か にする.第5,6 節で 近年の企 業 環境の変 化が基 本 原 価 シス テ ム に与 えた インパ ク トを 整 理 し,基本 原 価シ ス テム に内 在す る問題点を分 析 ・提 示 する.
〈 キ ー ワ ー ド〉
コ ス ト ・コ ン トロ ール,コ ス ト ・プラ ンニ ン グ,コ ス ト・マ ネジ メ ン ト,企業環境, 基本原価,競争構造,経営戦 略,マ ネジ メン ト ・コ ン トロ ール
, 収益構 造, 標 準 原 価 計 算,
1995年 8月 受付 1995年 9月 受 理
*’ト東 京拓 理科大学 教 授 経 営 学 部 殖大 学 専 任 講師 商学 部
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管理 会計 学 第4巻 第1号
1. 問題意識と本稿の ね らい
近年, 標準原価 計算を 中心 とする伝統 的な 原価管理 ・予算 管理の シ ステ ムが, 企業実 践
を適 切にサ ポー トする こ と がで き な くなっ て い る, とい う認 識が高まっ て い る.こ う し た 認識 をもっ た実務 家お よ び研究者の 対応に は, 大 別 し て2つ の 方向がある と指摘 され る こ とが多い .その 1つ は,制 度 とし ての 利 益 計 算や原 価 会計その もの を見直 し, その ロ ジ ッ
ク や仕 組み を改 善 する こ とに よっ て , 企 業の計 画 ・管理へ の 役立 ち を高め ようと す る動向
で ある.米 国で 考案さ れ, 多くの企業に採用さ れ た直接原価 計算や貢献利益計算, さ ら に
は近年の ABC (活動基準原 価計算 )や , キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー会 計, 戦 略 管 理 会 計の 提 唱な ど は, こ の方 向の代 表 的な もの と見 ら れて い る. もう1つ は, 制度 と して の 原価会計や予 算管理会計とい っ たフ レーム ワークを度外 視し た管理技術 を導入 ・展開するこ と に よ っ て
コ ス ト ・ダ ウンや利 益 拡 大 をは かろ うとする動 向で ある. 日本 企 業の場 合で い えば, IE, VE , QC, ZD , さらに はJIT か ら原価企画 とい っ た呼び名で次々 に導入 さ れ た管理諸技
法や シス テ ム は その 代表例と されて い る .
ところ で , そ うい っ た コ ス ト低 減や利 益 拡 大を志 向 し た管理技 術の展 開や 会計シス テ ム
の 改 善努力 は, 個々 の 企業の マ ネ ジ メ ン ト ・コ ン トロ ール ・シス テ ム (MCS )の 一環 と
し て整 合 的に展開 さ れ るべ き もの で あ り, 制 度 と して の会 計の枠 内 か枠 外 かとい っ た議 論 は余 り建 設 的と は思わ れない .企 業に役 立つ MCS と は, 個 々 の企 業の お か れ た時 代 環 境 と, その 扱う製品特性, さ らにそ れぞれの 企業をと りま く競争構造 と, その企業の 収益構 造 にマ ッ チする ように設 計 し運 用 さ れ るべ き もの で ある. トヨ タで の JIT や 原価企 画, 日 立の 工場プロ フ ィ ッ ト ・セ ン ター制 ,松下の 事業 部 制…な ど,各社の MCS が各種 各様で あ り, し か も企業環境の変化に伴っ て革新が繰 り返 さ れて きたの は,その た め で あ る. わ れ われ は,この よ うな考え方の も とに, 異な る タ イプの 企業の MCS につ い ての フ ィール
ド ・ス タ デ ィや事例 研 究に大 きな関心 を持 っ てい る.
本稿は, その ような研究の 一環 として, 自動化機器の た めの 特殊な制御 機器を専門に生 産 する 日本の 中堅 メ ーカ ーS社の事例 をと りあ げ, 同社の MCS の 中で も特に重要だっ た
コ ス ト ・マ ネ ジメ ン ト ・シ ス テ ム を中 心に , 基 本 的な諸 問 題を論 じ ようとする もの で あ る.
S社の コ ス ト・マ ネジ メ ン ト ・シス テム は, 同社が 「基本 原 価」お よび 「独 算 制」 と名 付けた方式を中心に展開 されて きたが, こ の シス テム の特徴 を時代背景 とか らめなが ら検 討する. 分 析 ・検討の た めの 視 点とし て , 企 業環境と製 品特性, そ れ と 関連 す る競争構 造 ・収 益 構 造, そ して成 功 要 因 (KFS )に見 合っ た経 営 戦 略に焦 点 をあて, その戦 略 をサ
NII-Electronic Library Service 高シェ ア ・高 収 益戦略とコ ス ト・マ ネ ジメ ン ト S社の フ ィール ド・ス タ デ ィ
ポー トする た め の MCS の あ り方に注 意を向 ける.
第2節で は, S社の 事例 を要 約 的に紹 介し, 本 稿の 対象で あ る基 本 原価 シ ス テ ム の位置
づ け を説 明 する. 第3節で は, S社 をと り ま く企 業 環 境 と製 品 ・市場特性 を整理 し, 同社 が とっ て きた高シ ェ ア ・高収益 戦 略の 背景を 明ら か にする.その 上 で, 同社が 「基 本 原 価 」
シス テ ム を導入 する に至 っ た理由 を, 同社の経 営戦略 との 関係で整理する.そ して , 第4
節で , 「基 本 原 価 」 シ ス テ ム の 本質を分 析 し, それ がなぜ同 社の 高シ ェ ア ・高収益 戦 略 を
サ ポー トするの に役だっ たの か, その 仕 組み を明 ら かにする.
さ ら に第5,6節で は, 企業環 境の 変化と 基本 原 価 シス テ ム との 関係 につ い て 3つ の 視 点か ら検 討 する. 第 1に, 近 年の 企 業 環 境の変 化 と, そ れ が収益構 造に及ぼ した影響を整
理 し, 基本原価シス テム に内在す る 問 題点を指摘 する.第2 に, 株 式上場に と も なっ て導 入 され た標 準 原 価シ ス テム と, 当社 独 自の基 本 原 価 シ ステム との 関連に注 意 を向け る.そ
して 第3 と して ,い わ ゆ る 「バ ブル 景 気 」以後の 景気 後 退期における基 本 原 価の問 題 点を 明 ら か にする.
な お, 本稿は, 主 と して基 本 原 価シス テ ム が当社の 成 長 発 展 を支 援 する 主要なッ ール と し て役立っ たい きさつ を事例 研究論文として整理 し た もの である.こ の シス テ ム に 内在す
る問題 点の分 析や企 業 環境の 変 化 に対 応 し た シ ステム改 革へ の提 案 等 につ い て は, 別に論 じ る予定で ある.
2. ケー スの 大 要
2.1 ケース 企業の沿 革
S社 は , 1959 年にフ ィル ター用焼結金属の 製造 と 販 売 を 目的に設立 さ れ た. 同 社は, その 主 要 事 業領 域 を, 1960 年代 後 半 頃か ら, 自動 化 設 備 ・機 器の ための特 殊 な制御機器
に絞るこ とに よっ て 成長 を とげて き た. 同社 は早 くか ら,「シ ェ ア を拡 大しつ つ , 長 期 的
には利益 も確保する」とい う企業目標を堅持 して きた.
事 業 規 模の拡 大 と業務 内 容の拡 大に対応 す る た め, 1968 年 に草 加工 場 を設立 する な ど, 積極的に工 場 を増設,設備 投資, 営業網の 拡 大 を行っ て きた.
また, 海 外 市場の 開拓 も積 極 的にす すめ , 現 在で は, 北 米2 力 国, ヨ ーロ
ッ パ 7 力国,
ア ジア 6 力国, オ セ アニ ア 2 力国の計 17 力国で現 地 法 人を, ア メ リ カなど5 力国で現 地工 場を併設 する まで に なっ た,
川頁調に売上高, 利 益 を拡 大 して き たS祉は, 1987 年に東 京 証 券 取 引 所 第2部に 上場 を果 た し,その 2年 後に は, 第 1部銘 柄 に昇 格 し て ,順調に業 績 を伸ば して きた .そ し て,
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管 理 会 計 学 第4巻第 【号
1990 年まで に匿界市場の 10% の シ ェ ア を獲得し, プラ イス ・リーダーの 地 位 を確立 した
の で あっ た. 同社の 売上 と利益の 推 移は図1の ようで あ る.
(億 円 ) 脚
蜘
跏
珊
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.
年 度 1978 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 図 1 S社の 売上高と利益 の 推 移
同社の 経営陣は, 自 らが独 自に開発 し た コ ス ト・マ ネジメ ン ト方式 「基 本 原 価 シス テ ム 」 が経 営 戦 略 と経 営 管 理 とをサポー
トし,こ う しため ざ ま しい 業績の基 礎作 りに役立 っ て き
た と自負してい た. し か し, 経営 トッ プ は, 株式を 上場 する際 に制 度 と して の標 準 原価 計 算の 導入を強制され た ため に, 基本原価シス テ ム が歪め られて しまっ た と考えた. そして,
い わゆ る 「バ ブル景 気 」 崩壊 後に経 営 政 策を練 り直 して い る う ちに, 同杜の コ ス ト ・マ ネ ジメ ン ト・シス テ ムが有効 に機 能 して い ない こ とに, 気づ か され たの で あっ た.
2.2 基 本 原 価 システム
そこで まず, 同社が基本原価 シス テ ム と名付け た もの の大要を説 明して お こ う.
2.2.1 基 本 原 価 とは
S 社で は, 販 売 価 格に よっ て カバ ーすべ きコ ス ト を2つ の 要 素 に大 別 して い る (図 2参
NII-Electronic Library Service 高シェ ア ・高 収 益 戦 略 とコ スト・マ ネ ジメン ト S杜の 7 イール ド・スタ デ ィー
照 ).1つ は個々 の 製 品の 開 発 ・生産 に直 接か か わ る 原価で あ り, これ を当杜で は 「基 本 原 価」 と呼ん で い る.基本原価は 製 品 1単位 あた りの原 価 と して計 算 さ れ る . も う1つ は,
製 品との 個別的対応がで きに くい 製 造 間接費, 販管費, 金利 とい うコ ス ト, さ ら に 必 要 利益まで 含む もの で,これを当社で は 「流 通マ ージ ン」 と呼んで い る.
購 入 部 品 費 外 注 部 品 費 梱 包 費
素 材 費 部
品
費 直 接 人 件 費
内 作 部 品 費
加 工
人件 費 間 接 人 件 費 製
造 原 価
加工 機 械 償 却 費 消 耗 工 具 ・ロ ス 組 立 消 耗 工 具 ・ロ ス
型 償 却 組 立 機 械 償 却 費 組
立 費
直 接 人 件 費 製
品 最 低 販 売 価 格
組 立
人 件 費 石間 接升’ 人 件 費
究 人 イ牛 費
製 造 間 接 経 費
試 験 研 究 経 費
流 通
マ
ー ジ
ン
販 売 員 お よ び
一 般 管 理 費
金 利
基 本 利 益
基 本 原価
(工 場 の 共 通 固 定 費 )
(開 発 コ ス ト)
(牛勿む充 コ ス ト)
(資本 コ ス ト)
図2 基 本 原 価 と 流 通 マ ージン の内訳
基本 原 価 とい う概 念は, 製品 原価 (product cos 七)と し て認 識 さ れ る コ ス トで あ り, 当該 製 品の 製 造に か か わる すべ て の 直 接 費 用 を その 製 品に帰 属さ せ る.基本 原 価 に は, 製 品 別の 変動 原価の 他に, 1会計 年度 に発生する 製 造直接 固定費総 額が 各製 品の 安 定生産 量
(生 産 ・販売量 が 安定する 3〜 5年先の 生産 量)を基準 に して配 賦 さ れ る. し た が っ て , 固 定費を含む プロ ダク ト ・コ ス トで はあるもの の ,年度ご との 売上高に比 例 させ て 固定
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