マララ・ユスフザイの
ノーベル平和賞受賞演説の内容と 特徴的修辞技法の分析
福 田 慎 司*
1.はじめに
2 0 1 4年のノーベル平和賞は、パキスタン人のマララ・ユスフザイ氏(以後、
マララ)とインド人のカイラシュ・サティヤルティ氏の2名に授与された。二 人の受賞理由としてノーベル委員会は、 二人が子どもや若者への抑圧に反対し、
すべての子どもの教育を受ける権利のために闘ってきたことを挙げた。女性の 教育を受ける権利のために活動を続けてきたマララは1 7歳という史上最年少 でのノーベル平和賞受賞者となった。十代の初めから女児教育のために活動を 始めたマララは、1 5歳の時に、その活動を強く批判していたタリバンから銃 撃を受け、一命を取り留めた経験がある。回復後も決して信念を曲げずに女性 教育への思いを訴え続ける彼女に対して世界に支援の輪が広がり、国連は彼女 の誕生日である7月1 2日をマララ・デーと定めた。彼女が1 6歳になる2 0 1 3 年7月1 2日には、ニューヨークにある国連本部で彼女の演説が行われた。こ の時の彼女の「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペン、それで世界 を変えられる」という教育の大切さを訴える主張が日本でも共感を生み、この
* 福岡大学人文学部准教授
演説を利用した英語の授業実践も報告されている
(注1)。
2 0 1 4年1 2月1 0日にノルウェーで行われたノーベル平和賞受賞式で、マラ ラは約2 7分間の演説を行い、この演説が世界中のメディアで取り上げられる こととなった。ここまでマララの演説の評価が高いのはなぜなのか、本稿では このノーベル平和賞受賞演説を、映像と原稿を元に分析する。なお、本稿で使 用した演説の映像と原稿は、ノーベル財団公式ウェブサイトの中の ‘Malala Yousafzai Nobel Lecture’
(注2)を使用した。ウェブサイト上の演説原稿は6 8のま とまりに分けられており、本稿では本文の後にその番号を記している。
2.マララ・ユスフザイ
マララの演説の特色のひとつはその話し方である。毎分1 0 0語以下のゆっく りとした速さで、意味ごとのまとまりの間にポーズをとって話すので、多少ノ ンネイティブスピーカーとしての発音のクセがあったとしても演説内容が理解 されやすい。また、聴衆とのアイコンタクトをうまくとっていることや、感情 を込めた話し方などをみても、マララが演説の基本的な技能を身に付けている ことが分かる。母語ではない英語で話しているのに、なぜ彼女は聴衆を感動さ せる演説ができるのであろうか。マララのこれまでの人生を振り返って考えて みる。
マララは1 9 9 7年7月1 2日にパキスタンの北西辺境州(現カイバル・パク
トゥンクワ州)スワート県ミンゴラで生まれた。父親は自分の理想の教育を行
うため自ら学校を作って経営するほど教育を大切にしていた。マララ自身も学
ぶことが好きで楽しい学校生活を送っていたが、マララが1 0歳の時にイスラ
ム原理主義のタリバンがマララの住むスワートに来て以来状況が一変する。タ
リバンはスワートの実効支配を始め、女性は家にいるべきで学校で教育を受け
る必要がないという自分達の主張を強めていった。そしてとうとう2 0 0 8年の
1 2月には全ての女子校を閉鎖することを宣言した。マララは、タリバンに支 配されるスワートの悲惨な現状を紹介してほしいというイギリスの放送局 BBC のリクエストを受け、ウェブサイト掲載用に匿名で週一回自分の考えを 述べ始めた。女性教育に反対しているタリバンに対しても自説を述べるなど、
早くから自分が正しいと信じたことについては譲らない一面があった。やがて BBC のウェブサイト用に意見を述べていたのがマララだと明らかになること で、タリバンからの脅迫が始まった。マララが1 5歳の2 0 1 2年1 0月にタリバ ンは帰宅途中のスクールバスに乗っていたマララを銃撃した。マララはパキス タンとイギリスで手術を受け、なんとか一命を取り留めた。それまでパキスタ ンの国民平和賞をとるなど国内では有名だったマララが、この銃撃事件がきっ かけとなり世界中の注目を集めることとなった。銃撃にも屈しなかったその強 さや回復した後も自分の信念を訴え続けたマララの姿勢に、支援の輪がさらに 広がっていった。
2 0 1 3年7月の国連での演説や数々のインタビューでマララは自分の信念で ある全ての女性や子どもが教育を受けることの大切さを訴え続けている。彼女 がこれまでの人生を通して、現在の世界に存在する問題の解決には教育こそが 必要なのであるという主張に自信を持っているからこそ、彼女の訴えが聴衆に 広く受け入れられていると考えられる。
3.内容分析
これまで行ってきた他の演説と同じように、今回のマララのノーベル平和賞 受賞演説も毎分1 0 0語以下の比較的ゆっくりとしたスピードで、意味のまとま りごとに短い間をとり、はっきりとした声で話すなど、英語を母語としない者 にとっての手本となる演説であった。また、特に主張したい部分については、
その直前に少し長めの間を入れている。約2 7分間の演説に聴衆が集中して耳
を傾ける部分をつくるなど、聞き手の気持ちを考えた演説であった。
この演説の内容を以下の四つの部分に分けて分析していく。
A.自分や家族のことを紹介する。また、時にはユーモアも入れた自己紹介 をする。
B.自分の身の回りに起きたことを振り返り、パキスタンにおける悲惨な状 況を訴える。
C.世界の国々で現在どのような危機的状況かを示す。
D.世界中の子どもたちが教育を受けることができるように行動を促す。
A.自分や家族のことを紹介する。また、時にはユーモアも入れた自己紹介 をする。
(1)I would like to thank my parents for their unconditional love. Thank you to my father for not clipping my wings and for letting me fly. Thank you to my mother for inspiring me to be patient and to always speak the truth−
which we strongly believe is the true message of Islam. And also thank you to all my wonderful teachers, who inspired me to believe in myself and be brave. [5]
(2)I am proud, well in fact, I am very proud to be the first Pashtun, the first Pakistani, and the youngest person to receive this award. Along with that, along with that, I am pretty certain that I am also the first recipient of the Nobel Peace Prize who still fights with her younger brothers. I want there to be peace everywhere, but my brothers and I are still working on that.
[6]
(3)Dear brothers and sisters, I was named after the inspirational Malalai of Maiwand who is the Pashtun Joan of Arc. The word Malala means grief stricken”, sad”, but in order to lend some happiness to it, my grandfather would always call me Malala − The happiest girl in the world” and today I am very happy that we are together fighting for an important cause. [8]
(4)I have found that people describe me in many different ways. [1 1]
Some people call me the girl who was shot by the Taliban. [1 2]
And some, the girl who fought for her rights. [1 3]
Some people, call me a “Nobel Laureate” now. [1 4]
However, my brothers still call me that annoying bossy sister. As far as I know, I am just a committed and even stubborn person who wants to see every child getting quality education, who wants to see women having equal rights and who wants peace in every corner of the world. [1 5]
(5)Though I appear as one girl, though I appear as one girl, one person, who is5 foot 2inches tall, if you include my high heels. (It means I am 5foot only) I am not a lone voice, I am not a lone voice, I am many. [3 3]
「両親の無条件の愛に感謝します。父は私の翼を切り取らず、私を羽ばたか
せてくれました。母は私を我慢強く、そしていつも真実を語るようにさせてく
れます。真実を語ることが、私たちが強く信じているイスラムの真のメッセー
ジなのです。そしてまた、私に自分を信じ、勇敢になるように鼓舞してくださっ
た全ての素晴らしい教師たちに感謝しています。 」 (5)と、マララはまず自分
の現在があるのは周りの人々のおかげだと感謝の意を述べる。彼女は伝統的に
男の子を大切にする社会に生まれたが、マララの父親は女の子も男の子と同様
の権利を持つという強い信念から、少女が通える学校を自ら経営しマララを通 わせていた。母親は、そのような行動がイスラム過激派から目をつけられ脅迫 を受けることになった父親と娘マララをしっかりと支えていた。マララが自分 のことを語る前に両親に感謝を捧げたのは、自分が女性でありながら自由に活 動ができた理由が両親にあることが分かっているからであろう。その後、 「最 初のパシュトゥン人、最初のパキスタン人、そして、最年少での受賞を大変誇 りに思います。そして弟たちといまだにけんかしているノーベル平和賞受賞者 も私が初めてだと確信しています。世界中が平和になってほしいと願っていま すが、私と弟たちにとってはまだ先のことです。 」 (6)と、自らの出自を紹介 し始めるのであるが、この時に自分がまだ姉弟ゲンカをしているという幼さを もっていることをユーモラスに述べ、聴衆の笑いを誘い会場内の緊張を和らげ ている。
「親愛なる兄弟、姉妹のみなさん、私はパシュトゥン族のジャンヌダルクと いわれるマイワンドのマラライにちなんで名づけられました。マララという言 葉は「悲しみに打ちひしがれた」とか「悲しい」という意味ですが、それに幸 せな意味を加えるために、私の祖父はいつも「マララ、世界で一番幸せな少女」
と呼んでくれます。今日、私たちは大切な目的のためにともに闘っていること がとても幸せです。 」 (8)と、自分の名前の由来を紹介することで、自分がア フガニスタンやパキスタンに住んでいるパシュトゥン族というパキスタンでは 少数派の部族に属することも伝えている。
「私のことを人々が様々な呼び方をするのに気が付きました。 」 (1 1) 「私のこ
とをタリバンに撃たれた少女と呼ぶ人もいます。 」 (1 2) 「そして、自分の権利
のために闘う少女と呼ぶ人もいます。 」 (1 3) 「今は、 「ノーベル賞受賞者」と呼
ぶ人もいます。 」 (1 4) 「でも、弟たちはまだ私のことをうるさい威張った姉と
呼んでいます。私は自分では、全ての子供が質の高い教育を受けること、女性
が平等な権利をもつこと、世界中の隅々までが平和であることをただ望んでい
るだけのがんこな人間であることを知っています。 」 (1 5)ここでは自らがイス ラム過激派に襲撃を受けたこと、女子教育のために活動しノーベル賞を受賞し たことなど、自分に対する世間のイメージについて述べているが、この部分で も自宅では弟たちから疎まれている平凡な姉ということを紹介することで、特 別な人間ではないことを語り、 聴衆との心理的な距離を近づけようとしている。
「私は身長が5フィート2インチのただの女の子に見えるでしょうが…ハイ ヒールの高さも入れても良ければですが。 (実際は5フィートしかないのです)
私の意見は私一人の意見ではありません、私一人のものではなく、大勢の人々 の意見なのです」 (3 3)と、ハイヒールのかかとの高さで1 5 7. 5センチくらい に見えるが実際は1 5 2. 5センチくらいの身長しかないことをユーモラスに紹介 し、聴衆の笑いを誘いながら、自分は他の人と変わらない、つまり自分の意見 は特別ではなく普通の女の子の意見であるということを上手く印象づけてい る。
B.自分の身の回りに起きたことを振り返り、パキスタンにおける悲惨な状 況を訴える。
(1)We had a thirst for education, we had a thirst for education because our future was right there in that classroom. We would sit and learn and read together. We loved to wear neat and tidy school uniforms and we would sit there with big dreams in our eyes. We wanted to make our parents proud and prove that we could also excel in our studies and achieve those goals, which some people think only boys can. [1 7]
(2)But things did not remain the same. When I was in Swat, which was a
place of tourism and beauty, suddenly changed into a place of terrorism. I
was just ten that more than 4 0 0 schools were destroyed. Women were flogged. People were killed. And our beautiful dreams turned into night- mares. [1 8]
(3)Education went from being a right to being a crime. [1 9]
Girls were stopped from going to school. [2 0]
When my world suddenly changed, my priorities changed too. [2 1]
I had two options. One was to remain silent and wait to be killed. And the second was to speak up and then be killed. [2 2]
2 3 . I chose the second one. I decided to speak up. [2 3]
(4)The terrorists tried to stop us and attacked me and my friends who are here today, on our school bus in 2 0 1 2 , but neither their ideas nor their bullets could win. [2 7]
We survived. And since that day, our voices have grown louder and louder. [2 8]
「私たちは教育を受けたくてたまりませんでした。教育を受けたくてたまら
なかったのです。なぜならば私たちの未来はまさにその教室の中にあったから
です。私たちは一緒に座り、学び、そして読みました。私たちはきちんとした
制服を着るのが好きで、そして大きな夢をもって教室に座っていました。私た
ちは両親に誇りに思ってもらいたかったし、勉強に秀でたり目標を叶えたりな
ど、男の子にしかできないと一部の人が考えていることを女の子でもできるこ
とを証明したかったのです。 」 (1 7)と、マララの住む社会では伝統的に男性優
位のため、女性であっても男性と同じように人生の目標を達成するには、教育
を受け自分の将来を自ら切り開いていくしか方法がなかったのである。このよ
うな伝統を持つ社会では、少女が学校に通えることがどれほど大きな意味を持 つかを訴えている。
「しかし、ものごとは同じままではありませんでした。観光と美の地であっ たスワートは突然テロリズムの地に変わりました。4 0 0校以上もの学校が壊さ れたのは私がまだちょうど1 0歳の時でした。女性はむちで打たれました。人々 は殺されました。 そして私たちの美しい夢は悪夢へと変わりました。 」 (1 8)と、
突然タリバンが自分たちの地域にやって来て、少女が通う学校が破壊されてい く様子を述べている。
「教育は権利から犯罪になりました。 」 (1 9) 「女の子は学校へ行くのをやめさ せられました。 」 (2 0) 「私の世界が突然変わった時、私の優先すべきことも変 わりました。 」 (2 1) 「私には2つの選択肢がありました。一つ目はそのまま 黙っていて殺されるのを待つこと。二つ目は声をあげて殺されることです。 」
(2 2) 「私は二つ目を選びました。声をあげる方を選んだのです。 」 (2 3)マララ は、これまで当然の権利として学校で教育を受けていたのに、それが理不尽に も禁止されたことに強い憤りを感じた。そして、この時、子どもながらに自分 の命にかえても女性が教育を受ける権利を訴え続ける決意を固めたのである。
ここでは、教育を受けることを犯罪という強いことばで表すことで聴衆にその 理不尽さを訴えている。また、理不尽なことに対しては闘うのが当然というそ の論理の展開が分かりやすく、二つ目を選んだと語ったこの部分で聴衆から拍 手を受けている。
「2 0 1 2年にテロリストたちは私達を止めようとして、私やこの場に来ている
友人をスクールバスの中で襲いました。しかし、彼らの考えや銃弾が勝つこと
はありませんでした。 」 (2 7) 「私たちは生き残り、そしてその日以来、私たち
が訴える声はさらに大きくなっていったのです。 」 (2 8)と、自分がイスラム過
激派から襲撃を受け生死の境をさまよってもなお、女性が教育を受ける権利を
守る闘いをこれからも続ける姿勢を示している。そして、自分のように普通の
少女でもここまでできるので聴衆の皆さんも共に闘いましょうと、自分たちの 活動への協力を呼びかけるとともに、聴衆を奮い立たせる効果的なメッセージ を送っている。
C.世界の国々で現在どのような危機的状況かを示す。
(1)I tell my story, not because it is unique, but because it is not. [2 9]
It is the story of many girls. [3 0]
(2)Also my sisters here, whom I have met during my Malala Fund campaign.
My 1 6−year−old courageous sister, Mezon from Syria, who now lives in Jordan as refugee and goes from tent to tent encouraging girls and boys to learn. And my sister Amina, from the North of Nigeria, where Boko Haram threatens, and stops girls and even kidnaps girls, just for wanting to go to school. [3 2]
(3)I am those6 6million girls who are deprived of education. And today I am not raising my voice, it is the voice of those6 6million girls. [3 8]
Sometimes people like to ask me why should girls go to school, why is it important for them. But I think the more important question is why shouldn’t they, why shouldn’t they have this right to go to school. [3 9]
(4)We still see conflicts in which innocent people lose their lives and children
become orphans. We see many people becoming refugees in Syria, Gaza
and Iraq. In Afghanistan, we see families being killed in suicide attacks
and bomb blasts. [4 1]
「私が自分の話をするのは珍しい話だからではなく、どこにでもある話だか らです。 」 (2 9) 「これは多くの少女に起こっている話なのです。 」 (3 0)と、 ヨー ロッパに住む聴衆にとっては普段の生活の中では起こりえない話が、マララや この会場に来ているマララが知り合った少女たちの住む地域では普通に起こっ ていることを話し、世界の危機的な状況の理解を求めている。
「そして私がマララ基金の活動を通じて知り合い今では姉妹のような少女た ちもここにいます。シリア出身の勇敢な1 6歳のメゾンは今ヨルダンで難民と して生活し、テントからテントを回って少年や少女たちの勉強をみています。
アミナの出身地であるナイジェリア北部では、少女たちが学校に行きたいと望 むだけでボコ・ハラムが脅迫し、誘拐しています。 」 (3 2)と、マララ基金の活 動で知り合いになったメゾンやアミナなどの女性たちをこのノーベル賞授賞式 に招待し、彼女たちが現在経験している中東やアフリカでの悲惨な状況につい ての具体例を挙げている。演説の中に出てくるボコ・ハラムはナイジェリア政 府が行っている教育を西洋式の非イスラム教育であると反対している組織で、
女性の教育を受ける権利を認めていない。
「私はこのような教育を奪われた6, 6 0 0万人の少女達なのです。そして今日、
私は自分ではなく、このような6, 6 0 0万人の少女の意見を代弁しているので す。 」 (3 8)と学校に行けない少女が世界中に多数いることを述べ、 「なぜ少女 が学校に行くのか、なぜそれが少女にとって重要なのかと私に尋ねる人もいま す。しかしもっと大切な質問は、なぜ少女たちが学校に行くべきではないのか、
なぜ彼女たちが学校に行く権利を持つべきではないのか、ということだと思い ます。 」 (3 9)と、女性にも当然男性同様に教育を受ける権利があるべきで、女 性の教育の権利の有無を問うこと自体に疑問を呈している。
「私たちは罪のない人々が命を落とし、子供たちが孤児になっていく紛争を
目にしています。私たちは多くの人々がシリアやガザ、イラクで難民となって
いるのを目にしています。アフガニスタンでは、自爆攻撃や爆発で家族が殺さ
れているのを目にしています」 (4 1) 、この地域以外に住む人々にとっては ニュースでしか見たり聞いたりしないことかもしれないが、現在、宗教や思想 の違いのせいで中東では多数の死者が出ていることをマララは当事者として述 べている。また、家族を失うことで子どもたちが孤児になるなど、子どもへの 影響の大きさについても聴衆に理解を求めている。世界中に存在する教育を受 けることができない少女の数やその国や地域の名前を出すことで、この問題が 単にその地域で解決できることではなく、世界中の人々の協力があってこそ解 決できる問題だとアピールしている。
D.世界中の子どもたちが教育を受けることができるように行動を促す。
(1)I am here to stand up for their rights, to raise their voice… it is not time to pity them. It is not time to pity them. It is time to take action so it be- comes the last time, the last time, so it becomes the last time that we see a child deprived of education. [1 0]
(2)Her story is why I dedicate the Nobel Peace Prize money to the Malala Fund, to help give girls quality education, everywhere, anywhere in the world and to raise their voices. The first place this funding will go to is where my heart is, to build schools in Pakistan−especially in my home of Swat and Shangla. [4 5]
(3)My great hope is that this will be the last time, this will be the last time we must fight for education. Let’s solve this once and for all. [4 9]
(4)It is not time to tell the world leaders to realise how important education is
− they already know it − their own children are in good schools. Now it is time to call them to take action for the rest of the world’s children. [5 1]
We ask the world leaders to unite and make education their top priority.
[5 2]
(5)Dear sisters and brothers, dear fellow children, we must work… not wait.
Not just the politicians and the world leaders, we all need to contribute.
Me. You. We. It is our duty. [6 0]
「私は彼らの権利を守るため、彼らの声を届けるためにここに来ています。今 は彼らを憐れむ時ではないのです。今は彼らを憐れむ時ではないのです。行動 を起こす時なのです。そして、子供が教育の機会を奪われるのを目にしなくな るように行動を起こす時なのです。 」 (1 0)と、世界の悲惨な状況を知って被害 にあっている子どもたちのことを憐れむだけでは不十分で、まずは行動を起こ すことを聴衆に呼びかけている。
「彼女の話こそが、私がノーベル賞でもらう賞金をマララ基金に捧げる理由
です。少女たちが世界中のどこでも、どのような所でも質の高い教育を受けら
れるようにし、自分達の声をあげるのを助けるためです。最初の基金は、私の
心の残る場所であるパキスタン、特に私の故郷であるスワートとシャングラに
学校を建てるために使う予定です。 」 (4 5)これを述べる前に、将来、医者にな
るという夢を持って勉強していた級友が、女性という理由だけで1 2歳で無理
やり結婚させられその夢をあきらめざるをえなくなった話を出している。この
ように、理不尽とも思える人生を送る少女をこれ以上出さないためにもまずは
自分の故郷で学校を作りたいという利他的なノーベル賞の賞金の使用法を述
べ、学校を建設することがこの問題の解決の糸口になることをアピールしてい
る。
「私の大きな希望は、私たちが教育のために闘うのはもうこれで終わりにす るということです。この問題はもうここで解決しましょう。 」 (4 9)と、この問 題の解決をこれ以上先送りにすることがあってはならず、本気で解決できるよ うな取り組みを望んでいることを述べ、 「今は指導者たちにいかに教育が大切 かを分かってもらおうと話す時ではないのです。彼らはすでに分かっているの です。彼らの子供は良い学校に通っています。今は世界中の子どもたちのため に行動を起こすことを指導者たちに求める時なのです。 」 (5 1) 「私たちは世界 の指導者に、団結して教育を最優先にすることを求めます。 」 (5 2)と、世界の 指導者たちに対して、自分の子供は大切にしておきながら世界の子供たちを犠 牲にしている現状に疑問を呈し、捉え方によっては指導者たちに対する攻撃的 な内容も含みながら教育問題の解決の重要性を訴えている。
「親愛なる兄弟姉妹の皆さん、そして仲間である子どものみなさん、私たち は待っていてはだめなのです、取り組みましょう。政治家や世界の指導者たち だけでなく、私たちみんなが貢献しなくてはいけないのです。私も、あなたも、
私たちが、です。それが私たちの義務なのです。 」 (6 0)と、世界中の一人ひと りがこの問題を解決するため本気で取り組むべきであり取り組まないといけな い、とマララは強い口調でメッセージを送っている。
4.修辞
マララの演説の特徴はその分かりやすさである。その理由は、ひとつには話
すスピードがそれほど速くないことは先に述べた。他にも修辞技法を利用して
演説内容を聴衆の記憶に残りやすくする工夫が見られた。本稿ではその代表的
な3つの技法を取り上げる。
1.首句反復
首句反復とは複数の文章や語句を同じフレーズで始める手法である。
a.Some people call me the girl who was shot by the Taliban. (1 2)
And some, the girl who fought for her rights. (1 3)
Some people, call me a “Nobel Laureate” now. (1 4)
「私のことをこう呼ぶ人もいる」の部分を繰り返し、 「タリバンに撃たれた 少女」 (1 2) 「自分の権利のために闘う少女」 (1 3) 、 「ノーベル賞受賞者」
と、他人が考える自分の一般的なイメージを分かりやすく紹介している。
b.I am Malala. But I am also Shazia. (3 4)
I am Kainat. (3 5)
I am Kainat Soomro. (3 6)
I am Mezon. (3 7)
I am Amina. I am those6 6million girls who are deprived of education.
And today I am not raising my voice, it is the voice of those 6 6 million girls. (3 8)
「私は〜です」と、自分を含めた6名の名前を紹介し、そしてその後で6, 6 0 0 万人の教育の権利を奪われた少女について言及している。“I am...” を繰り返す ことで、リズミカルな響きにして女性教育の権利を求める人たちの一体感を強 調している。
c.Dear sisters and brothers, the so−called world of adults may understand it,
but we children don’t. Why is it that countries which we call strong” are so powerful in creating wars but are so weak in bringing peace? Why is it that giving guns is so easy but giving books is so hard? Why is it, why is it that making tanks is so easy, but building schools is so hard?(5 8)
「なぜ〜なのですか」というフレーズを3回繰り返して、その後に、 「強いと 言われる国々は戦争を引き起こす力はそんなに強いのに、平和をもたらす力は そんなに弱いのでしょうか」 、 「銃を与えることはそんなに簡単なのに、本を与 えることはそんなに難しいのでしょうか」 、 「戦車をつくることはそんなに簡単 で、学校を建てることはそんなに難しいのでしょうか」と3つの疑問を投げか けることで、世界の指導者たちが教育問題よりも自国の戦力を強化することに 力を注いでいることを際立たせている。
d. Let this be the last time that a girl or a boy spends their childhood in a fac- tory. (6 2)
Let this be the last time that a girl is forced into early child marriage. (6 3)
Let this be the last time that a child loses life in war. (6 4)
Let this be the last time that we see a child out of school. (6 5) .
印象的なフレーズ「これで終わりにしましょう」を繰り返している。そし
て、その後に、児童労働、幼い少女の結婚、戦争での子どもの死亡、子どもの
教育を受ける権利の侵害と、マララが今回の演説で特に伝えたかった内容を簡
潔に分かりやすい単語を使って述べ、すぐに聴衆の理解や記憶に結びつけやす
くしている。
2.畳句法
畳句法とは、同じ句を間に何もはさまずに反復することである。
a.I am also honoured to receive this award together with Kailash Satyarthi, who has been a champion for children’s rights for a long time. Twice as long, in fact, than I have been alive. I am proud that we can work together, we can work together and show the world that an Indian and a Pakistani, they can work together and achieve their goals of children’s rights. (7)
一般には関係が良好とは言い難いインドとパキスタンであるが、今回のノー ベル平和賞を受賞したのは、インド人のサティヤルティとパキスタン人のマラ ラであったことから、 「私たちは協力して一緒に活動できる」の部分を繰り返 し、子どもの権利を守るというような共通の目的があれば、国は違っても協力 し合えることを強調している。
b. I am here to stand up for their rights, to raise their voice… it is not time to pity them. It is not time to pity them. It is time to take action so it be- comes the last time, the last time, so it becomes the last time that we see a child deprived of education. (1 0)
「教育を受けられない子どもを不憫に思うことだけでは不十分である」とい うことを繰り返し、子どもが教育の権利を奪われることを「最後にする」行動 を起こすことを強く促している。
c. We had a thirst for education, we had a thirst for education because our fu-
ture was right there in that classroom. (1 7)
「私たちは教育を受けたくてたまらなかった」と、マララ自らの教育を受け たいという心からの願いが繰り返されることによって、子どもたちの将来は学 校で受ける教育にかかっているという訴えを印象深いものにしている。
d.Though I appear as one girl, though I appear as one girl, one person, who is5 foot 2inches tall, if you include my high heels. (It means I am 5foot only) I am not a lone voice, I am not a lone voice, I am many. (3 3)
「私はたった一人の少女のように思われるかもしれないが」と「わたしは実 は一人の意見をのべているのではない」をそれぞれ2回繰り返すことで、大勢 の意見の代弁者であることを訴えている。
3.対比
マララの演説では not ~ but =(〜ではなく=である)という構文が度々使 用される。これは、but 以下の自分の主張を際立たせるための修辞技法である。
a.I tell my story, not because it is unique, but because it is not. (2 9)
マララは帰宅途中のスクールバスで襲撃されたことを話した後で、このよう なことは「珍しいから」話すのではなくて、 「珍しくないから」話すと、この ような事件が頻発する悲惨な状況を浮き彫りにしている。
b. This is where I will begin, but it is not where I will stop. I will continue this
fight until I see every child, every child in school. (4 7)
この前の部分で、女の子でも質の高い教育が受けられるように学校を建設す ることを述べ、 「これは出発点であり」 、 「これで終わりとするものではない」
と、はじめは小さな一歩かもしれないが、やがて全ての子どもたちにも恩恵が 与えられるようになるまでやめるつもりはない、という主張を対比を使うこと で効果的に伝えている。
c.It is not time to tell the world leaders to realise how important education is
− they already know it − their own children are in good schools. Now it is time to call them to take action for the rest of the world’s children. (5 1)
これまでやってきたように、ただ「世界の指導者たちに教育の重要性を訴え る」だけではなく、 「行動を求めること」までしないといけないという主張を、
対比を使用して分かりやすく述べている。
5.まとめ
ノーベル委員会は、まだ1 7歳のマララにノーベル平和賞を与えた。頭部を
銃撃されてもなお女性が教育を受ける権利を訴え続ける十代の彼女に世界の注
目が集まり、様々な国際的な賞を受賞するのは当然かもしれないが、マララの
訴えに世界の首脳たちまでが耳を傾ける理由は何であろうか。このような疑問
から本稿ではマララのノーベル平和賞受賞演説を、内容と修辞の二つの観点か
ら分析した。演説の中心は聴衆がメッセージをどのように受け止めるかにある
ため、その重要なカギとなる聴衆に訴える内容と、それを伝わりやすくする修
辞にマララの演説が優れている理由があると考えたためである。
内容についての特徴は、マララの話す言葉に当事者意識が見られることであ る。彼女自身が学校に通い続けることで脅迫を受け、襲撃されて生死の境をさ まよった経験から当然ではあるのだが、自分のことだけでなく全世界の女性が 安心して教育を受けることができるように訴えている点が評価を受けている。
マララは、世界中の指導者に頼るだけでなく一人ひとりが行動を起こすことの 大切さを訴えている。それは、演説の最後の部分で「これで〜は終わりにしま しょう(Let this be the last time that…) 」と、聴衆を巻き込む表現で強い決意 を語っていることからも分かる。教育を受ける権利の剥奪や幼い少女の結婚な ど、子供にとって理不尽なことをみんなの行動で止めさせようというマララの 主張が心に響く内容であった。
修辞技法としては、首句反復、冗句法、対比などを多用しており、特に聴衆 の分かりやすさを考えて利用していることが分かった。約2 7分間の今回の演 説の中にこれらの修辞をバランス良く配置し、聴衆の集中力を途切れさせにく くしていることも分かった。
また、英語を母語としないマララの発音はネイティブスピーカーのものとは 異なるが、意味のまとまりごとにポーズを入れ、重要な内容を話す部分では日 本の中学校レベルの語彙を使用し、アイコンタクトやジェスチャーでも工夫を した演説をしているため、聴衆の理解を妨げることが少ないことも演説が高評 価される理由であろう。話すスピードやユーモアの入れ方など聴衆の理解を常 に意識している点でも、英語学習者のモデルとなる演説だと考えられる。
今回はマララのノーベル平和賞受賞演説を内容と修辞の観点から分析した。
今後はマララのように国際的に認められるノンネイティブスピーカーの英語演
説を分析し、英語学習者にとって模範となる構成要素を見つけ出すことが必要
だと考える。次回以降の研究課題としたい。
注
1.「「マララさ ん の 国 連 演 説」を 中 学 校 の 英 語 授 業 に 活 用」『CNN English Express』
(2015年3月号
pp.
120−121)では、広島市立早稲田中学校と鹿児島純心女子中学校の 公開授業でマララの国連演説を利用した英語の授業が紹介されている。2.http : //www.nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2014/yousafzai−lecture_en.
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参考文献
岩下 貢.(1983).『説得できる英語スピーチ術』.日本英語教育協会
清水リサ.(2009).「
CNN
ニュースセレクション1」.『CNN English Express
』2009年4 月号.朝日出版.ジャパン・タイムズ編集部.(2015).『ジャパンタイムズ・ニュースダイジェスト』2015 年1月号.ジャパン・タイムズ.
鶴田知佳子・柴田真一.(2006).『リーダーの英語』.コスモピア.
福田慎司.(2009).「オバマ大統領就任演説の内容と特徴的修辞技法の分析」.『福岡大 学人文論叢』第41巻第一号.
福田慎司.(2013).「オバマ大統領第二期就任演説の内容と特徴的修辞技法の分析」.『福 岡大学人文論叢』第45巻第一・二号.
松尾弌之.(2002).『大統領の英語』.講談社
マララ・ユスフザイ、クリスティーナ・ラム.金原端人・西田佳子訳.(2013).『わた しはマララ 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女』.学研パブリッシ ング.
三熊祥文.(2003).『英語スピーキング学習論』.三修社.