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偶発記憶に及ぼす社会的精緻化の効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

偶発記憶に及ぼす社会的精緻化の効果

著者 豊田 弘司, 喜田 淑花

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 59

号 1

ページ 31‑37

発行年 2010‑11‑30

その他のタイトル Effects of Social Elaboration on Intentional Memory

URL http://hdl.handle.net/10105/4716

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偶発記憶に及ぼす社会的精緻化の効果

豊 田 弘 司 奈良教育大学学校教育講座(心理学)

喜 田 淑 花 太子町立太田小学校

(平成22年4月 8 日受理)

Effects of Social Elaboration on Intentional Memory

Hiroshi TOYOTA

(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)

Yoshika KITA

(Ohta elementary school, Taishi-cho, 671-1521, Japan) (Received April 8, 2010)

Abstract

The purpose of the present study was to compare the effect of social elaboration with that of semantic elaboraiton on incidental memory. Social elaboration was defined as a new type of elaboration, namely adding information about a particular person to each target. In Experiment 1, each target, Kanji word, was presented once in each orienting list. In the social elaboration condition, each target word and a name of famous person that was congrous or incongruous to its target, were presented. In semantic elaboration condition each target word and a word (semantic associate or non- associate of its target). Participants were asked to rate the degree of the congruity between each target and its paired item (a name of famous person or a word), followed by an incidental free recall test. All the participants were asked to recall as many word pairs as possible. The results of Experiments 1 showed that the social elaboration led to a better recall than the semantic elaboration. In Experiment 2, the same procedure was used as Experiment 1 except that each target was presented twice in massed or spaced presentation. The results of Experiment 2 indicated that social elaboration led to better recall than semantic elaboration, and that the size of the spacing effects was similar in both social elaboration and semantic elaboration. These results were interpreted as showing that the information about a particular person was distinctive and effective for recall a target elaborated by it.

1.問題と目的

 Craik & Lockhart(1972)は、記銘語の知覚的特徴を 処理する浅い水準の処理よりも意味を処理する深い水準 の処理が記憶を促すという処理水準説を主張した。この 説はその後の記憶研究の枠組みであるが、処理の水準

(浅-深)だけでは説明できない現象も明らかになって きた。その一つが、適合性効果であり、方向づけ課題に

おいて、参加者が提示された文脈に対して肯定的判断を した場合が否定的判断をした場合よりも記銘語の記憶成 績が優れるという現象である。これは様々な方向づけ課 題で見出されているが(Schulman, 1974; Craik & Tulving, 1975; Ghatala, Carbonari, & Bobale, 1980; Toyota, 1996)、

処理水準説からいえば、肯定・否定に関わらず同じ水準 の処理をしたのであるから記憶成績に違いが生じないこ とになる。それ故、この記憶成績の差を説明する概念が Key Words:social elaboration,

spacing effect, incidental memory

キ−ワ−ド:社会的精緻化、

      分散効果、

      偶発記憶

(3)

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必要になる。このような背景から生じたのが、処理水準 を補う概念としての精緻化(elaboration)である。精緻 化を最初に提唱したのはCraik & Tulving (1975)である が、豊田(1987a)は精緻化研究(Jacoby & Craik, 1979;

太田・原, 1980)を展望して、精緻化とは記銘語に情報 を付加することと定義している。

 精緻化の有効性は記憶成績に反映されるが、精緻化の 有効性は、記銘語に付加される情報の質に規定される

(豊田, 1987a)。Tulving(1972)が主張する記憶の区分 によると、記憶は意味記憶(semantic memory)つまり 一般的な知識や概念に対応するものと、エピソード記憶

episodic memory)もしくは自伝的記憶(autobiographical memory)つまり個人的な出来事の記憶に対応するもの に分けられる。そして、この区分に対応して意味記憶か ら検索された情報を記銘語に付加するのが、意味的精緻

化(semantic elaboration)であり、エピソード記憶も

しくは自伝的記憶から検索された情報を付加するのが、

自伝的精緻化(autobiographical elaboration)になる(豊 田,1989)。この自伝的精緻化を最初に提唱したのは、

Warren, Chattin, Thompson & Tomsky(1983)であるが、

豊田(1989)は、自伝的精緻化の有効性を規定する要因 を検討し、記銘語から連想される過去の出来事の量及び 質(感情価及び鮮明度)によって再生率の異なることを 明らかにしている。また、Toyota(1997)は、自伝的精 緻化と意味的精緻化の有効性を比較し、自伝的精緻化が 意味的精緻化よりも有効であることを示している。

 自伝的精緻化によって付加される情報は、学習者の過 去の出来事であり、そこには自分以外の個人に関する情 報も含まれている。日常生活において、我々は多くの人 に遭遇するが、これらの人はお互いがそれぞれ差異的な

distinctive)特徴を数多く有しており、それ故、それ

ぞれの人と名前を対連合して覚えることが可能となる。

もし、このような差異的な特徴が少なければ、人の名前 を憶えることはかなり難しいことになる。逆に考えると、

人に関する情報は差異性が高いので、そのような情報は 記憶を促進する情報として利用できる可能性が高い。例 えば、初対面の人に対して過去に出会った人や著名人を 連想し、「~さんによく似た人」というような印象を口 にする。これは、まさにある記銘情報(新しく会った人)

に対して、過去の人物情報(過去に出会った人や著名人 の情報)を付加していることになる。これらの付加され た情報は差異的であるので、記憶を促進することが期待 できる。ただし、このような個人に関する情報が記憶に 及ぼす効果はこれまで検討されてこなかった。

 本研究では、記銘語に人物情報を付加する精緻化を社 会的精緻化(social elaboration)と命名する。そして、

偶発記憶に及ぼす社会的精緻化の効果を意味的精緻化の 効果と比較することが、本研究の第 1 の目的である。人

物情報は、身近な人物(例えば、「母親」「父親」「兄弟 姉妹」「先生」など)がいるが、これらの情報に対しては、

参加者が個人を考えずに、一般的な意味が喚起され(例 えば、「母親」→「あたたかい」、「友だち」→「楽しい」

等)、その人物の差異性が処理されない可能性がある。

そこで、本研究では、具体的に特定の人物の情報を処理 させるために、記銘語に付加する情報として著名人名を 用いた。

 ただし、付加された著名人名が、記銘語から連想され る場合と、されない場合では社会的精緻化の効果が異な ると考えられる。すなわち、記銘語とは無関係な適合し ない人物情報が提示されても、その効果は消失する可能 性がある。従来の意味的精緻化の研究では、上述した適 合性効果(Schulman, 1974 ; Craik & Tulving, 1975 ; Ghatala, Carbonari, & Bobale, 1980)が報告されており、社会的精 緻化においても適合性効果が生じるか否かを検討するこ とは重要である。もし、社会的精緻化においても適合性 効果が生じるならば、参加者が記銘語から連想する著名 人名と実験者が提示する著名人名が適合する場合が、適 合しない場合よりも再生率が高くなるであろう。この予 想を検討するのが本研究の第 2 の目的である。

 また、豊田・高野(2006)は、自伝的精緻化の有効性 を規定する要因として、記銘語の呈示形式(集中、分散)

の効果を検討している。集中呈示とは記銘語を連続して 反復呈示する場合であり、分散呈示は他の記銘語を介在 させて反復呈示する場合であるが、前者が後者よりも再 生率が高い現象を分散効果と呼ぶ。この分散効果の大き さを意味的精緻化と比較した結果、自伝的精緻化におい て分散効果の大きいことが示されたのである。この結果 は、符号化変動性仮説(Madigan, 1969 ; Melton, 1967, 1970)からすれば、過去のエピソードに対する符号化が 分散呈示されることによって変動して、その結果、多く の検索手がかりを生み出し、再生率が向上したものと解 釈された。自伝的精緻化は過去の出来事を記銘語に付加 する精緻化であるが、社会的精緻化は自伝的精緻化にお ける過去の出来事の中の人物情報を付加するものである。

したがって、社会的精緻化においても、自伝的精緻化と 同じく、呈示形式の影響を受ける可能性がある。それ故、

本研究でも、社会的精緻化の有効性を規定する要因とし て、呈示形式の効果を検討することにした。上述した符 号化変動性仮説からすれば、社会的精緻化における人物 情報が呈示形式によって変動する可能性は高い。それ故、

社会的精緻化においても分散効果が出現するであろう。

そして、豊田・高野(2006)で示された、意味的精緻化 における分散効果の大きさよりも自伝的精緻化における それの方が大きくなるという結果から予想すると、社会 的精緻化における分散効果は、意味的精緻化のそれより も大きいであろう。この予想を検討するのが、本研究の 豊 田 弘 司 ・ 喜 田 淑 花

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第 3 の目的である。

2.実 験 Ⅰ 21.目 的

 本研究の第 1 の目的と第 2 の目的を検討する。

22.方 法 221.実験計画

 実験計画は、 2 (精緻化型;社会的精緻化,意味的精 緻化)× 2 (適合性;適合,不適合)の 2 要因計画であ り、両要因ともに、参加者内要因である。

222.参加者

 実験参加者は女子大学生128名であり、平均年齢は18 歳 9 か月(18歳 1 か月~ 20歳 6 か月)であった。

223.材 料

 (a)方向づけ課題リスト 本研究で用いられた記銘語 は、海保・野村(1983)から選択された画数が 3 ~ 14画、

具体性が81 ~ 98%、熟知度が4.1 ~ 5.8( 7 段階評定値)

の範囲に分布する漢字28字であった。これらは、小学校 1 ~ 3 年生で学習する 1 字が意味を持つ比較的具体性 の高いものである。また、要因計画に対応して、 4 つの 条件が設定されるが(社会的精緻化・適合,社会的精緻 化・不適合、意味的精緻化・適合、意味的精緻化・不適 合)、各条件に 7 字ずつを割り当てた。リスト内の記銘 語の配列及び各条件への割り当てはランダムにされ、 8 種類のリストが作成された。各リストは上述の28字にリ ストの最初と最後に 1 字ずつバッファー字が加えられ、

A4 判1枚に印刷された。この用紙は縦置きであり、28 字が左端に示され、社会的精緻化・適合条件では、漢字 の右隣に、その漢字から連想される著名人名(例「駅」

に対して、「高倉健」)、不適合条件では連想されない著 名人名(「豊臣秀吉」)、さらに右に「全く当てはまらな い( 1 )」~「よく当てはまる( 5 )」までの適合度につ いての評定尺度が印刷されていた。ここでの著名人には、

歴史上の人物、童話等の登場人物が含まれている。一方、

意味的精緻化・適合条件では、漢字から想起される辞書 的な意味的連想語、不適合条件では、意味的非連想語が 印刷され、その右には上述と同じ適合度評定尺度が印刷 された。なお、付表には、本研究で用いた漢字と、その 漢字に対応する条件ごとの著名人名と連想語(非連想 語)が示されている。

  (b)自由再生テスト用紙 自由再生テスト用紙は、

横に罫線の入ったA4 判の大きさで、上部に学籍番号、

氏名、性別及び年齢を記す欄、その下に思い出した漢字 を思い出した順に記入するための欄が設けられていた。

224.手続き

 参加者の所属する大学の一室で、偶発記憶手続きによ

る集団実験を実施した。参加者を 3 つのグループにわけ て、約45分ずつ時間をずらして実施した。

 ( 1 )方向づけ課題 実験者は参加者に、リストの表 紙に学籍番号、氏名を記入するように指示した後、例を 示しながら課題の進め方に関する以下の教示を行った。

 「これから皆さんに漢字に関する連想調査を行っても らいます。皆さんの手元にある用紙には、 2 種類の項目 があります。まず,こちらの例(意味的精緻化条件の例)

を見てください。左端に漢字が書いてあります。そして、

その右にはその意味的に連想される語が書いてあり、さ らに右には 1 ~ 5 までの数字が書かれています。皆さ んは、左に書かれた漢字の意味や雰囲気から、この単語 がどの程度連想されるかを考えて 5 段階で評定してくだ さい。よく当てはまる場合には「 5 」に,全く当てはま らない場合には「 1 」に○をつけてください。

 また、漢字の横の単語は、項目によっては人名が書か れているものがあります。先ほどと同じように、左に書 かれた漢字から、この人名がどの程度連想されるかを考 えて 5 段階で評定してください。よく当てはまる場合に は「 5 」に,全く当てはまらない場合には「 1 」に○を つけてください。これら 2 種類の項目に,それぞれ皆さ んの思ったとおりに評定してください。 1 項目ずつ、そ れぞれの漢字から対応する語や人名がどの程度連想され るかを判断し、どの項目も抜けることなく評定するよう にしてください。なお,5 秒ずつに次の語に進みます。『は い、次』という合図に従って次の語に進んでください。」

 この教示に続いて、実験者が質問の無いことを確認し た。その後、参加者は、実験者の合図に従って各項目に つき 5 秒で評定を行っていった。

 ( 2 )自由再生テスト 方向づけ課題終了後、ただちに 自由再生用紙を配布し、学籍番号、名前等を記入するよ うに指示した後、次のような教示を与えた。「今、皆さ んに調査をしてもらいましたが、今からその各ページの 左端に書かれていた漢字を思い出し、プリントの左上か ら思い出した順に書いていって下さい。最初に覚えるよ うに言ってなかったので、あまり覚えていないかもしれ ませんが、思い出せるだけ思い出して書いて下さい。私 が『やめ。』と合図するまで頑張って下さい。では始め て下さい。」

 この教示の後、参加者は、書記自由再生を3分間行っ た。テスト終了後、偶発記憶の実験である旨を参加者に 説明し、リストとテスト用紙は回収された。

23.結 果

 方向づけ課題における評定尺度の記入漏れは見あたら なかった。また、記銘の意図を持った参加者もいなかっ た。要因計画に対応する 4 つの条件(社会・適合 、社 会・不適合、意味・適合、意味・不適合)ごとに自由再

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生率を算出した。ただし、適合条件に関しては、実験者 が設定した著名人名や連想語が必ずしも参加者にとって 適合とはいえない場合、すなわち、適合度の評定値が 1 ないし 2 である場合があった。そこで、参加者ごとに、

適合度の評定値によって適合と不適合を整理し、この区 分を基にして再生率を算出した。また、評定値が「 3 」

(どちらでもない)のみの参加者がいたので、これらの 者は分析から除外した。その結果、102名を分析の対象 とし、これらの参加者の各条件ごとの再生率及び評定値 がTable1 に示されている。なお、再生された語が呈示 された漢字と表記が異なる場合でも意味を保持している 場合は正再生とした。

  2 (精緻化型)× 2 (適合性)の分散分析を行った結 果、精緻化型(F(1,101)=27.97, p<.001, η²=.07)及び適合

性(F(1,101)=11.13, p<.005, η²=.02)の主効果と交互作用

(F(1,101)=4.95, p<.05, η²=.01)が有意であった。この交

互作用について単純主効果検定を行ったところ、意味的 精緻化条件における適合性の単純主効果は有意(F(1,202)

=15.55, p<.001)であったが、社会的精緻化における適 合性の単純主効果は有意でなかった(F=.71)。すなわち,

意味的精緻化では適合>不適合,社会的精緻化では適合

=不適合という関係が示された。

24.考 察

 本研究の第 1 の目的は、新しい精緻化型である社会的 精緻化の効果を意味的精緻化のそれと比較することであ った。実験結果は、適合、不適合条件ともに、社会的精 緻化が意味的精緻化よりも再生率の高いことが示された。

この結果は、人物情報を付加する社会的精緻化が差異性 において優れていることを示唆している。特に、本研究 では、著名人名を記銘語に付加したことで、そのイメー ジが意味的精緻化の情報よりも豊富な符号化を生み出し、

差異性を高めた可能性が考えられた。

 本研究の第 2 の目的は、社会的精緻化においても適合 性効果が生じるという予想を検討することであった。し かし、予想とは異なり、社会的精緻化においては適合性 効果は出現しなかった。不適合条件でも,社会的精緻化 条件の再生率が高かったのは、参加者が記銘語と対呈示 された著名人の特徴に関する適合性判断を行ったために、

そこに記銘語と著名人の合成イメージが形成された可能

性がある。豊田(1987b)においても偶発学習において イメージが有効な検索手がかりとなることが示されてい るが、著名人のもつ顕著な特徴とともにこれらの特徴を 含んだイメージが有効な検索手がかりになったのであろ う。さらに、Toyota(2002)は、記銘語と精緻化情報が 不適合である場合に生じる奇異性効果(bizarreness

effect)には、イメージが関与していることを明らかに

している。記銘語に対して不適合な著名人名を付加する ことによって、そこに記銘語と著名人との奇異イメージ が喚起される可能性がある。著名人のイメージは鮮明で あり、記銘語と著名人名との連合を促す奇異イメージさ え鮮明であれば、著名人名が有効な検索手がかりとなる のである。

 本実験では社会的精緻化の有効性が示されたが、再生 率が全体的にやや低い傾向があった。これは、実験Ⅰに おける方向づけ課題が、研究対象の28項目にバッファー 項目を加えた30項目を一度に 1 枚の用紙にまとめた形式 の実験を行ったためであろう。そこで、実験Ⅱでは、従 来の精緻化と同様の手続きである小冊子による方向づけ 課題を用いて第 1 の目的を検討する。したがって、実験

Ⅱでは改めて社会的精緻化の効果を意味的精緻化のそれ と比較するとともに、本研究の第 3 の目的である呈示形 式(集中・分散呈示)の効果を検討する。

3.実 験 Ⅱ 31.考 察

 本研究の第 1 の目的及び第 3 の目的を検討する。

32.方 法 32.1.実験計画

 実験計画は、 2 (精緻化型;社会的精緻化、意味的精 緻化)× 2 (呈示形式;集中、分散)の 2 要因計画であ り、両要因ともに参加者内要因である。

322.参加者

 大学生52名(男20、女32)であり,平均年齢は18歳10 か月(18歳 4 か月~ 24歳 6 か月)であった。

323.材 料

 (a)方向づけ課題リスト 本実験で用いられた記銘語 は実験Ⅰの適合条件に使用した14語である。要因計画に 対応して、各条件(社会・集中、社会・分散、意味・集 中、意味・分散)に 3 または 4 語ずつ割り当て、 2 種類 のリストを作成した。記銘語は 2 回反復されるが、分散 呈示条件における呈示間隔は 6 項目に固定され、リスト 内の記銘語の配列及び各条件への割り当て方はランダム にされた。各リストは14語を反復した28語に、リストの 最初と最後に 1 語ずつバッファー項目を加え、表紙をつ けた30頁のB6 判小冊子にされた。小冊子の各頁には、

豊 田 弘 司 ・ 喜 田 淑 花 Table 1 平均正再生率および平均評定値

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記銘語が上部中央に示され、社会的精緻化に該当する頁 では記銘語の下に著名人の名前が、さらにその下に「全 く当てはまらない」 1 ~「よく当てはまる」 5 までの 5 段階の適合性についての評定尺度が印刷された。意味 的精緻化に該当する頁では,記銘語の下に辞書的な意味 を示す単語が、さらにその下には「全く当てはまらない」

1~から「よく当てはまる」 5 までの 5 段階の適合性に ついての評定尺度が印刷された。

 (b)挿入課題用紙 方向づけ課題リストと自由再生 テストとの間に行う挿入課題用紙が用意された。用紙は B4 判の大きさで、上半分にひらがなの有意味な文字列 が下半分には無意味な文字列が印刷されているものであ った。

 (c)自由再生テスト用紙 自由再生テスト用紙は横に 罫線の入ったA4 判の大きさで、上部に学籍番号、氏名 書く欄、その下に思い出した漢字(小冊子の上部に書か れていた記銘語)を思い出した順に記入する欄が設けら れていた。

324.手 続

 実験参加者が所属する大学の一室で、偶発記憶手続き による集団実験を実施した。

 ( 1 )方向づけ課題 実験者は参加者に小冊子の表紙 に、学籍番号、性別、氏名、年齢を記入するように指示 した後、例を示しながら課題の進め方に関する教示を行 った。そこでは、社会的精緻化条件の頁においては、漢 字から対呈示された著名人名が想起される程度、意味的 精緻化条件では対呈示された単語が連想される程度を評 定するように求められ、同じ漢字が反復される頁がある こと、その場合に評定を変えてもよいことが確認された。

このような教示後、実験参加者は、 1 頁につき 5 秒で、

実験者の合図にしたがって評定を行った。

 ( 2 )挿入課題 方向づけ課題終了後、挿入課題用紙を 配布し、挿入課題を実施した。参加者は、標準的な語識 別検査の教示を与えられ、ひらがな文字列から 3 文字以 上で構成されている名詞を見つけ出して○で囲む課題を 行った。この課題の実施には、約 3 分間が与えられた。

 ( 3 )自由再生テスト 挿入課題終了後、自由再生用 紙を配布し、学籍番号、名前を記入するように指示した 後、通常の自由再生テスト教示を与え、方向づけ課題に おいて呈示された小冊子に印刷された漢字を思い出した 順に記入するように求めた。このような書記自由再生テ ストを 3 分間実施し、テスト終了後、偶発記憶の実験で ある旨を参加者に説明し、上述の小冊子と各テスト用紙 は回収された。

33.結 果

 方向づけ課題の小冊子における評定尺度の記入漏れは 見あたらず、記銘の意図を持った者もいなかった。

Table2 に条件ごとの平均再生率が示されている。 2(精

緻化型)× 2 (呈示形式)を参加者内要因とする分散分 析 を 行 っ た 結 果、 精 緻 化 型 の 主 効 果(F(1,51)=122.10, p<.001, η²=.23)及び呈示形式の主効果(F(1,51)=37.19, p<.001, η²=.14)が有意であった。すなわち、社会的精 緻化>意味的精緻化、分散呈示>集中呈示という関係が 明らかになった。しかし、精緻化型×呈示形式の交互作 用は有意でなかった(F(1,51)=1.68)。

34.考 察

 実験Ⅱでは、実験Ⅰと材料を変えて第 1 の目的である 社会的精緻化の効果と、第 3 の目的である呈示形式の効 果を検討した。

 実験の結果、再生率において社会的精緻化が意味的精 緻化よりも再生率が高く、実験Ⅰと同じく、社会的精緻 化は、意味的精緻化よりも有効であることが追証された。

社会的精緻化における人物情報は差異性が高く、そのよ うな情報を付加することは、記銘語それ自体の差異性を 高め、その結果、検索可能性が増大するといえよう。従 来の研究では、精緻化の有効性を付加される情報の質が 規定するという視点で検討されてきた。例えば、意味的 限定情報(豊田, 1984)、自伝的情報(豊田, 1989)、奇異 情 報(Toyota, 2002)、 及 び 情 動 情 報( 豊 田・ 土 田,

2008)等である。本研究は精緻化の有効性を規定する要 因として、新たに人物情報を加えたことになる。

 また、分散呈示が集中呈示よりも再生率が高いという 分散効果が見いだされた。この結果は、豊田・高野(2006)

において検討された自伝的精緻化の結果と一致していた。

符号化変動性仮説(Madigan, 1969; Melton, 1967, 1970)

から解釈すると、社会的精緻化においても、人物情報の 符号化に変動が生じ、その変動によって分散効果が生じ ると解釈できる。しかし、意味的精緻化と分散効果の大 きさに差がなかったことは、分散呈示による人物情報に おける符号化変動によって生じる検索手がかりの豊富さ は、意味的情報のそれとは差がないといえよう。ただし、

本研究では、社会的精緻化において著名人名を精緻化情 報として用いた。これが参加者の身近な人である場合に は、その人に対して持っている情報が多いので、その情 報の変動可能性は高くなる。それ故、分散効果の大きさ に違いが生じるかもしれない。このような人物情報の質 については、以下の総合的考察において議論する。

Table 2 平均自由正再生率

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4.総合的考察

 本研究は、新しい精緻化型として考案した社会的精緻 化の効果を意味的精緻化の効果と比較し、社会的精緻化 の有効性を明らかにした。このことは意義があるが、今 後考慮すべき課題がいくつかある。

41.精緻化情報の質

 社会的精緻化は、自伝的精緻化から構想されたもので ある。そして、参加者自身の過去の出来事に関する自伝 的情報の中から、人物に関わる情報のみを扱うものとし て設定された。Keenan & Baillet(1980)によれば、自 分自身やよく知っている親しい他者に関する情報は豊富 なだけでなく、それらが必要に応じて自在に取り出して 来れるように効率的に構造化されている。それ故、「母親」

「父親」「兄弟姉妹」「先生」「友だち」等、身近な人物 を精緻化情報として設定する方法も考えられた。しかし、

それらが意味情報を喚起する可能性(例えば、「母親」

→「あたたかい」、「友だち」→「楽しい」等)があるの で、人名(固有名詞)を用いることにした。そして、多 くの参加者が認識できるように著名人名を精緻化情報と した。著名人名を用いれば、その差異性は高いと考えら れるが、身近な人物を用いれば、Keenan & Baillet(1980)

の主張するように、豊富な情報が付加され、その結果、

記銘語の差異性は高まる。したがって、付加する人物情 報(精緻化情報)によって、社会的精緻化の有効性が変 化する可能性は十分考えられ、この可能性を検討するこ とは、重要な課題である。

 なお、本研究の社会的精緻化の効果は、単に人名情報 が他の情報よりも差異性が高いことによる効果であり、

「社会的」という命名に関しては、検討の余地がある。

しかし、現時点では人物情報を社会的な情報としてとら え、社会的精緻化と呼ぶことにした。

42.精緻化型による記憶促進の違い

 豊田 ・ 高野(2006)は、自伝的精緻化における分散効 果が意味的精緻化におけるそれよりも大きいことを見い だしたが、本研究の実験Ⅱでは社会的精緻化と意味的精 緻化における分散効果の大きさの違いはなかった。それ 故、自伝的精緻化と社会的精緻化は類似したものである が、分散効果に関わる生起機構は異なることになる。し たがって、自伝的精緻化と社会的精緻化の分散効果の生 起機構の違いについて検討する必要があるだろう。

 この違いに関する可能性の一つとして、イメージの役 割が考えられる。Toyota(2006)は、記銘語が枠組み文 に適合するか否かを判断させるのであるが、その際、適 合しない場合には枠組み文に含まれる語を正しい語に修 正させる課題を用いた。これは自己修正精緻化(self-

corrected elaboration)と呼ばれているが、イメージ喚 起性の高い枠組み文の場合には自己修正精緻化における 分散効果は生じないが、イメージ喚起性の低い枠組み文 ではその効果が認められている。この結果から考慮する と、社会的精緻化における分散効果が意味的精緻化にお けるそれと違いがなかったのは、著名人名の喚起するイ メージが高かったためであろう。一方,豊田・高野(2006)

が検討した自伝的精緻化においてはそれほどイメージ喚 起の程度が高くなかったのであろう。それ故、意味的精 緻化との比較においてより一層分散効果が生じやすかっ たといえよう。分散効果に限らず、自伝的精緻化と社会 的精緻化の記憶促進の機構における違いについて検討す る必要があるだろう。自伝的精緻化は過去の出来事が検 索手がかりになり、社会的精緻化はその人物のイメージ とその人物に関わる過去の出来事の両方が手がかりにな る可能性がある。それぞれの手がかりに対応する手続を 用いて詳細な検討が可能である。

43.教育的示唆

 偶発記憶の手続きを用いた研究から得られた結果は、

学校の授業場面などでの学習に影響する要因を実験的に 証明していることが多い(豊田, 1987b)。本研究の結果は、

学校の授業場面でみられる一場面を裏付けるものとなっ た。すなわち、新しい学習内容を教員が教授する際に、

その学習内容に関して意味的な説明だけを児童・生徒に 与えることは少ない。例え話や過去のエピソードを付加 して、より具体性を増す工夫をする。本研究では、その エピソードに含まれる具体的な人物に関する情報が効果 的であることを示したのである。学校教育現場において 例え話や過去のエピソードの有効性は経験的に知られて いるが、さらに人物情報の有効性を明確にしたことに教 育的意義がある。

引用文献

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参照

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