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IRなどについての文献メモ contentscinii

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要旨 

 近年,大学の全入時代に突入し,さまざまな生活課題を抱えた学生に対する支援が急務に なっている。そのなかで,本学科では退学防止対策班を組織し,ケースによっては保護者や 高校あるいは医療機関との連携を模索しながら寄り添い型支援に取り組んでいる。今後さら にこの支援を進めていくためにも,教員間の共通認識の確立や学生情報に関する連携体制の 整備が必要である。

Abstract

 It rushes into in all insertion age of the university, and support to the student who has a variety of life problems is a pressing need recently. The withdrawal prevention measures group is organized with the average in this subject, and it works on the drawing close type support while groping for cooperation with the guardian, the high school or the medical institution according to the case. It is necessary to maintain a coordinated system concerning the establishment of the common view between teachers and student information to advance this support in addition in the future.

Keywords

 寄り添い型支援,退学防止,合理的配慮,連携体制

      Ⅰ はじめに

      Ⅱ 学生支援に関する研究動向と政策的潮流        1 大学での学生支援に関する研究動向

大学における寄り添い型学生支援体制の構築

―中途退学防止の観点からの実践的アプローチ―

川 孝明・中嶋弘二・川嶋健太郎・川口惠子

Construction of System of Drawing Close Type Student Support at University

 −

Practicing Approach from Viewpoint of Dropout Prevention

(2)

       2 寄り添い型支援の政策的潮流

      Ⅲ 学生との関係性を重視した寄り添い型学生支援        −総合生活学科における具体的取組み−        1 退学防止対策班の概要

       2 具体的事例への対応        3 実践を踏まえた若干の考察

      Ⅳ 合理的配慮が必要な学生の支援体制をめぐる今後の課題        1 該当学生に対する教員間の意識格差

       2 個人情報をめぐる学内関係機関との連携体制       Ⅴ おわりに

Ⅰ はじめに

 近年,大学を取り巻く状況において,学生支援活動に対する関心が高まっている。その背 景として,大学進学率の上昇に伴い,学生の多様化が進んでいることが関係していると考え られる。基礎学力や学習への動機づけが低下した学生はもちろん,複雑な家庭環境で育った 学生など,学生を画一的に教育・指導していくことが困難なほど学生の多様化が進行してい る。こうした状況下においては,個々の学生の状況に応じたニーズ対応が求められる。その ため,学生支援活動への関心が高まっているといえる1)

 筆者が所属する短期大学部総合生活学科(以下,本学科)においても上記の問題は決して 例外ではない。なかには周囲とのコミュニケーションを苦手とし大学生活に不安を抱える学 生や,不本意入学によって意欲減退傾向にある学生,精神疾患をもちながら生活している学 生が存在する。これらの学生に対する対応として,これまでも教員間での定期的な動態把握 に努めていたが,その対応は担任任せとなっていた。その結果,担任の個人的負担が増える とともに , 該当学生との親身な関わりを持つ機会が十分に確保されていなかったために,毎 年一定数の中途退学者(以下,退学者)を出してしまうという問題を抱えていた。

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 このように本学科ではこれまでの担任ひとりでの学生支援に限界が生じていたことを踏ま え,退学の意思を示す以前の段階で学生が抱える問題をいかに発見し早期介入できるのか, チームアプローチによる学生支援体制の構築が急務となった。そこで2013(平成25)年度か ら新たに学科内で「退学防止対策班」を組織し,問題を抱える学生の早期発見と早期介入を 図ることとした。チームアプローチの有効性に関しては,医療・福祉分野では以前から導入 されており,また近年では消費者行政の分野においても実証研究がなされ,各関係機関の連 携による支援体制の構築こそが効果的な生活支援につながることが明らかにされている2)  そこで本稿では,学生支援を行う際に必要となる寄り添い型支援の基本的視点とその政策 的潮流を踏まえ,筆者が所属する総合生活学科で組織した退学防止対策班の取組みを紹介す る。教職員の人員規模・予算規模が限られている小規模大学ゆえに,学生に寄り添った支援 体制を構築するためにはどのような工夫が必要となるのか,本学科での取組みからみえてく る課題について考察することとしたい。

Ⅱ 学生支援に関する研究動向と政策的潮流

 ここではまず大学における学生支援に関する研究動向を概観するとともに,学生支援を行 う際に必要となる基本的視点がどこから生まれるのか,その視点を支える基本概念について 整理しておきたい。

1 大学での学生支援に関する研究動向

 一般的に学生支援に関する研究 , 特に退学防止については,臨床心理学的・精神医学的ア プローチと社会心理学的・社会学的アプローチの2つに大別されるといわれている3)。特に 心理学的アプローチから学生の内面的な情緒的問題を指摘するものが目立つ4)。また最近で は,引きこもりや不登校経験をもつ大学生に関する支援プログラムや就労支援プログラムに 関する研究もみられる5)。国立系大学では保健師を中心とした学内の保健センターが「大学 における休・退学,留年学生に関する調査」を行い,学生の休学・退学,留年に関する最新 の動向および , 学生の死亡の実態について明らかにし,その関連要因について検討してい る6)

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生に関する大学支援に関する研究7)や,聴覚障がい・視覚障がいのある学生への合理的配慮

に基づく取組みに関する研究8)などが見受けられる。

 また,経営マネジメントの観点から学生支援を捉えようとするエンロールメント・マネジ メント (Enrollment Management)の手法を用いた研究が2000年代以降,見受けられるよう になった。エンロールメント・マネジメントとは1970 年代に米国の大学を中心に提唱され た概念であり,在学中のみならず,入学前から卒業後まで一貫して学生を支援する科学的 マーケティング施策を指すとされている9)。この概念には,入学前指導・入学後の学生支

援・卒業後のリカレント教育まで含まれており,わが国における教育モデルの構築に関する 研究がある10)

2 寄り添い型支援をめぐる政策的潮流

 大学における寄り添い型の学生支援体制の必要性を論じる前に,ここでは寄り添い型支援 の考え方を支える基本的視点について言及したい。

(1)ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health 国際生活機能 分類)の考え方

 ICF は,人間の生活機能と障害の分類法として,2001(平成13)年5月世界保健機関 (WHO)総会において採択された。この特徴は,これまでの WHO 国際障害分類(ICIDH

International Classification of Inpairments Disabilities and Handicaps)がマイナス面を分類 するという考え方が中心であったのに対し,ICF は生活機能というプラス面からみるように 視点を転換し,さらに環境因子等の観点を加えたことにある。

 厚生労働省では,ICF の考え方の普及及び多方面で活用されることを目的として,ICF の 日本語訳である「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」を作成し,厚生労働省ホーム ページ上での公表することとした11)。1981(昭和56)年の国際障害者年以降 , 障害を個人の

問題とするのではなく,環境との関係でとらえる考え方が広まってきており,ICF はこうし た考え方を理論的に整理したモデルといえる。

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(2)「社会的包摂」概念を導入した政策動向

 ヨーロッパでは1980年代以降 , 金銭的な貧困のみならず,人々の無縁化・孤立化を問題視 し,社会から切り離された人々をいかに社会に取り込むかという「社会的包摂」概念を政策 に盛り込むという社会政策の新しい方向性を打ち出した。既に多くの文献によって紹介され ている通り,「社会的排除−包摂」の概念は,フランスの「反排除法」,イギリスの「社会的 排除問題対策本部(SocialExclusionUnit:SEU)」,EU の社会的包摂ナショナル・アクショ ン・プランなど,世界の社会政策の実践の場においても取り入れられている12)。社会的排除 とは「物質的・金銭的欠如のみならず,居住・教育・保健・社会サービス・就労などの多次 元の領域において個人が排除され,社会的交流や社会参加さえも阻まれ , 徐々に社会の周縁 に追いやられていくことを指す」13)とされ,大学現場においては不適応学生の欠席が目立ち, 結果的に退学に至るケースを指すと考えられる。

 社会的排除の対概念である社会的包摂の考え方は,2000年代以降わが国の政策にも導入さ れた。2011(平成23)年1月内閣総理大臣の指示に基づき「一人ひとりを包摂する社会」特 命チームが設置され,同年5月に「社会的包摂政策を進めるための基本的考え方」が,同年 8月には「社会的包摂政策に関する緊急政策提言」が取りまとめられた。具体的には,当事

図1 ICF(国際生活機能分類)の基本的な考え方

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者のニーズにあわせて制度横断的に支援のコーディネートを行い,当事者やその環境の状況 変化に応じた継続的な伴走型の支援によって,自立生活の継続を図る事業として,パーソナ ル・サポート・サービス事業」が進められ,2010(平成22)年10月から2012(平成24)年3 月まで全国各地でモデル事業が行われている。この「パーソナル・サポート・サービス事 業」はその後,厚生労働省・社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別 部会 報告書」(2013年1月)においても影響を及ぼし,新たな生活困窮者支援体系の法整備 が現在進められているところである14)

 以上の動向を踏まえて大学現場を考えた場合,大学不適応者に対して格段の支援をするこ となく,退学をさせてしまうことは大学における社会的排除であると考えられる。したがっ て,大学で生きづらさを抱える学生に対しては社会的包摂の考え方に則り,支援する側が積 極的に関わり,本人の気持ちに寄り添った伴走型支援が必要になってくるのである。

Ⅲ 学生との関係性を重視した寄り添い型学生支援

−総合生活学科における具体的取組み−

 本人のこれまでの環境要因によって大学生活に不安を感じたり,あるいは他人と円滑にコ ミュニケーションを図ることが困難な学生に対して,どのような支援が考えられるのか。こ こでは筆者が所属する短期大学部総合生活学科での具体的取組みを紹介し,支援のあり方に ついて検証していくことにしたい。

1 退学防止対策班の概要 (1)班創設の背景

 筆者が所属する総合生活学科では,毎年一定数の中途退学者を出してきた(表1を参照)。 本人が退学を申し出た時点で,すでに本人の意思が固まっており,説得することが困難な場 面をこれまで経験してきた。それ以前に欠席が目立ち,担任による本人および家族への電話 連絡等は行っていたが,担任ひとりによる個別対応となり,組織的なチームアプローチは皆 無であった。加えて,昨年度の退学者4名はすべて同じ高校の出身者でかつ同時期に退学の 申し出があったことから,退学者同士による行動の連鎖があったことも否定できない。  これまでの退学者の退学理由については,ここ3年間では「進路変更」とする理由がもっ とも多い。この「進路変更」には,入学動機が不明確で学生生活に適応できなかった者,意 欲の減退などで大学生活を送ることが困難な者も含まれる。しかしながら,本人が退学意思 を示すに至るまでの意思決定過程にどの程度学科教員が関わってきたのか,筆者にとって自 省すべき点も少なくなかった。

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組織的対応の基盤整備を進め,「退学防止対策班」の結成に至ったのである。

(2)班構成および具体的対応

 退学防止対策班(以下,対策班)は学科長を含め,4人の学科教員で構成される。まずは 学科教員の講義科目を中心に学科会議等で定期的な情報交換を行い,講義の欠席回数が多い 学生をリストアップすることに努めた。リストにあがってきた学生については班員でキー パーソンとなる学科教員を選定し,その教員を通じて本人もしくは家族へ連絡をすることに した。これまでの対応では,欠席が目立つ学生に対して慣行的に担任が連絡する方法をとっ ていた。しかし,本学科の担任制は基本的に学生と接する機会は自らの講義担当科目しかな く,それ以外で関わる場面はほとんどないのが現状である。かえって演習担当教員のほうが 当該学生の状況を把握している場合が多い。その結果,対策班では学生の普段の状況を把握 している教員あるいは学生との相性を考慮した教員を選定し,必ずしも担任ではない選任さ れた教員がキーパーソンとなり,学生と接触することにした。

 欠席が目立つ学生からみても,普段関わることが少ない担任からの連絡は不信感を抱き, 両者で本音を話す関係性が構築されているとはいいがたい。学生の立場を考えると本人が話 しやすいと考える教員であれば,気兼ねなく本音を話す環境作りが整備されることにつなが ると考えられる。このことから,従来の担任による初期介入ではなく,個別具体的な状況に 応じた適任者の選任を対策班で進めることにした。

2 具体的事例への対応

 ここでは退学防止対策班で取り扱った事例について紹介する。

(1)ケース①:体調不良を理由に不登校を続ける学生  【5月∼6月】

1)問題の所在:不登校(教室に入る勇気がないとの訴え) 支援のキーパーソン:教 表1 総合生活学科 過去6年間の退学者等について

入学者数 退学者数(退学率) 退学理由

2007年度入学 73名 5名( 6.8%)  

2008年度入学 80名 11名(13.8%)  

2009年度入学 55名 2名( 3.6%)  

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員A

2)本人の状況および対応内容:本人へ連絡。電話にて常に状況を把握(本人の心の闇 を探り,打開策を検討)。打開策として高校時の担任教員に連絡し,これまでの情報 を収集した。本人は必ず携帯に出る(連絡をとることを拒否していない)。大学へ行 かねばならないとは理解している。しかし行動できず,体調不良。欠席する場合には 必ず大学へ電話することを約束すると,次の日から実行へ。大学には何とか出てくる 可能性はあるが,教室に入ることができず。そのため,ハードルが高い教室ではない 大学での居場所作りが必要。

 【7月∼8月】

1)本人の状況:定期的に保健室登校するが顔色悪し。腹痛や頭痛で登校できない日も あった。友人関係で教室に入れないとの問題は本人のなかで解決しつつある。周囲が 自分をどう思っているのかが不安材料とのこと。保健室では友人ができ,大学の居場 所になりつつある。

2)対応内容:キーパーソンを教員Aのほか,友人B・保健室を加える。体調を回復さ せることを目的に本人への継続的なカウンセリングを実施。と同時に保護者に現状を 何らかの形で伝える必要があるとして,本人から前期の状況について保護者に話すよ う促す。

【9月∼10月】

1)本人の状況:夏休み期間中,定期的に来学し本人との面談を実施。家族へ前期の状 況を話すことができたとのこと。その後,後期以降も前期同様不登校の状態が続く。 2)対応内容:家族に教員Aから本人の状況を話し,教員Aが大学で母親と面談を実施。

母親として本人が抱える悩みに向き合ってほしいとお願いし,本人の背中を押してい ただきたいと伝える。母親了承。

(2)ケース②:不本意入学によって意欲減退傾向にある学生  【5月∼6月】

1)問題の所在:不登校  支援のキーパーソン:教員A , 高校時の担任

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 【7月∼8月】

1)本人の状況:本人と面談。5月からバイトで人手不足のため深夜帯にも入ることに なり,睡眠時間2時間で大学に行くことが続き , 次第に起きられず。また体調が悪化 したこともあり大学に足が遠のいてしまった。高校の時からお小遣いは自分で稼ぐ。 大学進学も当初両親は反対だったが,自分の意思を通した。前期分の学費は祖父が出 してくれた。その祖父がいま療養中のため,学費を出してもらったのに大学へ行って いない現状に後ろめたさを感じている。

2)対応内容:本人との面談では終始聞き役に徹し,本人の思いを吐き出させることを 心がける。友人等も心配していることを伝え , 卒業することのメリットおよび退学す ることのデメリットを説明し,本人も納得し,後期に向けてやる気を取り戻す。  【9月∼10月】

1)本人の状況:本人と面談。後期が開始され,当初は毎日登校。しかし,3週目以 降 , 科目によって欠席が目立つ状況になる。本人と連絡をとるなかで,やはりまた最 近迷いが生じてきたことを訴える。しかし大学にくれば友達がいるので楽しい反面 , 講義に参加することに対してやる気が起きない状態。

2)対応内容:本人とのこれまでの面談でのやりとりを再度確認し,大学への通学を促 す。と同時に自宅へ電話を入れ,母親に事情を話し本人の悩みを聞いていただき,励 ましてもらいたいとお願いする。

表2 対策班で取り扱ったケースの一部

何が問題か 問題の原因 関係機関との対応策

ケース① 不登校 体調不良,精神的不安定,親子関係 本人および保護者面談。高校時の担任および保健室との情報共有。

ケース② 不登校 体調不良,精神的不安定,親子関係 本人面談および家族へ連絡。高校時の担任との情報共有。

ケース③ 周囲との関係構築 本人のコミュニケーション能力 本人面談および高校時の担任および保健室との情報共有。

ケース④ 精神疾患による不登校 精神的不安定,親子関係 本人および保護者面談。高校時の担任および保健室・医療機関との情報共有。

ケース⑤ 継続的な通学が困 体調不良 本人および保護者面談。保健室との情報共有。

ケース⑥ 長期欠席 体調不良

本人および保護者面談。体調面で講義 が続く火曜日が心配。講義室近くで人 目を気にせず休める部屋があれば安心 するとのことで学科で対応。

ケース⑦ 長期欠席 妊娠から出産

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3 実践を踏まえた若干の考察 (1)心身の不調から不登校へ

 これまでの事例におおむね共通するのは,健康状態の悪化によって結果的に不登校状態に 陥っている点である。いいかえると,不登校学生の最初のサインは体調不良を訴えることと 考えられ,事前防止に向けた日頃の体調把握は退学防止の観点から重要であると思われる。 また,健康状態の悪化の原因には家庭環境が大きく起因していると考えられる(表2参照)。  筆者が対応したケースでは,自らの不登校を親に知られたくないとして,教員による保護 者への連絡になかなか同意をしない学生が数名いた。該当学生によれば,「いまの状態を親 が知れば頭ごなしに怒られる」(ケース①)「(将来に関して)自分で勝手に決めなさいと日 頃言われているので,親に言っても一緒」(ケース②)など,親子の力関係が本人の心身の 不調の原因になっており,親子関係への介入が必要と思われる場面が少なくなかった。介入 が必要と判断されるケースについては,短期間の支援での解決を図る見込みは低いことから, アウトリーチ(訪問支援)を視野に入れた支援が必要になってくると考えられる。

(2)居場所確保で派生する学生同士のつながり

 本ケースで対応した学生と関わるなかで問題として指摘されたことが,大学での居場所確 保であった。大学不適応の学生が周囲との関係になじめず,孤立してしまう場面が少なくな かった。そこで保健室を居場所確保のスペースと位置づけ,講義等で不在が多い教員研究室 以外にスタッフが常に在室している保健室に登校の際に訪問するよう該当学生に伝えること にした。その結果,定期的な保健室訪問によって,そこで同じ境遇の学生同士がつながり, 互いの悩みを打ち明けることで経験を踏まえたアドバイスを行う関係が構築されたのであっ た。

 これはピアカウンセリングとも呼ばれ,同じ境遇の者同士が互いの話をすることで自ら抱 える問題に向き合うことを可能とする効果があると考えられている。悩んでいるのは自分だ けではないと自覚することで,本人の気持ちに余裕が生じ,現状を受け入れる姿勢が芽生え るものと思われる。このように大学における居場所確保は,学生同士のコミュニケーション 構築を図り,互いのつながりを作るうえで必要不可欠なものということができる。

(3)関係機関(高校・医療機関等)との連携体制

(11)

のような対応をしていたのかを把握することは,大学教員にとっても有意義な情報であるこ とは当然であろう。

 加えて,精神疾患等で入院中の学生に関しては,保護者はもちろん,医療機関のワーカー (相談員)と連携し,入院中の本人の状況を把握したうえで,退院後,復学にむけての支援 方法について大学そして医療機関で協議する必要がある。今回,対応したケースでも本学科 教員数名で入院中の医療機関へ出向き,ワーカーにこれまでの状況を伝えるとともに,今後 の対応策について検討を行った。

 このように学生本人が抱えている問題が深刻なほど,本人を取り巻く社会資源を活用し, 連携体制を構築しながら包括的に本人の支援に取り組んでいることが重要である。

Ⅳ 合理的配慮が必要な学生の支援体制をめぐる今後の課題

 これまで検討した本学科の取組みを踏まえ,生活困難をもつ合理的配慮が必要な学生に対 する支援体制をいかなる形で整備すべきか,解決すべき課題について触れておきたい。

1 該当学生に対する教員間の意識格差

 これまで筆者が対応するなかで明らかになったことは,合理的配慮が必要な学生,たとえ ば中高時代から体調を崩しやすく大学の講義を欠席する傾向のある者は,基本的に講義を欠 席することに罪悪感を感じているということである。そこでは関係者(教員・家族・大学の 友人等)に迷惑をかけていると思っているにもかかわらず,その思いが本人のコミュニケー ション不足によって関係者に伝わらないのである。その結果,欠席明けに講義へ参加した場 面では講義担当者が欠席理由を問うことなく,現状のままでは単位取得が困難であることを 本人に告げるのみで,本人にとっては冷淡な対応をされたと受け取ってしまう傾向がある。 本人は「(体調不良等で欠席せざるをえない)私たちをズル休みする人たちと一緒にされた くない」(当事者談)との歯がゆい思いを抱くとともに,「(大学入学以前)いままで先生た ちから冷たい言葉を言われ続けてきたので慣れている」(当事者談)と割り切った考えをも ち,周囲とのコミュニケーションを避けてしまうという負のスパイラルに陥ってしまうこと が把握できた。

(12)

とする個人的責任の原理が根底にあるのである。

 しかしながら,個々人の置かれた状況に対して,その原因を分析し自らの努力を超えたと ころで起こる問題(たとえば複雑な家族関係が原因でストレスになり,大学を欠席してしま う学生)を社会全体(大学では組織全体)で当事者たちを支えていこうとする考え方は,現 在の社会保障制度を支える社会的責任の原理が通底されており,個人が抱える問題を個人の

責任と考えず環境との関係で捉える ICF の考え方そのものである15)

。このような考え方を全 学で周知・浸透させるためには,全学教職員が取り組む FD 研修等を活用し,学生にかかわ る全教職員が共通認識を確立し,一貫した支援体制を整備する必要があると考える。

2 個人情報をめぐる学内関係機関との連携体制

 学生支援を行うにあたって必要となるのが学生の個人情報である。いいかえると,個人情 報なくしては支援を行うことはできないといってよい。この個人情報に関して,近年社会福 祉分野では孤立死等の急増を背景に各関係機関による個人情報の共有が図られることとなっ た16)

。そこでは第三者への情報提供に関しては原則本人の同意が必要であるが,生命・身 体・財産の保護に必要な場合には本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供することが 可能である。

 大学の現場においては,関係部署間(たとえば,教員と関係事務課)の連携体制を図るう えでの学生情報の共有は第三者への情報提供に当てはまらないことは明白だろう。しかしな がら,特定の学生情報の共有が関係部署間で必ずしも図られているとはいいがたい現状があ る。これこそ個人情報の過剰反応であり,学生支援を行うにあたっては障壁となる問題であ る。学生情報の共有を図るためには,マクロ・ミクロレベル(図2・3を参照)で,大学に おける学生情報の活用に関するガイドライン等を作成し,学内外で学生情報をいかなる形で 管理し活用するのか,早急な整備が必要である。

(13)

Ⅴ おわりに

 本稿では,大学における寄り添い型学生支援体制のモデル構築を目的に,中途退学防止の 観点からの実践的アプローチの検討を行ってきた。退学防止対策班での取組みはまだまだ緒 に就いたばかりで必ずしもすぐに結果が出るとは限らない。しかし,これまで何ら本格的な 対策を考えてこなかったことを反省し,少しでも学生に寄り添った支援を考え,実践してい くことは将来的にも決して無駄ではないと考えている。

 大学全入時代を迎えた今日,大学を取り巻く状況はいっそう厳しさを増している。そのな かで各大学における学生支援の試みは,社会的な要請も相まって不可避なものとなっている。 これまで大学のイメージは,学生の自主性に任せ,教員は研究の傍ら教育活動に勤しむと いったものではなかっただろうか。しかし,本学科の学生に代表されるように,不本意入学 者や家族問題等の個人的環境が原因で大学生活になじめず,何らかの劣等感をもつ学生が現 在では少なくない。そういった状況においては,大学教員がいままでのような学生の自主性 や主体性を尊重し,学生を成熟した大人として扱うことよりも,日頃の関わりから問題を抱 えた学生の本音を引き出し,学び・生きる意欲を高めるために,コミュニケーション技術や メンタル面での支援まで一体的な支援体制を構築する必要があると考える。

 特に筆者が所属する私学においては,顧客満足度すなわち学生満足度を高めることが学生 サービスの質の向上につながると考えられる。いいかえると,学生ニーズをいかに汲み取る ことができるかは,学生といかに関わりをもつことができるかを意味しており,いかなる理 由でも入学を許可した責任として学生を自立した社会人として養成することが大学人の義務 であるといえる。大学教員にとって研究重視か教育重視か,議論が分かれるところであるが, 以下の言葉は学生に寄り添った学生支援体制の構築が急務なこの時代にとって有意義な示唆 を与えてくれるだろう。

「…人間にとって『教育』の方が『研究』よりはるかに根本的な事柄ではないかと思う。

それは,『教育』が人間の『生きる4 4 4』(傍点は筆者)ことに関わるのに対して,『研究』

は人間の『知る』ことに関わる行為だとみなしているからである。そして,人間にとっ

て究極の課題は,言うまでもなく,「知る」ことよりむしろ『生きる4 4 4』ことである。『知

る』ことは所詮『生きる4 4 4

』ことに奉仕すべき事柄である。『研究』は,それがどんなに

人間にとって大事なテーマを取り扱っていようとも,最終的には人間の『生きる4 4 4』こと

をサポートするものでなければ無意味である。この考え方からすれば,人間にとっては

(14)

注)

1) 最近の学生支援に関する著書として,加野芳正・ 城浩一編『学生による学生支援活動 の現状と課題』広島大学高等教育研究開発センター・高等教育研究叢書112号(2011年) がある。本書は学生支援活動について多角的な視点から分析を行っており,大学の教育 現場において大いに示唆を得る文献のひとつである。

2)詳しくは,川口惠子「地域コミュニティにおける持続的な生活支援の試み−消費者行政 の視点を核とした新たな展開−」『日本家政学会誌』No.6,Vol.64(2013年)1頁以下 を参照されたい。

3)窪内節子「大学退学とその防止に繋がるこれからの新入生への学生相談的アプローチの あり方」『山梨英和大学紀要』8号(2009年)9頁以下。ここで窪内氏は社会心理学的・ 社会学的アプローチに関する先行研究をまとめるとともに,学生相談に関する調査を心 理学の視点から考察している。

4)たとえば,大学不適応感の実態を調査し,意欲減退と大学生活不安の2つの側面から考 察したものに,山田ゆかり「大学新入生における適応感の検討」『名古屋文理大学紀要』 第6号(2006年)29頁以下。また大学適応のためのプログラム実践について論じたもの に,森田祐司・岡本貞夫「新入生対象の講義『キャンパスライフ実践論』の試み」『学 生相談研究』Vol.26,No.3(2006年)185頁以下,森田祐司「学生相談室による新入生 のサポート−呼び出し面接の工夫と講義『キャンパスライフ実践論−』」『大学と学生』 Vol.29(2006年)25頁以下がある。

5)和田修「大学キャンパスでおこなう,ひきこもり・不登校学生支援プログラム −復学 までの過程−」九州国際大学『社会文化研究所紀要』第68号(2011年)129頁以下,同 「大学と地域の連携でおこなう,ひきこもり・不登校学生への就労支援」九州国際大学 『教養研究』第18巻第3号(2012年)61頁以下。

6)内田千代子「大学における休・退学,留年学生に関する調査 第28 報」茨城大学保健管 理センタ―(2007年)1頁−28頁。

(15)

8)山崎安則・池田和彦・江玉睦美「高等教育機関における障害学生の受け入れと支援の在 り方に関する特別研究」『筑紫女学園大学・筑紫女学園大学短期大学部 紀要』第8号 (2013年)165頁以下,市川奈緒子「障がいのある学生支援 - 他大学視察報告 -」白梅学

園大学『研究年報』No.17(2012年)77頁以下。 

9)日本でエンロールメント・マネジメントに取り組む専任部署を設置している大学は少な く,唯一山形大学は2006(平成18)年にエンロールメント・マネジメントを実現するた めの事務組織(エンロールメント・マネジメント部)を立ち上げ,学生に関するさまざ まなデータ分析を行っている。詳しくは,「山形大学エンロールメント・マネジメント 部」ホームページを参照。

  http://www.yamagata-u.ac.jp/ky-k/archive.html

10)金明秀「エンロールメント・マネジメントと教育実践の融合−京都光華女子大学を事例 として−」『京都光華女子大学研究紀要』46号(2008年)251頁以下,同「日本における エンロールメント・マネジメントの展開(1)∼(3)『私学経営』412号∼413号(私学 経営研究会,2009年)。

11)厚生労働省ホームページ「国際生活機能分類 - 国際障害分類改訂版−(日本語版)−」   http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html

12)詳しくは,福原宏幸編『社会的排除・包摂と社会政策』(法律文化社,2007年)を参照。 13)内閣官房社会的包摂推進室・社会的排除リスク調査チーム「社会的排除にいたるプロセ

ス−若年ケース・スタディから見る排除の過程−」(2012年9月)2頁。

14)2013(平成25)年1月に発表された厚生労働省・社会保障審議会「生活困窮者の生活支 援の在り方に関する特別部会 報告書」では,社会的包摂概念を取り入れた相談支援体 制のあり方に言及するとともに,若者の貧困防止策についても検討されている。 15)同様の議論として,国民健康保険料の滞納者に対する行政の理屈は「まじめに保険料を

納付している人にとって,滞納者の行為は失礼である。だから資格証を没収する」であ る。また生活保護受給者に対して「まじめに働いている人にとって,働きもせず国の税 金で生活しているのは怠け者同然である」とする論理も貧困の原因を個人の責任に重き を置いた考え方であり,こういった考え方が社会的排除を生み出す構造になるといえる。 16)詳しくは,厚生労働省「福祉分野における個人情報保護に関するガイドライン」(2013年

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