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密教文化 Vol. 1979 No. 126 001高見 寛恭「入唐八家の密教相承について (二) P1-16」

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第 一 章 総 説 第 二 章 最 澄 の 密 教 相 承 第 一 節 そ の 由 来 第 二 節 内 容 と そ の 批 判 ( 以 上、 密 教 文 化 一 二 二 号 参 照 ) 第 三 章 空 海 の 密 教 相 承 第 一 節 そ の 動 機 空 海 が 密 教 を 相 承 し よ う と し た 動 機 は 普 通、 彼 れ の 弟 子 で あ る 真 済 ( 八 ○ ○ 一 八 六 〇 ) が 承 和 二 年 ( 八 三 五 ) に 記 し た と 伝 え ら れ て い る ﹃ 空 海 僧 都 伝 ﹄ ( 弘 法 大 師 全 集 首 巻 ) に ニ ン テ ノ ニ シ テ ケ ヲ シ テ ニ テ ク レ テ ニ 此 及 二 十 年 一剃 髪 受 二 沙 弥 戒 一、 対 二 仏 像 一誓 日。 我 入 二 仏 道 一 ニ ム ン ト ヲ ノ ニ テ タ テ サ ヲ キ 毎 求 レ 知 レ 要。 三 乗 五 乗 十 二 部 心 裏 有 レ 疑 未 二 以 為 ブ 決。 仰 ク ハ シ モ ヘ ニ ヲ ニ ス ル ニ ニ テ ク レ カ 願 示 二 我 至 極 一。 一 心 祈 請 夢 有 レ 人 日。 大 毘 盧 遮 那 経 是 汝 ム ル チ シ テ ス メ テ ヲ イ テ ヲ ク ル ニ リ 所 レ 求 也。 即 覚 悟 歓 喜。 求 二 得 一 部 一披 レ 秩 遍 覧、 凡 情 有 レ 滞 シ タ タ シ フ ニ ニ シ テ ヲ セ ン ト ス 無 レ 所 二 質 問 一 更 為 二 発 願 一 入 唐 学 習。 と あ る の が そ れ で あ る と せ ら れ て い る。 併 し そ れ だ け が 彼 れ の 密 教 相 承 の 動 機 の す べ て で あ る と 見 る の は 充 分 で は な い。 前 章 に て 触 れ た 如 く、 金 剛 智 ・ 善 無 畏 ・ 不 空 等 の 渡 来 に よ っ て 唐 土 に 醸 成 せ ら れ た 密 教 隆 盛 の 余 波 は 我 れ 等 の 予 想 外 に 頻 繁 で あ っ た 当 時 の 中 ・ 日 間 の 交 流 の 結 果、 我 が 国 に も 早 く か ら そ の 影 響 を 及 ぼ し、 既 に 奈 良 時 代 に 可 成 の 密 教 が 盛 行 し て い た 事 は 史 実 に 表 わ れ て い る。 (櫛 田 良 洪 著 真 言 密 教 成 立 過 程 の 研 究 第 一 編 第 一 章 ) し た が っ て 空 海 は そ の 著 ﹃ 三 教 指 阪 ﹄ 上 ( 弘 法 大 師 全 集 第 三 輯 ) に ニ ス ニ ノ ニ カ ク シ テ ニ ス レ ハ 裳 有 二 一 沙 門 一 呈 二 余 虚 空 蔵 聞 持 法 一其 経 説。 若 人 依 レ 法 諦 二 ノ ヲ チ ト ノ ノ ス ル コ ヲ 此 真 言 一 百 万 遍 一 即 得 二 一 切 教 法 文 義 暗 記 一 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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密 教 文 化 と 記 し て い る 如 く、 虚 空 蔵 求 聞 持 法 を 相 承 す る 機 縁 に 恵 ま れ て い る。 一 沙 門 と は 勤 操 ( 七 五 八 一 八 二 七 ) の こ と で あ る と 云 わ れ て い る。 ( 弘 法 大 師 全 集 第 二 輯 所 収 御 遺 告 初 示 成 立 縁 起 第 一 ) 其 経 と は そ の 引 文 の 意 か ら 考 え る と、 ﹃ 仏 説 虚 空 蔵 菩 薩 能 満 諸 願 最 勝 心 陀 羅 尼 求 聞 持 法 ﹄ 一 巻 善 無 畏 訳 (大 正 蔵 二 十 ) を 指 し て い る。 金 剛 界 所 属 の 儀 軌 で あ っ て、 道 慈 こ れ を 善 無 畏 よ り 伝 え、 善 議 ・ 勤 操 と 相 承 せ ら れ た と 云 わ れ て い る。 一 沙 門 と は 勤 操 で あ る か ど う か は 確 か で な い と し て、 三 浦 章 夫 の ﹃弘 法 大 師 伝 記 集 覧 ﹄ 延 暦 十 年 の 条 に は﹁ 僧 某 二 随 ヒ テ﹂ と し て い る。 何 れ に し て も 空 海 は こ の 法 を 尊 信 し て そ れ の 示 め す 所 に し た が っ て 阿 波 の 国 大 滝 之 獄 ・ 土 佐 の 国 室 戸 之 崎 等 に 於 い て 苦 修 練 行 し た。 ( 空 海 僧 都 伝 ) こ の こ と は 彼 れ が 如 何 に 密 教 へ 深 い 阪 依 を し て、 そ れ を 無 二 の も の と 景 仰 し て い た か と 云 う こ と を 物 語 っ て い る。 こ の 様 な 密 教 へ の 傾 き は 密 教 の よ り 深 奥 な る も の へ の 志 求 と 転 じ て 行 っ た こ と は 容 易 に 考 え ら れ る。 要 す る に、 空 海 の 密 教 相 承 の 動 機 は 求 聞 持 法 の 苦 修 練 行 か ら 出 て い る。 前 引 の ﹃ 空 海 僧 都 伝 ﹄ に 伝 え て い る ﹃ 大 日 経 ﹄ 感 得 云 云 も そ の 求 聞 持 法 の 苦 修 練 行 か ら 派 生 し て 来 た 一 の 動 機 で あ る。 密 教 の よ り 深 奥 な る も の の 志 求 の 道 程 に 自 然 と 出 て 来 た 一 の 動 機 で あ る。 第 二 節 内 容 と そ の 批 判 空 海 は 金 剛 ・ 胎 蔵 両 部 の 大 法 を 入 唐 相 承 す る 以 前 に、 金 剛 界 法 に 属 す る 求 聞 持 法 と 云 う 密 法 を 相 承 し て い る。 こ れ は 後 に 彼 れ が 完 全 な る 密 教 相 承 即 ち 両 部 大 法 を 相 承 す る に 至 っ た 動 機 と は な っ た が、 内 容 と し て は 左 程 重 き を 置 く 必 要 は な い。 求 聞 持 法 を 入 唐 し て 恵 果 和 尚 よ り 再 伝 し た と の 説 が あ る。 ( 拙 著 中 院 流 院 家 相 承 伝 授 録 下 巻 ) 二 伝 の 相 異 は 本 尊 に あ る と 云 わ れ る。 勤 操 よ り 受 け た と 云 う そ れ は 求 聞 持 法 の 儀 軌 に 基 づ く が、 再 伝 の そ れ は ﹃ 秘 蔵 記 ﹄ に 依 る の で あ る。 と こ ろ で 彼 れ の 密 教 相 承 に つ い て は 最 近 高 井 観 海 著 ﹃ 秘 密 事 相 大 系 ﹄ ・ 勝 又 俊 教 著 ﹃ 真 言 密 教 成 立 過 程 の 研 究 ﹄ ・ 中 野 義 照 編 ﹃ 弘 法 大 師 研 究 ﹄ の 内 に 収 め ら れ て い る 松 長 有 慶 の ﹁ 付 法 伝 の 典 拠 と 著 作 目 的 ﹂ 等 に 詳 し い の で、 今 省 略 す る こ と に す る が、 彼 れ の 密 教 相 承 を 研 究 す る に つ い て は 彼 れ の ﹃ 御 請 来 録 ﹄ ( 弘 大 師 全 集 第 一 輯 ) に シ リ モ フ ニ ノ ニ ケ ニ 昔 金 剛 薩 唾 親 受 二 遍 照 如 来 幻 数 百 歳 後 授 二 龍 猛 菩 薩 つ 龍 猛 菩 ケ ニ ケ ニ シ 薩 授 二 龍 智 阿 閣 梨 一、 龍 智 阿 閣 梨 授 二 金 剛 智 阿 閣 梨 一、 中 略 唯

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マ メ ガ ノ ミ メ ケ ニ ニ メ 有 二 我 祖 大 広 智 阿 闇 梨 ﹁初 受 二 金 剛 智 三 蔵 一、 更 詣 二 南 天 竺 龍 ノ モ ト ニ シ ノ ヲ シ モ フ ノ ヲ 智 阿 闊 梨 所 一、括 二 嚢 十 八 會 玲 伽 一、研 二 窮 胎 蔵 等 密 教 一 と 記 し、 又 ノ ハ チ ノ 其 大 徳 (恵 果 和 尚 ) 則 大 興 善 寺 大 広 智 不 空 三 蔵 之 付 法 弟 ス ニ ニ ス ル ヨ ヲ ニ ス ル バ ニ 子 也。 中 略 許 レ 我 ( 空 海 ) 以 レ 入 二 灌 頂 道 場 一沐 二 受 明 灌 頂 一 再 ル コ ヲ シ ヲ フ 三 焉。 受 二 阿 闇 梨 位 一 一 度 也 中 略 学 二 両 部 之 大 法 一、 習 二 諸 尊 ヲ 之 愉 伽 一。 と 記 し て い る 所 か ら 始 め な け れ ば な ら な い 灌 頂 を 受 け、 両 部 大 法 を 相 承 す る に つ い て 彼 れ は 同 録 の 別 の 所 に 更 に 詳 し く ル ニ ノ テ 六 月 上 旬 ( 延 暦 廿 四 年 ) 入 二 学 法 灌 頂 壇 一〇 是 日 臨 二 大 悲 胎 蔵 ニ リ ケ ス 大 曼 茶 羅 一、 中 略 従 レ 此 以 後 受 二 胎 蔵 之 梵 字 儀 軌 一、 学 二 諸 尊 之 ヲ ニ ン テ ノ ニ ニ 諭 伽 観 智 つ 七 月 上 旬 更 臨 二 金 剛 界 大 曼 茶 羅 一、 中 略 八 月 上 旬 亦 受 二 伝 法 阿 闇 梨 位 之 灌 頂 一っ中 略 金 剛 頂 玲 伽 五 部 真 言 密 契 テ ケ テ ス ヲ 相 績 而 受、 梵 字 梵 讃 問 以 学 レ 之。 と 記 し て い る。 こ れ 等 に 依 る と、 彼 れ が 金 胎 両 部 の 大 法 を 相 承 し て い る こ と は 異 論 の 余 地 は 無 い が、 そ れ が 如 何 に し て 相 承 さ れ た か に つ い て は、 彼 れ が 書 写、 請 来 し た ﹃ 金 剛 頂 玲 伽 五 秘 密 修 行 儀 軌 ﹄ と ﹃ 大 唐 大 興 善 寺 大 辮 正 大 広 智 三 蔵 表 答 碑 ﹄ に 依 る だ け で、 師 の 恵 果 か ら 直 接 に 聞 い た と は 記 し て い な い。 即 ち 同 録 に ハ シ ノ ビ ノ ノ ニ 法 之 濫 筋 如 二金 剛 薩 唾 五 秘 密 儀 軌 及 大 辮 正 三 蔵 表 答 等 中 ク ク 広 説。 と 記 し て い る 所 に よ っ て 知 ら れ る。 師 恵 果 は 伝 法 阿 闊 梨 の 影 と し て 空 海 に 指 示 し て 画 か し め て い る の は 金 剛 智 と 善 無 畏 と 不 空 と 恵 果 と 一 行 と の 五 師 だ け で、 竜 猛 ・ 竜 智 二 師 の 影 に つ い て は 画 か し め て い な い。 こ れ は 如 何 な る 理 由 に 依 る の で あ ろ う か。 所 謂 空 海 が 云 う 両 部 大 法 相 承 の 血 脈 は 恵 果 の 所 で は 未 だ 確 立 し て い な か っ た の で な か ろ う か。 更 に 研 討 す べ き で あ る。 こ の 血 脈 相 承 を 飯 朝 後 更 に 確 立 せ ん が 為 に、 空 海 は 竜 猛 ・ 竜 智 二 師 の 影 を 補 写 し、 (弘 法 大 師 伝 記 集 覧 弘 仁 十 二 年 九 月 七 日 の 条 ) 広 ・ 略 付 法 伝 ( 弘 法 大 師 全 集 第 一 輯 所 収 ) を 編 作 し て い る。 最 近 こ の 金 ・ 胎 両 部 の 血 脈 相 承 に つ い て 純 史 学 的 な 研 究 の 眼 を 向 け る 傾 向 が あ る。 初 め に 挙 げ た 三 著 が そ れ で あ る。 今 そ の 是 非 は こ こ に 論 じ な い。 た だ 彼 れ が 両 部 の 大 法 を 嫡 承 し た。 そ の 相 承 は 彼 れ に 依 れ ぽ 大 日 如 来 ・ 金 剛 薩 垣 ・ 竜 猛 菩 薩 ・ 竜 智 菩 薩 ・ 金 剛 智 三 蔵 ・ 不 空 三 蔵 ・ 恵 果 和 尚 ・ 弘 法 大 師 と 次 第 す る と 云 う に 止 め て、 批 判 は 後 に 譲 る。 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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-3-密 教 文 化 台 密 所 伝 で は、 例 え ば ﹃ 延 暦 寺 護 国 縁 起 ﹄ ( 続 群 書 類 従 第 二 十 七 輯 下 ) の 巻 下 に 問。 何 弘 法 両 部 中 以 二 金 剛 頂 一為 レ 宗 耶。 答。 智 証 大 師 云。 法 全 和 尚 云。 吾 少 年 古。 見 二 空 海 阿 闊 梨 伝 法 つ 金 剛 界 傳 二 大 旨 つ 胎 蔵 界 如 無 云 云。 実 知。 弘 法 巳 無 畏 所 訳 胎 蔵 灌 頂 之 儀 軌 不 レ 傳 レ 之。 故 傳 法 密 印 在 二 子 細 一。傍 胎 蔵 界 如 無 者 此 意 歎。 と あ る が 如 く、 空 海 は 金 剛 界 大 法 の み 相 承 し、 胎 蔵 界 大 法 は 相 承 せ ず と の 説 が 一 部 で 行 わ れ て い る。 台 密 所 伝 で は 空 海 が 両 部 大 法 の 相 承 血 脈 と し て 用 い る 大 日 ・ 金 薩 ・ 竜 猛 ・ 竜 智 ・ 金 智 ・ 不 空 ・ 恵 果 を 金 剛 界 大 法 だ け の 相 承 血 脈 と し、 胎 蔵 界 大 法 は 別 の 相 承 血 脈 を 用 い、 そ れ を 正 し い と す る 立 場 を 取 る 所 か ら 出 て く る 一 説 で あ る。 別 の 相 承 血 脈 と は 大 只 ・ 金 剛 手 ・ 達 磨 掬 多 ・ 善 無 畏 ・ 玄 超 ・ 恵 果 と 次 第 す る 血 脈 で あ る。 し か し て 円 仁 を し て 空 海 に 代 ら し め、 円 仁 こ そ 初 め て 我 が 国 に 欠 く る 所 無 き 全 き 密 教 を 相 承 し た 第 一 人 者 で あ る と し て い る。 併 し こ れ は 史 実 を 無 視 し た 後 世 の 謬 論 で あ る。 第 三 節 蕪 悉 地 大 法 伝 不 の 問 題 ﹃ 蘇 悉 地 経 ﹄ を 正 所 依 と す る 蘇 悉 地 大 法 は 円 仁 入 唐 し て 義 真 よ り 相 承 し、 彼 れ の ﹃ 蘇 悉 地 賜 羅 経 略 疏 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 四 十 三 冊 ) 巻 下 に 是 三 部 経 王、 諸 尊 肝 心。 緒 二 惣 真 言 之 秘 旨 一、 該 二 貫 大 教 之 要 妙 つ 中 略 諸 部 大 教 非 二 此 経 王 一支 分 不 レ 備、 衆 尊 秘 法 非 二 是 真 典 一未 レ 有 二 妙 行 鴫 下 咽 と 記 し て、 金 胎 両 部 大 法 と 同 じ く こ れ を 重 ん じ て 蘇 悉 地 大 法 と 云 い、 嘉 祥 三 年 ( 八 五 〇 ) 十 二 月 十 四 日 に 両 部 大 法 年 分 度 者 に 並 べ て 蘇 悉 地 大 法 の 年 分 度 者 を も 奏 請 し て い る。 伝 個 映 灰 系 第 廿 五 巻 類 聚 三 代 格 巻 二 太 政 官 符 応 増 加 年 分 度 者 二 人 事 ) 円 珍 も 亦 こ れ を 法 全 よ り 伝 承 し、 ﹁ 蘇 悉 地 連 署 状 ﹂ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 二 十 五 冊 天 台 霞 標 第 二 篇 巻 之 二 ) に 右 大 法 者 為 二 胎 蔵 金 剛 両 部 大 法 之 両 翼 お 是 以 唐 大 師 等 井 我 慈 覚 大 師 殊 秘 二 惜 之 つ 不 レ 同 二 他 部 つ 伍 自 今 已 後 傳 法 者 須 下 教 二 授 弟 子 一令 レ 登 二 阿 閣 梨 位 一 之 後 方 授 中 件 法 加 若 不 レ 爾 者 恐 損 二 人 道 一。 故 所 レ 定 如 レ 件。 と 重 視 し、 爾 来 台 密 即 ち 円 仁 ・ 円 珍 の 下 の 密 教 に あ っ て は、 金 胎 両 部 に こ れ を 加 え て 三 部 大 法 と 称 し、 密 教 の す べ て を こ れ 等 に 摂 し、 更 に 蘇 悉 地 大 法 を 以 っ て 金 胎 両 部 不 二 の 大 法 と 見 て 両 部 の 大 法 よ り 上 位 に 置 い た。

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こ の 様 に 台 密 に あ っ て は 蘇 悉 地 法 を 大 法 と 称 し て 尊 重 す る あ ま り、 空 海 の 全 密 教 を 両 部 大 法 に 統 摂 す る 相 承 を 疑 し て 前 に 引 い た ﹃ 延 暦 寺 護 国 縁 起 ﹄ 巻 下 に 蘇 悉 地 大 法 者 慈 覚 大 師 伝 来。 弘 法 惣 不 レ 伝 レ 之。 依 レ 之 智 証 大 師 授 二 雲 和 尚 一賜 二 官 符 一云。 胎 蔵 金 剛 両 部 大 法 者 先 来 本 朝 非 レ 不 レ 傳 レ 之。 至 二 蘇 悉 地 大 法 一 其 名 未 二 曽 有 7 之。 裳 故 ニ 阿 闊 梨 円 仁 応 二 五 百 之 運 一創 伝 二 此 道 つ 大 之 中 大 実 在 二 此 内 一 云 々 と 云 い、 空 海 は そ れ を 相 承 せ ざ る を 以 っ て、 そ の 相 承 に 欠 く る 所 あ り と し て い る。 併 し 東 密 に て は、 例 え ば 慧 光 ( 一 六 六 六 -一 七 三 四 ) の ﹃ 安 流 印 信 口 訣 ﹄ 甲 に ナ リ ノ 蘇 悉 地 自 門 他 門 相 承 太 殊。 又 於 二 束 密 一野 沢 所 伝 各 不 同 ハ シ テ ヲ ハ ヲ 也。 先 他 門 者 別 二 傳 両 部 一、 傳 二 金 界 一師 不 レ 知 二 胎 界 一、 傳 レ 胎 ハ ノ ニ シ テ ク ノ ニ 人 師 而 不 レ 知 レ 金。 是 故 両 部 理 智 各 別 未 レ 知 二 両 部 即 艦 全 是 ナ ル コ ヲ ヲ ヲ ノ バ ク へ 不 二 つ 故 以 二 蘇 悉 地 一 習 二 不 二 一 也。 次 東 寺 伝 者 両 部 等 伝、 メ ノ ヲ ノ ノ ニ ノ ニ ン ヤ ヲ 究 二 二 界 源 一 両 部 当 躰 各 不 二 也。 量 両 部 外 存 二 不 二 乎 一。 と あ り、 宥 快 ( 一 三 四 五 -一 四 一 六 ) の ﹃ 大 疏 伝 受 砂 ﹄ (長 谷 宝 秀 の 大 疏 秘 記 集 上 ) に ハ ヲ ス ル ノ ニ ラ ヲ ニ テ 一、 他 門 両 部 相 二 承 各 別 人 一 故 不 レ 知 二 両 部 不 二 つ 故 以 二 蘇 ヲ フ ノ ト ハ ノ ニ フ 悉 地 一習 二 不 二 大 事 一。 東 寺 両 部 等 葉 相 承 故 習 二 両 部 即 不 ト テ ニ ノ ニ ル ナ リ テ ヲ ニ 一。 依 レ 之 両 部 外 不 レ 立 二 不 二 一 ノ ハ ヲ ス ル ニ ノ ヲ ニ ス モ ノ 二、 他 門 真 言 顕 密 兼 学 故 顕 密 宗 旨 一 致 習 合。 而 顕 教 遮 情 ナ ル テ ノ ヲ ス ノ ニ ニ ノ ニ ブ 宗 旨 故 捨 二 迷 情 差 別 一阪 二 一 味 空 理 鴫 故 両 部 而 二 外 尊 二 不 ノ ヲ ノ ハ フ ノ ヲ ニ ニ 一 中 一〇 東 寺 所 傳 伝 二 唯 密 宗 旨 つ 故 顕 密 宗 旨 各 別 也。 中 略 ソ ス ル テ ニ ノ シ ト モ リ ト ハ 凡 相 二 承 真 言 宗 一人 於 二 本 朝 一其 数 多 レ 之。 錐 レ 然 大 綱 云 レ 之 リ ノ テ ノ ヲ ス ト シ テ 者 有 二 八 家 つ 其 中 以 二 弘 法 大 師 所 伝 一為 二 正 義 噂 大 師 釈 ク ル テ ヲ ト 云。 真 言 密 教 両 部 秘 蔵 文 然 間 以 二 両 部 大 経 一為 二 所 依 一。 ル テ ヘ ヲ 中 略 然 間 立 二 両 部 一 為 二 諸 法 之 本 源 一 云 々 と あ る 如 く、 空 海 以 来、 金 胎 両 部 の 大 法 を 以 っ て 全 密 教 を 統 摂 し、 そ れ 以 外 に 台 密 所 論 の 様 な 所 謂 三 部 大 法 と し て の 蘇 悉 地 法 を 立 て て、 こ れ を 重 視 し な い。 し た が っ て 空 海 は 蘇 悉 地 法 の 正 所 依 で あ る ﹃ 蘇 悉 地 経 ﹄ を 彼 れ の 著 ﹃ 真 言 宗 所 学 経 律 論 目 録 ﹄ ( 弘 法 大 師 全 集 第 一 輯 ) に ﹁ 真 言 行 者 常 に 此 の 経 に よ り て 行 住 坐 臥 の 行 事 を 作 せ ば 悉 地 の 事 業 成 就 し 易 し ﹂ と の 意 か ら そ の 律 部 の 目 録 の 中 に 納 め て い る。 元 来 蘇 悉 地 法 が 大 法 と し て 金 胎 両 部 と 合 し て 三 部 の 大 法 と 云 わ れ る よ う に な っ た の は、 空 海 入 唐 伝 密 三 十 五 年 後 の 太 和 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て (二)

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密 教 文 化 八 年 ( 八 三 四 ) に 海 雲 が 記 し た ﹃ 両 部 大 教 師 資 付 法 記 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 遊 歩 伝 叢 書 第 四 ) に 次 有 二 蘇 悉 地 此 云 妙 成 就 教 一 広 明 二 三 部 一、 亦 摂 二 諸 持 念 法 幻 此 中 但 明 二 事 成 就 殉 與 二 金 剛 界 及 大 毘 盧 遮 那 一義 味 相 渉。 亦 ノ ナ リ 是 至 極 要 妙 法。 三 蔵 善 無 畏 所 訳。 兼 二 前 二 部 大 教 及 蘇 悉 地 一共 成 二 三 部 大 教 一 云 々 と あ る を 初 見 と す る。 但 し ま だ 台 密 に 重 視 す る よ う な 金 胎 両 部 大 法 不 二 の 大 法 と し て の 蘇 悉 地 法 は 顕 わ れ て い な い。 引 文 ノ に ﹁ 与 二 金 剛 界 及 大 毘 盧 遮 那 一義 味 相 渉。 亦 是 至 極 要 妙 法 ﹂ と あ る の や、 又 同 記 巻 下 に 此 二 本 大 教 王 即 大 毘 盧 遮 那 大 教 王 及 金 剛 界 大 教 王 是 也 統 二 摂 一 切 持 念 教 門 一 云 々 と あ る に よ っ て 知 る こ と が 出 来 る。 唐 即 ち 中 国 に 於 け る 伝 え で は 空 海 は 蘇 悉 地 法 を 相 承 し た と あ る。 即 ち 同 付 法 記 巻 下 に 沙 門 玄 超 阿 闇 梨 復 将 二 大 毘 盧 遮 那 大 教 王 及 蘇 悉 地 教 一伝 二 付 青 竜 寺 東 塔 院 恵 果 阿 闊 梨 一、 阿 闊 梨 又 伝 二 付 中 略 日 本 国 空 海 嚇云 云 と あ り、 又 開 成 四 年 即 ち 承 和 六 年 ( 八 三 九 ) に 青 竜 寺 円 鏡 等 が 実 恵 等 に 送 っ た 答 書 ( 弘 法 大 師 全 集 第 五 輯 追 懐 文 藻 八 ) に ノ ノ ニ ヒ 彼 土 ( 日 本 ) 大 師 八 人 等 (実 恵 等 ) 並 習 二 胎 蔵 大 牟 尼 法 宗 金 ヲ ブ ヲ ク レ ノ マ ル 剛 界 光 明 相 會 ハ学 二蘇 悉 地 密 厳 威 儀 一 悉 是 故 空 海 大 師 去 貞 テ ノ ニ メ ノ ノ ニ 元 年 中 来 二 此 国 一、 投 二 干 故 内 供 奉 灌 頂 教 主 恵 果 和 尚 慮 一 習 シ テ ノ ニ リ ニ メ ノ ヲ ル ノ ノ ト 学、 至 二永 貞 初 一還 二 本 国 一 弘 二 三 部 大 法 h為 二 彼 土 大 灌 頂 師 一。 ニ テ メ ヲ ス 遂 有 二 門 弟 子 八 人 一奉 レ 教 流 化 云 々 と あ る。 併 し 空 海 の 著 作 等 の 上 で は こ の 様 な 三 部 の 大 法 と 云 う こ と に つ い て は 何 に も 記 す と こ ろ が な い。 も っ と も 彼 れ は ﹃ 御 請 来 録 ﹄ に 蘇 悉 地 大 法 の 正 所 依 で あ る ﹃ 蘇 悉 地 経 ﹄ を 伝 え て い る の で あ る か ら、 若 し こ の 儀 あ れ ば 何 か 言 及 す る と こ ろ が あ る 筈 で あ る。 要 す る に 空 海 販 朝 以 後、 唐 土 に 於 い て は 海 雲 ・ 圓 鏡 の 年 代 に 至 っ て 三 部 の 大 法 と 云 う こ と が 唱 え ら れ た。 併 し 恵 果 以 来 の 両 部 大 法 を 以 っ て 密 教 を 見 て 行 く 立 場 は 失 わ れ て い な か っ た。 た ま た ま そ の 年 代 に 円 仁 等 が 入 唐 し て そ れ を 受 け、 飯 朝 後 に 台 密 と し て の 特 徴 を 表 わ す 面 に 採 り 上 げ て 利 用 し た。 そ の 事 点 で 問 題 が 出 て 来 た も の と 考 え ら れ る。 第 四 章 常 暁 の 密 教 相 承 常 暁 ( 一 八 六 六 ) が 密 教 を 相 承 す る に 至 っ た 動 機 は 不 明 で

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あ る。 併 し そ の 一 つ に 当 時 の 内 外 の 教 界 の 密 教 的 趨 勢 に 順 応 し た と 言 う 事 を 含 ま し め て も 謬 り で は な か ろ う。 彼 れ の 密 教 相 承 は 空 海 に 随 っ て 灌 頂 を 受 け、 受 学 し た の を 初 見 と す る。 ( 弘 法 大 師 伝 全 集 第 十 冊 弘 法 大 師 弟 子 譜 三 ) 但 し 東 密 所 伝 の 伝 法 灌 頂 血 脈 に は 彼 れ の 名 を 列 ね て い な い。 併 し 彼 れ の ﹃ 請 末 目 録 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 二 冊 仏 教 書 籍 目 録 第 二 ) に よ れ ば、 彼 れ は 文 際 ( 開 成 年 間 八 三 六 -八 四 〇 ) に 金 剛 界 大 法 を 相 承 し、 至 二 秘 密 之 宗 一 大 体 与 レ 常 無 二 相 違 一。 と 記 し て い る。 こ の 言 あ る 為 に は 可 成 空 海 に 従 っ て 密 教 を 受 学 し た と 推 察 す る こ と が 出 来 る。 併 し 密 教 相 承 上 か ら 言 え ば 伝 法 灌 頂 を 受 け て い な い の で 問 題 と す る に 足 ら な い。 彼 れ の 入 唐 は 円 仁 の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ (大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 十 三 冊 遊 歩 伝 叢 書 ) 巻 一 の 開 成 三 年 ( 八 三 八 ) 十 二 月 十 三 日 及 び 十 五 日 の 条 に よ れ ば 三 論 宗 留 学 生 と し て 勅 許 さ れ た の で あ る か ら、 そ の 第 一 の 目 的 或 い は 使 命 は 三 論 の 受 学 ・ 請 来 に 有 っ た 事 は 明 か で あ る。 併 し 空 海 に 随 っ て 密 教 を 相 承 し た が、 そ れ が 充 分 で 無 か っ た の で、 彼 れ の 脳 裡 に は 機 縁 が あ っ た ら 密 教 を も 入 唐 相 承 し よ う と の 意 図 の あ っ た 事 は、 唐 土 に 於 い て 彼 れ が 密 教 相 承 の 為 に 行 動 し た 事 実 か ら 推 察 す る こ と が 出 来 る。 承 和 五 年 に 遣 唐 使 に 随 っ て 唐 土 に 到 っ た が、 前 引 の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ 巻 一 の 開 成 四 年 ( 承 和 六 年 ) 二 月 廿 七 日 の 条 に、 留 学 生 道 俗 惣 不 レ 許 レ 留 二 此 問 一中 略 皆 可 レ 阪 二 本 郷 一 云 々 と あ り、 又 前 引 の 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に 承 和 五 年 八 月 到 二 准 南 城 廣 綾 館 一安 置。 孟 冬 使 等 入 朝。 常 暁 不 レ 得 二 随 レ 使 入 京 幻 徒 留 二 館 裏 一、空 経 二 多 日 殉 至 二 於 歳 尽 一 勅 命 未 レ有 レ 受。 則 周 二 遊 郡 内 一、 訪 二 択 師 依 一。 中 略 常 暁 本 謂。 果 三 二 十 年 一 経 二 歴 漢 里 一、求 二 仏 法 一来、 幸 護 二 国 家 幻 而 縁 二 唐 朝 不 ワ 聴 二留 住 一随 レ 使 廻 阪 云 々 と あ る に 依 っ て 知 ら さ れ る よ う に、 彼 れ に は 長 安 入 京 も 唐 土 留 学 も 勅 許 無 く、 遣 唐 使 の 飯 朝 と 共 に 直 ち に 唐 土 を 去 る よ う 命 ぜ ら れ た の で あ る。 但 し 同 時 に 入 唐 し た 円 仁 ・ 円 行 に は 長 安 入 京 が 勅 許 さ れ て い る。 円 仁 ・ 円 行 は 共 に 請 益 僧 で あ り、 円 行 は 特 に 実 恵 等 の 依 頼 に 依 る 使 命 が あ っ た か ら で あ る。 常 暁 だ け は 如 上 の 事 情 で、 遣 唐 使 が 長 安 へ 往 還 す る 間 に、 そ の 留 学 の 目 的 或 い は 使 命 を 果 す べ く 余 儀 な く せ し め ら れ た。 よ っ て、 遣 唐 使 の 長 安 往 還 の 間 に、 滞 留 を 命 ぜ ら れ た 准 南 城 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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密 教 文 化 内 を 周 遊 し て 師 依 を 訪 択 せ ん と 決 意 し、 節 度 使 の 許 可 を 受 け て い る。 そ の 滞 留 を 命 ぜ ら れ た 州 郡 の 外 へ 一 歩 を 踏 み 出 す こ と は、 勅 許 を 得 な け れ ば 外 国 人 に は 不 可 能 で あ っ た が、 同 一 州 郡 内 で あ れ ば 別 に 勅 許 を 要 せ ず、 そ の 所 を 管 す る 節 度 使 の 処 分 だ け で 自 由 に 行 動 が 出 来 た の で あ る。 即 ち 前 引 の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ 巻 一 の 開 成 四 年 即 ち 承 和 五 年 一 月 十 七 日 の 条 に 相 公 ( 節 度 使 李 相 公 ) 所 レ 管 八 州 以 二 相 公 牒 一便 得 二 送 還 幻 其 潤 州 ・ 台 州 別 有 二 相 公 幻 各 有 二 管 領 つ 彼 此 守 職 不 二 相 交 刃 恐 非 二 勅 詔 一無 二 以 順 行 一夷。 と あ る の は そ の 文 証 で あ る。 留 学 生 と し て の 第 一 目 的 或 い は 使 命 で あ る 三 論 宗 の 師 依 と し て は 花 林 寺 元 照 を 択 ん だ が、 第 二 目 的 と 考 え ら れ る 密 教 の 相 承 に は 栖 霊 寺 文 際 を 択 ん で い る。 彼 れ に は 在 唐 期 間 に 制 限 が あ る。 前 引 の 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に 依 っ て 計 算 し て 見 る と、 そ れ は 結 果 的 で は あ る が、 約 二 箇 月 余 り で あ っ た。 そ の 間 に 彼 れ は 忙 し く 夜 就 二 師 辺 一受 二 学 諭 伽 一、 書 周 二 諸 寺 }責 二 間 法 門 一 し た の で あ る が、 愉 伽 と は 密 教 で あ り、 法 門 と は 三 論 の こ と と 思 わ れ る。 即 ち 彼 れ は 夜 分 だ け 文 擦 に つ い て 密 教 を 相 承 し た。 し か し て そ の 密 教 と は 同 じ き ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に 授 レ 我 以 二 金 剛 大 法 一、許 レ 我 以 二 阿 闊 梨 位 一 也。 膝 歩 知 二 未 知 一、 接 足 得 二 不 得 馴っ 幸 頼 二 国 家 之 大 造 ・ 大 師 之 慈 悲 一、 学 二 金 剛 海 愉 伽 一、 習 二 大 元 帥 秘 法 一。 と 記 し て い る 所 に 依 っ て そ の 内 容 を 知 る こ と が 出 来 る。 即 ち 常 暁 は 両 部 の 中 の 金 剛 界 大 法 だ け を 相 承 し、 兼 ね て 太 元 帥 秘 法 を 受 け た の で あ る。 引 文 の 金 剛 海 の 海 は 普 通 に 所 謂 界 と 同 義 に 用 い ら れ て い る こ と は 同 じ き ﹃ 請 来 目 録 ﹄ の 中 に 金 剛 海 三 十 七 尊 種 子 曼 茶 羅 と 記 し て い る 海 は 界 で あ る こ と に よ っ て 知 る 事 が 出 来 る。 そ の 相 承 し た 金 剛 界 大 法 で あ る が、 彼 れ の 資 寵 寿 の 貞 観 十 九 年 (八 七 七 ) の ﹃ 太 元 帥 法 録 起 奏 状 ﹄ (大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 十 六 冊 遊 歩 伝 叢 書 四 ) に 先 師 権 律 師 法 橋 上 人 位 常 暁、 去 承 和 五 年 奉 レ 詔 入 唐。 中 略 同 年 八 月 到 二 准 南 城 絢 中 略 愛 本 朝 沙 門 霊 宣 之 弟 子 有 二 両 三 人 殉 始 逢 二 律 師 一陳 日。 吾 等 大 師 霊 宣 和 尚 是 日 本 人 也。 中 略 ニ 垂 レ 没 之 時 命 二 吾 等 一 日。 中 略 方 今 仏 像 聖 教 皆 渡 二 本 郷 一つ 但 未 レ 伝 者 太 元 帥 之 道 而 巳 尖。 中 略 須 レ 待 二 得 本 国 求 法 之 人 一、

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将 レ 属 二 此 深 密 之 法 一 分。 故 郷 之 恩 以 レ 此 為 レ 報。 汝 輩 莫 レ 失。 努 力 々 々 者。 吾 等 深 守 二 此 言 噛 久 待 二 其 人 幻 今 得 レ 遇 レ 子。 先 師 願 足 臭。 因 太 元 帥 明 王 諸 身 曼 茶 羅 法 文 道 具 等 授 二 与 祖 師 一詑。 於 レ 是 律 師 適 得 二 此 法 一、 未 レ 詳 二 用 修 一 云 々 と 記 し て い る 所 か ら 推 考 す る と、 文 擦 が 太 元 帥 法 を 相 承 し て い た か ら 師 事 し た と 考 え ら れ る。 故 に 彼 れ は 太 元 帥 法 を 主 と し て 受 け、 金 剛 界 大 法 の 相 承 は 従 で あ っ た と 見 る べ き で あ ろ う。 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ の 始 終 を 通 し て 太 元 帥 法 所 用 の 法 文。 道 具 ・ 図 像 等 を 書 写、 鋳 造、 図 絵 し、 そ れ 等 を 欠 け る 所 無 く、 初 め て 彼 れ が 請 来 し た と 言 う 事 を 記 し、 又 大 い に そ の 霊 験 ・ 功 能 を 力 説 し、 そ の 唐 朝 に 於 い て ど の 様 に 国 外 不 出 の 秘 法 と し て 尊 信 せ ら れ て い る か を 高 調 し、 金 剛 界 大 法 の 相 承 に つ い て は 前 引 の 如 く ﹁ 秘 密 の 宗 に 至 っ て は 大 体 常 と 相 違 無 し ﹂ と 記 し て い る 事 に 依 っ て も 知 る こ と が 出 来 る。 し た が っ て 飯 朝 後 の 行 動 も 専 ら そ れ の 弘 布 に 尽 力 し、 天 台 宗 ・ 真 言 宗 と は 別 に 所 謂 太 元 宗 と し て 朝 廷 と 接 触 し、 修 法 院 と し て 賜 わ っ た 法 琳 寺 を そ の 太 元 宗 の 本 寺 と し た 訳 で あ る。 要 す る に 彼 れ の 密 教 相 承 は 太 元 帥 法 に 有 っ た の で あ る。 金 剛 界 大 法 は 相 承 は し て い る が、 既 に 空 海 が 入 唐 相 承 し て い る の で あ る か ら、 た だ そ の 血 脈 相 承 の 必 要 か ら、 又 阿 闊 梨 位 を 得 る 為 に、 伝 法 灌 頂 に 浴 し た も の と 見 る の を 妥 当 と す る。 文 擦 は 前 引 の 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に 不 空 三 蔵 弟 子、 兼 恵 応 阿 闇 梨 付 法 人 也 と あ り、 前 引 の 海 雲 の ﹃ 両 部 大 教 伝 法 次 第 記 ﹄ に 恵 応 を 恵 果 の 両 部 大 法 付 法 資 と し て い る 点 か ら 考 え て、 彼 れ の 金 剛 界 伝 法 血 脈 は 恵 果 恵 応 文 縢 常 暁 と 次 第 相 承 す る こ と に な る。 因 み に、 師 錬 の ﹃ 元 亨 釈 書 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 一 冊 ) 三 の 常 暁 伝 に 遇 二 栖 霊 寺 文 瑚 一 ( 擦 ) 稟 二密 教 一中 略 又 謁 二 花 林 寺 三 教 講 論 大 徳 元 照 一請 二 益 密 奥 幻 照 授 以 二 阿 闊 梨 位 一っ 従 受 二 太 元 帥 秘 ノ 法 刃 此 法 彼 国 不 レ 出 二 都 下 ﹁ 畿 内 諸 州 不 レ 許 二 修 供 幻 照 喜 二 暁 之 才 器 剛潜 授 与 云 々 と あ り、 彼 れ の 密 教 相 承 の 師 を 元 照 と し て い る。 性 徽 の ﹃ 東 国 高 僧 傳 ﹄ (大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 四 冊 ) 四 ・ 智 燈 の ﹃ 弘 法 大 師 弟 子 伝 ﹄ (弘 法 大 師 伝 全 集 第 十 冊 ) 等 も 亦 こ の 説 を 踏 襲 し て い る。 こ れ 等 の 誤 謬 は 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に あ る。 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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密 教 文 化 文 際 和 尚 以 為 二 師 主 ﹁ 始 学 二 法 儀 幻 兼 往 二 花 林 寺 一、 元 照 座 主 辺 問 二 本 宗 義 一、井 得 二 文 書 一 也。 然 大 師 尚 二 仏 法 之 流 伝 一、歎 二 生 民 之 可 抜 ﹁ 授 レ 我 以 二 金 剛 大 法 ↓ 許 レ 我 以 二 阿 闇 梨 位 一 也。 膝 歩 知 二 未 知 相 接 足 得 二 不 得 幻 幸 頼 二 国 家 之 大 造 師 之 慈 悲 一、学 二 金 剛 海 玲 伽 一、 習 二 太 元 帥 秘 法 殉 の 文 意 を 読 み 誤 り、 ﹁ 然 大 師 尚 仏 ﹂ 以 下 の 六 十 余 字 が 文 際 に つ い て 記 し て い る の を 元 照 に 属 し て い る と 考 え た か ら で あ ろ う。 常 暁 の 文 章 の 連 絡 の 拙 劣 さ に も 依 る が、 こ の 誤 解 は ﹁ 本 宗 義 ﹂ と 言 う 三 字 の 不 明 か ら 生 じ た の で あ る。 ﹁ 本 宗 義 ﹂ と は 即 ち 常 暁 は 三 論 宗 留 学 生 と し て 入 唐 し て い る 事、 又 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ に 常 暁 本 二 業 三 論 之 枝 殉兼 二 真 言 之 条 一 と 記 し て い る 事 等 に 依 っ て 三 論 宗 を 指 し て い る 事 は 明 か で あ る。 故 に 彼 れ は 元 照 に は 三 論 宗 を 学 ん だ の で あ っ て、 密 教 を 相 承 し た の で は な い。 し た が っ て 彼 れ の ﹃ 請 来 目 録 ﹄ の 伝 法 阿 闇 梨 の 付 嘱 物 の 項 を 見 る と、 傳 法 阿 闊 梨 付 物 五 鈷 金 剛 杵 一 中 略 伝 法 阿 閣 梨 授 弟 子 灌 頂 法 二 巻 右 道 具 蚊 栖 霊 寺 阿 闇 梨 (文 際 ) 之 所 二 伝 付 一 也 と あ り、 曼 茶 羅 ・ 密 教 等 を 文 際 の 付 す る 所 と 記 し、 元 照 に つ い て は 密 教 的 記 載 は 何 も な い。 彼 れ の 資 寵 寿 の 前 引 の ﹃ 太 元 帥 法 縁 起 奏 状 ﹄ に も 遇 二 栖 霊 寺 灌 頂 阿 閣 梨 文 擦 和 尚 一始 学 二 法 儀 一、 漸 究 二 尊 道 鴫 授 以 二 太 元 帥 法 一。 許 以 二 阿 闇 梨 殉 又 逢 二 華 林 寺 座 主 元 照 大 徳 一 重 問 二 宗 義 一、 得 二 法 文 道 具 等 h丼 習 二 学 金 剛 界 大 法 自 飴 諸 尊 法 一 既 畢 と あ り、 常 暁 が 元 照 に 金 剛 界 大 法 及 び 自 余 の 諸 尊 法 を 相 承 す と あ る。 彼 れ の 資 の 記 す と こ ろ で あ る か ら 資 料 と し て は 重 ん ず べ き で あ る が、 前 述 の 如 く で あ る か ら 誤 記 と せ ざ る を 得 な い。 ﹃ 元 亨 釈 書 ﹄ 等 の 誤 記 も 或 い は こ の 奏 状 か ら 出 て 来 た の か も 知 れ な い。 第 五 章 円 行 の 密 教 相 承 第 一 節 我 が 国 の 相 承 と 入 唐 相 承 の 動 機 円 行 は (七 九 九 一 八 五 二 ) も と 元 興 寺 歳 栄 に 随 っ て 華 厳 宗 を 受 学 し て い た が、 弘 仁 十 四 年 ( 八 二 三 ) 十 五 歳、 空 海 の 名 声 漸 く 喧 伝 せ ら れ る を 耳 に し て 真 言 宗 に 転 じ、 空 海 に 随 っ て 両

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部 の 大 法 を 受 け た。 こ れ を 彼 れ の 密 教 相 承 の 最 初 と す る。 天 長 元 年 ( 八 二 四 ) に 空 海 が 高 雄 神 護 寺 に 定 額 僧 廿 只 を 置 い た 時 に そ の 撰 に 預 っ て い る か ら、 空 海 門 下 に 於 い て 早 く か ら 認 め ら れ て い た こ と が 分 か る。 併 し 未 だ 両 部 伝 法 灌 頂 を 受 け な い 以 前、 即 ち 両 部 大 法 を 相 承 し 終 ら な い 前 に 師 の 空 海 は 入 定 し た。 こ の 点 に つ い て 彼 れ の 伝 記 入 唐 五 家 伝 ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 十 三 冊 遊 歩 伝 叢 書 第 一 ) ・ 弘 法 大 師 弟 子 譜 四 ( 弘 法 大 師 伝 全 集 第 十 冊 ) に は 記 載 が な く 不 明 で あ る が、 若 し 彼 れ が 空 海 に 随 っ て 両 部 大 法 を 相 承 し 終 っ て お れ ば、 当 然 伝 法 灌 頂 を 受 け て い な け れ ぽ な ら な い。 伝 法 灌 頂 を 受 け れ ば、 真 言 宗 所 伝 の 伝 法 血 脈 に は 彼 れ の 名 を 空 海 の 下 に 釣 る 筈 で あ る。 元 慶 二 年 ( 八 七 八 ) に 真 雅 が 奏 上 し た ﹁ 言 上 伝 法 阿 闇 梨 資 付 法 次 第 事 ﹂ (弘 法 大 師 弟 子 全 集 巻 中 第 二 法 光 大 師 編 官 符 等 編 年 集 ) に は 言 上 本 朝 真 言 宗 伝 法 阿 闇 梨 師 資 付 法 次 第 事 中 略 入 唐 根 本 祖 師 贈 大 僧 正 法 印 大 和 尚 位 空 海 付 法 弟 子 十 人 中 略 伝 燈 大 法 師 位 果 隣 中 略 第 二 阿 闊 梨 中 略 伝 灯 大 法 師 位 果 隣 付 法 弟 子 二 人 伝 灯 大 法 師 位 円 行 十 禅 師 伝 灯 大 法 師 位 真 隆 下 略 と あ っ て、 空 海 の 資 果 隣 の 下 に 彼 れ を 列 ね て い る。 即 ち 彼 れ は 空 海 に 随 っ て 伝 法 灌 頂 を 受 け な か っ た と 見 る べ き で あ る。 空 海 に 随 っ て 両 部 大 法 を 相 承 す る こ と 弘 仁 十 四 年 ( 八 二 三 ) よ り 空 海 入 定 の 承 和 二 年 ( 八 三 五 ) に 至 る ま で の 十 数 年 の 長 年 月 で あ っ た が、 そ れ は 成 就 し な か っ た。 し た が っ て 空 海 入 定 後、 そ の 資 で あ る 第 二 阿 闇 梨 果 隣 に 師 事 し、 伝 法 灌 頂 壇 に 入 っ て い る。 要 す る に、 彼 れ の 密 教 相 承 は 果 隣 に 随 う こ と に よ っ て 成 就 し た。 別 に 入 唐 相 承 す る 必 要 は な い。 し た が っ て そ の 入 唐 は 空 海 等 の 如 く 密 教 相 承 の 目 的 の 為 に 行 わ れ た の で な い。 即 ち 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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密 教 文 化 そ の 入 唐 の 動 機 を 見 る と、 第 一 は 実 恵 が 彼 れ を 真 言 請 益 と 為 さ ん と 請 う の 奏 状 ( 弘 法 大 師 諸 弟 子 全 集 巻 上 第 一 道 興 大 師 編 官 符 等 議 年 集 三 ) に、 タ ニ マ リ ニ タ ヲ ノ ス ビ ス ル 今 真 言 宗 新 始 二 聖 朝 一、未 レ 経 二 幾 年 殉 所 レ 遺 経 法 及 所 二 凝 滞 一 シ ノ ン ハ ハ サ ノ ニ カ ニ メ ン 無 二 開 求 一っ 此 度 不 レ 遣 何 所 更 求。 と あ る に 依 っ て 明 か で あ り、 第 二 は 真 言 一 宗 を 代 表 し て 空 海 の 入 定、 並 び に 日 本 国 の 真 言 密 教 の 盛 運 を 青 竜 寺 恵 果 の 弟 子 等 に 報 じ、 兼 ね て 恵 果 の 霊 前 に 捧 げ る 諸 法 物 並 び に 青 竜 寺 の 伝 法 阿 閨 梨 等 へ の 諸 信 物 を 齎 ら す に あ っ た こ と は ﹁ 托 二 円 行 入 唐 一寄 二 青 竜 寺 一書 実 恵 等 ﹂ (前 引 四 ) に 依 っ て 知 る こ と が 出 来 る。 或 い は 彼 れ は 密 教 を 入 唐 相 承 せ ん と の 意 は 胸 中 に 蔵 し て い た か も 知 れ な い が、 そ れ が 表 向 き の 主 只 的 で な か っ た。 第 二 節 入 唐 の 相 承 彼 れ の 入 唐 相 承 は 藤 原 常 嗣 等 の 遣 唐 使 舶 に 請 益 僧 と し て 乗 じ、 承 和 六 年 (八 三 九 ) 閏 正 月 十 三 日 に 長 安 青 竜 寺 に 入 り、 正 月 四 日 ま で 都 合 二 十 日 余 り の 間 に 行 わ れ て い る。 彼 れ の ﹃ 請 来 法 門 道 具 等 目 録 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 二 冊 仏 教 書 籍 目 録 第 二 ) に 依 る と、 灌 頂 教 主 法 号 義 真 和 尚 以 為 二 師 主 ↓ 其 大 徳 則 恵 果 阿 闊 梨 弟 子 同 門 義 操 和 尚 付 法 之 弟 子 也。 明 閑 二 三 教 (妙 通 二 五 部 殉 法 之 棟 梁、 国 之 所 販。 円 行 幸 頼 二 聖 朝 之 鴻 恩 師 主 之 深 慈 相 決 二 疑 両 部 之 大 法 ﹁開 二 悟 諸 尊 之 密 法 一、 閏 正 月 二 日 蒙 レ 授 二 阿 闇 梨 位 灌 頂 一也。 と あ る。 前 引 の 円 仁 の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ 巻 一 の 開 成 四 年 ( 八 三 九 ) 二 月 十 五 日 の 条 に よ れ ば、 円 仁 が 円 行 と 会 談 し た 時 の 言 葉 と し て 相 二 見 真 言 請 益 円 行 法 師 ﹁ 語 云。 中 略 住 二 青 龍 寺 一、 於 二 義 真 座 主 所 一、十 五 日 取 二 胎 蔵 法 一、供 二 百 僧 一。 不 レ 受 二 金 剛 界 法 刃 と 記 し て い る。 即 ち 円 行 は 義 真 に 随 っ て 胎 蔵 界 大 法 だ け を 相 承 し、 金 剛 界 大 法 は 相 承 し な か っ た。 前 引 の 彼 れ の ﹃ 請 来 法 門 道 具 等 目 録 ﹄ の 中 に ﹁ 伝 法 阿 閣 梨 位 灌 頂 ﹂ と あ る の は 胎 蔵 界 だ け の そ れ と 解 せ ざ る を 得 な い。 と こ ろ が、 前 引 の 安 然 の ﹃ 諸 阿 闇 梨 真 言 密 教 部 類 惣 録 ﹄ に 青 竜 寺 義 真 受 二 両 部 大 法 並 伝 法 阿 闇 梨 位 灌 頂 剛 と あ り、 前 引 の 道 猷 の ﹃ 弘 法 大 師 弟 子 譜 ﹄ 巻 四 の 円 行 伝 に 及 二 閏 正 月 二 日 一付 二 両 部 灌 頂 職 位 一 と あ っ て、 彼 れ が 義 真 に 両 部 大 法 を 相 承 し た と し て い る。 こ れ 等 の 説 は 前 引 の 彼 れ の ﹃ 請 来 法 門 道 具 等 目 録 ﹄ だ け を 見 た

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上 で の 誤 認 で あ る。 そ れ に は 両 部 大 法 の 決 疑 を な し、 伝 法 灌 頂 を 受 け た と あ る の で、 そ の 様 な 誤 認 が 生 じ た の で な い か と 考 え ら れ る。 両 部 大 法 の 決 疑 を な す と は 前 引 の 実 恵 の 承 和 四 年 の 奏 状 に よ っ て 明 か な る 如 く、 承 和 二 年 空 海 入 定 以 後、 真 言 一 宗 に 於 い て 生 じ た 真 言 法 門 の 各 種 の 凝 滞 を 開 悟 す る 目 的 或 い は 使 命 の 為 に 一 宗 を 代 表 し て 彼 れ の 入 唐 は 行 わ れ た と 云 う そ れ を 指 し て い る。 し た が っ て そ れ と 阿 闊 梨 位 灌 頂 を 授 け ら れ た の と は 全 然 関 係 は な い。 彼 れ は 彼 れ と し て そ れ と は 別 に 胎 蔵 界 大 法 を 個 人 的 に 相 承 し、 即 ち 胎 蔵 界 伝 法 灌 頂 を 受 け た と 前 引 の 彼 れ が 円 仁 に 語 っ た 言 葉、 又 そ の 滞 在 日 数 二 十 日 余 り か ら 解 す る の が 妥 当 と 考 え る。 要 す る に、 彼 れ は 義 真 よ り 胎 蔵 界 大 法 だ け を 相 承 し た の で あ る。 但 し 入 唐 以 前 に 既 に 彼 れ は 両 部 大 法 を 相 承 し て い る の で あ る か ら、 単 に 血 脈 相 承 の 上 か ら そ れ の 相 承 を し た の で あ ろ う。 所 謂 入 唐 八 家 の 随 一 と し て、 そ の 入 唐 相 承 だ け の 密 教 に つ い て 云 云 さ れ、 入 唐 以 前 の 彼 れ の 密 教 相 承 が 若 し 不 問 に 附 せ ら れ る と す る と、 そ れ は 当 を 得 な い。 彼 れ の 密 教 相 承 は 青 竜 寺 義 真 の 下 で な く、 果 隣 の 下 の そ れ に 注 意 を 払 わ ね ば な ら な い。 因 み に、 前 引 の 海 雲 の ﹃ 全 胎 両 界 師 資 相 承 ﹄ の 胎 蔵 界 の 分 に 遮 那-金 手-掬 多 -無 畏 -玄 超-恵 果 -義 操-義 真 と 血 脈 を 釣 っ て い る が、 義 真 の 下 に 円 行 が な い。 こ れ は こ の 血 脈 図 が 大 和 八 年 ( 八 三 四 ) の 集 で、 円 行 が 義 真 に 受 け た の は 開 成 四 年 ( 八 三 九 ) で あ る か ら 当 然 で あ る が、 造 玄 が 成 通 六 年 ( 八 六 五 ) に 編 ん だ と 言 う ﹃ 胎 金 両 界 血 脈 ﹄ の 胎 蔵 界 の 分 に も 大 日 -金 剛 手 -達 磨 掬 多 -善 無 畏-玄 超 -恵 果-義 操 -義 真 と あ っ て、 義 真 の 下 に 円 行 を 釣 ら な い の は 不 審 で あ る。 造 玄 の 血 脈 は 彼 れ が 胎 蔵 界 大 法 を 相 承 し た 承 和 六 年 開 成 四 年 よ り 二 十 九 年 後 の 編 作 で あ る。 第 六 章 円 仁 の 密 教 相 承 第 一 章 そ の 動 機 入 唐 し て 密 教 を 相 承 す る 以 前、 彼 れ は 専 ら 止 観 業 を 研 鐙 し て い た が、 遮 那 業 即 ち 密 教 を も 兼 学 し て い る。 真 寂 ( 八 八 八 一 九 二 七 ) 草 と 伝 え て い る ﹃ 慈 覚 大 師 伝 ﹄ ( 続 群 書 類 従 第 八 伝 部 第 一 ) に 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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-13-密 教 文 化 弘 仁 七 年 中 略 先 師 有 二 本 願 一。 欲 レ 書 二 写 二 千 部 法 華 経 一 率 二 弟 子 等 一赴 二 向 上 野 下 野 一果 レ 願 畢。 於 二 両 州 之 間 一 各 択 二 十 人 弟 子 一授 二 伝 法 灌 頂 一 大 師 又 其 一 人 也。 と あ る の は そ の 文 証 の 一 で あ る。 但 し こ の 伝 法 灌 頂 と 言 う の は 普 通 に 言 う 全 胎 両 部 大 法 の そ れ で は な い。 第 二 章 で 論 じ た よ う に 寂 澄 は そ れ の 伝 法 灌 頂 を 受 け て い な い か ら で あ る。 当 時 の 台 密 の 相 承 密 教 は、 最 澄 が 入 唐 し て 順 暁 よ り 相 承 し、 又 空 海 に 随 っ て 再 受 し た そ れ で あ る が、 東 密 に 比 す る と 甚 し く 貧 弱 で あ っ て、 所 謂 両 部 大 法 の 相 承 等 は 勿 論 な か っ た。 東 密 に 対 向 し て 所 謂 台 密 と し て の 地 位 を 保 つ 為 に も、 又 嵌 澄 の 円 密 一 致 の 天 台 宗 弘 通 の 遺 志 を 全 く す る 為 に も、 早 晩 誰 れ か が 入 唐 し て 両 部 大 法 を 相 承 し て 来 る 必 要 が あ っ た。 そ の 役 割 を 演 じ た の が 円 仁 で あ る。 彼 れ の 入 唐 相 承 の 動 機 の 大 部 分 は こ の 点 に あ っ た と 思 わ れ る。 又 ﹃ 三 代 実 録 ﹄ ( 国 史 大 系 第 八 巻 ) の 貞 観 六 年 正 月 十 四 日 の 条 に 弘 仁 十 三 年 六 月 液 澄 大 師 遷 化。 円 仁 齢 満 レ 計。 身 蕨 眼 暗 知 二 命 不 7 久。 因 而 尋 二 叡 山 北 極 幽 谷 h 結 レ 草 為 レ 庵、 消 二 三 四 年 一。 閣 山 僧 衆 苦 勧 云。 吾 師 為 レ 法 早 可 二 入 唐 一。尋 而 官 補 二 請 益 一 云 々 と あ り、 師 錬 の ﹃ 元 亨 釈 書 ﹄ 元 亨 二 年 ( 一 三 二 一 ) 頃 作 巻 二 の 円 澄 伝 に 承 和 四 年 十 月 廿 六 日 告 二 弟 子 慧 亮 一 日。 先 師 ( 最 澄 ) 往 年 語 日。 我 飯 朝 之 時 白 二 国 清 寺 座 主 大 衆 一 日。 販 二 本 国 一後 常 遣 二 請 益 留 学 二 僧 一請 下 決 円 教 深 旨 切 我 滅 後 汝 宜 二 撰 レ 人 跨 ブ 海。 我 承 二 遺 命 一 顧 二 門 属 一未 レ 得 二 其 人 幻 唯 樗 厳 院 禅 師 可 レ 充 二 此 任 一つ故 我 勧 二 此 人 一 入 唐 請 益。 我 命 在 二 今 夜 一。 不 レ 得 二 此 人 一 為 二 深 恨 一耳。 中 略 中 略 樗 厳 院 師 者 慈 覚 也。 と あ っ て、 彼 れ が 入 唐 は 叡 山 の 衆 徒 等 の 勧 奨 が 動 機 の 一 と な っ て い る。 文 面 の 上 で は 天 台 円 教 深 旨 の 請 決 と あ る が、 唐 土 に 於 け る 彼 れ の 行 動 を 見 る と 密 教 相 承 の 方 に 重 心 が か か っ て い る。 よ っ て 内 々 に は 密 教 相 承 へ の 勧 奨 も あ っ た こ と と 思 わ れ る。 彼 れ 等 は 皆 天 台 宗 で あ る。 天 台 宗 所 属 が 表 向 き 密 教 を 請 益 す る で は 勅 許 は 容 易 に 下 り な い。 要 す る に 円 仁 は 叡 山 衆 徒 の 懇 望 に よ っ て 貧 弱 な る 台 密 を よ り 充 実 す る 為 に、 一 宗 を 代 表 し て 入 唐 し た と 考 え ら れ る。 但 し そ の 間、 彼 れ の 自 発 的 な 動 機 が 全 然 な か っ た と 言 う の で は な い。 第 二 節 内 容 と そ の 批 判

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入 唐 相 承 以 前 に 最 澄 に 随 っ て 密 教 を 相 承 し て い る が、 そ れ は 前 述 の 如 く 両 部 大 法 で は な い。 入 唐 相 承 の 密 教 の 為 の 価 値 多 き 素 地 と な っ た と 言 う 意 味 で 注 意 し な け れ ぽ な ら な い が、 密 教 相 承 と し て は さ ま で 問 題 と す る に 足 ら な い。 唐 土 に 於 け る 彼 れ の 密 教 相 承 は 二 に 分 け て 考 え ら れ る。 一 は 開 成 四 年 即 ち 承 和 六 年 ( 八 三 九 ) 閏 正 月 に 揚 州 開 元 寺 に 在 っ て、 恵 果 の 金 剛 界 伝 法 灌 頂 資 劫 言 弘 の 資 全 雅 に 随 っ て 受 け た そ れ で あ る。 二 は 会 昌 元 年 即 ち 承 和 八 年 ( 八 四 一 ) 五 月 以 降 三 年 間 に 互 っ て、 長 安 に 於 い て 元 政 ・ 義 真 ・ 法 全 等 か ら 相 承 し た そ れ で あ る。 第 一 の 全 雅 に 随 っ て 受 け た と 伝 え ら れ る 密 教 相 承 は 前 引 の 真 寂 の ﹃ 慈 覚 大 師 伝 ﹄ に 依 る と、 有 二 一 碩 徳 一名 二 全 雅 一っ 中 略 大 師 即 訪 尋、 請 為 二 阿 閣 梨 一蒙 レ 受 二 灌 頂 幻 於 レ 是 始 授 二 金 剛 頂 大 教 一、 便 附 二 嘱 所 持 金 剛 界 大 曼 茶 羅 殉 又 授 以 二 師 資 相 伝 之 法 幻 と あ る。 金 剛 頂 大 教 と は 即 ち 金 剛 頂 経 を 指 し、 金 剛 頂 経 と は 金 剛 界 大 法 の 根 本 正 所 依 で あ る。 要 す る に 金 剛 界 大 法 の 異 名 と 解 す る こ と が 出 来 る。 即 ち 受 明 灌 頂 受 伝 後、 金 剛 界 大 法 を 学 ん だ と 言 う の で あ る。 承 澄 の ﹃ 明 匠 略 伝 ﹄ ( 建 治 元 年 一 二 七 五 ) 日 本 上 ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 四 十 一 冊 阿 娑 婆 抄 第 七 ) も 亦 こ れ に 同 じ で あ る。 併 し 彼 れ の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ 巻 一 に 依 る と 開 成 四 年 閏 正 月 十 一 日、 就 二 嵩 山 院 持 念 和 尚 全 雅 一 借 二 写 金 剛 界 諸 尊 儀 軌 等 数 十 巻 一。 此 全 和 尚 有 二 胎 蔵 金 剛 両 曼 茶 羅 一、 兼 解 二 作 壇 法 殉 中 略 和 尚 全 雅 来 三 房 裏 一作 二 如 意 輪 壇 酬っ と あ り、 た だ 金 剛 界 大 法 に 属 す る 儀 軌 を 借 写 し た だ け で あ っ て、 ﹃ 慈 覚 大 師 伝 ﹄ の そ れ は 明 か に 誤 伝 で あ る。 併 し 彼 れ の ﹃ 日 本 国 承 和 五 年 入 唐 求 法 目 録 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 二 冊 仏 教 書 籍 目 録 第 二 ) に 依 る と 逢 二 大 唐 内 供 奉 動 言 弘 阿 閣 梨 付 法 弟 子 全 雅 阿 闇 梨 一諮 二 稟 秘 法 一。 和 尚 感 二 乎 遠 誠 ﹁付 以 二 秘 要 刃 と 記 し て い る か ら、 何 か 教 示 を 蒙 っ た こ と は 分 る。 前 引 の ﹃ 入 唐 求 法 巡 礼 行 記 ﹄ 巻 一 に 全 雅 中 略 解 二 作 壇 法 一 と あ る の に 依 れ ば、 或 い は 作 壇 法 に 関 す る 何 か で は な か っ た か と 思 わ れ る。 ﹃ 天 台 霞 標 ﹄ ( 大 日 本 仏 教 全 書 第 一 百 廿 六 冊 ) 第 五 篇 巻 之 一 に 彼 れ の 奏 請 に 依 っ て 嘉 祥 元 年 ( 八 四 八 ) 六 月 十 五 日 に 賜 っ た 勅 修 灌 頂 の 太 政 官 符 を 載 せ て い る。 そ れ に 入 唐 八 家 の 密 教 相 承 に つ い て 口

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-15-密 教 文 化 承 和 五 年 八 月 到 二 揚 州 大 都 督 府 一、遇 二 不 空 三 蔵 第 三 弟 子 全 雅 阿 闊 梨 一、稟 二 受 金 剛 界 大 法 噛求 二 得 念 諦 教 法 経 輪 章 疏 等 一 百 九 十 八 巻 鼓 胎 蔵 金 剛 両 部 曼 茶 羅 及 諸 尊 檀 様 高 祖 真 影 及 舎 利 等 十 一 種 一 云 々 と あ っ て、 金 剛 界 大 法 を 相 承 し た と 彼 れ 自 身 が 述 べ て い る か ら、 全 雅 に 金 剛 界 大 法 を 相 承 し た の を 誤 伝 と す る の は 当 ら な い と の 説 を な す 者 が あ る。 併 し こ の 官 符 に は 後 世 の 改 窟 が あ る。 ﹃ 類 従 三 代 格 ﹄ (国 史 大 系 第 廿 五 巻 ) 巻 二 所 載 の 同 官 符 に は ( 応 修 灌 頂 事 ) 遇 二 不 空 三 蔵 弟 子 全 雅 阿 闇 梨 一受 二 金 剛 界 大 法 経 章 疏 等 一 百 九 十 八 巻 井 胎 蔵 金 剛 両 部 大 曼 茶 羅 及 諸 尊 檀 様 高 僧 真 影 及 舎 利 等 廿 一 種。 と あ り、 彼 れ が 金 剛 界 大 法 を 相 承 す る と の 句 が な い。 彼 れ が 付 法 資 雲 に 付 嘱 し た と 言 わ れ る 前 引 の ﹃ 天 台 霞 標 ﹄ 第 五 篇 巻 之 一 に 載 せ ら れ て い る ﹁ 十 三 種 灌 頂 秘 録 ﹂ に 大 唐 開 成 三 年 八 月 十 一 日 遇 二 全 雅 阿 闇 梨 一受 二 金 剛 界 伝 法 灌 頂 蛙 三 部 合 行 灌 頂 一 と あ る 如 き は 後 世 台 密 の 徒 の 為 に せ ん が 為 の 偽 作 と 見 る べ き で、 信 ず る に 足 ら な い。 ( 未 完 ) ( 昭 和 五 十 三 年 度 文 部 省 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 一 般 研 究 B ) 高 田 仁 覚 代 表-チ ベ ッ ト 密 教 と 日 本 密 教 の 宗 教 儀 礼 に 関 す る 比 較 研 究 -の 共 同 研 究 成 果 の 一 部 で あ る )

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