多文化社会と言語教育 Vol.2 March 2022 調査論文 コロナ禍の留学生たちによる経験の言語化と ソーシャルネットワーク International Students Verbalization of Their Experiences and Social Networks during

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【調査論文】

コロナ禍の留学生たちによる経験の言語化と ソーシャルネットワーク

International Students’ Verbalization of Their Experiences and Social Networks during the COVID-19 Pandemic

村田晶子

要 旨

コロナ禍によって国際移動、対面交流が難しくなったことは留学生活に大きな影響を与 えた。本稿は、日本の大学の授業を履修している留学生(国内に居住する留学生だけでな く、海外からオンラインで受講する留学生を含む)に焦点を当て、彼らがどのようにこの 難しい時期を生きていたのか、どのように人とつながり、自分の居場所を見つけていった のかを、彼ら自身の言葉と彼らが作成したソーシャルネットワークの図を通じて明らかに した。そして、最後に困難な時期の経験を言語化して振り返ることの意味を検討した。

本稿はコロナ禍の留学生の経験を分析した3つのプロジェクトの1つである。本稿、そ してアンケート調査結果(村田2022a)、留学生の実施したフィールドワークの学び(村

田2022b)の3つの論考を通じて、留学生の経験と学びを多角的に明らかにした。

キーワード:コロナ、留学、経験、言語化、ソーシャルネットワーク

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大は、留学生の生活に大きな影響を及ぼした。国内に居 住する留学生は、キャンパスへのアクセスが制限され、対面での人との関わりが希薄にな り、思い描いていたような学生生活が送れず、孤独や不安を感じる学生が少なくなかった。

また、入国制限のために海外からオンライン授業を受けていた留学生たちも、いつ入国で きるのか先行きが見通せない中でストレスや不安を抱えていた(村田2022aアンケート調 査結果参照)。

しかし、コロナ禍でこうした留学生たちが具体的にどのような生活を送っていたのか、

そして彼らがどのように国際移動や対面交流が困難な時期に人とつながったり、サポート を受けたり、助け合ったりしていたのか、そうした報告や分析が十分になされているとは 言えない。そこで本稿では、留学生がコロナ禍の経験を記述した文章を分析し、コロナ禍 の留学において、どのように人とつながり、自分の居場所を見つけていったのか、どのよ うにこの難しい時期を生きていたのかを彼ら自身が作成した文章とネットワーク図を通じ て明らかにする。そして、コロナ禍での留学生たちの主体的な取り組み、相互支援、ソー シャルネットワークを明らかにすることで、留学生の支援に役立つ知見を提供することを 目的とする。

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2.経験の言語化

アメリカの教育哲学者 John Dewey(1938/1997)は、伝統的な講義形式の授業(知識重 視の授業)へのアンチテーゼとして、学生が日常生活の文脈の中で経験的に物事を学び、

自分の経験を振り返り、自分なりに意味づけすること(経験を再構成すること)が重要で あると述べ、経験的な学びと省察の重要性に光を当てた。Deweyの思想を踏まえて作成さ

れたKolb(1984)の経験と振り返りのサイクル(図1)は、ボランティア、インターンシ

ップなど様々な経験的学びのプログラムで活用されている1。海外留学プログラムにおいて も、こうした経験の省察の機会を定期的にもつことは、留学を通じた学びや変容のプロセ スを可視化する重要な機会となる(Deardorff 2015、村田 2018a)。

【図1 Kolb(1984)の経験と省察のサイクル】

しかし、留学生活の中で定期的に学生が自分の経験を記述し、それを振り返る時間を取 ることは必ずしも簡単なことではなく、教育プログラムの中で定期的な省察の仕組みを作 ることが望ましい。留学プログラムでは、出発前と帰国後のインパクト調査(アンケート 形式)、帰国後の留学報告会などが行われるが、留学中の経験はブラックボックスのまま、

可視化されていないことが多く、留学生自身による多様な形での経験の可視化と省察の蓄 積を可能にするような仕組みが求められている(村田2018a)。言語プログラムが提供す るライティング科目は、定期的なライティングとそのためのブレーンストーミングの機会 を提供するため、留学生が留学経験を定期的に記録し、省察するための教育的な仕組みと して大きな可能性をもっている(村田2018b)。

こうしたことを踏まえて、筆者が担当している日本語のアカデミックライティングのク ラスでは、課題に留学生活に関係する様々なトピックを取り入れ、学生が自分の生活や自 分の周りの世界で起きていることを定期的に言語化し、振り返る機会を作っており、それ を最後にレポートとしてまとめてもらっている。本稿では、コロナ禍で留学生活を送った 5名の留学生の文章を通じて、彼らが直面したコロナ禍の状況がどのようなものであった のか、また、彼らがどのように自分の居場所を築き、他者とつながり、変容したのかを明 らかにする。

1 例えば早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(2016) 。

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3.留学生のソーシャルネットワーク

留学生は、家族と離れて日本で暮らすため、周囲の人に頼りにくい傾向にあるが、対面 だけでなくオンラインも含めると様々なソーシャルネットワークをもっている。村田・古 川(2014)が大学の留学生別科で学ぶ東アジアの留学生たちを対象に行った、オンライン のソーシャルネットワークの調査では、図2にみられるように、留学生たちが様々なソー シャルネットワークを活用して、日本での生活や受験期の悩みを相談しあい、相互支援を していることを明らかにしている。

【図2 留学生のオンラインのネットワーク (村田・古川2014:57から)】

コロナ禍により、人との対面での交流やつながりが希薄になっていた時期において、こ うした様々なつながりは、留学生にとってのサポートや相互支援のネットワークとして非 常に重要な意味をもっており2、留学生自身が自分のネットワーク図を作成することは、自 分が困難な時期に、どのように対応し、また、どのように周囲の資源を活用していたのか を意識化することにもつながる。実際に筆者は村田・古川(2014)の調査の中で、留学生 たちに図2のようなネットワーク図を書いてもらい、彼らの生活や他者とのつながりがど のようなものであったのか説明してもらったが、その際に、留学生からネットワーク図を 書くことは、自分がどのような人とつながり、連絡を取り合っているのかを振り返り、も っとネットワークを活用していく上で役に立ったというコメントをもらった。このため、

筆者のライティングのクラスにおいても、学生たちが留学の経験を振り返る際に、図2の ような日常のネットワーク図を留学生に作成してもらい、人とのつながりを可視化してか ら、生活世界を振り返ってもらっている。

2 留学生のオンラインコミュニティーによる母語での情報提供(Jang & Choi 2020)、同郷の学生間のSNS のつながり(滕・竹本2021)、同じキャンパスで学んでいる学生有志によるソーシャルサポート(村田 2021)などが報告されている。

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4.留学生たちのライティングの分析

本稿で分析の対象とする記述は、コロナ禍(2020年~2021年)に作成された5つの留学 レポートである。レポートは、1)はじめに、2)留学に関する参考文献のレビュー、3)留学 経験の記述、4)おわりに、から構成されている。本稿では3)の部分に焦点を当てて分析す る。執筆した5人の学生はコロナ禍が始まってからプログラムに入ってきた短期留学生

(1~2学期間、日本の大学で学ぶ学生)で日本語レベルはJLPT(日本語能力試験)の N1相当である(表1)。

【表1 留学レポートを執筆した学生の背景】

学生 出身地域 主な留学の目的

Aさん 東アジア 日本語を学び、日本の大学院進学の準備をすること

Bさん 東アジア 日本語を学び、日本で旅行やコンサートに行くこと

Cさん 中央アジア 日本で1年間日本語と日本文化を学ぶこと

Dさん 東南アジア 日本語を学び、日本の大学院進学、就職の準備をすること

Eさん 東アジア 日本語を学び、日本の大学の進学準備をすること

*個人情報を伏せるため、出身に関してはおおよその地域のみ記した。

① 「多くの普通のことが大切になった」

Aさんは2020年の3月に来日した学生で、来日した翌月に初めての緊急事態宣言が発出 されたことからキャンパスへのアクセスは制限され、街から人通りがほとんど消えた。A さんの履修する予定だった授業はすべてオンライン化され、外出の自粛が求められる中、

行動範囲は一気に狭まった。こうした中での日本での生活をAさんは以下のように記述し ている(記述は原文のまま記載し、ネットワーク図は原文の図をもとに筆者が整形)。

私は先月、日本に来て以来、まだ大学に行ったことがない。毎日に家でオンライン授業を 受けて、毎日の行動範囲は下の図で示すような簡単なものである。授業以外は、生活を維持 するために週2回くらいスーパーやコンビニに行く。ほんの少しの友達と一緒にデパートに 買い物に行き、寄り道してレストランで食事をする。授業は半日だけど、あんまり運動やレ クリエーションができていない。東京の雰囲気を肌で感じる機会は非常に少なく、そこに住 んでいるが、観光客と同じだと感じるときもある。

【図3 Aさんが作成したネットワーク図】

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この時期はオンライン授業に移行した最初の学期で、教員も学生たちもオンラインの授 業に緊張しながら臨んだ。Aさんも学期の当初は緊張した面持ちで、クラスでの発言も少 なく、コロナ禍での異国の一人暮らしが大変なのではないかと教員間で心配していた。し かし、次第に授業での発言が増え、積極的にクラスのディスカッションに参加するように なっていき、生活のペースもつかめてきたとオンライン授業の中で語っていた。そうした Aさんの変化が以下のレポートの記述にみられる。

コロナゆえに、健康を考えて規律よく生活することで自立心を鍛える。ネットで家族と話 す時間が増えたので安心させることができた。距離が増えたが繋がりが深くなった気がする。

留学生活の実感が少ないけど、その生活を充実させるために自分自身でできることはたくさ んがあると思う。例えば、オンライン授業は通学時間を節約して、朝や晩の時間を勉強に使 う。外出を減らすことでクラスメートと交流の機会が少なくなったが、私は以前よりも話の 内容と相手の気持ちを重視するようになった。つまり、多くの普通のことが大切になった。

そして、ただ適当に毎日を過ごすことをやめた。事物の意味を考え始め、毎日真面目に過ご すことになった。

Aさんは、レポートの中で「生活を充実させるために自分自身でできることはたくさん があると思う」と述べており、行動の制約がある中で、自主的な勉強の時間を取るように なったこと、家族とのつながり、友人とのつながりなど、「多くの普通のこと」の大切さ に気付いたと述べている。

② 図書館通いとオンライン交流

Bさんはコロナ禍の2020年から2021年にかけて1年間日本で過ごした。Bさんが日本 でしたいと考えていたことは、日本語力を高めること、好きなアイドルのコンサートに行 ったり、温泉に行ったりすること、日本で好きなアニメ映画を見ることであった。また、

アルバイトを通じて、お金を貯めたいという希望も持っていた。しかし、Bさんは日本で の留学中のほとんどの時間を買い物以外は自宅と図書館で過ごすことになった。

私は今来日しているが、授業はオンラインで受けている。行動範囲と人間関係は以下の図 のとおりである。私は大学に行くことはほとんどない。それに一人暮らしをしているので、

行動範囲は狭く、近所のスーパーやコンビニに買い物に行ったり、近くの図書館で勉強し たり、家で小説を読んだりするぐらいだ。

【図4 Bさんが作成したネットワーク図】

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こうした生活を記述する中で、Bさんは留学に意味がなかったかというとそうではないこと を、以下のように記している。

今の状況でも生活を充実させるために、できることを探したいと思う。私は大学が紹介 してくれた日本人のボランティアのMさんとオンラインで毎週交流している。先週はM さんと一緒に日本の茶道をやった。実は、日本に来る前からお茶文化に興味を持っていた 私はオンラインを通じて茶道をやるとは想像もしなかった。そして、今年は全くコンサー トに行ったことがないのですごく悔しいが、その代わりにオンラインライブを見たり、聴 いたりして、嵐と一緒に楽しい時間を作ることができる。

4月に新学期が始まった時、私は今年は最悪の一年だと思っていたが、今思い出したら、

逆に自分はもっと充実した時間を過ごしたと思っている。どこにも遊びに行かなかったの で、真面目に勉強する時間が増えている。そして、読みたい小説を沢山読んだので、読解 力が急速に伸びた。それだけでなく、日本人ボランティアと交流して、様々な日本の文化 を勉強している。日本に留学を決めたことは私の人生を変えている。

③ コロナ禍の鬱と音楽活動

Cさんは短期留学生で、1年間の留学予定で来日したが、日本での大学生活はオンライ ン授業のため留学を実感できないまま、気分の落ち込みを感じていたことを以下のように 記している。

私は秋学期に来日して、東京で暮らしているが、大学の授業は全部オンラインである。

そのため、大学へほとんど行かなくて、授業の時は、「まだ自分の国にいる」とか「来日 したかどうか違いはほとんどない」という感じがして、鬱の原因となっている。

しかし、Cさんが来日した2021年の秋学期には、次第に感染症の状況が落ち着き、旅行をし たり、アルバイトをしたりすることができるようになっていった。そうした環境の変化がCさ んの記述にも表れており、気分の落ち込みと喜びが合わさった状況が音楽を創作するインスピ レーションにもなっていることが記されている(文中の括弧は筆者補足)。

(日本で)アルバイトをしたり、旅行をしたり、寮の友達と外で時々食事をしたりして いるから、鬱になったり、気持ちがよくなったり、鬱と喜びの感情が入り混じって、イン スピレーションが生み出されて、作曲も進んでいる。来日の前の想像と来日後の現実は大 分異なる。日本に行ったことがなかった昔の私の姿が懐かしい。

コロナ禍のせいで、授業の雰囲気が感じられなくなり、時々何も変わっていないように 授業を受け、鬱の気持ちに満たされる。しかし、授業以外、例えば、就職活動、食生活、

旅行などのことは日本の経験になり、私はいい感情に満たされる。このような感情を合わ せることができることによって、インスピレーションが生まれる。このようなインスピレ ーションで、自分の困難を乗り越え、前に進むことができる。

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【図5 Cさんが作成したネットワーク図】

④ 将来について考える時間

Dさんは2021年にプログラムに参加した学生で、当初は日本語をブラッシュアップし、

日本の大学院に入りたいと考えていたが、コロナ禍での留学ではやりたいことが十分にで きなかった。

現在、私は日本に住んで留学しているが、オンライン授業を受けるしかない。去年自分の 進路と将来のために、大学の日本語ブログラムで勉強しようと決めた。コロナ禍オンライン 留学は少し残念で、留学生の活動は少なく、今年の4月からの自分の生活の中で、以下の図 に通り制限されている。毎週、自分のアパートで先生の授業にログインし、定期的にオンラ イン授業に受ける。授業の時間以外は、日本人の学生とオンラインの交流会に参加したが、

私は対面関係の方がいいと思う人なので、続けるためのやる気が出ない。

Dさんは、コロナ禍の留学ではできないことが多いと感じる一方で、日本語が上達した こと、教員やクラスメートとともに学べたこと、そして、コロナ禍の時間に自分の将来に ついて考える時間が取れたこと、将来を模索したことが役に立ったと感じている。

オンライン留学は限界があり、やりたいことができないが、新しい友達と話し、知らない ことを習い、国際環境を体験することができるなど、非常に楽しかった。コロナ禍でも、先 生と留学生たちは言語の壁を超えて相談したり、お互いに勉強したりしたことに感動した。

何より、一番うれしいのは日本語を正しく順調に使うことをだんだん想像できるようになっ たことだ。

緊急事態の中で、他の留学生と同じように、自分の生活は家の近くのスーパーやアルバイ トなどが中心で、それを繰り返す。また、暇な時や連休などには、将来の目標にむかって自 分自身の方法を見つけるために、関心のあることを調べて観察するようにしている。例えば、

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大学や専門学校のオープンキャンパスの中で、特にA調理師專門学校が気に入った。和菓 子と洋菓子についての仕事を上手くするのはすごく難しいと思われるが、私はわくわくした。

それから、レストランやショップを観察し、日本語の勉強のやる気がたくさん出た。

【図6 Dさんが作成したネットワーク図】

⑤ 海外からの受験

Eさんは、日本の大学を受験しようと考えていたが、コロナ禍による入国制限で、来日 することができなくなり、オンライン授業になかなか身が入らない状態であったことが以 下のように記されている。

大学の日本語プログラム合格してから、新型コロナウイルスの影響で、日本に行けない だけでなく、オンライン授業を受けることになった。毎日起きてすぐにインターネットの 授業を受ける。暇な時によく好きなアニメや映画を見る。メールやウィーチャット、イン スタグラムなどを使い、日本の大学の先生や各国の友達と連絡をしている。インターネッ トのおかげで、家を出なくても知識を得たり、友達との連絡を維持したりすることができ る。しかし、旅行に行きたいところがあっても行けない。ビデオで美しい景色を楽しむし かない。基本的に一日中パソコンに向かって過ごしており、毎日同じことをくりかえして いる。毎日家で授業を受けるのは便利だが、知らず知らずのうちに怠けてしまう。

去年、私は日本の大学に合格したが、新型コロナウイルスの影響で入学をキャンセルさ れた。その時、私はこれまでの努力が無駄になったと思っていた。よく「コロナがなけれ ばいいなぁ」と思う。もっと各国からの留学生と交流し、友達を作りたい。それに、日本 の大学の図書館を利用し、学園祭にも参加したい。

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【図7 Eさんが作成したネットワーク図】

しかし、Eさんはそんな自分の気持ちが変わったきっかけ(友人のN1取得)とその後の 心の変化を次のように記している。

それからぼんやりと1年間を過ごした。ある日、私は「以前一緒に日本語を勉強し始め たクラスメートがN1を取った」と聞いた。その時、勉強にとって一番大切なのは自覚だ と気づいた。オンライン授業は現地の文化に触れる上で大きな制約がある。しかし、日本 での生活を直接体験することはできないが、言語や知識を学ぶとき、オンラインで授業を するかどうかにかかわらず、一番大切なのは自分の自覚と努力だろう。現実生活は小説の ストーリーのようにはいかない。スーパーヒーローが世界を救うことはない。現状を踏ま えると、少なくとも今後数年間は新型コロナウイルスが世界から消えないと思われる。し かし、中国の諺にもあるとおり、「チャンスは常に準備しておく人に残されている」。イ ンターネットを通じていろいろな知識を学ぶことができるし、日本の文化を学ぶ方法もた くさんある。そして、LINEやインスタグラムなどを使って日本人と交流することもでき る。今はまだ日本に行けないが、留学すると決めた以上、一生懸命勉強しなければならな い。自分の好きなことをやり続けて、自分の夢のためにたゆまず努力する限り、望み通り に成功することができるのではないだろうか。

5.考察

本稿では外国人留学生たちが作成したコロナ禍での留学のレポートの分析を通じて、彼 らがコロナ禍においてどのように生活をしていたのか、また、どのようなソーシャルネッ トワークを活用していたのかを明らかにした。

これらの5つの留学生のライティングからは、彼らが、急激な社会環境の変化、国際移 動の制限、教育の急激なオンライン化、人とのつながりの希薄化など、様々な問題に直面 しつつも、それに対応、適応しようと努力し、社会と関わりながら、自分なりの生き方を 模索していたことがうかがえた。困難な時期にどのように対応したのかは、人によって異 なり、正解はない。村田(2022a)で、留学生のコロナ禍での状況に対する対応や彼らの変 容を「レジリエンス」という概念を援用して分析したが、レジリエンスの表現は人によっ

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て様々であり、学生が自分自身の状況を省察し、経験を意味づけていく機会を作っていく ことは大切であろう。

本稿の留学生たちのレポート作成では、彼らがまず自分のネットワーク図を作成し、そ れを踏まえて具体的な留学生活の記述をしたが、学生たちの授業の振り返りからは、図を 作成することで、自分の人とのつながり方を具体的に考えるきっかけとなった、といった コメントが見られた。例えば、コロナ禍で人とのつながりがほとんどないと思っていたが、

よく考えると親とはネットで毎日話していた、ネットで高校時代の日本語クラスの友人や 教員とつながって励まし合っていた、など、図示したり、文章で書いたりすることであま り意識していなかった支援や互助の形に気づいたというコメントが見られた。こうしたこ とから見ても、経験を学生自身が可視化していくための教育的な仕組みを今後も検討して いくことは重要であろう。

最後に、省察を行う時期について述べたい。本稿の最初に、経験を可視化して、省察す る際に用いられるKolbのサイクルをあげたが、こうした経験の振り返りは留学が終わった 段階で総括して終わりというわけではない。経験したことの意味は、再構成され、また、

新しい経験を積み重ねることによって変容していく。何年かあと、何十年かあとに、その 時の経験を思い出して、それが糧になっていることに気づくことも出てくるであろう。留 学生たちがこの困難な時期の留学について記録し、人生の様々な段階で振り返ることがで きるように、経験の言語化と省察の活動をどのように教育現場で取り入れていくことがで きるのか、今後も検討していきたい。

謝辞:本研究はJSPS科研費19K00720の助成を受けたものである。

参考文献

滕媛媛・竹本圭佑(2021)「コロナ禍における中国人留学生のSNS利用と社会関係資本に関する調査報 告書」TERG Discussion Papers, 447:1-38, http://hdl.handle.net/10097/00131568 (2022.01.07アクセス)

村田晶子・古川智樹(2014)「留学生の第三の居場所:SNSを通じた人とのつながりと相互支援―進学の 境界線越えに焦点を当てて―」『異文化間教育』40:53-69.

村田晶子(編)(2018a)『大学における多文化体験学習への挑戦―国内と海外を結ぶ体験的学びの可視 化を支援する―』ナカニシヤ出版

村田晶子(2018b)「日本留学における経験の言語化プロジェクトの分析」BATJ Journal 19:26-30.

村田晶子(2021)「孤立する留学生のオンライン学習支援とソーシャルサポート―コロナ禍でのボランテ ィア学生の取り組み―」『多文化社会と言語教育』1:14-29.

村田晶子(2022a)「コロナ禍の『日本留学』―外国人留学生の孤独とレジリエンス―」『多文化社会と 言語教育』2:1-15.

村田晶子(2022b)「コロナ禍の留学生たちによるフィールドワークの意味―社会の境界線越え―」『多 文化社会と言語教育』2:26-38.

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(編)(2016)『体験の言語化』成文堂

Deardorff, K.D. (2015). Demystifying Outcomes Assessment for International Educators: A Practical Approach.

Sterling, VA: Stylus Publishing.

Dewey, J. (1938/1997). Experience and Education, New York, NY: Kappa Delta Pi.

Jang, I.C., & Choi, L. J. (2020). Staying Connected during COVID-19: The Social and Communicative Role of an Ethnic Online Community of Chinese International Students in South Korea, Multilingua 2020; 39(5): 541 – 552, https://doi.org/10.1515/multi-2020-0097(2022.01.07アクセス)

Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development, Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.

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