1. はじめに
科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域活 性化をキーワードとして、2035 年の理想とする暮らし の姿及びその実現に向けた戦略を検討する予測調査1)
を実施した。その目的は、目指すべき将来社会像の実 現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦略を見いだ すこと、併せて新たなアプローチを試みることである。
調査では、北九州市(福岡県)、上山市(山形県)、
久米島町(沖縄県)、八百津町(岐阜県)の 4 地域
(並びはワークショップ開催順)を対象として、地域 の将来社会像及びその実現に寄与する科学技術やシ ステムの検討を行った。検討は、論点抽出(ステップ 1)2)、地域の理想とする将来社会像の検討(ステップ 2:地域ワークショップ)3)、将来社会像実現に寄与 する科学技術の検討(ステップ 3:学会ワークショッ プ)4)、将来社会像実現のための戦略の検討(ステッ プ 4:総合ワークショップ)、取りまとめ(ステップ 5)、の 5 段階から構成された。
第 4 報となる本稿では、ステップ 4 に当たる総合 ワークショップの概要を報告するとともに、本調査開
【 概 要 】
科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域活性化をキーワードとして、2035 年の理想とする暮らし の姿及びその実現に向けた戦略を検討する予測調査を実施した。まず、4 地域を対象として地域の将来社会像 を検討し、次いでその実現に寄与する科学技術やシステムの検討、最後にこれらを統合した検討・分析を行った。
各地域の将来社会像を統合すると、「未来型地域コミュニティ」、「快適生活」、「グローカル新産業」の 3 項目に 集約され、その実現に寄与する科学技術・システムとして、次世代モビリティ・システム、高度バーチャル技術、
伝統・ノウハウの伝承などが挙げられた。調査手法として、科学技術と将来社会像との関連付け、複雑な社会 課題への対応、多様なステークホルダーの参加を指向した新たなアプローチを試みた。今後は、目指すべき将 来社会像の実現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦略立案について、多面的に検討する必要があることか ら、予測活動の高度化に向けた更なる手法改良が求められる。
始に当たっての問題意識と試行したアプローチにつ いて取りまとめる。
2. 総合ワークショップの概要
2-1 開催概要
総合ワークショップは、地域の視点と科学技術の視 点の双方から、将来社会像の重点化とその実現に向け た戦略について総合的に検討を行うことを目的とし て、2017 年 2 月、東京にて実施された。参加者は、
対象地域代表者(ステップ 2 に参加)及び学会代表 者(ステップ 3 に参加)、並びに産学の科学技術専門 家である。また、本ワークショップは「環境未来都 市」構想推進協議会平成 28 年度ワーキンググループ の一つとして採択されたため、同協議会構成団体(省 庁、自治体、関連企業等)からの任意参加も得た。
前半には、ワークショップを実施した地域及び学会 の代表が検討結果を紹介し、参加者間で情報共有を 図った。後半には、8 グループに分かれ、目指すべき 将来社会像の実現に向けた重点テーマと各ステーク ホルダーがなすべきことの検討を行った。最後に各グ
ほらいずん
持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組
(その 4(最終回) 総合検討)
科学技術予測センター 予測・スキャニングユニット
持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 4(最終回) 総合検討)
ループが結果を発表し、全体討論を行った。
2-2 検討結果
グループ討議では、地域の将来社会像をあらかじめ 各グループに割り振って検討を進めた。具体的には、
まず、ステップ 2 の結果を取りまとめた「地域の将来 社会像」とステップ 3 の結果を取りまとめた「科学技 術リスト」とを関連付けた案を出発点として、他地域 への展開可能性や当事者が認識していない地域の強 みの発見などの観点から拡充を図った(図表 1)。次 いで、最も推進すべきと思われる重点テーマを将来社 会像の中から選択し、その実現に寄与する科学技術・
システムや社会システム等の検討を行った。各グルー プで選択された重点テーマの概要を図表 2 に示す。
総合ワークショップでの検討結果を踏まえ、重点 テーマの内容から共通項を抽出し、「未来型地域コ ミュニティ〜地域コミュニティに支えられた社会」、
「快適生活〜質の高い生活を享受する社会」、「グロー カル新産業〜特徴を生かして地域が活性化した社会」
の 3 項目の社会像に集約した。この 3 項目に関連する 科学技術・システムを整理した結果を図表 3 に示す。
今回のテーマ「高齢社会 × 低炭素社会」に関連する 科学技術・システムとして、各テーマに共通して ICT の活用と高度情報インフラ関連技術が取り上げられ た。また、生活をサポートする各種ロボット、自動運 転や無人のモビリティと、それを適度に制御する AI
(人工知能)や最適化システム、あるいは感性のデジ タル化で実現する VR(バーチャルリアリティ)など の先進技術が求められている。さらに地域ニーズとし て、農産物、工芸品、有形・無形の伝統、ノウハウの 各種計測・データ化・デジタル化と生産あるいは再
現技術が挙げられた。また、ロボットやモビリティ、
先端製品のオンサイト・オンデマンド生産・修理技 術が重要とされ、特にその場で対応できるセミプロの 存在や、問題解決のためにその場でプロジェクト構 成できる専門家ネットワークの重要性が指摘された。
なお本検討では、地域での関心が高いと考えられる生 活サポートや産業関連技術が多数出された一方、学会 ワークショップで多く提案された、健康・医療や環 境・エネルギー関連技術については、余り取り上げら れていないことも特徴である。
3. 本調査におけるアプローチ
本調査では、「将来社会像の設定→科学技術(将来 社会像実現に寄与する科学技術)の抽出→戦略(将来 社会像実現のための戦略)の設定」の順で検討を進め た。以下に、本調査におけるアプローチ上の課題と試 行について記す。
3-1 当センターの予測活動における課題
当センターは、5 年ごとに大規模な中長期科学技術予 測調査を実施するとともに、手法開拓や深堀りを目的 とした特定テーマの予測調査を実施してきた。本調査 開始に当たっての問題意識(課題)及び本調査におけ る対応(試行)について整理したのが、図表 4 である。
最初に挙げられる課題は、科学技術と将来社会像と の関連付けである。これまでの調査において、社会・
経済ニーズに対する科学技術の寄与度の評価、社会目 標や社会変化をブレークダウンして科学技術との親 和性を高める工夫、様々な科学技術に支えられた生活 場面の描写などを行ってきた。しかし、社会像と個別
図表 1 将来社会像と科学技術の関連付け(北九州グループの例)
[将来社会像(地域 WS 結果)] [将来像と科学技術の関連付けの例]
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持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 4(最終回) 総合検討)
図表 3 重点テーマの集約と関連科学技術・システム
科学技術の関連付けには依然としてギャップが存在 し、科学技術の社会インパクトの検討も十分であった とは言えない。科学技術は、社会に新しい仕組みや可
能性をもたらしたり課題解決に寄与したりすること もあれば、新たな問題を生じさせることもある。科学 技術と社会の両方の視点からの議論、科学技術と社会
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図表 5 本調査の具体的アプローチ
課題をつなぐための枠組みや構造化などが必要と考 えられる。
第二の課題は、複雑な社会課題への対応である。社 会課題解決のために学際的・分野融合的な検討が必 要であることは共通認識となっており、当センターで も複数の科学技術分野に関わるテーマを設定してシ ナリオ作成を行ってきた。しかし、科学技術による 社会課題対応は、別の社会課題に正負の副次的効果を もたらす可能性があり、また効果の評価は人々の価値 観にも左右される。一つの目標達成を目指すだけでな く、総合的な視点から全体最適の着地点を模索する取 組も必要と考えられる。
第三の課題は、多様なステークホルダーの参加であ る。これまでの調査において、ステークホルダー別の 検討は行ってきたが、多様なステークホルダーが一堂 に会した検討については、地域を対象とした検討を除 けば未着手であった。予測活動は、「オープン、参加 型、行動指向」をキーワードとして、「未来について考 え、議論し、未来をつくる」活動5)である。欧州の事 例に多く見られるように、中間結果や最終結果を用い て多様なステークホルダーが議論するステージを組み 込む必要があると考えられる。これは、第 5 期科学技 術基本計画9)でうたわれている「社会の多様なステー
クホルダーとの対話と協働」にも関わる課題である。
3-2 試行内容
前節の問題意識を踏まえ、本調査で試行した具体的 なアプローチを図表 5 及び以下に記す。
(1)科学技術と社会像との関連付け
本調査では、前述のとおり、「将来社会像→科学技 術→戦略」の順で検討を進めた。この大きな流れの 中の各ステップにおいて、将来社会像から戦略まで の一連の流れを重複して実施する(図表 6)ことによ り、科学技術と将来社会像との関係性の意識を明確に 持った議論への誘導を図った。
また、科学技術と将来社会像を関連付ける枠組みと して、第 5 期科学技術基本計画を基にしたカテゴリ を設定した。基本計画では、目指すべき国の姿とその 実現に向けた 4 本柱9)が掲げてられている。柱の一つ である「経済・社会的な課題への対応」は、社会ベー スであり科学技術の検討も可能なカテゴリと考えた。
具体的には、健康・暮らし、環境・エネルギー、もの づくり・地方創生、安全安心・インフラの 4 カテゴ リを設定し、地域の将来社会像を当てはめた上で、カ テゴリごとに関連する科学技術の検討を行った。
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持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 4(最終回) 総合検討)
図表 6 各ステップでの検討内容
図表 7 地域ワークショップにおける複数課題の掛け合わせ検討の手順 本調査での検討は、科学技術と将来社会像をカテゴ
リ別に分類した段階にとどまった。今後は、こうした 科学技術と社会像の関連付けを出発点として、科学技 術システムとしての検討や社会的な仕組みも含めた 総合的な検討、また、大きな寄与が期待できる領域や 複数カテゴリにわたる基盤的領域の検討などへの展 開が求められる。
(2)複雑な社会課題への対応
本調査では、個別には多くの検討がなされている高 齢社会対応と低炭素社会構築を掛け合わせた議論を 試みた。将来社会像のアイディア出しを行うステップ 2 において、イメージが湧かずグループ討議が停滞す ることも想定されたため、最初は制限を設けず幅広く 生活シーンごとのアイディア出しを行った。その後、
それらを高齢社会及び低炭素社会の視点から評価す る方法をとった。具体的には、高齢社会対応から見た 重要度(寄与度)と低炭素社会構築から見た重要度
(寄与度)の 2 軸図上に提案された項目を位置づけた
(図表 7)。
今回、重要度(寄与度)の指数化は行わなかったこ とから評価に曖昧さが残り、地域間やグループ間の比 較を実施しなかった。また、2 軸図に位置づける作業 の中で、双方の重要度が高い象限に持って行くための 議論はなされたものの、画期的な発想には至らなかっ た。社会課題を掛け合わせた議論を誘導するには、更 なる工夫が求められることが示唆された。
(3)多様なステークホルダーの参加
今回、各地域の検討結果から共通項を抽出して国レ ベルの検討に展開することを目的 に、専門家だけではなく一般市民 も含めた多様なステークホルダー による議論の場を設定した。あわ せて、「地域というステークホル ダー」の参加という意味合いも込 めた。
地域におけるワークショップで は、当該地域の自治体に人選を依 頼し、地元の大学、企業、金融機 関、市民団体等からの参加を得た。
さらに、自治体の関連部署から実 務者の参加を得て、地域における 施策検討との連係の可能性を高め た。続いて将来社会像に即した科 学技術を導き出すことを目的に、
学会の協力を得て実施したワー クショップでは、既に地域で検討 された将来社会像についても再考 し、産学の科学技術専門家の視点 を追加した。そして、総合ワーク
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1) 科学技術予測センター、「地域の特徴を生かした未来社会の姿〜 2035 年の高齢社会 × 低炭素社会〜」、調査資料−
259 (2017)
2) 予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 1 文献調査)」、STI Horizon Vol.2 No.4 (2016) http://doi.org/10.15108/stih.00057
3) 予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 2 地域における理想 とする暮らしの姿の検討)」、STI Horizon Vol.3 No.1 (2017) http://doi.org/10.15108/stih.00070
4) 予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会 × 低炭素社会」の実現に向けた取組(その 3 地域の未来を創 造する科学技術・システムの検討)」、STI Horizon Vol.3 No.2 (2017) http://doi.org/10.15108/stih.00079 5) 例えば、European Foresight platform:http://www.foresight-platform.eu/community/forlearn/what-is-foresight/
6) 科学技術動向研究センター、「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査(第 8 回科学技術予測調査)」、NISTEP Report No.94〜98 (2005)
7) 科学技術動向研究センター、「将来社会を支える科学技術の予測調査(第 9 回科学技術予測調査)」、NISTEP Report No. 140〜142、 145 (2010)
8) 科学技術動向研究センター、「第 10 回科学技術予測調査」、NISTEP Report No. 164、調査資料 240、242 (2015) 9) 第 5 期科学技術基本計画 http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf
参考文献
いない科学技術専門家や自治体関係者も交えた議論 の場を設定し、多様性を高めた。各ステップの検討に おいては、前ステップの結果を出発点とすることで全 体の統一感を保ちつつ、前ステップとは異なる参加者 による新たな視点追加と結果の拡充を図った。
4. 終わりに
本調査では、高齢社会と低炭素社会の共存に向け て、地域の理想とする将来社会像を検討し、次いでそ の実現に向けた科学技術やシステム、及び各ステーク ホルダーが取り組むべき事柄の検討を行った。
文献調査からは、高齢化の更なる進行に伴ってエネ ルギー消費が増大する可能性が示唆された。地域の将 来社会像検討では、地域コミュニティの役割、地域資 源のブランド化、便利さと適度な不便さの共存、地域 から世界への展開などが共通して挙げられた。高齢社 会対応と低炭素社会構築の観点からは、再生可能エネ ルギーを高齢化の進んだ地域の活性化につなげるこ と、居住域のコンパクト化により低炭素化を図るとと もに、多世代のコミュニティを形成して共助(互助)
関係をつくること、歩いて楽しいまちづくりにより低 炭素化と高齢者の健康維持を図ること、場所を選ばな い働き方や学びによりエネルギー消費効率化と年齢 によらない活躍機会を確保すること等、複合的な検討 が両立の解をもたらす可能性があることが示唆され た。将来社会像実現に寄与する科学技術の検討では、
きな役割を果たすことが示された。一方、具体的な推 進方策の検討においては、制度設計や意識改革等、社 会システム面の寄与も多く挙げられた。
手法面では、科学技術と社会像の関連付け、複雑な 社会課題への対応、多様なステークホルダーの参加を 指向して、新たなアプローチを試みた。今後は将来社 会像の実現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦 略立案について、急速な科学技術発展がもたらす新た な可能性、科学技術の負の影響、科学技術発展に伴っ て必要となる社会の仕組み、人の価値観などの社会変 化など、多面的な検討が求められる。また、研究開発 の推進のみならず社会への実装も含む幅広い視点か ら、様々なステークホルダーを交えた議論を通じて、
これらの予測活動が、地域政策、エネルギー政策、高 齢化政策等と連関した科学技術イノベーション政策 に貢献することを目指していきたい。
謝辞
本調査実施に当たり多大な御協力を賜りました、北 九州市、上山市、久米島町、八百津町、日本学術振 興会水の先進理工学第 183 委員会、公益社団法人応 用物理学会、一般社団法人日本機械学会、「環境未来 都市」構想推進協議会の関係の皆様、また、ワーク ショップに参加くださった多くの皆様に、心より感謝 申し上げます。