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食品中ネオニコチノイド系農薬類分析の 技能試験に関する調査研究

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(1)

食品中ネオニコチノイド系農薬類分析の 技能試験に関する調査研究

中村圭介

(2018 年 1 月 29 日受理)

A survey on the proficiency testing of neonicotinoid pesticides in food

Keisuke NAKAMURA

Abstract

 Recently, consumers are concerned about the safety of their food. One of the major concern of consumers is

pesticide residues in food, because pesticides are bioactive compound but essential for food supply. To ensure the food safety, it is important that the assurance of reliability for determination method of pesticides in food.

National Metrology Institute of Japan (NMIJ) has been providing proficiency testing and certified reference material for pesticides residue analysis in food. The purposes of these are to contribute to laboratory quality management and to improve the reliability of chemical analysis for food. It can be achieved by providing the proficiency testing for the pesticides which are frequently detected in food analysis that the contribution to laboratory quality management more suited for analytical needs at laboratory. In this report, information of neo- nicotinoid pesticides, which is widely used in agricultural formulations, are described for providing the accurate values in proficiency testing that will be held by NMIJ.

1.緒言

私たちの身の回りには多くの化学物質が溢れており,

プラスチック製品・医薬品・農薬など化学物質の特性を 生かした製品によって,私たちの生活は支えられてい る.現在,地球上には天然物・人工物を含めて膨大な種 類 の 化 学 物 質 が 存 在 し て い る.Chemical Abstract

Service

が 運 営 し て い る 化 学 物 質 デ ー タ ベ ー ス

CAS Registry

 1)に登録されている化学物質の種類は 2017 年 10 月 12 日の時点でおよそ 1 億 3 千万種類であり,一日に 1 万個以上のペースで現在も増え続けている.しかし,

私たちに利益をもたらす化学物質のすべてが環境や生物 に対して無害であるとは限らない.日本国内では 1970 年代に水俣病やイタイイタイ病など化学物質が原因と

なった公害病が社会問題となり,また近年でも農薬(メ タミドホス)の食品への混入事件やシックハウス症候群 など,ヒトの健康や環境に対する化学物質による被害が 報告されている.このような被害を未然に防ぎ,化学物 質を有効利用するためには,化学分析を行い物質の危険 性や暴露量を評価することで,化学物質のリスク(化学 物質が環境やヒトに対して悪影響を及ぼす可能性)を見 積もり,化学物質を適切に管理することが必要である 2)

ここで,ヒトと関りの深い化学物質の一つに「農薬」

がある.農薬は,「農作物(樹木及び農林産物を含む.

以下「農作物等」という.)を害する菌,線虫,だに,

昆虫,ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害 虫」と総称する.)の防除に用いられる殺菌剤,殺虫剤 その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した 資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるも のを含む.)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に

物質計測標準研究部門有機組成標準研究グループ

111

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(2)

用いられる植物成長調整剤,発芽抑制剤その他の薬剤を いう.」 3)と定義され,今や食糧の安定供給において必要 不可欠な存在となっている.しかし,農薬は生物活性を 有しており,ヒトや環境中の生物に対して毒性を示すこ とがある.ここで,農薬のヒトに対する暴露ルートを考 えると,農薬の使用,環境中への拡散,食品を介した暴 露などが挙げられる.中でも食品中に残留した農薬の経 口暴露は,食の安全に対する意識が高まっている今日に おいて,注目されている問題である.

日本国内では,食品中に残留した農薬によって消費者 が健康を損なうことが無いよう,厚生労働省によって残 留農薬基準値が定められている 4).この基準値は,内閣 府食品安全委員会が行う農薬のリスク評価をもとに食品 ごとに定められており,基準値を超えて農薬が残留する 食品の販売,輸入などは食品衛生法によって禁止されて いる.また,2006 年からは原則として登録された全て の農薬が規制対象となっている(ポジティブリスト制 度). 国 際 的 に は 国 連 食 糧 農 業 機 関(Food and

Agriculture Organization: FAO)と世界保健機構(World Health Organization: WHO)の合同国際食品規格委員会

(Codex委 員 会) に よ っ て 最 大 残 留 基 準(Maximum

Residue Limit: MRL)が定められており,加盟国に対し

て自国の規制と国際規制との整合を要求している 2),5)

食品中残留農薬の法適合を確認するために,各地方自 治体による抜き取り検査や残留実態調査が行われてい る.これらのモニタリング検査において違反が見つかっ た場合,生産者は商品の回収に加え,社会的信用の失墜 など多大な損害を受けることとなるため,現在は自主検 査を行う生産者がほとんどである 6).当然のことながら,

これらの食品中残留農薬検査では食品中に残留した農薬 を精確に分析することが求められる.しかし,食品のよ うに複雑な組成を持つ試料の分析においては,試料中の 目的物質の濃度や物性をそのまま測定できることはほと んどなく,目的物質の抽出,精製など多くの工程を含む 複雑な分析法が必要となる.そのため,分析値は用いた 分析法の特性や分析者の技術に依存することになり,分 析値の信頼性を確保することが必要となる.分析値の信 頼性は,分析法の妥当性評価と精度管理を行うことで確 保できる.分析法が目的に対して十分な性能を有してい るかを評価する妥当性評価と試験所内での日々の精度管 理(内部精度管理)には認証標準物質などが用いられる.

これに対して,その他の検査機関との比較によって試験 法を評価する外部精度管理は技能試験または試験所間比 較への参加を通して行われている 7)

計量標準総合センター(National Metrology Institute

of Japan: NMIJ)では,国内消費量が多い穀類とこれに

対して使用される農薬を中心に食品中残留農薬分析用標 準物質の頒布や技能試験を実施することで,食品中残留 農薬分析の精度管理を支援してきた.近年では特に分析 者のニーズに対してより迅速に応えることができる技能 試験に力を入れている.従来の食品中残留農薬分析技能 試験は認証標準物質の開発で対象とし,挙動や安定性の データを十分持っている農薬を対象としてきた.これに 対して,実際の分析現場において分析の対象となる頻度 の高い農薬・食品を対象として技能試験を行うことで,

より分析ニーズに即した精度管理への貢献が可能とな る.そこで本調査研究では,国内の食品中農薬分析にお いて高い検出率を示すネオニコチノイド系農薬に着目 し,その分析の現状と分析法について調査した.

2.ネオニコチノイド系農薬

2. 1 構造と作用機構

農薬は用途によって殺虫剤,殺菌剤および除草剤等に 分類されており,ネオニコチノイド系農薬は殺虫剤に属 している 8).殺虫剤は,構造や作用機構によって細分さ れ て お り,殺 虫 剤 抵 抗 性 対 策 委 員 会(Insecticide

Resistance Action Committee: IRAC)の作用機構分類に

よると 7 種類の化合物がネオニコチノイド系農薬に分類 されている 9).これら 7 種類の化合物の構造を図 2.1 に 示す 10)

ネオニコチノイド系農薬はタバコ葉に含まれるアルカ ロイド(植物に存在する,窒素を含む塩基性成分)であ るニコチノイドに似た構造・作用を持っている.ニコチ ノイドとネオニコチノイドはニコチン性アセチルコリン 受容体(nAChR)にアゴニスト(受容体と結合し,細 胞内部に情報を伝達する物質)として作用し,過剰神経 興 奮 を 引 き 起 こ す こ と で 昆 虫 を 麻 痺・ 死 亡 さ せ

 8),11)-13).図 2.2 にニコチノイドとネオニコチノイドの

生物活性部位の構造を示す.ニコチノイドはアミン部位 の窒素が完全にイオン化し

nAChR

と結合する.これに 対して,ネオニコチノイドはアミン部位の窒素が部分的 に陽電荷を持つことで作用する.ここで,ネオニコチノ イド系農薬であるイミダクロプリドの作用機序を図 2.3

に示す 12),13).イミダクロプリドは部分電荷を持ったアミ

ンと

nAChR

のアニオン部位との静電相互作用と,水素

原子との水素結合によって

nAChR

と結合すると考えら れている.ここで,その他のネオニコチノイド農薬に関 してもイミダクロプリドと同様な機構で

nAChR

に作用 すると考えられているが,ジノテフランなど

nAChR

112

AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.2 February 2020

(3)

N

N

R N

X

O

N

H N

R:

X:

電子吸引基 ニコチノイド

(3-ピリジルメチルアミン)

ネオニコチノイド

生理的

pH

δ+

図 2.2 ニコチノイド,ネオニコチノイドの生物活性発現のための必須構造8)

1

ニテンピラム

N

N HN

NO2 Cl

クロチアニジン アセタミプリド

チアクロプリド イミダクロプリド

ジノテフラン

O N

N N

NO2

S N

Cl

チアメトキサム

図 2.1 ネオニコチノイド系農薬の構造10)

113

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(4)

の相互作用が比較的弱い化合物に関しては,他の作用部 位の存在も指摘されている 8)

2. 2 化学的性質と特徴

ネオニコチノイド系農薬の分子量,水への溶解度,蒸 気圧,水−オクタノール分配係数(POW)および熱分解 温度を表 2.1 に示す 10),14)-20).表 2.1 に示すようにネオニ コチノイド系農薬は水溶解度が高い.これにより植物体 内への高い浸透移行性を示し,散布した薬剤が植物に残 留するため,植物自体に殺虫作用を持たせ,効用が持続

するという特徴を持っている 21).また,ネオニコチノイ ド系農薬の熱分解温度は 200 °

C

程度であり,加熱を伴 う分析法を用いる場合は注意が必要である.

2. 3 毒性

2.1 で述べたようにネオニコチノイド系農薬は昆虫の

nAChR

に作用する.ここで,ネオニコチノイドに類似

した構造を持つニコチンは哺乳動物の

nAChR

に作用し 神経毒性を発現することが知られている 8),11).これに対 してネオニコチノイドは,哺乳動物の

nAChR

との親和 図 2.3 イミダクロプリドのニコチン性アセチルコリン受

容体に対する作用機序11)-13)

化合物名

MW S (g L

-1

)

a

p (Pa)

b

log P

OWc

T

d

(ºC)

アセタミプリド

222.7 4.25 <1.0×10

-6

0.80 200

イミダクロプリド

255.7 0.51 2.0×10

-7

0.57

データなし クロチアニジン

249.7 0.327 1.3×10

-10

0.7 200

ジノテフラン

202.2 40 <1.7×10

-6

-0.549 208

チアクロプリド

252.7 0.185 8×10

-10

1.26 270

チアメトキサム

291.7 4.1 6.6×10

-9

-0.13

147

ニテンピラム

270.7 >590 1.1×10

-9

-0.66

200

aアセタミプリド,クロチアニジン,およびチアメトキサムは

25 ºC

における値.イミダクロプリド,

ジノテフラン,チアクロプリド,ニテンピラムは

20 ºC

における値.

bアセタミプリド,クロチアニジン,およびチアメトキサムは

25 ºC

における値.イミダクロプリド,

チアクロプリド,およびニテンピラムは

20 ºC

における値.ジノテフランは

30 ºC

における値.

cアセタミプリド,クロチアニジン,ジノテフラン,チアメトキサム,およびニテンピラムは

25 ºC

にお

ける値.イミダクロプリドは

21 ºC

,チアクロプリドは

20 ºC

における値.

表 2.1 ネオニコチノイド系農薬の分子量(MW),水溶解度(S),蒸気圧(p),水−オクタノール間分 配係数の対数値(log POW),および熱分解温度(Td

 

10),14)-20)

114

AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.2 February 2020

(5)

胎児毒性 中枢神経 先天性奇形の 可能性 胎児毒性 胎児毒性 中枢神経 胎児毒性 肺葉の喪 (ウサギ 陰性 胎児毒性 胎児毒性 中枢神経 陰性

a

:一日摂取許容量,

mg kg

-1

bw

たは

mg k g

-1

bw d ay

-1

陰性 産子数の減少 陰性 死産,精子の変異 子孫の胸腺重量の 減少 精子の変異, 女性生殖器官 の変異 異常分娩 死産 精巣病変 精子変異 陰性

間接的に影響 及ぼす可能性 陰性 陰性 陰性 陰性 甲状腺 子宮(ラット 卵巣(ラット 肝臓(マウス 陰性

2.2

ニコチンおよびネオニコチノイド系農薬の哺乳動物に対する毒性11) a データな

7. 1 5. 7 33 22 1. 2 2. 6 54

心臓血管 内分泌腺 中枢神経,胃腸管 肝臓 肝臓,中枢神経, 甲状腺 肝臓,腎臓, 巣, 造血系 副腎,乳 肝臓,甲状腺 副腎 肝臓,腎臓, 腎, 甲状腺 データな

a データな

10 42 60 750 3. 1 100

データな

50 146- 417 379- 648 >5 000 >2 000 396- 836 1563 1575 -16 80

ニコチン アセタミプリ イミダクロプリド クロチアニジ ジノテフラン チアクロプリ チアメトキサ ニテンピラム

2.2

 

11

115

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(6)

性が低く,血液脳関門通過性が低いため,ニコチンと比 べて哺乳動物への神経毒性は低いとされている 8),11).し かし,近年ではネオニコチノイドが哺乳動物の

nAChR

に対してニコチンと同様に作用する可能性が指摘されて おり 22),毒性評価が見直されつつある.哺乳動物への毒 性については神経毒性以外に発がん性なども調査されて いる.ネオニコチノイド系農薬の毒性について調査した 結果を表 2.2 に示す 11)

2. 4 環境に対する影響と使用に関する規制

ネオニコチノイド系農薬の環境に対する影響として,

その他の農薬と同様に昆虫等の死滅による生物多様性の 喪失がある.近年では特にヒトにとって有益な働きをす る益虫であるミツバチに対する影響が欧米を中心に問題 視されている 23)-25).これを受けて諸外国ではネオニコチ ノイド系農薬の使用に関して規制を設けている.例とし

EU

では,イミダクロプリド,クロチアニジン,チア メトキサムに関してハチ類がこれらの農薬に接触する可 能性がある環境下での使用を禁じている 26).なお日本国 内では,遵守が義務付けられている使用基準量が農薬ご

とに定められている 27)

2. 5 食品中の残留基準値

日本では 2006 年のポジティブリスト制度の導入によ り,食品中の農薬残留基準値が定められた 28).また,諸 外 国 に お い て も 同 様 に 残 留 基 準 値 が 定 め ら れ て い

 5),29)-32).表 2.3 に例としてイミダクロプリドの残留基

準値を示した.これらの残留基準値は分析法に求められ る性能や技能試験の試料または標準物質を調製する際の 目安となる.

2. 6 食品中残留農薬分析における検出率

表 2.4 に平成 25 および 26 年度に厚生労働省が農産物 を対象に規制対象の農薬等について行った残留試験の結 果において,特に検出される頻度が高かった上位 10 種 類の農薬を示す 33).表 2.4 より,食品中農薬分析の現場 においてネオニコチノイド系農薬,特にジノテフランが 高い検出率を示していることがわかる.また,表 2.5 に 平成 24 年度に行われた食品中の残留農薬等検査におい てネオニコチノイド系農薬の検出率が高かった農作物を

各年度,検査数

100

件以上で検出率の高い農薬(厚生労働省「食品中の残留農薬等検査結果」33)より作成)

農薬名 検査数 検出数

件数

%

ジノテフラン

716 80 11.2

カルベンダジム,

チオファネート,

チオファネートメチル,

及びベノミル

252 16 6.3

ペンチオピラド

113 6 5.3

アセタミプリド

2832 139 4.9

ボスカリド

3027 141 4.7

イミダクロプリド

3476 150 4.3

クロチアニジン

3374 143 4.2

クロロタロニル

396 15 3.8

シフルメトフェン

193 7 3.6

フロニカミド

197 7 3.6

農薬名 検査数 検出数 件数

%

ジノテフラン

710 137 19.3

カルベンダジム,

チオファネート,

チオファネートメチル,

及びベノミル

183 27 14.8

クロラントラニリプロール

139 14 10.1

フロニカミド

214 14 6.5

アセタミプリド

2707 163 6.0

トランスペルメトリン

121 6 5.0

クロチアニジン

3131 144 4.6

ボスカリド

3221 148 4.6

クロロタロニル

157 7 4.5

シスペルメトリン

121 5 4.1

表 2.4 平成 25 および 26 年度に国産農作物から検出された農薬.

  平成 25 年度      平成 26 年度

2.3

イミダクロプリドの残留基準値(

mg/kg

5), 29)-32) 品目 日本

EU

米国 中国 韓国 国際基準 米(玄米)

1 1.5 0.05 0.05 0.05 0.05

小麦

0.2 0.1 0.05 0.05 0.3 0.3

ねぎ

0.7 0.2 2.5

基準なし

2.0 0.05

にら

0.7 0.05 2.5 1 0.05 0.05

いちご

0.5 0.5 0.5

基準なし

0.3 0.5

りんご

0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5

表 2.3 イミダクロプリドの残留基準値(mg/kg)

 

5),29)-32)

116

AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.2 February 2020

(7)

2

アセタミプリド

食品名 検査数 検出数

件数

%

りんご

71 26 36.6

いちご

90 24 26.7

チンゲンサイ

20 5 25.0

にら

32 4 12.5

こまつな

68 8 11.8

日本なし

73 7 9.6

うめ

21 2 9.5

しゅんぎく

22 2 9.1

もも

33 3 9.1

ぶどう

78 7 9.0

イミダクロプリド

食品名 検査数 検出数

件数

%

ぶどう

86 18 20.9

その他のなす科野菜

21 4 19.0

しゅんぎく

24 3 12.5

はくさい

68 8 11.8

ピーマン

75 7 9.3

すいか

26 2 7.7

なす

170 12 7.1

ほうれんそう

148 10 6.8

きょうな

47 3 6.4

さといも類(やつがしらを含む)

48 3 6.3

クロチアニジン

食品名 検査数 検出数

件数

%

にら

34 7 20.6

日本なし

60 12 20.0

レタス

(サラダ菜及びちしゃを含む)

89 13 14.6

ピーマン

62 6 9.7

ぶどう

86 8 9.3

りんご

78 6 7.7

ねぎ(リーキを含む)

129 9 7.0

こまつな

53 3 5.7

108 6 5.6

チンゲンサイ

21 1 4.8

ジノテフラン

食品名 検査数 検出数

件数

%

りんご

34 9 26.5

28 6 21.4

トマト

54 10 18.5

その他のかんきつ類果実

24 3 12.5

ねぎ(リーキを含む)

42 5 11.9

なす

34 3 8.8

きゅうり(ガーキンを含む)

49 3 6.1

みかん

192 10 5.2

キャベツ

32 1 3.1

かきa

10 5 50.0

チアクロプリド

食品名 検査数 検出数

件数

%

りんご

86 17 19.8

もも

45 5 11.1

いちご

88 7 8.0

ぶどう

77 3 3.9

トマト

201 6 3.0

なす

148 4 2.7

日本なし

64 1 1.6

きゅうり(ガーキンを含む)

196 1 0.5

すもも(プルーンを含む)a

10 3 30.0

西洋なしa

4 1 25.0

チアメトキサム

食品名 検査数 検出数

件数

%

レタス

(サラダ菜及びちしゃを含む)

91 16 17.6

その他の加工食品

157 18 11.5

チンゲンサイ

20 2 10.0

ねぎ(リーキを含む)

111 7 6.3

りんご

84 5 6.0

ピーマン

64 3 4.7

すいか

26 1 3.8

しゅんぎく

27 1 3.7

かき

57 2 3.5

はくさい

60 2 3.3

ニテンピラムb

食品名 検査数 検出数

件数

%

ピーマン

4 1 25.0

各年度で検査数20件以上で検出率の高かった国産作物

a

検出件数が多かったため記載.

b

ニテンピラムが検出されたのはピーマンのみであった.

(厚生労働省「食品中の残留農薬等検査結果」から作成)

表 2.5 平成 24 年度残留農薬等検査における国産農作物からのネオニコチノイド系農薬の検出率.

117

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(8)

示す 34).表 2.5 に示すようにネオニコチノイド系農薬は 野菜類または果実類から高い頻度で検出されていること がわかる.

3.食品中ネオニコチノイド系農薬分析に関連した標準 物質と農薬技能試験

現在,食品中農薬分析の現場では,一度に数百種類の 農薬の分析を行うことができるスクリーニング法の需要 が高まっており 35),日本の通知試験法にも一斉試験  36)として採用されている(通知試験法:厚生労働省医 薬食品局安全部長から通知される試験法.残留農薬試験 においては,これと同等以上の性能を有することが確認 された試験法の利用も認められている.).ここで,スク リーニング法はより多くの種類の農薬を検出することを 目的としており,食品や測定対象である農薬の種類に よっては,分析値にバイアスが生じる場合もある.その ため,このようなスクリーニング法を用いて精確に分析 を行おうとする場合,認証標準物質や技能試験による精 度管理が重要である.本章では,食品中ネオニコチノイ ド系農薬分析に関連する認証標準物質と技能試験の現状 について調査するとともに

NMIJ

が行っている技能試験 の特徴について述べた.

3. 1 残留農薬試験用食品標準物質

ネオニコチノイド系農薬を対象とした食品分析用標準 物質については,European Union Reference Laboratory

(EURL)がキュウリを対象として試料の性状と試料中 農薬の安定性との関係を調査した論文が報告されている  37),頒布は行われていない.そのため,2017 年現在 入手可能な食品中ネオニコチノイド系農薬分析用の食品 標準物質は存在しない.

3. 2 食品中ネオニコチノイド系農薬技能試験

対象農薬としてネオニコチノイド系農薬を含む食品中

農薬類分析の技能試験は国内外の数多くの機関が行って いる.その例を表 3.1 に示す 38)-43).これらの技能試験は,

一般的な技能試験であるため,主催機関による値付けは 行われておらず,参加機関は各参加機関の分析値より統 計的に算出された参照値と自らの分析値を比較すること で,分析能力を評価することになる.このような技能試 験においては,参照値が参加者の用いた分析法や分析者 の技術の影響を大きく受けるため,参照値に偏りを生じ させないためには多様な分析者・分析法によって測定し た分析値が必要となる.

上記のように食品中のネオニコチノイド系農薬は検査 機関での検出率が高く,その分析に利用されている分析 法の精度管理の必要性が高いにも関わらず,精確な分析 値が付与された標準物質または技能試験試料は供給され ていない.

3. 3 NMIJ の技能試験

NMIJ

では 2012 年より,食品中残留農薬類分析の技 能試験を行っている 44)-47).ここで,NMIJの技能試験は 以下に列挙する特徴を有している.特に④および⑤に示 した特徴は 3.2 で示した技能試験にはないものである.

これらの特徴により,実際の検査に近い条件において,

参加者の技能に依存しない精確な分析値を用いて参加者 の分析技能を評価することが可能である.

① 国際規格

ISO/IEC17043 に準拠した運営

② 参加者の技能向上支援を目的としたフォローアップ セミナーの実施

③ 技能試験期間中の対象農薬の安定性と試験試料の均 質性を保証

④ 信頼性の高い分析法によって得られた分析値に基づ く参加者の結果の評価

⑤ 実際に農薬が残留した作物を使用した試験試料の調

国・地域 機関 試験名 対象食品

EU EURL EUPT

野菜・卵・ハチミツなど

英国

FERA FAPAS

果実・野菜・加工食品

米国

AOACI

果実・野菜

日本

JFIC

日中残留農薬検査技能試験a 野菜ジュース

略称;

EURL

European Union Reference Laboratory

FERA

The Food and Environment Research Agency

(英国 食糧環境庁),

AOACI

Association of Official Analytical Chemists International

JFIC

Japan Food Inspection

Corporation

(一般財団法人日本食品検査).

a

JFIC

が日本と中国の検査機関を対象として

2017

年に実施

表 3.1 ネオニコチノイド系農薬を対象物質として含む技能試験例38)-43)

118

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食品中のネオニコチノイド系農薬に関しても上記と同 様に信頼性の高い分析値を提供した技能試験を実施する ことで,分析者の技能向上に貢献できる.

4.ネオニコチノイド系農薬の分析法

一般的な食品中農薬分析の手順を図 4.1 に示す.食品 中農薬分析では,分析試料の形状を均質にした後に,各 種溶媒を用いて目的物質を抽出する.ここで,抽出溶液 には目的物質以外の夾雑物が含まれるため精製操作を 行った後に機器分析法によって最終試料中の目的物質濃 度を測定する.

食品中ネオニコチノイド系農薬の技能試験を行うため に必要な精確な付与値を得るためには,一次標準測定法 を用いてその濃度を測定する必要がある.一次標準測定 法とは「最高の計量学的な質を有している方法であり,

その方法の操作が完全に記述され理解され得られるもの であり,その方法に対しての不確かさを

SI

単位によっ て完全に書き下せるものであり,したがって,その方法 の結果が測定しようとしている(種類の)量の標準を参 照することなしで受け入れられるもの」として物質量諮 問委員会によって定義された測定法であり,化学分析に おいては同位体希釈質量分析法(isotope dilution mass

spectroscopy: IDMS),電量滴定法,重量法,滴定法お

よび凝固点降下法が指定されている 48).この中で食品中 農薬技能試験の濃度値の測定に用いることができる方法

IDMS

のみである.IDMSでは試料および添加したス パイクの質量,目的物質の同位体比とスパイクの同位体 比,そして目的物質とスパイク混合物の同位体比のみに よって定量が可能である 49)

IDMS

を分析法として適用した場合,抽出前の試料に 測定対象物質の同位体標識体を添加すれば,原理的には 測定値は抽出法には依存しない.しかし,実際の分析系 において完全な同位体平衡を実現することは困難であ り,測定対象物質とその標識体の抽出率の差が分析値に バイアスを与える可能性がある.また,食品は複雑な組 成を持つ試料であり,食品中の夾雑物が共抽出され機器 分析測定を妨害する可能性もある.したがって

IDMS

を用いるだけで精確な分析値が得られるとは限らず,抽 出や精製といった操作を高効率に行うことや機器分析測 定の条件を工夫することが必要である.

3.2 で述べたように食品中ネオニコチノイド系農薬の 標準物質の開発もしくは技能試験の値付けを指向して行 われた精確な分析法の開発は

Grimalt

らが検討を行った キュウリ標準物質に対する方法のみである 37).この標準

物質中のネオニコチノイド系農薬濃度の値付けには

IDMS

が用いられたが,図 4.1 に示すような実験スキー ムの詳細な検討は行われておらず,溶媒を用いて抽出し たネオニコチノイド系農薬を機器分析によって直接測定 するという簡単なものであった.そのため,本調査研究 では研究論文として発表された方法を中心に食品中ネオ ニコチノイド系農薬に関する分析法を調査した.

4. 1 抽出法

抽出は複雑な混合物である分析試料より,目的物質を 分離することを目的として行う操作である.しかし,実 際の系においては抽出操作のみで目的物質を単離するこ とはほとんど不可能である.よって分析者は,分析試料 の組成や目的物質の物理・化学的性質を考慮し,なるべ く選択性の高い方法(目的物質の抽出効率が高く,共抽 出される夾雑物の量・種類が少ない抽出法)を採用する ことになる.これと同時に抽出条件における目的物質の 安定性や反応性についても考慮し,最終的に分析目的物 質を抽出溶媒に高い回収率で移動させることが要求され る.ここでは食品中ネオニコチノイド系農薬類分析に用 いられている方法とその特徴を述べた.

4. 1. 1 溶媒抽出法(Solvent Extraction)

溶媒抽出法とは,目的物質を分析試料から溶媒へ溶出 させる操作である.溶媒抽出は古くから用いられている 抽出法であり,実生活における茶やコーヒーを得る操作 も一種の溶媒抽出といえる 50).食品中ネオニコチノイド 系農薬分析法においては多くの場合,アセトニトリル,

アセトンおよびメタノールなどの親水性有機溶媒または これらと水との混合溶媒が抽出溶媒として用いられてい

 37),51),52)

溶媒抽出において溶媒の選択は重要であり,目的物質

試料調製

抽出

精製

機器分析

目的物質の抽出

夾雑物の除去

目的物質の定量 試料の均質化

図 4.1 食品中農薬分析の手順.

119

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(10)

の化学的性質を考慮する必要がある.例えば極性の高い ネオニコチノイド系農薬に対して極性の低い有機溶媒を 抽出溶媒として用いても抽出効率は低くなる.また,抽 出効率だけでなく目的物質の分解性も溶媒によって異 な っ て お り, 例 え ば ニ テ ン ピ ラ ム の 代 謝 物 で あ る

CPMA

はアセトンや酢酸エチル中で不安定であること が報告されている 53).最近では水への溶解度が高いネオ ニコチノイド系農薬に対して,水を抽出溶媒として用い る方法が報告されており,ネオニコチノイド系農薬の抽 出率が向上するだけでなく,有機溶媒を用いた場合と比 較して,共抽出される疎水性夾雑物質の量が減少するこ とが利点として挙げられている 54)

農作物に残留したネオニコチノイド系農薬は植物体内 まで浸透しているため,これらの溶媒抽出法ではホモジ ナイザーおよび超音波の使用または抽出系の加温が促進 法として用いられている.

4. 1. 2 加圧流体抽出法

(Pressurized Fluid Extraction: PFE)

加圧流体抽出法は高温高圧条件下の溶媒を用いて目的 物質を試料から抽出する方法である.PFEでは系内を 高圧に保つため,沸点以上の温度においても溶媒が液体 状態で存在する.高温に保たれた溶媒は常温に比べて粘 性が低下し,試料内部における拡散速度が上昇すること により,目的物質の試料からの脱離が促進され,抽出効 率が向上すると考えられている 55)

PFE

は溶媒の加熱を伴うため熱安定性の低いネオニ コチノイド系農薬の抽出法として採用された例は少な い.しかし,Xiaoらは水を抽出溶媒として用いた加圧 流体抽出法(亜臨界水抽出)によって 120 °

C,10 MPa

の条件で 7 種類のネオニコチノイド系農薬をウナギから 効 率 よ く 抽 出 し た 結 果 を 報 告 し て い る 56). ま た,

Campbell

らはメタノールとアセトニトリルの混合溶媒

を 100 °

C

で 10 MPaまで加圧することで,土壌からチア メトキサムを効率よく抽出した結果を報告している 57) 上記の例のように,分解温度に注意し操作を行うこと で,PFEも有効な方法となると考える.

4. 1. 3 ソックスレー抽出法(Soxhlet Extraction)

元々は食品中の脂質を抽出するための手法であった が,現在は食品分析や環境分析の現場においてポリ塩化 ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl: PCB)など多く の化学物質に対して用いられている 50),58).一般に極性の 低い有機溶媒を抽出溶媒として用い,抽出溶媒が繰り返 し分析試料と接触することで抽出率の向上が望める方法 である 59).抽出に長時間を要することや使用溶媒量が比 較的多いことが欠点として挙げられる.

ソックスレー抽出法が食品中のネオニコチノイド系農 薬分析に用いられた例は少ない.Moghaddamらは土壌 からのイミダクロプリドの抽出率をソックスレー抽出法 と溶媒抽出法で比較しており,ネオニコチノイド系農薬 の浸透が生じない土壌試料であっても,溶媒抽出法が ソックスレー抽出法よりも高い抽出効率を示すことを報 告している 60).このように,極性の低い有機溶媒を用い るソックスレー抽出法は,親水性化合物であるネオニコ チノイド系農薬の抽出にはあまり適していないと言え る.

4. 1. 4 マイクロ波抽出法

(Microwave-assisted Solvent Extraction: MASE)

MASE

は,試料にマイクロ波を直接放射し,抽出系 内 を 高 温 に す る こ と で 抽 出 効 率 を 高 め る 方 法 で あ

 61), 62).マイクロ波放射による加熱の利点としては,

試料および溶媒を直接加熱できることであり,通常の ヒーターを用いた加熱法と比べて昇温時間が格段に短い ことが挙げられる.MASEにはマイクロ波を吸収する 極性の高い溶媒もしくはその混合溶媒が用いられてい る.ここで,マイクロ波を吸収する水を多量に含む試料 の抽出においては試料が局所的に加熱され目的物質の抽 出率に影響するため,再現性良く抽出を行うためには試 料中の水分量に注意する必要がある 62).また,マイクロ 波放射による有機物質の分解はあまり生じないとされて いるが 55),系内を加熱するため目的物質の熱安定性を考 慮し,操作を行う必要がある.

Zheng

らは超音波処理と組み合わせたマイクロ波抽出

法において抽出系内の温度を 40 °

C

に抑えることで,植 物中のネオニコチノイド系農薬の抽出に成功してい  63).よって,マイクロ波抽出法も

PFE

と同様に抽出 系内の温度を分解温度以下にすることで,ネオニコチノ イド系農薬の抽出に適用できると考えられる.

4. 1. 5 超臨界流体抽出法

(Supercritical Fluid Extraction: SFE)

SFE

は抽出溶媒として超臨界流体を用いる抽出法で ある.超臨界流体としては,臨界点の達成が容易であり,

有害性が低く不活性な二酸化炭素(CO2)が一般に用い られている.SFEは,溶媒の種類だけでなく圧力,温 度およびモディファイアの種類や添加量によって容易に 抽出の選択性を変化させることができる.また,抽出後 の溶媒を常温常圧に戻すことで超臨界流体が揮発するた め,抽出と試料の濃縮を同時に行えることや超臨界流体 は拡散係数が大きく液体と比べて抽出効率が高いことか ら,SFEは天然物質の抽出などに多く用いられてい  64)-67)

120

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(11)

SFE

は,超臨界流体の密度が低い条件で抽出を行う ことができる揮発性の高い物質に対して抽出のみで高い 選択性を発揮する.しかし,揮発性が低い物質に対して は,超臨界流体の密度が高い条件で抽出を行う必要があ り,有機溶媒を用いた抽出法と同じように,マトリクス 成分が共抽出される 64).また,超臨界流体

CO

2に対す る水の溶解度が低いため,試料中の水分量が目的物質の 抽出効率に影響する場合もあり注意が必要である.

SFE

は,抽出条件の設定が難しく,装置が高価であ ることなどの問題点も存在するが,装置による抽出操作 の自動化と超臨界流体クロマトグラフィーとのオンライ ン接続によるハイスループット化 67)も進んでおり,食品 分析や残留農薬分析分野においても利用が増えている方 法である.

4. 2 精製法

食品分析に限らず,生物や環境試料中の化学物質を分 析する際には抽出後の精製操作が必要である.これは,

分析試料に含まれる夾雑物質や妨害物質と分析対象物質 を分離することを目的とするとともに,抽出操作と同様 に分析対象物質の損失をできるだけ少なくすることも必 要とされる.ここでは,食品中ネオニコチノイド系農薬 分析に適用しうる精製法について概説する.

4. 2. 1 液液抽出法

(Liquid-Liquid Extraction: LLE)

液液抽出法は互いに交じり合わない二つの液相間に溶 質が分配する現象を利用した物質の分離方法であり,生 体試料,環境試料中からの微量物質の分離や工業的規模 における金属の分離など幅広く利用されている.通常 は,水と有機溶媒が用いられ,塩析を利用した相分離な ども利用されている 50).溶媒の使用量が多いことが欠点 であるが,近年では溶媒使用量を減らすことや抽出と濃 縮を同時に行うことを目的として,マイクロリットル単 位の液滴によって目的物質を抽出するマイクロ液滴抽出 法なども開発されている 68)

食品中農薬分析においては水とアセトニトリルを用い た液液抽出法が一斉分析の通知法として用いられてお り,多くのネオニコチノイド系農薬の分析に関しても同 様の系が用いられている.しかし,液液抽出のみで十分 な精製効率が得られることは少なく,以下に述べる固相 抽出法などと併用する必要がある.

4. 2. 2 固相抽出法

(Solid Phase Extraction: SPE)

SPE

は抽出剤と呼ばれる粒子をミニカラムに充填し,

粗精製溶液を通液することで目的物質の精製を行う方法

である 50),69).液液抽出の抽出操作を連続的に繰り返すこ

とと同様な効果があるため液液抽出に比べて精製(分 離)効率が極めて高いこと,多数のカラムを用いて同時 に多くの検体を処理できることが特徴である.操作に時 間がかかることや分析の再現性を得るために作業者にあ る程度の熟練度が必要であることなどが問題点として挙 げられるが,これらの問題点を解決するために操作を自 動化できる装置も市販されている.

SPE

の分離選択性は抽出剤と溶媒の組み合わせによっ て決定する.抽出剤は目的物質や分析試料に合わせて多 くの種類の抽出剤が開発されており,食品中農薬分析に おける精製にはオクタデシルシリルシリカ(ODS),シ リカ,またはグラファイトカーボンなどが汎用されてい  70)-72).日本国内の通知法である食品中農薬の一斉分析 法では,ODSとカーボン /NH2シリカを用いた

SPE

併用されており 73),ネオニコチノイド系農薬分析法にお いても様々な固相抽出剤が用いられている 51)-53),74)

4. 3 簡易分析法

従来の食品中農薬分析では,図 4.1 に示したような工 程を対象農薬ごとに検討することで分析法の開発が行わ れてきた.しかし,原則として全ての農薬が検査対象と なった 2006 年以降,数百種類の農薬に適用可能で迅速 かつ簡易に分析を行うことができる簡易スクリーニング 法の需要が高まっている.EUや米国では,目的物質の 抽出と精製を同時に行う

QuEChERS

法が公定法として 定められており,研究現場ではさらなる高性能化に関す る研究開発が進んでいる(公定法:国または公共的組織 などによって定められた化学分析・試験方法.).ここで

は,この

QuEChERS

法について概説する.

4. 3. 1 QuEChERS 法

QuEChERS

法は 2003 年に

Anastassiades

らによって 開発された簡易分析法であり,この名称は,Quick(迅 速),Easy(簡単),Cheap(安価),Effective(効果的),

Rugged(堅牢性),Safe(安全)の頭文字に由来してい

 75).食品からの農薬の抽出と塩析を用いた液液抽出に よる粗精製を同時に行ったのちに,分散固相抽出による 精製を行う方法であり,EUや米国の公定法に採用され ている.ここで,QuEChERS法に利用されている分散 固相抽出は連続的に抽出を行う固相抽出法と比較して精 製効率が低下するという問題がある.そこで研究開発の 現場では,抽出溶媒,添加する塩の種類,分散固相抽出 剤の種類などを検討することで,精製効率の向上が図ら れ て い る 76)-78). ま た, こ の 欠 点 を 補 う も の と し て,

QuEChERS

法にSPEを組み合わせた

STQ法が開発され,

121

産総研計量標準報告 Vol.10, No.2 2020年 2 月

(12)

食品や環境試料の分析に用いられている 79)

4. 4 機器分析法

食品中農薬分析では,上記の抽出・精製操作によって 得られた最終試料中の農薬濃度をガスクロマトグラ フィー(Gas Chromatography: GC)や高速液体クロマト グラフィー(High Performance Liquid Chromatography:

HPLC)といった機器分析法によって測定する.日本の

通知法ではアセタミプリド 80)とニテンピラム 81)の個別試 験法として,GCを機器分析法として指定している.ま た,「GC/MSによる農薬等の一斉試験法(畜水産物)」 72)

の分析対象化合物にチアクロプリドが含まれている.し かし,2.2 で述べたようにネオニコチノイド系農薬は蒸 気圧が低く,熱分解性も高い.一般に水溶性および熱分 解性が高く,揮発性の乏しい物質を高温における測定を 伴う

GC

を用いて分析することは望ましくない 53).その ため研究現場におけるネオニコチノイド系農薬の分析 は,溶液のまま測定を行うことができる

HPLC

法を用 いて行われている.そこで本調査研究では,

HPLC

に関 して調査を行った.

4. 4. 1 高速液体クロマトグラフィー

(High Performance Liquid Chromatography:

HPLC)

HPLC

は固定相として固体粒子を充填したカラムに高 圧ポンプを用いて移動相を通液し,カラム入口から試料 を注入し固定相との相互作用の差によって物質の分離を 行う方法である.カラムから溶出した物質をカラム出口 に接続した検出器により連続的に検出し,カラムからの 溶出時間の違いで物質の同定を行う.HPLCの分離選択 性はカラム充填剤と移動相溶媒の種類によって決定し,

様々な種類のカラムが市販されている.また近年では,

HPLC

を さ ら に 高 性 能 化 し た

UHPLC(ultra high pressure liquid chromatography) の 利 用 が 進 ん で い

 82).UHPLCは,HPLCにおいて 3

-

5 μm程度であった カラム充填剤の粒子径をさらに小さくする(1.7

-

2.6 μm 程度)ことで分離効率の飛躍的な向上を達成し,分析時 間の大幅な短縮や溶媒量の削減をもたらした.

農薬を対象とした

HPLC

分析では紫外可視吸光光度 計,蛍光検出器および質量分析計(MS)などの検出器 が利用されている.ここで,多くの農薬は紫外・可視領 域に光吸収帯を有するため,紫外可視吸光光度計は汎用 検出器として利用されているが,構造が類似している物 質に対して選択性が低いという問題がある.また,蛍光 検出器は選択性の高い高感度検出が可能であるが,蛍光 を示さない物質に対しては誘導体化が必要である等の問

題点がある.これらに対して,MSは検出感度が高く,

物質を質量数で分離することが可能なため,HPLCの検 出器として利用することで,多くの農薬に対して高感度 かつ高選択的な分析を行うことができる.上記の特性に より,HPLC/MSは日本の通知法だけでなく海外の公定 法など多くの食品中農薬分析法において機器分析法とし て用いられている 72).また,IDMSを適用する上でも同 位体を識別するために

MS

の利用が必須となる.一方で,

HPLC/MS

では目的物質の

MS

による検出が,夾雑物に

よって妨害されることが報告されている 83).そのため,

MS

の前段階において妨害の原因となる夾雑物を除去す ることや,HPLCによる分離や

MS

による検出の際に夾 雑物の妨害を取り除く工夫が重要となる 84)-88) 5.今後の展望

食品中ネオニコチノイド系農薬技能試験の実施に向け て,信頼性の高い分析値を付与するために必要な分析法 の開発や対象としたい食品および農薬について以下に述 べる.

5. 1 食品中ネオニコチノイド系農薬の分析法開発 本調査研究では,食品中ネオニコチノイド分析につい て,4.1 では抽出法を 4.2 では精製法について調査した.

これらの方法の中から適した方法を選択し,HPLC/MS

(UHPLC/MS)法と組み合わせることで技能試験の値付 けに用いる分析法を構築する.また,分析法の特性によ る分析値の偏りを避けるためにも複数の分析法によって 値付けを行う予定である.

5. 2 今後の技能試験の対象について 5. 2. 1 対象食品について

表 2.5 に示すようにネオニコチノイド系農薬は野菜類 または果実類の検査において高い検出率を示しているこ とがわかっている.そこで,表 2.5 に示した野菜類もし くは果実類から候補食品を選定し,技能試験を行う予定 である.将来的には,農産物だけなく畜産・加工食品に ついても同様の調査を行うとともに分析現場でのニーズ 調査を行い候補食品の選定を行う.

5. 2. 2 目的物質について

農薬の中には,ネオニコチノイド系農薬と同様に農作 物に対する高い浸透性を示すものが多くある(表 2.4 中 のフロニカミド等).浸透性農薬は農作物を構成する夾 雑物と強く結合し,分析法の特性や分析者の技術が分析 値に影響をおよぼすことがあるため,技能試験を行うこ 122

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表 3.1 ネオニコチノイド系農薬を対象物質として含む技能試験例 38) -43) .

参照

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