001-023_HASO01責B.mcd Page 1 17/09/04 10:52 v6.10 第 1 章
反応速度と速度式
本章ではまず,反応速度の基本的な考え方を学ぶ.反応速度を反応物濃度あ るいは生成物濃度の時間変化をもとに定義したのち,反応速度を反応物の濃度 の関数として表した反応速度式を導入する.反応速度式は,反応次数と反応速 度定数という,反応速度を特徴付ける重要な要素から成り立っている.代表的 な例として,反応次数が
1
の反応 (1次反応) および2
の反応 (2次反応) を具 体的に取り扱う.さらに,反応速度定数の温度依存性を扱う.最後に,反応進 行度を用いた反応速度の表現法について触れる.1.1 化 学 反 応 と 速 度
化学反応は,化学種が結合の解離や新たな結合の生成を通じて異なる化学種 に変化する過程である.化学反応には,反応によって変化する化学種,すなわ ち反応物と,反応の結果生成する化学種,すなわち生成物が存在する.反応物 から生成物への変化は,一般的に次のように矢印を用いて表現される.
a A + b B + c C + … P + q Q + … (1.1.1) ここで矢印の左辺にある A, B, C などの化学種が反応物,右辺にある P, Q な どの化学種が生成物である.また, a , b, c, , q, … は,反応により消費され る反応物および生成する生成物の物質量 (分子数, モルなど) の比を表し,
化学 量論係数とよばれる.化学反応の中には,1 秒にも満たない短い時間内に完結してしまうような速 いものから,何百年もかけてゆっくりと進行するものまで様々ある.このよう な反応の速さの違いを定量化したものが反応速度である.一般的に反応速度 は,反応に伴って単位時間あたりに減少する反応物の濃度 (減少速度) あるい は単位時間あたりに増加する生成物の濃度 (増加速度) で表される.
1
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反応速度が具体的にどのように表さ れるか,まず,単純な反応
2 A P (1.1.2) を対象にして考えてみよう.いま,反 応開始後の A の濃度 [A] を時間間隔 Δt おきに測定したところ,図 1.1 の 白丸のような結果が得られたとする.
A は反応物であるので,この図のよう に [A] は時間とともに減少する.こ の反応 (1.1.2) の反応速度を A の減 少速度として表してみよう.上述したように,減少速度は,単位時間あたりに 減少する反応物の濃度である.まず, 図 1.1 で隣接する 2 つの測定点に着目し,
時間 Δt の間の A の濃度変化を Δ [A] で表すと,単位時間あたりの [A] の変 化量は,
単位時間あたりの [A] の変化量 = Δ [A]
Δt (1.1.3) で表される.これは図 1.1 で隣接する 2 つの白丸を結んだときにできる直線の 傾きに相当する.これを A の減少速度としたいところであるが,A は時間と ともに減少しているので, Δ [A] は常に負であり,式 (1.1.3) で与えられる量 も負である.減少速度が大きいときは,この負の量の絶対値が大きいことを意 味するので,A の減少速度としては次のように式 (1.1.3) の右辺に負の符号を つけた正の値として定義する方が都合がよい.
A の減少速度 = − Δ [A]
Δt
このようにして,図 1.1 で隣接する 2 つの測定点から,A の減少速度を求める ことができるが,個々の測定点の間で,[A] が一定の減少速度で直線的に減少 しているわけではない.測定の時間間隔をもっと短くして,測定点を増やして いくと,図 1.2 (a) のように変化はより細かくなり, Δt が無限小の極限では,
第 1 章 反応速度と速度式 2
[A]0
0 0
反応時間 tA
の濃度 [A
]Δ
[A]Δt
図
1.1
反応物濃度の時間変化の例001-023_HASO01責B.mcd Page 3 17/09/04 10:52 v6.10
図
1.2 (b) に示すような曲線となる.このとき, ある時間 t
1における A の減少 速度は,この曲線の接線の傾きに相当し,次式のような時間に対する微分の形 で表される.
A の減少速度 = − d[A]
dt
一方,反応速度は生成物 P の増加速度で表すこともできる.上述の A の減 少速度の場合と同じように, P の増加速度も最終的に P の濃度 [P] の時間微分 で表される.
P の増加速度 = d[P]
dt
生成物の場合は,反応時間とともに増加するので,負の符号をつける必要はな く,[P] の時間微分がそのまま P の増加速度となる.
このようにして定義された A の減少速度と P の増加速度は同じ値となるで あろうか.いまの例を含めて,一般的に反応物の減少速度と生成物の増加速度 が等しくなるとは限らない.しかし,これらの間には化学量論関係から導かれ る比例関係が成り立つ.反応時間 t = 0 における A の濃度 (これを A の初濃
度あるいは
初期濃度という) を [A]
0,反応時間 t における A の濃度を [A] で 表すと,反応時間が 0 から t の間に反応した A の濃度 x は,
1.1 化学反応と速度 3
t
1(a) (b)
0 0
反応時間 t0
0
反応時間 t[A]0 [A]0
A
の濃度 [A
]A
の濃度 [A
]図
1.2
反応物濃度の時間変化.(a) 時間間隔Δt
を短くした場合および,(b)
Δt
を無限小までした極限の場合042-064_HASO03責B.mcd Page 2 17/09/04 11:11 v6.10 第 3 章
定常状態近似とその応用
反応機構が複雑な複合反応では,その速度式を解析的に解くことが難しくな る.しかし,個々の素反応の時間スケールに応じて適切な近似を行うことで,
複合反応の総括反応速度式を比較的容易に導ける場合が多い.中でも定常状態 近似は,複合反応の解析に広く用いられている有力な方法である.本章では,
定常状態近似の基本を学んだ上で,単分子反応および再結合反応という
2
つの 代表的な複合反応の解析に用いる.さらに,定常状態近似を大気反応と連鎖反 応に応用し,その有用性を確かめる.3.1 定 常 状 態 近 似
第 2 章で学んだように,複合反応の反応機構は複数の素反応の組み合わせに より記述される.もし,反応機構の中に化学種 X を生成する素反応と消失す る素反応がある場合,X の濃度の時間変化はこれらの素反応による生成速度と 消失速度の差で表される.
d[X]
dt = 生成速度 − 消失速度 (3.1.1) X を生成する素反応が複数あれば,生成速度はそれらの速度の総和になる.消 失速度に対しても同様である.これまで扱ってきた例からわかるように,消失 速度は化学種 X の濃度に依存した何らかの関数で表されることが多い.一方,
生成速度は [X] の関数とは限らない.むしろ [X] とは無関係に変化する場合 が多い.したがって式 (3.1.1) は一般的に次のように書くことができる.
d[X]
dt = ∑
i
P
i− ∑
j
L
j([X]) (3.1.2)
ただし, P
iは生成反応 i による X の生成速度を, L
j([X]) は消失反応 j による
42
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X の消失速度をそれぞれ表す.L
j([X]) は, 消失速度が [X] の関数であること を意味しており,消失反応が X に対する 1 次反応であれば,1 次反応速度定数
1jを用いて L
j([X]) =
1j[X] で表され,X に対する 2 次反応であれば, 2 次 反応速度定数
2jを用いて L
j([X]) =
2j[X]
2で表される.
最も単純な場合として, 生成速度が時間によらない一定値 P
0で, 消失反応が X に対する 1 次反応の場合を考えよう.この場合,式 (3.1.2) は次のような形 になる.
d[X]
dt = P
0−
1[X] (3.1.3) ここで,
1は消失反応の 1 次反応速度定数である.P
0−
1[X] = x とおくと,
[X] = P
0− x
1, d[X]
dt = − 1
1dx
dt から,式 (3.1.3) は,
− 1
1dx dt = x
と書ける. t = 0 から t,x = x
0から x で積分して,
0dx
x = −
1
0tdt ln x
x
0= −
1t
x = x
0exp( −
1t )
が得られる.X の初濃度を [X]
0とすると,x
0= P
0−
1[X]
0より,
P
0−
1[X] = (P
0−
1[X]
0) exp( −
1t ) となり,これを移項,整理して最終的に
[X] = P
0
1− P
0−
1[X]
0
1exp( −
1t ) (3.1.4) が 得 ら れ る.右 辺 第 1 項 は 一 定 値,第 2 項 は t = 0 で の 初 期 値 (P
0−
1[X]
0)/
1から指数関数的に減衰し,これらの差が [X] となる.図 3.1 に,[X] および式 (3.1.4) の右辺第 1 項,第 2 項の時間変化を示す.第 2 項の 減衰に対応して [X] が t とともに増加し, P
0/
1に漸近していくことがわかる.
3.1 定常状態近似 43
042-064_HASO03責B.mcd Page 4 17/09/04 11:11 v6.10
このように時間が充分たつと,[X]
はほぼ一定値となるが,これは X の 生成が止まったわけではなく,X の 生成速度と消失速度が等しくなって,
見かけ上 [X] が変化しなくなったこ とを意味する.このような状態を定
常 状 態( steady state ) と い う.図 3.1 の縦軸を
1倍すると,破線は X の生成速度 P
0を示すことになり,実 線は X の消失速度
1[X] を示すこと になる.一定の生成速度に対して,
消失速度が時間とともに増加していき,最終的に生成速度と等しくなることが わかるであろう.
定常状態における X の濃度 [X]
SS[X]
SS= P
0
1を式 (3.1.3) に代入すると,
d[X]
dt = P
0−
1× P
0
1= 0
となり, 予想通り生成速度と消失速度がつりあって [X] の時間変化が 0 となっ ていることが確かめられる.逆に,[X] が定常状態であるという仮定から出発 すると,式 (3.1.3) は,
d[X]
dt = P
0−
1[X] = 0
とおけて, ここから, 定常状態における X の濃度が [X]
SS= P
0/
1であること が容易に求められる.このように定常状態を仮定して時間微分 = 0 とおき, 定 常状態における化学種の濃度を得ることを
定常状態の近似という.化学種が定 常状態に至るまでに要する時間は, その化学種の消失反応の速度定数で決まる.
第 3 章 定常状態近似とその応用 44
[X]
[X]0
P
0k
1P
0k
1P
0-k[X]1k
1X
の濃度第1項 =
第2項 =
exp
(-k1t)
反応時間 t
0 0 τ 4τ
図
3.1
式 (3.1.4
) の右辺第1
項,第2
項,および [X
] の時間変化101-119_HASO06責B.mcd Page 10 17/09/04 11:35 v6.10
と考えてもよい (
図6.11 ).すると,標的粒子 の円の面積は,
σ
c= π b
max2(6.3.2) となる.入射粒子の中心が,この円の中に入れ ば衝突が起こる.この面積のことを衝突断面積 という.衝突断面積が大きいほど,衝突が起こりやすい.この 「断面積 σ」 と いう量は,反応の起こりやすさを表す量としても,よく用いられる.
6.4 衝 突 頻 度
これまでに, 標的粒子は止まっていて, 入射粒子が v
rで標的に対して入射す るとしてもよいこと, また標的粒子が衝突断面積 σ
cの大きさをもっていて, そ のなかに入射粒子の中心が入れば衝突が起こることを説明した.単位時間あた りに粒子が何回衝突するかを表す量を衝突頻度という.これまで得られた値を 用いて, 粒子 1 と粒子 2 の衝突頻度 Z
12を求める.1 個の標的粒子について, 衝 突断面積を底面,相対速度の大きさを 高さとする円筒を考える (図 6.12 ).
この円筒の中に入射粒子がいれば,単 位時間の間に標的粒子に衝突するはず である.一方,円筒の外の粒子はそも そも的外れな位置にいるか,単位時間 の中で標的に到達できない.円筒の体 積は σ
cv
rであるので, 入射粒子の数密 度を N
2とおけば,単位時間あたり,1 個の標的粒子についての衝突頻度は
Z = σ
cv
rN
2(6.4.1) となる.さらに,標的粒子が数密度 N
1で存在すれば,単位体積あたり粒子 1 と粒子 2 の衝突頻度は
第 6 章 衝突と反応 110
衝突断面積
b
maxσ
c =πb
max2図
6.11
衝突断面積v
r入射粒子
衝突断面積
σ
c= πb
max2図
6.12
衝突頻度の算出101-119_HASO06責B.mcd Page 11 17/09/04 11:35 v6.10
Z
12= σ
cv
rN
1N
2= π b
max2v
rN
1N
2(6.4.2) で与えられる.
化学反応の反応速度 v は,単位時間あたり,単位体積あたりに反応する分子 の数に等しい.衝突すれば必ず反応すると仮定すれば,式 (6.4.2) は二分子素 反応の反応速度に等しい.
6.5 反 応 断 面 積
現実には,衝突の仕方によって反応する場合としない場合がある.実際に反 応に効いてくるのは,(重心の運動ではなく) 相対運動の運動エネルギー ε
rで ある.粒子 1 と粒子 2 の間の相対運動の運動エネルギーは,相対速度の大きさ v
rと換算質量 μ( ≡ m
1m
2/(m
1+ m
2)) (付録 A.1 参照) を用いて,
ε
r= 1
2 μ v
r2(6.5.1) で与えられる.充分な運動エネルギーをもって衝突すれば反応は進行し,エネ ルギー不足であれば反応は進行しない.反応のしやすさを断面積で表せば,反
応断面積は,衝突断面積よりも小さく,運動エネルギーによって変化する.そこで,反応断面積の ε
r依存性を σ(ε
r) と書くことにする.
反応断面積を求めるための,一番簡単なモデルとして,剛体球を考える.こ れまで考えてきたように,粒子は相対速度 v
r,衝突径数 b で入射する.標的粒 子にぶつかったとき,粒子の中心を結ぶ方向にのみ力が働く.この方向の運動 エネルギー ε
cは,図 6.13 (b) から,
ε
c= 1
2 μ v
c2= 1
2 μ(v
r2cos
2θ) (6.5.2) である.ここで, v
cは,粒子の中心を結ぶ方向の速度成分である.角度 θ につ いては,
sinθ = b
b
max(6.5.3)
6.5 反応断面積 111
101-119_HASO06責B.mcd Page 12 17/09/04 11:35 v6.10
cos
2θ = 1 − sin
2θ = 1 − b
maxb 2
(6.5.4) の関係が成り立つので,これを代入 すれば,
ε
c= 1
2 μ v
r2 1 − b b2
max2
= ε
r 1 − b b2
max2
(6.5.5) となる.式 (6.5.5) から反応の際に 有効な運動エネルギー ε
cは,b = 0 であれば ε
rに等しい. b が大きくなるに従って ε
cは小さくなり, b = b
maxで 0 になる.つまり標的に対して 「ど真ん中」 に当たれば相対エネルギーに等し いエネルギーが衝突方向に使え,かするように衝突する場合は,反応の際に効 いてくる運動エネルギー ε
cは小さくなる.したがって,衝突した場合の反応 の確率 P は,ε
rと b によって変化する.そこで,それを P(ε
r, b) とおく.
最も単純なモデルは, この反応が進行するために, あるしきいエネルギー ε * があって,ε
cがこれよりも大きければ 必ず反応し,小さければ全く反応しな いと考える.つまり,
ε
c≥ ε * のとき P(ε
r, b) = 1 (6.5.6) ε
c< ε * のとき P(ε
r, b) = 0
(6.5.7) である.図 6.14 を参照すれば,衝突 径数 b * でしきいエネルギー ε * にな るので,
第 6 章 衝突と反応 112
b
b b
max標的粒子
(a) 入射粒子
(b)
v
rv
rv
cθ θ
図
6.13
粒子間の衝突の関係衝突径数 b
0 b
max中心方向のエネルギー εc
εr
0
ε*b
* 反応図
6.14
粒子の中心を結ぶ方向のエネ ルギーと衝突径数の関係120-136_HASO07責B.mcd Page 2 17/09/04 11:57 v6.10 第 7 章
固体表面での反応
気相の分子が固体の表面に吸着してから反応するケースは極めて多い.とく に,実用でもよく使われる不均一触媒では,固体の表面が反応の場所となる.
この章では,気相の分子が固体表面に吸着し,反応したのちに離れていくとい う一連の過程に注目する.
7.1 固体表面への分子の衝突
固体表面に気体が接しているとき,気相分子は表面にどれくらいの頻度で衝 突するかを考えよう.表面に垂直な方向を z 軸とする.気体分子運動論より,
粒子の z 軸方向の平均速度は
v
= 0v
f (v
)dv
=
BT 2πm = 1
4 v (7.1.1) である
†1.
表面の面積を S とおけば,単位時間あたりに表面 S に衝突する頻度は 1 4 vS の円柱の中にある分子の数に等しい.単位面積あたりで表面に衝突する頻度 Z は,S = 1 を代入し,気相分子の数密度を N とすれば,
Z = 1
4 vN (7.1.2) になる (図 7.1 ).気相分子の数密度 N は, 分子数を体積で割ったもので, 容器 中の気体の圧力を とすれば,気体の状態方程式から
N = N
An V =
BT (7.1.3) 120
†1
例題 6.2,6.3 を参照.
120-136_HASO07責B.mcd Page 3 17/09/04 11:57 v6.10
となる.ここで N
Aはアボガドロ定数で ある.これらをまとめれば
Z = 1 4 vN =
BT 2πm
BT
=
2π m
BT (7.1.4) となる.例として固体表面が容器中に あって,その容器の中に窒素分子 (m =
4.65 × 10
26kg) が,圧力 1 × 10
5Pa,温度 300 K であるとすれば,
Z =
2π m
BT = 1 × 10
5Pa
2 × 3.14 × 4.65 × 10
26kg × 1.38 × 10
23J K
1× 300 K
= 2.87 × 10
27m
2s
1(7.1.5) となる.固体表面の原子を球と見なして,原子半径からその円の面積を計算す ると,1 つの原子の面積はおよそ 5.0 × 10
20m
2になる
†1.したがって,1 原 子あたりの衝突頻度 z は
z = 2.87 × 10
27m
2s
1× 5.0 × 10
20m
2= 1.4 × 10
8s
1(7.1.6) と, 激しい勢いで気相中の分子が固体表面上の原子に衝突していることになる.
7.2 表 面 吸 着
固体表面での反応の最も特徴的な点は,分子が表面に
吸着,表面から脱離す ることである.ある温度 T で,分子が 「自然に」 表面に吸着するならば,吸着 によるギブズエネルギー変化 ΔG
adsは負になるはずである
†2.
ΔG
ads= Δ H
ads− TΔ S
ads< 0 (7.2.1) ここで吸着とは表面に分子が付く過程なので, 「ばらつき」 が減少することにな り, 吸着にともなうエントロピーの変化 Δ S
adsは負である.それでも ΔG
adsが
7.2 表 面 吸 着 121
†1
例えば, 周期表の第 4 周期の遷移元素 Sc 〜 Cu の原子半径は 1.44 〜 1.17 ×10
10m で,
その面積は 6.51 〜 4.30× 10
20m
2となる.
†2
付録 A.2 参照.
S = 1
数密度 N1 4 v
図
7.1
表面に対する分子の衝突120-136_HASO07責B.mcd Page 4 17/09/04 11:57 v6.10
負になるためには,吸着によるエンタルピー変化 ΔH
adsが, エントロピーの項 を打ち消す程度に負の値をもつ,つまり表面に付着することで充分に安定化す ることが必要である.
表面への分子の吸着には,物理吸着と化学吸着がある.物理吸着は,分子と 表面の間にはたらく分子間力によるもので,その相互作用は小さく, − 0.2 eV
< Δ H
ads< − 0 eV ( − 20 kJ mol
1< Δ H
ads< − 0 kJ mol
1) が一般的である.
一方,化学吸着は,分子と表面の間に化学結合を形成する場合である.この場 合 − 8 eV < Δ H
ads< − 0.5 eV ( − 800 kJ mol
1< ΔH
ads< − 50 kJ mol
1) に 達する.
表面への分子の物理吸着は,分子と表面の間に弱いながらも引力が働くこと による.分子が極性 (双極子) をもつとすれば,固体表面の電荷分布がそれに 応じて変化して,互いに引き合う引力となる.一方,分子が無極性であったと しても,分子と表面の電子雲が偏ることによって引力 (分散力) が働くことに
なる.図 7.2 (a) は,分子と表面の距
離 R に対する相互作用エネルギーを 表す.分子が表面に近づくに従って,
エネルギーが低下して安定化するが,
極小値を超えるとエネルギーは急激に 増加する.つまり,物理吸着としては これよりは近づけない.この極小値を とる R が,物理吸着時の表面と分子 の距離となる.
化学吸着は,原子間に結合を形成す るため,もっと近い距離でエネルギー が急激に変化する.化学吸着の方が,
物理吸着よりも吸着エンタルピーの絶 対値が大きい (図 7.2 で曲線のへこみ の大きさに相当する) ために,エネル 第 7 章 固体表面での反応
122
エネルギーエネルギー
0
(a)
(b)
0
距離 R
距離 R
図