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(1)

共同相続人間の相続分譲渡について

その他のタイトル Sur la cession des droits successifs entre les coheritiers

著者 千藤 洋三

雑誌名 關西大學法學論集

巻 41

号 3

ページ 763‑796

発行年 1991‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/1921

(2)

共同相続人間の相続分譲渡について

千 藤 洋

(3)

五 四 三 ニ ー

共同相続人間の相続分譲渡の可否

相続分譲渡でいう相続分の意味

相続分譲渡の要件と効果

相続分譲渡方法と他の類似の方法との比較

相続分譲渡を原因とした登記上の問題点

(4)

共同相続人のうちのある者が他の共同相続人に自己の相続分を譲渡する︑という事例が実務上しばしば見受けら

れる︒その理由として︑遣産の取得を潔しとしないとか遺産争いの対立に巻き込まれることを望まないといった点が

( 1 )

2

)  

指摘されている︒遺産分割をスムーズに行うため共同相続人の数を減らす目的もある︒しかし︑遺産の分割防止︑あ

( 3 )  

るいは遺産の集中化がもっとも大きな理由といえよう︒国民の間には︑いまなお相続財産の分散を厭う意識が根強い︒

この方法による遺産の集中化は︑均分相続の理念を潜脱するもので大いに問題のあるところだが︑わが民法典に不十

分な相続財産の分割防止方法の一っとして︑肯定しうるであろう︒もっとも︑家の跡取りが他の共同相続人に対価な

しに︑もしくは極めて少額の対価でもって︑相続分を譲渡するよう圧力をかけるというのであれば︑論外である︒

本稿は︑共同相続人の間での相続分の譲渡をめぐる解釈論上の諸問題を概観しようとするものである︒以前に︑

筆者は︑第三者に譲渡された相続分の取戻権を明文上認めているわが民法九

0

五条の母法の︱つであるフランス民法

一九七六年の改正により相続分取戻権規定が廃止され︑かつ相続分先買権規定が創設されたことに興味をひかれ︑

( 4 )  

わが国の取戻権規定について︑明治の立法時に遡って検討を行ったことがある︒そこでは︑起草時に︑当時のドイツ

民法草案と同じく︑また一九七六年改正後の今日のフランス民法でもみられるような︑第三者への相続分譲渡前に他

の共同相続人が相続分を買い取るという先買権規定が提案されていたが︑諸般の事情から削除され︑今日みるように

第三者に相続分が譲渡された後で取り戻すという相続分取戻権︵並びにその前提である相続分の譲渡︶規定が設けら

れたことを知りえた︒ で ︑

二 五 一 ︱

(5)

第四一巻第三号

ところで︑相続分譲渡と同様の遣産集中化を果たすものに︑相続分のない旨の証明書︵特別受益証明書とか︑無

相続分証明書などとよばれる︶による単独相続登記方法が挙げられる︒筆者は︑これについても以前に検討したこと

( 5 )  

があるが︑このやり方は︑本来︑相続人間の公平化をはかるために設けられた民法九

0

三条の特別受益の持戻し制度

をまった<逆用したものである︒つまり︑被相続人の生前に生計の資本等の贈与を実際には受けていないにもかかわ

らず受けたことにして︑結果的には特定の相続人への単独相続をはかるものである︒このように︑相続分の譲渡方法

と相続分のない旨の証明書による方法とはいずれも︑家督相続でのみ遣産の集中化を認めていたと思われる起草者の

意識を超えたところで活躍の場を得ているといえよう︒もっとも︑立法時に見送られた共同相続人のうちの特定者に

よる他の者の相続分の先買権的な利用の仕方が︑共同相続人への相続分譲渡という形で今日的活用がなされていると

把握できるならば︑共同相続人間の相続分譲渡は︑規定の立法趣旨に全く反している相続分のない旨の証明書を利用

した方法とは本質的に異なることになる︒つまり相続分の譲渡方法は︑いわば本来の正統な手段であるはずのものと

( 6 )  

本稿は︑諸先達の数多くの優れた業績に教えを受けつつ︑共同相続人問の相続分譲渡をめぐる諸問題について概

観しようとするものである︒個々のテーマごとの掘り下げた考察はいずれ近い将来に行なうことにしたい︒本稿では︑

まず相続分の譲渡を可能とする法的根拠を検討してみる︒ついで相続分譲渡でいう相続分の意味を明らかにし︑相続

分譲渡の要件と効果を︑さらに他の遺産集中方法と比較することによって相続分譲渡方法の長所・短所を知ることに

したい︒最後に︑相続登記上の問題点にも簡単ながら触れておくことにする︒

本稿で述べようとする主な点をあらかじめ手短かにまとめれば︑以下のようになろう︒ 評価できるのではあるまいか︒ 関法

(6)

共同相続人間の相続分譲渡について りえた︒今後︑大いに利用されることが予測される︒

共同相続人間で相続分譲渡が許されるか︑許されるとしたらその根拠はどこにあるのかという点について︑明治民

法の相続分取戻権規定︵現行民法九

0

五条︶の起草委員は︑第三者に相続分譲渡が許される以上︑共同相続人間では

当然のことと解していた︒このような起草時での意識や規定制定後の学説を踏まえて︑筆者は︑共同相続人間の相続

分譲渡の根拠は︑共有持分の譲渡を類推した説や遺産分割の一部であるとする説よりも︑第三者への譲渡を対象とし

た民法九

0

五条の取戻権規定が前提とする譲渡可能説に拠るべきだとの結論を得た︒そしてこの説を採ることによっ

て︑取戻権規定をめぐるこれまでの諸議論が︑共同相続人間の場合にどこまで適用もしくは類推適用されるかという

問題に転換しうる︒この立場から︑共同相続人間の相続分譲渡でいう相続分の意味︑譲渡の要件・効果︑並びに登記

上の諸問題を考察し︑その結果として︑第三者への譲渡の場合よりもスムーズな解決が可能と思われる︒またこのや

り方は︑遣産紛争の解決手段︑とりわけ遺産の細分化を防止する手段として︑たとえば手続きの面倒な家庭裁判所へ

の相続放棄や内容が虚偽である相続分のない旨の証明書を利用する方法などよりも格段の長所を有していることも知

( 1 )

(

(2) 司法研修所「相続分の譲渡•その他 11 家事事件研究会の記録 11 」ケース研究―――――一号(-九七二)五三頁の中池判事発言、

(

( 3 )

一九四七年の相続編改正の重要な柱の一っとして︑諸子均分相続制度が導入され︑国民の平等意識の助長に多大な貢献を果たした︒他面︑性急な均分制度の採用が︑現実の国民意識と法との乖離現象を発生ないしは増加させたことも否定しえな

い︒とりわけ農業資産承継特例法の制定が日の目をみなかったことに象徴的にみられるように︑農家においては︑田分けは農業経営の崩壊を意味することから︑家督相続的意識と相まって︑これを避けようとしたともいえよう︒

(7)

(4)

拙稿「相続分の譲渡•取戻権に関する一考察ー~明治民法草案中の相続分先買権規定の削除を中心としてーー」

先生還暦祝賀論集・現代社会と家族法﹄(‑九八七︶四三八頁以下︒

(5)

拙稿「『相続分不存在証明書』に関する裁判例の研究」関大法学論集一ー一六巻三・四•五合併号(-九八六)―-九頁以下。

( 6 )

共同相続人間の相続分譲渡に関する主だった論稿等には以下のようなものがある︵以後︑本稿では原則として執筆者名と

該当頁のみをあげることにする︶︒

論説には︑渡瀬煎﹁当事者適格・参加2相続分譲渡と遺産分割の当事者﹂判例クイムズニ五

0

号︵一九七

0 )

下︑司法研修所・前掲注

( 2

)論文︑元木伸﹁相続分の譲渡﹂﹃小山他編・遺産分割の研究﹄(‑九七三︶一七四頁以下︑右

近健男﹁事実上の相続放棄﹂﹃現代家族法大系5﹄︵一九七九︶一七七頁以下︑伊藤孝一︱‑﹁最近における登記事件の二︑三

の問題についてーー'ある登記相談事件の中からー﹂登記先例解説集ニニ五号︵二

0

巻五号︶︵一九八

0 )

七五頁以下︑森

本史朗﹁相続分の譲渡と遺産分割﹂全国書協会報七五号(‑九八一︶四九頁以下︑藤谷定勝﹁相続分の譲渡による登記手続

について﹂登記研究四二三号(‑九八三︶一三頁以下︑田辺耕右﹁相続分譲渡と登記﹂﹃不動産登記制度と実務上の諸問題

下﹄(‑九八八︶四

0

九頁以下︑山之内一夫﹁相続分の一部譲渡はできるか﹂﹃問答式遺産相続の実務﹄︵一九八一︱︱)四一

三頁以下︑田中由子﹁相続分の譲渡人は自己の相続債務を免れることができるか﹂﹃問答式遺産相続の実務﹄︵一九八一︱︱)

四一︱‑=︳頁以下︑篠清﹁相続分の譲受人は遣産分割の当事者になれるか﹂﹁相続分を譲渡した者の遺産分割の当事者としての

資格は﹂﹃問答式遺産相続の実務﹄(‑九八三︶八九九頁以下︑大坪丘﹁相続分譲渡に伴って寄与分は承継されるか﹂﹃問

答式遣産相続の実務﹄︵一九八三︶︱‑︱‑四四頁以下︑山本誓美﹁相続分譲渡による登記手続の整理﹂月報司法書士二

00

(一九八八)二六頁以下、池田光弘•前掲注

(1) 論文、高木良明「相続分の譲渡と登記」判例クイムズ六八八号(-九八九)

四三五頁以下︑吉本俊雄﹁相続分及び持分の譲渡と遣産分割﹂﹃岡垣

1 1

野田編・諧座実務家事審判法4﹄︵一九八九︶五七

頁以下︑岡垣学﹁共同相続人間でなされた相続分の譲受人と譲渡人の遣産分割手続における当事者適格﹂判例時報九六一︳一号

0 )

一六一頁以下︒その他の基礎的文献には︑体系書の類以外に︑風間鶴寿﹁相続分の譲渡ー特にその主体と対象

についてー﹂契約法大系

0

I I 巻(‑九六二︶四五頁以下︑有地亨﹃谷口久貴編・新版注釈民法︵二七︶﹄︵一九八九︶二九

1 1

訓令・通達・回答・質疑・応答等には︑﹁弁護士法第二三条ノニに基づく照会について︵相続分譲渡による相続登記の可 関法

(8)

(

0 1

0

0 )

0

‑ 0

0

(

0

0 1 1

1

1 0

わが民法は︑相続の開始から遺産が分割されるまでの間に︑共同相続人中のある者が自己の相続分を単独で有効

の期間が経過することが多いため︑自己の相続分を早く換価処分したいという相続人の立場を考慮してのことである︒

しかし︑第三者への相続分の譲渡の結果︑その後の共同相続人間でのきわめてデリケートな遺産分割︵それは容易に

争いにまで発展しうる︶や遺産管理に第三者が介入してくることになりかねない︒そこで︑他の共同相続人は一箇月

以内に譲渡の価額及び費用を償還して譲渡された当該相続分を譲り受けることができる︑という取戻権規定が朋規さ

れた︵これまで一般的に︑相続分譲渡規定とよばれることはない︶︒これが現行民法九

0

五条︵明治民法一

0

0

である︒この九

0

五条により明らかに遺産分割前に相続分は譲渡されうる︒しかし︑本条は︑第三者への譲渡を目的

としているにすぎず︑他の共同相続人への譲渡を許したものとはいえないと解する余地がある︒

本章は︑共同相続人間で相続分を譲渡することが可能か否か︑可能とすればその根拠は何かを相続分取戻権規定

( 1 )  

の明治の立法時に於ける議論︑並びに立法後の若干の体系書を素材として︑みておこうとするものである︒そうする に第三者に譲渡することを認めている︵九

0

相続が開始してから現実の遺産分割まで相当

(9)

第四一巻第三号

ことによって︑共同相続人間の相続分譲渡の法的性質を多少とも明確にしうるからである︒結論をあらかじめ述べれ

ば︑かつてと同様︑今日においても共同相続人間での相続分譲渡を肯定する説が圧倒的多数であるが︑その理由付は

分かれている︒筆者は︑以下で述べるように︑民法九

0

五条の相続分取戻権規定に根拠を求めた説が妥当であると思う︒

相続分取戻権規定制定時の議論

法案︵原案では一

0 1

0

条︶の提出説明を行った穂積陳重起草委員は︑﹁第一項中二﹃第三者二譲渡シクルトキ︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑・︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑ハ﹄トアリマス以上ハ︑共同相続人中相互二譲渡スト云フコトニ付イテハ尚ホ先買権ハ存シテ居ラヌ︒又先買権ヲ与

( 2 )  

ヘル理由卜云フモノハ︑此場合二於テハナイ︒相続人以外ノ人二与ヘクルコトガ営ル﹂という︵句読点・傍点ー筆者︶︒

この穂積発言は︑言葉通り︑共同相続人間の譲渡には先買権がないというものであるが︑共同相続人間の譲渡そのも

のを否定しているようには読めない︒むしろ︑反対解釈がなりたつように思われる︒

判する形で︑梅謙次郎起草委員が︑ハ宜シクナイコトデアル︑殊二千十二条ノ規定︵相続開始後五年内の遺言による分割禁止ー筆者注︶ノアルノヲ見テ 穂積提案に対して︑第三者への相続分譲渡禁止説の立場から磯部四郎出席委員が意見を述べ︑この磯部意見を批

︑ ︑

﹁磯部君ノ言ハレマスニハ︑ドウモ此共同相続人ノ間デ相続分ヲ売ルト云フコト

卜思フテ出来テ居ルト云フ御論デアックガ︑

0

)

モ此本案ノ主義二於テモ︑其被相続人ハ成ル可ク長イ間共同相続人ガ財産ヲ共有シテ居ルコトヲ望ム場合ガ多カラウ

( 3 )  

︐ 

関法

是ハ千十二条ヲ解スルコトノ誤マリデアルト言ハザルヲ得ヌ﹂

︵句読点・傍点ー筆者︶︒梅発言の傍点部分は︑まさしく共同相続人の間での相続分売買のことをいっているようであ

るが︑磯部発言にはそういう趣旨の箇所は出てこない︒したがって︑梅発言を今日的な言葉で言い直すと︑

(10)

出席委員であった奥田博士は︑

⇔ 

二五九 ︵他の第三者に自己の︶相続分を売るということは宜しく

﹁余リ法律デ干渉スないことである﹂ということになろう︒もっとも︑梅委員は︑本条を設けること自体に反対で︑

( 4 )  

ルコトハ私法上デハ宜シクナイ﹂と言っており︑相続人の遺産分割前の︵さらには相続開始前の︶自由な財産処分を

支持している︒ともあれ︑これらの短い発言からは確実なことがいえないものの︑他の箇所と併せて読み込んだ限り

では︑委員達の間では︑とりわけ起草委員は︑共同相続人相互の間での相続分譲渡を当然のこととしていたといえよう︒

相続分取戻権規定制定後の学説

それでは次に︑立法化後の主な体系書の類は︑その点についてどう記述しているかであるが︑まず梅博士は︑

﹁相続分ノ取戻トハ共同相続人ノ一人力其相続分ヲ第三者二譲渡シクル場合二於テ他ノ相続人力之ヲ譲受クルノ権利

( 5 )  

ヲ謂ヘルモノナリ﹂と定義する︒しかし︑この定義は取戻しに関するものであったから第三者としただけで︑相続開

変更ヲ及ホスペキノミ︑本条ノ適用ハ第三者二譲渡シクルトキニ限ル﹂ 始前に推定相続人による相続分の譲渡を認め︑かつこれも分割前の譲渡だということで取戻しの対象とするという同

( 6 )  

博士一流の論法をもってすれば︑相続開始後に他の共同相続人に相続分の譲渡を否定するとはおよそ考えられない︒

﹁共同相続人間二於テ相続分ノ譲渡アリクルトキハ此規定ヲ適用セス︒単二其持分ニ

( 7 )  

︵傍点ー著者︶という︒ここでは明らかに︑

著者が共同相続人の間での相続分譲渡を認めている︑という点を読み取ることができる︒同趣旨の記述は︑牧野氏︑

( 8 )  

柳川判事︑板垣判事の著書にもみられる︒そして︑明治民法施行後のいわば前期

( 1 1

大正頃まで︶ではそれほどでも

ないが︑後期に入ると共同相続人間の相続分譲渡は︑より明確な形で肯定されるようになる︒以下にそれをみる︒ の言われますのはどうも︑共同相続人のうちのある者が︑

(11)

様に︑石田文次郎教授も︑ 穂積重遠教授は︑

第四一巻第三号

相続分の譲渡を許した

﹁遺産につき︑共同相続人甲乙丙丁が甲 J

共同相 一部を除いて︑このことは ﹁共同相続人は相続財産の分割前に各自其相続分を放棄し又は譲渡し得る︒共同相続人の一人

人に譲渡された場合も別に問題を生ぜぬ﹂

近藤英吉教授は︑ が其相続分を放棄すれば︑民法第二五五条によって其相続分は他の共同相続人に帰属すべく︑相続分が他の共同相続

( 9 )  

︵傍点ー筆者︶と断言する︒

続人︵相続人及び包括受遺者︶以外の第一二者に相続分が譲渡せられた場合にのみ︑

共同相続人間に相続分の譲渡がなされても︑

00

( 1 2 )  

他の共同相続人は之を取戻すことを得ない﹂

発生するに過ぎないのであるから︑

( 1 0 )  

︑ ︑

さらに﹁共同相続人の一人が他の共同相続人の相続分の全部又は一部を譲受けたときは︑之によって譲受人の相続分

( 1 1 )  

は増加する︒而してこの場合には他の共同相続人は譲渡せられた相続分の取戻をなすことを得ない﹂とまでいう︒同

﹁遺産相続は純然たる財産相続であるから︑民法は相続財産の分割前に各相続人の有する

故に各相続人は其の相続分を他の共同相続人又は第三者に譲渡するこ

以上にみてきたように︑第二次大戦前における主だった体系書では︑その根拠は必ずしも明らかでないとしても︑

相続人間の相続分譲渡を肯定的に扱っている︒そして︑戦後における体系書においても︑

たとえば︑中川善之助

11

泉久雄教授は︑相続分取戻権規定にいう﹁第三者とは︑

( 1 3 )  

いう︒他の共同相続人に譲渡した場合には︑取戻権は発生しない﹂という︵傍点ー筆者︶︒

続人への譲渡が可能であることが読み取れる︒これに対して︑鈴木教授は︑ 共同相続人でない者を

乙と丙丁との二派に分かれて争っているような場合には︑乙が甲にその相続分権を譲渡し︑裁判上または裁判外の争

( 1 4 )  

いにつき︑すべて甲をして事に当たらせるという目的で︑この制度が利用される場合も︑あるようである﹂と述べ︑ 二六〇

﹁取戻権は︑共同相

(12)

定的に解する説もあることを知りえた︒しかしながら︑肯定するとしてもその根拠をいずれに求めるか︑あるいは否

定説の理由は何か︑を明らかにする必要がある︒以下では︑これらの点について︑現在の学説をまとめる形で︑まず

現在の学説

共同相続人間の相続分譲渡否定説

﹁他人である第一二者に関してのみ相続分譲渡の問題は生ずる余地があるのであって︑相続人間における遺

産の調整ないしは個々の相続財産の帰属の問題は︑民法上明文の規定をもって認められている遺産の分割ー登記実務

上よくいわれている九

0

三条のいわゆる特別受益の問題も含めてーないしは相続の放棄等の方法によって解決される

べきであり︑相続人間の相続分譲渡は︑右の遺産分割等の規定から独立して認める余地はないという解釈があろうか

( 1 6 )  

と考えられます﹂との見解にみられる説である︒体系書の類の中にも︑鈴木教授は︑

相続人中のある者が実質上なにも割当をうけず︑他の共同相続人に財産を集める形の﹃事実上の相続放棄﹄を︑あら

かじめ前者から後者への無償の相続分権譲渡があったものとして構成することも︑可能である︒しかし︑相続分権譲

渡は疑問点の多い制度であるから︑かかる場合は︑やはり︑遺産分割協議と贈与との結合したものと構成することが

( 1 7 )  

妥当であろう﹂という︒家庭裁判所の実務でも︑個々の積極財産の帰属を明らかにする表現を用いるべきで︑単に相

(1) 

J

ついで肯定説を紹介してみよう︒

︵ 七 七 一

︱ ‑

﹁遣産分割協議にあたって共同

( 1 5 )  

他の箇所ではっきりと︑相続分権譲渡は疑問点の多い制度であるという理由から︑これを否定する︵後述参照︶︒

以上︑戦前と同様に︑戦後の体系書においても︑ほとんどは相続人間の相続分譲渡を肯定的に解するが︑

(13)

③共同相続人間の相続分譲渡肯定説

第四一巻第三号

( 1 8 )  

続分を譲渡したという分割の経過のみを記載しただけのものは好ましくないとする意見があるようである︒

要するに否定説は︑民法上認められた遣産分割や相続放棄等のいわば正規の手続き以外に共同相続人間の相続分譲

渡という独自の存在を認めないというものである︒その理由の︱つに﹁相続人間においては︑

でないことはこれまでみてきたとうりである︒ 一部の相続人を除外し

た形式で実質上遣産の帰属を決定することに妥当性が認められないことは遺産分割の協議が相続人全員でしなければ

( 1 9 )  

ならないとされる趣旨からも明らかで﹂あるという点が挙げられている︒しかし︑相続人間での遺産帰属について︑

かくも限定的に解釈しなければならない必然性があるだろうか︒相続分取戻権規定が第三者への譲渡を前提にした制

度であるという理由は︑かなりの説得力を有するが︑第三者への譲渡に限定しなければならない︑といった点が妥当

つぎに︑相続分譲渡は疑問点の多い制度だという批判は︑合理性を有

しないように思われる︒制度として存在している以上︑それを利用することは何ら咎められるべきことではあるまい︒

問題は︑その制度の悪用ないし濫用であるが︑相続人間の相続分譲渡は︑遺産分割をスムーズに行うために共同相続

人の数を減らすなどの合理的理由を有しており︑当事者以外の共同相続人に与える損害は︑制度の悪用だといえるほ

ど大きいとはいえない︵もっとも︑この点は評価の相違に帰するであろう︶︒

以外であっても︑それが公序良俗に反するならばともかく︑何らかの合理的な根拠に基づくものであれば︑認められ

るべきである︒遺産分割協議や相続放棄手続き以外の他の方法がまった<許されないと解すべきではあるまい︒今日

の実務状況からいっても︑共同相続人間の相続分譲渡は︑遺産分割協議や相続放棄手続きと並ぶ︱つの相続法上の制

度として肯定的に解すべきである︒そこで次に︑それを可能とする根拠をみていくことにする︒ 関法

J

法が認めた正規の手続き

(14)

(b) 

( a )  

( 2

0 )  

戦後の体系書の多くは︑共同相続人間の相続分譲渡を理由抜きで肯定的に記述している︒これは︑九

0

五条の説明

中で︑第三者への譲渡を述べた際に共同相続人間のことに触れているため︑十分な論証がないものといえる︒ともあ

れ︑なぜ共同相続人間で相続分の譲渡が可能なのか︑その根拠を明らかにすることは︑以下で考察する諸問題の検討

に際して極めて重要である︒これまで肯定説の根拠としては︑主として︑九

0

五条一項を根拠とする説︑共有持分の

譲渡を根拠とする説︑遺産分割の一内容であるとする説の三説がみられる︒

民法九

0

五条一項を根拠とする説︵相続分譲渡説︶

現在︑実務では相続分の譲渡証書が一般的に作成されているが︑そこでは共同相続人間の相続分譲渡の根拠として︑

( 2 1 )  

しばしば民法九

0

五条一項が挙げられている︒しかしながら︑規定制定時の議論やその後の学説をみてきた限りでは︑

共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲り渡したとき︑と規定している九

0

五条にいう﹁第三者﹂

には︑他の共同相続人は含まれないといわざるを得ない︒そこで︑この説の根拠は︑第三者に譲渡できる以上︑他の

共同相続人に対しても譲渡しうることが当然であるといえるかという点に求められることになる︒それに対しては︑

これまで規定制定時の議論やその後の学説をみてきた限りでは︑肯定することが妥当といえよう︒そして︑共同相続

人間の相続分譲渡の根拠として︑九

0

五条を挙げるのであれば︑当然のことながら︑第三者への相続分譲渡をめぐる

諸問題が︑共同相続人間の場合にも︑それぞれ適用ないしは類推適用されうるか︑たとえば譲渡人と譲受人以外の他

( 2 2 )  

の共同相続人にも取戻権があるのか︑といった問題が提起されよう︒

共有持分の譲渡を根拠とする説︵共有持分譲渡説︶

今日の最高裁が︑遣産分割までの共同相続人の間での遺産の所有形態を民法物権編にいう共有と解していることは︑

(15)

( c )  

ばなお︑この説の妥当性に疑問が感じられる︒ 第四一巻第三号

あまりに明白である︒遺産分割までに個々の財産上の共有持分権を譲渡することは︑当然に許されている︒したがっ

て︑自己の持分の包括的譲渡も可能ではないか︑との見解が出てくることもまた予期されることである︒起草委員の

( 2 3 )  

一人であった梅博士は︑遺産共有を物権編でいう共有と考えていたことから︑共同相続人間の相続分譲渡の根拠を︑

ここに置いていたものと考えられようか︒つまり︑この説によれば︑相続分取戻権規定の相続人間への適用ないしは

類推適用といった問題を論じる必要がなくなる︒しかしながら︑相続分の譲渡は︑相続人としての地位の譲渡という

包括的なものであって︑単なる個々の財産上の包括的な譲渡とは異なる︒この説だと︑この点の説明に困難を覚える

のではあるまいか︒遺産共有形態の相続的特殊性を考慮すれば︑

遺産分割説 いわゆる合有説が妥当であり︑そうした考えに立て

( 2 4 )  

この説は︑相続分の譲渡は︑遣産分割の前提として︑遺産分割の内容の一部を構成するものであると解する︒その

メリットは︑相続分の譲渡のみであっても︑それは遺産分割の一部とみることができるから︑遺産分割による登記と

( 2 5 )  

して行われるのは当然であるというものである︒これに対しては︑遺産分割制度がある以上︑それ以外に特別の制度

または方法として相続分譲渡をわざわざ認める必要はなく︑まさに遺産分割そのものとして扱えば十分だとの相続分

譲渡否定説からの批判が成り立つであろう︒思うに︑相続分譲渡は︑ほとんどの場合︑遺産分割と同時か︑それにわ

ずかに先立って行われるであろうが︑しかし︑九

0

五条は︑民法典上︑第三章﹁相続の効力﹂第二節﹁相続分﹂の箇

所に入っており︑第三節﹁遺産の分割﹂には属しておらず︑また相続分譲渡は︑理論的には遺産分割とはまったく別

個に独自に行うことができるのであって︑遺産分割の一部を構成するものとはいえないであろう︒ 関法二六四

(16)

共同相続人間の相続分譲渡について

0

五条一項を根拠とする説が︑もっとも妥当であるように思われる︒

( 1 )

共同相続人間の相続分譲渡は︑本来第三者への譲渡を目的とした相続分取戻権規定の説明中に限らず︑他の箇所において

も論じられているであろうが︑本稿では︑この規定の説明に際しての論述に限定してみていく︒本文中の起草委員や著者の

意見が︑共同相続人間の譲渡を肯定するとしても︑その根拠を相続分取戻権規定に置いているとは必ずしもいえないことに

留意しておかなければならない︒たとえば︑牧野博士は︑相続分の取戻しを論じた箇所で︑共有者は其の持分を譲渡し得る

と同じく共同相続人はまた其の相続分を処分することを得べし︑という︵牧野菊之助﹃日本相続法論﹄一九一四年版ニニ五

頁︶︒本文中でいう共有持分譲渡説に立った考えであることが明らかである︒

( 2 )

法務大臣官房司法法制調査部監修﹃法典調査会・民法議事速記録七﹄︵一九八四︶五七五頁︒なお︑本文の穂積説明中の

﹁先買権﹂は︑今日でいう﹁取戻権﹂のことである︒草案では︑第一項は譲渡後のことを︑また第二項は譲渡前のことを規

定し︑第三項で権利行使期間を定めていた︒第二項中に﹁先買権﹂が明記されており︑第一項と併せて﹁先買権﹂と呼ばれ

ていたが︑相続分譲渡契約は諾成契約だから契約成立後に﹁先買い﹂というのはおかしいということで︑第二項は削除された。詳細は、拙稿「相続分の譲渡•取戻権に関する一考察」中川還暦·前掲書四四二頁以下参照。

( 3 )

法典調査会・前掲書五七六頁以下︒

( 4 )

法典調査会・前掲書五七七頁︒後に柳川判事も︑相続分譲渡の取戻︵同判事は引戻とよぶ︶制度を非難し︑﹁余^此制度

ノ存在ヲ必要卜七サルノミナラス寧口相続人ノ自由ヲ拘束シ却テ金銭融通ノ途ヲ閉塞スル結果二至ルヘキ有害ノ制度卜思惟

ス﹂という︵柳川勝二﹃日本相続法注釈上巻﹄一九二

0

( 5 )

梅謙次郎﹃民法要義巻之五﹄(‑九一五年版︶︱二九頁︒

( 6 )

‑ 0

頁以下︒なお︑本文に述べたような相続開始前の譲渡を有効と解する説が当時多数説であった点について︑

( 1

当らない(風間•前掲論文四六頁以下参照)。相続開始前の推定相続人は、相続期待権を有しているに過ぎず、この期待権 )参照︒柳川判事は︑この多数説に反対の立場であり︑今日では︑梅説を支持する学説は見

を譲渡しうるのであれば︑権利関係が非常に煩雑になるなどあまりに問題が多い︒梅博士のごとき優れた論客にして︑上手

の手から水が漏れたといえようか︒

(17)

関法

( 7 )

奥田義人﹃民法相続法論﹄(‑九

0

七年版︶一九

0

頁 ︒

(8

) 牧野・前掲書ニニ九頁︑柳川・前掲書六一五頁注三︑板垣不二男﹃民法相続編講義完﹄︵一八九八︶一六二頁︒たとえば︑

板垣判事は︑﹁共同相続人ノ一人力他ノ共同相続人ョリ譲受ケタルトキノ如キハ取戻サルルコトナシ﹂という︵同処︶︒

( 9 )

穂積重遠﹃相続法大意﹄(‑九三

0

年版︶七六頁以下︒

( 1 0 )

近藤英吉﹃相続法論︵下︶﹄︵一九三八︶五八三頁︒なお︑近藤教授は︑相続開始後︑遺産分割前の相続財産に属する個 々の物又は権利について物権的持分権の処分を認めないという考えにたっており︵五七八頁参照︶︑遺産分割前の相続人の

自由処分に否定的である︒

( 1 1 )

近藤・前掲書五八七頁︒

( 1 2 )

石田文次郎﹃家族制度全集法律篇第五巻相続﹄(‑九三八︶一三五頁︒

( 1 3 )

中川善之助

11

泉久雄﹃相続法︹第三版︺﹄︵一九八八︶二七七頁︒戦後のもっとも初期に上梓された福島四郎﹃相続法﹄

0 ) 1 0

六頁も本文と同旨である︒その他︑宮井忠夫他著﹃民法講義八相続﹄(‑八七八︶︱二四頁参照︒

( 1 4 )

鈴木禄弥﹃相続法講義﹄︵一九八六︶一六二頁︒

(1

5)

鈴木・前掲書一六八頁︒

(16)

伊藤•前掲七七頁。他に、田辺•前掲四二九頁も同旨。なお伊藤論文は、登記の実務に携わる者の立場から、不動産登記 法四九条の登記申請の却下処分︑とりわけ同条二号あるいは四号却下ということについて明解な説明が可能かどうか疑問が

(17) 鈴木•前掲書一六八頁。

( 1 8 )

昭四

0

‑ 0

号民事局長回答の解説︵登記研究ニニ

0

号五七頁︶︒なお︑伊藤・前掲七八頁参照︒

(19) 伊藤•前掲七八頁。

( 2 0 )

柚木馨﹃判例相続法論﹄︵一九五一︳一︶ニ︱︱頁は︑﹁共同相続人に譲渡せられたときは︑その者の相続分が増加するだけ で︑別に問題を生じない﹂という︒同旨︑高野竹一︳一郎﹃相続法﹄(‑九七五︶一七五頁︑鍛冶良堅﹃相続法講義﹄(‑九八

七︶七九頁︒他に︑我妻栄

11

立石芳枝﹃親族法・相続法﹄︵一九五二︶四四一頁︑我妻栄"唄孝一﹃判例コンメンクール 珊相続法』(-九六六)―-三頁、有地・前掲書二九四頁・ニ九八頁、中川淳•前掲書二七七頁以下参照。

(18)

共同相続人間の相続分譲渡について ︵注︶各共同相続人は︑遣産分割前にその相続分︑すなわち遺産全体に対して有する包括持分権ないし相続人たる地位を︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑第三者又は他の共同相続人に譲り渡すことができる︵民九

0

五①参照︶︒この相続分の譲渡には何ら方式を必要とし

ないが︑確実を期するために上記のような相続分譲渡証書を作成されるのがよかろう︵傍点ー筆者︶︒

(22) 藤谷•前掲二 0

頁は、「共同相続人間で相続分の譲渡をすることは可能であるが、その場合には、民法九

0 五条の規定の

適用はないということになる﹂という︒

(23) 梅•前掲書一ーニ頁。中川"泉・前掲書ニ――頁注 (3) も参照。 (24) 藤谷•前掲三二頁。

( 2 5 )

藤谷・同︒なお︑﹁相続分譲渡﹂を登記原因とした場合︑﹁相続﹂と同様の登録免許税扱いを受けるのであればメリット

があるが︑いわば実体にあわせた﹁贈与﹂または﹁売買﹂の扱いであれば︵高木・前掲四三七頁は︑﹁相続分譲渡﹂の免許

税を疑問付ながら後者に解する︶︑免許税が高額になることから︑本文のような相続分譲渡説を主張する利点は減少しよう︒ 住所 住所

東京都新宿区戸山町三丁目五番七号

西

東京都千代田区大手町二丁目二番三号

譲渡人西川花子は︑譲受人東山一郎に対し︑本日︑本籍東京都千代田区大手町二丁目二番三号被相続人亡東山太郎の相続分全部を︵有償又は無償︶譲渡し︑譲受人東山一郎は︑これを譲り受けた︒

0

月一日

( 2 1 )

長山義彦

1 1

篠原久夫"浦川登志夫

1 1

西野留吉

1 1

岡本和雄﹃家事事件の申立書式と手続[新版]﹄(﹁九八=D六三九頁

は︑以下のようなモデルを紹介している︒本書は家庭裁判所の窓口に置かれることがあり︑法律実務家は勿論のこと一般の

人々にとってもいわば問題解決の指針となっているだけに︑意味するところは大きい︒

(19)

第四一巻第三号

前章において︑共同相続人間で相続分を譲渡しうることが︑複雑になりがちな共同相続人間の紛争解決の一手段と

して可能であること︑そしてその根拠は︑九

0

五条の取戻権規定に当然の前提として含まれているという相続分譲渡

説が妥当であることを明らかにした︒しかし︑根拠は明らかになったとしても︑肝心の相続分譲渡でいう相続分の意

味は必らずしも十分に明らかではなく︑また譲渡の要件・効果等が明規されているわけではないので︑この点につい

ても検討する必要がある︒さらに︑相続分譲渡方法と他の紛争解決手段とを比較・検討することによって︑この方法

の長所・短所を知ることが相続分譲渡方法の存在意義を認識するために重要であろう︒そこで︑本章以下では︑共同

相続人の間での相続分譲渡をめぐる諸問題を紹介するが︑本来︑第三者を対象とした取戻権規定が︑共同相続人間の

場合に︑どこまで適用ないしは類推適用されるかということが問題の柱となろう︒

まず本章では︑共同相続人間の相続分譲渡でいう相続分の意味を明らかにしていく︒つまり︑ここでいう相続分と

は︑民法上の他の規定︑たとえば法定相続分に関する九

00

条でいう相続分と異なるのか︑異なるとしてどのような

違いがあるのかが問題となる︒第三者への相続分譲渡でいう相続分の意味については︑①包括的持分説︑③総額的持

( 1 )  

分説︑⑥共有的持分説の三説が存在する︒まずこれらの各学説を紹介し︑ついでいずれの説が共同相続人間の場合にも

っともよく妥当するか︑私見らしきものを述べてみたい︒最後に︑相続分の一部譲渡についての問題点を紹介しておく︒ 関法

二六八

0

)

(20)

( 3 )   ( 2 )  

二六九

一般の共有持分の譲渡が有する財物固有の譲渡方式や権利変 包括的持分説

この説は︑相続分譲渡でいう相続分を︑共同相続人が相続財産の全体について有する包括的な持分と解する︒

り︑相続分譲渡とは︑積極財産のみならず消極財産をも含んだ相続財産を相続人に帰属させた相続権︑すなわち相続

人としての財産的地位の譲渡である︒東京高裁昭和二八年九月四日︵高民集六巻一

0

0 1

=頁︶も同趣旨の決定を

( 2 ) ( 3 )  

行っており︑今日の通説的見解である︒遺産分割までの共同相続人間の相続財産関係を合有と解する立場になじむ考

( 4 )  

えで︑本来︑相続分の譲渡は許されないものであるが︑法が特に必要上認めたものであるという︒もっとも︑いわゆ

る共有説の立場にたって︑九

0

五条が合有説的立場に妥協し︑相続財産中の個々の物の上の持分権を一括して譲渡す

( 5 )  

ることを認めたと解することにより︑この包括的持分説を支持することは可能である︒この説に対しては︑相続放棄

( 6 )  

以外の方法で︑相続人が相続人としての資格や地位の座から脱出しうることは考えられないという批判がある︒

総額的持分説

この説は︑相続分譲渡でいう相続分を︑遺産を構成する各財物上の持分の総体であり︑既存の相続債務が付着して

( 7 )  

いないものと解する︒その理由として︑相続分譲渡は︑

動の対抗要件などの欠陥や不便を補う一種の便法であって︑積極的相続財産に対する一種の清算方法の意義を有する

( 8 )  

からであるという︒これに対しては︑相続分の範囲を積極財産のみに限定的に解さなければならない必要性はないと

( 9 )  

(1) 

共有的持分説

( 1 0 )  

この説は︑相続分譲渡でいう相続分を︑個々の財産に対する共有持分の譲渡であると解する︒周知のことだが︑判

(21)

第四一巻第三号

一部譲渡相続人は減少した相続分に基づい 例は︑相続開始後︑遣産分割までの共同相続人間の相続財産の帰属を︑物権編でいう共有と解し︑個々の財産上の持分の譲渡を認めている︒この持分を全体的な譲渡と捉えたのが︑この説の特徴といえよう︒これに対して︑相続財産を共有と解するのであれば︑その処分には全員の同意が必要であるのに︵二五一条以下参照︶︑九

0

五条は何らの留保

( 1 1 )  

もなく譲渡を許していることの説明がつかないとする批判や︑相続分譲渡にいう相続分は個々の特定財産についての

( 1 2 )  

持分の集合につきるものではないとの批判がなされえよう︒民法九

0

五条でいう相続分譲渡は︑特定不動産の譲渡を

いうものではないとの最高裁判例がある︵最判昭五三年七月ニ︱︱日・判時九

0

詳細な検討は今後に委ねるが︑三説のうち︑

いて︑私は︑さしあたっては︑取戻権規定がわざわざ設けられた趣旨に沿うという意味で︑包括的持分説がもっとも

適切であると思う︒共同相続人として遺産を取得しうる財産的地位を一括的に譲渡するというのが︑相続分譲渡の意

味であって︑共同相続人間の場合にも妥当するものと解する︒それは︑遺産分割までの間に譲渡相続人が譲受相続人

に一切の相続人としての地位を譲渡し︑相続人の地位・資格から脱出する方法だからである︒

相続分の一部譲渡

民法九

0

五条でいう相続分を一部譲渡しうるかについては︑通説は︑ここでいう相続分とは包括的遺産全体をいう

( 1 3 )  

から︑それを分割して譲渡することは可能であるとする︒通説によれば︑ 関法

いずれが本稿の対象としている共同相続人間の場合に妥当するかにつ

0

(22)

共同相続人間の相続分譲渡について

て遺産分割協議に参加しうる︒これに対して︑組合員と同一視しうる相続人の地位移転には一部譲渡はありえないと

( 1 4 )

1 5

)  

解する立場から︑あるいは相続関係の複雑化を避ける立場から一部譲渡を否定する説がある︒共同相続人間の相続分

譲渡は︑多数の相続人の数を減少せしめ相続関係を簡潔ならしめるという面を有しており︑これを強調すれば︑否定

説が妥当なようにも思われるが︑共同相続人中の特定者に自己の相続分の半分は譲渡するけれども︑あくまで相続人

としての地位に留まりたいという場合が生じてくるかもしれない︒否定すべきではなかろう︒

︵ 七 八 一

︱ ‑

( 1 )

学説については︑山本・前掲二七頁以下が簡潔にまとめている︒本章は︑

二九二頁以下にも︑学説・判例の紹介がある︒

(2) 伊藤•前掲八 0 頁参照。

( 3 )

有地・前掲書ニ︱四頁︒

( 4 )

( 5 )

( 6 )

(7) 風間・前掲五五頁。同旨として、渡瀬•前掲―二五頁。

( 8 )

(9) 伊藤•前掲二七頁。

( 1 0 )

玉田弘毅﹁遺産﹃共有﹄の理論﹂明大法律研究所法律論叢︱︱一三巻五号(‑九六

0 )

0

(3

)

(11) 風問•前掲五四頁。

( 1 2 )

( 1 3 )

山本・前掲二八頁参照︒有地・前掲書二九三頁︑元木・前掲一八

0

( 1 4 )

(

1 0

頁以下︒石田教授は︑共同相続人が相続財産上に有する地位を︑組合財産

全体に対する組合員の法律上の地位と同様に解する︒ これに依るところが多い︒なお︑有地・前掲書

参照

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