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プリンストン大学所蔵西夏文華厳経巻七十七訳注

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プリンストン大学所蔵西夏文華厳経巻七十七訳注

荒 川 慎太郎

(アジア・アフリカ言語文化研究所)

An Annotated Japanese Translation of the Tangut Version of Avatam . saka S ūtra vol. 77 in Princeton University Collection

Arakawa, Shintaro

Research Institute for Languages and Culture of Asia and Africa

Princeton East Asian Library Collection (New Jersey, USA) holds 83 manu- scripts from Dunhuang including the Tangut Buddhist documents.

1) Fragments of Tangut Buddhist texts; Peald (=Princeton East Asian Library, Dunhuang)

Peald 6c, 6d, 6e, 6f, 6h, 6i: 阿毘達磨大毘婆沙論 Apidamodapiposhalun: Abhidharma Peald 6g: 金剛般若波羅蜜多経 Vajracchedikā Prajñāpāramitā

Peald 6q: 大方広仏華厳経 Buddhāvataṃsaka-nāma-mahāvaipulya: Avataṃsaka (1 fragment)

Bullitt (1989: 24, illustration 13) shows Peald 6q, the last part of volume 77 of the Tangut version ‘Avataṃsaka’ (Chinese version: Taisho No. 0279『大方 広仏華厳経』in Taisho vol. 10 (p. 428a)).

2) Volume 4 of the Tangut version 妙法蓮華経 Saddharmapuṇḍarīka.

3) Volume 77 of the Tangut version ‘Avataṃsaka’.

Collection No. 8-94-801.2 is the ‘other’ volume of 77 of ‘Avataṃsaka’, and it was woodblock printed. It was fi rst introduced by Heijdra and Cao 1992.

e total volume is 112 pages, with 670 lines of Tangut script (Chinese ver- sion: Taisho No. 0279『大方広仏華厳経』in Taisho vol. 10 (pp. 419c–428a)).

is is valuable, since the woodblocks of volume 77 have not been preserved anywhere else in the world.

In this work, a er briefl y introducing material: No. 8-94-801.2, I present the text, phonetic reconstruction, Japanese translation with annotations, and corresponding Chinese version of all lines.

Keywords: Tangut, Tangut Buddhist document, Dunhuang document, Avataṃsaka sūtra

キーワード : 西夏語,西夏語仏教文献,敦煌文書,華厳経

0. はじめに

1. プリンストン大学所蔵西夏語文献

2. 2つの『華厳経』

3. 『華厳経』巻七十七の価値 4. テキスト及び訳注 付録 図版

(2)

0. はじめに

米国プリンストン大学(Princeton East Asian Library, New Jersey, USA)は西夏語文献各 種を所蔵する1)。所蔵文献は大きく三種,すなわち1)Peald(=Princeton East Asian Library,

Dunhuang)の番号を持つ諸断片,2)刊本西夏文『妙法蓮華経』(以下『法華経』)巻四,3)

刊本西夏文『大方広仏華厳経』(以下『華厳経』)巻七十七からなる。1,2)はいずれ別稿で詳 しく論じたい。本稿では資料3)の簡単な紹介に続き,全文の西夏文テキスト,推定音,訳注,

対応漢文を提示する2)

1. プリンストン大学所蔵西夏語文献

プリンストン大学は83点の敦煌文書を所蔵するという。その中の西夏語文献は量的に決し て多いとはいえないものの,保存状況も良好で,後述のように貴重な資料も含まれている。資 料3)の詳細は2節で論じることとして,1),2)について簡単に内容を述べておきたい。

Peald西夏文断片は,内容から三種類に分類できる。近年公開3)が開始された番号でいえば,

Peald 6c, 6d, 6e, 6f, 6h, 6i:『阿毘達磨大毘婆沙論』

Peald 6g:『金剛般若波羅蜜多経』(以下『金剛経』)

Peald 6q:『華厳経』

それぞれの刊本断片である。

Peald 6c, 6d, 6e, 6f, 6h, 6i『阿毘達磨大毘婆沙論』はおそらく漢文からの訳出である。もっ とも内容が近い漢訳は,大正蔵 1545 阿毘達磨大毘婆沙論(唐・玄奘訳)といえる。現存する 断片は全て,「雑蘊第一」中の「愛敬納息」(大正27,pp. 150-178)の各所であり,一部は接 合する。なお,それらの一部(No. 6c-6i)には,紙背を利用したウイグル文字の写本文書が 残る4)。断片は1紙片のものと,2,3紙片が西夏文の内容に関係なく再接合されているものか らなる。漢文の対応箇所を示せば次のようになる。

6cA:大正1545 大正27,p. 151a, ll.1-18

6cB:大正1545 大正27,p. 151a, ll.19-20

6dA:大正1545 大正27,p. 151b, ll.1-4

6dB:大正1545 大正27,p. 151b, ll.6-11

6eA:大正1545 大正27,p. 167a, ll.1-6

6eB:大正1545 大正27,p. 164c, ll.25-29

6eC:大正1545 大正27,p. 150c, l.24 or l.26?

6f:大正1545 大正27,p. 150c, ll.12-20

1) 収蔵の経緯と所蔵品の概観についてはBullitt 1989参照。

2) 本稿は,平成19〜21年度日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(C)「西夏時代の河西地域 における歴史・言語・文化の諸相に関する研究」(代表:荒川慎太郎)の成果の一部である。なお,

現地で各種の便宜を図ってくださったMartin Heijdra博士,Princeton East Asian Libraryの皆さ まにこの場を借りてお礼申し上げる。

3) e International Dunhuang Project (IDP): e Silk Road Online(http://idp.bl.uk/)より。

4) 詳細はMatsui(forthcoming)参照。松井によれば,ウイグル文字面からも,Peald6eと敦煌莫高

窟北区石窟出土資料B157: 54-1も接合することがわかるという。

(3)

6hA:大正1545 大正27,p. 166c, l.24-p. 167a, l.1 6hB:大正1545 大正27,p. 151a, ll.2-6

6iA:大正1545 大正27,p. 151b, ll.1-6

6iB:大正1545 大正27?

ちなみに筆者の比定では,敦煌莫高窟北区石窟出土資料の少なくとも2断片(彭他 2004: 図 版12, 4. Uigur fragments: 54-1, 2(verso)及び図版13, 6. Tangut fragments: 54-1, 2)が同じ

「愛敬納息」に含まれる部分の断片である5)。Tangut fragments: 54-1は6eAと接合すると思 われる。2断片の西夏文と漢文の対応箇所を示せば次のようになる。

54-1:大正1545 大正27,p. 167a, l.2?

54-2:大正1545 大正27,p. 165a, ll.8-10?

Peald 6gは刊本断片2つの画像が公開されている。実見すると,これは1点の断片の表裏

であった。表裏ともに西夏文『金剛経』の一部6)である。現存する縦11×横7.5 cmという寸 法と体裁から,ロシアに所蔵される刊本の一つと同じ版7)と推定できる。漢文の対応箇所を示 せば次のようになる。

大正236 大正8,p. 752b, ll.8-11; p. 752a, l.28-b, l.2

Peald 6qはかつてBullit1989: 24(illustration 13)に図版が掲載された。西夏刊本『華厳経』

巻七十七の末尾に相当する。漢文の相当箇所は『大方広仏華厳経』(大正0279),大正10巻

(p. 428a, ll. 12-18)である。本稿で主に扱う資料3)との関係は2節で述べる。

このほか,刊本・折本の西夏文『法華経』巻四8)が完全な形で残る。木刻本であり,1折6行,

1行16字詰。縦33.3 cm×横10.7 cm(天地双線:天8.8 cm,地10.7 cm)。冒頭に仏画9)を伴う。

仏画を含み,計103折が残る。漢文の対応箇所を示せば次のようになる。

大正262 大正9,p. 27b, l.10-p. 34b, l.2210)

2. 2つの『華厳経』

プリンストン大学,Princeton East Asian Libraryには,西夏刊本『大方広仏華厳経』2点 が残る。a)首尾完結した巻七十七(以下「77A」)11)と,b)先述した,同じく巻七十七(以下

5) なお松澤博氏のご教示(私信)によると,天理大学附属天理図書館所蔵「西夏文經断簡」「敦煌遺片」

収録の断片群にも『阿毘達磨大毘沙論』が含まれている。筆者の整理番号と比定では,

「西夏文経断簡」T39-08:大正1545 大正27,p. 151a, ll.1-3

「敦煌遺片」T03-01:大正1545 大正27,p. 152c, ll.3-8

となる。すると,プリンストン所蔵品の一部,天理大学附属天理図書館所蔵品の一部,敦煌莫高窟 北区石窟出土資料の一部は,同じ資料が断片化した可能性が高いことになる。今後の詳細な考察が 俟たれる。

6) Peald 6gRはいわゆる「金剛経三十二分」でいう「第二十八分末から第二十九分題」,Peald 6gV

は「第二十九分」の一部である。荒川 2002: テキスト編56-57参照。

7) 筆者の分類ではVPC1あるいはVPC2タイプの小型折本と推定される。荒川 2002: 17, 23-24参照。

8) 整理番号は「No. 8-94-801.1」。

9) Heijdra and Cao 1992: 82-83に仏画部分全ての写真図版が掲載される。

10)「五百弟子受記品第八」から「見宝塔品第十一」が全て含まれ,完全に残る。西田編 2005: 43-66 に掲載される図版で分かるように,比較的残存部の多いロシア所蔵『法華経』巻四でさえ,90折 である(「見宝塔品第十一」後半を欠く)ため,本資料は2010年時点で確認できる最も完備した『法 華経』巻四といえる。

11)初めにHeijdra and Cao 1992において紹介され,所蔵の経緯,概観,活字本としての価値が論じ

られた資料である。同論文では布表紙,本文2折強,及び本文末尾2折の裏面,の写真が掲載される。

(4)

「77B」)の,末尾に近い部分の断片1折のみの二つである。それぞれ整理番号は8-94-801.2,

Peald 6qである。後述のように,二点は異なる版でありながら,同一巻が残る点,巻七十七

が中国・日本などの所蔵する木活字本に残らない部分である点など,頗る興味深く,それゆえ 貴重な資料であるといえる。

以下,77A,77Bを対照させる形で概要12)を示す。

両者は寸法,文字サイズともに異なる。77Aは縦31.5 cm×横11.8 cm(天地双線:天4.2

cm,地2.5 cm),西夏文字1字は1.5 cm四方である。77Bは縦28.3 cm×横11.4 cm(天地双

線:天3.8 cm,地2.2 cm),西夏文字1字は1.2 cm四方である。77Bの方が一回り小さい版

であることがわかる。77Bは左下に1.1 cm四方の所蔵印が押される。

77Aは完本,77Bは1折分のみの断片である。77Aは布製表紙も裏表に残る。この表紙部分は,

厚紙に茶色い布を貼った体裁で,一部に虫食いが見られる。寸法は縦31.7 cm×横11.8 cmで あるから本編1折より若干縦方向に長い。表紙中央やや上よりに縦18.3 cm×横3.9 cmの紙 が貼られ,枠の模様と西夏文字が印刷される。これは経題に相当する。本巻は「巻七十七」で あるが,西夏文は

綏哘戮坩丼購戸筍斡葆壮 夲

「大方広仏華厳経典巻第七 月」13)

となっている。

77Aは背表紙となる折り目部分が所々,水に濡れたように染みが生じている。77Bは全体が 77Aよりくすんだ色に変色し,上下の摩滅,左右の断裂・摩滅が激しい。

77Aの漢文相当箇所は『大方広仏華厳経』巻七十七(大正0279,いわゆる「八十華厳」),

大正10(pp. 419c-428a)である。77Bは計6行(ただし6行目は左半分が断裂)が残り,そ

の相当箇所は「巻七十七」の一部,大正10(p. 428a, ll. 12-18)である。

77Aは木活字であり,印面に濃淡の差が強い。常用される以下の文字などの活字は,頻用さ れるためか,特に濃い印面となる。

杉「〜の(格標識)」,掴「(男)子」,釜「悉く」,孤「随」,衿梵「菩薩」,俘「心」,閥「〜

ではない(否定を表す接頭辞)」,畑「また(接続詞)」,綏「大」,宵「諸」,勧勧「一切」

一方,77Bは木刻版本らしく,印面に濃淡が無く,文字も整然と並ぶため,77Aと印象を大き く異にする。

77Aは,薄い黄土色の紙で,漉き縞は縦方向,1 cmあたり8本確認できた。全部分,紙の 裏面14)に和紙が貼られて補修されている。77Bは,77Aより茶色がかった厚い紙であり,漉 き縞は確認できなかった。

77Bは最終行の西夏文字が半分断裂しており,おそらく断裂後,当該文字の右側に手書きで 正字(計14字)が補われている。ただし,下から2文字目「懈倦」は としているが,偏 が足りず,秩が正しい。もし77Aの同一部分を対照させて字の補足を行ったなら,このよう な誤りは起こらないはずであり,筆者は,77Bが断裂した後,77Aと一緒の収集品となる前に この修正が行われたと考える。

12)採寸は筆者による。筆者は折り目を全て延ばした状態では採寸しなかったが,Heijdra and Cao

1992: 76によれば,横64 cmの一枚紙に5折分が含まれるという。

13)西夏語では「七・第」のような語順である。また,「月」は函番号。本文1行目と対応する。

14)図書館での整理時の記入と思われるが,裏側上部に「Tangut-mov.type」,下部に整理番号「8-94- 801.2」が手書きで記されていた。

(5)

なお,77Bは,左下に漢文「宣授松江府僧録管主八謹施」の印 を持つ。

77Aは全112折。最後のみ4行,他は全て6行である。一部18字詰の箇所があるがほぼ1 行17字詰である。題名も入れた総字数は10,746字であり,かなりまとまった分量の資料とい える。なお,77Bは断裂しているものの,体裁は1折6行,1行17字詰であったと考えられる。

3. 『華厳経』巻七十七の価値

本資料は,同一版が日本・中国・ロシアなどに確認されていないことから,非常に貴重な資 料といえる。はじめに簡単に各国の所蔵16)について述べる。巻数はアラビア数字で表記する。

日本では,京都大学の二機関にまとまった数の『華厳経』(木活字刊本・折本)17)が所蔵さ れる。京都大学文学研究科図書館と京都大学人文科学研究所東アジア人文情報学研究センター である。前者の所蔵は巻1から巻5,巻4118),後者は巻6から巻10,巻36である。また,天 理大学附属天理図書館にも数点の断片19)があることが知られる。

中国では,北京・国家図書館に写本・刊本『華厳経』が大部収められている。刊本に限れば

『華厳経』の所蔵数は世界一であろう。近年2種の写真図録20)が公開されたので,その全容が 知られることになった。図録から筆者が整理した内訳(1断片のものから完本まで,また重複 する巻も含む。下線は完本)は,

写本・折本:48

泥活字刊本・折本:51, 71

木活字刊本・折本: 11, 12, 14, 15, 16, 19, 20, 21, 22, 23, 2621), 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 37, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 48, 51, 53, 54, 57, 59, 60, 61, 62, 63, 64, 65, 66, 67, 68, 69, 70, 71, 72, 73, 74, 75, 79, 80

である。このほか,寧夏回族自治区博物館蔵 木活字刊本・折本:76

及び,寧夏の羅雪樵氏蔵22)

木活字刊本・折本:26, 57

があるという23)。また,甘粛省博物館蔵にも若干が存在する。

刻本刊本・折本:3524), 4025),普賢行願品26)

15)管主八の事跡と西夏大蔵経との関連は常盤 1939,小川 1942,西田 1975: 解題22など参照。本稿 では絶対年代的な成立時期について議論しないが,この印が確かなら,77Bはいわゆる杭州彫版(大 徳六年(1302年)完成)の一つということになる。一方77Aは元刊本,あるいは明代の複製本で あるとみられる。筆者は相対年代的には77Bが77Aに先立ち成立したものと考える。

16)近年の出土資料を反映していないため,すでに十全なものとは言い難いが,『華厳経』を含む各国 所蔵の仏典目録は史 1988: 343-413(1993: 313-372)参照。

17)西田 1966: 290-291参照。日本蔵『華厳経』を一次資料として,国内では各種の研究,テキスト公 刊が行われた。西田 1975-77,小高 1999,高橋 2007などである。

18)巻41は石印本であり,他にも天理大学附属天理図書館,大阪大学外国学図書館に所蔵される。

19)西田 1966: 291,西田 1976: あとがき30-31,及び天理図書館所蔵西夏語仏典に関しては松澤 1990, 1994参照。

20)寧夏大学西夏研究中心他編 2005(6-12冊)及び寧夏社会科学院編 2005(1-4冊)。 21)ただし本巻は護封のみ。

22)史による羅雪樵氏所蔵品の「綜述」(史 2005)参照。

23)寧夏回族自治区所蔵『華厳経』については李・王(2005: 4)参照。

(6)

ロシアでは上記のような木活字本ではないものの,カラホト出土の各種『華厳経』が所蔵さ れる27)。整理番号などを割愛し,おおまかな体裁別に残存巻数を示すと以下のようになる(下 線はКычановの記述によれば完本とされるもの)。

写本・折本: 10, 12, 14-20, 21, 22, 23, 24-27, 28, 29, 30, 31, 32, 33-38, 39, 40(以上「四十 華厳」), 1, 2, 4, 7, 8, 10, 11, 13, 14-16, 17, 19, 20, 21, 23, 24, 25, 26, 28, 30, 31, 32, 35, 37, 39, 42, 45, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 62, 64, 72, 74, 77, 78, 79, 80(以上「八十華厳」),21(「八十華厳」?異本)

写本・冊子本:1-50, 51-80(「八十華厳」),1-80(「八十華厳」) 刊本・胡蝶装本:巻数不明?,普賢行願品(4種9点)

刊本・折本:普賢行願品(1種2点)

各種の写本は含まれるものの,ロシア所蔵品には,本稿で扱う,一連の木活字『華厳経』に 相当するものは確認できない。

以上から,本稿で扱う資料と同版と考えられる,西夏文『華厳経』(木活字)各巻の関係を まとめると次のようになる。

日本:1-10, 36, 41

中国:11, 12, 14-16, 19-23, 26-35, 37, 39-46, 48, 51, 53, 54, 57, 59-75, 79, 8028)

すなわち,第一に,本稿で扱う「巻七十七」は日中の既存図録,写真図版にないこと29),第二に,

日中の所蔵巻数と相補分布の関係にあり,両者のコレクションと関係が深いことが推測されよ う。このため,本資料の図版の公開30)と資料化は既存の資料の補完ともなる。以下,凡例に続き,

テキストと訳注,図版(参考のためPeald 6q=77B断片も)を掲載する。解説部分とテキスト 部分の参考文献は,テキスト編末に挙げる。

4. テキスト及び訳注

凡例

・原文1行ごとに,西夏文字,荒川による推定音表記,和訳,対応する漢文を挙げる。「001-1」 は「1折目1行目」を表わす。字数の多い「001-3」のみ2行に分ける。また,この行は西 夏文独自のもので,対応する漢文はない。

・前述のように,華厳経には,西夏語韻書などに見られる規範的な字形と若干異なる字形が確 認できる。□で囲んだ字は筆者が標準的な字形に改めたものである。注において,原文の字 形を画像形式で示し,異なる部首要素に関して説明することとする。

・推定音は荒川2002などによる。ただし声調表記を上付き文字に改める。

24)『中国蔵西夏文献』16(寧夏大学西夏研究中心他編 2005: 353)では活字本とされているが,図版を 見る限りは刻本にしかみえない。

25)この「巻四十」とはいわゆる「四十華厳」の最終巻である。西夏語訳には「四十華厳」「八十華厳」

の訳出が知られる。またいわゆる『普賢行願品』も独立した経典として流布していた。

26)巻数が記されず,『大方広仏華厳経普賢行願品』として一巻にまとめられたもの。

27)ロシア所蔵『華厳経』及び『大方広仏華厳経普賢行願品』についてはКычанов et al. 1999: 301- 320参照。

28)僅少な部分も含むため,許 2009: 102の整理と数箇所異なる。

29)ロシア所蔵品には完本があるようだが,写本である。本資料とのテキストの異同は今後の課題とな ろう。

30)図書館から撮影及び公開の許可を得て,筆者の撮影した写真画像を使用する。

(7)

・和訳は現代仮名遣いとし,平易な日本語となるよう心がけた。複合語などが改行で分かれる 際,-(ハイフン)で表わした。西夏語訳が必ずしも漢訳と対応しない箇所も少なくないが,

西夏語としての訳を記した。人称接尾辞の訳出の際は,「私は,お前は」を動詞の直前に置 いた。

・「無我」のような仏教語で,本来の西夏語語順に関わらない訳が適当な場合は「 」に示した。

また,原文にない表現であるが,理解しやすくするため( )内に適宜語句を補った。直訳 ではわかりにくい部分は(= )で言い換えを行った。原文の誤表記の訳は(* )で示した。

・参考のため,漢文華厳経巻七十七の対応漢文を挙げた。漢文,読点は大正10,pp. 419-428 に従う。

・注は,字形については西夏文字,語義などについては和訳部分に,それぞれ注番号を振った。

なお,西夏文字には適宜,西夏研究者に広く利用される《夏漢字典》31)コード番号を与えた。

「李0001」なら「《夏漢字典》コード番号1」を指す。西田1977「西夏語・漢語対照語彙」

に言及する場合も,適宜文字番号を付した。

・本稿では文字鏡研究会の許可を得て,西夏文字に今昔文字鏡外字フォントを使用している。

001-1

綏 哘 戮 坩 丼 購 戸 筍 斡 葆 紳 葆 壮 夲

2tha 2cha: 2waq 1tha 1fa:q 2sho: 2ldwIr 2ryeq2 ?L? 1sha:q 2'aq 1sha:q 2tseu 2ne:

大方広仏華厳経典巻第七十七 月32)

大方廣佛華嚴經卷第七十七 001-2

僖 磁 煽 糘 莅 縅 橲 艸 僖 亨

1thon 1gu:' 1thyen 1shyin 2'uq 1shI: 1chya 1na 1thon 2lhe?

33)于闐三蔵實叉難陀(が)訳す 于闐國三藏實叉難陀奉制譯 001-3a

熕 孤 瓦 捕 躋 眄 蔡 剞 做 慊 偐 鈍

1tshwyu 1byu 1ca: 1jyu 1'aq 2sha: 2'wI:r 1jwo:n 1na:q 2lyen 2syen 2senq 天に随い道を明らかにし,武を現し文を宣揚し,神謀,叡智(は), 001-3b

怐 事 鯉 坐 挟 酎 悵 擲 晃 虻 懺 猫

?wo? 2dzyen 1non ?T? 1ze: 2ngwe 1thyo' 1bu:' 1kIr 1dzI: 2mi' 1dwa:r 義を制し邪を去らせ,惇く和しありがたく恭順させる 皇帝(が)賢校(する)34)

31)李編著 2008は李編著 1997の増補修正本である。旧版の字数は6000,新版では6074と増加する。コー ド番号は5995以降変更されているが,本稿で言及する文字には関係しない。

32)経典の函番号を指す。例えば巻第一から第十は「解」,巻三十六は「鉄」である。西田 1975: 2及 び西田 1976: 375参照。

33)「唐」及び文末の「陀」,韻母は異なるが同一声母(定母:中古音 d-)音節の音写に同一の西夏文 字 僖1thonが使用される。ただし本資料では「那由他」(透母:中古音 th-)の音写(040-2ほか)

にも 僖1thonが使用される。

(8)

001-4

碁 茖 鄭 揃 教 紳 庠 壮 杉 紳 肛

1tsyer 2kyeq 2'o 1te: 1soq 2'aq 1gwyI' 2tseu 1'e: 2'aq 1'a:r 法界に入る品 第三十九の十八

入法界品第三十九之十八 001-5

楕 蚌 剪 捷 荷 腺 脾 脾 蒡 縅 悵 悉 丼 漢 空 演 區

1chI: 2zyonq 2neu' 2war 1zi:q 2li: 2me:' 2me:' 1zI:r 1shI: 1thyo' 1phi: 1fa:q 1'a 2wi 2do 2nI:

ある時,善財童子は徐々に35)南行し,妙意華門城の所に到り36), 爾時善財童子。漸次南行。至妙意華門城。

001-6

哘 榎 荷 腺 哘 廨 荷 召 珎 杉 款 表 珎

37) 杉 試 亀

2cha: 1wi' 1zi:q 2li: 2cha: 2je: 1zi:q 1menq 1nyI' 1'e: 2le: 1tha: 1nyI' 2rer 1'e: 2do 1tshweu 徳を生む童子,徳を有する童女二人を見て,その二つの足を礼拝し,

見徳生童子有徳童女。頂禮其足。

002-1

偖 哢 関 畑 謎 国 引 戦 郁 偶 譲 組 偐 淙 粉 噴 罩

1cyIr 2ror 1jwa: 1no'' 2yu 2ri:r 1pa:q 2phyo' 2thI: 2syu 2naq 2'I: 2syen 2myeq'2 1shi: 2nga 1'a?

右回りし終えて,また前に合掌し,このように言う。「聖者よ。先に私は,阿- 右遶畢已。於前合掌。而作是言。聖者。我已先發阿-

002-2

拭 全 苻 犂 擡 犂 棺 闇 俘 桂 矗 噴 衿 梵 衿 梵 杉

2nu' 1ton 1lo 1san 2meu: 1san 1po 1tyen 1ne:' 1'a? 1shwi: 2nga 2jyan 2tse: 2jyan 2tse: 1'e:

-耨多羅三藐三菩提心を起こし38),菩薩が菩薩の

-耨多羅三藐三菩提心。而未知菩薩 002-3

格 扨 膏 衿 梵 杉 瓦 枇 膏 椛 厶 扣 殳 遅

39)

?ji? 1'yeu 1she: 2jyan 2tse: 1'e: 1ca: 2dyonq 1she: 1mI: 1nwI 1leu 1ti:q 2ne: 1sho:n 2nga 1'e:

業を学ぶによるか,菩薩の道を修めるによるかを知らず,ただ願う(のは),慈悲を私に 云何學菩薩行。云何修菩薩道。唯願慈哀。爲我-

34)「天に随い…去らせる」は4句ごとにひとまとまりの表現である。この1行に関しては西田 1975:

解題7参照。

35)脾2me:'は単独では「下,末」。重複形で「だんだん,次第に」のような意味となる。李4625参照。

36)「〜まで来る」のように,「ある場所への到達」を示す際の着点は,格標識「〜に」と本動詞「到る」

を組み合わせた 喬區2'a 2nI:などで示される(荒川 2010: 166)。本資料ではこの組み合わせの例は 見られず,區2nI:は「到る,遍く」「普賢」「乃至」のような文脈で出現する。區2nI:が本動詞「到 る」として使用される場合,着点は 演2do「〜の所に」,孚2'u「〜の中に」によって表される。

37)原文では のように若干異なる字形の活字である。原文は偏が一画少ない。

38) 1人称代名詞 噴2nga - 噴2ngaの呼応(代名詞独立形―動詞接尾辞)が確認できる。ここでは「行 為者」である「私」と人称接辞が呼応している。

39)原文では のように,偏の形が大きく異なる字形の活字である。

(9)

002-4

嫉 赫 豕 噴 棔 荷 臣 荷 召 剪 捷 杉 譲 組 剪 刳 掴

2rI:r 1tshe:' 1wi: 2nga 1dzyen 1zi:q 1zi: 1zi:q 1menq 2neu' 2war 1'e: 2naq 2'I: 2neu' 1gwoq2 2gi:

説くこと40)を私に為せ41)」時に童子童女は善財に告げて言う。「善男子よ。

-宣説。時童子童女。告善財言。善男子。

002-5

噴 子 衿 梵 杉 軆 幃 菩 渟 儀 弟 遭 郁 菩 渟 当 遭

2nga 1nI: 2jyan 2tse: 1'e: 1vi:q' 1ny'e:' 2byi 2lheu 1lda:q 1ri:r 1kI: 2thI: 2byi 2lheu 2ri:r 1kI:

私たちは菩薩の幻に住するのを解脱することを明らかにし得て42),この解脱を得て,(故に) 我等證得菩薩解脱。名爲幻住。得此解脱故。

002-6

畑 挧 茆 茖 勧 勧 釜 軆 幃 扞 亳 孤 蒲 哀 廖 榎 勧

1no'' 2ryeq'2 1ryur 2kyeq 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 1'eu: 1no'' 1byu 1sho 1lI: 1'i: 1wi' 2ngo:r また方(々の)世界一切は皆,幻に住する因縁により生じるなり。衆生43)一-

見一切世界皆幻住。因縁所生故。一- 003-1

勧 釜 軆 幃 雄 糎 炊 孤 蒲 哀 茆 計 勧 勧 釜 軆 幃

2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 1syen 1zi:q 2nyI' 1byu 1sho 1lI: 1ryur 1kha 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' -切は皆幻に住する。業煩悩により生じるなり。世間一切は皆幻に住する。

-切衆生皆幻住。業煩惱所起故。一切世間皆幻住。

003-2

栄 飽 巡 側 子 吋 孤 孤 亳 蒲 哀 碁 勧 勧 釜 軆 幃

1byu 1me: 1dyu 2dzu 1nI: 1cyI' 1byu 1byu 1no'' 1sho 1lI: 1tsyer 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:'

「無明」,有する愛等,続いて縁により44)生じるなり。法一切は皆幻に住する。

無明有愛等展轉縁生故。一切法皆幻住。

40)完了態を示す「接頭辞1」(嫉2rI:rなど)と動詞の組み合わせは,名詞化と見なせる例が頻出する。

以降は適宜,「〜した(所の)もの,〜すること」のように名詞形として訳す。西夏語動詞句構造 における「接頭辞1,2」の種類と機能は西田 1989: 418l-420l参照。

41)ここでも1人称代名詞 噴2nga - 噴2ngaの呼応が見られる。ただしこちらでは,「目的語」となる「私」

(格標識 杉 で標示される)と人称接辞が呼応している。

42)「明らかにし得て」「この解脱を得て」の表現には二点留意する必要がある。一つは,理由は明らか ではないが,動詞「得る」が声調のみ異なる別の字形 弟1ri:r/当2ri:rで区別されていること,一つ は本来動詞接頭辞であるべき 遭1kI:が動詞に後続することである。遭1kI:の特異な振る舞いについ ては本文中他にも例が見られる。

43)「衆生」は西夏語では 廖榎「衆・生」のように逐語的に訳されているが,その他の仏典,そして「華 厳経」異本では 衿呟2jyan 1chyu「情を持つ(もの)」のように訳されることもある。華厳経異本と の異訳対照は西田 1975: 解題25に詳しい。

44)同一の表現に対して,003-2, 3では語順が異なる。それぞれ 孤亳1byu 1no'',亳孤1no'' 1byuであ る。華厳経では後者の表現が一般的であり,前者はあるいは活字の誤配列か。後者については西田 1977: 214, 215-061の項参照。

(10)

003-3

噴 款 子 遇 遇 軆 亳 孤 蒲 哀 教 昏 勧 勧 釜 軆 幃

2nga 2le: 1nI: 2mI 2mI 1vi:q' 1no'' 1byu 1sho 1lI: 1soq 2zyonq 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:'

「我見」等は種種の幻縁により生じるなり。三世一切は皆幻に住する。

我見等種種幻縁所生故。一切三世皆幻住。

003-4

噴 款 子 殺 隙 鈍 孤 蒲 哀 廖 榎 勧 勧 榎 設 牛 玖

2nga 2le: 1nI: 2chI: 2chu:' 2senq 1byu 1sho 1lI: 1'i: 1wi' 2ngo:r 2ngo:r 1wi' 2dza:r 2nar 1sI:

「我見」等は顛倒智により生じるなり。衆生一切(の)生,滅,老,死45), 我見等顛倒智所生故。一切衆生生滅生老病死

003-5

孟 憧 海 糎 釜 軆 幃 繿 錦 聳 緡 孤 蒲 哀 妲 辷 勧

1'a 1me:' 1ci:q 1zi:q 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 2tshoq 1laq 2pho: 2Kar 1byu 1sho 1lI: 2lhe? 1'onq 2ngo:r 憂悲苦悩は皆幻に住する。虚妄分別により生じるなり。国土一-

憂悲苦惱皆幻住。虚妄分別所生故。一- 003-6

勧 釜 軆 幃 殺 隙 俘 隙 款 隙 栄 飽 孤 眄 哀 亭 觴

2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 2chI: 2chu:' 1ne:' 2chu:' 2le: 2chu:' 1byu 1me: 1byu 2sha: 1lI: 2qyiq 1mi:

-切は皆幻に住する。顛倒,心倒,見倒,「無明」により現れるなり。声聞,

-切國土皆幻住。想倒心倒見倒無明所現故。一切聲聞- 004-1

一 楾 勧 勧 釜 軆 幃 鈍 欹 聳 緡 孤 毅 哀 衿 梵 勧

1tenq 2der 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 2senq 1pa: 2pho: 2Kar 1byu 1shyen 1lI: 2jyan 2tse: 2ngo:r 独覚46)一切は皆幻に住する。智断分別により成すなり。菩薩一-

-辟支佛皆幻住。智斷分別所成故。一- 004-2

勧 釜 軆 幃 詮 速 秡 凾 廖 榎 杉 稿 薪 宵 格 殳 碁

2ngo:r 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 1'e: 2rar 1wI' 2ni: 1'i: 1wi' 1'e: 1dzyu 2dze:' 1ryur ?ji? 1ti:q 1tsyer -切は皆幻に住する。自ら調伏でき,衆生を教化する諸の行願法

-切菩薩皆幻住。能自調伏教化衆生諸行願法之- 004-3

孤 毅 哀 衿 梵 廖 悗 勧 勧 軆 装 速 秡 宵 嫉 豕 豕

1byu 1shyen 1lI: 2jyan 2tse: 1'i: 2lwyu 2ngo:r 2ngo:r 1vi:q' 2di:' 2rar 1wI' 1ryur 2rI:r 1wi: 1wi:

により成すなり。菩薩の衆会一切,変化し調伏する,諸の為すこと -所成故。一切菩薩衆會變化調伏諸所施爲

45)対応する漢文は「生老病死」であるから逐語的には対応していない。

46)対応する漢文は「辟支佛」。西夏語では 一楾「独り・覚る」であるから,音写ではなく意訳してい ることになる。

(11)

004-4

棘 釜 軆 幃 殳 鈍 軆 孤 毅 哀 款 遭 剪 刳 掴 軆 逆

1ta: 2zi: 1vi:q' 1ny'e:' 1ti:q 2senq 1vi:q' 1byu 1shyen 1lI: 2le: 1kI: 2neu' 1gwoq2 2gi: 1vi:q' 2mI' とは皆幻に住する。願智幻により成すなりと見て(?)47)。善男子よ。幻境の

皆幻住。願智幻所成故。善男子。幻境 004-5

詮 厰 愈 赫 鞄 飽 剪 刳 掴 噴 子 珎 假 扣 郁 軆 幃

1'e: 2tsyer2 2seu' 1tshe:' 2ti:q 1me: 2neu' 1gwoq2 2gi: 2nga 1nI: 1nyI' 2dzwo: 1leu 2thI: 1vi:q' 1ny'e:' 自性は説く所ない(=不可思議である)。善男子よ。我等二人はただ,この幻に住する(のを) 自性不可思議。善男子。我等二人。但能知此幻住

004-6

菩 渟 厶 遭 乳 宵 棺 珸 莎 捌 珸 識 飽 宵 税 軆 鉄

2byi 2lheu 1nwI 1kI: 2dze: 1ryur 1po 1tsa 2ma 2ngaq 1tsa 2byu 1me: 1ryur 2naq 1vi:q' 2nir 解脱することを知り余す(?)48)。諸菩薩摩訶薩は,辺のない(=極まりない)諸事の幻網 解脱。如諸菩薩摩訶薩。善入無邊諸事幻網。

005-1

孚 鄭 凾 噴 子 建 杉 哘 聘 格 厶 赫 好 凾 遭 棔 荷

2'u 2'o 2ni: 2nga 1nI: 2tha: 1'e: 2cha: 1'o'' ?ji? 1nwI 1tshe:' 2lyonq 2ni: 1kI: 1dzyen 1zi:q

(の中)に入ることができる。我等は彼49)の功徳業を知り,説くことがいかにできる50)(のか)」時に童- 彼功徳行。我等云何能知能説。時童-

005-2

腺 荷 召 詮 菩 渟 廨 嫉 赫 関 畑 愈 赫 飽 宵 剪 獪

2li: 1zi:q 1menq 1'e: 2byi 2lheu 2je: 2rI:r 1tshe:' 1jwa: 1no'' 2seu' 1tshe:' 1me: 1ryur 2neu' 2chi:

-子童女は自ら解脱することを説き終わる。また,思議することのない諸善根- -子童女。説自解脱已。以不思議諸善根-

005-3

捐 凝 剪 捷 詮 頂 袈 常 貅 輿 籀 撲 視 郁 偶 譲 組

1'yi 2ngu 2neu' 2war 1'e: 2lyuq 1wI' 1lhi' 1sweu 1nyeq2 2da: 2wi 1phi: 2thI: 2syu 2naq 2'I:

-力を以て,善財自身を柔軟光沢となさしめて,このように言う。

-力。令善財身柔軟光澤。而告之言。

47)動詞接頭辞といわれる 遭1kI:が動詞 款「見る」に後続する現象が,ここにも確認できる。

48)対応する漢文は「但能」であるが,西夏語の 乳 「他の,余」(李1801)の登場は奇妙である。乳 に動詞接頭辞が先行するため,何かの動詞とこの字を誤ったものか。

49) 3人 称 代 名 詞 と 遠 称 指 示 代 名 詞 の 一 つ は, 同 じ 建2tha:で 表 さ れ る と い わ れ る(西 田 1989:

413l-413rなど)。本資料では 建杉2tha: 1'e:で登場する2例(本例及び084-6)しか,建 を3人称 代名詞「彼」と見なしうるものはなかった。他は全て「それ」と訳した。

50)動詞に後続する助動詞 凾2ni:「〜できる」の後に 遭1kI:が後続する。これも一般的ではない 遭

1kI:の用例である。

(12)

005-4

剪 刳 掴 郁 喬 蒲 蒡 縅 妲 誇 僭 剳 棘 搾 給 疚 誇

2neu' 1gwoq2 2gi: 2thI: 2'a 1sho 1zI:r 1shI: 2lhe? 1gI: 2we: 2me:' 1ta: 2ngyon 2rer 2'onq 1gI:

「善男子よ。これより51)南行すると,一つの国52)があり,名は海岸(である)。一つの園が 善男子。於此南方。有國名海岸。

005-5

僭 剳 棘 綏 購 江 建 計 戮 綏 囓 絋 誇 僭 剳 棘 奎

2we: 2me:' 1ta: 2tha 2sho: 2tshenq 2tha: 1kha 2waq 2tha 1du: 2ryen 1gI: 2we: 2me:' 1ta: 1phi:

あり,名は大荘厳(である)。その中に一つ広大な楼閣があり,名は毘- 有園名大莊嚴。其中有一廣大樓閣。名毘-

005-6

芯 恒 夬 購 江 莅 郁 子 釜 衿 梵 剪 獪 螺 尋 孤 桂

1lu 1ca 1no 2sho: 2tshenq 2'uq 2thI: 1nI: 2zi: 2jyan 2tse: 2neu' 2chi: 1ma:' 2tsha: 1byu 1'a?

盧遮那荘厳蔵(である)。これら53)は皆,菩薩の善根,果報により 盧遮那莊嚴藏。從菩薩善根果報-

006-1

蒲 瀘 衿 梵 頒 捐 殳 捐 詮 慟 捐 懺 麼 捐 孤 桂 蒲

1sho 2si: 2jyan 2tse: ?li? 1'yi 1ti:q 1'yi 1'e: 2dzyu 1'yi 2mi' 2myeq'2 1'yi 1byu 1'a? 1sho 生じたもの。菩薩の念力,願力,自在力,神通力により生じた

-生。從菩薩念力願力自在力神通力生。

006-2

瀘 衿 梵 剪 獪 悶 謂 孤 桂 蒲 瀘 衿 梵 杉 哘 紋 鈍

2si: 2jyan 2tse: 2neu' 2chi: 1cyir 2'yu 1byu 1'a? 1sho 2si: 2jyan 2tse: 1'e: 2cha: 1lo: 2senq もの。菩薩の善根,方便により生じたもの。菩薩の福徳,智-

從菩薩善巧方便生。從菩薩福徳智- 006-3

蛻 孤 桂 蒲 瀘 剪 刳 掴 愈 赫 飽 菩 渟 幃 淙 衿 梵

?zi? 1byu 1'a? 1sho 2si: 2neu' 1gwoq2 2gi: 2seu' 1tshe:' 1me: 2byi 2lheu 1ny'e:' 2myeq'2 2jyan 2tse:

-慧により生じたもの。善男子よ。思議することのない解脱に住する者,菩薩は,

-慧生。善男子。住不思議解脱菩薩。

51)喬蒲2'a 1shoの連続は逐語的には「〜に・生じる」であるが,奪格「〜から」を表わす。この場合「場 所」を起点とする表現である。荒川 2010: 165参照。

52)対応する漢文のないこの表現は「国・一つの」のような語順である。本資料では,ほぼ同一の内容 に対して 桂妲1'a? 2lhe?「一・国」(057-6),岐妲辷1leu 2lhe? 1'onq「一・国・土」(073-3)のように,

多種の表現が確認できるのが興味深い。なおKeppingは,誇 は「名詞に後置される不定冠詞」と みなす(Кепинг 1985: 102)。

53)指示代名詞の複数標示は 子1nI:による場合と 巷2ngwerによる場合の両者が存在する(例えば Кепинг 1985: 60, 63)。巷2ngwerは「数」を意味する場合と,複数標示機能を持つ場合がある。本 資料では一貫して前者の用法である。

(13)

006-4

綏 撰 俘 凝 宵 廖 榎 杉 郁 偶 逆 茖 眄 郁 偶 購 江

2tha 1wu:' 1ne:' 2ngu 1ryur 1'i: 1wi' 1'e: 2thI: 2syu 2mI' 2kyeq 2sha: 2thI: 2syu 2sho: 2tshenq 大悲心を以て,諸衆生に,このように境界を現わし,このように荘厳を

以大悲心。爲諸衆生。現如是境界。集如是莊嚴。

006-5

藩 觴 池 棺 珸 莎 捌 珸 授 冂 榎 鞄 誡 伎 褫 蜿 畑

1me: 1mi: 2li 1po 1tsa 2ma 2ngaq 1tsa 2mIr 2wI: 1wi' 2ti:q 1wa: 1ma: 1wi:q 1jI: 1no'' 集める。弥勒菩薩摩訶薩は,根本を生んだ所,父母,眷属及び

彌勒菩薩摩訶薩。安處其中。爲欲攝受本所生處父母眷屬及 006-6

宵 輾 盍 杉 挈 訐 毅 犀 視 搜 亳 畑 表 樫 榎 徂 樫

1ryur 2se: 2yu 1'e: 1'eu' 1'ye 1shyen 1wi 1phi: 2kyeq 1no'' 1no'' 1tha: 1thu' 1wi' ?lhe? 1thu' 諸人民を摂受し,成熟するをなさしめんと欲する故に。またその同じ生を受け,同じ 諸人民。令成熟故。又欲令彼同受生同

007-1

枇 溪 樫 廖 榎 杉 釜 綏 蕁 計 亂 日 弟 視 搜 亳 畑

2dyonq 1jenq 1thu' 1'i: 1wi' 1'e: 2zi: 2tha 2'wuq 1kha 1gwI: 2zo 1ri:r 1phi: 2kyeq 1no'' 1no'' 修行をし,同じ衆生を皆大乗の中に,堅固を得さしめんと欲する故に。また

修行衆生。於大乘中。得堅固故。又欲令 007-2

表 廖 榎 勧 勧 幃 鞄 刮 孤 剪 獪 孤 釜 毅 偏 視 搜

1tha: 1'i: 1wi' 2ngo:r 2ngo:r 1ny'e:' 2ti:q 2ldwi:q' 1byu 2neu' 2chi: 1byu 2zi: 1shyen 2'eu: 1phi: 2kyeq 彼の衆生一切が住する所の地に随い,善根に随い皆成就せんと欲する

彼一切衆生。隨住地隨善根皆成就 007-3

亳 畑 玻 杉 衿 梵 菩 渟 漢 捕 濡 搜 亳 衿 梵 勧 勧

1no'' 1no'' 2ni: 1'e: 2jyan 2tse: 2byi 2lheu 1'a 1jyu 2ne' 2kyeq 1no'' 2jyan 2tse: 2ngo:r 2ngo:r 故に。またお前に菩薩の解脱門を顕示せんと欲する故に。菩薩一切

故。又欲爲汝顯示菩薩解脱門故。顯示菩薩遍一切 007-4

演 釜 區 詮 慟 榎 徂 捕 濡 搜 亳 衿 梵 遇 遇 頂 凝

2do 2zi: 2nI: 1'e: 2dzyu 1wi' ?lhe? 1jyu 2ne' 2kyeq 1no'' 2jyan 2tse: 2mI 2mI 2lyuq 2ngu の所に皆到り,自主(=自ら)が生を受けるのを顕示せんと欲する故に。菩薩が種種の身を以て 處受生自在故。顯示菩薩以種種身普現

007-5

廖 榎 勧 勧 杉 謎 国 釜 眄 侖 稿 薪 捕 濡 搜 亳 衿

1'i: 1wi' 2ngo:r 2ngo:r 1'e: 2yu 2ri:r 2zi: 2sha: 2'yu 1dzyu 2dze:' 1jyu 2ne' 2kyeq 1no'' 2jyan 衆生一切の前に遍く現れ,常に教化するのを顕示せんと欲する故に。菩-

一切衆生之前常教化故。顯示菩-

(14)

007-6

梵 綏 撰 捐 凝 茆 計 罪 捷 勧 勧 釜 挈 閥 壻 捕 濡

2tse: 2tha 1wu:' 1'yi 2ngu 1ryur 1kha 2'wuq 2war 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1'eu' 1mi: 1dwyer 1jyu 2ne' 薩が大悲力を以て世間の資財一切を皆摂り,厭わないのを顕示せんと

薩以大悲力普攝一切世間資財。而不厭故。

008-1

搜 亳 衿 梵 宵 格 釜 枇 格 勧 勧 厶 宵 仮 吟 整 捕

2kyeq 1no'' 2jyan 2tse: 1ryur ?ji? 2zi: 2dyonq ?ji? 2ngo:r 2ngo:r 1nwI 1ryur 1'e: 1khwa 2ka 1jyu 欲する故に。菩薩が諸行を皆修め,行一切を知り,諸相を遠く離れるのを顕-

顯示菩薩具修諸行。知一切行。離諸相故。顯- 008-2

濡 搜 亳 衿 梵 宵 宵 榎 徂 榎 勧 勧 釜 仮 飽 梵 捕

2ne' 2kyeq 1no'' 2jyan 2tse: 1ryur 1ryur 1wi' ?lhe? 1wi' 2ngo:r 2ngo:r 2zi: 1'e: 1me: 2tse: 1jyu

-示せんと欲する故に。菩薩が所々に生を受け(るものの),生一切は皆相がないのを悟ることを顕-

-示菩薩處處受生。了一切生皆無相故。

008-3

濡 搜 亳 建 孚 玉 幃 玻 表 演 衿 梵 衿 梵 杉 格 溪

2ne' 2kyeq 1no'' 2tha: 2'u 2no 1ny'e:' 2ni: 1tha: 2do 2jyan 2tse: 2jyan 2tse: 1'e: ?ji? 1jenq 示せんと欲する故に。その中に安住し54),お前はその所で,菩薩が菩薩の業を行う 汝詣彼問。菩薩云何行菩薩行。

008-4

膏 衿 梵 瓦 枇 膏 衿 梵 毓 扨 膏 衿 梵 俘 菽 膏 衿

1she: 2jyan 2tse: 1ca: 2dyonq 1she: 2jyan 2tse: 1kyi 1'yeu 1she: 2jyan 2tse: 1ne:' 1se 1she: 2jyan のか,菩薩の道を修めるのか,菩薩の戒を学ぶのか,菩薩の心は清いのか,菩-

云何修菩薩道。云何學菩薩戒。云何淨菩薩心。

008-5

梵 殳 蒲 膏 衿 梵 瓦 罪 瀘 潯 藩 膏 衿 梵 杉 幃 鞄

2tse: 1ti:q 1sho 1she: 2jyan 2tse: 1ca: 2'wuq 2si: 2gyu 1me: 1she: 2jyan 2tse: 1'e: 1ny'e:' 2ti:q -薩の願を起こすのか,菩薩の道を助けるものを集めるのか,菩薩の住する所の

云何發菩薩願。云何集菩薩助道具。云何入菩薩所- 008-6

刮 計 鄭 膏 衿 梵 杉 棺 苻 則 跫 膏 衿 梵 杉 榎 飽

2ldwi:q' 1kha 2'o 1she: 2jyan 2tse: 1'e: 1po 1lo 2mi:' 1sI 1she: 2jyan 2tse: 1'e: 1wi' 1me:

地の中に入るのか,菩薩の波羅蜜を満たすのか,菩薩の生の無いことを -住地。云何滿菩薩波羅蜜。云何獲菩薩無生-

54) 006-5の対応漢文「安處其中」の訳出がこの場所で現れる。

表       綏      哘       納        杉         蛇       泳      防      蔟    噴

参照

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