九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
サウナ ニヨル セイリ シンリ ハンノウ ト カンゴ ヘノ オウヨウ
宮園, 真美
九州大学大学院保健学部門 臨床看護学講座
https://doi.org/10.15017/19720
出版情報:Kyushu University, 2010, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
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第5章
総括
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本 研 究 ではサウナ使 用 時 の生 理 ・心 理 反 応 を明 らかにし看 護 に応 用 するために、健 常 若 年 者 への実 験 および健 常 高 齢 者 への実 験 を行 い、基 礎 的 資 料 を得 た。また、そ の資 料 を基 に、入 院 患 者 へのフットサウナを行 い3日 間 連 用 前 後 の睡 眠 評 価 を行 った。
本 章 では、各 章 の内 容 を要 約 し、本 研 究 から得 られた結 果 をまとめ、さらに今 後 の課 題 を明 確 にする。
第 1章 では、サウナの種 類 とその効 果 について、特 に一 般 的 なフィンランドサウナに ついて先 行 研 究 を基 に述 べた。現 在 、わが国 ではサウナを、循 環 器 医 療 領 域 におい て、温 熱 効 果 による末 梢 血 管 拡 張 作 用 を有 効 に使 った温 熱 療 法 として活 用 しその研 究 が盛 んである。血 管 拡 張 のみならず、その波 及 効 果 は、疼 痛 や疲 労 回 復 にも効 果 があるとされている。看 護 においても温 熱 刺 激 を利 用 した温 罨 法 などを実 施 してきてい るが、科 学 的 なエビデンスを基 にしたサウナによる積 極 的 な看 護 への活 用 については 未 踏 の域 である。そのため、今 後 、サウナによる温 熱 効 果 を積 極 的 に活 用 し、看 護 へ 応 用 するための可 能 性 について考 察 し、今 後 サウナを看 護 へ応 用 するために必 要 な 基 礎 的 資 料 を 得 るた めの 、 本 研 究 の 背 景 、 目 的 およ び 本 論 文 の 構 成 に つ い て示 し た。
第 2章 では、サウナを看 護 へ適 用 する際 に必 要 となる基 礎 的 資 料 を得 るために、まず 健 常 若 年 者 におけるサウナ使 用 時 の生 理 ・心 理 反 応 について検 討 した。ここで使 用 するサウナは、今 後 、看 護 に応 用 することを考 慮 し、身 体 的 負 担 の少 ない臥 床 体 位 で 使 用 できるドーム型 サウナとした。サウナ実 施 における温 度 条 件 の限 界 を明 確 にする ために、ドーム型 サウナの温 度 を通 常 のサウナ浴 で使 用 される温 度 70-120℃に近 い 総 出 力 100%の最 高 温 度 HL(70-90℃)と、温 熱 療 法 で使 用 される温 度 60℃に近 い総 出 力 50%の中 間 温 度 ML(60-85℃)の2条 件 で設 定 し実 験 を行 った。 測 定 項 目 は、直 腸 温 、熱 補 償 法 による深 部 体 温 (額 )、心 拍 数 、および血 圧 であった。なお、その後 の 高 齢 者 や入 院 患 者 への適 用 のために、熱 補 償 法 による深 部 体 温 (額 )と直 腸 温 との関 連 性 を検 討 した。またサウナ前 後 の体 重 測 定 、採 血 、実 施 中 の温 冷 感 、温 熱 的 快 適 感 についての主 観 申 告 についても調 査 した。ドーム型 サウナ使 用 による生 理 反 応 では、
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2条 件 間 の差 は認 められなかった。深 部 体 温 は約 0.8℃上 昇 し、循 環 血 液 量 の増 加 に より収 縮 期 血 圧 および心 拍 数 の上 昇 が認 められた。拡 張 期 血 圧 の低 下 から末 梢 血 管 拡 張 および末 梢 血 管 抵 抗 の低 下 が示 唆 された。サウナ中 からサウナ後 にかけて多 量 の発 汗 を 認 め、 体 重 減 少 量 は810~840gであ った。サウナ実 施 後 に は体 重 あたり約 1.3%の脱 水 を認 めたが症 状 が発 現 するほどではなかった。実 験 前 に脱 水 予 防 として 200mlの飲 水 を実 施 していたためであると考 える。血 液 データにおいても、ヘマトクリット 値 およびヘモグロビン値 においてやや脱 水 の傾 向 が認 められたが臨 床 的 には正 常 範 囲 内 であった。ドーム型 サウナによって、血 圧 変 動 や心 拍 数 の著 変 を伴 うことなく入 浴 と同 等 の深 部 体 温 の上 昇 が見 込 まれること、サウナ温 度 60℃以 上 で十 分 な温 熱 効 果 が望 めることが示 唆 された。
第 3章 では、入 院 患 者 や高 齢 者 へサウナを適 用 するために、第 2章 の結 果 を受 けて、
同 設 定 で健 常 高 齢 者 へ実 験 を行 った。本 実 験 においては、直 腸 温 測 定 は困 難 と考 え深 部 体 温 を熱 補 償 法 による測 定 のみとした。また、脱 水 を考 慮 して実 験 前 の飲 水 を 300mlとした。温 冷 感 、温 熱 的 快 適 感 に加 えて、自 律 神 経 系 の反 応 を反 映 することが できる主 観 的 な気 分 評 価 尺 度 JUMACLを用 いて調 査 した。
ドーム型 サウナ使 用 による生 理 反 応 では、若 年 者 同 様 深 部 体 温 が約 0.8℃上 昇 し た。安 静 時 の若 年 者 との体 温 比 較 では高 齢 者 の体 温 は約 0.8℃低 値 であったが、そ の上 昇 の曲 線 は電 源 を切 った後 も30分 以 上 上 昇 を続 けており若 年 者 同 様 の形 状 で あった。通 常 高 齢 者 は若 年 者 に比 べ循 環 機 能 が低 下 しているため、体 温 上 昇 も若 年 者 より少 ないと考 えられたが、ドーム型 サウナ内 では臥 床 しており体 動 がないため循 環 血 液 量 が有 効 に体 温 上 昇 へ使 われたのではないかと考 えられた。
循 環 動 態 に関 しては、サウナの適 用 によって心 拍 数 は最 高 値 87.2(12.0)拍 /分 ま で増 加 したが通 常 の運 動 に準 ずる範 囲 内 であることが示 された。血 圧 に関 しては、収 縮 期 、拡 張 期 ともに低 下 する傾 向 が認 められた。これは末 梢 血 管 拡 張 および末 梢 血 管 抵 抗 の低 下 による拡 張 期 血 圧 の低 下 に伴 い収 縮 期 血 圧 の上 昇 が期 待 されるが、
高 齢 者 の循 環 血 液 量 および代 謝 機 能 の低 下 のために収 縮 期 血 圧 が上 昇 しきれない
88 結 果 であると考 えられた。
体 重 減 少 量 は、若 年 者 に比 べて約 半 分 と少 ないが、これは発 汗 による放 熱 の機 能 低 下 のためであり、脱 水 の危 険 性 は若 年 者 より高 いため十 分 な考 慮 が必 要 である。
気 分 調 査 においてはサウナ実 施 後 に交 感 神 経 の緊 張 の程 度 と相 関 のあるTA(緊 張 覚 醒 )点 数 が低 下 しており、サウナ後 のリラクゼーション効 果 が示 された。頸 部 下 ドーム 型 サウナにおいては、高 齢 者 においても温 度 の2条 件 間 に差 は認 めずMLにおいても 十 分 な生 理 反 応 が得 られると考 え、高 齢 者 や入 院 患 者 に適 用 していく際 の温 度 レベ ルの指 標 となった。サウナの使 用 によって加 齢 に関 わらず深 部 体 温 の大 きな上 昇 が認 められた。体 温 調 節 機 能 の変 化 と関 連 していると言 われる睡 眠 の変 化 や睡 眠 パターン の変 化 (山 蔭 2005)を考 慮 し、睡 眠 障 害 への介 入 を検 討 できると考 えた。
第 4章 では、心 不 全 で入 院 中 の患 者 にフットサウナを用 いた実 験 を行 った。第 2章 、 第 3章 は、対 象 が健 常 者 であり温 熱 刺 激 に対 する生 理 的 反 応 が健 康 を脅 かすことは なかったが、入 院 患 者 を対 象 にする場 合 は症 状 の増 悪 や治 療 の妨 げとなる危 険 性 が あるため、より侵 襲 が少 ない方 法 として部 分 サウナの一 つであるフットサウナを使 用 した。
足 浴 の効 果 を考 慮 すると、今 回 使 用 するフットサウナは下 腿 全 体 を輻 射 熱 で加 温 する ため、通 常 の足 浴 以 上 に全 身 的 な効 果 、特 に睡 眠 の改 善 が期 待 できると考 えた。そこ で入 院 患 者 の苦 痛 の中 でも多 いとされる不 眠 に着 目 し、フットサウナ使 用 前 後 で睡 眠 状 態 がどのように変 化 するか検 討 した。フットサウナ使 用 時 の生 理 ・心 理 反 応 の測 定 は、3日 間 のサウナ実 施 前 に実 施 した。
深 部 体 温 は熱 補 償 法 で測 定 し、実 施 中 に最 高 0.4℃の体 温 上 昇 が認 められた。心 拍 数 、血 圧 の変 動 はほとんど認 めなかった。この結 果 によって心 不 全 患 者 であっても 少 ない心 負 荷 で深 部 体 温 上 昇 を見 込 めるという示 唆 を得 た。気 分 調 査 JUMACLにお いては、高 齢 者 同 様 サウナの前 後 で緊 張 覚 醒 点 数 が有 意 に低 下 しており、サウナを 使 用 した後 にリラックスする傾 向 は同 様 であった。
睡 眠 については、OSA睡 眠 調 査 票 の「夢 見 」に有 意 差 が見 られ、改 善 傾 向 が認 め られた。心 不 全 患 者 は、薬 物 の副 作 用 で悪 夢 を見 ることが多 く、フットサウナの実 施 は
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睡 眠 改 善 の一 助 になったと考 える。3日 間 のフットサウナの実 施 中 に「夢 見 」に関 する 睡 眠 評 価 が得 られたことをはじめとする「良 く眠 れた」という訴 えを反 映 できるような評 価 方 法 や実 施 期 間 を検 討 し、今 後 の入 院 患 者 の睡 眠 援 助 への看 護 を追 及 していき たい。重 症 心 不 全 患 者 はその循 環 障 害 のために多 くの患 者 が冷 え症 や便 秘 といった 訴 えを持 っているが、フットサウナ実 験 を通 して体 が温 まるという喜 びの反 応 を示 した。
これらの患 者 の反 応 は全 身 の循 環 血 液 量 の増 加 によるものであると考 える。これらの 循 環 改 善 に伴 う症 状 緩 和 に関 しても今 後 確 認 していく必 要 がある。
本 研 究 を通 して、サウナという通 常 の入 浴 以 外 の温 熱 効 果 の活 用 によって、健 常 若 年 者 、健 常 高 齢 者 および入 院 患 者 の生 理 ・心 理 反 応 を把 握 することができた。実 験 によって得 られたサウナによる生 理 ・心 理 反 応 は、温 熱 刺 激 と睡 眠 の関 係 におけるエ ビデンスとなる基 礎 的 資 料 であり、入 院 患 者 の症 状 緩 和 や不 眠 の解 消 の様 な具 体 的 な援 助 として必 ず役 立 つものであると考 える。
ドーム型 サウナは全 身 の温 めに有 効 である。今 回 の実 験 において出 力 100%の設 定 と出 力 50%の設 定 はほぼ同 様 の結 果 を得 られたことから、中 間 温 度 でも十 分 な効 果 が 発 揮 できると考 えられる。実 施 時 間 は深 部 体 温 が0.8℃上 昇 するためには、約 30分 の 加 温 と約 30分 の保 温 が必 要 であった。深 部 体 温 の上 昇 とともに心 拍 数 、血 圧 の上 昇 も伴 うのでバイタルサインの観 察 をしながら時 間 の調 整 が必 要 であると考 える。ドーム 型 サウナは、脱 水 傾 向 や汗 による不 快 が予 測 されることを考 慮 して対 象 の目 的 に合 っ た方 法 で実 施 する必 要 がある。フットサウナは今 回 の実 験 対 象 のように循 環 機 能 低 下 がある場 合 に適 用 することが可 能 であると考 える。出 力 50%、実 施 時 間 は15分 間 の加 温 と30分 間 の保 温 で深 部 体 温 の上 昇 を約 0.4℃見 込 めると考 える。心 拍 数 および血 圧 の変 動 がほとんどないので入 院 患 者 や高 齢 者 へも安 全 に使 用 できると考 える。温 度 がサウナ外 へ流 出 しやすいので保 温 時 は毛 布 などで覆 う必 要 がある。サウナ使 用 によ る温 熱 効 果 が全 身 に影 響 し症 状 が改 善 される可 能 性 を考 慮 し、いろいろなサウナのタ イプと効 果 を使 い分 けることで、今 後 の看 護 援 助 に生 かしたいと考 える。
今 回 、サウナにおける様 々な効 果 を実 験 によって把 握 することができた。サウナは活
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用 法 によっては、従 来 行 われていた入 浴 や足 浴 の長 所 を十 分 に発 揮 する方 法 である こと、静 水 圧 や循 環 動 態 の著 変 を伴 わず安 全 に体 温 を上 昇 させる効 果 があること、心 身 の各 部 位 へ影 響 し睡 眠 にも効 果 的 であることなどが示 された。
本 研 究 では睡 眠 に焦 点 を当 てた短 期 的 な実 験 が中 心 であったが、今 後 は睡 眠 以 外 にも様 々な患 者 の苦 痛 に焦 点 を向 け、実 施 期 間 についても延 長 しながらそれらの 効 果 について追 及 していきたい。サウナによる温 熱 刺 激 を活 用 して対 象 のQOL向 上 のための積 極 的 な看 護 援 助 を更 に研 究 していきたい。