九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
マルチキャリア信号の適応ピーク電力制御に関する 研究
景山, 知哉
https://doi.org/10.15017/4060186
出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(別紙様式2)
氏 名 :景山 知哉
論 文 名 :マルチキャリア信号の適応ピーク電力制御に関する研究 区 分 :
甲論 文 内 容 の 要 旨
近年スマートフォン等の移動体端末の普及やIoT (Internet of things) 等の新たな通信デバイス の登場により、高速かつ大容量なデータ伝送への需要が高まっている。その実現には、無線/有線通 信を連携させたシステム設計とその大容量化が重要となる。無線通信の大容量化を実現する手法と し て 、 極 め て 多 数 の ア ン テ ナ 素 子 を 用 い て 通 信 を 行 う 多 素 子 MIMO (massive multi-input
multi-output) 技術が注目されている。また、既存の電力線を用いて屋内通信網を構築する手段と
して電力線通信 (PLC: Power line communication) が広く普及している。
ところで、直交周波数分割多重 (OFDM: Orthogonal frequency division multiplexing) に代表 されるマルチキャリア変調方式は無線通信および電力線通信における高速伝送技術として広く用い られている。この方式では、伝送データを周波数の異なる複数の狭帯域信号、サブキャリアに分割 して伝送することで、各サブキャリアあたりの伝送速度を低速化できるので、伝送路の遅延波によ る符号間干渉の影響を軽減できる。しかしながら、マルチキャリア信号は複数のサブキャリアが合 成されたものであるため、各サブキャリアの位相が同位相となった場合に合成振幅の最大値が上昇 する。そのため信号のピーク電力対平均電力比 (PAPR: Peak-to-average power ratio) が高くなり、
電力増幅器における非線形歪みに起因した波形歪みが生じる。電力増幅器の入出力特性の線形領域 のみを利用することで非線形歪みの影響を軽減できるが、そのような電力増幅器は一般的に電力効 率が非常に低い。この問題を解決するには、電力増幅器の入力信号のピーク電力を低減することが 有効である。しかしながら、ピーク電力を制限することは通信品質に影響を与えるため、対象とす る通信システムの要求条件や通信媒体の性質に合わせて送信信号のピーク電力を最適に制御するこ とが求められる。
本研究では、マルチキャリア無線通信/電力線通信システムを対象として、その送信信号のピーク 電力低減に関する課題を解決するために以下の3つの検討を行った。
第1に、多素子MIMOとOFDMを併用する多素子MIMO-OFDMシステム用のピーク電力低減 技術として、適応ピークキャンセラ方式と余剰の空間自由度を活用した帯域内歪み補償技術を提案 した。一般的に無線通信では帯域外へのスペクトル放射が厳しく規制されているため、隣接チャネ ル漏洩電力比 (ACLR: Adjacent channel leakage power ratio) を許容値以下に抑える必要がある。
また、ピークリミタにより生じる帯域内歪み電力量は エラーベクトル振幅(EVM: Error vector
magnitude) として規定される。適応ピークキャンセラ方式は、帯域制限された抑圧信号を反復的
に加算することで、ACLRとEVMを許容値以下に抑えながら送信信号のピーク電力を低減するも のである。さらに、多素子 MIMO の余剰のアンテナの一部を用いて帯域内歪み補償信号を送信す ることで、受信機側で特別な処理を行うことなくピークキャンセラによる帯域内歪みを補償できる。
計算機シミュレーションおよび理論解析によって提案方式の有効性を明らかにした。
第2に、各サブキャリアを帯域制限することでサイドローブスペクトルを低減したマルチキャリ ア 方 式 と し て OFDM/OQAM に 着 目 し 、 そ の ピ ー ク 電 力 を 低 減 可 能 な PS-OSLM (Partial scrambling based overlapped selected mapping) 方式を提案した。従来、変調シンボルに対する デ ー タ マ ッ ピ ン グ を 変 更 す る こ と で ピ ー ク 電 力 を 最 小 化 さ せ る 手 法 と し て 、 選 択 マ ッ ピ ン グ (Selected mapping: SLM)方式がOFDMに対して提案されている。しかしながら、帯域制限波であ
るOFDM/OQAMでは隣接シンボル間で符号間干渉を生じるため、従来の SLMを適用してもピー
ク電力の抑圧効果を十分に得ることができない。提案方式(PS-OSLM)では、複数シンボル区間を観 測し、そのピーク電力を最小化することで帯域制限波であるOFDM/OQAM信号のピーク電力を効 果的に低減できる。また、SLMにおけるデータマッピングを変更する手法として、送信シンボルの 最上位ビットのみをスクランブルする方式を提案し、従来の全ビットをスクランブルする方式に比 べて多値変調を用いる場合に受信特性を大きく改善できることを示した。計算機シミュレーション により提案方式の有効性を明らかにした。
第3に、電力線通信用のピーク電力抑圧技術として、e-SLM (Enhanced SLM) 方式を提案した。
電力線伝送路には様々な電子機器が接続されているため、それらが発生させるインパルス性雑音が 受信特性に影響を与える。そのため、電力線通信においては、送信電力増幅器の非線形歪みだけで なく、受信機におけるインパルス雑音の影響を考慮したピーク電力抑圧技術が求められる。受信機 側においてインパルス性雑音を検出除去するには、受信信号のピーク電力が低いことが望ましい。
しかしながら、送信信号のピーク電力が低減されている場合でも、多重波伝搬路通過後の受信信号 のピーク電力が低いとは限らない。提案方式である e-SLM は、送信機側のピーク電力抑圧と受信 機側のインパルス性雑音抑圧を同時に実現する手法であり、送信信号と受信信号のピーク電力の推 定値の重み付き和を最小化するように変調シンボルに対するデータマッピングを変更するものであ る。これにより、送信機側における電力増幅器の非線形歪みと、受信機側におけるインパルス性雑 音の影響を共に軽減できる。提案方式の特性を計算機シミュレーションによって評価し、その有効 性を明らかにした。
最後に、筆者が提案する高速有線/無線連携通信システムの構成案を示し、本論文の提案技術の適 用範囲について考察を与えた。