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東日本大震災における観光の風評被害に関する研究

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(1)

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

東日本大震災における観光の風評被害に関する研究

―福島県北塩原村の「風評手控え行動」の分析を通して―

Perceptions of Risk Affecting Tourism Due to The Great East Japan Earthquake:

A Case Study of the Constrained Behavior of Tourists in a Village in Fukushima

Abstract: The purpose of this research is to analyze the characteristics of behavioral con- straints by tourists caused by their perception of risks, as well as the actions of tourism sectors hindering recovery efforts to reverse the decline in tourism numbers following the large-scale natural disaster of The Great East Japan Earthquake, which occurred on 11 March 2011. Cer- tain traits were observed through a case study of Kitashiobara Village in Fukushima Prefec- ture. Fukushima experienced devastation from the massive earthquake and tsunami, resulting in the serious nuclear power plant accident. Kitashiobara Village, a major tourism destination in Fukushima Prefecture, suffered a dramatic decline in its local tourism industry and damage to its economy, as travelers were fearful or reluctant to visit the region.

  Twenty-one interviews were conducted within the public and private tourism sectors for this research. Results indicated that (1) tourist arrivals from outside the prefecture declined by 80%, (2) school excursions, including those from foreign countries, declined sharply, (3) bus tour bookings, also, declined. A fourth result indicated that within the tourism sector two dif- ferent approaches to marketing influenced the period necessary to recover tourist numbers: one leading to rapid recovery, and the other, delayed. The former made efforts to directly contact their targeted customer market in a timely manner after the disaster, rather than rely on pas- sive promotion. It is suggested that continuous direct marketing is vital for sustainable tourism business, and to overcome the constraints caused by the traveling public’s perception of risks.

Key words: 風 評 被 害( perception of risk ), 「 風 評 手 控 え 行 動 」 ( ‘the constraint behavior caused by reputational risk’ ),東日本大震災( The Great East Japan Earthquake ),

北塩原村( Kitashiobara Village )

立教大学観光学部紀要 第17 号 2015年 3 月 立 教 大 学 観 光 学 部 紀 要 第 17 号 2015年 3 月

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015 pp. 3-12.

論  文

***立教大学観光学部・教授

***文教大学国際学部・教授

***立教大学観光学部・兼任講師

橋 本 俊 哉

HASHIMOTO, Toshiya

**

海 津 ゆりえ

**

KAIZU, Yurie

***

相 澤 孝 文

***

AIZAWA, Takafumi

***

(2)

Ⅱ 観光における「風評手控え行動」

Ⅲ 調査の概要 1)調査対象地 2)調査の方法

Ⅳ 結果 1)公的機関 2)観光関連事業者

Ⅴ 考察

1)入込観光客数について

2) 北塩原村の観光にみられる「風評手控 え行動」

3)風評被害対応への示唆 おわりに

Ⅰ 研究の背景と目的

災害発生後に周辺観光地が被る「風評被害」

1)

は,地震や火山噴火等の自然災害,放射能汚染等 の人為的災害を問わず,繰り返し生じてきた.観 光産業は多様なサービスによって複合的に構成さ れ,それらが第一次産業,第二次産業と密接な関 連をもち,雇用創出効果・経済波及効果が大き い.そのため,ひとたび風評被害が発生すると,

地域経済に与える影響も広範囲に及ぶ.しかも実 際の観光地には,市町村の観光関連部局や観光協 会等の公的機関があり,大規模ホテル・旅館から 規模の小さな民宿・ペンション,各種観光施設や 飲食・土産物販売業者,ガイド業者等々,さまざ まな観光関連事業者が存在するために,その全体 像を把握することは容易ではない.さらに,その 影響が客観的に把握できないために,災害時の補 償の対象となりにくいことも,観光地にとって風 評被害を深刻なものとしている.

2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖 地震の被害(以下,「東日本大震災」「大震災」)

をみても,「マグニチュード 9」という観測史上 最大規模の地震による人的・物理的被害に加え,

福島第一原子力発電所(双葉郡大熊町)における プラントの損壊による放射能汚染という人為的被 害が重なった福島県では,地震による直接の被害 を受けず放射線量も目立った上昇がみられない内

農作物や加工品が売れなくなる,観光客が急減す るなどの深刻な風評被害がみられた.実際に地震 や津波の被害を受けた沿岸部,放射能汚染が観測 され居住者が移住を余儀なくされた地域,そして それらには該当しないにもかかわらず風評被害を 受けることになった地域と,性格の異なる被害が 重層的にみられる点が,他の被災県にも増して,

福島県の復興を困難なものとしている.

観光は基本的に,観光主体(観光者)が,参加 時期や目的地などを自らの意思で選択することに よって成立するものであるから,災害発生後に被 災地周辺地域が,観光主体から「選ばれない」選 択がなされる傾向があることは避けられない.つ まり観光は本質的に風評の影響を受けやすい社会 的行動であり,その発生を完全に防止することは 難しい.したがって観光者を受け入れる自治体や 観光地にとっては,その影響をいかに最小限に抑 えるかを考えることが現実的な課題となる.

ひとたび災害が発生すると,その周辺地域への 旅行を予定している観光主体には,旅行の中止・

目的地変更・日程の縮小等,さまざまな形で 手 控え が生じ,結果として被災地周辺に風評被害 が発生する.しかしながら,行動主体の心理や行 動に焦点をあてた研究は,その克服に向けた示唆 を得るために有効と考えられるにもかかわらず,

充分になされてきたとはいえない

2)

そこで本研究では,こうした風評被害をもたら す観光主体の行動,すなわち「風評手控え行動」

(前田,2005)に着目し,東日本大震災において 実際に風評被害を受けている福島県の自治体にお いて,立場の異なる観光関連事業者に対する聞き 取り調査を行う.本研究の目的は,観光地におけ る風評被害の状況と対応策を把握・分析し,「風 評手控え行動」の特徴を明らかにすることによ り,観光地の風評被害対応への示唆を得ることに ある.

Ⅱ 観光における「風評手控え行動」

一般に,人は不安を感じ,先行きの見通しが

はっきりしない時には,消費を促進し活発化させ

(3)

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

る側面と,行動一般を抑制し消極化する側面とが ある(前田,2005).前者の例は「買い急ぎ行動」

に典型的にみられるもので,今回の震災直後に も,首都圏を中心に水や保存食品,電池などの買 占めが短期間のうちに広まった.そのような行動 をとる人は,当初はごく限られるとしても,不安 に感じているときに人は「今のうちに手に入れて おかないと」という心理状態となる.さらに,商 品のない棚の映像が繰り返し報道されることで,

不安が増幅し,買い急ぎ行動が急速に広まる.

後者の「行動一般を抑制する」消費性向につい ては,一般的にはモノに対して顕著であり,また,

選択可能性の高い活動に関しては計画の中止や変 更が生じやすい.観光やレジャー活動の場合はそ の典型で,大規模な災害後には,自粛による「手 控え行動」が広がることになる.

前田(2005)は,観光においてこうした「風評 手控え行動」が起こる仕組みを, 「行き先」と「旅 行時期」の組み合わせによって以下の 4 タイプに 整理している.

A :特定の行き先に特定の時期に行くタイプ B : 旅行時期は決まっているが,行き先は変更

可能なタイプ

C : 行き先は決まっているが,行く時期は変更 可能なタイプ

D :行き先・旅行時期ともに変更可能なタイプ このうち, A は行き先・旅行時期ともに変更で きないタイプの旅行で,重要なお祝い・記念の行 事や特定のスポーツ観戦などがある.自然現象を 目的とする旅行の中にも,日時と場所が特定され る「皆既日食ツアー」のような場合はこれに相当 する.こうした目的が明確な旅行の場合,その決 定は旅行者本人の意志によって行われるために風 評の影響を受けにくい.このような旅行に参加す る意思が強ければ,現地に直接確認するなど自ら 積極的に情報を収集しようとするし,もし交通が 遮断されたとしても,代わりの手段を探すような 行動をとるためである.

B のタイプは,同行者間で日程を調整して行う

「顔見知り集団」による団体旅行や,修学旅行が 代表的な例である.例えば,2001 年の米国同時 多発テロのあと,(アメリカとの関係の深い)沖

縄を避けて,安全と考えられる地域に修学旅行先 を変更する学校が数多くみられた.修学旅行や社 員旅行のような団体旅行の場合,「何かあった場 合に責任を問われる可能性が高い場合には,あら かじめ責任回避をはかろうとする慎重論がさらに 発言力を増す」(前田,2005, p.  42)ことによっ て,行き先の変更が起きやすくなる.

C のタイプは,以前から行く予定であった観光 地が被災してしまったために旅行を延期するよう な場合で,このタイプは災害に対する被害や復興 状況が明確になるまで「待つ」という選択がなさ れる.この場合には,関係自治体や観光協会等,

公的な機関による災害の「終息宣言」, 「復活宣言」

など,信頼される外部からの保証がなされること が延期後の旅行実施の際の,重要な判断材料とな る. D のタイプについては,行き先・旅行時期を 縮小(遠距離から短距離に,長期間から短期間に)

することや,行動内容に関しても,「新しい発見 や出会いを求めることよりも,知っているところ や慣れているところに行って,安心感や安定感を 満たしたい」という形での変更がなされる(前田,

2005, p.  40).

今回の大震災についても,こうした個々のタイ プの「風評手控え行動」の影響が重なり合ってい るものとして,風評被害の実態を理解することが 重要である.

Ⅲ 調査の概要 1)調査対象地

本研究が調査対象地とした福島県耶麻郡北塩 原村は,1954 年,北山村,大塩村,桧原村が合 併して誕生した.県北西部の会津地方に位置し,

人口は 3 , 038 人(2014 年 12 月現在),総面積は 234 km

2

である.

合併以前の 3 村は,現在もそれぞれ特徴を有

した村域(「北山地区」,「大塩地区」,「桧原・裏

磐梯地区」)としてその名残をみせている.喜多

方市に接し農業地帯が広がる北山地区は人口も多

く,磐梯山の麓に位置する大塩地区には温泉(大

塩裏磐梯温泉)がある.磐梯山北麓に位置する桧

原・裏磐梯地区は,磐梯山や五色沼,桧原湖,雄

(4)

国沼等の湖沼群を中心とする風光明媚な自然観光 地が形成され,桧原では高冷地特有の気候を生か した農業等も営まれている.裏磐梯は磐梯朝日国 立公園の中核をなす,福島県随一の自然観光地で ある.

図 1 は,福島県,会津地方ならびに北塩原村に ついて,近年の入込観光客数の推移を示したも のである.3 月に大地震の発生した 2011 年には,

福島県内のほとんどの市町村において入込観光客 数は大幅減となっているなかで,北塩原村は前年 比「2 . 1%増」となっている.

2)調査の方法

聞き取り調査の対象とした 21 か所は,福島 県(福島市内)と北塩原村内の関連公的機関,村 内の観光関連事業者で,調査時期は 2013 年 9 月 と 11 月,調査の所要時間はそれぞれ 60 分〜 90 分程度である(表 1).調査内容は以下の通りで ある.

①風評被害の状況

②風評被害への対応策

③風評被害からの回復状況

④上記①〜③に関連する内容等

なお,大地震の発生が 2010 年度末であったこ とから,①に関しては概ね 2011 年度の被害状況 について,③については 2012 年度以降の回復状 況を尋ねた.

Ⅳ 結果 1)公的機関

①福島県

福島第一原発周辺の町村では,放射能汚染の実 質的な被害が認められる「避難指示区域」が指定 されており,福島県の観光は,その実質的な汚染 による被害と,汚染はみられないが観光客の減少 がみられた風評被害区域とが存在するために,県 の公的機関への聞き取り内容は,その両者が対象 とされた(表 2).2011 年の県全体の入込観光客 数は 2010 年比で 4 割減,なかでも深刻な影響を 受けている教育旅行に関しては 8 割減で,とくに 遠方の九州から福島県へは,2009 年には 37 校訪 れていたが 2011 年には 1 校もみられなくなった.

教育旅行で実績のあった会津若松市でも,それ まで 10 校みられた海外からの訪問校(台湾)が 2011 年には 0 校となった.

県が講じた対応策としては, JR 東日本や観光 事業者と連携した DC (ディスティネーション キャンペーン)の実施や大河ドラマ関係の PR 事

カテゴリー 組 織 名

公的機関

福 島 県 観光交流局観光交流課, 観光物産交流協会

北塩原村内

環境省裏磐梯自然保護官事務所,

裏磐梯ビジターセンター,

北塩原村商工観光課,裏磐梯サイト ステーション,裏磐梯観光協会

観光関連事業者

観光施設等 北塩原村商工会,観光施設 a/b

記念写真撮影業者,小売業者

(コンビニエンス・ストア)

エコツアー

業 者 等 エコツアー業者団体,

エコツアー業者 a/b/c

宿 泊 業 者 公的宿泊施設,リゾートホテル, 温泉旅館,民宿 a/b

 資料:福島県

 注)各年 1 〜 12 月の日帰り・宿泊観光客数の総計 図 1 入込観光客数の推移

(5)

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

業などのプロモーション事業,放射能や震災等の 学習体験のアピール,観光支援組織(ふくしま観 光復興支援センター)の設置等がある.これら により,福島県の入込観光客数は,2012 年には 2010 年比 2 割減にまで回復している.しかし外 国人観光客は停滞したままで,教育旅行に関して も,会津地方は回復基調にあるものの,中通り・

浜通り(沿岸地方)は依然停滞している.

②北塩原村内の公的組織

北塩原村においては,表 3 に示した 5 組織に対 して聞き取り調査を実施した.「裏磐梯ビジター センター」は環境省が, 「裏磐梯サイトステーショ ン」は村が,それぞれ運営する利用者への情報提 供機関である.

入込観光客数については,商工観光課は 8 割 減,裏磐梯サイトステーションは 5 割減との回答 であった.裏磐梯サイトステーションでは,「他 県の学校団体は減少したものの県内の小学生は増 加」,裏磐梯観光協会は「復興ブーム」によって 利用者は増加したものの,「外国人観光客は減少 し,とくに韓国とシンガポールからの減少が著し

い」とのことであった.

対応策としては,環境省は磐梯朝日国立公園内 の磐梯・吾妻地域において浄土平(福島市)の駐 車場を無料化,商工観光課は教育旅行の誘致部会 を設置,裏磐梯観光協会は「風評被害対策委員会」

を設置し商工会と連携して進めている.

2)観光関連事業者

①観光施設等

利用者数に関しては,調査対象とした 5 組織す べてが「減少」との回答であった(表 4).商工 会は常連客と県内利用者を除く 8 割減,2 つの観 光施設は共通して「県外客がとくに減少した」と 指摘している.

対応策としては,商工会は放射能関連情報の公 開,合宿誘致への補助金の設置を,観光施設では

「他県の学校への出前授業」(観光施設 a )や「県 内の学校への安全性をアピールする手紙」(観光 施設 b )など,独自のものがあげられている.そ れらにより,いずれも回復の傾向にあるものの,

「教育旅行」(観光施設 a )や「関西圏からの利用 者」(記念写真撮影業者)の回復の遅れが指摘さ

表 2 観光面での被害と対応策(福島県の公的組織)

ヒアリング

対象組織 内 容 (風評)被害 対 応 策 回復状況

観光交流局福島県 観光交流課

福島県の観光入込

4 割減 5

,

700 万人(2010)

⇒ 3

,

500 万人(2011)

DC

(ディスティネーションキャンペーン)

大河ドラマ関連の

PR

事業 県内温泉地で宝さがしイベント 海外からパワーブロガーを招待 放射能について学ぶパンフレットの作成 震災学習体験のアピール

若者へのスキー場リフト代無料化 有料道路の無料開放

コンベンション開催への補助金 ふくしま観光復興支援センターの設置

4

,

400 万人まで回復

(2012)

福島県の

外国人観光客 減少

(特に韓国) 依然として停滞

観光物産福島県 交流協会

福島県の 教育旅行

71 万人(2009)8 割減

⇒ 13 万人(2011)

(九州の 37 校⇒ 0 校)

全国の学校・エージェントに対するメルマガ 配信や,キャラバン隊訪問で教育旅行の安全 性をアピール

担当者が保護者等を訪問し,福島県への教育 旅行の安全性を説明

被災 3 県の連携による震災学習(「復興ツー リズム」)

各種の発電技術・発電施設の学習 ふくしま観光復興支援センターの設置

24 万人まで回復(2012)

(九州は 12 校まで回復,

中通りと浜通りは停滞)

会津若松市の 教育旅行

減少 841 校⇒ 100 校

(台湾の 10 校⇒ 0 校)

341 校まで回復(2013)

(台湾の 1 校を含む)

(6)

れている.

②エコツアー業者等

磐梯朝日国立公園に指定されている裏磐梯地域 では,数多くのエコツアー業者が営業している.

調査対象としたエコツアー業者団体とエコツアー 業者 3 社のいずれも「利用者は減少」との回答で

あり,とくに「子ども・教育旅行」と「観光バス」

の利用者の減少が著しい(表 5).

対応策としては,「月 1 回の勉強会の開催」(エ コツアー団体)や「旅のプレゼント」(業者 a ),

継続的な情報発信(業者 b/c )などがあげられて いる.現在の利用者数は回復傾向にあり,具体的 には,「県内利用者」(業者 a/b ) の増加や「常連

ヒアリング

対象組織 内 容 風評被害 対 応 策 回復状況

環境省裏磐梯 自然保護官

事務所

磐梯山の入山者 減少 浄土平駐車場の無料化 回復傾向

ビジター裏磐梯 センター

利用者からの

問合せ 放射線量・震災に関す

る内容が増加 減少

商工観光課北塩原村 北塩原村の

観光入込 8 割減

放射線量の公表 安全性

PR

資料の作成 教育旅行誘致部会の設置 裏磐梯サイト

ステーション 利用者 5 割減

(特に他県の学校団体,

県内の小学生は増加) 若干の回復傾向

裏磐梯 観光協会

北塩原村の

観光入込 「復興ブーム」

により増加 

「風評被害対策委員会」の設置

「復興ブーム」沈静化 により停滞 北塩原村の

外国人観光客

(特に韓国と減少 シンガポール)

回復傾向

(台湾・タイ)

表 4 観光面での風評被害と対応策(観光施設等)

ヒアリング

対象組織 内 容 風評被害 対 応 策 回復状況

北塩原村商工会 北塩原村の 観光入込

(残る 2 割は常連客と8 割減 県内利用者)

放射線量の公開 放射能関連資料の配布 合宿誘致への補助金

観光施設

a

利用者 首都圏や関西圏が

特に減少 他県の学校へ出前授業

3 〜 4 割回復

(教育旅行は 1 〜 2 割 回復,被災県からの

回復は早い)

観光施設

b

利用者 県外利用者が減少

(県内利用者は増加)

県内の学校に手紙で安全性をアピール

CM

による宣伝 地震前の水準へ回復中

記念写真

撮影業者 利用者 減少 回復中

(関西圏からの回復は 遅い)

小売店 利用者 減少 8 〜 9 割まで回復

(ワカサギ釣り客は 7 割まで回復)

(7)

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

客の回復」(業者 b )などが指摘されている.

③宿泊業者

宿泊業者からも軒並み利用者の「減少」が指摘 された(表 6).とくに「キャンプ場利用者 8 割減」

(公的宿泊施設)や「とくにヤマメ釣り客」(温泉 旅館),「スポーツ合宿 6 割減」(民宿 a ),「家族 連れ 8 割減」(民宿 b )など,特定目的・同行者

タイプの利用者の減少が目立つ.

対応策としては,「震災学習の提案」(公的宿泊 施設)や「特産品を使ったイベント」 (温泉旅館),

「震災復興キャンペーンによる特産農作物(トウ モロコシ)の出荷」(民宿 a )や「常連客へのア ピール」(民宿 b )などが行われ,現在の利用者 数は全般的に回復基調にある.

表 5 観光面での風評被害と対応策(エコツアー業者等)

ヒアリング

対象組織 内 容 風評被害 対 応 策 回復状況

エコツアー 業者団体

利用者 7 割減

月 1 回の勉強会の開催 教育旅行 教育旅行は 0 に

エコツアー 業者 a

利用者 減少

(特に新潟や子ども向

けプログラム) 他業種と協力して「旅のプレゼント」

教育旅行 9 割減 3 割まで回復

(県内利用者が増加)

エコツアー 業者 b

利用者 減少

(観光バスは 0 に,常

連客の利用が増加) 安全性について継続的に PR

6 〜 7 割まで回復

(常連客の回復,

「復興ブーム」の 沈静化)

教育旅行 教育旅行は 0 に 県内利用者は増加

エコツアー

業者 c 利用者 7 割減(特に子ども) Facebook や Twitter で情報発信 7 割まで回復

(ピーク期間の短縮)

表 6 観光面での風評被害と対応策(宿泊業者)

ヒアリング

対象組織 内 容 風評被害 対 応 策 回復状況

公的宿泊 施設

キャンプ場

利用者 8 割減

九州の高校に対して震災学習の提案 回復中

教育旅行 減少

温泉旅館 宿泊者 減少

(特にヤマメ釣り客)

特産品を使ったイベント

風評被害対策委員会に参加 6 割まで回復

民宿 a

宿泊者 オンシーズンは 5 〜 7 割減

震災復興キャンペーンでトウモロコ スポーツ合宿 シを出荷

宿泊者 6 割減 8 割まで回復

外国人宿泊者 減少

(台湾を除く)

民宿 b 宿泊者 8 割減

(特に家族連れ) 米沢街道マップを作り歴史街道を PR

常連客への電話やダイレクトメール 徐々に回復中

結果の公表を希望しない調査対象(リゾートホテル)は未掲載

.

(8)

Ⅴ 考察

1)入込観光客数について

2011 年には,福島県全体の入込観光客数は急 減したものの,12 年,13 年はともに回復基調に ある.しかし,2011 年にほとんどの自治体が急 減しているなかで,北塩原村は例外的に「微増」

(前年比 2 . 1%増)となっていた(図 1).数字上 からは風評の影響は認められず,今回聞き取り調 査で軒並み指摘された利用者の「大幅な減少」と の指摘と乖離している.

その要因として考えられるのは,国や県による 復興支援策である.磐梯朝日国立公園内の 3 本の 観光有料道路(「磐梯吾妻スカイライン」「磐梯山 ゴールドライン」「磐梯吾妻レークライン」)が,

2011 年 7 月より観光復興策によって無料化され たことで,同年の入込観光客数が軒並み減少する 中で,スカイラインの交通量と磐梯山への入込は ともに大幅増となっており

3)

,同年の統計データ の中で際立っている.さらに 2013 年 7 月には,

これら 3 道路が福島県に管理が移管され,一般県 道としてすべて永続的に「通行無料」となった.

また,環境省は福島市と裏磐梯地区の中間に位置 する浄土平の「駐車場の無料化」を行った.

また福島県教育委員会は,2012 年度より,県 内の子どもたちを対象とした自然体験・交流活動 の支援事業を展開してきており(「ふくしまっ子 自然体験・交流活動支援事業」

4)

),会津地方はそ の主な受け皿となっている.

今回の調査においても,裏磐梯サイトステー ション(表 3),観光施設 a/b (表 4),エコツアー 業者 a/b (表 5)等で「県内の小学生は増加」「県 内利用者の増加」等が指摘されており,北塩原村 のデータには,これらの復興支援策による影響が 大きいものと考えられる.

県内の子どもたちの日帰り・宿泊での自然体 験・交流活動の支援は,放射能汚染により屋外で 体を動かす機会が失われた子どもたちにとって貴 重なものである.しかしながら,2011 年に北塩 原村の対前年比「微増」という数値は,道路の無 料化や子どもたちの自然体験・交流活動支援事 業,さらには「二次避難者」や復興事業の作業員

までの利用者の「大幅減」をやや上回った結果と 理解しなければならない.北塩原村も大震災の影 響を受け,利用者の構造が大きく変化しているも のと理解する必要がある.

2)北塩原村の観光にみられる「風評手控え行動」

表 7 は,聞き取り調査から得られた内容をもと に「風評手控え行動」が短期間に収束しつつある タイプ(「早期回復型」)と,依然としてその影響 が続いているタイプ(「長期継続型」)とに分けて,

その特徴を整理したものである.

旅行目的でみると,「スポーツ合宿」は回復が 早く,「県外からの教育旅行」は長期化している.

教育旅行はⅡ章で紹介した「タイプ B 」の典型で あり,これまで毎年裏磐梯で自然体験活動を行っ てきた学校が,(類似した自然体験やスキーが可 能な)長野県等へ目的地を変更したことによる.

とくに教育旅行の場合,数年間は場所を替えずに 実施することが通常であるため,一旦他の目的地 に変更されると影響は長期的となる.釣り客の場 合,桧原湖の冬の風物詩として定着している「ワ カサギ釣り」は釣り客の戻りが早く,大塩地区の 渓流での「ヤマメ釣り」については,同地区が距 離的には裏磐梯地区よりも原発事故地点から離れ ているにもかかわらず,長期化している.

旅行形態では,個人旅行は早期に戻り,団体旅 行は影響が長期化している.利用者特性として

表 7 北塩原村の観光にみられる

「風評手控え行動」のタイプと特徴

「早期回復型」 「長期継続型」

旅行目的 スポーツ合宿 ワカサギ釣り客

(県外からの)

ヤマメ釣り客 教育旅行

旅行形態 個人旅行 団体旅行

利用者 特性

常連客 高齢者 営業努力継続型の

施設の利用者

ネット予約の利用者 子ども連れ

(発地) 距離

近距離(県内)

台湾・タイ

遠距離(県外)

シンガポール 韓国・

(9)

Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism No.17 March 2015

は,「常連客」は大地震直後の 2011 年は見送った ものの,2012 年には機を見て訪れるようになっ た(表 5:エコツアー業者 b ,表 6:民宿 b ).こ れらは,落ち着いた時期を見計らって馴染みの 宿泊施設を訪れる「タイプ C 」に相当する.この タイプでは,「継続的な PR 」(エコツアー業者 b ) や「電話やダイレクトメール」(民宿 b )が有効 とのことであった.それに対して,「ネット予約」

の利用者はほとんど予約がなくなったという(裏 磐梯エコツーリズム協会談).「(県外からの)子 ども連れ」も,それ以外の同行者タイプと比較す ると,回復は遅くなっている.

距離(発地)との関係では,「県内よりも県外」

「東京や関西から」「関西から」の影響が大きいと いう指摘が多く見られた.遠距離からの観光者は 地理的な位置関係が曖昧なために「風評手控え 行動」の影響は大きくなる(橋本,2011).藤竹

(2000)はこの現象を「恐怖の同心円構造」と呼 んでおり,今回もその現象が明確に認められる.

ただし,外国人客に関しては,「台湾・タイ」か らの観光客は戻りが早かったのに対し,「韓国・

シンガポール」からは影響が長期化している.海 外からの観光客に関しては,日本に対する親近感 や地震・放射能に対する「感受性」,各国の大震 災報道の量と質,政情等,距離以外の要因が作用 しているものと考えられる.

3)風評被害対応への示唆

今回の調査においても,馴染み客に対しては,

継続的な PR や電話・ダイレクトメールが有効で あった.東日本大震災による農作物の「買い控え」

を引き起こす消費者要因を検討した工藤・中谷 内(2014)によれば,ただ知識を消費者に提供す る以上に,消費者の「被災地を支援したい」とい う思いやポジティブ感情に訴えかけていく方略を とったほうが,買い控えを抑制するとともに,購 買意欲を高めることにより効果的であるという.

これにもっとも合致すると考えられるのが,「タ イプ C 」と,これまで村のイベントに定期的に参 加してきたような利用者層(「タイプ A 」)である.

今回の調査では直接把握しえない「タイプ D 」 についても,Ⅱ章で紹介したように,このタイプ

の特徴として挙げられている「新しい発見や出会 いを求めるよりも,知っているところ・安心でき るところへ」という形での変更がなされるという 指摘が手がかりとなろう.「タイプ C 」の利用者 に対して「継続的な PR 」や「電話やダイレクト メール」が有効であったのは,観光主体が計画変 更を検討する際に,その事業者が「安心できる存 在」とみなされ得たからであり,そうした場合に,

観光主体に個別性のある情報提供が「届く」ので ある.平常時から常連客を大切にする取り組みの 大切さが,改めて理解できる.

また,今回の調査でも大きな影響がみられた教 育旅行については,「タイプ B 」の典型で,わず かな人数の保護者の発言によって目的地変更が余 儀なくされる点が,このタイプの特徴となってい る(前田,2005;関谷,2011).そのため,行き 先の決定を左右する学校の担当者や保護者,さら には旅行会社等に対する丁寧な安全性の説明が不 可欠である.今回の調査でも,福島県が作成した 震災・防災について学ぶための冊子

5)

等を活用し て「担当者が保護者等を訪問し,福島県への教育 旅行の安全性を説明」することで,ほとんどの場 合,保護者に納得してもらえるとのことであっ た(表 2).今回の大震災の場合,自然災害(地 震)以上に放射能汚染に対する「不安」を払拭す るために,放射線量が安全であることを示す情報 を定期的に開示するという「マイナスイメージの 払拭」を前提として,旅行先決定者等に対しても,

ポジティブ感情に訴えていくための「プラスイ メージの訴求」を丁寧に行うことが,「タイプ B 」 にも有効であると考えられる.

おわりに

本報告は,風評被害の影響を受けている多様な 立場の観光関連事業者への聞き取り調査の結果を もとに,その実態を把握し,「風評手控え行動」

の特徴について検討したものである.しかし,観

光の回復状況や風評被害への対応策は刻々と変化

している段階であり,「風評手控え行動」のタイ

プや特徴,さらには観光地の風評被害の構造をよ

り正確に把握するためには,その後の動向の追跡

(10)

く,引き続き研究を進めていきたい.

付  記

本調査は,2013 年度立教大学学術推進特別重点資金(立

SFR

)東日本大震災・復興支援関連研究「観光資源の持 続的活用による風評被害の克服に関する研究―福島県北塩 原村を事例として」(研究代表者:橋本俊哉)により実施 されたものである.

なお,調査は任意団体「裏磐梯エコツーリズム協会」の 協力を仰いで実施された

.

同協会ならびに調査に協力いた だいた各組織に対し,深く感謝の意を表したい.

1)「風評被害」は安全であるにもかかわらず食品・商品・

土地が被る経済的被害として,もともとは原子力事故 の補償,問題に関連して用いられてきた言葉である

(関谷,2003).それが近年,情報伝達手段の多様化に 伴い,水銀・ダイオキシンなどの有害物質や

O-

157・

狂牛病など病原体による食材・食品汚染,地震や火山 噴火など自然災害による被害へと,幅ひろく用いられ るようになっている.

2)新聞報道や意識調査等をもとに,自然災害後の「観光 手控え行動」を分析し,観光を取りやめた経験の性別 による相違や,安全情報の情報源への信頼性について 検討した高野・目黒(2010),聞き取り調査・意識調査 をもとに大震災による九州への外国人観光客の訪問地 選択傾向と風評被害について調査した須藤(2012),農 産物に関しては,消費者の「買い控え」を引き起こす 消費者要因を検討した工藤・中谷内(2014)等がある.

3)2011 年の「スカイライン」は対前年比 24

.

7%増,「磐 梯山」同 19

.

4%増(「平成 23 年福島県観光客入込状

4)福島県教育委員会が 2012 年度より実施している国庫 補助事業(「福島県の子供たちを対象とする自然体験・

交流活動支援事業」)

.

福島県の子どもたち(幼稚園・

保育所,小中学校,社会教育団体)に対し,郷土の良 さを伝え合い発信していくような交流活動や自然体験 活動等を行う子どもたちと引率の教員や親に対して宿 泊費・交通費等を補助する制度で,県内での活動を対 象とするものと,県外の活動も対象とするものがある.

予め登録手続きをした県内の旅行業者を利用すること が条件となる.

5)福島県観光交流課発行「福島の今を知る〔環境〕」,福 島県観光物産交流協会発行「今こそ福島で学ぶ旅」等.

文  献

藤竹 暁 2000 風評被害とは何か 農業経営者,49,10

13

.

橋本俊哉 2011 災害と観光 公営企業,43(8),2

10

.

工藤大介・中谷内一也 2014 東日本大震災に伴う風評被

害:買い控えを引き起こす消費者要因の検討 社会心理 学研究,30(1),35

44

.

前田 勇 2005 不安心理と観光―風評手控え行動のメカ ニズム― 観光研究,17(1),36

43

.

関谷直也 2003 「風評被害」の社会心理―「風評被害」

の実態とそのメカニズム― 災害情報,1,78

89

.

関谷直也 2011 風評被害 光文社

須藤 廣 2012 東日本大震災後の九州観光の現状―訪問 客の訪問地選びの合理性と風評被害― 観光研究,24

(1),45

48

.

高野 佑・目黒公郎 2010 自然災害後の被災地周辺観光 地への観光手控え行動に関する研究 生産研究,62(4),

421

423

.

参照

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