厚生労働科学研究費補助金【エイズ対策政策研究事業】
HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究 (分担)研究報告書
HIV 陽性献血者の動向と検査目的と思われる献血者の 保健所等への HIV 検査受検促進に関する研究
研究分担者 後藤 直子(日本赤十字社 血液事業本部)
研究協力者 高橋 勉 (日本赤十字社 血液事業本部)
A.研究目的
献血で HIV 陽性が判明した献血数の推移や背 景を調査し、併せて献血時に問診№19「エイズ感 染が不安で、エイズ検査を受けるための献血です か。」の質問事項に「はい」と回答され献血不適と 判定された献血の背景について調査し、併せて保 健所等での HIV 検査受検ではなく献血が検査に 利用された背景を調査し、保健所等へ誘導するた めの対策について検討した。
B.研究方法
今後の効果的・効率的な HIV 受検の拡大を目 的に、献血者群における①HIV陽性となった献血 と②問診№19「エイズ感染が不安で、エイズ検査 を受けるための献血ですか。」との質問
事項に、「はい」と回答された献血の背景を調査す る。
(倫理面への配慮) 特になし
C.研究結果
1 献血時の検査で HIV が陽性となった献血の 背景調査
(1)HIV陽性献血数の推移
HIV が 陽 性 と な っ た 献 血 数 は 、 平 成 20(2008)年の107件(10 万献血あたり2.11 件)をピークとし、その後、年々減少したが、
令和 2(2020)年は 44 件(10 万献血あたり 0.876件)と微増傾向であった。(図-1) 研究要旨
日本国内の献血者群におけるHIV陽性献血者の地域別分布や頻度について過去3年間の調査を行 った。併せてHIV関連問診項目別申告者について、年齢、性別、献血施設等の背景を調査した。ま た、令和2年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響についても考察した。その結果、献血者群 におけるHIV陽性者の割合は昨年までの3年間は10万献血あたり0.900件(平成29年)から 0.782件(平成31年/令和元年)と減少傾向が認められたが、令和2年は0.876件と微増傾向であっ た。HIV関連問診項目への申告については、令和元年及び令和2年の1月~10月のデータについて 比較分析を行った。その結果、問診№19「エイズ感染が不安で、エイズ検査を受けるための献血で すか。」の質問事項への申告があった献血のうち、医師等の検診においてHIV等の感染リスクがあ り献血不可と判断され、検査目的の献血と推測されたのは、10万献血申込あたり令和元年は男性が 6.83件、女性は4.71件、令和2年は男性4.22件、女性2.30件であり、令和2年は大幅に減少し た。しかしながら、新型コロナウイルス感染症という社会的にインパクトのある事象が起きても、検 査目的と推測される献血の割合が10代、20代の若年層に多い傾向に変化はなかった。これら若年層 に訴求する情報提供のあり方が重要であることが改めて浮き彫りになった。
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(2)HIV陽性献血の背景
平成30年~令和2年にHIVが陽性となっ た献血120件を対象とした。
ア 性別・年代別のHIV陽性献血
男性が116件(96.7%)、女性が4件(3.3%) であった。性別・年代別の 10 万献血あた りの HIV 陽性件数は、男性で 10代 0.00 件、20代3.01件、30代2.21件、40代0.89 件、50代0.25件、60代0.27件であった。
一方、女性では、30代で0.29件、40代で 0.20件あった以外はすべて0件であった。
(表-1)
イ HIV陽性となった検査項目
HIV-RNA のみ陽性で感染極初期の献血
は6件(5.0%)、HIV-RNAとHIV抗体が 陽性の献血は108 件(90.0%)、HIV抗体 のみ陽性の献血が 6件(5.0%)であった。
(表-2)
2 問診№19(問診№20 との重複含む)の質問 項目に「はい」と回答があった献血数と当該献 血の背景調査
(1)問診№19(問診№20との重複含む)の質問 項目に「はい」と回答された献血数
問診№19「エイズ感染が不安で、エイズ検 査を受けるための献血ですか。」の質問事項 に「はい」と回答があった献血は、調査した 期間(令和元年及び令和2年の1月~10月)で 令和元年は3459件(男性2789件、女性670 件)、令和2年は2272件(男性1815件、女 性457件)であり、令和2年は約35%の減少 が認められた。これらの献血のうち、検診の 前に献血を辞退した、もしくは検診医師の判 断により献血不適とされた403件(令和元年 は男性198件、女性53件、令和2年は男性 124 件、女性 28 件)を検査目的の献血と推 定した。
(2)検査目的であることが推定された献血の背 景調査
調査期間中に検査目的と推定された献血 は前述のとおり403件であった。
性別・年代別の 10 万献血申込あたりの問 診№19 の申告及び献血不可数を年ごとに表- 3 に示した。すべての年代の合計による献血 者 10 万人当たりの頻度は、令和元年は男性 が6.83、女性が4.71だが、令和2年は男性 が4.22、女性が 2.30と大幅な減少が認めら れた。
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令和元年と令和2年の月ごとの検査目的と推測さ れた献血は、令和2年2月以降は前年よりも低い 傾向が認められた。(図-2)
検 査 目 的 と 推 測 さ れ た 献 血 403 件 の う ち 38.4%にあたる155件は、問診No.20「6カ月以 内に次のいずれかに該当することがありました か。」(新たな異性、MSM、麻薬・覚せい剤使用、
HIV検査陽性等のリスク行動の有無)に対しても
「はい」と回答された。内訳は令和元年 97 件
(38.6%)、令和2年58件(38.2%)であり、割合は 同等であった。
D.考察
献血における HIV 陽性件数については、平成 20(2008)年の107件(10万献血あたり2.11件)
を ピー クとし 、そ の後、 年々 減少し たが 令和 2(2020)年は前年から漸増し 44 件(10 万献血あ たり0.88件)となった。令和2年2月より新型 コロナウイルス SARS-CoV-2 のパンデミックが 発生したことにより①保健所の新型コロナ関連 業務の増加により HIV 無料検査が一次取りやめ
になった、②緊急事態宣言等による外出自粛やテ レワーク推進の影響、等によるものと考えられた。
新型コロナウイルスのパンデミック第一波時(令 和 2年3月〜5月)にHIV陽性献血者が増加し たが、第二波(7月〜8月)時期は少なく、第三波
(11月〜)は前年度同程度であり、必ずしも新型 コロナの流行度合いとは合致しておらず、複合的 な要因によるものと推測された。しかしながら、
前回献血が10年以上前にあった10件のうち9件 が6月までに集中していることについては、パン デミック時の善意の献血もしくは①が影響した 可能性も考えられた。
平成30年~令和2年の 3年間の献血における HIV 陽性者は、20 代、30 代および40 代の男性 がその88%を占めた。また、HIV-RNAのみ陽性 の感染極初期に献血された事例が6件確認された ことから、感染リスクのある献血についての継続 的な情報提供が重要であると考えられた。一方、
HIV治療中の献血と思われる事例(HIV-RNA陰 性かつ HIV 抗体陽性)も6件確認された。適切 なHIV治療を受けてRNA検出限界以下に保つこ とと、献血に行くことは全く異なる。輸血用血液 が不足しているなら献血しようと善意から協力 いただく人もいるので、HIV既感染の方への適切 な情報提供のあり方を検討する必要がある。
HIV関連問診項目別「不適」献血者の解析結果 からは、問診№19「エイズ感染が不安で、エイズ 検査を受けるための献血ですか。」の質問事項に、
「はい」と回答され検診医師が献血不適とした、
検査目的と推測される献血は、令和元年に比べ令 和2年は少ない結果となった。令和2年1月から の新型コロナウイルス感染症の対応のため、保健 所における HIV 無料検査が一次中止された時期 があったことから(特に令和2年4月以降)検査 目的の献血増加が危惧されたが、むしろ減少傾向 であった。これには企業や学校を献血会場とする 献血が減少し、献血ルームや街頭献血における献 血への協力を強く呼びかけたことなどによる献 血行動の変化等の影響が一つの要因と考えられ
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た。調査した期間(各年1月〜10月)の10万献 血申込あたりの申告頻度は、令和元年が全世代で 男性が6.83、女性が4.71であったが、令和2年 は男性が 4.22、女性が 2.30と明らかな減少が認 められた。しかしながら、その中でも 10 代及び 20代男性が高く、次いで10代及び20 代女性の 順になる傾向に変化はなかった。
問診No.19に「はい」と回答されたが、検診医
による確認により間違って回答されたことが判 明した献血数は、令和2年は実数が減少したもの の、検査目的献血の10倍以上であった。また、問 診No.19に「はい」と回答し、さらに問診No.20
(リスク行動の有無)にも「はい」と回答された 割合は、検査目的と推測される献血において令和 元年、令和2年とも38%超と高く、リスク行動に 基づく検査目的であると推察された。令和元年は これらの献血者が利用した献血施設は固定施設
(献血ルーム等)の割合が高かったが、令和2年 は新型コロナウイルスの流行により例年と献血 行動が異なることから、明らかな傾向を解析する のは困難であった。
令和2年は新型コロナウイルスの流行による行 動制限が社会生活にも献血行動にも大きく影響 したことがデータからも確認できた。日本の社会 は同調圧力が強く働き、たとえばマスクをしない ことは許されない状況となる。検査目的と考えら れる献血の割合が減少したことには「社会の目」
も多少は影響したかもしれない。
E.結論
令和2年は新型コロナウイルスの流行とそれに よる社会的な行動制限という大きな動きがあり、
検査目的と推測される献血の割合に減少が認め られた。そのような状況下であっても、HIV陽性 献血者と HIV 関連問診項目別の背景調査、特に 問診№19「エイズ感染が不安で、エイズ検査を受 けるための献血ですか。」の質問事項への申告状 況調査から、男性、女性ともに10代と20代にお いて10万献血申込あたりの申告数は、他の年代・
性別の群と比較し、有意に高い頻度を示した。今 回得られたデータから、社会の動きが献血行動に 大きく影響することも明確になったので、特にこ れら若年層の行動に影響を与えるメディアやコ ミュニティを有効に利用し、責任ある献血のみな らず責任ある行動についての啓蒙を今まで以上 に進めることが重要と考えられた。
F.健康危険情報 特になし
G.研究発表 1.論文発表 2.学会発表
特になし
H.知的所有権の出願・登録状況(予定を含む)
①特許取得
②実用新案登録
③その他 特になし
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